スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

鬼畜ま!4

四話
 正直、自分はうぬぼれていたのかもしれない。自分には、親から直に受け継いだのか相当な魔力があるし、メルディアナ魔法学校をきちんと卒業し、さらに独自でいくつかの高等魔法を覚えたという自負も有った。

 今はまだ9歳という若造ともいえる年齢と力量だけど、きっとこのまま努力を積んでいけば、きっと父のような偉大な異名を持つだれもが認めてくれる立派な魔法使い、マギステル・マギになれると思っていた。



 しかし、そんな考えはタカミチが構えたときから完全に消え去った。

 いつもいろいろな話をしてくれている口は、一本に引き締められ、いつも自分に笑いかけてくれる目は、眼鏡越しだというのに凍りつくかのように冷たかった。
 あれがあの優しいタカミチだとは、信じられなかった。

 そして、自分では何がおきているのか解らない、目にも見えない速さでランスに向かって繰り広げられる遠距離からの強力な魔法攻撃。
 それが効かないとみるや、熟練を感じさせる動きで繰り出した拳撃、しなる鞭のように空気を切り裂いて放たれる蹴撃。視認すら難しいランスのトリッキーな攻撃すべてをよけるすばやい動き。
 自分では到底かなわないと思わされると同時に、これほどの力を持っているタカミチですら、マギステル・マギとは呼ばれない、という事実にまず怯えた。

 自分はあそこまで登ることが出来るのだろうか。





 だが、そんな怯えすらもランスの剣の前には、儚く消え去った。

 剣から出る凄み、相手を射抜くような眼光、手にくくりつけられた盾の合間からのぞくきつく握った拳。
 いつでも動けるように軽く曲げられた膝。
 ひとたび攻撃するという意思を表せば、黒い線のような剣閃。
 地を穿つかのような踏み込み。
 正確な差はわからないものの、明らかにタカミチの出す威圧感よりも上だった。
 こちらに向けられたわけではない殺気、その余波だけでネギの足は震えて動かなかった。



 感じたのは怯えではなく、もっと純粋な、未知の化け物に対する恐怖。
まるで幼い頃に住んでいた村を襲ったような魔族が、人の形を取って人間社会に紛れ込んできたかのような嫌悪感。



 しかし、ランスの言動は正直言って決して許せるもので無いと思う。
 そして、彼が暴力のみしか信じない人間である以上、まずはこちらが力で持って彼を止めなければ彼の暴挙を防ぐことは出来ないのだ。

 マギステル・マギとは、立派な魔法使い、という意味である。
 粗野で、乱暴で、礼儀知らず。
 ネギの頭の中にある「立派な」魔法使い像からすれば、ランスは止められるべき存在だ。


 ……マギステル・マギになるためには、ランスを倒せるだけの力が要る。


 絶望が頭をよぎる。意図せずして体が震える。


 先ほどの剣閃を見ただろう。自分では、避ける間も無く一刀両断される。
 先ほどの蹴りを見ただろう。自分では、かすっただけでも悶絶する。
 先ほどの耐久力を見ただろう。自分の力では、何をしてもほとんど効きはしないだろう。
 先ほどの技を見ただろう。自分の魔法結界で、ここまで余波が届くような技を防げるわけがない。





 …………自分には到底無理だ…………


 自分よりもはるかに強い魔法使いであるタカミチが、手も足も出ずに敗れたという重い現実と、マギステル・マギになるという自分の夢。
 理想と現実のあまりに大きな格差に、小さな小さな魔法使いは押しつぶされそうになっていた。








 正直に言って、甘く見すぎていた、という言葉がまず頭に浮かび、近右衛門は自嘲した。

 タカミチはよくやった。相手の力量を調べるということに関しては、十分以上の働きを行った。治療のために周りの魔法教師に運ばれていくタカミチを見て、改めてそう思う。
 問題なのは、それによってはじき出されたランスの力量が、こちらの予想など完全にぶち壊してしまうようなものだったことだ。

 相手は、あくまで「自称世界最強」の異世界のものであって、魔法も気も使えない人間相手にかつては魔法使いとしては落ちこぼれであると言われていたとはいえ、単純な直接戦闘能力ならば自らの学園で最上位に位置する腕前の高畑・T・タカミチが傷ひとつ追うはずが無い、という驕りもどこかにあったのだろう。

