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ドラゴンに首ったけ6

その6











趣味のいい最高級の調度品が整えられ、なおかつ広々とした空間を確保している一室に、二人の男女の姿があった。いまさら説明するまでもないが、この部屋の主であるドラゴンのブラッドと、その僕である魔族のクーの姿だった。
クーは、数日間の調査で判明したこのハルキゲニア世界についての報告を行っていた。


「……さらに言うなら、私たちギュンギュスカー商会の者は、士官以上の者には最低でも魔界―人間界間の転移魔法の習得が義務付けられていますが、その転移魔法を使用する際の座標指定も、今までのエルブワード王国付近の数値とはかなり異なります」
「つまり?」
「はい。以上のことより、ここは今まで竜や魔族の手が入ったことがない、前人未到の僻地です」


月が二つ見える。魔法体型がかなり異なる。社会制度がかなり独特。レグルリアのようなかなり好戦的な国家の侵略が、噂程度でも出てこない。竜の伝承が全く違う。三界を巻き込んだ大戦争の歴史が全く残っていない。大陸では統一されているはずの度量衡が違う。共通通貨が使われていない。
加えて上のようなことなどを報告にあげていき、ここが今まできたことがないほど「ど田舎」であると結論付けるクー。
それを聞いてブラッドは、また変なところに来てしまったとこれからの巣作りの困難さ(ここの連中は竜の脅威を知らないのだから!)に顔をしかめたが、考えようによってはリュミスの思いもよらない場所に来れたのだとポジティブに考えて、顔をほころばせた。


そんなころころ変わる主の顔を見つめながら、クーは別のことについても報告を始めた。彼女が行うべきことは報告であり判断ではないのだから、ここで巣作りを中止するとブラッドに言われない限りは出来る限り巣の運営がスムーズになるようにしなければならない。
次々と報告を行っていく中、話題がここ二、三日ほど完成したばかりの捕虜部屋で、第一号の住人となっているルイズのところまで転がってきた。


「つまり、生贄じゃなかったということか。しかし使い魔とはな……」
「彼女によると、契約の口付けを行った時点で本来であればルーンが刻まれて、使い魔として命令に従うべきだ、とのことですが」
「怖っ! なんなんだそれは。竜権侵害だぞ!!」
「私に言われてもこまります」


お前らが言うな、というような会話を平然と続ける二人。まじめに人権ならぬ竜権などと語ってしまうその姿は、どう見ても先祖の代々からの略奪者には見えなかった。
あわてて自らの手を改めて確認して、何も浮き上がっていないことに安堵の息を吐くブラッド。そんなもん刻まれてはたまったものではない。
両手の甲を一通りこすった後、ふと気づいたかのようにあることを述べ始めた。


「というか、ある意味召喚されたのが俺でよかったな。リュミスにそんなことを言ったらと思うと、ぞっとするぞ」
「ですね。リュミス様にそんなことを言ったら、たぶんその場は皆殺しの上、絶対にこっちにとばっちりが来ますからね」
「ああ。というか、多分今のこの現状を知られた時点で、竜をなめるなと連中を皆殺しにしたうえで、なめられるようなことをするなとこっちも半殺しにされるような気がする」


あの竜族最強、たった一人で天界魔界を恐怖のどん底に陥れるブラッドの許婚のお嬢様リュミスベルンは、知恵と力を持った最古の竜の血族であるが、同時にすごく気も短い。人間「ごとき」に僕になれ、などといわれたら、その瞬間王国全土が焦土と化すことだろう。
さらに言うなら、同族がそんな扱いをされたとなるとその同族自体も竜の恥さらしとして殺しかねない。
現状を万が一でも知られたら、機嫌を損ねたとばっちりが来ることを想像してしまったのか、二人は仲良く頭を抱えて震えだした。


1分後、ようやく我を取り戻したクーがいまだに震えているブラッドの後頭部をどついて、正気に戻らせる。


「と、とにかく、使い魔なんぞ却下だ。だいたい、連中が俺を使役したいというのは分からんでもないが、こっちのメリットは何なんだ?」


うわさによると、婚約者から捨てられたり、巣の経営が上手くいかなかったり、生殖能力がなくて村を間接的に追い出されたりして落ちぶれた竜が、その絶大なる力を求める国などに、非常に高額な賃金で雇われることもないことはないと聞いている。
しかし、召喚されたあの場にはそのための財宝が積み上げられているわけでもなかったし、あの少女の身なりも一つ目の巣の成功による竜族の中でもわりと経営上手として近所でも評判の、莫大な財産を持つブラッドを使役できるほどよくはなかった。

