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ドラゴンに首ったけ25

その25









「……なるほどのう、事情はわかった」


ルイズの発言を黙って聞いていたオスマンとコルベールは、その言葉が終わるとしばらく黙って考え込み、やがて一つの結論を彼女たちに告げた。
突如彼女が現れたときは、それなりに驚いたが、彼女が願ったのが単なる休学の撤回と進級試験のやり直しというごくごくありふれた―――彼女が引き起こしたことを考えると少々ありふれすぎた―――ものだったからこちらも気負うことなく返答できた。


「ディテクトマジックをかけても単なる人間にして使い魔、という反応しか出ないとはいえ、使い魔は使い魔。学園長の名を持って、ミス・ヴァリエールの進学を許可しよう」
「ルーンも見慣れない形ながらどうやらきちんと作動しているようですしね」
「ありがとうございます」


いろいろと寄り道することにはなったが、まずこちらに来た目的の一つは達成できたと安堵の息を吐きながらも春の使い魔の儀式から大幅に遅れても進学を許可してくれた学園長に礼を言うルイズ。ここが使えなければ大幅に調べものに時間をとることになったであろうからだ。
その喜びの表情をほほえましげに見守って、オスマンはやさしくルイズに告げた。いろいろ含むところはあっても、それを押し殺せてこその魔法学園校長である。甘いだけではやっていけないが、同時に厳しすぎてもそれはまた意味を持たない。


「なんのなんの。風当たりはきついかもしれんが、頑張りなさい」
「わたしも出来る限りの協力を約束しましょう。使い魔君、ミス・ヴァリエールのことをよろしく頼むよ」
「ああ、まかせとけって!」


そのオスマンの台詞にコルベールも追従し、それに加えてサイトに対しても優しい声をかける。こちらの世界では初対面ながら、かつての世界で多大な世話になり、その人柄と能力を尊敬していたコルベールと再び面識が出来たことにサイトは喜びながら、気張った返事を返す。
そんな二人に最後まで励ましの言葉を掛けながら、彼らは二人の退室を許可した。




その二人が退室していくのを慈愛の眼差しで見守っていたオスマンだったが、彼らが完全に部屋を出てしまい、扉が閉じられるのを確認すると不意にため息を一つ吐いた。
眉根は寄せられ、先ほどルイズたちの前では見せなかった厳しい顔である。
ため息の後に放たれた言葉は……


「……ミス・ロングビルがいないとつまらんのう」
「まさか……学園長! あなたという人は生徒にまで!!」


いつもと大して変わらないものだった。
その台詞に何かを感じたのか、コルベールが反射的にオスマンを怒鳴りつける。竜対策の息抜きをかねているとはいえ、ミス・ロングビルの気を引くためにわざわざ秘書役を買って出たことに責任感を覚えているのか、そのまじめな態度にオスマンの顔がなおさら曇る。
美女ならさておき、こんな頭頂部の禿げ上がったおっさんに怒鳴りつけられても嬉しくもなんともない、という表情をしながら、なだめるようにふざけた答えを返す。先ほどまで床にいて視界の共有をしていた、テーブルの上に上がってきた使い魔のモートソグニルにナッツを与えながら。


「チラッと見ただけじゃ。いまいち面白みのない下着をしておったのですぐに見るのをやめたわい」
「そういう問題ではありません!」


……これでも歴戦の魔法使い二人の筈なのだが、どう見ても中小企業の社員同士にしか見えない状況の二人は、未だルイズの真価にも、その使い魔の真の力にも気付いていなかった。
だから、あの竜対策に躍起になっている二人にとって、ミス・ヴァリエールの復帰も、その使い魔が前代未聞の人間である、という事実もそれほどの重みを生じさせるものではなかった。はっきり言ってしまえば、いまさらルイズが復帰しようがしまいがどうでもいいことだったから、ここまで軽いのである。

最後まで、ルイズとサイトは虚無について二人に告げなかったのだから。






「なあ、ルイズ、俺ちょっと厨房行ってきていいか?」
「あら、おなかでも空いたの? わたしたちの食事はまだまだだけど、食事を出してもらうというのだったらお茶ぐらいなら付き合うわよ?」


