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ドラゴンに首ったけ26

その26






斯くして、リュミスは上機嫌で向こうに帰っていったのだが……


「わたしも残ります」
「いや、だがな……」
「残ります!」
「はい……」


結局ユメはこっちの巣に来ることになってしまった。彼女にしてみれば無理もないことであったのだが、ブラッドとユメが一緒にいることをリュミスが好まないであろうという現況は変わっていない。そのため、ブラッドは必死で取り消すように言いつのったのだが、ユメは承諾しなかった。結局、さっきの引け目もあってブラッドも認めるしかなかった。
勝利に気を良くしたのか、いきなりユメがそのざらついた舌を絡めてきたせいで次の文句をいえなかったからというのもあるが。

とはいえ、ユメがこちらに来ることは悪いことばかりではなかった。



「よろしくお願いしますね」
「おう、こちらこそ」


ユメの加入を誰よりも喜んだのは、ほかならぬマルトーだった。誰も口には出さないものの、どうやら主の愛人と思われる者を厨房に入れると聞いた当初は、いっそう竜に対する悪感情が膨らんだりもしたのではあるが、ユメの作った(マルトーからすれば)異国風の料理を一口口にした瞬間今までの憂鬱すら吹き飛ばして大喜びだった。今までも文献などはメイドたちに取り寄せて読み聞かせてもらっていたのではあるが、今度は実際にそれを作れるものが来たのだ。
人でもエルフでもない、トリステインではあまり見かけることのない獣人という存在に最初は戸惑ったものの、新しい技術とレシピの存在の前にそんな偏見は吹っ飛んですぐに順応した。
近頃やつれていた頬もふっくらとしてきて、一人安全地帯にいるという良心の呵責から鈍っていた腕前も、もとの輝きを取り戻した。
このとき初めて、マルトーは「竜とその従者」という存在を―――それは一時的なものかもしれないが―――受け入れたのだ。


料理の質は上がった。




「こっちはどうですか?」
「ちょ、ちょっと派手じゃないかな?」
「いいえ。このぐらいの方がお似合いですよ」


次に喜んだのが、テファだった。年頃は大体同じ(竜族、魔族の感性からすれば、の話だが)。半獣人とハーフエルフ、お互い人間に嫌われている種族の中においてさえ孤立していた二人は、あっという間に仲良くなった。炊事洗濯裁縫掃除と家事が得意という点でも一致していたため、話も合う。
ブラッドやクー、メイドたちやフェイとの会話によって以前の寂しさからは完全に解放されていたテファだったが、それが一層加速した。このことを受けて、この虚無の使い手のハーフエルフはさらに竜という存在に傾倒していくこととなった。


ハーフエルフの少女も喜んだ。




ほかにも、優秀な剣の使い手と手合わせできる機会が増えたことでフェイも喜んだし、優しい姉ちゃんとお菓子が出る機会が一人分増えたことでテファの連れてきた子供たちも喜んだ。
主の優秀な護衛とリュミスに対する切り札を手に入れたことをこっそりとクーも喜び、口には出せないもののまあごにょごにょのバリエーションが増えたことで結局はブラッドも喜ぶこととなった。

竜族の天敵である筈の竜殺しが一人巣に増えたとしても、今日も竜の巣は平和だった。






一方その頃、現時点でのブラッドの敵対者ルイズの最大の協力者であるサイトは、暇をもてあましていた。主であるルイズが竜やガンダールヴに対する調べ物に一生懸命すぎて、なんだか邪魔できない雰囲気をかもし出していたからだった。
そのため、厨房によってきた後でも部屋の中にずっとは留まらず、その辺をうろうろしながらデルフと話していた。