 そのタカミチの技が、相手に傷一つ負わせることが出来ないなど近右衛門は想像すらしていなかった。



 生物の能力には、その生き物の生きてきた環境が大きく影響する。
 いわゆる生存競争と呼ばれる戦いがある以上、それに適応できない生物は生き残れないためだ。
 そして、それは人間にも当然当てはまることだ。


 例えば、オーストラリアにはアボリジニーという民族がいるが、彼らは百キロメートル先に上がる煙を肉眼で確認できるという。
 ちなみに通常の文明社会から来た人間は双眼鏡を使っても見えるのはせいぜい三十キロメートルぐらいであり、アボリジニーの視力は眼鏡等を作成する際に使用されている現代人の健全な視力を一とする基準からすると実に二十二にも相当する。
 また、彼らは魔法すら使わず第六感とでも言うべき物のみで天気を予知し、水中においてサメの接近を感知して回避し、何百キロも離れた場所にいた身内の死すら察知することもあるという。
 生涯をアボリジニー研究に捧げた人類学者で魔法牧師でもあったエルキンは、「常に緊張して生きなければならなかった彼らが何万年もの間に培ってきた精神力」によってこれらの能力が備わっているのではないかと著書の中で述べている。
 オーストラリアの砂漠地帯で生きていくには狩猟の獲物を追ったり、飲み水を探したりするだけでも超人的な努力が必要であり、緊張を欠いた瞬間に待っているのが死なのだ。
 そういった厳しい生の積み重ねで精神が研ぎ澄まされた結果、凡人からすれば一種の超能力とすらいえるほどの能力を手に入れるということが、同じ地球上の魔法使いでもない人類にもあるのだ。


 魔族などが発生する地域において、それらの脅威に対抗するために人間が生み出さざるを得なかった魔法という神秘の行使者である自分も、一般人から見れば想像すら出来ない並外れた力の持ち主だろう。
 何しろ、人間の持つ力である科学において最上位にして絶対的基本の原理として存在するエネルギー保存の法則すらあっさりと無視して、ありえない現象をこの身一つで起こせるのだ。先人達の生きてきた環境と鍛錬が、人を超えた人を生み出したのだといえよう。

 とすればこの世界以外に人型の存在があるのであれば、自分が想像すら出来なかった環境を生き延びることによって、自分たちには信じがたいほどの能力を得た人類によく似た存在があっても決しておかしくないのではないだろうか。


……それこそ魔族に匹敵するような身体能力を持った別種の「人間」が存在していても。



 背筋を冷たい汗が流れるのを感じる。
 長く戦場から離れ学園長生活を送っていたことで勘が鈍ったのか、知らず知らずのうちに自分が特権階級に有るように思っていたようだ。
 相手の体格を見て戦闘スタイルの推測がつかないのも当然だ。
 ランスは自分より高位の存在なのだ。実力が下の者が上の者の力量を推し量ろうなど勘違いも甚だしい。
 加えて異世界ならではの特殊な戦い方を体得しているのであればこの世界の戦士や魔族を数多く見てきたという自分の経験など何の役にも立たないということだ。


 おそらく、全盛期の自分であってもランスを倒すことは難しいであろう。
 アレは最上位の魔族並みの化け物だ。
 魔法界の評価でも「AA+」という上位の戦闘能力を持つとされるタカミチがあれほどあっさりと破れ、この学園の長である自分で倒せる見込みがない以上、この学園においてランスに何とか対抗出来そうなのは完全に封印をといた「闇の福音」エヴァンジェリンぐらいであろう。
 最初に考えていた魔法教師を何人かぶつけるという案では、おそらく先ほど見たランスの防御を超えることは出来ず、無駄に犠牲を増やすだけだ。

 だいたい、あの一行の態度からして、まだ他にも隠し玉が無いといいきれるはずが無い。








        しかし、これほどの力は魅力的だ。



 現在、麻帆良学園はさまざまな所から狙われている。
 近右衛門は可能な限り恨みを買わないよう、細心の注意を払ってうまく日本最大の魔法都市麻帆良学園を経営してきたが、これほどまで規模が大きくなってしまうとそれにもやはり限度があり、すべての人間とうまく付き合っていくことは事実上不可能だった。

