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ドラゴンに首ったけ11

その11







「御主人様、大変です!!」
「どうした、クー。珍しく、そんなに泡を食った様子で?」


最初にどこを破壊すればラ・ロシェールがいい感じに半壊するものかと竜の姿をとっての偵察から帰ってきたブラッドが、未だ生贄や侵入者がその本性に戻ったあとのブラッドの房事の荒々しさになれるほどこなれていないことから、仕方なく前の巣からクーに呼び寄せさせた『ある少女』を組み敷き終わっていちゃいちゃしていた中、なぜかこんな最中に飛び込んできたクーにのんきな声をかけた。

最近ごくまれに言い訳程度の侵入を掛けて来るレベルの低い地方領主軍やこっちは割りと侵入してくる何かを勘違いしているような冒険者を何とか効率よく排除するためにそれなりにモンスターの配置も終わって、一週間以内には街を襲わなければ赤字になってしまうかもしれないが、とにかくやれることはすべてやり終えた。ようやく巣もうまく機能し始めたと思った矢先の話だから、それも無理はない。ブラッドは、完全にしばらくはやることが終わったと思っていたからこの少女を呼んだのだから。

しかし、そんなのんきなブラッドにクーがちょっとだけだが怒りを覚えるほど、状況は切羽づまっていた。


「侵入者です!」
「? 侵入者ならいつもどおりにすればいいんじゃないのか」
「いつものレベルじゃありません。たった二人ですけど、とんでもない手練です! すでに第二、第三モエルモン隊、第一忍・ザ・ブラック隊、第二ダークマジシャン隊、第二ファニードラ隊、第二ハラミボディ隊がやられました!!」
「何ぃ!」


ありえない報告を聞いて、ブラッドの目が見開かれる。

街を襲撃した結果現れる、C・Dクラス程度の侵入者であればあしらえるように虎の子の貯金をはたいて購入した守備隊が、こうもあっさりと空へと消えたと聞いてはそれも無理はなかった。
その合計金額だけで、いくつかの村や街を襲わなければ補填できない。加えて言うなら、今はモンスターを召喚し、施設を建造したため宝物庫がほとんど空っぽであることを思えばのんきにしてはいられない。こうしているうちにもさらに守備部隊がやられ、宝物庫が荒らされてしまうかもしれないのだから。今の財政状況では、一人でも宝物庫にはいられれば破産は免れまい。


「いったいどんな奴らなんだ?」
「見た目は中年の男女一人ずつの魔法使いペアです。ただ、今までの侵入者とはランクが3つ4つほど違います」
「げっ………そりゃ今の魔物じゃ歯が立たないはずだな。今、どの辺だ?」
「一直線に向かってきていましたから、回り道になる方向へ誘導しましたが……おそらく今頃はもう中央は突破しているはずです」
「……仕方がない。竜の間・裏に特級漆黒騎士部隊たちを展開させろ。加えて残りの全モンスターを他の部屋に一気に投入しろ!」


この巣始まって以来の緊急事態に、ブラッドの顔が引き締まる。そして告げた命令は、いつものようにわずかなリスクを残すことでコストパフォーマンスをあげるものではなく、絶対の安全を保障するものだったが、ほんのちょっとだけクーは顔を曇らせ確認する。


「特級漆黒騎士部隊は本日休暇をとっていたはずですが、よろしいですか?」
「ああ。せっかくわざわざこっちの巣に呼び寄せてやったんだ。せいぜい今までの恩を返してもらおう」
「承知いたしました」


そういって一礼すると、クーは入ってきたときとは裏腹に丁重にドアを閉めて出て行った。
特級漆黒騎士部隊。前の巣から最近わざわざ引き抜いてきたこの部隊は少々特殊な経歴を持つ部隊だったが、その戦闘能力は折り紙つきである。ブラッドが用意した保険のひとつだった。
主が命じたこの部隊が出さえすれば、ここまで侵入者が入ってくることはありえないとクーは99%の確信を持っていたために、その足取りに入ってくるときにあった不安はない。