「な~んか、ギーシュの態度変じゃなかったか、デルフ?」
『……まあな。俺はそんなにあいつのこと知ってるわけじゃねえけど』


如何にサイトであったとしても、流石に決闘の後にあんな態度をとられては、何かがおかしい、ということには気付いていた。本来であればあそこで戦い終わった後に以前のように親睦を深めようと思っていたのであるが、どう考えてもそんな雰囲気ではないため早々に撤退したほどだ。
サイトからしてみれば、未だにその「竜のブラッド」という存在がいまいちよく分からない。そのため、自らの知るルイズやギーシュが、全くもってその性質を変えているということがどうも実感としてないのだ。分岐により異なっているとはいえ、ギーシュと決闘すれば以前同様の関係を結べると思っていたのに、何故こうなるのだろう、とデルフに溢す。

デルフは、その長年の剣生によって、サイトよりかは現状を把握していた。しかし、求められないことに対する助言を行うことは、「相棒」ではあるにせよ、人ではない無機物の自分の行うことではない、サイトが自ら気付くべきことであると言葉を濁らせる。


故にサイトは気付かない。気付けない。
己と異なるものが召喚されてしまったことによって、この世界がどれほどまで変わってしまっているのか。
己の知る人物が、以前と同じように自らに接してくれることは二度とない、ということを。
今の時点でルイズをかつての彼女と同一視できなかった以上、このままでは二度と「ルイズ」に会えない、ということを。


簡易的なものであるとはいえ、この学園でもわらではなくベッドを与えられており、食事も干からびたパンに野菜クズのスープなどといったものではなく、生徒たちの食事と同等とまでは言わないまでもそれとまかない食との間ぐらいのものが与えられている。かといって、それに値する労働やそれに類する行為―――服や下着を洗えと命じられることもないと、以前の境遇とは比べ物にならないほどの好待遇が与えられているサイトであったが、はっきりとはわからないもののなんともいえない居心地の悪さを感じていたのはまぎれもない事実である。
廊下ですれ違う誰もが、初めは誰だこいつ、といった表情を浮かべているここは、知らぬ間に望郷感を募らせる。決して環境だけが著しく向上した、居心地のいい場所ではなかった。

では、新たにまたちがう者と親交を深めれば良いではないか、とも思ったものの、ルイズが調べ者に夢中で授業をことごとくサボっている以上、自分ひとりで教室に行くわけにも行かない。じゃあ、タバサやキュルケは、というとタバサの里帰りにキュルケまでくっついて、ガリアの方へといっているらしい。
ギーシュとの練習試合の後に向かった厨房でも、マルトーやシエスタすら、ここではもう学園を辞めているということを聞いたことを思い出したサイトは、つくづくここはいわゆるパラレルワールドなんだなあと痛感していた。
それがどれほどまで己にとっては良くないことか、ということに気付くには、まだまだ時間がかかりそうである。


そんなサイトがやることもなくぶらぶらと校舎内をうろついていると、その目になにやら丸っこい影が入ってきた。暇なことに加えて、なんとなくその影に見覚えがあったサイトはその影に近づき、ようやくそれが何かと気付いた時点で声をかけた。
結局のところ、二十歳にもならぬ少年であるサイトは、ルイズにも誰にもかまってもらえない環境が寂しかったのである。


「よう、マリコルヌ。何やってんだよ?」
「……君は誰だ? 僕なんて放って置いてくれよ」


……そこにはふくよかな体格をお持ちの生徒、マリコルヌ・ド・グランドプレがいた。いたのだが、サイトの知っているそのふくよかなる肢体を持つもの特有のある種の明るさは鳴りを潜めており、むしろ影すら背負っていっそう陰気な表情をしていた。


「俺はルイズの使い魔のサイトだよ。ほっとけって、一体どうしたって言うんだ?」
「ああ、あのルイズのか。……ふふふ、君にいっても仕方がないが、僕はキモくて根暗なモグラなんだ。いや、僕なんかと一緒にしたらギーシュに悪いかな、ふふふふふ」


どこまでもネガティブな台詞をつぶやきながら大地に木の枝でのの字を書き続けるマリコルヌ。その自分の知るムッツリ助平ながらそれなりに日々楽しく生きていたように見えていた姿からは正反対のその違いにちょっとビビるサイトであったが、もしマリコルヌがいじめを受けているのだとすれば、現代人的倫理観と分不相応なほどの正義感を併せ持つ彼にとっては許せるものではなかった。


