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ドラゴンに首ったけ22

その22










ノックが二回繰り返された後にがちゃ、という音を立てて扉が開いた瞬間にソファで寝っ転がっていたサイトは跳ね起きて、扉から入ってきた人間を受け入れた。


「よう、ルイズ。どうだったんだ?」


真っ青な表情で、王宮から帰ってきたルイズを自室で待ち構えていたサイトがたまりかねず尋ねるが、ルイズは一言も返せなかった。正直言って、それどころではない、という感じだったからだ。
が、とにもかくにもこの使い魔相手に無礼な態度に出て、万が一でも機嫌を損ねて離反されるわけにも行かないので、ゆっくりと呼吸を整えて、主として卑屈にならない程度の態度で質問に対する答えを返す。


「あなたの言うとおりだったわ。わたしの属性が本当に虚無かどうかはまだ呪文を唱えていないからわからないけど、少なくともわたしには始祖の祈祷書に書かれている呪文を読めたわ」


そういって、女王から授かった水のルビーと、借り受けた始祖の祈祷書をサイトに見せるルイズ。己の使い魔が述べた予言がことごとく当たっていることに、ルイズは畏怖交じりの視線をサイトに投げかける。
そこには、確かな感情が含まれていた。ルイズ自身がそれを自覚していた。


初めに思ったはずれくじを引いた、という思いがまるで嘘のようだ。当時の自分を叩きたいほどに。
単なる平民? とんでもない。たかだか一年にも満たない期間、しかも自分の周辺のみというごくごく限定された範囲であっても特定の未来を知っているというこの使い魔は、まさにドラゴンと比べても遜色ない使い魔である。
しかもその未来は、何もなかった平穏な日々を知っているのではない。ゼロである自分の魔法の使い方や、どんな魔法が使えるかなどに加えて、その数ヶ月の間で、もしあの竜が召喚されなかった場合に行われていた各国の陰謀すら知っているとなれば、その価値は計り知れない。これに比べればおまけのようなものであるにせよ、ありとあらゆる武器を使いこなすというガンダールヴによる戦闘能力の方も申し分ない。
サラマンダー? ジャイアントモール? そんなものと比べ物になるものか。


最初は自分の婚約者であるジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドが裏切り者である、老オスマンの秘書であるロングビルが実は土くれのフーケである、などという突拍子のないことを聞いて疑っていたルイズであるが、自らの長年のコンプレックスであった魔法が使えない、ということに対する明確な答えを出された今となってはその気持ちはとっくに霧散していた。
クラスメートたちの使い魔の名前から、己も知らぬアンリエッタとウェールズの関係や破壊の杖の所在や始祖の祈祷書の読み方など、通常の平民であれば知るはずもないことを聞かされ、その情報の真偽を疑えというほうが無理だろう。

おそらく本当に自分は虚無の魔法を使えるのであろう。そして、この使い魔も、真実「神の左手」。あらゆる武器を使いこなす伝説の使い魔、ガンダールヴなのだろう。
自分は願ってやまなかった、ヴァリエール家の息女としてふさわしい使い魔を手に入れたのだ。

が、そのことを知ったルイズには、喜びよりも恐れの感情の方が強かった。


「ああ、そうだろ? 多分読めた呪文は『エクスプロージョン』だろ。今までの失敗魔法とは桁違いの威力で任意で爆発を起こす魔法だ。最初の一発は今までの十何年間もの精神力の蓄積を一気に解き放つもんだから、すげえ威力になる筈だぜ」


こちらが知りたくてたまらない情報をこともなげに投げかけるその冴えない少年そのものの表情をルイズはじっと見つめる。

この使い魔に、裏切られるわけには行かない。そして、この使い魔さえうまく使いこなせれば、自分の汚名は返上できる。ひょっとすると、あの竜を倒せるかもしれない。
この少年の態度を見る限りにおいて、今はどうやら制御できているようだ、とルイズは思う。だが、いつこの使い魔があの竜のように自らの楔を振り払って自分の敵に回るかわからないというこの状態は、ルイズの精神に多大な負担をかけていた。その負担を少しでも軽くしようと、ルイズはサイトに対して別の歴史からは考えられないほど下手に出ていた。


「そうなの……いろいろ教えてくれて、ありがとう。お礼をしたいのだけど、何がいいかしら?」
「い、いや、別に特にないぜ。使い魔なんだから、これぐらい当然だろ?」
「それでも、私の気がすまないの。言って。ヴァリエールの名に懸けて、何でも便宜を図らせてもらうわ」
(お、俺に向かってありがとうって! やっぱしおらしいルイズもいいかも)


