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ドラゴンに首ったけ8

その8










「おいしいおいしいおいしい~~~」
「ああ、生きててよかった~」
「ああ、魔界にいる魔王様、そして御主人様。今日の恵みに感謝します……」
「はっはっは、そこまで喜んでもらえたら、料理人冥利に尽きるってもんだぜ」


耳の尖った魔族の少女たちが一心不乱に目の前の料理を味わい、それを作った人間の男が厨房から朗らかに笑って見守るここは、竜の巣の大食堂。主であるブラッドはさておき、基本的にここで働くものたちすべてが食事を口にする場所である。


「いや~、しっかし、連隊長さんもあんたらも最初見たときはエルフかと思ったぜ」
「ああ、何か最近よくいるよね~、勘違いする人」
「そうね。私たちはこういう種族なだけで、別に森の住人とかじゃないしね」
「別に聖地の確保とか言うのも興味ないし~」


スカウトの時には腰を抜かすほど驚いていたマルトーであったが、ここ数日でなれたのか、もはや彼女たちを恐れる様子はなかった。
彼女たちもエルフのように杖もなしに魔法を使えるらしいのだが、最近見せてもらった魔法といえば、「水を使わずコップを洗う魔法」に、「一瞬で料理に火を通す魔法」。「食品を保存するために部屋の気温を下げる魔法」に「暑いときに涼しい風を生み出す魔法」と見事に所帯じみた魔法ばかりだったことからも彼女たちの穏やかな性格がうなずける。
攻撃魔法を使えるものもいるらしいのだが、別に戦うことなどめったにないので使った覚えすらないという。それでいて、あのトリステイン魔法学校の生徒ほどおごったところも激しいところもない。
これではおびえろという方が無理だった。全員似たような顔で区別がつかないのが唯一の不満だったが、それでも最近では微妙な個性で徐々に見分けがつくようになってきた。


「別に俺としては人間食ったりしないで、俺の料理を味わって食ってくれるんなら誰でもいいぜ!」
「人間なんて食べないよう、不味そうなのに」
「そ~そ~、あ、おかわり」
「あ~、あたしも」
「あんたたち………太るわよ」
「うっ!」
「……いいの、その分動くから」


きゃいきゃいと話しながらも、それでも食事の手を止めないメイドたち。しかも誰も彼もこれほど上手いものなど食ったことがないといわんばかりに上手そうに食べる。これほど料理人として嬉しいことが他にあるだろうか?
まあ、数日前までクーの料理だったのならば仕方がないのだが、そんなことを知らないマルトーからしてみれば彼女らは実に腕の振る以外のあるお客だ。

数日前までの職場、せっかく丹精込めて作った料理の大部分を残したり、ちょっと苦味があるサラダに手すらつけなかったトリステイン魔法学園の生徒たちを思い返して、マルトーはあんなくだらない職場をやめさせてここに来る機会を与えてくれたシエスタに感謝すらしていた。

毒にも等しいクーの料理を食べ続けていたメイドたちにとって、ハシバミ草の苦さは、「むしろ玄妙な味がして珍味?」「ちゃんと植物の苦さがするだけおいし~よね」という感じだったのでむしろ当然だったのだが。


「おい、クーを知らないか?」
「あ、御主人様!」


一斉にメイドたちの視線が入り口の方に集まるのを見て、マルトーもそちらの方へ視線を移すと、そこには豪奢な衣服に身を包んだ、さえない顔の男が立っていた。


(あれが御主人様かい)


面接を担当した、本職は執事長であるクーという名の少女に連れられて一度は顔をあわせたことがある。これほどの大貴族にしては多少腰が低めだとは思ったが、それだけだった。彼もマルトーの嫌いな「お貴族様」には変わりはない。
そのため、見つめる視線がどうしても否好意的になってしまうのは否めなかった。

だが、その男はそんな視線を気にすることもなく、近くにいたメイドと普通に会話をしていた。


「クーを探すついでにちょっと小腹が空いたから、クッキーかケーキでもと思ったんだが……旨そうなものを食っているな」
「おいし~ですよぅ」
「あ、御主人様もひょっとして食べたいですか?」
「マルトーさん、まだご飯残ってる?」


マルトーの顔がこわばった。よりにもよってここに来てまで自分の食事を貴族に食わせることとなるとは。
無論、今日の料理も自信がある。手を抜いた覚えもないから当然だ。
しかし、貴族に食わせるような上品な料理でないことも確かだ。
豆と臓物の煮込みと大蒜パン、特製ドレッシングとサラダなどという組み合わせは、どう考えても貴族に出すものではない。トリステイン学園にいたときは、そして現在においても主であるブラッドには見た目も味もお上品なものを出していたマルトーだったが、ここではまずは味と量だとまるで大衆食堂のような料理を多く作っている。
そのほうが肉体労働派である彼女たちも喜ぶのだが、同じことがこの貴族の男にも言えるはずがない。

