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ドラゴンに首ったけ29

その29











はっきり行って、サイトは現状に危機感など感じていない。かつての世界のルイズを心配する気持ちはあるものの、あくまでそれだけであって、この場所に自分が存在すること自体に罪悪感を覚えたりはしていない。未来からなぜ自分が来たのか、などということに対してもきっとウェールズ殿下を助けたりするためなんだ、などと安易に思っており、以前より圧倒的に有利になった己の立場で活動しようとしている。
つまり、何が言いたいのかといえば、サイト自身には今、余裕というものがあったということだ。いまだブラッドという存在についての詳しい知識を持っていないサイトにしてみれば、パラレルワールドというわずかにずれてしまった世界ではあっても、所詮ここは過去なのだから。
そのため、サイトはルイズの意に反するような行動をとってしまった。


「なあ、その剣、ちょっと見せてくれないか?」
「え? ……まあ、別にいいですけど。ちゃんと、返してくださいね?」
「ああ、もちろんだ」
(サイト、何をするつもりなのかしら)


サイトの手に取られたこちらの世界のデルフリンガーは最初こそいぶかしげに思っていたようだが、その記憶の奥底が反応したのか、すぐにサイトが何者なのか、ということをおぼろげながらに理解した。


『おめえは……ひょっとして、使い手か? ちぃ、こっちに買われれば良かったぜ!』


その言葉にメイド38号はひそかに膨れたのだが、彼女が文句を言う前にサイトの背にしょわれていたデルフが口を出した。こちらの世界に来てからデルフは、鞘に完全に収められて喋れなくされることが少なくなっていた。


『けっ、相棒には俺がいるからな』
『!! こりゃーおでれえた、俺のニセモンか!!』
『俺からしてみれば、おめえのほうが質の悪いニセモンだぜ!!』


サイトが持ってきたデルフはさておき、この武器屋で最近までほこりをかぶっていたデルフには、この世に自分そっくりの剣がもう一本ある、と言うことなど思いもしなかったことだった。そのためその驚きが素直に口に出たのであるが、その言葉を聴いたほうのデルフ(区別がめんどくさいので、以下こっちをでるふ、サイトの持つものをデルフと呼称することにする)にしてみれば、昔のことをすっかり忘れているくせに、こっちを偽者呼ばわりしてくる『かつての自分』という存在は、決して面白いものではなかった。


『何を、このぼろ剣が!!』
『けっ。さびさびの剣が何いってんだか』
『ぐぐぐぐぐぐ』
『ぬぬぬぬぬ』
「まあまあ、デルフ、頼むよ」


そのため、世にも珍しい同族嫌悪ならぬ同一嫌悪なるものによる知性のある剣同士のけんかが始まろうとした。が、それを押しとめたサイトに促され、しぶしぶという感じで言い争いをやめるデルフ。なんだかんだいっても、結局デルフはサイトに甘いのだ。
結果として無言で、訳のわかっていないでるふとともに、サイトの両手に握られることとなったデルフは、サイトの手によって合わせられたお互いの柄を通して、己の能力を行使した。


『けっ、いいか、お前のためじゃなくて相棒の頼みだからだからな』
『お、おい。いったい何を……』
『はあ、黙ってろって。じゃ、行くぜ』
『お? おおおおおおおおおおおお!』


突如、その場に小さいながらもまるでジェット機のエンジン音のような高温が響き渡る。思わず顔をしかめるサイトだが、両手がふさがっている以上、耳をふさぐことは出来ないのでそのままの体勢を維持する。
やがて、その音が収まったときにはサイトの手には鈍い輝きを放つ一振りの刃があった。