「よくわかんねえけど、元気だせよ。一体お前、何したんだ?」
「ふ、平民が貴族の僕に聞いてくれるか……そうだな、少しでも多くの人に僕の罪を知らしめるべきだな。僕は、とんでもないことをしてしまったんだ」
「だから何だよ」
「僕は、己の浅はかさのために皆も気付いていなかったながら、存分に感受していた幸せを、失わしめたんだ」
「……具体的には?」


ずいぶん悔やんでいる様子のマリコルヌに、一応の慎重さを加えてサイトが問いかける。
さすがの空気読めない彼も、ギーシュとの件で反省することはあったらしく、いきなり彼に止めを刺すようなことは言わなかった。


「毎日のうまい食事と独り者の男子生徒皆の心の支えだったおっぱいメイドを追い出したんだ」
「何っ!」


マルトーとシエスタが学園を出て行く羽目になったのは、ギーシュが香水を落とし、それを拾ったシエスタに怒鳴りつけたなどということによるものではなく、マリコルヌのせいであった。そのため、先程の反省はどこに行ったのやら、お前がやったのかよ、とサイトは瞬時にマリコルヌに対して厳しい目を向けた。いや、まあ口に出していないだけ進歩なのかもしれないが。

その視線から逃れるかのように、マリコルヌはやはり君も責めるのかといっそううつむき、それでも語るのをやめて逃げはせずに、ぼそぼそと続きを語った。
マリコルヌ自身も期待をせずに語った内容だったが、それを聞いたとたんサイトの目から非難の色が消えることとなった。


「ふふふふふ、ああ、そうだ。僕は最低だ。おっぱいに目を奪われるなんて、愚かなことだったんだ」


だが、そこまで行った時点でマリコルヌはそれ以上の言葉を紡げなかった。サイトが、がしっ、とマリコルヌの肩を掴んだからだ。
かつてシエスタやキュルケのおっぱいに見とれていたことで、ルイズよりしょっちゅうお仕置きを受けていたサイトとしては、身に覚えのありすぎる雰囲気を彼から感じたからだった。
そのため、今度は怒りではなく、何か別の感情にとらわれて、マリコルヌを促した。


「もっと詳しく話してみろよ」
「あ、ああ……わかった」


それからマリコルヌの口から語られたことはまさに愚かで、責められても仕方がないことであった。が、サイトはそれを聞いた後も、他の生徒たちのようにいちいち責め立てたりはしなかった。
マリコルヌが語ったのは、以下のようなことであった。





ある日、マリコルヌが友人と談笑していた中、マリコルヌの手が滑って「たまたま」その場で紅茶を給仕中のメイド、シエスタの胸元に当たってしまったのだ。なお、マリコルヌは貴族としての名誉にかけてわざとではないと断言した。

どちらも予想外のことであったので、思わず固まってしまう二人。周囲にも瞬時に無言が広がった。衆人環視の中、固まり続ける二人。
当初の驚きがようやく抜けて、脳に血が回ってきたマリコルヌは瞬時に謝るべきだ、と思った。即座に手をのけて謝罪すれば、良くあることとまでは言わないまでも、まあ事故ですんだ筈だ。

だが、それは出来なかった。
外見ゆえにまったくもってモテないマリコルヌは、おっぱいに触ったことなど記憶のかなたに眠っているような気がしないでもない乳母のものが最後のものである。というか、そんな一歳にも満たない頃の記憶などどう考えても覚えていない筈なので、それすら捏造である可能性のほうが高い。
ブラというものが存在しないハルケギニアにおいて薄布越しに伝わってきた、そのやわらかさと暖かさと偉大さに、マリコルヌは全身を貼り付けられたかのように動けなくなっていたのだ。

……いや、一箇所だけ動いた場所があった。
彼の手である。
こともあろうかマリコルヌの手は、持ち主の意に反して―――ひょっとすると奥底に眠る本心に忠実に従っただけかもしれないが―――触れるだけでは飽き足らず、みんなの視線が集まる中、シエスタの胸を握り締めたのだ。それが二度、三度と繰り返される。