二人で部屋に戻って文献をあさろうと思って自室に向かっていたルイズとサイトだったが、唐突にサイトが希望を述べたことによってそのルイズの立てていた予定は崩れた。
この使い魔が本当にガンダールヴらしいと目の前で証明されたことで、本当であれば一刻でも早くそれ関連の調べ物をしたいルイズだったが、サイトの機嫌を損なうわけには行かない以上、その言葉に異を唱えられる筈もなかった。
そうである以上、できる限りの親睦は深めておきたい。

サイトという使い魔のことを理解し、自分という主の存在を理解してもらう。それこそが、何よりも強い従属の鎖なのだから。


「いや、そうじゃなくて……ちょっと人にあってきたいだけだから、ルイズは先に帰っておいてくれよ」
「あら、そう? じゃあ、またあとでね」
「おうよ、ありがと! じゃあな」


だが、そんなルイズの気遣いになぜかサイトは気まずそうに答えて、同行を断った。
しかし、サイトの不審な行動に違和感を受けても、今の立場的にルイズはなにもいえない。そのため、この使い魔がまたギーシュのときのように馬鹿をやるのではないか、という恐れを持っていながらも、それを押し隠してその行動を容認した。


「……ふう、大丈夫かしら? また何か面倒を起こさなければいいけど」


サイトが礼を言って厨房に向かっていくのを不安げに見つめていたルイズだったが、ここで突っ立っていても始まらない、と自分もきびすを返して自室へと戻っていった。
サイトに敗れたギーシュのことを心配しながら。
ブラッドとサイト。己が呼び出した使い魔二人に、完膚なきまでその精神を痛めつけられた、錬鉄の少年を。


ぶっちゃけ、シエスタと会ってきたいだけのサイトとギーシュへの影響やら自分の今の現状やらいろいろ考えているルイズとの危機感には雲泥の差があった。





そんなルイズとサイトが分かれた数刻前、ルイズとモンモランシーが見守る中で、戦いは一方的な展開を見せていた。。


「ひとぉつ! ふたぁつ!」
「くっ!」


サイトが声を掛けて背にしょっていた剣を一閃させると、そのワルキューレよりもつくりの甘いゴーレムはあっさりと頭頂部から真っ二つに切り裂かれ、あるいは真一文字に横に両断された。多少時間差をつけて放った成人男子をらくらく吹き飛ばせるパワーを持つ青銅製ゴーレムがあっさりと返り討ちにされたことに、ギーシュは相手が単なる平民ではないと認識を新たにする。

が、ある意味これは予想通りの展開だ。

一体一体に振り分ける精神力を減らすことで数を増やしたこのゴーレムは、使い捨てをより容易にしたことがワルキューレとの一番の違いだ。二体で相手の力量をわずかなりとも測れたことは僥倖といえよう。
そう思って、今度は同時に三体のゴーレムを掛からせる。

ギーシュは武の名門、グラモン家の息子だ。たとえお調子者で派手好きであっても、幼いころから戦闘に対する英才教育を施されているといっても過言ではない。今まで実践の機会が少なかったため、それはあくまで机上の空論でしかなかったが、それでも額に植えつけられた熱と兄への思いのため、対人戦の基本である一対多を忠実に実現し、自らが完璧に制御でき、かつ同時に攻撃できる限界数で攻撃を行った。

だが。


「みっつ!」
「っ!!」


炎で防ぐとか、風で吹き飛ばすなどの魔法で防ぐならばさておき、その体一つで回避するとなるとヴァリエール公爵が得意とするとされる身体強化のスクウェアスペルでも使わなければ人間の身体能力的には不可能なその攻撃を、信じられないことに相手は両足で地面をけって後ろに距離をとることでたやすく回避して見せた。
しかも、下がり際に一体に対して剣戟を放つという離れ業まで見せて。
また一つ崩れ落ちたゴーレムをみて、己の背筋に冷たい汗が走るのをギーシュは自身で知覚した。


なるほど、いうだけのことはある、とギーシュは思った。

噂に聞くあの竜ほどではないにせよ、あれほどの身体能力を持ち、これほどまでの剣技を身に着けているのであれば、自身がメイジと対等である、メイジなんぞ何するものぞと平民であってもあのようにうぬぼれるのも無理はない、と。

