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ドラゴンに首ったけ12

その12











「では、ご主人様の前にお連れしますが、その前に一言だけ申し上げておきます」
「……」


メイドから引継ぎを受けて、ルイズを取り戻しにきたヴァリエール公爵夫妻を案内しながらふと振り向いて、クーは夫妻の顔を見ながら扉の前で止まった。
二人は無言でクーの顔をにらみつけるが、そんなのはどこ吹く風と受け流して、クーは言葉を続けた。


「無駄なことは考えないで下さいね。御主人様は竜です。人ごときに敗れるはずもありませんが、そうなったら家財に余計な被害が出ますので。また、そのようなそぶりを少しでも見せれば、私が全力を持ってお相手します」


そういって、右手に魔力を集めて示して見せる。それは、歴戦の戦士である夫妻を一瞬凍りつかせるほど、純粋な量と質を誇る高密度の魔力弾であった……魔法を使う為には精神力を振り絞るハルケギニア製魔法の性質上、魔力、という認識を持たない二人にすらわかるほどの歪な力。

ブラッドがほとんど戦闘能力を持たない人間形態をとっている今、単純に能力だけで比べるのであれば、この巣で最も戦闘能力が高いのは、先ほど彼らと戦ったガンジェットではない。
主であるブラッドでも、その主を守る剣士フェイでもない。この巣に何十人と控えるメイドたちと、それを統制するこのかわいらしく華奢な魔族の少女なのだ。

もっとも、商会から巣を守るためにであれば本来戦うことを許されていない彼女だったが、脅しをかける分には問題ない。ましてやこの世界の人間はやたらと自分の耳を見ておびえているのだから。
だが、フェイのときは口頭での警告で済ませたにもかかわらず、今回は己の内から人間の魔法使い何人分もの魔力を一瞬で引き出して見せたのは、それだけこの二人が主にとって危険人物であるということである。

クーたちは一切ルイズの所業について、嘘をつくつもりはない。まさか生贄一人を取り戻すためにこんな連中が来るとは思ってもいなかったので、これ以上荒らされるぐらいであればルイズがこの巣にいたらとっとと連れて帰っていただきたいぐらいである。が、もう返してしまった以上は説得を続けるしかない。
だが、それを相手が信じるか、というのはまた別な話なのだ。クーたちはすでにルイズは開放しており、その証拠も示せるはずである。が、娘可愛さにわざわざ竜の巣まで単身乗り込んできたような連中だ。自分の命が危なかろうと、それで相手に痛打を与えられるのであれば喜んでやるかもしれない。
何でとち狂って暴れだすかも解らない。
だからこそ、やっても無駄死にになると強調しておきたかったのだ。何せ今のこの巣には、お金がほとんどないのだから。

事実、二人は話の展開次第では、その場でありったけの精神力を残ったすべての火の秘薬にぶち込んだ上でカッター・トルネードなどの大規模魔法を命ある限りぶちかまし、盛大に自爆するつもりだった。ルイズが死んでいるのであれば、その元凶に命でもって一矢報いるのだ。
杖もなしに先住魔法を行使した、エルフと思われる存在が本当に韻竜に忠誠を誓っている様子なのには内心驚愕ものだったが、今度こそそれを表に現すような間抜けなまねはしない。


「それでは、くれぐれも失礼をなさらないようにお願いします」


そういって、クーは扉を開けた。この場所に住む、竜のいる玉座に続く扉を。大丈夫。、でに十分準備が済んだと自分に言い聞かせながら、自らの敵を招きいれた。





夫妻がゆっくりと開いていく扉からまず見たのは、王侯貴族に勝るとも劣らない調度品だった。その一つ一つが、トリステイン有数の大貴族であるヴァリエール家にあるものは愚か、王国御用達の品をすら凌駕していることに、大貴族らしくそれなりの目利きを持つ夫妻は瞬時に気付いた。

そして、その中央のこれまた高価そうな意匠の施された椅子にすわっている青年と、その後ろに控える護衛と思われる金の十字模様が入った鎧を着け、青いマントと大剣を身につけた少女が次に目に入った。
位置からして、確実に青年がこの場所の主であるということを判断し、そのあまりの若さに驚きもしたが、相手は人外であるということを思い出して、表情を引き締める。
あるいは、この者は韻竜に命じられた「主人」役の影武者かもしれないとも思う。そうであれば、このものを倒したとしても意味は全くない。影武者は倒されることが役目なのだから、こちらの命と引き換えに倒したとしてもそれは見事に相手に乗せられたこととなり、一矢を報いたことにはなりはしない。