ルイズの想いにも気付かずに、基本的にそれほど深く考える方ではないサイトは、かつての自分の扱いをかんがみて、やっぱりこっちの世界もいいかも、などと考え始めていた。
こういう基本的にお馬鹿なところは、サイトとブラッドは似ているかもしれない。
そのことが、一体何に起因するか、ということは未だ誰も知らない。サイト本人や、同じ逆行者であるはずのデルフリンガーですら気付いていない。のんきに今の待遇を喜んでいた。

そして、そんなのんきに見えるサイトとは裏腹に、ルイズはかなりの危機感を覚えていた。


(考えなければならないことはどこまでも多いわ……フーケ、ワルド、デルフリンガー、アルビオン、レコンキスタ……そして、サイト。まずはしばらく考えることが必要ね。こんなこと、誰にも相談できないんだから)


ブラッドによる拉致監禁は、彼女とは別の桃色の髪の少女を知っているサイトからすれば想像もできないほどに、ルイズの精神を蝕んでいた……己の唯一無二の味方であるはずの、使い魔すら信用できないほどに。


「じゃ、じゃあそうだな……学園に行って見ないか? キュルケやタバサ、ギーシュなんかとも顔ぐらいあわせておきたいし」
「(今の時点ではこの発言の裏はない……わよね?)……わかったわ、でも、一つだけ確認しておいてほしいの。今のわたしの立場はよくないわ。だから、あなたのことを正直に言っても信じてもらえないと思うから、まだガンダールヴだとか、未来から来たってことは黙っておいてほしいの」
「わ、わかってるぜ、それは」


平行世界ということで微妙に周囲の環境は食い違っているものの、あくまで最初に竜を召喚しちゃった自分の知るルイズの過去であると思って今までとのスタンスを変えないサイトに対して、ルイズは二人目の使い魔として彼を扱う。いろいろ考えては見たものの直接対面してしまうと嬉しさが先立ってまさに「犬」のように懐いてしまうサイトと、その彼の記憶とはずいぶんずれてしまったがために変わらざるを得なかったルイズ。
二人の認識は確実にずれており、それにもかかわらず今のところは歯車がうまく噛み合っている状態で会話は回る。


「……ありがとう。あと、彼女たちもあなたにいきなり親しく話しかけられても戸惑うと思うから、出来るだけあまり近づかないでほしいの」
「(ひょ、ひょっとして焼き餅やいてんのか! なんかさっきからやさしいし!!) 勿論だ、俺はルイズ一筋だぜ!」
「……ふふ、うれしいわ」


お互い、笑顔。
しかしその中に込められた意味は致命的に食い違っていた。










トリステイン学園の庭の中でも建物が入り重なって日陰になっていて目立たない場所、そこに全長六メイルほどの巨体を窮屈そうにちぢこめている一つの影があった。
その場所にある一人のメイジが訪れ、その影に声をかけた。


「……何をしているの」
『お、おねえさま……これはその……なんでもない、なんでもないのね』


不味いところを見つかった、といわんばかりに言葉を詰まらせる己の使い魔に対して、タバサは言葉を返さずじっと見つめる。その視線に居心地の悪さを感じて、身をすくめる大きな存在は、シルフィードと呼ばれていた。現在一応トリステイン王国側として確認されている唯一の韻竜である。
全長およそ六メイルほど。ブラッドの十数分の一のサイズしか持たないその竜が、その己の数分の一の大きさしか持たない少女に怯えているように見えるその光景は、傍から見ればさぞやおかしなものだっただろう。

だが、当人たちはそれどころではなかった。

何かヘマをやらかしたときにお仕置きをするときの冷たい目ではなく、本気の心配が込められたその視線にシルフィードは大いに動揺したが、それでも、いや、だからこそ自分の敬愛するお姉様に告げる訳には行かない、と口を閉ざすその体には、無数の傷があった。
それも一つや二つではない。小さなものが多いものの全身にわたって刻まれているそれは、鬱血やかさぶただけならず今でもなお血を流し続ける真新しいものすらある。その傷跡をじっと見つめて、タバサは無言で眉を寄せる。
やがて沈黙に耐え切れなくなったシルフィードが何か言い訳の言葉をつなごうとするまさにその瞬間、絶妙なタイミングでタバサの声が重ねられた。


「……誰がやったの?」
『!! だ、誰でもないの……そ、そう、転んだだけなのね。シルフィ、ドジだから……』
「……っ!」
『お、おねえさまが心配するほどのことではないから、安心してなの。全部わたしが悪いんだから』


