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悪の秘密結社乗っ取りマニュアル14

バカンス☆魔法少女だって遊びたい!


シンデレラ、って御伽噺あるじゃんよ……あれって、残酷だとおもわねえか?
物語ではたまたまガラスの靴だけ残って王子様が迎えに来てくれたからよかったようなもんだが、万が一来なかったケースを『良い』魔女は考えなかったのかねぇ。

つまり、王子に見初めてもらえなかった場合のことだ。



ずっとずっと灰かぶりの毎日。
そんな中、一日だけ与えられた夢のような時間。
綺麗なおべべにほっぺた落ちそうなぐらい上手い食事、隣には若くて格好よくてお金持ちな王子様、周りにはそんな自分を羨望の目で見つめる人々。

それはきっと、魔女の思い通りシンデレラにとっては最高の日だったろうさ。
例え最初っから皇子に見初められる可能性がなかったとしても、こんな一日だけの幸運でも、拒絶するなんて確かに俺でも考えられねえ。
何にも考えず頭空っぽにしたまんまで速攻頷くに決まってる。



だけど、それは所詮は幻だ、ってこと、本当に理解しておかないと後々大変なことになる。
なんせ、翌日―――正確には、夜の十二時にはまた元の生活に戻っちまうんだからな。

大慌てでガラスの靴だけ残して帰ってきて、やっとの思いで馬車を走らせ、継母達に見つからないように自分に与えられたみずぼらしい粗末なベッドの中に駆け込んで、『ああ、間に合った』と一息吐いて辺りを見回してみろよ?

きらびやかな王宮とは打って変わって埃だらけの部屋。
床にじかに置かれた皿の上には、鼠と分け合うカビの生えかけた固いパンと、かけたコップに注がれた水だけ。
話し相手は天井裏に住む鼠だけ。
ふと見下ろしてみるとつぎはぎだらけで洗濯も出来ていないような埃と垢に塗れた擦り切れた服に、汚れているのみならずガラスの靴さえ絹製のように思えるほどの硬い硬い木靴。


これが自分の現実なんだ、って果たしてちゃんと受け入れられるか?
今日はとっても楽しかった、さあ、明日は頭を切り替えてまた一日頑張ろう、ってな気分でベッドに入れるかい?

いいや、そんなことできっこねえ。現状を儚んで自殺を試みる方が先だと俺は思うね。
楽しかった時間、幸せな瞬間を知っちまったシンデレラは、多分以前と同じには働けねえ。
なんつっても、今まで見たいな無知な自分じゃねえ……自分の暮らしている毎日がクズみたいに思える一日を知っちまってるんだからな。

例え頂点から底辺まで落ちてなかったとしても一回良い暮らしを知っちまったら、元の生活レベルに戻るのはおっそろしく大変なんだ。
継母らのいびりにすら反抗できなかったような元深層の令嬢ごときが、灰かぶりの現状に耐えられるとは到底思えないね。

きっと、もう一度、もう一度だけドレスを着て王子様と踊れたら…………そう死ぬまで思いながら惨めな現状に涙して老いていくだろうよ。


そのことに、魔女は責任を持つべきだったんじゃねえか? と悪党の俺すら思っちまう。
個人的にはのこした靴に仕込んだ惚れ薬的なものを王子に嗅がせたんだ、って言うんであれば拍手喝さい、師匠とあがめてもいいくらいだが『いい魔女』だからなぁ……期待薄だ。

そして多分物語にはされてないけど、世の中には『上手くいかなかったシンデレラ』は五万といるんだぜ。
おお、気の毒に。



心優しい俺にはそんなことなんか出来る気がしねえよ。
やるんだったらちゃんと、毎日ドレスを着て踊れるようにお膳立てしてやる。
王子様を落とす方法から良心の余り痛まない継母抹殺法、はてまた王様の毒殺法まできっちり仕込んだ上で万歳三唱で送り出してやる。

それが、『責任』ってもんだ。



もっとも…………悪いが俺は良い魔女じゃねえから、対価は貰うけどな。











結局、沙織は蘭華を説得しきることが出来なかった。
自分の中ですら結論が出ていなかったのだから、ある意味当然ともいえる―――迷いを持って成された説得など、その効力を大きく減じるのは言うまでもない。

だからこそ、自分が直接関与しなくてもきっと誰かが何とかしてくれる、といった他人に頼った形ではあるものの、蘭華の御付妖精であるルンからの説得で何とかならないかとリーンに一縷の希望をかけては見たものの、結局のところそちらも失敗だったらしい。