だが、ブラッドもクーも油断をすることは無かった。かつて物事に絶対はないと、今、主の横で急いで鎧装束を纏い終え、命令を待っている『ある少女』―――この眼前の女剣士によって証明されたことがあるのだ。
絶大なる能力を誇る竜が建てた、堅牢きわまる竜の巣とて、たった一人の人間にすら壊滅させられかけることだってあるのだ、ということを。


「行くぞ、フェイ」
「はい、ブラッド様」


敵前逃亡をした臆病者の娘としての汚名を濯ぐため、自らの誇りを賭けて竜に挑んだ結果として、所属は違えど誰かを守るための誇りを手に入れた、ブラッドの騎士ともいえる存在を後ろに引き連れて、ブラッドは戦闘指揮用の竜の間へと向かった。





転がり落ちる岩は相手を押しつぶすのに後一歩というところまで迫ったにもかかわらず砕かれ、つり天井は二人を押しつぶす直前に溶かされ、落とし穴はいったんは侵入者を落としたものの相手に底の槍が刺さる前に魔法で飛ばれ、落ちてきた檻は捕らえたと思った瞬間、相手がただの人形へと変わった。

ベトが、あっという間に輪切りにされた。ある程度の再生能力を持っているはずのその魔物は、その力をまったく発揮することができずに死亡した。
デーモンスピアはその翼を根元から風の刃で切り落とされ、地面に激突した上で大地から生えてきた石の槍で串刺しにされた。
イモモは、自慢の魔法が効かないはずの体を二人掛かりで瞬時に生み出された下半身だけの金属ゴーレムですぐに踏まれ、障壁による反発力と地面との間に挟まれ、動けなくなったところを夫人の懐刀であっさりと切り捨てられた。
ファニードラは侵入者が部屋に入ってきた瞬間斬りつけたが、確実に当たったはずのその一撃はなぜかその侵入者の輪郭がぼやけることで相手を消滅させ、その次の瞬間に切ったはずの相手とまったく同じ姿をした女性の放ったであろう大気の弾丸で吹き飛ばされた。
ハンマースイングも、その単眼めがけて高速で飛来する数十発もの氷の矢をかわしきれず、悲鳴を上げて逃げ去った。
モエルモンは突撃を掛けて自らにも火の粉がかかるほどの至近距離で火炎魔法を放ったが、あっさりと水の魔法によって消され、逆に投げられた薬品から生じた爆発によって跡形もなく燃え尽きた。

魔物たちの命を掛けてすら、彼らに傷以上の損害を与えることはできなかった。

ブラッドの巣に配置されたありとあらゆる魔物とあまたの罠を蹴散らして前進していた二組の男女は今、もってきた最高級の水の秘薬を使って、傷を癒していた。勿論、ヴァリエール公爵夫妻その人らである。家にあったありったけの火の秘薬や水の秘薬、代々伝わる価格もつけられないような高価なポーションなどの薬品類や、大枚をはたいて購入したスキルニルなどを惜しげもなく駆使して、二人は巣の中をガンガン進んでいっていた。
自宅を魔物で満たすような連中だ。会話や交渉でルイズが帰ってくるはずもないと思ったため、初めから強行突破を図っていた。


ここの場所を突き止められたのは、山でまきを拾っていたときにルイズらしき少女がここに運び込まれるのを見たと、近くに住んでいる村の住人が証言を残したからだ。ルイズの髪はかなり独特な色合いをしているため、カリーヌの髪を見せて確認したうえに、身分を隠して質問したため褒美欲しさに嘘の証言をした可能性も低いだろう。加えて、最近この当たりでエルフらしき影をよく見るため、怖くて近寄れない場所があるとくればもう、ここで確定だろう。そのため、二人の顔には疲労の色が濃くても、まだ絶望に染まりきってはいなかった。
ここに運び込まれる時点では、エルフによって殺されていなかったとの確認が出来たのだ。きっと、きっとまだルイズは生きている。


「いくぞ」
「ええ」


言葉少なに声を交わした二人は、ゆっくりと扉―――ブラッドたちに竜の間・裏と呼ばれている最後の防衛線となる部屋の扉―――を空けた。

だが、その部屋にいたモンスターは、今までのように不意打ちを仕掛けてくることはなかった。
それどころか、不敵にこっちを見つめて、こちらの構えが終わるまで仕掛けてくることもなかった。
さらに言うなら、今まで最低でも5体以上で部屋に待ち受けていたモンスターたちが今回はたった二人しかいなかった。
外見も、今までのモンスターとは明らかに違う者もいる。
すべてが今までつぶしてきた凡百の雑魚とは違うと、雰囲気で訴えかけてきていた。


