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ドラゴンに首ったけ9

その9








「エア・ハンマーッ!」
「うおりゃぁぁぁ!!」
「×××××――!!」


風のラインメイジが必死で放った魔法によって、何とか窮地を脱した農民が、斧を掲げてマッドキラーの左手のナイフを弾き飛ばす。その隙に、風のメイジが怪我をして倒れていた女性の傭兵を後ろに下がらせ、水のトライアングルメイジによる治療を施す。
だが、それを行うために精神集中を行って傭兵にレビテーションを唱えた風のメイジは、遠距離から放たれた突撃アイとモエルモンの高速魔法と弓矢の集中砲火を受けて崩れ落ちた。
もはやこの男に息はない。それを一瞬で悟った農民は、せめて傭兵の女が回復するまではとマッドキラーと激しい剣戟を繰り返すが、分類的には雑魚にあたるとはいえ、戦闘用の生物として高位魔族によって生み出された魔物であるマッドキラーと、体力だけはあるものの、今まで鍬で大地を耕していただけだったただの農民とでは、圧倒的な技量の差があった。

徐々に押し込まれていく男。
それでも必死で喰らいつくうちに、ようやく回復してきた傭兵が、片手まで回復しながら突撃アイとモエルモンのけん制を行っていた水のメイジと一瞬だけ通じ合わせて、魔物たちから以前奪った一度だけ空中で軌道を変え、対象に当たる魔法が掛けられているマジックアイテム、魔法の矢を背負っていた弓に装填して、突撃アイに集中砲火を行う。
 水のメイジが放った氷の矢の大多数は外れてしまったものの、傭兵の女が放った魔法の矢はその大きな目玉に直撃し、突撃アイは耳障りな悲鳴を上げてのけぞる。蓄積したダメージが限界に達したのか、それがとどめになったのか、不気味な両手で瞳の辺りを押さえながら突撃アイは一目散に後退して行った。




彼らは怒っていた。
親を、子を、妻を、夫を、友を、恋人を、職場を、人生を一瞬にして奪われたのだから。
大部分のものはおびえるだけだった。一瞬で街を廃墟に変えられる者にかなうはずはない、と。
無論そんなことは彼らにも分かっている。
それでも、理不尽な暴力により一方的に奪われたことを甘受出来ないものとて確かにいたのだった。

はじめは一人だった。
たった一人の平民が、こんなことを行った竜を退治しに行く、と廃墟の街で言ったのだ。
その者は歴戦のメイジでも、剣一本で戦乱の世を渡り歩く傭兵でも、不可能を可能とする英雄でもない、単なる織物問屋の店員だった。

半年前、お互い思いあっていたパン屋の少女と結婚式を挙げたばかりの単なる普通の青年だった。力になんぞ自信はなく、犬一匹殺したことはない、穏やかな青年だった。何事もなければ、新婚ほやほやで幸せいっぱいに少女の待つ家に帰って、その膨らみ始めたお腹を見ながら少女の作った夕食をすることを一日の活力にしていただけの、どこにでもいるような青年だった。
昨日までは。
だが、もはや彼を待つ少女も、彼女から生まれてくるはずだった子供もいない。
あとに残ったのは、崩れ落ち、変わり果てた我が家と、そこから徐々に聞こえなくなっていった少女の助けを求める声の残響だけだった。

周りのものは必死で止めた。止めておけ、剣も持ったことのないお前が勝てるわけがない。奥さんのことは気の毒だったが、お前が命を捨てたとしても、死んだ奥さんが喜ぶはずがない。
それよりも生きていてくれてよかったというはずだ、と。



それでも決意を変えなかった青年に、一人の老人が協力を申し込んだ。

彼はメイジだった。
すでに魔力は衰え始め、領地や家督は息子に預けてこの街の高級住宅街に一人で住み、たまにくる孫たちの相手を何よりも楽しみにしていた、これまたよくある老人だった。

若い頃よりそれほど優れた魔力の持ち主ではなかった。
王国のグリフォン隊に所属したり、近衛騎士団に所属して、誰かを守るために他人を傷つける攻撃魔法を習得しているわけではない、得意とする土の属性によって農地の土壌を改良したり街道を整備したりするだけの、ごくごく当たり前の弱小メイジ。

彼もまた、今回の襲撃によって生きがいすべてを奪われたものだった。
昨日はたまたま息子夫婦が子供をつれてやってきていたために賑やかだった屋敷も消え去り、その賑やかさを生んでいた彼の血に繋がるものはもはやこの世には一人として生き残っていなかった。

