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ドラゴンに首ったけ0

その0
始まりの終わり




トリステイン王国。
ガリア王国と帝政ゲルマニアに囲まれた小国ながら、そのどちらにもおもねることなく中立を図り、その大国二国と対等に渡り合う始祖ブリミルの三人の息子の一人が作った伝統ある国。

歴史ある国家故に伝統としきたりをしっかりと守りながら、それでもなお新しき技術を高めることにも熱心な、ハルケギニア一の文化国。圧倒的な防御力によって他国の侵入を許さず、自国内では優秀なうるわしき女王の指導の下多数の貴族を頂点とした貴族制をとっている。メイジたるものはこの女王に忠誠を誓い、すべての国民の模範となるべき行動を義務付けられる。


と、このトリステイン学園では教えられる。

無論、表向きの宣伝と本当の事実が大幅に異なることは初期または末期の国家にはよくあること。事実は異なる。
ガリアやゲルマニアがこの国に興味を示さないのは、ひとえにトリステイン王国が小国であるからだ。
征服しても大国の十分の一程度の版図しか持たないため領土がさほど増えるわけでもなし、かといって有望な鉱物資源が埋まっているわけでもない。優秀なメイジが多少多いような気はするが、その程度であれば自国で育成したほうがよほど手間も少ない。
にもかかわらず、始祖の作った国ということでやたらと国民のプライドが無駄に高いために統治に手間がかかることが予想されること、近年発生した「やっかいな国内事情」は下手に刺激すれば本国をも襲いかねないことなども考えると、ほおっておいて時折ちょっかいを出して搾り出したり、自滅を待ってその後に侵略するほうが利益が多いと考えられていたからだ。
要は、征服するほどの国でもない、ということである。


無論、トリステインの国政を支配する大臣らはそれを十分理解している。近年即位した年若の女王も、ようやくそういったことを理解し始めたようである。
だが、それはあくまで国を運営して行かねばならないという責任ある立場、外交をある程度理解できる情報を与えられたごくごく一部のものだけである。
普通の貴族は先に教えられた事実が真実であると信じきっている。

そのトリステイン貴族の一員たるある少女は今、歓喜の絶頂にいた。
彼女がいるこの場は謁見の間。玉座の正面に位置するこの場所、貴族の中でも限られたものしか入ることを許されないこの場に、ようやく堂々と正面から立ち入ることできる資格がこれから許されるのだった。
暗い喜びばかりを燃やしていた近年のその少女にとって、それは久方ぶりの、純粋に心より喜べる時間だった。


「………イズ・フラ…………」


 女王じきじきに叙勲のため己の名前が呼ばれるここに至るまでは、大いに苦難があった。体と心を廃人寸前まで追い込んだ苦痛があった。
そして、そんな苦難すらかすむほどの絶望があった。

それでも、今この場においてはここに至れた栄光と、今後の栄達だけを見ていよう、と彼女はまなざしを、美しい女王へと向ける。


「…………ド・グラ………アウグス…………モ…ンモ」


そうやって、今までの苦労を思い出しながらも半ば陶酔しながら女王の声を聞き続けていくうちに、少女とともに数多くの冒険をこなしてきた仲間たちの名も次々と呼ばれる。どれも信頼出来る友であり、血よりも熱い絆で結ばれたかけがえのない仲間たちである。
今までこなしてきた絆をルイズが振り返っている間にも、女王の宣誓は続いて行く。


「あなた方のこれまでの活躍を評するとともに、今後の一層の忠誠を期待して、あなた方にトリステイン王国第136代女王アンリエッタの名において、『トリステインの銅』の名を授けます」


授けられたのは、『銅』の称号。
この国を苦しめ続ける忌々しき災害に立ち向かう、勇者にのみ与えられる称号だ。
ここ数年で新設された、新しい称号とはいえ、今までこれほどまで若年でこの称号を与えられたものはいなかった。心も、体も熟練の王宮の誇る戦士のみがその対象であったそれを、彼らは若干二十歳前後で得ることとなった。
だが、そのことに対する不満の色は、授ける女王も、授かる本人らも、そして周囲を囲むお歴々の顔にも見られない。