二人のうちの片割れは、流れるような長い金髪に青い瞳、メリハリの効いた体をした女剣士のように見える。今までのいかにも魔物、という感じの防衛者とは異なり、外見は完全に人間のようである。耳も尖っていない。ただ、髑髏のついた軍服を着崩したような衣装の袖から見える、むき出しの骨そのものの両腕がなければの話であるが。彼女は、ホーンちゃんと呼ばれるレアモンスターである。

そして、その彼女を守るかのように前に立っていた、真っ黒な鎧を身に着けた、これまた真っ黒な骸骨、漆黒騎士と呼ばれるこれまたレアモンスターが大剣をすらりと抜き放って、夫妻に声をかけた。


「まったく。せっかくのハニーとの休暇だってのに、野暮なまねをしてくれるな」


その額に十字傷をつけた骸骨が、そういってからからと笑った。その恐ろしげな形相とは裏腹に、その声はどこまでも軽かった。


「喋った!」
「ゴーレムが?!」


今まで戦ってきた魔物の中では、このように流暢に人語を操るものはいなかった。それがための驚愕だったが、その骸骨はそんな二人の反応をまるきり無視して、隣にいた金髪のモンスターに声をかける。


「ハニーはそこで俺の雄姿を見ていてくれよ」
「勝手にすれば?」
「おっけーおっけー、ハニーがいわゆる『ツンデレ』ってやつなのは、十分理解してるからな。そんな冷たい言葉をかけられても、めげないぜ、俺」
「……はぁ」


骸骨と金髪のモンスターが行う会話は非常に馬鹿っぽい。だが、その構えた姿に全く隙が見られないことから、夫妻は全く油断しなかった。
そしてその警戒は、十分報われた。


「それじゃ、いいとこ見せますか」


そう骸骨が言ったとたんに、二人の前にいきなりそのおどろおどしい顔が現れたのだ。まさに一瞬、あっという間に数メイルの距離を魔法も使わずその踏み込みのみで無にした。骨だけで出来ているのが信じられないほどの速度だった。
あわてて夫人が風のラインスペルで二人の位置を瞬時に三メイル先に移動させるが、その判断は正しかった。骸骨の振り下ろした剣によって、ついさっきまで夫妻がいた場所の地面が一瞬のうちにはじけ飛んだ。


「おいおい、思ったより速えーじゃねーかよ」
「……強いぞ、気をつけろ」
「ええ………こんなゴーレムが存在するなんて」
「ごーれむ?」


なるほど、二人で同時にかかってこないわけだ。これほどの速度と力を持っているのであればレベルの低い魔物であれば足手まといにしかなるまい。
自分たちが大枚をはたいて購入したスキルニルはおとりや罠の解除ぐらいにしか使えないにもかかわらず、この骨型ゴーレムは喋ることは愚か、メイジに匹敵するほどの戦闘能力を備えていることに、夫妻から驚嘆の声が出る。夫人が風の偏在を出して前衛を勤め、公爵が強力なスクウェアスペルで漆黒騎士を狙い打つが、それすらもさばき、はじき、反撃してくる。
そこには魔物ゆえの身体能力だけではない、今までの相手にはなかった確かな「技術」が存在していた。

無論、万全の状態であれば、二人とも王国を代表する強力なメイジであるため、二人掛かりでそこまで苦戦することはなかったのかもしれない。

しかし、狭い洞窟、薄暗い空間、連戦に次ぐ連戦、相手の雰囲気、それらがまとめて夫妻に襲い掛かってくるのだ。
スクウェアメイジ二人とはいえ、決して洞窟に入ったときと同様の余裕が今もあるわけでもない。正確なマッピングの技術を持たない二人では、先に進むためには適当に進んで出てきた魔物をすべて殲滅するしかなかったということも消耗を尋常ではないほど加速させた。
特にカリーヌは消耗が激しかった。彼女は風のスクウェアメイジ。範囲と射程が売りの風の属性の中でも、王国始まって以来の天才と呼ばれたメイジだが、そのカリーヌをもってしてもこんな密閉空間ではカッター・トルネードのような大規模魔法は使えない。
かつては火竜の群れを丸ごと叩きのめしたその腕前は、ルイズが中に捉えられている洞窟の中ではほとんど発揮できなかったのだ。
その結果、偏在やエアニードルのような小規模範囲魔法を白兵戦で何十人もの魔物相手にこの洞窟に入ってから連発しているだけあって、精神力はさておきそろそろ中年も過ぎる体力が限界に近かった。