『けっ、ようやく思い出したか?』
『お、俺は……』


自ら封じたはずの記憶が、能力が、姿が一気によみがえってきたことに、戸惑いの色を隠せない元さびさびだったでるふ。その姿は、サイトが戦いのときに使っており、いまの古びた姿に偽装しているデルフがとる真の姿にそっくりだった。
そう、サイトの持つデルフリンガーの能力、持ち手の体を乗っ取るという能力の応用として、同一存在であるこちらの世界の自分の自ら捨て去った記憶を呼び覚まさせたのだ。己のみが知るサイトとの未来についてはさておき、かつての自分が意図的に忘れ去り、徐々に思い出していった太古の記憶を、サイトの持つデルフリンガーはこちらの世界の自分に干渉することで強制的に思い出させた。


「キャーーーー!!!」


と、ここで悲鳴が上がった。現在の持ち主であるメイド38号にしてみれば、いきなり買ってきた剣が変な形に変形したのだ。一流の剣士が見れば惚れ惚れとするような輝きを放つデルフであっても、非戦闘員であるメイド38号にはその価値などまったく持ってわかるものではなかった。
彼女にしてみれば、しゃべる剣であれば、「デルフ」であればいいのであって、魔法吸収だとか、持ち手の体をジャックするとかいう能力なんてどうでもいいのだ。
そのため、悲鳴を上げてサイトの手から慌ててでるふをひったくる。


「で、デルフちゃん、大丈夫!!」
『あ、ああ』
「もう、デルフちゃんに変なことしないでください!」
「……ああ、ごめんな」


敵意に燃えた眼でこちらをにらみつけてくる38号の視線を居心地悪げに受けながらも、サイトは内心満足していた。
それはエゴだったのかもしれない。
いまの現状、武器屋の片隅で埃をかぶって一日中暇している、というものはデルフにとって望ましいものではなかったが、この状態は自らが望んで行ったことである。始祖ブリミルの使い魔が使った伝説の魔剣として、使われもせぬままずっと博物館に飾られているよりかは、と自ら記憶を捨て去ったデルフの意思を無視して、無理やり再び「伝説」へとその身を引き上げる。
渋る自らの持つデルフを説得して、それを行わせたサイト。もともと自らの手元に来たデルフに対して施すつもりだったそれを、他者のものとなってしまったデルフに対して施したのは、せめて買われていった先でスクラップになどにはされないように、という思いからだった。かつての世界においても自らの最高の相棒だった剣の移し身が、ただ朽ちていく、ということに耐えられなかったサイトが行ったエゴ。
それはその場の誰にも理解されない行為であったかもしれないが、サイトはそれを行ったことに満足していた。


そしてルイズは、完全にデルフを買い戻すことが不可能になったと真っ白な灰になっていた。







結局のところ、使い魔と主の意思疎通が上手く言っていなかったのだろう。馬車で揺られながらずっと先ほどの『伝説の魔剣ツヴァイ購入大作戦』の失敗要因を考え込んでいたルイズは、最終的にはそう結論付けた。自分が何が何でもデルフを手に入れたかったのだ、ということを真の意味でサイトが理解してくれていなかったがために、あんなことがおきたのだ、と。現時点ではサイトの行動に対して文句を言うつもりはないルイズであったが、不満はそれなりにたまっている。きっとそれは、かつての世界でサイトがルイズに抱いていたものと同種のものであるはずだが。

が、起こってしまったことは仕方がない、と窓から差し込む夕日にまぶしげに目を細めながら、ルイズは無理やりデルフのことを脳裏から消し去った。今後、同じような失敗をしないことが大切である、と自らに言い聞かせたルイズは、この馬車の中にいる時間を有効に使おう、とサイトに語りかけた。


「ねえ、サイト……聞きたいことがあるんだけど」
「何だよ、ルイズ」
「あなたは、このハルケギニアに来る前は、別のところにいたんでしょ?」
「ああ、たしかに日本ってとこにいたけど?」