少なくとも、能力的なものではこの平民と貴族である自分がほぼ対等であると認めることが出来ないほど、ギーシュは狭量な男ではなかった。
だが、だからといってやすやすとこんな相手の踏み台になってやるつもりなども、平民とは貴族によって守られるべきか弱い存在だ、と思っているギーシュにはなかった。


何より今のギーシュは血に飢えている。怒りに燃えている。嘆きのやり場を探している。
こんな単なる平民ごときを倒せないで、どうしてあの竜を倒せるだろうかということで。

そのため、ギーシュはこの時点では完全に、「いや、倒すなど生ぬるい。殺す、殺すのだ」と心底思っていた。
初対面の平民の男など魔法を使ってボコボコにしても良心が痛まない程度にはギーシュは貴族をしているし、ましてやこの少年によって与えられた熱はそうでもしないことには収まりそうになかったのだ。


残りの手数は3。さらに精製できる数がのこり4体。奇しくもワルキューレと同じだけのゴーレムを操ることを可能としたギーシュは、新たに「仕掛け」を施した二体のゴーレムをを生み出した。
これもここ数日で身に着けた技能だ。なりふりかまわぬ精神状態は、ギーシュの戦闘者としての能力を著しく上昇させており……その対価に彼と共にいつもあった貴族として、貴婦人を楽しませる薔薇としての余裕を奪い去っていた。

再び突撃させた最初から呼び出してあったゴーレムはあっさりと回避され、護衛として呼び出してあった先の二体だけとなったギーシュにサイトは肉薄する。
この間合いでは新たにギーシュがゴーレムを呼び出したり、はるか後方から必死で追いすがるゴーレムたちの間合いが自分を捕らえたりするよりも、自分がゴーレム二つを破壊してギーシュの咽喉元にデルフを突きつける方が早い。そう判断したサイトはそろそろこの戦いを終わらせるため、二体まとめて破壊するためにデルフを横一文字に振るった。



その行動にひそかに笑うギーシュの口元に気付くことなく、一直線に放たれたデルフは、火花を散らしながら青銅製のそのゴーレムたちの外皮をあっさりと切り裂き…………内部にたっぷりと閉じ込めてあった油を、その剣に纏った火花で引火させた。


『ぎゃー!! 俺、燃えてるよ、相棒』
「あちぃ! 何だよこのゴーレム!!」


勢いつけて振るわれた剣はギーシュがゴーレムを錬金すると同時に精製してその内部に閉じ込めていた油を撒き散らし、一部は引火した炎の形で撒き散らし、一部はそのまま油の形で空中に攪拌して飛び散らせた。雫状にサイトのいたあたり一帯に飛び散る油によって生み出された炎の雨は、それほど広いものではないもののある程度の範囲を持って大地に燃え広がった。
距離をとり、錬金の応用で青銅の傘のようなもので全身を覆っていたギーシュはさておき、それを生み出した中心点にいたサイトとデルフにそれを避ける術はなく、火の粉程度のものであるとはいえ降り注ぐ炎の雨と、小規模な範囲とはいえ大地に広がった油による燃える大地の間で踊り狂う。
ワンアクションで青銅を何百キロも精製できるほどに錬金が得意であるとはいえ、いくらなんでも火の秘薬である火薬を錬金で作り出せるほどの技量を持たないギーシュが仕込んだ引火性の高い油は、彼の望みどおりの効果を生み出した。

ワンモーションでワルキューレのような精緻なゴーレムを作り出し、それを維持したままで別に剣を作るなどとさらに錬金も行えることこそが彼の真価。
その己の特性を使って自分の錬金したゴーレムの中にさらに油を錬金するという、ここ数日で思いついたギーシュの切り札だった。


無論、平民相手に余裕も捨て去り新必殺技を出すほどまで相手を認めていたギーシュは、これでサイトを―――「ルイズの使い魔」を倒せるなどとは思ってはいない。
これはあくまで目くらましだ。


そう、このような炎など、万の兵を乗り越えてきたサイトにとって本来たいしたものではないのだが、彼はこれを未だに試合だと思い込んでいる。いまいち真剣みがないため多少火傷してもとギーシュのもとに突っ込むよりも炎を避けることに必死になった。
そもそも、相手が所詮ギーシュだ、という驕りもあった。