なぜなら、彼女の実力を知らぬものはこの場にはいない。
彼女はトリステインを代表する強力な若手メイジなのだから。
そしてその仲間たちもそれぞれの分野で活躍が期待されている優れたメイジである。

周囲の視線ももしやこのメイジたちならば女王のためにあやつを倒してくれるのでは、と期待で高まっているのがわかる。もちろん彼女たちもそれに答えるつもりだ。

そのため堂々と女王から下賜された「銅」の証である鈍い茶色の杖を受け取り、誇りに満ち溢れた表情でもとの位置へと戻る。

少女がちらと横目で同じ部隊の仲間たちをみると、他国人である二人――――もともと忠誠という概念が薄いお国柄の褐色の肌を持つ美女や、未だになぜか無表情を貫こうとしている雪のような白い肌を持つ元王女はさておき、自国の貴族であるお調子者だった青年とその恋人も似たような表情をして杖を受け取っている。
こうして、彼女達が王国の命運をかけた戦いに挑む勇者として選ばれた式典はつつがなく終わった。

親友に生死をかけることを誓わせる杖を授けた女王の瞳に、謝罪と悔恨の念が浮かんでいることに最後まで気づけない―――気付かないふりをしたまま、彼女たちは謁見の間を後にした。


          



「トリステインの銅」として称号を受けた彼らが向かった先は、親元への報告でもなく、酒場での祝杯でもなく、恩師への感謝でもなかった。
彼らがまっ先に向かったのは彼らの今後の主戦場となる、あるダンジョンだった。
そこはトリステインの端のほう、具体的には某メイドの出身村の近くの山の中を貫いて作られていた。
山腹に掘られた巨大な穴が入り口となっている洞窟に入るのは、もちろん初めてではなかった。
国が命じた探索隊として入ることになったのこそ今回がはじめてであるが、ここは別にそういったものしか入れない場所ではない。
ただ、「生半可な覚悟と知識の持ち主では入り組んだ道から帰ってこれない」「最上級の魔法を使っても一切破壊できない」だけの、単なる普通の洞窟であった。そこにさまざまな罠やモンスターが待ち受けていなければ。


洞窟に入って、一番最初に目に付く人工物はしばらく入ってすぐの部屋にぽつんと一つ浮かび上がる宝箱。地面に固定されていて、持ち運ぶことはできない。
無論罠だ。開ければ普通のメイジであれば木っ端微塵になるほどの爆発が起こる。トライアングルやスクウェアメイジであれば爆発してからでも頑張れば防げないこともないが相当の魔力を消費してしまうことは間違いない。
それは、このダンジョンに潜っているものであれば誰もが知っていることだ。

だが、性質が悪いことに……爆発が起こらないこともあるのだ。百個中九十九個は爆発が起こったとしても、一個には本当にお宝が入っている。
それも、ハルケギニア最高のダンジョンの名にふさわしいほどのすざまじいほど高価な宝が。最高級の水の秘薬やとんでもなく高純度の風石などは言うに及ばず、トリステイン学園から盗みだされた『破壊の杖』、始祖ブリミルが使用したという伝説が残る『始祖のオルゴール』、ありとあらゆる外傷を治す『癒しの指輪』、異世界から伝えられたといわれる伝説の衣服『せえらあ服』。風の噂では死者に偽りの命を与えたりと言った奇跡とも思える力を行使できる『アンドバリの指輪』や、あらゆる魔法を吸収したり、非常事態には持ち主の体を操ったりできる剣『デルフリンガー』など、それこそ値段もつけられないようなお宝が入っていることすらあるという。
そして、実際に彼女たちはそれが発見された瞬間を目の当たりにしたこともある。ハルナ=タカナギという名らしいその新米冒険者が宝箱の中から『破壊の杖』を発見して、ここがダンジョンということすら忘れたかのように狂喜乱舞し、ここに入ったばかりだというのに意気揚々と引き上げて行くのを横目で見ながら罠による爆発で吹き飛ばされていたからだ。彼女は風のうわさでは、それをゲルマニア皇帝に献上し、爵位を得たという。