残り少ない余生を無駄に散らす必要もないじゃないか、という周囲の声も届かなかった。


言葉を失う民衆の前に、一人、また一人と集まってきた。
あるものはメイジの傭兵であり、あるものはまだ成人にもなっていない幼い少年、またあるものは単なる商人だった。そこにはメイジも貴族も平民もなかった。
共通しているのはただの一つだけ。
あの憎っくきドラゴンの襲撃によって、愛するものをすべて失いその怒りと脱力のやり場を捜し求めていた亡霊であるということだけだった。


彼らの目的は復讐だ。
無論、大多数のものは復讐が何も生まないなぞということは十分理解している。そんなことをしても死んだもの、失ったものは取り戻せないと説得してくる者たちに、彼らは悲しみを込めた目を向けるだけだった。

復讐者にとって、復讐は只それ自体が目的である。
それは、今は亡き人への思いを、自らがその人をどれだけ愛していたかということを相手に、世界に示すための単なる代償行為なのだ。
世界の一部を奪うことで、永遠に消えぬ彼や彼女の価値を世界に刻み付ける。
自らの保身だとかそういったことは一切考えずに、ただそれだけを目的にしているのだ。

ラ・ロシェールから生まれた数多の復讐者は、ブラッドの命、只それだけを狙いに巣を探し当て、進行を開始した。


戦えるものはその体が動く限り戦い、傷を負えばいったん下がり、傷が癒えれば再び竜の住まう山に挑んだ。戦うことが出来なかったものはあるものは戦えるように体を鍛え、あるものはその身をもって盾になり、ダンジョンを攻略するためにありとあらゆるものを集めてくる道具となり、武具を手に入れるための金銭へとその身を変えた。時には自ら進んでその身を囮として罠の解除のために身を投げる者すらあった。
すべてのものが只ひたすら、あの悪魔のようなドラゴンに一矢報いるため一致団結して行動を行った。


かくして、ここに数多くの復讐者が生まれた。それこそ、かつて炎蛇の生み出した惨劇などとは比べ物にならない規模で、しかも今後も増加することはあっても、死亡以外で減少することはない。
そして、それこそがこの竜の巣の主であるブラッドの望みでもあった。
こうして、かつての世界で神代の時代より繰り広げられていた人と竜との知力と体力と魔力と財力を掛けた、竜の巣における攻防戦がこのハルケギニア世界で再現される事となった。






やった、突撃アイを倒したことでこれで楽になる、と思ったのもつかの間、それと同時に部屋の外に待機していたのであろう、鰐頭の怪物が入ってくるのが傭兵の女には見えた。
その瞬間、彼女は顔が引きつるのが自分でもはっきりと分かった。


鰐頭でありながら体は人間のように二足歩行をしており、粗末な鎧に身を包んでいるせいでその鱗で包まれ、人間とは違った形にではあるが鍛え上げられた上半身の筋肉がここからも見て取れる。手に持った剣はいわゆるバスタルドと呼ばれる両手、片手のどちらでも使えるこういった洞窟では取り回しの効きやすいものである。そこまでは、巣に入ってから暫くして、今は亡き仲間のメイジが自らの身と引き換えに倒したモンスターと同じである。

だが、違うところもあった。まず、体色が違う。あれは緑色の鱗に包まれた肌だったが、こいつは青い鱗に包まれている。次に、持っている武器の数が違う。あれはバスタルドを一本だったが、こいつは二本持っている。そして何より、威圧感が違う。新米に近い傭兵である自分であっても、明らかに分かるほどこいつは強い。死を恐れるものではないが、無駄死にはごめんだ。


「た、退却!!」


顔色を変えた女を見て、事情を悟ったのかこちらも顔を青くして水のメイジが氷柱を農民と取っ組み合いをしていたマッドキラーに放ち、逃亡のための援護を行い時間を稼いだ。完全に殺すことは出来なかったが、一時的にマッドキラーの行動を封じることに成功したその攻撃だったが、その急激な事情の変化に対応できなかったのか、農民は斧を構えたままこちらをいぶかしげな目で見る。
それだけで、か細い逃亡のチャンスは掻き消えた。

そんな時間はない、速く逃げるぞ、と女傭兵が言い切る前に……………一瞬で間合いを盗んだ鰐頭のレアモンスター、ベビードラの一撃を農民は受けることとなった。
斧で防御する暇すら与えられず、一瞬にして血色の線が農民の体を斜めに走ったかと思えば、ずるり、と上半身がずれ落ちていく。それは、剣よりも魔法が発達した世界においてはめったに見ることがないほど見事な剣技だった。
ひっ、と水のメイジが叫んで体を固まらせるが、無理やりそれの背中を押して、手を引っ張り、なんとか女傭兵は部屋を脱出することに成功した。扉を閉める瞬間、あと少しの位置まで剣が迫っていたことを背後で生じた剣風でいまさらながら感じて、二人して通路の床に座り込む。