もともと竜の巣は、少人数の侵入に対する持久戦には強い。そのため、お互いに注意を呼びかけあって、集中力の維持に努める。


だが、それを聞いた漆黒騎士は、眉はないが雰囲気的にそれを顰めて、初めて夫妻の声にこたえた。


「おいおい、俺は土人形なんかじゃないぜ。今でこそ、こんななりをしているが元々は人間なんだぜ?」
「!!」
「禁呪!?」
「おお。連隊長さんやボスはそんなこと言ってたな」


始祖ブリミルの時代には、現代では考えられないような魔法―――現在では禁呪や邪法と呼ばれ、発見されたものは国によって厳重に管理されるような魔法―――も存在したといわれている。骨のまま生かしたつづけたり、生きた人間をそのまま魔物に変える術とてあったかもしれないと問いかけたところ、漆黒騎士はあっさりと肯定した。
もっとも、彼の言う禁呪とは、連隊長クーの故郷である魔界において最高位の魔族が使う特殊な魔術のことだったのだが、まあ意味的には大差ない。


「始祖ブリミルの時代より、今になって何故動き出した!」
「はあ? 俺が連隊長さんにこの姿にしてもらったのは、つい最近だぜ?」


が、お互いの認識には大いに差があった。

ハルキゲニア世界の現在において禁呪による魔法生命体(スキルニルのような擬似生命体ではなく、物に知性すら与えることに成功したもの)など、古代の遺跡などにわずかに残る超高品質のゴーレムぐらいしかない。
だが、ブラッドやクーなどの属する世界においては、現代でもごくごく当たり前とまでは行かないまでも、金さえ出せば買える「技術」である。

そのため、いまいち会話がかみ合わない。
それでも、剣撃の音を交えながらの会話は続く。


「お前とて、生前は高名な剣士だったのだろう。このような身の上で、後悔はないのか!」
「ああ、ないね。まあ、大英雄ガンジェットの名をしらねえやつは、まあ一流を名乗る冒険者にはいなかっただろうがな」


彼の今の名は、ガンジェット・ブラックナイト。
元人間であり、神官騎士メルティナ、重戦士ランバートらと共に、竜すら屠るといわれた超一流の冒険者、大英雄ガンジェットの成れの果てである。
それがこのような場所で、よりにもよって狩るべき立場の竜にこき使われているのである。世間的に言えば身を持ち崩したといわれても無理はない。

ちなみに彼がこんな姿になった経緯は、


「何故君は一向に俺に振り向いてくれないんだ?」
「あなた、敵じゃない」
「オーケイ、敵じゃなきゃいいんだな。あ、そこの魔族のお姉さん、なんでもするから、俺をここで雇ってくんねえ? 俺の名前はガンジェットっつうんだ」
「どうします、御主人様?」
「……ガンジェットといえば聞いたことがあるな。かなりの腕利きとの噂だ。裏切る様子がないなら、かまわないと思うが」
「まじで? やったぜ、これでいいだろ?」
「仲間になった根性は認めるけど、人間は嫌」
「あ~、ボス。人間じゃなくなるようなマジックアイテムとか持ってねえ?」
「……クー。宝物庫にある禁呪を出してやれ」
「はい、でも、いいんですか? これ、かなりの高級品ですよ?」
「働きで返してくれるんだろう? …………これで裏切れなくなるしな」
「ああ、なるほど」
「ま、期待しといてくれ。これで交際を申し込んでもいいだろ?」
「………今後の働きしだい」
「おっしゃー、ついに俺にもチャンスが!! バリバリ働くぜ!」