ルイズが無事ではないのであれば、まずはその真の主を引きずり出さねばならないと固く誓う。人間の姿をしているこの男はどう贔屓目に見ても三十を超えているようには見えないのだから無理はない。
そんな二人の内心に気付いてか気付かないでか、執事服の少女が主の位置に座る男に向かって一礼して要件を告げる。


「御主人様、お連れいたしました」
「ご苦労だったな、クー」
「いえ、それほどでも」


そういって、クーと呼ばれたエルフは、護衛の少女の立っている場所とは反対側、青年の左斜め後ろに控える。どちらの少女も、いざというときは身をもって主をかばえる位置に立っていることが、本来であれば逆に常に守られるべき立場である公爵にはわかった。


「さて、まどろっこしいことはやめでいきなり本題から行くぞ」


やさしさや甘さの一片の欠片もない冷え切った口調で、椅子に座るよう薦めもせずにその青年は己の陣地を散々に荒らした侵入者に対して声をかけた。

そして、すぐに攻撃態勢に移れるようにこちらも椅子に座ろうともしなかった二人も、無言で頷いた。


「まずはじめに、お前たちの探しているルイズという少女はラ・ロシェールという街に昨日置いてきた。傷ひとつ付けずにつれてきたままの状態でな」
「証拠は?」


間髪いれずに公爵夫人が問い詰めるが、その青年はあせりを全く見せなかった。少なくとも二人にはそう見えた。
二人は知らないが、クーに引継ぎを命じる前にメイドによって巣の内部を遠回りさせまくって時間を稼いでいたのだから、考える時間はそれなりにあったのためである。考える時間を与えてしまった、という事実が二人から相手が最も恐れる選択肢を選びにくくしていたのだ。
だが、そんなことまで推察できる余裕は二人はなかったため、そのまま会話は進んだ。


「クー」
「はい。あ~あ~、メイド31号、聞こえますか?」
『……ブブッ…はい、連隊長。こちらメイド31号です。追跡対象は現在どこかに行くために、ラ・ロシェールの乗り合い馬車の馬をヴァリエール家とかいう名前を使って徴発しようとしています』


ルイズへの心配でそんな様子に気づくほどの余裕もなく、執事服のエルフの少女がなにやら黒い箱に語りかけたかと思えば、そこからいきなり声がして、返答が帰ってくるのを二人は奇妙な眼で見ていた。これは先ほどの魔物、ホーンちゃんが使っていた巣内部ぐらいの範囲しか覆えない通信機の長距離版として、この竜の巣がギュンギュスカー商会から一括購入しているものだ。ちなみに、一セットで魔界に一軒家が建てられるほど高価な品であるし、魔族の中でも膨大な魔力を持つものにしか使えないのでメイドでも一部しか使いこなせず、結果として戦闘の役に立つほどのものではない。

このような小型の奇妙な形をした通信機などというものは見たことがないヴァリエール夫妻だったが、そこは魔法の世界の住人。そんな魔法もあるだろうと意外なほど順応力が高かったため、それほど驚きも見せなかった。
それよりも、内容の方が気になった。


「……あ~、31号。その追跡対象の声を通信機で拾うことは出来る?」
『えっと、ちょっと待ってください。やってみます……おじさ~ん、次の馬車はいつ出るの?』
『ああ、すまねえなあ、嬢ちゃん。この娘さんがなんか訳のわかんねえことを言っててよう』
『だから、王国の一大事なのよ! このことを速く姫殿下に伝えなければならないって言うのに!!』
「「ルイズ!」」


とっさに反射的に叫び声をあげる二人だったが、それを予想していたのかエルフが通信機のを手で押さえて遮ったために、その声はルイズのところまで届くことはなかったようだった。そのため、通信機越しの会話は続く。


『あ、私この方知ってるよ、おじさん。たしかヴァリエール公爵令嬢様だよ』
『な、あなた、私のこと知ってるの!』
『いぇええっ!!』
『あ、はい。私、以前ある貴族様のお屋敷でメイドをしていまして、そのときに……』
『ほら、御覧なさい! 解ったらさっさとその馬を貸しなさい。ヴァリエールの名に懸けて後で十分な保障をするわ』
『し、失礼しやした』


