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ドラゴンに首ったけ10

その10













「ほ~ら、ルイズ、ちびルイズ。いい加減いつまでも篭もってないで出てきなさい!」
「ルイズ……学園なんて行きたくなければ行かなくてもいいわ。でも………お願いだから、顔だけでも見せて」
「父様や母様だって、そんなことしてても喜ばないわよ!」


ここはヴァリエール領をおさめるヴァリエール公爵の屋敷。その中の一室の前に、王立魔法研究所の期待の新星であるヴァリエール公爵家長女、エレオノール・アルベルティーヌ・ル・ブラン・ド・ラ・ブロワ・ド・ラ・ヴァリエールと、その妹であり、病弱ゆえにこのヴァリエール領からほとんど出たこともない次女、カトレア・イヴェット・ラ・ボーム・ル・ブラン・ド・ラ・フォンティーヌの姿があった。

 ある意味屋敷内に常に引きこもっているカトレアだけならばさておき、本来であれば王都に勤めているはずのエレオノールが何故このようなところにいるのかといえば、先ほどから二人が名前を呼んでいる、彼女たちの妹、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールのせいであった。
彼女が家に帰ってくるとたん、引きこもっているのだ。






話は、ラ・ロシェールが襲撃される前にさかのぼる。


エレオノールは、その職場との通勤の関係上、基本的に王都で一人暮らし(使用人は空気同然なので数に入れない)をしている。が、一研究所の職員とはいえ、そこは大貴族の長女。社交界に出て貴族の淑女としての職務を果たすこともあるし、それなりのいろいろなコネもある。
その中のひとつの情報網に、なにやらありえないような情報が入ってきたのだ。
何でも、自分の妹であるルイズが、誘拐されたとか。

ルイズは、魔法学園に通っているはずである。一流になれなかった半端なメイジと、未熟者ばかりが集まっている場所とはいえ、あそこは仮にも魔法学院だ。
自分が通っていた頃と大差がないとすれば、トライアングルメイジの教員が数十人に、ドットやラインがほとんどであるとはいえ、十代ぐらいのメイジが数百人はいるはずである。そんじょそこらの要塞では太刀打ちできないほどの防御能力を持っているはずのあそこから、ルイズが誘拐されたなどと、笑い話以外の何者でもない。

そう思ったエレオノールだったが、一応気にかからないこともないので、基本的には領地にいるはずなのだがなぜか最近王都に詰めている父のところへこんな噂があるのだが、と告げに行った。勿論本気で言いに行ったわけではない。最近父のところへ顔も出していなかったし、口実代わりにでもと思ってのことだった。
だが、その話を聞いた父は笑い話どころではなかった。顔色を変え、いったい誰に聞いたのだとこちらを問い詰めてきたのだ。噂で聞いたというと、まるで噂が真実であるかのように驚愕の表情を見せ、執務室の大き目の椅子にどさりと腰を落とした。先ほどまで続けていた書類を落としたのに気付いて、あわてて拾い集めてサインを再開する。
いつもは余裕たっぷりであり、大貴族として恥じぬ貫禄で領地経営を行っている、偉大な父のこれほどまでに弱弱しい姿を見たのは、エレオノールにとって初めてだった。


「……まさか!」
「ああ、その話は本当だ。お前の耳に入っているほどに広まっているとは思いもよらなかったがな」


そう自嘲気味に笑いながら、おそらくヴァリエール家に対して好印象を持っていないものによって吹聴されているのだろうと父はいう。
その後、ルイズが韻竜を召喚し、そいつによって南の方へと誘拐された。目撃証言がラ・ロシェールあたりで途切れていることや、他国に潜む間諜からは報告もないし、あのような竜を放ったことに対する諸外国からの抗議もないため国内にはいるはずだ。と詳しい話をしながらも、書類をサインすることは止めなかったが、エレオノールはそれどころではなかった。


「父様、ルイズは、ルイズは今どうなっているのです!!」
「王国の決定としては、もはや命は諦めている。あの竜を殺すことの方が優先のようだ」
「そんな!! どうして、たかが韻竜ごときに」
「その竜は、エルフと共にいるらしい」
「!!」


エルフ。人類すべてに対する反逆者。残酷非道な性質を生まれ持ち、杖もなしに行使されるその先住魔法はメイジにとって致命的とまでいえる対抗力を持つ。

加えてルイズは本人の必死さとは裏腹に、失敗魔法しか使えないのだ。すでに人質が死んでいることが解りきった場所に加えられる国軍による攻撃など、殲滅戦しかありえない。
もちろん、エレオノールは未だルイズが生きていると信じているものの、その事態の深刻さは伝わったのか、公爵と同様に顔色が悪くなる。
それでも、何とか末の妹を助けたいとエレオノールは食い下がる。とにかく、王国による殲滅作戦が実行される前に救出を行わなければならない。


「父様、ヴァリエール騎士団は出せないのですか?」
「……正直に言ってそれほどまで強力ではない我が騎士団がエルフに勝てるかどうかはさておき、ルイズの奪還を騎士団に命ずること自体は確かに簡単だ」
「ならば……」