というものである。
そう、彼は愛のためにその身を化け物に堕としたのだ!! たった一人の愛しい人のために。

……阿呆である。
命がけでルイズを取り返しにきたヴァリエール公爵夫妻と相対するには、あまりに阿呆なその理由だが、本人はいたって真剣であった。
だからこそ、エルフからルイズを取り返すまでに、少しでも力を温存しておきたいために放ったカリーヌの説得は、全くの逆効果として現れた。


「な………どうして、そんな姿になってまで命令を聞こうとするのです! あなたをそんな身に貶め、そのような魔物に対する恋心まで植えつけられ、利用されるなどと剣士の誇りが「ああ? てめえ、今、なんっつった?」……!!」


人の価値観はそれぞれ。
生死を賭ける冒険者家業の中でようやく見つけた、種族すら超えた己の中では絶対といえる愛なのだ。それを魔法により惑わされているなどといわれることは、少なくともガンジェットにとっては許せないことだったらしい。今まで以上に剣撃の回転をあげていく。
時にはこぶしで、時には鎧で、カリーヌが周囲にまとう偏在を消し去り、本体を守る風の防御を切り裂いていく。


「ハニーに対する気持ちは人だったときからだぜ。この体にしてもらったことだって、俺の意思だ。ボスに感謝こそすれ、恨むわけなんてねえだろうがよぉ!!」


そういうと、今まで以上の鋭さでカリーヌを攻め立てる。もはや、公爵の魔法など避けようともしない。カリーヌに対して接近戦を仕掛けることで出来る限り打たせないようにし、間を縫って放たれたスクウェアスペルすら、その体でもって受け止める。それによる骨だけになっている体を動かすための生命力の減少など、気にもしない。
岩をも砕く魔法を打ち込まれることよりも、己の信念を汚されたまま放置する痛みの方が大きいのだ。

それはまさに、獣の巣をつついた状態。
己の子を守るため、命がけでこの竜の巣に挑みかかってきた夫妻が疲労に取り付かれる前の状態であった。ガンジェットにすれば、この愛こそが夫妻の「ルイズの存在」に匹敵するほどの大事なものであるのだ。
失敗した、と二人が思っても、もはや放たれた言葉の矢は取り返しがつかない。

剣撃がさらに加速する。

夫人を援護しようと魔法を放ちながらも叫ぶ公爵の声に、ガンジェットも大声で答える。


「そんな体が嬉しいのか!」
「ああ、嬉しいね。人間らしい食事も! 睡眠の取れる体も! 人の温もりも! それで彼女が手に入るんなら、喜んで捨ててやらぁ!!」
「ガンジェット……」


一般の人間から見れば、百人中九十九人が選ばない道であっても、それを選んだたった一人を間違っていると非難する資格なぞ、誰にもありはしない。現に、ホーンちゃんの気持ちは徐々にガンジェットの直向さに傾きつつある。

それに気づいた婦人が顔を歪める。確かに軽率な言葉だった。
だが、だからといって夫妻が負けるわけには行かなかった。彼らにも、譲れないものがあるのだから。
そもそもいくら疲れきっているとはいえ現時点ではほぼ王国最強のペアである二人に、如何にガンジェットといえどずっと圧倒したままあっさり勝てるわけがない。
剣戟を交わす二人の奥から、公爵が背中に背負ったバックから道具をいくつか取り出して声をかける。
ガンジェットの誇りを認める大貴族とは思えないほど愁傷な声音とは裏腹に、その内容は勝利宣言だった。


「君の誇りを汚して悪かった、ガンジェットとやら。改めて詫びさせてもらおう。そして、あらかじめ詫びておこう、すまなかったと」
「だが、私たちにも譲れないものがあるのです」
「ルイズを助けるためであれば、どのような汚名でも着よう。卑怯といいたければ、言うがいい」
「閃光よ!!」


ガンジェットの注意がカリーヌ一人に集中している間に、公爵の準備は終わった。最高級の火の秘薬を、持てるだけの数を取り出して、詠唱も加えてガンジェットのほうへと投げる。そしてその瞬間、何も言わなかったにもかかわらず示し合わせたようなタイミングで、カリーヌが突如膨大な閃光を生み出す。