奴らは防衛を至上命令としているらしく、ある程度部屋から離れれば襲ってくることはない。それでも、二人は体の震えを止められなかった。

一緒に入った二人の人間が、この扉から出て来れなかった。
あの人のために、誰よりも大事な人のために自分も命を捨てる覚悟をしていたはずなのに、あの圧倒的なまでの力を目前にしては、自らの死というものが単なる無駄死に思えてしまう。
それでも、それでも止めることは無い。止めることは出来ない。ここで止まれば、あの暴虐非道な竜の行為を肯定したことになってしまう。あの人の死が、正しかったことになってしまう。
それだけは、それだけは認めるわけにはいかないことだった。


「…………行こう」
「……ああ」


ある程度の体力の回復と補給を行った二人は、言葉短かに声を交わした。
そして、今度は別の道を通って奥へと向かって行き……………二度と戻ってくることは無かった。

竜の巣は、今日も復讐者の命を飲み込んでいた。








「ひ、姫様!! 大変です、ラ・ロシェールが壊滅しました!!」
「!!」


謁見の間に転げ落ちそうな体制で飛び込んできた伝令の声に、アンリエッタは声を失った。周りで今年の収穫状況と現在の備蓄についての相談を受けていた枢機卿マザリーニの顔も青い。
今は始祖ブリミルの時代とはまた違った意味で戦乱の時代だ。規模の割に軍事力があるとはいえ、このトリステイン王国は小国である。地理的にゲルマニアやガリアといった二つの大国に囲まれているため、常に両大国による侵略の脅威におびえている。今までこのトリステインが無事だったのは、只単に片方がトリステインに侵略を仕掛けている背後をもう一方に突かれる可能性を嫌っているだけである、ということをアンリエッタは最近になってようやく母や大臣たちから教えられた。

そのため、そういった報告が来てもやはりか、という思いはあってもありえないと思うことはなかったのだが、疑問が生じるのはその時期だ。
ラ・ロシェールはトリステイン王国では比較的南に位置する都市である。そのため、地理的にはハルキゲニア大陸上を旋回しているアルビオンを除いては、ゲルマニアよりもガリアに隣接しているといえる。
それに、ゲルマニアは今のところ公表はしていないものの、近々アンリエッタがゲルマニア皇帝に嫁ぐ形での同盟を結んでいる。そして、トリステイン王国において王の直系の血を引くのは、アンリエッタのみ。後継者のいないこの国は、今国を実質的に取り仕切っている大后が崩御すればその次代の国王は、間違いなくゲルマニア皇帝とアンリエッタとの間に生まれた子になるであろう。すなわち、いまさら侵略などしなくてもトリステイン王国上層部はゲルマニアからの植民地となることを二十年後にはほぼ確実に認めているのである。
攻めてくるのは当然同盟を結んでいないガリアであろうし、ゲルマニア皇帝とアンリエッタとの婚約の情報を知っているのであれば、それが公にされてゲルマニア=トリステイン側の同盟が正式表明されないうちに、ということはわからないでもないが、それにしても急速すぎる。
間諜によると国内では戦争の準備を行っている気配はまるでなかったし、ガリア王は暗愚そのものだという噂だ。確かにトリステイン王国は小国であるが、だからといって一月や二月で落ちるような弱小国ともまた違う。にもかかわらず、ガリアがゲルマニアに側面を突かれる恐れを犯してまでも、いきなり戦争を仕掛けてくるなどと。


「ガリアが何故この時期に……相手の規模はどの程度なのです!」
「それが、ガリアによるものではございません!」
「なっ……」


思わず絶句する。ガリア以外の国家がラ・ロシェールを襲うことなど、アンリエッタの思い描いていたトリステインを囲う脅威の中には全く入っていなかった。
地理的に見ても、内密の同盟関係から見てもラ・ロシェールをゲルマニアが侵略することなどありえない。ロマリアも地理的にはガリアをはさんでいるため同様。アルビオンは軍事力的にはトリステインとさほど変わらない上に、現在あの国は内乱状態となっていると手の者の情報が伝えてきている。可能性は低いはずだ。残る選択肢はエルフか……………と、そこまで考えたところで、アンリエッタは「壊滅」という言葉から先日その耳で聞いた巨大な咆哮を思い出した。