貧困にあえぐ国の現状を知った上でそんなものを見てしまっては、たとえ罠だとわかっていても、宝箱を開けずに素通りして先に進むことができるものは少なかった。
ましてや、その爆発による被害を最小限にして確実に抑える方法を知っている彼女たちは、開けずにいられなかった。たとえそれが相手がこちらの魔法を使うための力、精神力を削るために仕掛けたものであると理解していても。


「ねえ、お願いできるかしら」
「ああ、任せたまえ」


燃える尻尾をたいまつ代わりに先頭に己の使い魔である火蜥蜴を進めさせていた美女―――キュルケが豪奢な衣装に身を包んだ仲間の青年、ギーシュに声をかける。そこには男を口説こうとするような甘さはなかったが、確かな信頼があった。
軽薄さはそのままに、数多の戦場を駆け抜けたことで多少精悍さが増した『青銅』の名を持つ青年は、その名の通り杖より青銅の騎士を二体生み出す。
そう、命なき騎士を数多く生み出し、自在に使役することが彼の能力。戦闘はいうに及ばず、索敵、おとり、調査、特攻と数多の戦術を可能とする非常に優れた魔法である。
その精密にして微細にまで作りこまれたゴーレムは、人間さながらに細やかに動く指を持っている。これこそが、彼女達がこのダンジョンを攻略する際の宝箱開けの秘策だった。通常そこまで細かな動作が出来ないゴーレムにそれを命じることが出来ることこそ、彼の能力の高さを物語っているようだ。
これで何かが仕掛けてあったとしても、犠牲となるのは命なき騎士一体で済む。


通常の人間の騎士とは違い、使い捨てを可能とするその魔法を持って、彼女たちはまず宝箱を開けさせた。
開ける瞬間、全員が衝撃に備えて姿勢を低くする。が、いつまで待っても爆発音はしなかった。まさか、と信じられない思いで少しだけ頭を上げてみると、遠目からでも確実に蓋は開いていることが確認できた。

まさか…………当たりなのか?

思わず少女達は顔を見合わせ、次いで競うようにブロンズゴーレムが開けた宝箱のもとへと駆け寄った。


「何、何が入っているの!」
「ちょっと待ちなさいよ! 私の恋人が開けたんだから、私が最初に見るの!」


不幸だけでは生きていけない。
復讐心だけでは進んでいけない。

だからこそ、精一杯隣の親友を茶化す巻髪の少女モンモランシーと、その態度を内心ありがたく思っているルイズは、演技半分、本気半分でそれに飛びついた。

その中身は、間違いなくこの先もこのダンジョンに挑んでいく為の助けになると思ったからだ。


このダンジョンに眠る見たことも聞いたこともないお宝を一刻も早く見ようと、開いた宝箱に駆け寄った少女ら二人が見たものは…………白い紙に大きく「はずれ」と書かれたものだった……ほかには何も入っていない。
空だ。

どうやらこれは、爆発や毒ガスによる肉体的ダメージよりも、これからダンジョンを潜ってやるという気力を奪う精神的トラップだったようだ。そして二人は見事にそれに引っかかった。
期待が大きかっただけにそれが外されたときのショックも大きい。思いっきり空回りさせられて思わず白い灰にになった二人に残りのメンバーが駆け寄って、それぞれ大なり小なり、期待を外されて顔をゆがめた。








