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ドラゴンに首ったけ38

その38










平原の中央あたり、普段は人などいはしないその場所が、今は剣撃や魔法の音で埋め尽くされていた。
周囲に何人かの人物はいるものの、主役として戦っているのは「二人」の男だった。


「おのれ!」


劣勢の方の男―――閃光のワルドが罵声を上げる。ライトニングクラウドからエア・ニードル、ブレイドなどの接近戦用の魔法を多数使って彼の敵に迫る。メイジなのに接近戦。射出系の遠距離魔法はそのことごとくを無効化されているからだ。

だが、遍在によって総勢四人にもなっていることで膨大な手数を誇る彼だったが、それすら伝説の使い魔であるサイトの命を打倒する刺客にはなり得なかったようだ。
必殺の一撃がいとも容易く、さばかれ、防がれ、反撃される。
積み重ねられた熟練の戦闘技能が、同一人物ゆえに出来る完璧な連携が、面々と紡がれてきた家系による魔法の才が、たった一人の少年の前ではまるで意味を成さない。

それはガンダールヴのルーンが与える絶大な戦闘能力の影響も確かにあるだろう。
だが、それ以上に……


(あの剣さえなければっ!)


そう、サイトが握るのはガンダールヴの左腕である伝説の魔法殺しの魔剣、デルフリンガー。その真の力のほとんどを思い出しているデルフは、まさにメイジの天敵たる「系統魔法吸収能力」をもっている。

ワルドが最も得意とする魔法である「遍在」は己の体のみならず服や杖といった装備品すらも複製する。それどころか騎獣であるグリフォンすら分身させることを、他の誰かには出来なくとも、少なくともこのワルドにはできる。
それゆえに魔法を発動した直後からそれぞれの分身が己の杖を持ってさらに攻撃魔法を唱えることが出来るという、まさに、最強の魔法といっても過言ではない。

だが、今回はそれが裏目に出た。


『けっ、魔法が俺に効くかってんだよ! やっちまえ、相棒』
「おうよっ! おりゃあああ」
「くぅ!」 


また一人、遍在で作った己の分身が余りにもあっけなく消されたことに、思わずワルドは舌打ちを隠せない。

彼の分身体は髪の一本から衣服に至るまで遍在によるものである、ということは裏を返せば、全身が系統魔法で維持されているようなものだ。
本体以外の「遍在たち」は魔法吸収能力を持つ剣によって、かすり傷でも、袖の一房でも、否、杖で防御したとしてもその次の瞬間に吸収されて消え去る運命にある。
さらにワルドにとっては悪いことに、デルフはその吸収した魔法の力を持ってさらにサイトの体を強化していく。

持ち手の体をのっとる、という能力はオンオフがデルフの意思で可能だ。そして、デルフにもサイトとは違う独自の自我があり、剣なりのとはいえ視覚や聴覚などの五感を持つ。
それを使い手の体を乗っ取る能力と組み合わせれば、普段見えない場所も見え、普段聞こえない音も聞こえる一人の超剣士が出来上がる。

すなわち、デルフが背後の敵に気付いた瞬間サイトの体をのっとり、前しか見ていなかったはずのサイトの体を持って背後の敵を切り捨てるなどといったことが可能だ。
そんな、一人で二人分の知覚領域を持つ、ということをサイトとデルフは最大限に利用していた。


無論、そんな連携など付け焼刃で出来るはずがない。
二人の人間が二つの体を連携させるだけでも至難の業なのに、たった一人の体を二人で使うなんて、というのは確かに真理であろう。
だが、六千年を生きる剣は、それを使いこなす完璧な剣士はそれを可能とした。
七万の戦いは、骨林血雨の戦いは、確実にサイトとデルフに経験を積ませていたのだ。

結果として、ブラッドたちの最大の敵として竜の巣陣営に最も恐れられているワルドであるが、サイトと彼の持つデルフリンガーとの相性は最悪といってもいいものであった。
戦闘経験ではサイトの数倍はあるワルドであるが、その差すらも伝説の使い魔のルーン、ガンダールヴの能力による補正で打ち消されていた。経験も、努力も、才能すら必要とせずただ感情とともにそこにあるだけで発動するルーンは、ルイズを裏切ったワルドに対する怒りで最大の効果を発動させていた。
ルイズを守ると吹っ切った彼の思いによって、ルーンは確実にサイトに力を与えていた。