「!?」
「ハニー!!」


それは、うつろな光が眼窩をてらすだけのガンジェットはさておき、魔物にもかかわらず網膜と水晶体からなる通常の瞳を持つホーンちゃんの視力を完全に奪い去った。

そして、次の瞬間、杖を掲げて公爵の詠唱が終わった。
風、風、水、土という相反する属性すらを重ね合わせた、超高難度のスクウェアスペル。
公爵が最も得意とする、純然たる身体加速によって桁外れのスピードを生み出すその魔法を持って、公爵は前にいたカリーヌを抱えて、いったん部屋の外へと脱出した。
無論その魔法は、虚無魔法による身体加速などとは比べ物にならないのであろうが、少なくとも目がくらんだ少女を心配した魔物の隙を突いて離脱することを可能とするほどには、公爵自身の速度を圧倒的なまでに引き上げたのだ。


あとに残ったのは、二人の魔物と、ガンジェットの近くに飛んできていた、公爵のこめた爆裂魔法が発動寸前の火の秘薬――――すなわち、強力な爆弾だけだった。


「やべえ!!」


彼一人であれば、そのスピードを持って全速で離脱することも出来た。
だが、彼の後ろには、最愛の相手が視力を失い、現状を把握できずに棒立ちになっていたのだ。
避けられるはずもない。

そこまで計算して爆薬の位置を置いた二人に、骸骨のみの体では持つはずもない舌を人間の頃の癖で舌打ちをしながら、ガンジェットは飛び込んだ。




先ほど確認したところ最上級の魔法攻撃でも破壊できなかったはずの洞窟が、公爵家に家宝として伝わっていた秘薬を使った魔法によってわずかに震えるのが、ヴァリエール夫妻にはわかった。

二人掛りでかなわず、不意打ちをし、しかも戦闘にかかわっていなかったものを狙い撃ちにしする。
貴族の誇りのかけらもない、下劣極まりない手段だったが、それでも勝利を確信した二人はそのことを後悔することはなかった。ヴァリエールの誇りすら、二人はルイズのためなら捨てて見せる。
扉越しにでも聞こえてきていた鈍い爆発音が、ゆっくりと収まるのを待って二人は再び扉を開けた。


扉を再び開いて部屋に入ってきた二人が見たものは、二人とも吹き飛んでいるだろうという予想していたものとは少しだけ違っていた。

あの一瞬でガンジェットが己を動かす全生命力と魔力を持って己の体を盾にするため爆発を腹の辺りのみに押さえ込んだのであろう。
ばらばらになった骸骨の全身の骨と鎧、そして奇跡的に無傷だった頭蓋骨を胸に抱いて、未だに完全な視力は回復していないであろうにもかかわらずこちらをにらみつけるホーンちゃんの姿だった。


「くそ、しくじったぜ、やってくれたな」
「喋らないで、力を無駄に消耗する」


驚いたことに、ガンジェットは頭だけの状態になり、力をほとんど使い果たしていても生きて(?)いた。
その状態で夫妻に向かって罵声をたたくが、その体がない以上、もはや戦闘不能であることは間違いない。その頭蓋骨の眼窩の奥で光る暗褐色の光にも、力がないことからもそれは読み取れる。

そしてそれは、当初の予想の二人とも吹き飛ぶという結果がなかった以上、公爵夫妻にとってもその次ぐらいに好都合な結果だった。


「さて、残るは君一人だ」
「油断はしません。そして、容赦もしません」
「君が避けるというのであれば、その抱えた頭蓋骨を狙うまでだ。そして今度は完膚なきまでに破壊する。その剣を持った片手だけでスクウェアメイジ二人を支えてみるかね?」


疲れきった体と無理な加速により悲鳴を上げる体を気力で隠して、遠まわしにそこをどけと伝える二人。
彼らの目的はルイズ奪還だからそれも当然である。たとえ娘と同じぐらいの年頃の見える相手であろうと、容赦をするつもりはなかった。

ベトやリトルハットなどの雑魚モンスターとは一線を隔する能力を持つとはいえ、ホーンちゃん自身の能力はガンジェットと比べてかなり劣る。
何せブラッドが彼女をここに配置したのは戦力としてではなく単なるガンジェットのやる気を引き出すため、ブースターとしてなのだから。
当然その忠告は聞かなければ多少は相手を消耗させ、最良でも一人を道連れに出来たとしても最終的な結果は変わらないと理解できたが、それは出来ない相談だった。