それなりに上等な貴族の学校であるトリステイン学園の制服も、公爵の娘であるためにかなりの金額を掛けられているルイズの身につけていた私物も、流石にブラッドのものほどではない。何せ、竜は財宝を集めることが仕事なので、身なりに金をかけたとしてもそれは目減りしたのではなく、財宝の形が変わっただけである。
服や装飾品なども「財産」にはかわりがないのであるし。

というか、トリステインという国自体が小国なので、その公爵令嬢というのは一般庶民の感覚からならばさておき、世界的に見てしまえばそれほど財を持っているわけではないのだ。これがガリアの王族であれば多少は話が別であったかもしれないが、小国であるトリステイン王国の公爵家の当主ですらない三女、しかも半ば勘当同然の身では望めぬことだった。


「はあ、衣住食と名誉だそうです」
「何だそれは、ばかばかしい」


衣住食はどれも持っている……と、彼はこの時点では思っていた。食う寝るヤるの三拍子のブラッドは、その中のひとつが致命的に欠けている、いまだ自分のおかれている危機的状況に気づいていなかったらしい。
まあ、それはさておき、最強種族ドラゴンたるブラッドを雇うには、ルイズが提案したものはあまりに不足な対価である。ブラッドは取り合う気は全くなかったし、クーもそのような提案に主が乗るはずがないとわかっていたのでスルーして、自分の推測を交えた使い魔の儀式について語る。


「どうも、基本的に知的レベルの高くない生き物を召喚して使役するもののようですね。私たちの呼ぶモンスターみたいなものだと」
「俺は魔物扱いか? ……いくら混血だとは言え、ここまで馬鹿にされるとは」
「それをいったら私だってそうですよ。ま、彼女どうやらまともな魔法は何一つ使えないみたいなんで、偶然に偶然が重なってのことでしょうが」


流石に自らが使役している魔物と同格だと思われるのは気分を害した様子のブラッドだったが、クーの言葉に何とか怒りをかき消す。
何せ混血ゆえの不安定。怒りを契機にどんな能力が発動するか全く予想もつかない以上、出来る限り精神の安定を保たなければならない。

だが、次の言葉は竜にとって許せるものではなった。


「彼女、まだ御主人様に使い魔になりなさいとか叫んでますけど、どうします?」


彼ら竜種にとって使い魔にあたるものは、竜の騎士ただひとつ。
それは、神聖にして、絶対の契約だ。
騎士には竜の命を預けるにふさわしい生き方、力量、知性が要求され、時には婚姻よりも重視される、己と小さき者を対等と認めたときのみに結ばれるその契約を、たかが魔法使いごときが勝手に要求するとは………ブラッドのこめかみに青筋が立つ。
だが、その怒りのままに振舞うのは、自称:紳士のプライドが許さないらしい。


「…………ここにいきなり呼び出しておいてその言い草は正直かなり不快だが、望んでとどまっている生贄でもなければ、一応巣への侵入者でもないからな。無理やりというのは気に食わんな」
「では?」


基本的にブラッドは侵入者に対しては己の命と財貨を狙った敵であるとして容赦はしないが、立ち去ってもよいといったにもかかわらず、生贄として自らを志願したものなどにはある程度はやさしい。敵に対しては残酷に鞭を、しかし自らに従うものには飴をとまで考えているわけではないが、生来それほどまで残酷な性格ではないのだ。

そのため、必死で怒りを抑えようとするブラッド。
自らを召喚するという無礼は働いたものの、未だ敵というほどまでのことをしていないルイズを、侵入者たちと同等に扱うことは彼の中のルールに反するため、気が向かなかったようである。

が、いくらなんでも勝手に召喚したあげくに次に続いた言葉がそんなものでは、ある程度のくすぶる怒りは収まらなかったのだろう。竜の中では比較的温厚な普段に比べて、幾分か残酷な指示がその口から飛び出す。


「ああ……帰してやれ。そうだな、そのついでに俺の目的と要求も教えてやれ、街の連中にも知らせるようにいってな。それでも街が貢物をよこさないようであれば、まずはあの娘が辿り着いた街から攻めることにしよう。その頃には巣の設置も終わっているはずだしな」