ちなみに、それらを仕掛けたこのダンジョンの主とその協力者は、初めて仕掛けたトラップの効果を見るために情報室で彼らを監視していたが、そのあまりの効果にまるでドッキリがうまく成功した役者のように周りの使用人たちも巻き込んで大爆笑していた。





「あ、あれは新しいタイプのトラップね。舐めた真似をしてくれるじゃない」
「ふっ、確かに見事にだまされたね」



盛大に仕掛けに引っかかって気力を根こそぎ奪われたルイズたちだったが、つい先日「銅」に任命されたということもあって何とか気力をかき集め、前に進んで行く。
せっかく作ったので貴族らしからぬ「もったいない精神」を発揮してギーシュのゴーレムを盾として先頭にしていく。

罠やトラップがあればゴーレムが先に引っかかるし、敵が出たとしてもゴーレムが押しとどめるなり、やられている間に体制を整えることができる。ゴーレムを稼動させるための魔力をずっとギーシュが放出し続けることになるが、この魔法はゴーレムを生み出すときに最も魔力が必要とされることに加えて、ラインにまで成長したギーシュの魔力は、ゴーレムに普通の人間並みの運動をさせるのであれば一日近く維持することをも可能としていた。

一部では『がちゃがちゃきゅ~っと・フルボッコ』『「犬」のかませ犬』『ポジション・ヤムチャ』『Mr.死亡フラグ』などと呼ばれているギーシュ・ド・グラモンであったが、めっちゃ役に立っていた。

進んで行くと扉が見つけられた。それも慎重にゴーレムに開けさせる。ラインになってパワーアップしたワルキューレは、なんと手の指の一本一本まで独立しているため、ドアノブをひねって開けることすら可能なのだった。光ってるぜ、ギーシュ!


そして、ドアを開いて頭を入れた次の瞬間、あっという間にスクラップにされた。
所詮ギーシュだった。


「フレイム!」


すかさずキュルケが己とワルキューレとの間を歩いていた忠実なる使い間に命じる。
それに従って、主に忠実なサラマンダーは引き絞った、圧力すら感じさせる炎を咽喉の奥から吐き出した。
一直線に進んだ炎が着弾し、爆発したその衝撃で、扉の前に立って侵入者を待ち構えていた巨大な影は一気に吹き飛ばされた。
その隙にギーシュが新たに四体のワルキューレを作り出して、それと共にパーティが部屋の中になだれ込んで行く。

部屋の中に入ると、フレイムの炎に吹き飛ばされていて態勢を立て直していたものも含めて四っつの異形が待ち構えていた。


牛頭に鍛え抜かれた裸体の上半身と獣の下半身と、両手に一つずつ持った大斧を武器とする巨大な体。
複数の魔物を混ぜ合わせて合成された四足歩行でハリネズミのように長くて硬い体毛で全身を覆った獅子頭の獣。
ナメクジに手足が生え、犬のような形をとるようになった柔軟性にとんだ魔物。
そして、仮面をかぶりローブを着た魔法使いらしき姿をとっているモンスター。
それら四体が侵入者であるルイズたちを待ち構えていた。


「やば、ミックスがいるわ」
「二回攻撃を持ったハラミボディも強敵」


その中でもキュルケが顔を引きつらせたのは獅子頭の怪物、 ミックスと呼ばれる魔物だった。
その頭部から吐き出す毒のブレスや、多少の傷ならばすぐに治してしまう超回復といわれる能力もさることながら、彼女らメイジが使用する魔法すべてを無効化する魔法障壁と呼ばれる能力こそが、メイジキラーとも恐れられる所以だった。

さらに脅威だったのが、ミックスの苦手としている物理攻撃を防ぐことを得意としている牛頭の巨体、ハラミボディと、その柔軟性を持って盾となっているハラミボディやミックスの隙間から攻撃してくるナメッド、ラインメイジ並みの炎と水、そして氷の魔法を使ってくるダークマジシャンとミックスが組んでいることだった。
そのことを武器からスキルまで読み取ったタバサが補足する。