それこそが、ギーシュの狙いでもあった。


「喰らえ!」


炎を避けることに必死になり、ゴーレムへの注意が多少おろそかになったと見て取れた瞬間、ギーシュは新たにゴーレムを生み出す時間も惜しんでその二体のゴーレムが生み出した炎と共に、呼び戻したゴーレム三体の金属製の拳でサイトの体を貫いた。
この瞬間、彼は確実に取った、と確信した。


「っ!!」
「あっぶね~ ……危うく当たるところだったぜ」


だが、違った。
貫いたと思ったのはサイトの影のみで、本体はその拳のわずかに横に位置して、完全にかわしきっている。

肩に担ぐように剣を持ったその男は、勢いをつけて振りかぶり、未だ油にまみれて炎の残滓に包まれている剣から熱気を弾き飛ばすかのごとき勢いで振り下ろし、三体まとめて吹き飛ばした。そんな馬鹿な、とギーシュは思ったが、剣の振り下ろし方を変えたのか今度は切り裂かれるようなことはなかったそれらが、大きくへこまされた上で大地に叩きつけられており、もはやギーシュが操作可能なゴーレムとはならないことは、遠目からでも確認できる。
先ほどまでのように斬らないのは、再びトラップが仕掛けられている可能性を嫌ったのだろう、と自らの錬金で作った炎の壁に守られながらもギーシュは必殺の筈の一撃をかわされたショックでぼんやりと考える。
その隙にも、サイトの動きは止まらない。


「てりゃあ!」


デルフをいったん背から外した鞘に収める。腰溜めにかまえたその状態から、見様見真似で周囲一帯に居合いを行う。
ガンダールヴのルーンにより、達人の技量にすら勝る能力を持っているサイトは、日本刀のような形状をまったくしていないデルフで完全にそれを行い、本来剣では起こりえない現象である剣圧による暴風を生み出すことに成功した。メイジと見まごうかのごとき威力で放たれた暴風は、ギーシュの渾身の策で生み出された炎の大地をあっという間に吹き消した。


「よっしゃ、成功した。ああ、熱かった」
『やるね~、相棒』


一振りで自らの仕込みに仕込んだ仕掛けの成果である炎の壁を吹き飛ばされて、ギーシュは目を見開いた。

おかしい、変だ、何故、平民がこれほどまで強い……何故こいつら……「ルイズ」の使い魔はどいつもこいつもこんな力を持っているのだ!!


「ワ、ワルキューレ!!」


追い詰められたギーシュが最後に頼ったもの。
それはここ数日の成果である量産型ゴーレム二体ではなく、使い慣れたワルキューレ一体だった。
剣道三倍段の通りに剣に対抗するにはと今までの素手のゴーレムとは異なり、反射的に槍を持って作られたワルキューレは、ギーシュの制御にしたがって青銅製の体とは思えぬすべらかな動きでサイトに向かって攻撃を繰り出した。

そしてそれと同時に………ギーシュ=ド=グラモンの最後の刃が、その瞬間にサイトの思いも寄らぬ場所から襲い掛かった。


ぼこっ

そんな効果音と共に、サイトの足が突如地面に開いた大穴にとらわれる。その瞬間を逃さず、ワルキューレの槍がサイトに迫る。ギーシュ自体も、あわてたため密度が低いものではあるものの手元に錬金した槍をサイトに向かって投げつけた。

無論、サイトはその程度では止まらない。むしろデルフでワルキューレの槍を受けて、その勢いをそのまま利用してギーシュの放った槍をかわすと同時に反動をつけて、落とし穴から脱出する。だが、その着地地点にもすでにギーシュの僕が待ち受けていた。
一閃、空気を、大地を切り裂く爪の一撃がサイトに迫った。慌ててサイトに回避行動をとらさせしめたそれは、わずかながらにではあるがサイトの足に傷を負わせることに成功した。


「痛って!」
『……』
「ヴェルダンデ!!」


サイトが攻撃に耐えかね悲鳴を上げ、ギーシュがその名を叫んだように、円らで愛らしい瞳をもつギーシュの使い魔、ジャイアントモールのヴェルダンデがその場には潜んでおり、その地を自在に抉り穿つ爪をもってサイトを迎え撃っていた。そのつぶらな目は、主を傷つけられた敵愾心に燃えていた。
その声に出して命じたわけではない使い魔の動きにサイトも勿論驚いたが、何よりもギーシュが驚いていた。