唐突に始まったルイズの質問に、ルイズに買ってもらったソフトレザーの鎧によって微妙に着膨れているサイトは戸惑いながらも答える。微妙にガンダールヴの補正を受けてはいるもののやはり鎧が着慣れない様子でありながら、きちんとルイズのほうへと向き直った。
基本的に、ルイズがただ構ってくれることが彼にはうれしいのだ。
そして、その後に述べられたルイズの台詞は彼の思いにしっかりと答えたものであったため、なおさらに。


「その……ニホン? って場所のこと、教えてくれない?」
『そういや俺も詳しくは聞いたことなかったな、相棒』
「ああ、別に良いけどよ……どうしたんだ、いきなり」
「私の使い魔であるあなたのことを、もっと知っておきたいの」
「! よっしゃ、任せとけ!! まず俺のいた国は……」


マリコルヌに馬車を引かせてタルブの村に向かう二人は、デルフも交えて親交を深めていた。本来であれば望郷感などでそう簡単に話せる筈ではない話を、サイトは何の気負いもなく話し始めた。なんと言っても、サイトはこっちのルイズにも徐々に好意を持ち始めていたのだから。
その話を楽しそうに、しかしやはり一定の警戒はどうしても消しきれないでルイズも聞き入る。

こんなのではダメだ、ということはルイズ自身にも分かっているのだ。
初めから使い魔にすることすら出来なかったあの竜とは異なり、サイトは自らの使い魔にきちんとなってくれたのだ。そんな使い魔を信じることが出来ないなんて、誇り高きヴァリエール家のメイジとしては失格だ、ということは十分に分かっている。ルーンの性質を調べた限りでは、裏切られる可能性も低いであろうということも十分理解している。

それでも、怖いのだ。

自分に虚無、という力を与えてくれた使い魔が、またあのときのように自らの敵に回るかもしれない、という恐怖がどうしても体から抜けない。これではダメだ、サイトを信じよう。そう思った次の瞬間に、あの竜の僕が牢屋越しに自らに向けた冷たい視線と、うわさに聞く街々での被害を思い出し、どうしても脳裏に不安がよぎってしまう。
サイトの忠告で未だに本格的に虚無の魔法を発動させたことがないため未だに「ゼロ」であり、本当の意味で自分に自信をもてないルイズはどうしてもサイトを信じることが出来ないでいた。だからこそ、この場でサイト自身の人格を形成してきたかつての故郷のことを聞くことが出来たのは、ルイズ自身のためにも、サイトのためにもいいことであった。
サイトにしてみても、ちりちりとしたいろんな思いは生じるものの、なんだか再開してからちょっと距離があったように思われるルイズともとのように慣れるというのであれば安いものだと思って、高校まで育ってきた自らの周囲を多少脚色も交えながらも語り始めた。

サイトが面白おかしく語る話にやがて二人の間にあったぎこちなさも緊張感も薄れてきて、徐々にルイズも本当の意味での笑顔を見せ始めたそのとき、二人の身を―――正確には外で頑張って馬車を扱っていたマリコルヌと二人と一緒にいたデルフも―――突然の轟音が襲った。


「な、なんだあれは!」
「どうした、マリコルヌ! なんかあったのか」


後ちょっとでタルブ村に着く、という位置で突如聞こえた轟音と外にいたマリコルヌの声に、サイトがデルフを鞘から引き抜いた状態で手に持って外に飛び出す。
ルイズが驚きで硬直しており、それよりもまともとはいえろくに動くことも出来ていない状態のマリコルヌにたいして、完全に戦闘状態で即座に構えたサイトが追ったマリコルヌの視線の先には。

通常の1・5倍ほどもある巨大なゴーレムに乗った一人の女性が、グリフォンごと分身している仮面のメイジと派手な戦闘を繰り返していた。


「フーケ! ワルド!」


巨大なゴーレムを操るお尋ね者と王国の魔法衛士隊隊長だった裏切り者。かつての世界で何とか撃退した強敵の二人が、何故か目の前で夕日をバックに大規模な魔法戦闘を繰り広げていた。