 その恨みを買った一因として、どこから漏れたのやら木乃香の魔力のことについてが裏社会に広まっていったことも上げられる。
 はっきり言って見当違いともいえるが、あれほどの戦略級の魔力保持者を学園が隠蔽していたと思われたのだ。魔法使いにしないと発表しておきながら、実際には学園内で秘密特訓を行っており、いざというときの切り札とするつもりだったのだろう、と。

 よって、その恨みを買ってしまった敵対者、他組織と対抗するため、現在孫娘が学園に通っているための護衛等も含めて、魔法教師のほかにエヴァンジェリン、警備員や学生の中で裏の事情に詳しいものに訳を話して協力してもらっている。


 しかし、日に日に増える敵対者の人数にもう少しで学園の防備の人数が飽和状態となり、侵入を防ぎきれなくなってしまうと学園の上層部は判断していた。


 それが、ここでランスを自陣営に引き込むことが出来れば一気に楽になる。
 あれほどの力だ、はっきりいってそこらの有象無象では瞬殺されるだろう。
 たった一人を雇用するだけで、絶対とも言える防御が出来上がるのだ。




 が、それと同時に多大なリスクを背負うことにもなるだろう。
 なにせ異世界の人間がこの世界において起こすトラブル全てを一手に引き受けなければならないのだ。

 例えば市街地において自動車を鋼鉄の魔物と勘違いして異世界人であるランスが一刀両断した場合に起こる膨大な数の一般人の記憶操作や関係省庁への工作から、万が一大戦が再び行った際に「戦場における捕虜の人権に関する国際魔法条約」で禁じられている捕虜の人間に残虐非道な拷問をランスが勝手に行ったことによる各組織からの一斉非難がおきそうな場合の隠蔽、某世界最大手のソフトウェア会社の会長を魔物と勘違いして襲撃した場合のもみ消しなど、全てこちらで何とか内々に処理しなければならないということだろう。

 しかも、この男ランスの力を考えるとこちらの立場が危うくなった場合にも、トカゲの尻尾切のように即座に排除することすら出来ない。
 つまり、一旦使えば少なくともランスたちを殺せる、行動を抑えられる目処が立つか、異世界に帰る手段を見つけ帰る気にさせるまで手札に保持し続けていなければならないということになる。相手が自滅するまで捨てられないジョーカーを持ち続けなければならないようなものだ。
 こんな危険を犯すぐらいであれば何とか隙を突いてランスたちの記憶を消した後、放置することによってランスたちとは縁を切り、少々の敵対者の進入には目をつぶった方が最終的な損害は減るのではないだろうか。


 だが、それではたった今タカミチが抜けた穴を塞げず、最愛の孫の木乃香の身が危なくなってしまう。

 通常時に学園を守る、という面においてはタカミチ達魔法教師の能力に対して近右衛門はまったく不足を感じていない。
 高い戦闘能力を持ちながらも十分な社会性をも持ち合わせており、人当たりのいい性格で生徒達に対してもまったく悪影響を与える心配の無いこの学園の魔法教師は、自らの研究に没頭するあまりに、能力が高くなるにつれて対人関係で問題を起こしやすい魔法使いが多い中、誇ってもいいものだと思っている。力を求めるあまりに人体実験を平然と行う魔法使いなぞもいる中、これは稀有なる好人物の集まりであると自信を持って学園長である近右衛門は断言できる。

 ……だが残念ながらほぼ日本全土から攻められている今という非常時に近右衛門や学園が必要としているのは、より強い戦力、より強大な魔力である。
 平時においてはタカミチのような人格と能力が高レベルで調和しているような人材こそがもっとも望ましいが、時勢の不安定な今現在においては、たとえ人格面において不安があったとしてもより強力な魔法使いが喉から手が出るほど欲しい。多少の問題はあっても腕は超一流という某機動戦艦のクルーのような募集要項にせざるを得ない。
 そういった事情によって、教師としてはありえない年齢のネギ就任や学内の辻斬り吸血鬼の行動もある程度は大目に見てきたという事情もある。
 
 しかも、ランスは吸血鬼と違って月齢によって力が上下するということはなく、冒険者だったという傭兵のような前歴とあいまって、うまく契約さえ結べればいつでも使用可能な上位魔族並みの力の持ち主という吸血鬼をも上回る使い勝手のいい戦力となる。