メイジのメインウェポンである遠距離からの魔法攻撃はミックスが完全に防ぎ、ミックスを排除するために土のメイジが作り出したゴーレムや前衛用に雇われた傭兵などは、ダークマジシャンが狙いながらハラミボディが防いで時間稼ぎをする。少しずつその巨体による圧力で近づいて行き、壁際まで追い寄せたところでナメッドによって防御をしながら攻撃を加えて侵入者を撃退するという、メイジをメインとするトリステイン王国からの侵入者たちに特化した部隊編成だった。


「いけ、ワルキューレ!」


ハラミボディが体勢を立て直すまえに、己のゴーレムを両腕がそれぞれ盾を持つ防御型と、長い槍を持つ攻撃型に二体ずつ組み替えたギーシュは、防御型を文字通りの盾として突っ込ませ、その後ろにつけた攻撃型を追従させる。
それと同時にキュルケとタバサから放たれた火球と氷柱はミックスの体に阻まれたものの、その代償にワルキューレはすでに加速に乗っていた。

完全に近づききる前に一体の防御型の盾に何発かダークマジシャンの放った炎と氷の魔法が直撃し、それによって脆くなった盾をハラミボディが両手それぞれの一撃で粉砕する。
熱伝導のよい青銅製のため盾だけではなく一瞬で両腕の二の腕付近まで破壊されたワルキューレだったが、もう一体が組み付いてハラミボディを止めている隙に、ギーシュの魔法により頭部辺りの青銅を削ることで再び盾の再構成に成功する。
ハラミボディの巨体の隙間からナメッドが攻撃してくるが、そちらは組み付いた方の防御型と、後ろについていた攻撃型の槍で牽制することで対処させ、再構成をした防御型ともう一体の攻撃型はそれぞれ前衛の背中を蹴って跳躍することでハラミボディを飛び越え、隣にいたミックスの方へと走り出す。


「……××!!」


これは不味いと思ったのか、ダークマジシャンがワルキューレを操作させまいと慌ててギーシュのほうへと多数の雹弾を放って来る。
が、タバサのエアハンマーとフレイムの火炎の放射によって一つ残らず叩き落される。
それによってダークマジシャンに隙ができた。
それに応じて、戦闘開始からずっと隙をうかがっていた残り三人のメイジのうち、最も速射性と威力の高い魔法を持つキュルケが、ダークマジシャンとそれを庇うハラミボディを、そいつらと戦っていた二体のワルキューレごと火、火、風の強力なトライアングルスペルで吹き飛ばす。
自ら作った娘ともいうべき彫像を壊されることで、いつもどおりギーシュはほんのわずかの悔恨の表情を浮かべるが、何も言わなかった。場合によっては自由に切り捨てられることこそがギーシュのワルキューレの最大の利点なのだから。

完全に沈黙させるわけには行かなかったが、物理攻撃には強くても魔法攻撃にはそこまで強くないハラミボディと、もとより耐久力のあまりないダークマジシャンを吹き飛ばし、その余波で後ろに隠れていたナメッドまでまとめてミックスのほうへと吹き飛ばした。


それにより、四体が一箇所に固まって倒れた。これこそがルイズが待っていた瞬間だった。


虚無にしては初歩の初歩の呪文。ただ、任意の場所を爆発させるだけの機能しか持たないそれは、しかし蔑称としてゼロと呼ばれていたころの失敗魔法とは異なり、限定された範囲だけ、相当の威力で、魔法を無効化するミックスすらも倒せる破壊力を望んで唱えられた。


「エクスプロージョン!!」


瞬間、紅蓮の地獄が現世に召喚される。
その爆発は、耐久力の高いハラミボディも、メイジ並みの魔法の知識を持つダークマジシャンも、あらゆる打撃や爆発を受け流すナメッドも、そして魔法を無効化するミックスすらも一切合財区別することなく、平等に、完膚なきまでに焼き尽くした。