聞こえるのは機械越しにくぐもってはいるものの、間違いなくルイズの声だった。魔法学園に行ったあと暫く会うこともなく、久しぶりの声だったが、両親である二人にははっきりとわかった。
これがもう少し機械文明の進んだ世界であれば、録音か何かなどではないかといぶかしむこともあったのかもしれないが、今の二人にはそのようなことなど思いもしなかった。
二人がそれなりにルイズの生存を確認したところで、相手は31号と呼んだ相手に引き続き追跡を行うように言った後、通信機の電源を落とした。


「生きていたの…………よかった、よかった。ああ、始祖ブリミルよ、感謝します!!」
「そのマジックアイテムなら会話できるのかね!」
「ああ。だが、散々俺の巣を荒らしてくれたあんたたちに渡すつもりはない。かなり高価なものなんでな、破壊されたりしたら困る」
「くっ……」


現状はかなり彼らに不利なものなのだ。相手の陣地内に組み込まれた上に、自分たちは相手の仲間を数多く殺害して心証を害している。くわえて、ルイズの近くには相手の手のものがおり、その気になればいつでも攻撃可能と来ている。
そのため、万が一ここの連中を一掃出来たとしても、こちらがラ・ロシェールに着く前にルイズの命はなくなる。せめてルイズと連絡が取れればとも思うが、現状で相手がそのような手段を与えるはずもないだろう。

そう思った夫妻は無理に動くことはできなかった。


「親なら声のトーンで大体の貞操の無事も確認できるかもしれんな。と、いうわけで娘さんの無事も確認させてやったことだし…………お帰り願おうか」
「………しかたあるまい。だが、ひとつだけ確認させてもらいたい」


ここにルイズがいない。そしてルイズの声からは確かに無理に貞操を奪われた悲壮さと陰鬱さも感じなかった。であれば、わざわざここに長居をする必要はない。ましてや相手からすればこちらは招かれざる侵入者だ。ルイズが生きている以上自分達が無駄に彼らに挑みかかる必要もないはずではある。
相手の対応も常識の範囲内のものであったが、公爵らとてそれで引き下がるわけには行かなかった。まだ、ルイズの完全なる安全は確保されていないのだから。


「いいだろう。言ってみろ」
「何故、ルイズを誘拐などした! すぐに開放するならば、お前の目的は何だったのだ!」
「お前たち、ブラッド様に対しての暴言は許さん」


自分たちがここを去ったとたん再び誘拐でもされてはかなわんと、公爵の殺気混じりの詰問は当然のものだったが、その言葉の荒さは明らかにこの場において格下な者が放ってよいものではなかったと夫人は顔を青くする。しかし、エルフは眉の角度を少し上げ、護衛の少女が肩を怒らせて威嚇してきたものの、ブラッドと呼ばれた主の表情は動かなかった。

この場でいきなり仕掛けた場合、護衛たちはさておきこの青年は身のこなしからしてかわせるはずもないのにいい度胸をしている、と二人は思った。よほど護衛たちに信頼を抱いているのか、死の恐怖を押し殺すだけの胆力を持っているのか。
影武者ではなく本当に竜なのかもしれない、と思う二人の前で、そのブラッドというらしい男は口を開いて護衛の少女を下がらせた。


「フェイ、かまわん。下がれ」
「はっ!」
「目的か………強いて言うならば、腹が立ったからだな」
「何?」


フェイと呼んだ護衛の少女を下げた男から思いもよらない理由を告げられ、思わず聞き返す公爵。
だが、その次に述べられた理由は二人にも納得の行くものだった。


「お前たちならどうだ? いきなり見ず知らずの場所に連れてこられ、奴隷になれといわれる。しかも自分よりはるかに劣った者にだ……おとなしく従う気になるか?」
「…………」
「俺は使い魔の契約なんぞというのに乗ったつもりはなかった。それを勝手に勘違いした挙句に従わないことを非難するとはな、笑わせる。逆にこの程度の仕打ちで勘弁してやったことを感謝してほしいほどだ」