 答えはなかなか出ない。


 吸血鬼一人でも指名手配を取り消したり、封印のための電力室を作ったり、など大変だったのに、もう一つ巨大な爆弾を抱え込むことが果たして本当に学園のためになるのであろうか。



 ましてやランスは、あの年齢の割にはどこか精神が年若い吸血鬼と違ってこちらで制御することが非常に難しそうである。

 女か?
 過去の吸血鬼の封印時同様搦め手でこの地に確保できるように、ランスが惚れそうな女性を用意すべきだろうか? 
 いや、何百年も生きていながら案外ウブなところがあるかの吸血鬼と違って、ランスのほうはなんだか百戦錬磨、という感じがする。

 しかし、これも一応候補の一つとして入れておく。
 どちらかというと女好きな性格をしているように見受けられるため、ある程度の効果は見込めるだろう。
 もっとも、シィルやあてなといった存在がある以上、こちらが提供した女性によって骨抜きにして、完全にコントロールすることは難しいように思えるが、何も手を打たないという選択肢はあまりに危険すぎる。


 金か? 
 しかし、近右衛門は基本的に魔法使いであるためあまりそういうことには詳しくないが、ランスが身につけている武器、防具、洋服など、中世あたりの人間のものだとは思えないほど頑丈で、精密な趣向による贅を凝らしたものである。おそらくかなりの金額によるものであろう。
 また、シィルやあてなの服装も、布地の面積こそ狭いものの、金糸の刺繍やつやのある高級そうな生地、貴重そうな腕輪や武具、装飾品など、それなりに金銭がかかっている。
奴隷にもこれほどの金をかけるのだから、ランス自身はかなりの稼ぎを得ていたようだ。世界最強という言葉は大げさにしても、かつての世界でも多大な報酬を要求できる強者であったであろう実力もある。

 自分の力に自信があり、かつ生半可で無い収入を得ていた者はいくら大金を払っても、おとなしくしてくれなどという誇りを売り渡せというに等しい頼みは聞かないだろう。


 いや、待てよ。

 
 シィルとあてなと言う存在が頭をよぎった正にそのとき、近右衛門の脳裏に一つの考えがひらめき、考えれば考えるほど最善ではないにせよ、良策であると思えてきた。


 ランス本人はどうにも出来なくても、ランスにはすでに首輪がついているではないか。
 なんだか紙で出来た首輪のようで、少々不安ではあるが、多少は効果があるはずだ。
 やはり、一時的にではあってもタカミチの抜けた穴を何とかして塞がなければ確実に可愛い孫娘に被害が及ぶことになる以上、とりあえずは学園内にランスを確保しておいてから対応を練り直した方が良策といえるだろうため、こちらの線から行ったほうがいいだろう。
 そう思って近右衛門はランスに話を持ち出すためにゆっくりとあちらに向かって覚悟を決めて歩き始めた。






 二人がそんなことを考えている途中で一笑いして満足したのか、ランスが大股で近づいてくる。
 その単なる歩行にも、先ほどまでは感じなかった圧倒的な「力」を感じて、おびえるネギと、身構える近右衛門。


 そんな二人の対応に目もくれずに、シィルの元に歩いていくランス。
 すぐさまランスの肩を揉むシィル。
 ランスの周りを人工衛星のようにくるくる回るあてな。
 地面に突き刺されるカオス。
 ランスパーティは周りの反応などまったく気にせず、いつもどおりのマイペースだった。


「お疲れ様でした、ランス様」
「ご主人様、強いれす」
「がはははは。シィル、あの程度の相手、ちょっとめんどくさいだけで別に疲れてはいないぞ」
『わしは疲れたのう、別にせんでもいい戦いだったし。誰かわしの心のちんちんの疲れもいやしてくれんかのう、ぐえっへっへ』
「黙れ、エロ剣! 飛んでけーーーー!!」
『あわわわわ、わしは由緒正しい魔剣なんじゃぞおぉぉぉぉーーーー』
「ばいば~い」


 周りの女性にちょっかいを出そうとしたカオスは、即座にランスによって投げ飛ばされる。これまたいつもの光景、自分の武器を投げた!! と驚愕する麻帆良学園の面々を尻目に、カオスは星になった。