「どうして国を、ルイズを裏切ったんだーー!!」
「(貴様などに……貴様などにはわかるまいよっ!)」


怒りのままに叫ぶガンダールヴの台詞に胸のうちで反論する。

そうだ、このような異国の少年にわかるはずがない。
トリステインという国がいかに愚か者どもの集まりなのか、弱者の馴れ合いで成り立っているのか、ということをこんな平民風情が理解できるはずがない。

だからワルドは、サイトに負けぬほどの怒りの感情を胸に抱いて、再び呪文を唱えて彼に挑みかかった。


「来い、ガンダールヴ! 我が名はワルド、最強の風の使い手だ!!」










サイトとワルドが、ルイズ、マリコルヌとワルドがつれてきたレコン・キスタ軍が、それぞれ争いあっていたその数刻前。
ワルドは、ルイズの前で立ち尽くしていた。


なんとなく、予感はあったのだ。
彼女を自らの伴侶とすることは出来ない、ということは。

たった今、結婚を申し込んだ婚約していたはずの少女に、幼いころから自らをまるで理想の王子様のような眩しげな目で見ていたはずの少女から、決別の言葉を吐かれたときどこか彼は納得していた。


「やっぱり、そうなのですね……ワルド様」


美しくなった。
馬車で同乗したときに言った言葉は貴族社会にありがちなただの社交辞令だったのかもしれないが、今こうして自らの前でまっすぐな視線とともに決別の言葉を吐くルイズを見て、心底ワルドはそう思った。
以前、もうずいぶん前に会ったときと比べれば背は伸び、体も女性らしい丸みを帯びていた。

だが、そういった外見的な変化以上に彼女は美しくなったとワルドは思う。


自らが魔法が使えない、ということを知ったときから、ルイズはいつも怯えていた。
名門ヴァリエール家の娘でありながら、スクウェアメイジの両親を持っていながら、己にまったく魔法の才がないということは、本来であればまっすぐで三人の娘の中で最もヴァリエール貴族の誇りを体現したであろう彼女をずいぶん捻じ曲げていたのだろう。
だからこそ、こんな歪みきった自分などにちょっと優しくされただけであれほどまで傾倒することになったのだろうと。


その怯えが今はない。
否、あるのかもしれないが少なくとも自分にはまったく見ることが出来ない。
馬車の中ででも僅かに受けた不可解な違和感。
自らを信じきっていたはず怯えることしか出来ない籠の中の少女が、突如大空を羽ばたいて自分の前に姿を表したかのような印象を持つようになっている。


「その通りだ……」


それを、彼女を変えたきっかけはきっと彼なのだ、とワルドはルイズの隣に控える少年を見つめる。


ガンダールヴ 平賀才人

誰から彼のことを聞いたのだったろうか。
おそらくクロムウェルあたりから聞いたのではないだろうか、とはじめは信じられなかったそのことのきっかけを思い出す。

虚無の素質を持つルイズが、ついに使い魔を、あの「竜」のような紛い物ではなく真の使い魔であるガンダールヴを召喚したのだ、ということを。

彼が何をルイズに吹き込んだのかはわからない。
何せ、虚無の使い魔はサンプル数が少なすぎて、いったいどんなものが召喚されるのかほとんどわからないのだ。
ただの少年の姿に見えても、心を癒すような能力を持っていたり、未来を予知する力すら持っているのかもしれない。

あの竜のように、ガンダールヴとしての力以外の、平賀才人個人としての力としての何かを。


本来であれば、こうやって敵対する前に会話なり模擬戦なりで相手の力を計ったりするべきだったのかもしれない。
だが、一目彼と彼女を見た瞬間からワルドはそれをしようとは微塵も思わなかった。
出来ることは、徹底的に彼を無視して、必死で自らとルイズの絆を見せ付けることだけだった。

それは成人を迎え、社会を渡り、陰謀をめぐらせ、祖国を裏切った男のやることではない。国家の闇に潜み、人々の影に暗躍する自分であるならば、きちんとガンダールヴの力を図っておくべきだった、とワルドはわかっていながら、それが出来なかった。


「どうしてこんなことを……そのままでもあなたの将来は十分輝かしいものであったでしょうに!」
「……残念だよ、ルイズ」


きっとそれは、自らが彼女を手なずけるための演技とはいえ、一時たりともルイズのことを心のそこから微笑ませることが出来なかったことに対しての劣等感が含まれていたのではないか、といまさらになってワルドは気付いた。
かわいい妹を心底笑わせることが出来ることが出来たものに対する兄としての嫉妬が。