それを聞いた公爵夫妻は、よく出来たその理由にはなるほどと思わされた。
他の韻竜という存在は伝説上の存在であるため学者ではない夫妻はよくは知らないが、目の前の存在は明らかに通常の使い魔の範囲内にはあるはずのない、人と同等の知性を持った生物である。加えて、自在に空を駆ける能力や、このような巣を作る能力があるともなれば、よほどの風変わりな竜でなければいくら魔法が使えるとはいっても所詮は人間であるメイジに従う可能性は低い。
魔法もろくに使えないルイズがサモン・サーヴァントも失敗して、契約に同意していない存在を無理やり呼んだとなれば、その存在が友好的ではない限りこのような結果となるのも仕方がないといえよう。それでも比較的理性をもって、これ以上感情に任せて戦うのは双方にとって意味がないと判断したからあちらもこっちを自らの前まで呼び寄せて説明するという譲歩を行ったのだろう。
少なくとも、公爵夫妻はそのように判断したようだった。
それを無言の中に読み取ったであろう男は、二人の内心の変化を読み取って上手くいったと思ったのだろう。二人に向かってにやりと笑って締めの言葉を放った。


「まあ、今回の件でおたくの娘さんもずいぶん恥をかいただろうから、これで手打ちにしてやるつもりだが……まだやるというなら相手になるぞ」


そういうと、青年は指を鳴らして奥の間に控えさせていた人型をした白い塊、白いヘビを纏わせた朱と白の衣装に身を包んだ少女、全身に真紅のドレスを帯びた鋭い目線と黒髪を持った少女を呼び出し、さらにその後ろには真っ白な、しかし何処か柔らかそうな人型生物までも待機させ、二人の周りを遠巻きに囲わせる。さらに鎧姿の護衛の少女も抜刀の体勢に入り、エルフも先ほど見せた以上の規模で手に再び魔力を集める。

なにも本気で戦うつもりはないが、これだけの人数がいれば何をやっても無駄だとその目で無言のうちに訴えかける青年を見て、消耗激しい夫妻はこれ以上の尋問を行うことを諦めた。
ルイズが無事であるならば、これ以上相手の感情を害して無駄に争うこともあるまいと思ったのだ。

ああ、本当は今すぐ切りかかりたい。ルイズにこれ以上ないほど屈辱を味合わせた韻竜風情を、この場で撫で斬りにしてやりたい。
この間合いであれば一瞬だ。自分たちの身の安全を考えなければ、護衛たちが反応する前に一瞬でこの男を斬り捨てることが、少なくともトリステイン最強のメイジであるカリーヌにはできる。そういった衝動を抑えるのはそこそこの落ち着きを持つ年齢となっている夫妻にとっても困難なことだった。
それでも、彼らはルイズのために我慢をした。なんと言っても相手の手のものがルイズの近くにいるのだ。


「わかった……我が娘が無作法を働き、申し訳なかった。韻竜殿」
「そして、わたしたちの勘違いによる無礼、どうかお許しください……それでは」
「失礼する」


こうして、一応男の説明で納得はしたが、だからといって許せるものではないその行為に対する嫌悪感もあらわに、口調だけは丁寧にしながらヴァリエール公爵夫妻はメイドの誘導によって退室した。
かくして、一時は竜の巣を壊滅状態まで追いやった二人の侵入者は、何とか撃退された。








後には、二人を追い出したことで安堵の息を吐き、交渉の場でつけていた仮面を取っ払って今回の被害総額に頭を痛める一匹の竜の姿があった。


「あ~、やばかった」
「本当ですね。あんな連中がいきなり攻めてくるなんて、予想外もいいところでした」
「まったく、無駄に緊張したぞ」


実はブラッド、内心ではこれまでにない破産の危機に心底びびっていた。基本的にこの人間自体は怖くないのだが、破産→クーに怒られる→元の巣に戻る→リュミス襲来! というコンボが容易に想像できる以上そんな余裕はなかった。
もっとも、この状況で弱気になることは直接竜というものの存在を見られている以上、今後の略奪に大きな影響を与えるので不味いのだ、それはブラッドにもわかっている。そのため、クーから念波で受けている演技指導によって必死で虚勢を張っていたのだ。

ちなみにリュミスに似たカリーヌの雰囲気にびびっていたという面も無きにしも非ずだが、いくらなんでも人間―――それも目下最大の敵―――に本気で怯えて下手に出るほどブラッドは馬鹿ではない。そもそも、強気な女性の雰囲気すべてに怯えていたら、「竜の誇りがない!」とリュミスに怒られるではないか。