 数分後、別にカオスがいないことをランスもシィル、おまけにあてなも無視していれば、カオスは自分でピョンピョン跳ねながら帰ってきた。
 帰ってきても、またランスと言い合いになり、再び投げられそうになるものの、シィルのとりなしで今度は何とか免れる。
 あれほどの大立ち回りを披露したにもかかわらず、ランスパーティは実にいつも通りの日常を過ごしていた。

 が、他の魔法教師の面々は、敵対地で自ら武器を捨てる剣士に、自分でしゃべる剣。しかも自分で動くことも出来ると目の前で立証されて、つくづくこの連中には自分の常識が通じないということを思い知っていた。



 そんな中、近右衛門がランスたちに近づいてきた。
 何か用事があるのかな? とシィルも手を止めて近右衛門をみる。
 そのランスたちを見て、近右衛門は慎重に言葉を紡ぐ。


「ふぅむ、ランス君、強いのお。あれでも高畑先生はこの学園の中でも、上の方に位置する魔法使いだったんじゃが」
「あん? やっぱり魔法使いだったのか? ぜんぜん魔法を使わないからただの格闘家かと思ったぞ」
「身体強化をする「戦いの歌」を使ったり、遠距離から衝撃波を放っとったじゃろ。高畑先生はかなりの魔法剣士だったんじゃが…………」
「そうれすね、なんだかかわった力の流れを感じたれす」
「ああ、あれ魔法だったのか。まあ、強化してあの程度とは、この世界の弱さが解るな、シィル。がはははははは」
「確かにリック将軍やガンジー様に比べれば、そうでしょうけど……ここが学園って言うところだからですよ。パリス学園にもそんなに強い人はいませんでしたし、きっとこの学園の外の世界には、魔人みたいな方がいらっしゃるんじゃないでしょうか」
「心配いらん。たとえ魔人がきても俺様が倒す。万事おっけーだ。そろそろこんな美女のいないところに突っ立っているのも飽きたし、どこかにいくか」
「美女ならここにいるれすよ? えへへへへ」ぼかん


 余計なことを言って殴られているあてなを尻目に、自信家であろうランスはともかくシィルから見てもこの世界トップクラスの魔法剣士タカミチすら、弱く見えていたということに近右衛門はなおさら彼らの力が危険であり、だからこそ必要であると思う。

 「契約」による身体強化すら行っていない状態で戦士のランスがあれほどなのだ。
 魔法使いのシィルとて、感じる魔力は低いといっても決して油断できない。いや、むしろこれは偽装のためにわざと魔力を低く見せるようにしているのだろう。奴隷扱いされているとはいえ、これほどの剣士と「契約」を結べた魔法使いだ、きっと尋常ではない能力を持っているに違いない。
 そして、彼らについていっている以上、この幼く見えるあてなという少女も見た目と反する何らかの力を持っているだろう。決して油断して接していい存在ではない。

 そう考えると同時に、この場を去ろうとしているランスたちをあわてて呼び止める。


「これこれ、ランス君達はこの世界の金銭を持っているのかのう?」
「あん? そんなもんその辺のモンスター倒して落としたの拾っていきゃあいいじゃねえか」
「ストーンガーディアンとかならきっといっぱい持っているれす」
「あの、ランス様。この世界にモンスターがいるとは限らないと思うんですけど」
「何言ってんだ。さっきの男やこの爺みたいなやつがいるんだぞ。つーことはそいつらが戦う何かがいなきゃおかしいだろうが。よってモンスターはいる! さあいくぞ、シィル」



 その会話から、ランスが完全な愚者で無いことに気づく。
 証明の経路はむちゃくちゃだが、それなりの洞察力も勘働きも持っているとランスに対する評価を上方修正する。

 が、ここで出て行かれると少々まずい。
 こちらの思惑が気取られないように、慎重に言葉を紡ぐ。


「あー、待ちたまえ。この世界にも一応モンスターというか魔物、魔族といった存在はいることはいるが、そんなにぽんぽんと出てくる物ではないし、第一金銭なんぞも落とさないんじゃが」
「む……めんどくさいな。じゃあ、その辺のチンピラでもぶっ殺して奪うか」



 まったくよどみない回答。そこには人を喰らって生きる種族である魔物と、ただ素行の悪いだけの人間との間の命の区別がまったくなされていない。
 改めて、ランスは人間を含む生き物を殺すことにまったく躊躇をしない性格だと知り、ランスをこの学園に擁しようという近右衛門の決心が揺らぐ。