が、そんなマルトーの戸惑いなど無視して、本日の給食担当のメイドがブラッドの前に煮込みの方を出した。
おそらく、こんなもの食えるか、などといって席を立つだろうと思ってみていたマルトーだったが、ブラッドは何の躊躇もなく口をつけた。
貴族らしく基本的な礼儀作法も見事なもので、その大衆料理そのものという煮込みを優雅な手つきで口に入れたブラッドは、顔をほころばせた。


「む……思ったよりもこの肉柔らかいな」
「でしょでしょでしょ。マルトーさんこのために何時間も煮込んでたんですよ?」
「ああ。臓物は歯ごたえが好きなんだが、これはこれでとろりとして旨いな。出汁もよく効いているし、いい腕だ」


それどころか、こんなものを旨いといった。

貴族が気に入らないのは、シエスタのときに思い知ったばかりだ。
だが、こういった風変わりな貴族であれば、妥協して付き合ってやってもいいか、とマルトーも思い直す。


「連隊長の料理が止まったばかりかこんなおいしいのに切り替わってほんっと~に御主人様に感謝してます!」 
「御主人様、素敵~」
「御主人様、愛してます」
「御主人様、かっこいい~」
「御主人様、ありがとうございます」
「はっはっは、礼ならマルトーさんとやらに言うんだな」


トリステインに住んでいながら、こんな山奥に隠棲しているだけあってかなり変わり者だけはあると思いながら、マルトーはメイドたちとじゃれあうその一風変わった御主人様を遠目で眺めていた。

   ああ、ここはやはり、楽しい職場だった。


ちなみに彼は未だにここが竜の巣だということに気付いていなかった。何でこんな山中をくりぬいて巨大な居住空間を作っているのだとは思いはしても、まあ貴族だし、の一言で納得していた。
今のところは、竜の存在を知っている者は王国上層部と魔法学園、そしてブラッドが飛んでいるところを直接見たものが少々いる程度で、それほどまでおおっぴらに知れ渡っているわけではないからだ。
今のところ危害を加えられたのはルイズ一人な訳であるし。
ただ、その事実を知ることはそう遠い未来のことではない。タルブの村に帰ったシエスタからの手紙が来るまでのほんの少しの間だけ、彼はこの幸福に浸っていた。








本気で空中にいる竜には、何人たりとも追いつけない。これは、神族、魔族の中ですら常識だった。
竜族は、その卓越した知識や強大な魔力もさることながら、三大種族の中でもっとも身体能力に長けている。純粋に魔力抜きの直接勝負を行うのであれば、比類する者無き世界最強の種族といっていいし、魔力による身体能力強化を行なう場合でも、元の肉体が強靭なだけあって他の二種族とは桁外れの効果を生み出す。
それは、たとえ竜族の中でも落ちこぼれといわれているブラッドであったとしても同じだった。魔族の中でも上位に位置するクーの全速力をもってしても、容易に追いつけない速度をその翼は軽々と出すことが出来る。

その速度を持って巣から飛び立ったブラッドは、徐々に速度を緩めてやがて停止した。
地上三千メイルほどの高さで完全に宙に浮いた形となっているブラッドは、その影に気づいた眼下の街での騒ぎを確認しながらも、眉ひとつ動かすことは無かった。

それは、下からなにやら単発的に魔法が飛んできたとしても変わることは無かった。この街を治める領主が、その巨大な影に気づき、魔法を放ったのであろう。人間で言えばトライアングルに匹敵するであろうその魔法も、高度三千メイルほどにいるブラッドに当たることなどほとんど無かったし、わずかにあたったものも、オリハルコンやミスリルすらも歯牙に掛けない強度を持つ竜の鱗を貫くことは出来なかった。
絶対的に、人間では竜族に対しては力不足なのだ。

その間に、ブラッドは己の内に眠る血に語りかける。ブラッドは地上に残った八種の竜のうち、実に七種の血を引いている。おそらく世界最多の血筋の混血であろう。
雷を友とし雷雲を呼びこみ天変地異を操る電光竜、風をも超える飛行速度と超長射程のブレスを持つ烈風竜、いかなるものをも燃やし尽くす力を抱いて火山口に住む火炎竜、大地すべてを己の五体として操り、破壊不可能な巨体を持つ地砕竜、時には吹雪で列島を凍らせ時には島そのものを海底に引きずり込む水氷竜、いかなるものをも引きずり落とす重力場の吐息を持ち、光すらも吸い込む暗黒空間を根城とする暗黒竜、凶暴さとブレスの威力では竜族最強を誇る魔王竜、というどれも強力な種族の血をである。
どれも一人で人類を根絶することも可能なその力は、複雑に混ざり合っているために己ですら制御が利かぬ、ともすれば暴発の危険もある不完全にではあるが、確実にブラッドに受け継がれていた。