同じ妖精界で育ち、これまでも同じように女王に仕えていたはずのルンが何故あのように変わってしまったのか解らない、という愚痴にも似たリーンの報告を聞くばかり。


つまり、沙織もリーンも、結局のところ蘭華に魔法を使うことを止めさせることは出来なかったのだ。




それでも沙織は、蘭華に苦言を言おうとすることを止めようとはしなかった。
さすがに毎日ではなかったものの、それでもことあるごとに―――たとえ蘭華が全く言うことを聞こうとしなくてもそれを続けた。


だがそれは、はじめに成された忠告とはもはや意味を異にしていた。
本来であればおきてを破ったことによる蘭華の身への不幸を防ぐ為に行っていたはずのそれはいつしか、彼女に対する羨望や嫉妬といった形へと変化して続いていたのだ。

「自分は使えないのに、どうしてあの子だけ使っているの?」
「自分は我慢しているのに、どうしてあの子は我慢しないの?」
「ずるい」
「ずるい」
「ずるい」

醜い感情だろう。
正義の味方が通常抱く、愛だとか、友情だとかとはかけ離れた、負に位置する感情だろう。
おそらく、沙織と行動を同じにしてルンに対して何度も言い聞かせているリーンがそのことを知れば、きっと驚き、すぐさまそんな感情をなだめるように行ったに違いない。
それは、彼ら妖精からするなら『間違った』感情だからだ。


だが、そんなことは沙織にだって解っていた。
十分、解っていたのだ。

沙織は伊達に正義の味方を三年も続けていない。
人様以上のモラルは十分持ち続けているし、だからこそ孤独な戦いを今まで投げ出さずに一人続けていられたのだ。

だが、そんな高いモラルを持つ沙織をもってしてもそれでもなお、そう思うことを止められなかった。正義の味方に要求されるのは、そんな「人様以上」レベルではなくもっと高い次元でも自分を律する心であったのだ。
あくまでも凡人であってしまった沙織にとって、それは孤独な戦いとそれに続くストレスにあふれている現状においては到底持ちえぬ精神状態であり、結果としてそういった感情は抑えられることなく「説得」という形で蘭華に向いた。

ただ、自分が魔法を使えないことに対する八つ当たりとして。






だからこそ、彼女にとって不可解なのは蘭華の態度だ。
自分が幾度もなく彼女に魔法の使用を止めるように、ということは沙織自身も自覚できるほどに蘭華にとってうっとうしいはずだ。
彼女からすれば当然の対価である魔法の行使を、同じ魔法少女である沙織が邪魔をする、ということは変身したときはその年齢も引きあがるとはいえ、所詮は幼稚園児である蘭華にとっては耐え難いことであろう。

事実、そのことを口にするたびに蘭華は機嫌を悪くし、こっちに向かって当り散らした挙句に魔法を使って逃げてしまう。
だが、このこと自体は別に不思議でもなんでもない。
自らの嫉妬心ゆえに蘭華に対して年上としての寛容さを保てない沙織本人も、当然の対価を邪魔する自分の前から逃げるそれが普通だと思う。


おかしいのは、この後だ。
魔法で自宅へと逃げ帰ったはずの蘭華は、何故か翌日にはけろっとした顔で再び沙織の家に遊びに来るのだ。

昨日はその幼い顔を真っ赤に染めて自宅へ逃げ帰ったのに、次の日にはまたもや沙織の前に来て、いつも通り機嫌よさげに自分勝手に自分の日常を語って満足する。
かといって、じゃあ沙織の言うことを聞いて反省したのか、といえば別に全然そんなことはなく、その日もまるでこちらに見せ付けるかのように堂々と魔法を使って沙織を怒らせる。

いくら幼稚園児とはいえ、意図が全くわからないことに沙織は戸惑った。


無論、一日二日ならば所詮園児、幼稚園で遊んできたことですっかり忘れてしまったのだ、とわからないでもないが、それが毎日ともなればいくらなんでも蘭華とて覚えているだろう。
自分にとってわざわざ不快なお説教を聞きに来るなんて、末っ子ゆえにわがまま放題に育てられたらしい蘭華の行動パターンとしては不可思議なのだが、別に不都合があるわけではないので沙織も止めるわけには行かず、結果として逃亡と訪問はほぼ毎日繰り返された。

そういう蘭華の全く変わらない態度もしゃくに触り、沙織は何度も何度も魔法を使うなと繰り返した。
だが、それでもなお、翌日には自分に対して笑顔を向けてくる蘭華に、沙織の胸は痛んだ。