 先ほどのタカミチの戦いも単なる訳の分からない世界に来たストレス解消だったように見受けられるため、それほど積極的に殺そう、と思っていたわけでは無いだろうが別に死んでもかまわない、むしろ死ね、という感じで攻撃していたことは明らかだ。

 この男は自分のささいな都合というもののほうが他人の命よりも優先されると本気で考えているのだ。今まで一体どれほどの人間を手にかけたのだろうか。きっと百や二百では利かないに決まっている。
 まごう事なき危険人物であるとして近右衛門の直感が最大限の警鐘を鳴らす。

 だが、ランスがそういう人間であったとしても、タカミチの抜けた穴は何とかふさがなければならない。


「ふうむ、それならこの学園にいてくれないかね」
「? 爺、どういうことだ?」
「シィル君は魔法使いなのだろう? ならば金銭のために人を殺すような面倒な事をして時間を無為に潰すくらいならば、その異世界の魔法をここにいるネギ君に教えてくれないかね。ネギ君は研究熱心なのでな。無論報酬は出そう」
「ぼ、僕ですか? 学園長!」


 先ほどの戦いを見て自分に自信がもてなくなってきているネギが、いきなり話を振られて驚く。
 普段であれば未知の魔法を学べるかもしれないということに目を輝かせるかもしれないが、あれほどまでのランスの戦闘力とタカミチの惨状を目の当たりにして、無邪気にはしゃげるほどには、ネギの心臓は頑丈ではなかった。そして、そのことは近右衛門も知っているはずだった。

 しかし、近右衛門としてはどんな手段をとってでもとりあえずランス一行をこの地に縛り付けておかねばならない。
 この地の事を記憶されたままランス達が外に出てトラブルを起こしてしまうと、ランスたちの行いによっては最悪魔法界において『麻帆良学園がランスという魔族を召喚したのち野に放った』ということでのちのち非常に大きな責任問題になる可能性すらある。それは非常にまずい。
 この場で一番幼く見え、実際に幼い少年であるとはいえ、いきなり今までとほとんど関連性のないネギの指導ということは無理があるのはわかっているし、後々問題になるであろうということが予想できているとしても、力ずくでランスたちの記憶を消すのはほぼ不可能に近いと解った今は近右衛門としてはこれでごまかさねばならない。

 自分のため、木乃香のため、そして何よりこの麻帆良学園のために、たとえサウザンド=マスターの息子であり、将来有望なマギステル=マギ候補であるネギを切り捨てることとなったとしても。


 突然の提案に、同じく目を白黒させていたシィルだったが、やはり学校というもの自体にも興味があるのか子犬が主人にお伺いを立てるかのような上目づかいでランスのほうを伺った。彼女は奴隷として売られて以来、まともな教育を受ける機会を奪われているため、学校というものに憧れを抱いている。
 そしてその主人であるランスは即座に異世界見物に行きたい様だったが、先立つものが無いと旅は面白く無いということも理解しているのか、しばらく悩んでいたが、突然いい考えが思いついたのか、シィルが働くことを許可した。


「よし、俺様は異世界観光してくる。お前はしっかり稼いでおけ。それでばっちりだ、がははははは」
「はい、ランス様」


 なにやらとてつもなく理不尽なことを言っているような気がするが、これが当事者二人の基本的な立場であるため、シィルもなんら疑問を抱いていない。
 英国紳士たれ、と思っているネギは女性であるシィルをこき使うランスに異論を唱えたいが、そのたびにあのタカミチの姿が脳裏に蘇る。自分の信念を貫こうとは思っていても、あの姿を見てしまっては何も言うことは出来ない。

 無理が通れば道理がすっこむのだ。

 それに異を唱えたければ、少なくとも無理の象徴であるランスを何とかしなければならない。

 そんな、自分の弱さに拳を握り締めるネギを他所に、話はどんどん進んでいく。


「そうだ! おい爺。それならシィルにもこの世界の魔法を教えろ。なんかあの体から煙みたいなのがでるやつとかもな。そっちの方が面白そうだ」


 別に近右衛門のように深い熟考があっての発言ではない。というか、女性の絡まないランスにそこまでまともな思考能力はない、単なる思い付きである。


「シィル君にかね……ふぅむ、戦いの歌などはなかなか難しいんじゃが……ならばシィル君にはネギ君の仕事を手伝ってもらっていいかね?
 ネギ君は教師をやっていて、今の状態ではそう時間は取れんのじゃ。シィル君が手伝ってくれれば、ネギ君も雑務が減って自由時間が増える。
 そうなればお互いに教えあえるじゃろうから、上達も早いじゃろう。もちろん、シィル君には別口で報酬も出そう」