「あ~、もううざったい!!」


ワルドの「一人」に傷つけられたゴーレムの腕辺りを、今度は周囲の岩石も混ぜ込んで再構成したマチルダは、そう叫びながらも何とか活路を見出そうとしていた。

ようやくテファに会えると思うのと同時に、ひょっとするとテファが誰かに脅されてあの手紙を書いたのかもしれないとも思ったマチルダは指定の場所に指定の時間よりも早く向かった。要するに、相手が来るよりも早く場所に向かって迎えに来るであろうテファの動向をひそかに見張ろうとおもったのだ。
テファ以外のものが来る、またはテファに監視らしきものが着いていた場合は、そのものを捕らえ、テファを救い出すために。指定の場所は木々のうっそうと茂った森の中――土のメイジの独擅場だ。例えエルフ相手でも不意打ちならば出し抜いてみせる、と。

その心積もりでいつでも魔法を放てるように杖を構えていたマチルダだったが……その成果として何とか背後から襲い掛かってくる捕縛用の魔法を回避することは出来た。何者かが使用していた木々を踏みしめる音を消す風の魔法が解除して攻撃してくる気配を何とか事前に察知できたからだ。

狙ってきたのは誰か?
背後を見れば、先ほど殺傷用ではなく捕獲用の眠りの雲を放ってきた、どっかで見たような超怪しげなマントとマスク姿をした奴が二人も三人も連携しているとなれば、考えるまでもない。


この間王党派と戦っていた変な男が遍在で襲い掛かってきたのだろう。


「ちぃ! イル・アース・デル……」


うわさに聞く竜の巣の周囲と言うことでひょっとしたら魔物がいるかもしれないと思って警戒していたのだが、引っかかったのは人間とは、と一つ舌打ちして、かわすと同時に呪文を唱え、ゴーレムを練成する。
いずれ追っ手がくるとは思っていたものの、まさか先回りされているとは思いもよらなかった。その事実に改めてテファからの手紙をこの男に見られていた、という事実に歯噛みしながらも、精神力の一部は魔法の行使に割かれている。

その結果として出来上がったのは、いつもどおり30メイルほどにもなった自らのゴーレムであった。本来であればテファとのつなぎとなる相手を待ち伏せしなければならないため、ここで大規模な戦闘をやるのは避けたい。こんなところで暴れていては、ただの女と警戒していなかったであろう相手にこのマチルダはそこそこの敵ですよ、と示しているようなものだと言うことは重々承知の上である。普通に考えれば、この場での選択肢は相手を振り切る魔法か、使うとしても小規模な攻撃魔法であろう。
だがしかし。


そもそもマチルダはそれほど攻撃魔法が得意ではないのだ。

彼女は通常の1・5倍の30メイルのゴーレムを作り出せるほど優れた土のトライアングルメイジであるし、貴族の屋敷に仕掛けられているあまたの仕掛けを出し抜いて、宝物を奪取できるほどの腕前を持っている。

だが……幼い頃アルビオン王から不興を買って貴族の位を奪われた家系である彼女が、ルイズらのようにまっとうな「魔法教育」を受けられたはずがなかった。またそもそも、小国の癖にこの付近での最大国ガリア並みの魔法学校を持っているトリステイン王国が異常なのであって、アルビオン出身の彼女が追放されるまでに受けた魔法教育もそれほどまで優れたものではなかった。
アルビオンでは皇太子が同じ小国であるはずのトリステインをうらやむほど優秀なメイジが出ない、トリステイン魔法学園並の固定化などアルビオン貴族の屋敷では見たことない、などと言えばその低レベルさも良く分かるだろう。

幼い頃から受けてきた教育は一生を左右する。結果として、アルビオン王家への復讐心で必死で独学を続けたマチルダにしても、それほどまでありとあらゆる分野に魔法の才能を伸ばせたわけではなかった。