「お前、何羨まし……じゃなかった、馬鹿なことをしているんだ!」
「そうだ、貴族の誇りというものはないのか!!」


……後のことは容易に想像できよう。その行為を引き金として、ザ・ワールドが解け、一瞬のうちに時が、周囲が動き出す。シエスタはあまりのショックに泣き出し、マリコルヌは周囲の男子からのねたみ混じりに力づくで引き剥がされた。

無論、つまみ出された後は愚か、握り締める前からこれはまずいということは、ほかならぬマリコルヌ本人にも十分わかっていた。まずいなんてもんじゃない、ということが。

だが、その外見ゆえまず第一印象として異性に嫌悪されるマリコルヌは当然ながら女性と会話したことなどほとんどない。数少ない記憶を思い起こしても、ぶつぶつと口の中で呟くのが精一杯で、目すら見られなかった。当然、女子に対する謝り方など知る由もなく、まったくもってわからない。
普段ですらそうなのだから、このような状態では焦りが更なる動揺を生み、謝ろう、謝らなくては、という思いばかりが空回りして、言葉が口から出なかっただけだったのだ。

だが、そんなことが言い訳になるはずもなく、騒ぎはさらに大きくなってきた。
そのことが、更なる悲劇を生み出す。
シエスタに対して白昼堂々と行われた大胆不敵な暴挙に対して、怒り心頭な男が談話室に怒鳴り込んできたのだ。


「この、うちのシエスタに何しやがってんだ!」


マルトーである。
シエスタやメイドたちのことを自らの娘同然のように可愛がっていたこともあって、その怒りは尋常なものではなかった。

マリコルヌは彼のことが好きだった。自分は貴族であり、相手は生粋の平民であるということを理解していながらも、ある意味尊敬さえしていた。マリコルヌは学園でも数少ない、食事を心底から楽しみ、味わい、喜んでいた生徒だったのだから。その食に対する熱心さはタバサに勝るとも劣らないものであった。


「う……あ…」
「何とか言ってみろよ、このっ!」


それでも、言うべきことがわかっていながら具体的な言葉を思いつけない舌は、散々世話になっていたマルトーを前にしてすら持ち主の思いに従ってはくれなかった。
何もいえずに立ちすくむしかなったマリコルヌを見て、マルトーの興奮はさらに高まった。言葉がさらに荒くなる。


「おい、コック。いくらなんでも無礼だぞ!」
「そうよそうよ」
「うるせえよっ! 貴族だろうと、平民だろうと、今回の件は明らかにそっちが悪いんだろうが!」


だが、平民が貴族に詰め寄る、という構図に対して好感情を持つものはその場には少なかった。そのため、マリコルヌを援護するつもりではないものの、マルトーをたしなめる言葉が徐々に生徒たちの中から出てくる。それは、未だ涙を流し続けるシエスタにも飛び火した。
そうは言われても止めようのない涙を受けて、いっそうマルトーの目じりがつりあがり、貴族としての声も大きくなる。

その中でマリコルヌは、何も出来ずに立ち尽くしていた。


「親の脛かじってる貴族風情が、えらそうなこと言うんじゃねえ!」


そして終には、決定的なきっかけとなる一言が飛び出した……マルトーが今まで感じていた、貴族に対する不満である。本格的に貴族に対して喧嘩を売るその言葉に、騒ぎを聞きつけて影から集まってきていた料理人やメイド、下働きの下男などの中でも血の気の多い者たちもその勢いに乗せられたのか同調し、今までたまりにたまっていた平民側の不満が一気に生徒たちにぶつけられる。彼らには、平民が貴族をやっつけるなどという英雄譚を目の当たりにすることも出来ずに、どうしようもない不満がたまっていたのだ。その不満が、ほんの一瞬だけメイジに対する恐怖を忘れさせた。

そして、平民による反乱というこの世界ではまだまだ起こりえないような事実を受けて、魔法という超常の力をもつわりにはいまだ未熟な精神しか持たない生徒たちが暴発したのも、必然の結果であろう。