 そして、学園内での拘束時間が増えれば、何だかんだ言ってシィルと活動をともにしているランスが余計なことを学園外で引き起こす確立も減るだろうし、この学園への敵対者への抑止力ともなるだろうと、さも今思いついたかのようにランスに提案する近右衛門。
 学園内であればある程度の事件は学園長の権限や魔法教師のフォローでもみ消せるため、ランスが学園の魔法教師のいる範囲内で拘束される時間を可能な限り引き伸ばそうというものだ。
ネギが魔法を教わるとはいえ、まさか異世界の魔法技術をそうやすやすと手に入れれるはずもないが相手の魔法という手の内が少しでも探れれば、それだけで御の字だ。その対価が未熟なネギ一人分の魔法の情報とその彼が今後手に入れる情報、そして一億や二億のわずかばかりの金銭ぐらいであれば、安すぎるぐらいだ。

 本来であれば、魔法教師として未熟であると発覚した直後であるネギに危険人物の一角を任せるというのも危険では有るが、他の有力な魔法教師達は学園の警護に加えてランスの監視という仕事も入った今、シィルと友好的な行動を共に出来るほど時間的余裕を持っている魔法教師はネギしかいない。
 それにネギが担任を務めるあのクラスには比較的戦闘能力が高い者がそろっている。
 万が一のランス乱入の場合、全員でかかれば封印されているとはいえ「あの」エヴァンジェリンもいることだし、このかだけならあの刹那が脱出させるだろう。少なくとも生徒を逃がす誘導のため魔法教師がたどり着くまでの数分ならば持ちこたえることも可能だろう…………可能であって欲しい。


「うーん……………まあいい。シィル、その代わりいつも通り俺様の仕事もちゃんとやるんだぞ」
「ねえねえ、あてなは、あてなは?」
「お前は魔法技能無いだろうが! いいな、シィル」
「分かりました、ランス様。シィル=プラインです、よろしくね、ネギ君」
「は、はい。ネギ=スプリングフィールドといいます。こちらこそよろしくお願いします」
「ぶーぶー、豚さんれす。いっつもいっつもい~~~っつも、シィルちゃんばっかりずるいれす」
「黙れ(ぼかん)」


 しかし、そんな近右衛門の思惑など知る由も無いネギにとって見れば、いつの間にかランスの相方であるシィルと仕事をすることとなっていたのである。タカミチは搬送されていったものの、未だ真新しい校庭のクレーター同様、ネギの心も深く傷ついたままだった。
 おびえるのも無理は無い。

 しかし、がちがちに怯えているネギの表情を見て、シィルは不思議そうにしていた。


(初めて会った人と仕事することになったんだから、緊張しているのかな?)


 ランスの行動に大分慣れてしまっているシィルにとって、ネギがまさか怯えているとは夢にも思わなかった。この間いたアイスフレームの孤児院やJapanのお姫様などとではランスが結構子供たちと良好な関係を築いていたことにも影響されたと思われる。ランスの思惑である青田買いなんて言葉は理解の範疇外ということでわかっていないシィルだった。
 

(まだ小さな子供なのに教師なんだからいろいろ大変なんだろうな。仲良くしないと)


 そう思ってシィルはネギに向かってにっこりと微笑む。暖かく、人を安心させるような微笑だった。
 そう、彼女自身は完全なる善意の人なのだ。
たとえその主が悪魔を恐れさせるほどのとんでもない人間だったとしても、たとえ、その手がランスのためにあまたに血塗られていたとしても、シィル=プライン自体は一点の曇りもない善である。


 だが、その微笑みがネギには、大丈夫だよ、といっているように見えた。
 今まで沈んでいたネギは、その笑顔を見て故郷での姉の笑顔を連想した。
 その記憶はそのまま自分がなぜマギステル・マギを目指していたのかの過去へと繋がった。


 砕かれた最愛の人の足。
 石へと化していく父とも祖父とも慕う男性。
 倒れていく仲のよかった近所の人々。
 何も出来なかった自分。
 燃え上がる生まれ育った村の景色。


