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ドラゴンに首ったけ15

その15
「御主人様、大変です!」
「またか? 今度はなんだ」


この間、巣に大被害を与えてくれた二人の襲来から一週間もしないうちに、再びクーが寝室につっこんできた。珍しくエロ行為ではなく、フェイと二人でチェスをしていたブラッドが不機嫌そうに言うと、クーはこの間どころじゃないですよ、という口ぶりで慌てて緊急事態を告げた。
ちなみにブラッドとフェイ、父と子ではすまない年齢差がありながら、チェスではいい勝負だった。


「前回の二人のような格好をした軍隊が、大群でこちらの方向に来ていることが判明しました! 百人や二百人では利かない数だそうです」
「なんだと! 魔物の補充もまだ終わってないぞ!!」
「ですから大変なんです!」


ヴァリエール公爵夫妻によって与えられた傷は決して軽いものではない。確かにここ数日間でラ・ロシェールから略奪した財産に加えてぽつぽつと麓の村から貢物が届くようになって侵入者撃退も上手くいくようになってきたためにある程度の運営資金は出来たとはいえ、未だに決して余裕があるほどではない。むしろヴァリエール夫妻にあけられた穴をふさがなければならないことを考えると、一層貧しくなったといっても良い。加えて、魔物を召喚することは出来ても召喚したばかりの魔物は経験を積んでいないために弱く、スキルもあまり持っていない。
確かにそろそろ復讐しか考えていない連中も減ってきたことだし、捕虜にしてもおいしいような女軍人とか捕獲する罠を設置しようかなーなどとは思っていたのだが、いくらなんでも多すぎるし、速すぎる。
今までの侵入者は復讐だけにとらわれ、自分の年齢も肉体の衰えや未発達も考えずに突っ込んできているため、侵入者の割合はおいしい獲物である妙齢の女性よりも明らかに爺さん婆さんおっさんおばさんちびっ子の方が多かったのであまり捕獲しないようにしていた。が、そろそろ肉体的に戦える理想的な年齢の戦士が来はじめるだろうとわくわくしていたブラッドにとって、いきなりこんなピンチに陥るとは夢にも思わなかったことだ。
あちらの世界とは異なり、こちらの世界では未だ竜の襲来は天災と同視してあきらめ気分にするほどのものではない、ということを本格的に認識していなかった彼らのミスである。

今の巣の現状では前回の二人レベルの者が二、三人来ただけで大多数のものは再び蹴散らされるのは目に見えている。いくらあれから回復させてなぜかやたらとやる気になっているガンジェットとて、一人や二人ならばさておきひっきりなしに軍隊が入ってこられては到底抑えられないだろう。
先のような二人を見てしまうと、この世界の魔法使いはどうも前の世界の魔法使いよりもかなり強力なものが多いような印象は拭えない。

自身が殺されることはまずない。
それは確信しているブラッドである。竜の姿で相手を待ち受けていれば、前回の二人並みの人間がいくら来ようと自分に傷ひとつつけることは出来ないのは、絶対である。クーやフェイとてたかがあの程度の魔法使いの集団ごときに逃げることも出来ないということはありえない。
だが、自分が戦うことも出来ない。
落ちこぼれである自分では、それほどまで多くの侵入者を撃退しようとすると、自らの力の余波で巣そのものを破壊しかねない。
戦わなければ、連中は自分を殺すことこそ諦めるにしても、巣の中を荒らすに決まっている。前回の二人のように略奪とは別の目的があり、説得で何とかできると考えられるほど、ブラッドとクーは楽観的ではなかった。


赤字。壊滅。

その二文字が脳裏で踊る。ラ・ロシェールから結構な額を奪い取り、その影響で貢物も徐々に集まってきている当竜の巣だが、財政的にも戦力的にも決して余裕があるわけではない。
前の巣のモンスターは最近竜狩り部隊の侵入が激しいということではずすことは出来ない。こちらの巣は壊滅しても最悪何とかなるが、あっちはそうも行かないのだ。ガンジェット部隊と、レベルの低いレアモンスターたちを外すだけで戦力的には精一杯だった。
せっかくリュミスのいない別荘を作れたというのに、早くもここを引き払わねばならないのか、ということが頭をよぎるブラッドだったが、そこで諦めきるにはリュミスのいないこの世界はあまりに惜しすぎた。