大きく息を吸い込む。


己の内の魔力を引き出し、それを純然たる力に変えていく。何のブレスに魔力が変わるかは完全にはブラッドにすら理解できない。それでも、確実に己がすべてを破壊し尽くす力を体内に生み出したことにかすかな満足感を覚えた。
無論それを生み出しただけで己の内で消化してしまってはわざわざ人間の魔法使いで言うところの何百人分もの魔力を使って生み出した意味が無い。これはもっと純粋に、人と同じ姿に封じられる前の竜族が嫌った本能のひとつを呼び起こすために使われるのだ。


巻き起こすのはありとあらゆるものを巻き込んで電光を交えて爆ぜる吐息。
それを願ってブラッドは大きくブレスを吐き出した。


そして、それは……………ブラッドのはるか下に位置する街、アルビオン大陸とトリステイン王国を結ぶ空船の集う港町、ラ・ロシェールに向かって一直線に放たれた。一応ブラッドの望みどおり電光竜の比重に偏ったそのブレスは、全体的に金色の光を放ちながら、街に直撃した。当たった箇所から巨大な爆発が発生するのを見ながら、ブラッドはそのブレスの発射口である頭部を動かして、街全体をなぎ払った。

それは、スクウェアクラスのメイジが岩から切り出し、固定化の魔法を掛けたために巨大戦艦の砲撃を受けても壊れないはずの建物群も、古代の世界樹(イグドラシル)の枯れ木をくり抜いて作った立体型の桟橋も、長年を掛けて作られた空飛ぶ船も、あるいは秘薬を扱う薬屋も、貴族の作った豪奢きわまる屋敷も、単なる平民の民家も区別することなく、一切を破壊しつくした。

一瞬の内に一部では平民やメイジがその圧倒的なまでのエネルギーの直撃を受けて蒸発し、一部ではその五体を保ったまま逃げ切ったものの遅れてくる爆風に全身を爆散させ、一部では飛んできた瓦礫で四肢の一部を失なった。そこには、スクウェアメイジだとか、平民だとかいう区別はなかった。
絶対者、ドラゴンの前にはそのようなもの意味がないのだから。


「ぎゃああああああ! 腕が、俺の腕がぁぁ!!」
「あああああ!!」
「だれか、だれかこの子に回復魔法を!」
「う………ううぅ」


そこらじゅうで衝撃波によって量産された半死人がうめき声を上げたり、ブレスの余波で崩れた建物の瓦礫の中に埋まった己の赤子を必死で取り返そうと運良く難を逃れた妊婦が素手で瓦礫を掘り起こしている。何が起こったのか全く理解できずに、崩れ落ちる建物の前で呆然と立ちすくむ中年の男性もいた。
 親を亡くして泣き叫ぶ幼子に、子を失って泣き叫ぶ翁。燃え上がる建物から必死に人を救い出そうとするものがいれば、崩れた屋敷跡から早くも掘り起こした財宝を奪い合うものもいる。

今まで確かに人々の生活の場となっていたその場所は、一瞬の内に――――ブラッドのせいで――――阿鼻叫喚の地獄と化した。人々の長年の営みが、竜の文字通りの一息で灰塵と化したのだ。



それを上空で見ながら、何の感慨も持たず、しかしある種の爽快感を伴ってブラッドは満足そうにうなずき、大きくひとつ雄たけびを上げる。
その圧倒的なまでの音の暴力に、被災地にいた者は愚か、遠く離れた町に住んでいたものすら震え上がった。しかし、一瞬にして何百もの命を奪い、一瞬にして数千の恐怖を生んだブラッドの顔は、自らの罪深さにおびえるでもなく、無益な殺生をしたという後悔でもなく、ただ久しぶりに力を存分に振るえたという喜びに染まっているだけだった。

こうして、初めて炎竜や風竜、韻竜などとは絶対的に違う「竜」という存在が、トリステイン大陸に刻まれた。

画してブラッドはいい汗掻いたぜ、といわんばかりに翼を翻して巣へと戻っていった。
普段は自らの愛人であるユメの頼みを聞いて、出来る限り人を殺さないようにしているブラッドだったが、今回は自らの存在をこの世界すべてに知らしめるためということでいつものように手加減など行わず、完膚なきまで破壊しつくした。
そしてそのことに対して後悔もなかった。彼にとって、これはほんのしばらく前までいつもよく見ていた竜によるごくごく当たり前の風景なのだから。こうしてブラッドはこの世界での始めての「竜のお仕事」を終えて、巣の方へと向かって帰っていった。