そして、それに思い当たった瞬間、ワルドはいかに自分が彼女のことが好きだったのか、ということに気がついた。
彼女が虚無、という利用価値を持っておらず、自分が裏切り者でなかったとしたとしても、男女の関係ではなく、兄と妹という関係の延長線の上で結婚しようと思えるほどに、自分はこの意地っ張りで努力家で素直じゃない少女のことが好きだったのだ、と。

こんなことになるのであれば、もっとルイズと時を共にすべきだった。
名ばかりの婚約者としてではなく、彼女の兄として彼女の心をつなぎとめておくべきだったろう、とワルドは自嘲する。



だが、すべては遅すぎる。

賽は投げられ、進んだ針は戻らず、ルイズの選択によって将来への道は分岐した。

いまさらレコン・キスタを裏切るようなことなど出来はしないし、ルイズとて一度己を、祖国を裏切った自分と元の関係に戻ろう、などと思うはずがないだろう。
きっと、ここでルイズの側についたとしても、また裏切るのではないか、という目で見られるのは避けられまい。
自分はそれほどのことをしようとしていたのだから。すべてを元の鞘に戻そうなどという虫のいいことを言い出す権利など、もはや自分にはないのだ。

だから、ワルド自身もルイズへの、今はもう「亡き妹」への決別をこめて、最後に一言だけ彼女にかけて………万感の思いを込めて杖を振り下ろした。


「本当に残念だよ………君と同じ未来を歩めなくて」


それを合図として周囲に潜んでいたレコン・キスタ軍の一端が、そしてワルドの遍在が、彼女達に襲い掛かった。







そしてワルドとルイズが完全に決別したその時よりさらに一日ほど前。


「うわああああああ!!」


サイトは、頭を抱えて転がりまわっていた。
悲鳴を上げたという点では以前の夜と一緒なのだが、その顔に浮かぶ感情はあの夜の絶望感に浸りきった老人のような苦痛ではなく、まさに「恥」一色だった。
日が暮れてきてあのときと空の色が近づいてくるごとに、先日夜中にルイズの前でさらした醜態をいまさらながらに思い出したのだ。


このぐらいの年頃の男の子はけっこう突っ張ることが男のたった一つの勲章だと思っている節が多い。
サイトも例外ではなく、好きな子の前ではかっこつけたかったのにあの始末。
夢の内容で飛び起き、ルイズに当り散らし、彼女の前で涙を流す。どう考えても格好いい男の姿とは正反対のその記憶に、サイトは恥ずかしさのあまりベッドの上で悶え苦しんでいた。
そして、それに追い討ちをかけるものがその場には「一本」いた。


『相棒、別にいんじゃねえの? 「夢を……見るんだ……」とか言っても』
「ぎゃあああああ、やめろ、やめてくれーー!!」
『かっかっかっかっか、相棒も純情なところあるねえ』


それに乗じて、デルフがその夜のことを茶化す。サイト自身は自らがその手を血で汚したことにかなり悩んだ末に行ったことである、ということは重々わかっているデルフであったが、この場合悩んで沈んでいくよりも、こうやって恥ずかしさに転がりまわるほうが健康的だろう、との考えによってサイトをからかうことに決めたらしい。
その代償としてサイトは、これ以上ない恥辱を味わう羽目になる。


『いいねえ、相棒。それで、しっかり娘っこに抱きついてたけど、感触はどうだった?』
「うるせえええええ!」
『ははははははは』


やっぱり自分の相棒たるサイトは戦場で見せていた冷たいものやいろいろなことに深く思い悩む姿ではなく、こういった表情のほうが似合っている、とデルフは思った。
が、調子に乗りすぎたのかサイトが据わった目をして鞘を持ってこっちに近づいてくるのを見て、あわてて謝罪する。
彼はさびしがりや故に、自分が喋れなくなる鞘を装備されることを嫌っている。


「……」
『わ、わりい、相棒。悪かった、謝る、だから許して!』
「デルフ……………お休み」
『ああーーー……』


サイトはデルフの嘆願に聞く耳を持たず、デルフを一気に鞘に収めた。原理はまったくもって不明であるが鎬の金具を動かすことで会話しているデルフは、そうされてしまえばもはや何も喋ることは出来ない。
その間の意識が消えるわけではないが、そうしてしまえば単なる剣とあまり変わらない。