「くそっ! クー、全部のエリアセットの見積もりをもってこい。商会に理由を話してありったけの魔物も召喚しろ! 人間どもに奪われるぐらいなら、ここの財産はすべて使いつぶしてでも防いでやる」
「は、はい!!」


大慌てで商会との通信用施設に走るクーに、せめてもの悪あがきと今の財産から購入できる最高の罠や待機部屋を頭の中でシミュレートするブラッド。その二人の状態を見て状況を察知して腰に帯びた剣に手をやったフェイが、一礼して下がる許可を求めてくる。
傍から聞いていただけの彼女にも、今が非常事態だということは十分に理解できたため、少しでもブラッドの役に立とうと思ったのだ。


「………ブラッド様。私も魔物たちとの連携などの訓練に参ります」
「ああ、頼んだぞ、フェイ。だが……無理はするな。お前と引き換えにするほどの価値は、この巣にはない」
「ありがとうございます」


フェイの献身的な態度に癒されるブラッドだったが、そこで和んでいられるほど現状に余裕があるわけではない。
なんといっても久しぶりに破産の危機がここの所続いているのだ。


「やられた………竜への攻撃のセオリーも知らないド辺境ということを忘れていたぞ」


フェイ襲撃。ドゥエルナ襲来。ヴァリエール公爵夫妻の訪問に次いで、四番目の脅威、トリステイン国軍がブラッドの巣に襲い掛かろうとしていた。







会議室ではラ・ロシェール壊滅の報を受けて、喧々諤々の議論が起こっていた。といっても、あの竜をどうするか、というものではない。会議室の雰囲気は竜許すまじ、もはや地方領主に任せておくわけには行かない、国軍で持ってあたるべきだ、と言う一色に染まっていたため、その面での争いはなかった。
前回は最後の方までルイズの保護を叫んでいたヴァリエール公爵がいないこともその勢いに拍車をかけた。彼は現在王命に反した咎により、夫人ともども蟄居の身である。せっかく帰って来たルイズとも今は面会を許されていない。公爵家始まって以来の不祥事としての刑に、多くの貴族は喝采を叫んだ。
アンリエッタはルイズのことを考えて、できれば穏便な手段をと思っていたが、公爵ともあろう身分のものが多くの国民を殺害した竜に対してあまりに軽率な行為、これは厳罰に処するべきだと多くの貴族に言われては、絶対君主でないその身では出来はしなかった。

今、この会議の場で争いとなっていたのは、いったい誰が司令官となるか、どの貴族が先陣を司るか、ということだった。

先の討伐命令で出されたものは、あくまでトリステイン南部地方領主軍が独自に討伐隊を編成することを許可するだけのものであり、国軍として竜の討伐を決定したというものではなかった。そのため、『地方』領主軍ではないヴァリエール公爵家がたった二人とはいえ独自で竜の巣に向かったことは、娘を助けるためという同情に値する理由があるにしても、公爵という重責を王国から与えられている身としては適切でないとされたのだ。
が、彼らヴァリエール公爵夫妻が自ら竜の巣に入って得た情報は、トリステインの貴族たちを調子付かせるものが多かった。魔法学園から来た情報は、どうやら風韻竜ではないらしい、ぐらいしか有益なものがなかったのだ。攻撃してきた位置が高すぎてラ・ロシェールの生き残りはほとんど情報を持っていなかったし、討伐令が出たとはいえ、わざわざ竜を倒すことにメリットを感じなかった地方領主たちはラ・ロシェールが壊滅するまでは侮って、壊滅した後は恐怖で竜の巣に入ることはなかったため、これは貴重な情報だった。