いまさら聞かなければよかった、と後悔しても遅いのだが、彼女は宝物庫にほとんど金銭がないことを主から聞いて知っているのだから。


彼女たちは竜の巣を守るために商会によって作られた、人工生命体である。
当然、彼女たちの至上命令は、竜の巣の死守である。しかも今は、赤字になるか否かの瀬戸際。それを守らないで逃亡など下場合は……おそらく、ガンジェットともども記憶も想いも初期化されるだろう。

主である、ブラッドはやらないかもしれない。
しかし、その部下であるクーは、ブラッドの利益を損なってこの巣を失うことになり、強いては商会の信用を落とすようなことの切っ掛けになったものに容赦などすまい。
擬似的な感情が与えられてはいるものの、彼女たちは結局売り買いされるただの駒なのだから。

ここは引けない。だが、死ぬわけには行かない。
己のみであれば不死身の特殊能力によって耐えることも出来るかもしれないが、それではこの瀕死のガンジェットを守りきることは出来ない。
ホーンちゃんは必死で頭を回転させた。

そこには間違いなく、ガンジェットが望むものとは若干違う形かもしれないが「愛」があった。

そして、先ほどガンジェットが命がけで稼いだ時間で、一筋の光明を見つけた。
この機転こそが、主より擬似的な知性と感情を与えられている彼らレアモンスターの最大の武器である。
だからこそ、可能な限りの武器を使ってホーンちゃんは二人を攻め立てることに決めた。


「まって、あなたたちの目的は、さっき言っていたルイズ、という少女ね」
「ルイズのことを知っているのか!!」


駆け引きの最中であるにもかかわらず、感情を表に出してしまう公爵。
だが、カリーヌも似たような表情であり、とがめることなど出来なかった。

それを見て、交渉次第では何とかなる、と顔色を明るくするホーンちゃん。


「ええ、あなたたちがいうルイズという少女が、桃色の髪をした口やかましい少女ならね」


そういってカリーヌのほうへと意味ありげに視線を向ける。
その、ルイズによく似た色の髪が動揺で揺れる。

その意味に公爵夫妻はもちろん気付いた。


「人質のつもりか!」
「そうね、あなた達流に言うなら、謝りはするが、止める気はないってところね」
「くっ………」


しくじった、と顔の全面で表現する公爵。
いままで出てきた魔物はわずかな感情や仲間意識はあるようでも、高度な知性を持つものはいなかった。そのため、ルイズのことを交渉に使うことなど夢にも思うまいと思って、つい油断して気合を入れるときにルイズの名前を使ってしまった。そのことに、いまさらながらに後悔する二人。

ルイズに危害を加えられる前に、この少女の姿をした魔物を殺すことは出来るかもしれないが、相手にヒントを与えてしまったのだ。この戦いが監視されている可能性を無視して、ルイズの命をチップに賭けを張ることは出来なかった。
進むことも、引くこともできずに動きが止まる二人。

だが、ホーンちゃんはそのかわいらしい口元を、優位に立った嘲りではなく、これで戦わないですむという安堵の感情で歪めた。


「冗談よ。ここにはもうその少女はいないわ」
「なんだと!!」「なんですって!!」
「昨日、連隊長がラ・ロシェールという街に連れて行ったと聞いているわ。あなたたちと私たちが戦う理由はもう無い筈」
「な……………」


思いもよらない情報に絶句する公爵だったが、カリーヌのほうは同姓ということもあって、女は顔色一つ変えずに嘘をつけるということより、そこまで信用していなかった。
が、いもしないルイズという少女を人質にして二人を倒す危険を帯びた選択肢ではなく、煮るも焼くも十分な情報を与えた上で主に選択権を委ねるほうを選んだホーンちゃんはすぐに切り替えした。


「何を持って、それを信じろというのです?」
「何?」
「証拠でもあるのか、と聞いているのです」
「……そうね、あなたたちが杖を納めるというのであれば、我が主の下へと連れていくよう進言するわ。あとは御主人様に聞きなさい」