確かにこちらに見せ付けるかのように堂々と魔法を行使する姿は嫌になるが、それ以外の面では蘭華に対して沙織は不満の持ちようがなかった。
というのも、別に蘭華は何も言わないからだ。

自分が魔法を使うな、といわれることに対しては反発するものの、リーンのように相手の主張を端から間違っている、とは言わないし、沙織自身が魔法を使わないと決めていることに対しては尊重して干渉しない。
それは、リーンとルン、どちらの言葉が正しいのか本当の意味ではわからない現状では嫉妬心交じりに頭から押し付ける自分自身の態度よりもよっぽど「大人」に沙織には見えた。



そして、それに伴い当然ながらある『疑念』が膨らむ。
そう、ひょっとすると、リーンのほうが…………



だが、それでも、結局のところ優等生であり真面目である沙織には、リーンの目を盗んで魔法をこっそり使おう、などという発想には思い至らず、そのままうじうじと自分も使いたいと思いながらも我慢するだけだった。











もっとも、そんな沙織も流石に毎日暗い顔ばかりをしていたわけではない。
むしろ、今日の沙織はここ数年で一番楽しそうな顔をしていた、といっても過言ではなかった。 



「すごいすごい、すごいぞ沙織!」
「ちょっと静かに、リーン。あなたの姿は人に晒しちゃいけないんでしょ」
「おおっと、そうだった。だけど、俺こんなところ来たのは初めてなんだ!」
「私だってそうよ……」



二人がいるのは、都内某所の会員制のリゾートプール「アクアディーネ」だ。
高名なヒーローも愛用しているというその半年ばかり前に出来たばかりのそこは、膨大な年会費と厳密な身元審査を通らなければロビーにも入れないという超高級プールであり、メディアでの露出はそれほど多くないにもかかわらずその施設の豪華さとサービスのよさから多くの庶民から憧れを受けている場所だ。


日本有数の資産家の娘である蘭華であればさておき、本来であればバリバリの一般庶民出の沙織がそうやすやすとは入れる場所でもないにもかかわらず、今日は沙織はリーンとたった二人でそんな場所に来ていた。
なんと言っても、本日沙織はここの一日フリーパスチケットを手に入れたのだ。
ならば、料金なども全く気にすることなく一日遊び倒さなければ損ではないか。

そういった趣旨にしたがって、はじめはすべて室内にある施設にもかかわらず、そのあまりの豪奢さに少々気おされていた沙織だったが、やがてはその年齢に相応しい溌剌さを取り戻して、その自然な流れとして目一杯遊び歩くこととなった。


「あっ! リーン、私あっちのスライダーに行こうと思うのだけど……」
「俺、大丈夫かなあ……なんか流されそうな気が」
「大丈夫大丈夫、ほら、行くわよ!」
「わわ、待ってくれよ!」


妖精を除くとたった一人でプールに来ているという事実はいかに正義の味方業が友達づきあいを犠牲にしているのか物語っているようなものであるが、沙織は一切気にせずここ数年これほどまではしゃいだことはない、というほどのテンションで遊び歩いていた。


「うう、ひどい目にあった……」
「あはははははは、リーンったら大げさね」
「やっぱり流されたじゃないか! 沙織と俺じゃ大きさが違いすぎるんだよ」
「じゃあ、次はあっちね!」
「そっちは滝じゃないか! ってあ~~!! 沙織、置いて行かないでくれよ!」


勿論、リーンも楽しんでいるだろう。
かの妖精の国にこのような娯楽の為だけの施設があるとは沙織には思えなかった故に、こういった娯楽施設に来るのが初めてなリーンは随分はしゃいでいる、とは思った。

だがそれ以上に、沙織は自分自身の心が浮き立つのを感じた

今日のこの日があるのは、沙織が正義の味方として戦ったからだ。
言い換えるならば、彼女が魔法少女であったから、魔法が使えたからこのような普通の女子中学生ならば十回は死んで人生をやり直さなければ来られないような場所にこれたのだ。


「リーン、これ全部サービスなんだって! う~ん、どれにしようかしら?」
「……沙織、ダイエットしてたんじゃなかったのか?」
「今日は特別なの!そうね……ラズベリートライフルとホットミルクチョコにしよっと……リーンは何にする?」
「俺はこのフルーツ盛り合わせでいいや」
「せっかくきたんだから、もっと頼めばいいのに……すみませーん、注文お願いしまーす」