・ 公爵たちが知っている時点では竜はラ・ロシェールの近く、タルブ村麓の山間に洞窟を作り、そこをねぐらとしていた。
・ 内部は入り組んでおり、ところどころに罠や魔物を配置している。
・ 二人で攻略するには数こそ多かったが、魔物の強さは最後の魔物以外はそれほどでもないため、トライアングルメイジ以上であれば十分である。
・ が、最後の魔物はかなり強力。スクウェアメイジ二人分以上の力を持っている。勝てたのは運がよかった。
・ あの竜は元々こちらに来る機会を狙っていたため、空間を歪ますサモン・サーヴァントに乗じてこちらに侵略してきた。サモン・サーヴァントを禁呪指定すべきである。
・ 韻竜と呼びかけても、反論はなかった。
・ 会話は可能。人間と同等程度の知能が見受けられた。
・ 竜は人型をしており、周囲にスクウェア並みの護衛がいたことから、力を振るうには何かの制限があるのかもしれない。
・ スクウェアメイジの固定化をかけてある街を壊滅させたブレスを撃てば二人とも生きているはずないのに交渉に臨み、撃たなかったということもそれを裏付ける。
・ 少なくとも、周囲の護衛はさておき人型の竜と思わしき人物はそれほど戦闘能力が高いとは思えない。
・ エルフらしき存在は複数いる。ほとんどは非戦闘民であり、主の竜同様殺気をぶつけても反応できていなかった。
・ 見られた範囲では唯一のエルフの戦士も戦闘に加わる様子はなかった。主である竜の護衛の任務があったからかもしれない。
・ 巣内部の調度品は王宮にも匹敵するクラス。おそらくラ・ロシェールからの略奪品だけではなく、他にも膨大な財貨を蓄えているのであろう。
・ わかった範囲での大雑把な内部を思い起こしておいた。


ブラッドとの邂逅で得られたもののすべてを公爵は出したわけではなく、ルイズと公爵家を守るためある程度意図的な操作が加えられた情報だったが、それでも国を害するまでのつもりはない公爵が査問会の途中で都合の悪い情報が出そうになった貴族によって無理やり打ち切られるまでに告げたものすべてが、ブラッドのような竜の存在など知らぬこの世界の貴族たちには貴重な情報だった。とりあえず、これらを受けて学園からの報告を鵜呑みにするのはどうか、ということで韻竜の変種として話は進んでいく。
長年の認識で染み付いたものは、そう簡単に変わらない、ということだ。


これに加えて、アンリエッタにはルイズから直接告げられた、竜の要求というものについての情報も得られていた。が、今この状態で告げたとしても、ヴァリエール公爵家の立場を悪くするだけで竜の巣を攻略する上では何の意味もないと思い、この議論には加わらなかった。

ルイズは、必死の思いで王都に戻ってきてルイズが発ったわずか二日後にラ・ロシェールが壊滅したとアンリエッタに聞かされ、自らが王宮に情報を伝えることを優先したせいで大勢の人が死んだと思ってひどく後悔しているようだった。
確かに大勢の民が死んだという結果がある以上、ルイズがきちんと領主を説得できていれば、このような被害は出なかった可能性は否定しきれない。そのため、王女という公的な立場上アンリエッタは安易にルイズを慰めることは出来なかった。が、竜の脅威を誰もが信じ切れていない状態でラ・ロシェールの領主がルイズの言を信じる可能性がそれほど高くないこともアンリエッタには十分理解できるため、ルイズがそう判断して王宮に情報を伝えることを優先した選択に対して攻めるつもりもなかった。
ただ、王女にはっきりと咎められなかったことで、怒る以上に失望されたのか、ということでルイズがさらに落ち込んだことにも気付かなかったが。
その沈んだ表情だけが、アンリエッタの脳裏に今も残っていた。

とにかく、この会議室にいる面々が知りえた情報は、蟄居を命じる前にヴァリエール公爵夫妻から得られたものがほとんどすべてだったため、ルイズの責任を追及する前に皆の頭にあったことは二つ。
エルフの隙を突けば今の竜なら倒せる。それは出来なくても、莫大な財宝があの巣には眠っている。誰もがそれを信じた。
大国二つに囲まれていたために新たな領土を得ることなど考えも出来ない。にもかかわらず、力ある魔法こそが正義とされるお国柄でありながら、その力を発揮することが出来ない立地条件がために、魔法の腕には上位の貴族に負けはしないと自負を持っていながら一向に爵位を上げる機会を得られない。このような下位の貴族たちにとって、国を守るという名目までついたこの機会は逃せるものではなかった。

大貴族にとってもそれは同じ。直接の戦闘は名誉欲に駆られる下位の貴族や平民に任せて、全体の指揮権をとることさえ出来れば、今回のことによりかなりその株を下げた筆頭貴族ヴァリエール公爵家に取って代われるチャンスなのだ。
ヴァリエール公爵家の力を殺ぐにしても、自らが竜を倒して発言権をもぎ取った後にしようと大多数の貴族が考えるほどに。