必死で言い募るシルフィードの様子を見て、事情を察したのだろう。タバサは何時も通りの無表情ながらもわかるものにはわかるように顔をこわばらせる。感覚の共有を普段は絶っていたとしても、このことに今まで気が付かなかったのはタバサのミスだ。それを見たシルフィードはあわててとりなすが、タバサの心は動かない。


「おねえさま、待って!」


杖を硬く握ってきびすを返したタバサを見て、あわててシルフィードが二十歳ぐらいの人間の女性の姿をとってタバサを前から抱きとめるようにして止める。そのかりそめの姿すら、今の状態では傷だらけだった……ちなみに、全裸でもあるので余計にそれが目立った。
タバサの視線でそれに気付いたシルフィードは自分の体に付いた傷から、タバサのシャツに血が移ったのを見てあわてて謝る。


「ご、ごめんなさい、おねえさま……わ、悪気はなかったの、許してなの」
「……」


ふぁさぁ


「……え?」


基本的に肉体的接触を嫌う主に抱きつき、あまつさえ衣装を汚してしまうという余計な手間までかけさせたことをあわてて詫びたシルフィードだったが、返ってきた反応は予想外のものだった。自分が敬愛してやまないおねえさまは、怒りのかけらも見せずにむしろ謝るような表情をしながら、自らのマントを脱いでシルフィードの体を覆った。
そうだ、連中に対して報復をすることなど後でも良い。いまはこの健気な使い魔を癒さなければ、そんな思いからだ。


「ごめんなさい……わたしが召喚したばっかりに」
「そ、そんなことないのね! わたしはおねえさまがわたしを召喚してくれてうれしいのね!!」


謝罪の言葉で自らが必死で隠していたことがあっさりばれてしまったと顔を青ざめさせるシルフィードだったが、次の言葉を聴いてそれすらも吹き飛ばしてあわてて感謝の言葉を並べる。
姉をほしがっていたシルフィードにとって、強くてやさしくて綺麗なタバサが自分の主だということは、二百年生きてきた人生の中でも一番の自慢だった。たとえ今の現状がちょっとだけ好ましくないことであっても、それがためにおねえさまが謝るなんてとんでもないことだ、と思うほどに。
その声を聞いて唇の両端をほんの少しだけ上げる程度に薄く笑ったタバサは、マントに身を包ませたシルフィードの手を引きながら、誰にも気付かれないように自室へと迎え入れた。

おねえさまの香りの残るマントに包まれ、おねえさまに手を引かれながら進むシルフィードはポーっとなっていたが、小柄なタバサとは異なり、シルフィードは人型を取っているときも元の姿ほどとは言わないものの十分身長が高い。
そして、彼女が人の姿を取るときに使う先住魔法は、衣服までは再現してくれない。

結果として、マントを羽織っているとはいえ小柄なタバサのものである以上、シルフィードは股下ぎりぎりのマイクロミニだけを身に着けた青髪の麗人といった姿だった。加えて彼女はタバサの友人であるキュルケ級のメリハリの付いたボディをお持ちである。
思春期真っ盛りの男子学生がたくさんいるこの魔法学園で、たまたま見つからなかったのはまさに僥倖だったのだが、二人はそんな幸運に気付くこともなく、部屋に入っていった。




部屋に着いたタバサはシルフィードにベッドで寝るように促しながら、一直線に部屋にある一つの引き出しの中身を取り出した。それは、高価な、とても高価な水の秘薬だった。
ガリア北花壇騎士団の一員として裏の仕事を勤めることもあるタバサが所持する水の秘薬の中でも、特に貴重な最高級の秘薬。それを惜しげもなく使って、タバサはシルフィードに対してあまり得意ではない回復魔法をかけた。
相手は回復魔法において通常想定されている人間ではない韻竜であり、「雪風」の二つ名を持つものの自らは水ではなく風を主属性とするメイジであるためそれほど強力な回復魔法を使えないタバサには、少々荷が重い相手である。もっと熟練した水のメイジを頼ればシルフィードの怪我も治しやすいし、削られ続けている経費をやりくりして万が一のためにと購入した水の秘薬も使用しなくてすむ、ということはわかっていた。



だが、同時にタバサは自分以外の人間はもはや信用できないということも理解していた。

大小あわせてこれほどまでのシルフィードの怪我。
自在に大空を駆ける風韻竜のシルフィードが転んだなどということがありえるものか。切り傷、刺し傷、火傷に凍傷、打撲傷。こんなことを韻竜に対して野生の動物が行える筈がない……メイジがやったに決まっている。