間髪いれずに「証拠は?」などと聞いてきた時などは、おもわず固まってしまいそうになったりもしたが、あわてて送られたクーからのブロックサインを受けて、とにかく強気で押した。実際はあの夫妻が思っていたほどブラッドに余裕があったわけではなかったのだ。
もともと、今までの竜としての生活のうえではクーの売込みをかわす位にしか交渉などを必要とすることがなかったため、それほどああいった会話を得意としていないということもある。

ルイズという少女についても実際には生贄と勘違いしていたがために持って帰ってしまったのだが、ここでそれを言っても話がややこしくなるだけなので、大部分の真実を混ぜた偽りの理由を述べていったのだ。リュミスの教育によってもはやある程度はブラッド自身に根付く、竜を高く他者を低く位置づけて認識する傲慢とも取れる一面をわざと言葉に強く出して。


「一瞬レアモンスターたちを見わたされたときはどうなるかと思いましたよ。使い物にならないことがばれたのかと」
「クーやフェイが睨みを効かせてくれたおかげもあるんだろ。よくやったな、フェイ」
「ありがとうございます、ブラッド様」


トウフ君や白ヘビ様、スコルピオを出したときなど最高に緊張した。
彼らはガンジェット同様前の巣から引き抜いてきた魔物である。だが、ガンジェットがその強さから最後の保険として引き抜いてこられたのに対し、ホーンちゃんも含む他のレアモンスターたちは、コレクター魂で集めたはよかったが加入してきた時期が遅かったために圧倒的に経験が足りないためろくな戦力とはならず、前の巣でくすぶっていたのをこっちならば使えるか、と思って引き抜いてきただけなのだ。
というか、そもそも今のこの巣にはガンジェットとフェイ以外にあの二人に対抗できるほどのめちゃくちゃ強い存在はいない。

あの二人に対する切り札となるはずもなかったのだが、まあフェイやクーの実力のおかげで何とか勘違いさせられたために、数だけでそれなりにびびってこちらの意思を察せさせられたとあれば万々歳だ。なんといっても、ルイズという少女に危害を加えていないと思わせられたのが大きかった。
あっちの二人も、早くルイズの無事を確認したかった。こっちも早く帰ってほしかった。その意思を早めに合致させられたのがよかった。


「あのことがばれたらまた怒鳴り込んできそうな気もするけどな」
「そのころには、こっちもカードを持っているから平気ですよ」


二人は、ブラッドがルイズに加えた最大の危害に気づかなかった。


ブラッドたちは知っていたのだ。
貢物を寄こせ、さもなければ攻めるぞ、とラ・ロシェールに対してのメッセンジャーとしたにもかかわらず、ルイズがラ・ロシェールの領主の館に報告に行ったという情報は、31号からは来ていない。こちらのことを信じ切れておらずに、ただの脅しと判断したのか、冷静なる判断力で領主に信じてもらえるはずがないと思ったのか、それともすでに追い返されたのか、何か別の理由があるのかは知らないが、先の会話ではどうやら先に王宮に連絡するつもりらしい。
そちらの方が、好都合だ、とブラッドはそれが彼女の身に何を生むかを理解していながら笑う。



ルイズという名の少女にメッセージを託した時点で考えられる結果は二つほどあった。
すなわち、ルイズがブラッドの命令どおり領主に竜の言伝を伝えるか、伝えないかだ。
どちらにしても、ブラッドはこの世界に竜という存在がどのようなものかということを刻み付けるために、ラ・ロシェールをいつものように住人の退避を待つことなしに破壊するつもりだった。

ルイズが正しく伝えたとしても、どうせ実際に見てもいない竜の脅威など知らぬこの世界の領主が取り合うはずもない。すなわち、巣に貢物が運ばれてくることなどありはしないだろう。結果、貢物を出すようにと説得できなかった「ルイズのせい」で、ラ・ロシェールという街は襲撃される。
もっとも、万が一きちんと貢物が届くのであれば、その力量に感服して敬意を示すため、攻撃を別の街に変えてもいいとは夫妻が襲ってくるまでは思っていたが。

ルイズが正しく伝えなかった場合であれっても、当然当初の予定通りブラッドはラ・ロシェールを狙うつもりだ。結果として、竜の襲撃を知っていながら伝えなかった「ルイズのせい」で、ラ・ロシェールは半壊する。おそらくこちらの方が彼女の罪悪感を煽るであろう。どうやら本当に公爵の娘らしいので、今後王国との交渉の場でのカードとしてもこの事実は使える。