たったメイジ二人で竜の近くまで攻め込めるのだ、エルフの魔法も恐れていたほど打たれる気配はない。国軍の援護を受けた上でなら、スクウェアクラスなら余裕で攻め込める、と名誉欲に駆られるほどに。
個人ではスクウェア以上の位はないため、同じスクウェアクラスであればヴァリエール夫妻とでも、彼らは自身が同格だと思ったのだ。王軍と呼ばれる王国直属のメイジたちならばさておき、彼ら国軍とよばれる領主軍連合を構成する貴族達は、最近平和なため直接戦場に立つ機会などめったにないためにメイジ同士の力量差など、普段は意識することはない。カリーヌ=デジレが王国始まって以来の天才メイジだなどとは認めるはずもなかった。彼女ですら攻略できなかった竜の巣がどのようなものであるのか、ということなど考えもせずに。
「烈風カリン」など過去の名だ、といわんばかりにそう主張する彼らを、基本的に身分の低いメイジで構成されている近衛隊やグリフォン隊、マンティコア隊達はそれが事実と異なることを知っていながら、止めることは出来なかった。


苦々しげな顔をしてそれを見守る枢機卿マザリーニも、それは同じだった。彼は、国賊との噂を立てられたとしても大后やアンリエッタへの忠誠を尽くすほど、この国のために身を粉にして働いている。
そのため、他の貴族のように爵位を挙げるいい機会だ、ヴァリエール公爵家を筆頭貴族から引きずり落として成り代わるチャンスだ、などとは思わなかった。むしろ、そのような争いを国内の結束を乱すものとして苦い顔をしていた。が、ラ・ロシェールを壊滅させたような化け物を放置しておくわけには行かないのは事実であり、それを行うためには近衛隊のような王国直属の兵である王軍だけでは足りないのもまた事実であった。
今は人の姿しか取れなくなっていたとしても、いつ再び街を襲いだすか解らないのだ。新たな襲撃がある前に、竜の姿に戻る前にあの韻竜を殺さなければならないことは間違いない。そのため、貴族たちの先陣争いにも口を出そうとはしなかった。

王女は別のことを考えており、実質的な宰相はその争いを止める気はなかったそのため、止めるものがいなかった貴族たちは、名誉欲に駆られて竜を倒せるということを前提にその後の自らの勢力図の拡大を夢見て繰り返し議論を重ねた。

画して壮絶なる議論の結果として、トリステイン国軍の実に14%にあたる人数が竜の討伐のための遠征軍として組織された。この中に入れたものたちは誰もが街ひとつを半壊させた怪物の首を取る武勲を挙げることを夢見たし、この中から外れたものは自らの運の無さを呪った。
魔法学園の地位を高めるためのある程度の情報に対してのオスマンの隠蔽による影響もあるが、誰一人本当は韻竜ですらない竜についての情報をシィルフィードのところに聞きにいこうとするものがいないほど、トリステイン貴族は驕っていたのだ。



大陸の中でも質が高いことで知られるトリステインのメイジであれば、今の竜ならば倒せるという考え。

それは、事実正しかった。

ブラッド、クーは巣の中では戦えない。フェイやモンスターたちではスクウェアメイジを数十人も相手取れない。人間時のブラッドを殺害して本性に無理やり戻し巣を自壊させる、または、巣の財産を根こそぎ奪って運営できなくする、といった方法でブラッドの巣を壊滅させるためのチャンスは、彼らの腕の届くところまで来ていた。


そしてそれは、ある意味間違っていた。

彼らは今まで平和すぎたために、戦争というものはどんな予想外なことが起こるかわからない、ということまで忘れていた。
そして、彼らは竜という生き物がいかなる存在か、ということも知らなかったのだから。



ピキーン
トリステイン王国 のステータスが更新されました。
トリステイン王国国軍(貴族連合) が 竜の巣 への進行を開始しました。

ブラッド のステータスが更新されました。

竜の巣 に 最初の岩 五つの岩 蜘蛛の口 魔力の月 が新たに設置されました。


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プロフィール

基森

Author:基森
蚕鳴や円禍と名乗ってたこともあります。

主に小説・ssなどを置いているブログです。

自前の本棚を持つのは初めてなので手探りでやっている程度のものですが、わずかばかりの暇つぶしにでもなれば幸いです。


メールは「kulukku106☆yahoo.co.jp」まで、☆を@に変えた上でお願いいたします。

そろそろ、非営利にならトップへのリンクフリーとか言ってみたり。

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