確かに、ヴァリエール公爵家の有する騎士団はそれほど強力なものではない。父は領地経営のほうに力を入れており、その次の世代が娘三人というのであればそれも仕方がないことだ。
それでも、いないよりもいたほうがいい、やらないよりもやった方がいいとエレオノールが言い募る前に、公爵の反論が先についた。


「だが! 逃げ去った竜は南の方へと向かったらしい。ルイズ自身が韻竜を召喚した上で、その韻竜にさらわれたのだ。「自業自得」や「厄介な問題を作りよって」という印象を大多数の貴族たちから受けている我が公爵家の軍が、「今すぐ」他領に入って竜を捜索することなぞ政治的に出来はせん。下手をすればヴァリエール公爵家による王家への反逆行為ということにされる」
「そんな…………では……では、トリステイン魔法学園側の管理責任を問うて、協力を要請することは?」
「それも可能だが、意味がない。あそこにいる教師連中は攻撃魔法や半端な錬金といった学問的な魔法しか覚えてこなかったが、軍や研究機関に入るほどの実力はないため就職できなかった落ちこぼれたちだ。そのような者など邪魔にこそなれ、役に立つとは思えん。半人前以下の生徒たちなど論外だ」


次々と案をあげていくエレオノールだったが、そのようなことなどとっくに考慮し終えたと言わんばかりの公爵にすぐに却下される。コルベールやタバサのことを知っていればまた話は別だったかもしれないが、実際に学園がそれほど頼りにならないのは、とある歴史での破壊の杖強奪事件が証明している。
とにかく理路整然と説明されて、もともと青かった顔色がさらに青くなるエレオノール。
それでは、ルイズの救出は実際…………


「そんな……ルイズを見捨てろとおっしゃるのですか!」
「………手はある」


そういって何もする気がないように見える父に対して半ば礼儀すら忘れて詰め寄ってくるエレオノールを見て、公爵は一言だけ端的に答えを発した。
只、その表情はそれほど明るいものではなかったが、一点に集中してしまうと他の物事に思考が回らないという点ではルイズによく似ているエレオノールはその表情には気付かず、初めてもたらされた一筋の光明に縋りつくような表情を見せた。
だが、その顔も長くは続かなかった。

公爵の答えが、あまりにもこっけいで、場違いで、異常なものだったのだ。


「私がいく」
「父様!!」


その一言をうけて、絶句するエレオノール。
確かに自分の父は強力なスクウェアメイジだ。生まれながらの公爵家の嫡男だけあって、正式な軍隊に個人として組み込まれ、所属したことこそないもののその魔法は強力無比。母にも並ぶ偉大なメイジである。下手なメイジが行くよりも、よっぽど頼りになる。

だが、むちゃくちゃである。
彼は公爵、しかも王家の、始祖の血を引いているほどの大貴族の一族の当主である。戦場においても矢面に立って魔法合戦を繰り広げるのではなく、間違いなく司令官として後方で幾重にも守られるべき役割だ。それがたった一人でエルフを探し当てて戦うなどと、むちゃくちゃだ。


「そんな、万が一のことがあったらどうするのです!」
「だが、これが一番の方法だ。私だけであれば他領の領主どもも娘可愛さに私が狂ったとしか思うまい……事実、その通りなのだからな。そうであれば、むしろエルフと私が相打ちになることを望むであろうからおそらく邪魔はせんし、むしろ積極的にこちらに情報を回すはずだ」
「そういったことをいっているのではありません! 父様の御身の方が……それでしたら私が参ります」
「ならん。お前たちのようなひよっこに任せられるものか。それに……娘を一人助けるために、再び娘を失えと私に言うのか」
「父様……」


エレオノールには解った。父はルイズと引き換えに死ぬつもりだ。確かに強力なメイジである彼にとって、エルフとルイズが一緒に行動しているのであれば、奪還だけならば可能かもしれない。
おそらく街中には入れず、逃げていった方向と距離から考えると山間か平原に潜んでいるであろう相手を、強力なスクウェアスペルで遠距離からルイズを奪還することも、自分では無理だが父には出来るかもしれない。

だが、それは父の命と引き換えにである。
ルイズを、小柄とはいえ人一人を抱えてエルフから逃げ切ることなぞ、どんなメイジでも不可能だ。おそらく父はルイズにありったけの魔力を込めた風を纏わせて遠距離に吹き飛ばすつもりなのだ。そしてそのあとは、ルイズを追わないように、可能な限りの時間稼ぎをして、果てる。
その覚悟がわかったのか、言葉を失ったエレオノールに公爵は不器用な笑みを浮かべて見せた。


「私はもう十分生きた。愛する妻との間に優しい娘を三人も授かったし、領民にも恵まれた。私ひとりでルイズの命が助かるのであれば、十分だ。これ以上私を悲しませるようなことは言わないでくれ」