そういって笑うブラッドは、紛れもなくこの竜の巣の支配者だった。
そして、頭を深く下げるクーもブラッドのその顔が好きだった。
彼らは間違いなく、人間ではないのだから。






「御主人様、竜っぽくて素敵です」
「御主人様、すご~い」
「御主人様、かっこいい!」
「ふっ、当然だ」


が、メイドたちのこんな台詞にあっさり乗るようでは、相変わらず威厳が足りないなあ、と思いながらも、それでもクーはこの絶対生物ドラゴンの割には気さくで威張らない自らの主人が愛しかった。結局のところ、彼らにシリアスは似合わないのだから。






ところ変わってこちらはハルケギニア側。


「竜……ですか?」
「はっ! それも只の竜ではございません。身の丈40メイル、全長100メイルほどの巨大な韻竜でございます」
「はあ」


トリステイン王国王都トリスタニア。
そこに立てられた豪奢極まりない王宮の中央会議室の上座にて、トリステイン王国王女アンリエッタは戸惑いの声を上げていた。父が崩御し、空位ながらも母が王国を守り立てている中、何も知らん振りをして姫らしく遊んでいるほどアンリエッタは愚かではない。

とはいえ、経験不足著しいため今現在外交を担っている母の補佐として比較的変化の少ない内務の政務を担当している中、いきなり「王国内に竜が出没しています」などの報告をうけてアンリエッタは戸惑った。そんなこと今まで処理したことのない案件だったからだ。
しかし、続く言葉で普段アンリエッタを補佐してくれる重臣たちが驚きの声を上げるのをみて、これはずいぶんな重大事件だと気を引き締めなおす。
絶滅したと思われていた韻竜が我が国で見つかったことを、吉兆だと思ってほころばせていたものもいたが、報告使の表情から、何か予断を許さぬ事態が起こったと感じたものがほとんどだった。


「トリステイン魔法学園の進級試験にて、使い魔召喚の儀式を行ったところ、生徒の一人が韻竜を召喚し、その韻竜が暴走。我が国の南の方へと逃げ出した模様です」


幻獣の中でもトップクラスの能力をもつ韻竜、しかもそれの中でも規格外のサイズが我が国の領土で暴れ回るかもしれないときいて、先ほどは喜ばしいと笑っていたものも即座に顔を引き締める。
アンリエッタ自身も、これは大変なことが起こったと即座に被害状況を確認する。そのサイズであれば食料を求めてさまよい、どこかの街に居座るだけでも相当の被害が出るだろうと思ったからだ。

が、そのために問いかけた被害状況の質問の場面にいたって、そこで出てきた名前は彼女が思いもよらないものだった


「今現在は、その竜によって出た被害はないのですか?」
「その……トリステイン魔法学園の生徒の一人、ヴァリエール公爵のご令嬢がその竜に誘拐されたとのことです」
「え? ル、ルイズが誘拐された!」


瞬時に顔色を青くしたアンリエッタを見て、アンリエッタとルイズの関係を知っているものは王女への悪影響を考えて顔をしかめ、そうでないものもなんとなく事情を察して困った事態が起きたと推察を重ねる。


「ルイズは、ルイズは無事なのですか!?」
「公爵令嬢は、その……韻竜に協力していると思われる……その……」
「はっきり言わんか! 殿下の御前であるぞ!」


何故かいい篭もる伝令。すかさず、大臣の一人の叱責が飛ぶ。この伝令も、一応下級貴族のメイジであったため、国の一大事と自らの個人的感傷を捨ててはっきりと伝えなおす。


「はっ! 失礼いたしました。トリステイン学園側の教師が公爵令嬢様を最後に確認した時点では、韻竜にしたがっていると思われるエルフの魔法に掛けられているようでした。その時点では、意識は失っていたものの外傷は見受けられなかったとのことです!」


一瞬で会議場を包んでいた沈黙が絶叫をも含んだざわめきに取って代わられる。巨大韻竜だけならばさておき、よりにもよってメイジの天敵であるエルフまでいるというのだ。口には出さないものの、その場にいた者は皆、ルイズという少女の生存を絶望視していた。