「まさか……」
「ラ・ロシェールは、巨大な竜のブレスによって一撃でほぼ壊滅したとのことです! また、その廃墟には多数の見たこともない魔物が現れ、財貨のほとんどを廃墟と化した街から奪い去ったとの報告もあります。それらの魔物は、『竜に金銭を支払わなかったからこの街を襲った』というようなことを示唆する行動も行っております」
「!!」



韻竜。絶滅したと思われていた種族であったが、このたびヴァリエール公爵家三女ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールと、ガリア王国シュヴァリエ 雪風のタバサによって、使い魔として召喚されているとの報告がトリステイン魔法学園から上がっていた。
ただし、ルイズの方の韻竜は召喚こそ出来たものの契約は出来ずに、ルイズを掻っ攫って逃亡したため、ルイズを助けるために討伐命令が出ているとアンリエッタは聞いていた。状況証拠から見て、ラ・ロシェールを壊滅したのはそちらの韻竜だと見て間違いないだろう。

韻竜は、もはや絶滅したと思われていた伝説上の存在である。強烈なブレスや先住魔法を使いこなし、人語を操るなど知能も高い強力なドラゴンのことではあるが、しかしそれはあくまで風竜や炎竜など、普通の竜に比べてである。全長も文献に残っている範囲では最大20メイルほどであり、ブレスとてスクウェアメイジに匹敵する威力という程度の伝説でしかない。

非常に強力で、タバサの召喚したシィルフィードのようにメイジの制御下になければ下手な盗賊団よりもよほど危険な存在になるわけだが、断じて街ひとつを単体で壊滅させられるような存在ではないはずなのだ。だからこそ、ルイズがさらわれたと聞いたときに共にいたというエルフの方を皆が恐れていたわけであるし、エルフを倒すことに焦点を当てて討伐隊のメンバーの選出を行っているはずであった。

しかし、これはそんなレベルではない。
人間に対して財宝を要求し、街ひとつをたったの一息で壊滅させ、エルフや魔物を従えている。エルフどころの脅威ではない。
それどころか、ひょっとするとこの国にとってはガリアやゲルマニア以上の脅威になるやもしれないのだ。

そんな想像をして顔を青くしていて絶句したアンリエッタに変わって、そばにいたマザリーニがその伝令とは別にそばに控えていた部下にに命令を下す。


「すぐに陛下をお呼びし、他の大臣たちを招集せよ!」
「ははっ!!」


そういって飛び出していく伝令。それを見つめる枢機卿の額に大粒の汗が浮かび上がる。
アンリエッタの婚姻によって、ゲルマニアの庇護を受けることで属国になるとはいえどうにか国民だけは守れるはずであった今後の十年の計画が、音を立てて崩れ落ちるかもしれないのだ。
今までマザリーニが直面したことがないほどの緊急事態である。


未だ声を失っているアンリエッタを見て、何とか安静を取り戻してもらおうとする大臣の前に、先ほどとは別の伝令が走ってきて、ある言葉を伝えた。
そのものの顔はそれほどせっぱづまった感じではないので何事かと思った大臣に対して、伝令はむしろアンリエッタの方へと喜ばしい報告をするかのようにある一言を告げた。


「殿下、ヴァリエール公爵家三女ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール様がお戻りになられて、殿下への面会を希望しておられますが、いかがいたしますか?」
「!!」


今まさに話題に出ていた韻竜にさらわれていたはずのルイズの帰還。
その報告を受けて、アンリエッタは、親友の無事を喜べばいいのか、竜に襲われた国民のことを思えばいいのか、更なる不幸が襲ってきそうなこの国の未来を嘆けばいいのか、解らなかった。


ピキーン

トリステイン王国 のステータスが更新されました。
ルイズ が帰ってきました。
ラ・ロシェール残党軍 たちが 竜の巣 に攻め込むことが可能となりました。

ブラッド のステータスが更新されました。
新たに資金を 52 百万B手に入れました。
12 の捕虜を得ました。 



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プロフィール

基森

Author:基森
蚕鳴や円禍と名乗ってたこともあります。

主に小説・ssなどを置いているブログです。

自前の本棚を持つのは初めてなので手探りでやっている程度のものですが、わずかばかりの暇つぶしにでもなれば幸いです。


メールは「kulukku106☆yahoo.co.jp」まで、☆を@に変えた上でお願いいたします。

そろそろ、非営利にならトップへのリンクフリーとか言ってみたり。

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