だからこそ、彼女は広く深く、ではなく、狭く深くへと魔法を修練し始めた。
そう、彼女が選んだ魔法は錬金だった。
攻撃、防御、侵入とありとあらゆることに使用できる汎用性のある魔法。
土属性の基礎にして、奥義である魔法を。

そしてその結果として、彼女はどれだけ頑張っても「金」を錬金出来るスクウェアにはなれなかったが、その代わりとして貴族の屋敷に付与されている大概の固定化をも錬金で破壊し、三十メイルのゴーレムを製造できるほどの錬金のスペシャリストになったのだが……その結果として、他の魔法がほとんど使えない。かろうじて治癒魔法やその他の補助魔法も身につけているのだが、せいぜいその程度。

マチルダは、自らの家とそしてテファたちを見捨てた貴族連中への復讐心で錬金の刃を鋭く研ぎ澄ませることに成功したが逆にいえば、それしかないのだ。土壌開発や水路建造、武器の製造などでありとあらゆる仕事から引っ張りだこ、四大属性でもっとも潰しのきく土のメイジでありながら、錬金で侵入してゴーレムで逃げると言う盗賊業以外に何も出来ない。

当然、小規模で目立たないように相手を倒すなんてこと出来るはずもなかった。
彼女に出来ることはたった一つ、ゴーレムを作って、なぎ倒す。ただそれだけだった。

加速をつけて振るわれた巨大なこぶしが大地に向かって一直線に突き刺さるが、馬よりはやいグリフォンの影を捉えることはできない。ただむなしく大地をえぐるだけである。
その反撃として放たれた雷撃を集めたかのごとき魔法をかろうじて反対側の腕で受けることに成功するが、荒れ狂う雷雲はゴーレムの素材である大地を蝕み、崩していく。
慌てて周囲の大地を吸収して復元していくゴーレムだが、三人がかりで傷つけられていく速度のほうがはるかに速かった。


「しつこい男は嫌われるんだよ、このストーカーが!」
「ならばおとなしくこっちに来るのだな、土くれのフーケ」
「ちぃ!」


自らの盗賊業のことまで知っている相手が、一体全体何者だろう、と言う疑問にマチルダはいまさらながら気づいた。今わかっていることはただひとつ。尋常ではない使い手だ、ということだけだった。
スクウェアメイジとて、すべてのスクウェアスペルを簡単に使えると言うわけではない。もしそうだというならこの世界は金がだぶついているはずだ。スクウェアメイジであっても精神力をかなり消費するスクウェアスペルをそんなぽんぽん使えるはずはないのに、この男はそのスクウェアスペルの「遍在」を多用しているうえに攻撃魔法すら使っている。
グリフォンに乗り、しかも遍在を使えるメイジなぞごくごく限られているため、見るものが見ればばればれなその変装だが、ここには彼を見知っているであろう王国の兵士も、最近知ることとなった村の住民たちもいない村のはずれであるため誰もそのことを教えてくれない。
いったいどういった素性なのだろうか、と言う興味がわいてくるが、とりあえず今はゴーレムを操るのが精一杯だった。

何せサイズの違いは大分あれど、三対一。
しかも相手はグリフォンということで機動力でも負けている。


フーケのゴーレムは、地属性は、四大のうちでもっとも堅牢な「大地」に根ざす力だけあって、その力は大きく、それこそ単純な一撃の破壊力だけでならたとえすべてを焼き尽くすといわれている「火」にすら勝っている。初速から早くて重い一撃を加えられるのだからそれも当然だろう。単純な物理的現象に依存されるその力は、物理攻撃に対してほとんど耐性を持たない大多数のメイジにとっては、防ぎにくく非常に厄介なものだ。
それこそ、今相手をしている「遍在」に代表される風属性などとは、比べ物にもならない破壊力を持っているのだ。