結果として生じたのは数名の負傷者と………マルトーとシエスタの退職だった。

そして、誰が悪かったわけでもない、誰もが悪かったその事件が終わったあと、その事件の引き金を引いたマリコルヌに向けられたのは、平民、貴族を問わない冷たい目であった。







あれからいっそう友人も離れ、誰からも冷たい目を向けられ続けていたマリコルヌは、こうしてようやく自分の話を聞いてくれるものが現れたと勢い込んでサイトに言い募った。
だが、口に出してみるに連れて改めて自らの罪深さに気付いたように、うなだれる。そんなマリコルヌに、サイトは声をかける。


「マリコルヌ、お前……」


その呟きを受けて、ようやく正面から断罪させることにびくりと震え、それでもそれを望む気持ちでサイトの次なる声を待つマリコルヌ。だが、彼に降りてきたのは断罪の鞭などではなく、許しの言葉だった。


「気持ちは、よ~~くわかる!!」
「何だって!!」


まあ、シエスタの胸を遠慮なく揉んだことはさておき、その後の展開は彼自身が悪いというより魔法を初めに撃った生徒が一番悪いのだから、ここまでやられるいわれはないのは確かなのだが、誰もそんなことは言ってくれなかった。
その思いもかけぬ言葉に驚愕をあらわにするマリコルヌ。
が、そんな彼を差し置いて、サイトはひたすら己の道を邁進し続けた。


「ああ、あのおっぱいの前で魔がさすってのは、男なら誰もがあることだよな!」
「……いや、それ何か僕が悩んでいるのとは方向が違うぞ?」
「それなのにあいつらはちょっと目が行っただけで……」
「おい、こっちは真剣なんだぞ!」


……勝手な方向を向いていきなり世の中への不満をぶちまけ始めるサイトに対して入った、マリコルヌの突っ込みも当然のものである。
が、サイトは譲らない。よっぽどマリコルヌの立場に自分なりに同情しているのか、いきなり逆切れした。というか、こっちに召喚されてから、空気読めないで一人のんきに生きていたように見えていてもやはりストレスがたまっていたらしい。いつもならば胸の内で収めているはずのよこしまな思考が外部に向かって駄々漏れ状態になっていた。
まるで嫌なクスリでも決めているかのごとき勢いで目の幅の涙を流しながら、マリコルヌに詰め寄ってきたのだ。


「じゃあお前はあのシエスタの胸を揉めてラッキーとか思わなかったのかよ!」
「う……そ、それは」
「まったく、完全に、これっぽっちも幸せを感じなかったのか、お前は!!」


確かに、そこまで言えば嘘になる。あのとき謝らなければ、と思っていたのと同じぐらい、マリコルヌが幸福を感じていたのは事実だ。思春期という名の発情期真っ最中の少年としては仕方がないことであろう。
が、マリコルヌはそこを肯定してほしいわけではなかった。

しかしサイトは止まらない。


「そうだろ! お前のやったことは正義だ!! ジーク・おっぱい、ハイル・おっぱい!!」
「………」
『おい、相棒。さすがにそれはねえんじゃねえか……』
「おっぱい、おっぱい、おっぱい、おっぱい!」


シエスタと聞いて、いつかのセーラー服(下着なしver.)を思い出したのか、明らかに異常なテンションで一人わめき続けるサイトの前で、マリコルヌは圧倒された。
確かに、マリコルヌのやったことはここまで責められることではないのかもしれないが、どう考えても正義ではない。明らかに思考と発言が脳を通っておらず、下半身の一部を経由しているようである。そのためデルフも思わず口を出してしまったが、それすらサイトは意に介さない。
というか、ブラッドのせいでシリアスが蔓延しているこの世界において、サイト一人だけが生きている空気が違う。きっと彼は、この世界のティファニアに一番最初に召喚されれば幸せに暮らせたであろう。

だがそれは、テンションに任せた妙なものではあっても、誰かを巻き込むような勢いだけはあった。
そのためサイトの言葉は、絶望状態で真っ白だったマリコルヌの心にあっという間に伝播し、染め上げた。