メイド31号にルイズの後をつけさせたのはどちらを選ぶか知りたかったからだが、思わぬところで役に立った(ちなみに街にいった31号は変装によって耳を隠している)。おまけにブラッドは、それをわざわざ自分の巣を散々荒らしてくれた両親に伝えるつもりもまたなかった。
むしろ、知らせないことは、この自らの財産を遠慮のかけらもなくぶち殺してくれた二人に対する意趣返しにもなるだろうと内心でニヤニヤする。



このことを吹聴すれば、おそらくあの二人は竜や魔物によってではなく、人間によって排除されるだろう。
そしてそのことは、あの二人もじきに気付くだろうということを、あの二人という実物を見たブラッドたちにはわかっていた。
これであの二人は二度とこちらに攻めてこれない。

その強靭な肉体と膨大な魔力に匹敵するほど、知恵を持った人外の存在というものは脅威だった。




後は、二度とこのような状況を産み出さないことが肝心だ。


「……とりあえず、明日あさってにでも街を襲って、魔物を使ってでも略奪してこよう」


夫妻へのカードを早く手に入れることと、今回のように宝物庫にほとんど金銭がない状態でまたこんな強敵を迎え入れる羽目になってはたまらんと、ブラッドは人死にを出来るだけ避ける方針だったラ・ロシェール襲撃計画を、より高額な収入を見込めるブラッドによる破壊→魔物による略奪計画に切り替えて実行時期をずらした。

ここの連中は竜を恐れる気配もなく、いきなり巣に進入してくるのだ。それも、娘を誘拐したとか言う考えられない理由によって。

今の時点でブラッドはルイズ以外の人間に直接危害を加えたことは無い。それでも、こんな侵入者が襲ってくるということは、それは人が竜を恐れていないということでもある。
たった二人の人間風情が命がけ程度の覚悟で、竜の生贄を奪えると思えるほど。

今度は建物を壊されたとか言う理由で攻めてこないとも限らない。モンスターによる略奪は、モンスターの襲撃に関してある程度の普段からの防備がある元の世界では愚考中の愚考だが、一回だけであれば対策の出来ていないであろうこのあたりでは有効な手段だ。財宝に加えて、弱い人間を狙うことで経験値も稼ぐことが出来る。おそらく恐怖度も一気に上がるだろう。
どうせ恨みを買うならば、いっそ盛大に、最大限の効果が得られるように。

神や悪魔ですら恐れた竜の力を思い知るがいい。
たった一人の生贄を救うために強襲をかけてきたヴァリエール夫妻の行動によって、ブラッドの腹は据わった。


どの道侵入してくるのであれば、多少は略奪されても平気なように財宝を貯めておきたい。
竜による脅威を一度はこの世界に知らしめて置かねば今後の活動に支障が生じる、ということでクーもこれに賛成したが、このことが後にまた別の波紋となってブラッドたちに襲い掛かってくることになることに、二人はまだ気付いていなかった。
ここは彼らの培ってきた巣作りのノウハウが生かせる場所ではなく、異世界だということが大きなずれを生むことになったのだった。





「ルイズの無事を確認した後は、至急王宮に報告せねばな。あの竜はルイズだけではなく、トリステインすべての敵になりかねない」
「……本人の力はさておき、メイジに匹敵する魔物やエルフを多数操っていることは間違いないでしょうし」
「あるいはあれこそがあの韻竜の能力なのかも知れんな」
「ええ、あのまま放置しておけば、いずれわが国にとってエルフ以上の脅威となるでしょう」


どちらにとっても、今回の会合はある意味有意義な、ある意味危険なものだった。


ピキーン
トリステイン王国 のステータスが更新されました。
ヴァリエール公爵軍(特殊) が撤退しました。






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プロフィール

基森

Author:基森
蚕鳴や円禍と名乗ってたこともあります。

主に小説・ssなどを置いているブログです。

自前の本棚を持つのは初めてなので手探りでやっている程度のものですが、わずかばかりの暇つぶしにでもなれば幸いです。


メールは「kulukku106☆yahoo.co.jp」まで、☆を@に変えた上でお願いいたします。

そろそろ、非営利にならトップへのリンクフリーとか言ってみたり。

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