「僕の可愛いヴェルダンデ! 何も君が出る必要はない!!」
「……!!」


ギーシュにしても、これは予想外の事態だった。

彼自身は心底この不遜なルイズの使い魔を叩きのめしたいとは思っていても、それはあくまで己の魔法によってだった。
この件には関係ない己の使い魔を使うつもりなど、端から頭の中になかった。決闘ということで万が一でも可愛い可愛い彼の身が傷つく可能性があることを考えれば、ヴェルダンデを矢面に出すつもりなど考えもしなかったのだ。ましてや己の攻撃がことごとく無力化されていく中、これは負け戦になりつつあるのだから。
それは、あの竜に対する復讐でも同じこと。完全に自分の事情であるそれに、戦い全般に、自分の使い魔であるこの気のいいモグラを巻き込むつもりなど毛頭なかった。
ある意味、ギーシュは己の使い魔であるヴェルダンデを、恋人であるモンモランシーと同じぐらい愛していたのだから。

だが、その愛は、一方通行のものではなかった。ヴェルダンデにしてみても、ギーシュは愛すべき主だったのだ。


だからこそ、訳のわからない男にギーシュが苛められている状況においてほおっておくことなど出来なかった。
だからこそ、ギーシュにしかられたとしてもそのつぶらな瞳で、加勢がしたいのだ、と訴えかけた。


その無言で訴えかける瞳、そしてコントラクト・サーヴァントのルーンを通じて伝わって来る思いを受けて、自らもヴェルダンデの身を気を使っているのと同じぐらい、ヴェルダンデも自分のことを愛してくれているのだ、ということが分かった。
それは、ギーシュに自らのゴーレムをことごとく打ち倒され、折れそうだった心を再び立て直させることに成功した。


「ありがとう。そうだ、使い魔と主は一体なんだったね。一緒に行こう、僕の愛しいヴェルダンデ! そして、僕の思いに答えてくれ、ワルキューレ!!」
『……!』


ギーシュの杖の動きに従い、ヴェルダンデが地面を高速で移動し、ワルキューレの槍を握る力が強くなる。感情など持たぬ、単なる魔法で作られているだけの青銅の塊は、しかし、この瞬間紛れもなく大地に潜る優しい使い魔と同じくサイトに対する敵対の想いを外に示した。
主の想いに答え、ヴェルダンデは主であるギーシュの作り出したもう一人の使い魔、ワルキューレと一緒に、伝説の使い魔ガンダルーヴに「一体」で立ち向かっていった。そのヴェルダンデとワルキューレの姿は、サイト以上にまさしく『主の盾』であった。
槍を切り裂かれても何度も再構成し、何度避けられようとも幾重にも大地を穿ち、その青銅の体ですべての攻撃をその体で本体に届かぬよう防ぎ、その鋭い爪で一矢迎えようとして……女騎士は最後までギーシュの盾となるべく奮戦し、やがては他のゴーレム同様サイトの剣の前に敗れ去り、その大地を司る使い魔は限界以上の能力を発揮し続けたことで疲労に倒れた。


後に立っていたのは、すべての手札を失いヴェルダンデを庇うような位置で立ち尽くすギーシュと、もはや終わったとデルフをギーシュの前に軽く突きつけるだけで笑うサイトだけだった。
彼にとっては、必死の思いで大地を掘り返したヴェルダンデも、自らの剣の前に敗れ去ったワルキューレも、単なる模擬戦のターゲットにしか過ぎないのだから。


「ギーシュ、やっぱあのゴーレムよりワルキューレやヴェルダンデの方が手ごわかったぜ」


その上、完膚なきまでに誇りを叩き折った相手に対して、笑いかけながらそんなことを言うサイトは、相変わらず空気を読めていなかった。



ただ……ギーシュの咽喉元に突きつけられていたデルフは、ガンダールヴの力により剣の達人と同等の力を与えられている筈のサイトの手に握られているにもかかわらず、かつてとは違いその先端をわずかに揺らしていた。
サイトすら自覚していないであろうそのことに、握られている側の当人であるデルフだけが気付いていた。サイト本人はかつて相棒である自分に対して語ったギーシュ戦をなぞっているつもりでも、その体には間違いなく七万の戦いが刻まれている、ということに。
デルフリンガーだけが、気付いていた。