こうして静かになった部屋で、荒い息を吐きながらさらに現状を悔やみ続けるサイトがいた。


とにかく恥ずかしいのだ。
しばらくは一人になっても恥ずかしさのあまりどうにも落ち着いていられなかったサイトであるが、やがてはそのことを少なくとも表面上は忘れ去ることに成功する。
ちょっとした刺激があればすぐにフラッシュバックしてきそうな気はするが。


そして、その『ちょっとした刺激』はすぐに現れた。


『サイト、ちょっといいかしら?』


あのときのようにノックの音が響き、扉越しにルイズの声が聞こえたからだ。
あわてて自分の頬を軽くたたいて表情を収めようと努力したサイトは、あの時と同じくドアを開け、あの時と同じようにたたずんでいるルイズを見てさらに頬を赤くした。
ほとんど売れたトマトのようになっているサイトだったが、うつむきがちにこちらを向いているルイズに気付かれることはなかったようで、高まる動悸はそのままに一応男の子としての安堵の息を吐く。


「ど、どうしたんだ、ルイズ。ごめん、うるさかったか?」
「ううん、ちがうわ。ちょっと話があるの、大事な話が……」


サイトの声を聞いてこの間までサイトを襲っていた憂鬱は収まっただろう、と判断したルイズはばっと顔を上げ、自らが来た要件を話そうとして……視線が部屋の片隅にあるデルフにぶつかった。

瞬間、ルイズもサイトに負けぬほど顔を赤くする。
サイト一人だと思っていたから勇気を出してここまで来たのだが、考えてみればデルフもここにいるのだ。
サイトにしてみればあまたの戦場をともに駆け抜けてきた相棒として、ほとんど自身の半身といってもいいような剣であるが、流石にここのルイズは己の使い魔であるサイトほどデルフとサイトを同一視することは出来ない。

そのため、この一世一代の告白の場に第三者がいてはまずいと、場所を変えることを提案した。


「その……あの…私の部屋に来てもらってもいいかしら?」
「? 別にいいぜ」
「ありがとう。じゃあ、行きましょう……あ、悪いのだけど、デルフリンガーはここにおいておいてくれるかしら」
「え? でもこれがないと」


が、サイトが当然のようにデルフを引き抜き、背負おうとしたことで表情をぎこちなく動かす。
が、武器を媒体に能力を発揮するガンダールヴであるにもかかわらず、その武器を置いていけ、といわれてサイトの表情が不審そうに変わる。

別にここが危険であり、常在戦場の心得をメイジたるもの忘れてはならない、などというつもりはないが、用心しないならばさておき用心する分には不都合はないだろう、とその表情は雄弁に語る。
それを受けてなんと言い出せばいいのか、とちょっとおろおろし始めるルイズを見て助けを出したのは、置いていかれる当の本剣だった。

背負われる拍子に鞘と鎬の間に出来た隙間を使って、再びしゃべれるようになったや否や、サイトに向かって忠告する。


『いいからいけよ、相棒』
「へ? でもお前がいないと」
『いいから。何ならダガーでも持って行けってばいいだろ?』
「? ……わかったよ」
「ありがとう、デルフ。じゃあ、いきましょう」


イマイチよく理解できない表情だったサイトだったが、ルイズとデルフの二人がかりで言われては、何か理由があるのだろう、と思い、荷物の中にあった普通のダガーだけを持って、ルイズについていくことに同意する。
ルイズがわずかばかりに自分の思惑を見透かされているのではないか、という恥ずかしさと、こちらに対する感謝を視線に載せてくるが、デルフは気付かないふりをして無視をした。
そのため、二人はそのまま無言で部屋を後にし、扉を閉めた。

そのドア越しにもはや見えない背に向けてデルフは、相棒が主であるルイズの決意を受け止めて、上手くやることをブリミルではない何かの神に祈った。


『相棒……男を見せろよ』






今日の竜の巣。


「あれ? 今日、ワルド来てなくない?」
「……ほんとだ。どうしたんだろ? 連隊長に報告すべきかな」
「一応あれも人間なんだし風邪かなんかじゃない? そんな日もあるって」
「まあ、それもそうね。さて、お仕事お仕事っと」



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プロフィール

基森

Author:基森
蚕鳴や円禍と名乗ってたこともあります。

主に小説・ssなどを置いているブログです。

自前の本棚を持つのは初めてなので手探りでやっている程度のものですが、わずかばかりの暇つぶしにでもなれば幸いです。


メールは「kulukku106☆yahoo.co.jp」まで、☆を@に変えた上でお願いいたします。

そろそろ、非営利にならトップへのリンクフリーとか言ってみたり。

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