プールの上にせり出したような形になっているコテージ風のカフェの中で供されたスイーツを食べながら、沙織は思う。

この楽しさこそが、魔法を使って世のため人のために戦うことの報酬のようだ、と。
今の時間があれば、自分はもっと戦える、と。
今日の思い出さえあれば、今までのつらく苦しいことだって忘れられる、とさえ思った。

だから、沙織は思いっきり遊び倒すことにしたのだ。



浮き輪と共に漂ってみたり、スライダーの全種制覇に挑戦したり、空腹になればその辺のスタンドで供されたホットドックをつまんでみたり、はたまた疲れたらアジアンエステへいってちょっと背伸びしてみたり。

あっという間に過ぎていく時間を無駄にしないように、最大限沙織はこの施設を活用していた。






とは言うもののここは沙織の部屋の中ではない。
何があってもとりあえずは正体がばれなくて済む場所ではなく、あくまで公共の場所だ。
そんな中に妖精連れで、ということだけは心の中で気に掛かっていたが、それすらも後には吹き飛んだ。

ココでは、それほど気を使って隠さなくても大丈夫だと解ったのだ。



「っ! リーン、見て、あれ」
「ど、どうして妖精があんなに堂々と!」



何と、中には妖精らしき生き物がリーンのほかにもいたのだ。
リーンは沙織の家にいるときならばさておき、普段は女王から禁止されていない妖精専用の魔法を使って姿が見えないように隠れているし、ルンも同様だ。
だからこそ、こんな公共の場でおおっぴらに姿を晒す同胞を見て、始めは目を白黒させた。
妖精である自分が魔法少女やその仲間以外に姿を晒すことは、魔法の私的使用に勝るとも劣らない掟違反だからだ。

だが、ここは多くの正義の味方と悪の組織がしのぎを削る国日本である、ということを思い出して多少の冷静さを取り戻したのか、じっくりと相手を見つめると小さく呟いた。



「……いや、よく見ると違う。あれは俺と同じ種族じゃない」
「え?」
「羽根の数も違うし、あいつには触角みたいなのも付いてる……妖精界でもあんなのは見たことない」
「ってことは……あ、そうか! 別の世界の妖精ってことを言いたいの?」
「多分……そういう世界が別にもある、ってことだけは聞いたことがある」



この日本には、恐竜をモチーフにした戦隊や昆虫をモチーフにしたライダーが複数いるように、魔法少女にお供の妖精、というのは決して珍しい存在ではない。
だからこそ、リーンたち以外の妖精界からきた生命体も、それぞれの目的を持ってこの国へと入ってきているのだ。
そういったことに気付いた二人は、それでも警戒を隠せないように呟く。



「そう……じゃあ多分、私たちとは違う別の人についている妖精だわ」
「でも、街ではあんなの見たことなかったのに」
「ここが療養施設だから、この中では保安局の人は秘密をあんまり隠していないんじゃない?」



保安局の職員であればここにくることもあるし、彼らならば妖精を所有しているかもしれない。
そう、ここ「アクアディーネ」は会員制高級プールとは名ばかりの、国家をバックに持つ正義の味方の連合組織、通称『保安局』の施設―――国民の血税、実に累計165億もの巨額の費用を投じて作られた、正義の味方を自国へ取り込むための保安施設の一つなのだ。

当然、あたりを見渡せばおそらくライダーだとかレンジャーだとかいった普段は素顔を隠しているであろう人々が、のびのびと羽を伸ばしている。
中には調子に乗って変身して水上を走り回っているようなものすらいるが、それすらも周りのものは笑ってみている。


そういうことを思いだすと同時に、沙織はココに来るきっかけとなった出来事へと思いをはせた。
それすらもすべてある男の手のひらの上だということを知らない沙織にとっては、それほど悪い思い出ではなかったのだから。




次の話へ

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誤字報告です

×いつも通り機嫌よさ下に自分勝手に自分の日常を方って満足する。
○いつも通り機嫌よさげに自分勝手に自分の日常を方って満足する。

×それすらもすべてある男の手のひらの上田ということを知らない沙織にとっては、それほど悪い思い出ではなかったのだから。
○それすらもすべてある男の手のひらのうえだということを知らない沙織にとっては、それほど悪い思い出ではなかったのだから。
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プロフィール

基森

Author:基森
蚕鳴や円禍と名乗ってたこともあります。

主に小説・ssなどを置いているブログです。

自前の本棚を持つのは初めてなので手探りでやっている程度のものですが、わずかばかりの暇つぶしにでもなれば幸いです。


メールは「kulukku106☆yahoo.co.jp」まで、☆を@に変えた上でお願いいたします。

そろそろ、非営利にならトップへのリンクフリーとか言ってみたり。

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