だが。

周囲から引き抜かせた大木をまるで槍のような構えで投げつけるが、空気をはらんで減速してしまったその木が、グリフォンに乗ったメイジを捉えることはできなかった。
ましてや相手は風を操るのだ。魔法的な誘導を加えているならばさておき、ただ単に放って終わりの物理攻撃に近いような攻撃など、ことごとくそらされる。
ならばと大地から大量の土砂を巻き上げて、その質量で押しつぶそうと宙に大量の砂を撒くが、相手の三人がかりで唱えられた空気の槌に無残にも打ち砕かれた


「いい加減、無駄だということを理解したらどうだ!」
「黙りな! 誰があんたなんかに!!」


一撃の破壊力で言えば、最強は土属性だ。
だが、そんな長所があれば、勿論短所もある。それも、致命的な短所が。

どれほど威力が高かろうが、結局は当たらなければ意味がないのだ。
土の属性の弱点は、とにかく動きが緩慢であり、そして攻撃があまりにも大味でありすぎる事である。ゴーレムにしたところで、簡単な命令であればオートで言うことを聞かせられるものの、絶対に遍在のような自立思考を持たせるような使い方などマチルダには出来やしない。

地の魔法の、それもゴーレムが取れる攻撃手段など限られている。その巨体を生かしてなぎ払う、叩き潰す。周囲の岩石を投げ飛ばす。土砂を振りまく。せいぜい出来てその程度だ。


ゴーレム使いとして名高いマチルダにしても、それはどうしようもなかった。馬鹿の一つ覚えのようにこぶしを振るわせ、飛礫を投げさせ、砂を巻き上げて攻撃させる。ことごとくそれらが無に帰っても、マチルダはそれ以外のなにもできない。


それは、攻撃に偏ったその力は、狙いという概念をほとんど捨て去った結果だ。正反対に位置する「風」が距離と狙いに特化して、その結果としてせいぜい数人を倒すのが精一杯という威力の足りない攻撃魔法を持つのに比べて、威力だけは大きいもののあまりに大雑把な攻撃しか出来ないそれは、大きな的を狙えばいいだけの攻館戦や進入戦、あるいはある程度まとまって攻撃してくる軍のような集団で固まっている追っ手に一撃与えて逃げるにはこれ以上ないというほどの効果を発揮する。
だが、その帰結として一対多で散らばって迫ってくる自分より素早く小さな的を狙う、ということには致命的に向いていなかった。


だが、それが分かっていても、マチルダには取れる手段はなかった。

彼女は盗賊だ。このような戦場において正々堂々と戦う戦士ではない。
計画を練り、相手を出し抜き、闇夜にまぎれてひっそりと宝を奪い、貴族連中をコケにする。危なくなれば、すぐに逃げ出す。それが盗賊のやり方だ。
もともとこんな本格的な、それも自分より上の実力者とガチで戦闘するなんて初めての経験なのだ。相手がこちらの殺害ではなく捕獲を試みている状態ですら、ろくに抵抗できないほどに。


ズシン、ズシンと、緩慢にしか動けない己のゴーレムにいらだってみたところで、何一つ取れる手段などありはしない。


「あ~もう、ちくしょう! こんなことをしている暇なんてないのに……」


こうして、マチルダは土属性ゆえの弱点をことごとくこの男に突かれて、徐々に追い詰められていたのだが……その流れも、そこにサイトが現れたことですぐに大きく変わることとなった。




その30へ


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プロフィール

基森

Author:基森
蚕鳴や円禍と名乗ってたこともあります。

主に小説・ssなどを置いているブログです。

自前の本棚を持つのは初めてなので手探りでやっている程度のものですが、わずかばかりの暇つぶしにでもなれば幸いです。


メールは「kulukku106☆yahoo.co.jp」まで、☆を@に変えた上でお願いいたします。

そろそろ、非営利にならトップへのリンクフリーとか言ってみたり。

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