死んでもルイズがすでに死んでいるとは認めたくないが、そのために妻や娘、ヴァリエール公爵家を危険にさらすことは避けたいのだ。生死のわからない状態であれば生に賭けるし、最悪の事態であっても命と引き換えにでも妻たちに事情がわかるようルイズの形見だけは持って変えるつもりなのだろう。公爵がエルフによって死ぬのであれば、エルフによってルイズもまた殺されていることもほぼ間違いないのだから。


「私は息子には恵まれなかったが、娘には恵まれた。お前は賢い娘だ、よき婿をとって、領地を治めることも十分可能だろう。ヴァリエール公爵家はお前が継げばいい。なんだったら、暫くはカリーヌにまかせてもいい」
「そんな………………」
「それに、私は死ぬつもりなどないよ。お前たちがそろって私の認める立派な男と結婚をし、孫が山ほど出来るまではな。だからこそ、そこにルイズがいないなんて許せん。エルフなんぞあっさりとっちめてきてやろう」


そういって見せた父の笑顔は、母カリーヌと同様に、厳しいながらも娘を愛して幼い頃から見守ってくれていた笑顔と同じだった。
その父の決意を知って、らしくもなく、泣き崩れるエレオノール。
それを見ながら先ほどから進めていた書類にサインした公爵。それが最後の仕事だったのだろう。大きな執務室の机から離れて近寄り、やさしくエレオノールを抱きしめて耳元にささやく。


「カリーヌとカトレアのことを頼んだぞ、エレオノール」


そう、一言だけ告げて、公爵は一枚の封筒―――エレオノールに贈るつもりで彼女が来る前に書いておいた、万が一のための別れの手紙と領地や財産の引継ぎの書類が入っている―――を渡すだけでもはや振り返りもせず、執務室を出て行った。その広々とした部屋には、崩れ落ちて涙をこぼすエレオノールだけが残った。




自領にもどったヴァリエール公爵はまずもう一人の娘、カトレアのところに向かい、エレオノールに対するものと同様の説明を行った。エレオノールに気付かれずに出発することが失敗した以上、カトレアにも告げずに出ることは、公平を逸すると感じられたからだ。

長女よりも性根が若干やさしく、若干心が弱い次女の説得には、エレオノール以上の時間を要した。しかし、最後には同じような展開になった。
ベッドに伏せながらしめやかに涙をこぼすカトレアを背中越しに見ながら、父と母の外見上の遺伝子を正反対に受け継いだ二人であっても、やはり姉妹とは細やかなところで似るのだな、と思いつつも部屋を出る。
これが最後に見ることになる二人の姿かもしれない、と思うと若干後悔もよぎったが、生きて帰ればよいことだ、と己をあえて鼓舞する。父として、別れで涙は見せられなかった。


この家で最後に公爵が向かった先は、自らの最愛の女の部屋だった。
ヴァリエール公爵夫人、カリーヌ・デジレは夫がそのようなことを言い出しても、流石に驚きはしなかった。
公爵も、流石は付き合いが長く、もっとも私のことを理解しているだけはあると内心喜んだが、その後夫人が旅用の旅装をさしたる時間もなしに用意してきたことには驚いた。いくらなんでも用意がよさ過ぎるだろうと。
そして、その旅装が男性用と女性用の二着あることに気付き、今度はめちゃくちゃ泡を食った。彼は独りで行くつもりだったのだから。


「どういうつもりだ、カリーヌ!」


そこから始まった喧々諤々の模様と、実に数時間にも及ぶ議論、そして最後には崩れ落ちる公爵の姿は、当時ヴァリエール家の庭師をしていた15歳の少年カールによる日記という形をとって、後の世にはのこされた。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは、本当に家族に愛されていたのだ。
冷静なる戦力判断において公爵は烈風カリンとまで呼ばれた彼の妻の力は、確かにルイズ奪還の助けとなることを否定しきることは出来なかったため、最終的にはルイズのために折れるほかなかった。

こうして、ヴァリエール公爵夫妻による、ルイズ探索隊は、本来の予定よりも同行人数を一人増やして、それでも公爵家が出すものとしては少なすぎる人数で、出発した。
目指すは、ヴァリエール公爵家を邪魔に思う地方領主の一人から寄せられた、もっとも竜のいる可能性の高い場所、タルブの村近くの山中である。


竜によってその身柄を奪われた悲劇の少女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールが、竜の執事クーによってラ・ロシェールに送り返され、そこでルイズが竜の要求を領主に伝えるよりも王宮に伝えることを優先したことによって生じた、「ラ・ロシェールの悲劇」の起こる、わずか四日前の話であった。

ピキーン

トリステイン王国 のステータスが更新されました。
ヴァリエール公爵軍(特殊) が 竜の巣 への進行を開始しました。


その11

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プロフィール

基森

Author:基森
蚕鳴や円禍と名乗ってたこともあります。

主に小説・ssなどを置いているブログです。

自前の本棚を持つのは初めてなので手探りでやっている程度のものですが、わずかばかりの暇つぶしにでもなれば幸いです。


メールは「kulukku106☆yahoo.co.jp」まで、☆を@に変えた上でお願いいたします。

そろそろ、非営利にならトップへのリンクフリーとか言ってみたり。

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