要するに、戦わないでここを通すといっているに等しい。無論、上層部の判断次第になるが、これ以上の被害も主は望むまい。こちらにルイズを殺害した、などというやましいところはないのだから、ブラッドやクー自身も戦いを続けるぐらいであれば、とっとと帰ってもらおうと判断するだろう。
そう思って、二人に話を持ちかける。


そして、モニターで見ていたブラッドとクー、そして通信機で連絡を受けながらも夫妻とほぼ同時に侵入してきた雑魚たちをなぎ払うため竜の間から少し離れた部屋を動けなかったフェイもその提案に内心よくやった、と褒め称えていた。
まさかガンジェットが敗れるとは思ってもいなかったため、彼らは結構パニックに陥りかけていたのだ。奴らの目的が宝物の奪取ではないと分かっただけでも大手柄である。後はこちらの仕事だ。

そして無論、二人にとってもルイズの無事を確認することが出来るのであれば、エルフとて見逃す所存であった。
万が一罠であっても、これからこの少女と戦いを繰り広げ、さらにエルフと戦って正面突破を図るよりかは、相手の誘いに乗って罠を食い破る方がまだ可能性があると公爵は信じた。
そして、カリーヌ夫人のほうもそれに従う気配を見せた。少なくともここは無傷で突破できるのだから。


「解った。その話に、乗ろう」
「承知したわ。ちょっと待って、今連絡を入れる」


そういうと、ホーンちゃんは襟元につけた小型通信機で指令室へと連絡を入れた。
暫く後に、その場にメイド部隊のひとりがあらわれた。それにしたがって、気もそぞろに奥に進んでいく二人。


その背中に油断はなかったが、疲労は隠しきれなかった。
それを確認したホーンちゃんと首だけになったガンジェットは、もう自分達の出番はないだろうと治療部隊が来るまでじっとしていることにした。


「無茶しちゃって」
「なあに、ハニーが怪我することに比べたら、どうってことないぜ」
「私は、不死身なのよ?」
「それでも、一時であっても惚れた女の体に傷が付くのを放って置くのは趣味じゃねえ」


自身のスキルである「不死身」があるが故に、あのようなことをする必要はなかった、といったにもかかわらずガンジェットの信念が変わらないことに、彼女は口元をほころばせる。
いつもと比べて口調からツンツンさも消えていた。

これはデレ期もすぐか、と思って内心喜んでいたガンジェットだが、ここで予想外のことが起きた。


「そうね、助かったわ」
「おっ」


ホーンちゃんが、ゆっくりと顔を近づけ、ガンジェットの口に当たるところにキスをしたのだ。

首だけのガンジェットに口づけするホーンちゃん。

それは、以前ガンジェットがホーンちゃんが死んだと思ったときに行ったものとちょうど正反対の形となる、だけど同じぐらいの思いの篭もったキスだった。
すでにデレ期は到来していたのだ。


「…………単なるお礼よ」
「おうよ、ありがとな」


顔を離した死ねぬ体と壊れきった体の二人は、そのまま治療部隊が来るまでの間、ずっと心地よい無言に包まれて眠った。


ピキーン

ブラッド のステータスが更新されました。
竜の巣 に配置していた、第一ベト隊 第二ベト隊 第四ベト隊 第一デーモンスピア隊 第二モエルモン隊 第一イモモ隊 第一忍・ザ・ブラック隊 第二ダークマジシャン隊 が壊滅しました。
第三モエルモン隊 第二ファニードラ隊 第二ハラミボディ隊 第一ハンマースイング隊 特級漆黒騎士部隊 が行動不能になりました。



その12へ

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ヴァリエール公爵夫妻TUEEEEEEEE!!
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プロフィール

基森

Author:基森
蚕鳴や円禍と名乗ってたこともあります。

主に小説・ssなどを置いているブログです。

自前の本棚を持つのは初めてなので手探りでやっている程度のものですが、わずかばかりの暇つぶしにでもなれば幸いです。


メールは「kulukku106☆yahoo.co.jp」まで、☆を@に変えた上でお願いいたします。

そろそろ、非営利にならトップへのリンクフリーとか言ってみたり。

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