ほっと五人が息をはく。ルイズの魔法の威力は誰よりもメンバーが知っている。虚無と呼ばれる属性の魔法によって、あの四体は完全に倒された。


「×××××!!!」


そう油断したのがいけなかったのだろう。爆発の粉塵を振り切って、仲間三人を倒された牛頭の怪物が、もはや自分の命すらもいらぬとばかりに怒りを込めた突進を駆けてきた。

「彼」は逃げるべきだった。
主からもあらかじめ命令されていたし、四対一で敵わなかった者たちに一人でかなうわけがないと「彼」の理性もそうささやいていた。

それでも、「彼」は許せなかったのだ。
基本的に「彼」ら巣の中にいるモンスターは侵入者を殺すつもりなどない。主によるとミノシロキンというものを支払わせたりしなければならないので、そこまで攻撃することは許されていない。
その「彼」らモンスターのなかで、このハラミボディは先ほど必殺攻撃を受けて倒れたミックスと組まされることが多かった。「彼」ら魔物同士、本来であれば捕食しあう間柄の中でも、幾度となく感じてきたつながりの中で、人の言う「友情」に似た感情を育んで来ていた。争いもした、間違いも犯した。それでも、協力して、守りあってきた二人だったのだ。
それが、一瞬で失わされた。そして、この傷では自らの命も長くないであろうということは十分本能が理解していた。
ならば、せめて、せめて、地獄で眠る友のために、自分たちにここを託した主のために、一人でも道連れに!!
人とは異なる声帯を震わせ、「彼」は全力で肩から突進をぶちかました。

その魔物の、魔物による、魔物にしかわからない理由で、ハラミボディはその自分勝手な意見を思いっきり油断しているように見えた金髪ロールの少女に叩きつけた。


「きゃあ!!!」
「危ない、モンモランシー!!」


あわててギーシュがモンモランシーを押し飛ばしてその前に立ち、バラの杖を振るって自らにワルキューレを纏わせることで鎧を形作るが、ワルキューレが完全に出来上がるまえに密着することとなった突進によって、ギーシュが胸ぐらいまでできた青銅の鎧ごと吹き飛ばされる。さらにハラミボディが倒れたギーシュに馬乗りになって、その頭部に斧による連撃を叩き込もうとするが、間一髪、タバサの魔法によってハラミボディは吹き飛ばされ無念の悲鳴を最後に一声上げて、今度こそ完全に沈黙した。
エクスプロージョンこそ無効化したものの、それまでのワルキューレ組とキュルケによるダメージの蓄積が思いのほか大きかったのだろう。今度こそ完全に動く気配がなくなった。

こうして、完全にルイズたち以外の動くものがこの部屋から消え去った。
これも、よくあるこのダンジョンでの日常だった。




「いたたた、油断してしまったね」


どうやらギーシュは自身にぶち当たる直前で少しでもワルキューレの鎧を衝撃を軽減する方向に操作したのだろう。かなりの勢いで吹っ飛んだにもかかわらず、軽い打撲による傷は負ってはいても、骨折をするなどの重症は受けなかったようだ。
自身らの反省と共に女性陣に大丈夫だ、ということをアピールする。

パーティ唯一の回復役として、顔色を真っ青に変えて思わず最高位の水の秘薬を取り出していたモンモランシーが、安心したように息を吐いて低位の水の秘薬に取り替えて、回復魔法をかける。
それを見てようやくほかの三人も安堵の息を吐いた。


「やっぱりあのハラミボディは虚無系統の魔法を無効化する能力があるみたいね」
「……今まで遠くから私が倒していたから、気づかなかったのも無理はない」


ルイズの声に今まででてきたハラミボディに対して遠距離からの攻撃を担当していたタバサがフォローをかける。
それに追随して、自身もルイズの魔法の威力を信頼しすぎて油断していたキュルケとギーシュも微妙な方向性を加えて同意を示す。