あとに残ったのは、山ほどの死体と瓦礫、それに仲間入りしそうな重傷者に呆然と立ち尽くすもの、泣き叫ぶもの、火事場泥棒を始めるものと…………新たに街に入ってきた、全身に黒衣を纏い、その周囲に魔物を引き連れた異形の集団だった。

その異形たちがまずは一仕事、と初めに向かったのは、そこらじゅうで火事場泥棒を行っているものたちのもとだった。牛頭、髑髏面、単眼と明らかに人にあらざる容姿の怪物たちは、一瞬でそれらの元へと駆け寄り、彼らに弁解の時間も与えずに弾き飛ばした。頭を打ったり、邪魔だとばかりに放たれた打撃や魔法によってそれらのものが悲鳴を上げたりしたとしても、一顧たりもしなかった。
そして、その男たちが持っていた財宝の類を黒衣の集団が回収していく。その後も、巨体が建物跡をひっくり返してあらかたの財宝も集めていく。そこに死にかけた老人がいようと、赤子の遺体があろうと、嘆願する少女がいようと関係なく、一切の感情を見せずに回収して、去っていった。
あとに残るのは死体とうめき声と泣き声と瓦礫だけだった。ブレスによって大概のメイジが戦力の大半を失っても、なおあきらめなかった一部の抵抗するものすべてを、その人と比べて圧倒的な力でなぎ払って奪っていく。元々ラ・ロシェールにはそれほど強力なメイジがいないこともあって、あっさりとそれら駐在軍やここに拠点を持つ貴族の生き残りは崩されていく。
そしてそれら以外の、突如襲ってきた圧倒的な力によって、その生活基盤のすべてを揺るがされた大部分の人々は、その暴挙を黙ってみているだけの気力しか残っていなかったために、彼らに襲われずにすんだ。
抵抗しなければ、その行動を邪魔するようなことをしなければ、発掘現場に巻き込まれなければ、死なずにすむとわかったことも彼らの回収作業を邪魔しようとするものの気力を削いだ。何せよくわからないうちに目の前が火の海になっており、それをほうほうのていで生き延びたのだ。さあ、これから襲ってくるモンスターを倒すぞ、という気分になれるはずがなかった。



……こうして、廃墟よりあらかた財宝を奪いつくした彼らがそろそろかという無言の意思疎通をして、最後にひときわ巨体な緑色の肌をした単眼の巨人が、ずっと背負っていた立て札のようなものをこの街の中央部の大地に打ち付けてその一切の行為がようやく終わった。
その立て看板にはこのような文字が大きく刻まれていた。


「竜に対する敬意を拒みし街、ここに沈む」


これが、後にハルキゲニア大陸すべての市民と国家を震え上がらせる『竜の大略奪』の始まりであった。




魔法によって魔物たちを操り、集めてこさせた財宝を転移魔法で魔物たちごと回収したクーは、ようやく始まったブラッドの二度目の巣作りの成果に顔をほころばせながら、メイドたちにこれらのものを宝物庫に運ばせるように指示していた。
その顔を、帰ってきた主人に十分な報告が出来ることでほころばせながら。


他の竜がいないために貴重な財宝を高確率で入手できるこの世界は、実にブラッドやクーにとって稼ぎがいのある『楽しい職場』だった。


ピキーン

トリステイン王国 のステータスが更新されました。
竜の襲撃 により 生産性 が 32 下がりました。
治安 が 42 下がった。
士気 が 8 下がった。
資金を 567 百万B失った。
ラ・ロシェール が 半壊しました。

ブラッド のステータスが更新されました。
魔力 を 316 失いました。
新たに資金を 567 百万B手に入れました。
恐怖 が一気に 125 上がりました。
左待機 迫る壁の罠 二段構えの攻 竜の間・裏 が設置されました。


その9へ

Comment

No title

ひどいwwwwwww

No title

そうだよな
原作でも人間サイドはこんな感じなんだよな
非公開コメント

プロフィール

基森

Author:基森
蚕鳴や円禍と名乗ってたこともあります。

主に小説・ssなどを置いているブログです。

自前の本棚を持つのは初めてなので手探りでやっている程度のものですが、わずかばかりの暇つぶしにでもなれば幸いです。


メールは「kulukku106☆yahoo.co.jp」まで、☆を@に変えた上でお願いいたします。

そろそろ、非営利にならトップへのリンクフリーとか言ってみたり。

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