(ドット相手とはいえ、手加減しながらもあのギーシュ―――私と違って優秀なメイジを圧倒するあの力。確かにあの戦闘能力は伝承に残るガンダールヴの力と一致するわ)


ルイズは自室に戻ってベッドに腰掛けながら、改めてサイトとギーシュの戦いを思い返して思案を強くする。
実際、あの少年はルイズに対するアピールのつもりなのか、努めて見栄えのする戦い方をしていたように思われる。本来、あの身体能力を持ってすれば動きの遅い劣化ゴーレムなど振り切ってギーシュを倒すことも出来たのに、わざわざすべてを相手にする。あの力に加えて、系統魔法を無効化にするらしいデルフリンガーを使えば、もはやメイジキラーといってもいい能力を疑うことなど出来はしない。

が、それと同時にガンダールヴはあくまで使い魔だ。その力は主にルーンによるものであって、その本体自体があの竜のように強力なものではない。現にコントラクト=サーヴァントは普通に通じたではないか。
つまり、この少年は強大な力を持ってはいるものの他のサラマンダーやジャイアントモールと同じく、あくまで使い魔であるため裏切ることはないのではないか、ということを思いついたことはルイズの精神衛生上多大な貢献を果たした。
もっとも、全面的に信用するほど楽天的にはなれなかったが。
図書室から借りてこられた範囲での文献で、ガンダールヴのことについて調べられる範囲で調べたルイズは、その伝承での描写と先の戦いを照らし合わせてうすうす感じていたブラッドとサイトの差異をそう結論付ける。


そう考えた上で、確かに未来から来たということを除いても自分の使い魔はあたりだった、とルイズは思った。サイトは感覚の共有や秘薬の調達などは出来ないらしいが、主の護衛としては他のどんな使い魔にだって負けない。キュルケのサラマンダーやタバサの竜などと比べてすら……と、そこまで考えて、ふと思い当たった。

そういえば、オスマン老たちから聞いた話によると、タバサの竜は韻竜らしいのだ、ということを思い出す。あの憎きブラッドとかいう竜も自分は韻竜だと思っていたが、どうもそのシルフィードとかいう竜によると違うらしいということを、母から聞いている。
敵を知り己を知れば百戦危うからず、ともいう。今の己が使い魔、ガンダールヴのことはある程度推測も出来たことであるし、今度はあの竜のことを調べるか、と思ってルイズはほとんど面識のないクラスメート、雪風のタバサのもとへと向かった。


シルフィードの件で他人にいい印象を持っていなかったタバサに、よりにもよってその元凶が来たということですぐに叩き返されたが。
それでも、ルイズは胸に抱いた誇りだけを頼りに一人孤独な戦いを行い続けた。






『なあ、相棒……なんであんとき、あの坊主を叩きのめしちまわなかったんでぇ?』
「いや、別に理由なんてねえよ」
『そっか……』


そして、その主から冷たい警戒を受け続けている使い魔の少年にも、桃色の髪の少女の前で見せる表情以外にも単純でも完全無欠でもない色をその幼さの残る顔に見せることがあるのだ、ということを、相棒である一本の剣だけは知っていた。
すぐにメイドの少女のことを考えているのか急ににやけた表情をとったことも。



ピキーン
トリステイン王国 のステータスが更新されました。
ルイズ が トリステイン魔法学園 に復帰しました。


その26へ

Comment

誤字報告

いまさらルイズが復帰しようが姉妹が
→いまさらルイズが復帰しようがしまいが

それは、あの竜に対する復習でも同じこと。
→それは、あの竜に対する復讐でも同じこと。
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プロフィール

基森

Author:基森
蚕鳴や円禍と名乗ってたこともあります。

主に小説・ssなどを置いているブログです。

自前の本棚を持つのは初めてなので手探りでやっている程度のものですが、わずかばかりの暇つぶしにでもなれば幸いです。


メールは「kulukku106☆yahoo.co.jp」まで、☆を@に変えた上でお願いいたします。

そろそろ、非営利にならトップへのリンクフリーとか言ってみたり。

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