無論、エルフだからといってティファニアの存在を知っているものならば分かるとおり、すべてが人類の敵というわけではないため、この時点で思考を放棄するのは下級貴族や学園の学生ならばさておき、そうでないことを知っていながらエルフは人類の敵であるとした支配者層の立場のものが行っていい行動ではない。
しかし、エルフが人間の天敵であるとプロパガンダされてもう長い。彼らは、父や母からエルフは敵であるとずっと言い聞かされてきたのだ。本当は、以前の支配階層のものが自らの地位の安定のために言ったことであったのに、今や支配階層である彼らたち自身もその「エルフは敵だ」という台詞に踊らされている。
統治のための手段が、いつの間にか絶対の常識に変わっていた悪い例であった。
未だ現実のものとして存在する種族であるエルフ、という存在は伝説上の存在である韻竜の暴走よりも危機感を煽ることとなったのだ。

だが、仮にそのことを知っているものがいたとしても、この状況に変化はなかったであろう。
それほどまで、水面下でいろいろはあったとしても今までは暫定的にだが平和だった状況を崩すほどその報告は衝撃だったのだから。


「ああ……なんということでしょう。始祖ブリミルよ、どうかルイズをお守りください」
「殿下、お気を確かに……」
「おい、伝令! 典医を呼んでこい」


その中でも、アンリエッタの驚きはただ事ではなかった。瞬時に取り乱し、気を失わんばかりにうろたえるアンリエッタを見て、慌ててアンリエッタ付きの医師が呼ばれて、会議が一時中断される。



やはりアンリエッタはまだ甘い。

報告を受けて気絶するほどのショックを受けて椅子に座り込んだ姫を見て、大多数の貴族はそう思った。
いくら友人とはいえ、王族がそうそう一人の貴族を重用するべきではないし、それは置いておいてもこの場において友人を助けたいならばまずは我々に指示を下さねばならないのだ。改めてそう思う重臣も多かったが、幸いなことに王家に対する忠誠心の高い貴族がそろうトリステインにおいては、いつかは王族に取って代わってやる、というよりも、圧倒的な経験不足により未熟なアンリエッタ姫を我々が補佐してやらねば、という気持ちになった者が圧倒的多数だった。

そして、少数派のアンリエッタを打倒することで王権を狙う者も、将来の自分の領土に竜やエルフが堂々と居座ることを好ましく思う者もいなかった。
そのため、ルイズを案ずるあまりに気絶しかけながら、典医に付き添われながら会議室を後にしたアンリエッタの思いをよそに、彼らは速やかに竜を討伐するための対策を考えながら、ルイズを切り捨てるということで方針を一致した。

かくして、トリステイン王国の大后マリアンヌのもとに届いた報告は、以下のものだった。


「トリステイン学園から暴走した韻竜がエルフと共に逃げ出しました。このまま放置していれば、王国全土に不安の種がまかれることになります。各地の領主に、討伐命令を出すことをお許しください」


ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの名前は、そこにはなかった。ヴァリエール公爵すら、それを受忍した。いくら出来損ないとはいえ、いや、だからこそ公人としては可愛い娘を見捨てる決断すらエルフの存在はさせたのだった。
竜だけであればそのようなこともなかったかもしれない。
しかし、王国はブラッドたちの認識とは裏腹に、エルフの方を竜よりも恐れていた。そしてそれは、この世界共通の認識でもあった。


その報告にも気づかず王宮の一室で寝込んでいたアンリエッタが、トリステイン王国のとある場所から来た竜の目撃証言と共に、行方不明だったルイズがその街で無事に保護され、帰ってきたという報告を受けたのは、倒れた日から一週間ほどたった日だった。




その7へ

Comment

設置おめでとうー♪+誤字報告

 設置おめでとうー♪

 いやー、一読者としても良作がまとめて読めて有り難いですよ。


 誤字報告

 アンリエッタを妥当

 アンリエッタを打倒

 ではないか、と。

誤字報告

ヴァリエール公爵すら、それを受忍した。

ヴァリエール公爵すら、それを受任した。

です。

No title

やっぱ面白いなぁ
もっと早くに出会っていれば!
非公開コメント

プロフィール

基森

Author:基森
蚕鳴や円禍と名乗ってたこともあります。

主に小説・ssなどを置いているブログです。

自前の本棚を持つのは初めてなので手探りでやっている程度のものですが、わずかばかりの暇つぶしにでもなれば幸いです。


メールは「kulukku106☆yahoo.co.jp」まで、☆を@に変えた上でお願いいたします。

そろそろ、非営利にならトップへのリンクフリーとか言ってみたり。

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