(そうだ、僕は父さんを探すため、6年前のような事件をもう起こさないようにするためにマギステル・マギを目指しているんだ! 今は敵わなくても、いつかきっと……)




 その視線の先には、先ほどまで恐怖の対象だったランスが写っている。
 

 確かに今でも怖い。
 目を合わされたら思わず逃げ出してしまいそうになる。
 足だって震えている。
 自分もぼろくずのようになっているイメージが頭から離れない。




          でも………前に進まなきゃ始まらない。
 



 ネギは、先ほどは情けなさで握った拳を、今度は決意で握り締めた。










 そんなネギのことは露知らず、ランスは近右衛門にこの世界で人を殺すことについての注意を受けていた。


「あん? 敵を殺すなとはどういうことだ?」
「いやいや、敵ならかまわんのじゃよ。じゃが、一般人を殺すのは控えてもらいたいといっておるんじゃ」
「俺様の邪魔をする=敵じゃねえか。それが一般人であろうと、魔人であろうと関係あるか」


 改めて文化の違いというか世界の違いをランスの言動から感じ、ゆっくりと解りやすく簡単にだが近衛右門は説明した。


「……ふうむ、こちらの説明が悪かったようじゃのう、申し訳ない。
 この世界において魔法などを使えんごく普通の人間を殺すと国ぐるみで厄介なことになるんじゃよ。この学園の中に不法に侵入してくるものであれば、そういった国とは関係ないからわしが何とかできるんじゃが。一国を挙げての追跡とて、ランス君には楽なものであろうが、平穏な観光等はしづらくなるぞい?」
「む……」


 国ぐるみで、と聞いて国家を上げてランスをダーリンと追っている女王の姿や時折送り込まれてくる元王女直属の諜報隊が思い当たったのか、嫌そうな顔をするランス。


「そいつらなら、ぶっ殺して金奪ってもいいってことか? 」
「うむ、それに加えてこの学園も守ってくれるならランス君にも相当の報酬をこちらからも出そう」
「う~~ん、めんどくさいなあ。ぶっ殺すだけにしようか」
「ランス様、護衛のお仕事もやりましょうよ、私も手伝いますから。この世界のことがよくわからないうちは、お仕事をやりながらいろんなことを覚えていった方がいいと思います」
『そうじゃのう、わしもその方がいいと思うぞ。わしらは今この世界について何にも知らん。その状態でわしらだけで帰る方法を見つけるのは余計に骨が折れるわい。少し回り道でも、知識を仕入れてからの方が結局は早く済むぞ』
「あてなソフトクリームが食べたいれす」


 と、シィルにも説得され、元盗賊のカオスからも言われるが、人の言うことには反対したくなるのがランスの性格だ。
 そこを見抜いていた近右衛門は、いっそう腰を低くするとともに、もう一つ条件を付け加えた。


「学園を守ってくれるというならば、元の世界に戻る方法も我々が責任を持って探させてもらいたい。ランス君なら学園を守るなんて楽勝じゃろう?」
「……まあいい、乗せられてやる。敵は殺す。爺なんぞは気が向いたときだけ守ってやろう」


 交渉どうにか成立。

 にやり、と笑った大きな口元とひげに覆われた口元には、それぞれ種類は違うものの自信というものがにじみ出ていた。


Comment

>某世界最大手のソフトウェア会社の会長を魔物と勘違いして襲撃した場合のもみ消しなど

ゲイツwww

No title

ゲイツのどこが魔物なんだ?

今久しぶりにランス1やったけど
魔法で攻撃できるし、回復できるし、敵の防御力下げれるし、回避力も下げれるし、心覗けるしチート並のスペックだなランス
非公開コメント

プロフィール

基森

Author:基森
蚕鳴や円禍と名乗ってたこともあります。

主に小説・ssなどを置いているブログです。

自前の本棚を持つのは初めてなので手探りでやっている程度のものですが、わずかばかりの暇つぶしにでもなれば幸いです。


メールは「kulukku106☆yahoo.co.jp」まで、☆を@に変えた上でお願いいたします。

そろそろ、非営利にならトップへのリンクフリーとか言ってみたり。

最新記事
最新コメント
月別アーカイブ
カテゴリ
カウンター
検索フォーム
QRコード
QRコード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。