「まあ、ギーシュが多少怪我したとはいえ、今のうちに気づけてよかったじゃない。お手柄ね、ギーシュ」
「そうだね、僕にワルキューレが作れないほどの疲労がたまってたらと思うとぞっとするから、今でよかったよ」


だが、それではすまない少女がここにいた。


「ほんっと、心臓が止まるかと思ったじゃない、ギーシュ!!」
「ご、ごめんよ、モンモランシー」


ギーシュを誰よりも愛しているとようやく口に出して言えるようになった水のメイジの一言に、反射的に謝ってしまうギーシュ。
だが、そこで終わるような男では自らを恥ずかしげもなく薔薇などに喩えることなどできやしない。
すぐさまありったけの情熱を込めてかわいい恋人に切り返す。


「本当に心配かけてごめんよ、モンモランシー。それでも、僕は女性を楽しませ、女性に愛されるために咲く薔薇なんだ。君が少しでも傷つくぐらいなら、僕が盾になったほうが何倍もましなんだよ。愛しているよ、モンモランシー」
「ギーシュ……」
「モンモランシー……」


徐々に二人の距離が縮まって行き、愛し合う二人の、二人による、二人だけの空間が形成されて行く。


ぱんぱん

「はいはい、そこまで。二人とも、そろそろ行くわよ」


愛し合う二人による三文芝居劇場に他の二人と共に思わず砂糖を吐いていたルイズだったが(無表情ながらタバサもどこか嫌そうだった)、このまま続けられてはたまったものではないため手を叩いてまとめる。
モンモランシーは他の三人がいたことをようやく思い出して顔を赤めるが、ギーシュは余裕の表情でモンモランシーに笑いかけ、口付けはしなかったもののぎゅっと彼女を抱きしめてありったけの愛情を込めたあと、ゆっくりとはなれた。
うっとりとギーシュを見つめるモンモランシー。

このギーシュ、何か悟っちゃったんじゃないの、と思うぐらいさわやかさんである……内心は慎ましやかながらきちんと自己主張するモンモランシーの母性の象徴の感触に、鼻の下を一メイルぐらいに伸ばしていたが。
よし、それでこそギーシュ。


「ちゃっちゃと次のところにいく準備をするわよ。何せ私たちは……」


それにため息一つ吐いて一声かけ、 何もない山を掘ってくりぬいたような天井を憎憎しげにみて、少女は決意を込めて断言した。
その瞳にこめられているのは、女王の前で見せた立身栄達を望むものだけではなく、たしかな正義感と、それとは比べ物にならないほどの憎悪がこめられていた。


「この竜の巣に住む、あの『竜』を退治するためにここに来たんだから」





始祖ブリミルの子孫が作ったという伝説が残る伝統ある国、トリステイン王国。
今現在この国は、大陸最高の人口と軍事力を持つガリアよりも、高い治金技術や非魔法技術に優れたゲルマニアよりも、音速を超えて自在に宙を舞い、宝と女を要求して強力なブレスなどで街を破壊する巨大な竜の脅威に怯えていた。


ぶすぶすと嫌な音と臭いを立てて未だに燃えている魔物たちの亡骸と、味方の魔法によってもろとも粉々に吹き飛ばされたワルキューレの破片が、この泥沼の戦いの行く末を象徴しているようだった。



その1へ

Comment

この作品大好きでした。
現在、night talker では、最後まで見ることができませんでしたから、
楽しみに見せていただきます。
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プロフィール

基森

Author:基森
蚕鳴や円禍と名乗ってたこともあります。

主に小説・ssなどを置いているブログです。

自前の本棚を持つのは初めてなので手探りでやっている程度のものですが、わずかばかりの暇つぶしにでもなれば幸いです。


メールは「kulukku106☆yahoo.co.jp」まで、☆を@に変えた上でお願いいたします。

そろそろ、非営利にならトップへのリンクフリーとか言ってみたり。

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