『………』
「そ、そうか! 僕は、間違っていなかったのか!」
「この馬鹿もんがぁ!!」


その結果として、サイトのテンションにつられてマリコルヌもなんだか自分が正しく、世の中が間違っているかのごとき妄想にとらわれ始めた。
が、サイトはそれを許さず、マリコルヌが妙な方向に開眼しそうになると殴って修正する。自分で言っておきながら、その態度はどうなんだ、というデルフの心の声も届かなかった。
こうしてまるで酒に酔っているかのような論理立っていない、実にいやな感じのテンションでサイトはマリコルヌに説教を始めた。


「この馬鹿! お前がすべきなのは自己肯定ではなく、まずはシエスタへの謝罪だろ! (揉ませてくれてありがとうございました+)ごめんなさい。これがいえなかった時点で、今のお前は間違ってなかったけど、間違っているんだよ!!」
「!!」
「だから人に迷惑をかけることになったんじゃないのかーーー!!」


……まったくもって訳のわからない理屈であるが、それを受けたマリコルヌも何か感銘を受けることでもあったのか、サイトと同じ幅の涙をこぼし始める。
今この場においてルイズは悩み、ギーシュは敗北に打ちひしがれていることを思うとどう考えても異常としか言いようのない二人だったが、当人たちはそれなりに納得していたようである。


「確かにそうだ……僕が間違っていた、サイト。教えてくれてありがとう!!」
「そうだ、わかったか!」
「ああ、ありがとう、友よ!」
『(そうだよな、相棒も結構な心の傷を負ってんだ。少しぐらいは……はぁ、あっちの娘っ子がこの姿を見たらきっと泣くな………いや、殴るか)』


……………
ああ、もうなんだか面倒になってきたので結論だけ述べる。
こうしてサイトはこちらの世界では、ギーシュではなくマリコルヌと親交を深めることとなった。

ブラッドの影響は、妙なところでも出ていた。





「………え?」
「だから、悪いけど俺、マリコルヌについていくことにするんだ」


厨房に行くといっておきながら、なぜか自分のクラスメートのマリコルヌを連れて来た挙句に、なぜかいきなり主人から離れる、と言い出した己の使い魔に、ルイズは間抜けな返事を返すことしか出来なかった。ある意味己の付属品であるはずの使い魔にいきなり自分の下をしばらく離れる、などといわれたメイジの反応としては、まあまっとうなものであろうが。


「……わたしも行きたい場所があるから、その用事に付いてきてくれた後ならかまわないわ」


が、ルイズはため息一つ吐いて、条件を一つつけただけでそれを承諾した。使い魔の離脱を恐れるがあまりの言葉であるが、聞き様によっては自分の目の届くところに最愛の使い魔をおいておきたいメイジ、もしくは一刻たりとも恋人から目を離したくない少女のような台詞に、一も二もなくサイトは賛同した。
かつてのルイズであれば理由も聞かずに却下されたであろうにもかかわらず、きちんと自分のことを認めてくれているようにも聞こえるその言葉に、だんだんとサイトはあちらのルイズも大切であるが、こっちのルイズに対しても同じ「ルイズ」というだけではない好感を持ち始めていた。



ピキーン 

ブラッド のステータスが更新されました。
獣人の村の少女 ユメ=サイオン が加入しました。

トリステイン王国 のステータスが更新されました。
太っちょメイジ 風上のマリコルヌ が ルイズ パーティ に加入しました。




その27へ

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誤字報告

以上としか言いようのない二人だったが、
→異常としか言いようのない二人だったが、
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プロフィール

基森

Author:基森
蚕鳴や円禍と名乗ってたこともあります。

主に小説・ssなどを置いているブログです。

自前の本棚を持つのは初めてなので手探りでやっている程度のものですが、わずかばかりの暇つぶしにでもなれば幸いです。


メールは「kulukku106☆yahoo.co.jp」まで、☆を@に変えた上でお願いいたします。

そろそろ、非営利にならトップへのリンクフリーとか言ってみたり。

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