動機の方も考えるまでもない。
タバサに対する嫉妬であれば同時にタバサの魔法の腕前も知っている根性なしの連中に出来る筈がないし、それをシルフィードにやるにしてもいまさら過ぎる。

人間関係が希薄なため、この時代において最も優れた情報伝達手段である人づてという方法に疎いタバサですら知っている、あの竜の性に決まっている。
シルフィードが韻竜だと知った愚かなメイジどもが、あの竜にできない攻撃を八つ当たり対象として変わりにやったのだろう。それが自分の領民を虐げられている怒りからか、討伐が失敗したことによる身内を失った悲しみからか、もっと純粋な正義感からかは知らないが、そのどれにしても愚かなことだ、とタバサは思う。
シルフィードが真実あの竜の同類であれば、今頃お前らが生きている筈ないだろう、と。

対象に手を出せないからといって八つ当たりなど、それでもメイジか、とあの仇を討つまではと意図的に表情を封印するようにしているものの、本来であれば感情豊かな少女であるタバサは全身を怒りで染め上げていた。
彼女にとってシルフィードは自分の使い魔であり、可愛い妹分であり、唯一の信頼できる友であるのだ。その彼女を傷つけられて怒らないはずがない……あるいは、その姿に王宮の陰謀によって心を壊された母を見たのか。


だが、タバサは同時にシルフィードに対する己の不甲斐なさすら感じていた。タバサが召喚しなければ、こんな目にあうはずはなかったのだ。もっとしっかりしていればこのようなことなど起こさせなかったのだ。たとえシルフィード自身は気にしていない、といっていたとしてもタバサが原因の一端を担っていることは間違いない。

それに加えてシルフィードはその怪我に対して何も言わない。転んだなどといって誤魔化そうとするほどだ。
彼女が主の命令に逆らってまで誰かを庇おうとする筈がない。たとえ即座に見破れるような稚拙な嘘であろうと、これは主であるタバサに余計な心配を掛けないようにとおもったシルフィードの気遣いであろう。彼女は自らが人知れず苛められ続けるよりもタバサに気を使わせない方を選んだのだ。
可愛らしくて、いじらしい妹分である。



それに………



だから、例えいくら金銭を使うことになろうとも、どれほど精神力を削ることになろうとも、自分自身の手で知るフィードを傷一つない状態まで癒す。
これがタバサのシルフィードに対する誠意であった。
そのためゆっくりと、しかし丁重にタバサはシルフィードの傷を一つ一つ癒していった。


「きゅいきゅい、おねえさま、ありがとうなの」
「気にしない」


敬愛するおねえさまに余計な手間を掛けさせることにシルフィードは心苦しく感じていたが、それと同時におねえさまが自分にかまってくれることに喜びも感じていた。だから、機嫌よく笑っていたシルフィードに対して、タバサもうっすらとではあるが、微笑を返した……内心の申し訳なさを押し殺して。


彼女は、ある仮説を知っていた。
はっきりとした研究成果や根拠があるわけではないものの、それは確かな事実として一部のメイジたちの間で語り継がれているある仮説。

使い魔の儀式、サモン・サーヴァントは確かに基本的には使い魔を望むメイジと、安全な寝床や安定した食料、あるいはシルフィードのようにさびしさなどから主を望む生き物の意図が合致したときだけゲートを開く。そこには、どちらの利益にもなる共存共栄の対等な魔法だ。
そして、コントラクト・サーヴァントを受けた使い魔たちは、例え蛙や鳥であろうと人語を解するほどに知能が上昇する。その結果として、使い魔たち同士では大自然で暮らすのに比べて貴族の使い魔の方が楽だと喜んでメイジに仕えるものも多いらしい。シルフィードも、その一人といえるだろう。
だが。



……コントラクト・サーヴァントによって刻まれるルーンには、主に対する好意を使い魔に強制的に植えつける洗脳効果がある、という仮説がハルケギニア大陸には存在する。



その23へ

Comment

No title

別サイトにて途中までは読めたのですが、最後まで読めずにやきもきしていたのが更新されているようでうれしいです! 初めて知ったので、一気にここまで読んじゃいましたよ
続き、期待してワクテカしております

悩むルイズかわいいよルイズ
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プロフィール

基森

Author:基森
蚕鳴や円禍と名乗ってたこともあります。

主に小説・ssなどを置いているブログです。

自前の本棚を持つのは初めてなので手探りでやっている程度のものですが、わずかばかりの暇つぶしにでもなれば幸いです。


メールは「kulukku106☆yahoo.co.jp」まで、☆を@に変えた上でお願いいたします。

そろそろ、非営利にならトップへのリンクフリーとか言ってみたり。

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