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ドラゴンに首ったけ5

その5












「ねえ、ドラゴンさん、お話しましょ?」


いきなり虚空から自分に対する呼びかけが聞こえて、ブラッドは思いっきり面食らった。具体的には咽喉を潤していた水でむせるぐらいに。
きょろきょろと辺りを見回すと、自分の足元に人間の少女がいることに気づいた。
格好の悪いところを見られたとあわてて取り繕うが、何よりまず呼びかけられたのだから返事を返さねばならないと思い直す。
とりあえずやけどの痛みは治まってきたがなんだかどっと疲れたので、人間と話しながら休憩するのかもいいかと思い少女のほうを注視した直後、今度はブラッドの目も驚愕で見開かれる。
それでも、何とか精神を立て直したブラッドはその驚きを隠すように諾と返事を返す。


「話してもいいが、何を話すんだ?」
「!!」


テファは声をかけこそすれ、それは爬虫類好きの飼い主がペットのトカゲに話しかけるようなものであり、まさか竜が本当にしゃべれると思っていなかったので驚きに目を丸くして絶句するが、ブラッドはああ、声がでかすぎるのかと勝手に勘違いをして、自らを人間体へと変える。
その場にほっそりとした容姿と王侯貴族でもかくやといわんばかりの豪奢な生地を使って作られた衣服を着た青年が姿を現したことに、先ほど以上にテファが目を見開く。彼女は一応メイジというか、魔法使いだが、このような姿を変えるような高度な魔法など見たこともなかったため、ドラゴンへの畏敬の念がいっそう強まる。
それと同時に人型になったため、目線が大地の高さに近くなったブラッドも、大地への感謝の念を送っていた。


「すまなかった、人間には大きすぎる声だったな」
「……あ、あの。わたし、ティファニアっていいます」
「俺はブラッド。この姿のときはブラッド=ラインと名乗っていることもある」


ごくごく普通に自己紹介をして、ごくごく普通に名乗り返される。身内である子供たち以外には絶対にそんな人いないと思っていたにもかかわらず、このブラッドという男は自分を恐れる気配もない。
きちんと自分のほうへと目線を向けてくれている(何故だか若干目線が下向きのような気もするのだが)。


「えっと、ブラッドさんは竜……よね?」
「さっき見ていた通りだが」
「竜って、人型になれるの!!」


またもやこのような反応が返ってきたことにブラッドは内心ため息を吐いた。本気でリュミスアイドル化計画を練らねばならないかもしれない、などと考え始める。なんとかしてマイトにその役目を押し付ける方法はないものか、などと頭の片隅で思考していたが、それはほんの余技でしかなかった。
ブラッドは思考の90%以上は視神経から送られる情報を脳裏に刻み付ける作業に費やしている。


とにかく今はこの胸を観賞することに、全力を挙げるべきである、と。




そう、ブラッドは男のサガと戦って負けたのだった。
今のブラッドの頭の中には、「おっぱい万歳」「大地よ、ありがとう」の文字しかなかった。彼の知り合いには巨乳の女性が多かったが、それでもここまでの一品は未だかつてブラッドが収穫したことはなかった。
とはいえ、里では他の女に色目を使っていると許婚にぶちのめされていたので、あくまでさりげなくを装ってだが。


「あ、ああ。最近の竜はなれるんだ」


全然装えていないブラッド。
もはや生返事を返すだけとなっている状態だったが、それにも気づかずテファは「へ~、すご~い」などという声を上げてはしゃいでいる。
今まで男の目、というか身内以外の目というものを意識したことがなかっただけあって無防備にもほどがあった。

ゆれるゆれる。
もはやこの域にまでなると、エロスよりもむしろ心の和みを感じるブラッド。


「そういえば、その耳。森の住人だったんだな」
「ふぇ?」
「ああ、すまん。この世界ではエルフと呼ぶ方が一般的なんだな」


とはいえ和んでばっかりもいられないので話題づくりに相手のことも話してみる。
耳だけ見ればクーたちのような魔族の可能性もあるのだが、雰囲気や魔力からしてそれっぽくないので消去法で確認するブラッド。まあ、耳の形も魔族とは若干違うし、その推論事態は的を射たものであったのだが、この世界ではエルフやハーフエルフは化け物とよばれることはあっても森の住人と呼ばれることはないため一瞬反応が遅れるティファニア。 が、次の瞬間、顔を真っ青にしながら耳を押さえて蹲る。

この耳こそが、彼女の不幸の始まりであり、両親に愛されたという誇りなのだから。

流石にここまで過剰な反応を返されれば、基本的に弱者の気持ちを汲めない種族であるブラッドにも、何か悪いことをいってしまったということぐらい分かる。そして、彼は巣への侵入者は別としてドラゴンの中でも他者を気遣えるほうだった。
リュミスだったら他者への気遣いなぞ存在しない。このあたりに種族的な男女の差というものがよく現れていた。


「ど、どうしたんだ? 何か悪いことでも言ったのか? 実はエルフじゃないとか」
「……え?」


その反応は、テファが予想していたものではなかったが、望んでいたものだった。エルフ(正確には人間とのハーフエルフ)であると知っていながら、己を恐れもしない。
その正体がばれるたびに悲鳴と石を持って追い立てられてきたテファにとって、その反応はありえるはずのないものだった。
耳を押さえることをやめ、胸の前で腕を組んでブラッドに質問するが、返ってきた反応も己を恐れる気配はなかった。それもそのはず、ブラッドはこのティファニアという少女をはぐくんでくれた大地への畏敬の念に思わず跪きそうになるのに抵抗するので必死だったからだ。


「ブラッドさんは……怖くないの?」
「……何がだ?」


ハルキゲニアにおいて、大部分の土地を支配する人間たち。その勢力の基礎となっている、支配階級のメイジにとって、自らの使用する魔法よりも優れた先住魔法を、杖もなしに行使するエルフは、優れた能力に対する恐れと、支配階層であるという矜持を完全に破壊する脅威の存在である。
加えて、ハーフエルフは先住魔法を使える。すなわち、平民とエルフの間に出来た子供は、メイジをも凌駕する魔法を使える才能を先天的に与えられる。
これは脅威である。魔法が使えるということをアドバンテージとして、平民に対して支配体制を敷いている貴族たちにとって、平民の間にも魔法が使える手段を与えるのは、自らの平和を脅かしかねない非常に危険な状態である。

そのため、どの国家においても現在の政治体制の長たちによって、「エルフとは、人間の敵そのものである」というプロパガンダがなされている。そのため、ろくな教育も受けられていない平民たちの間においても、それは浸透しており、エルフと思われただけで恐怖と憎悪を向けられる。
すなわち、ここハルキゲニアにおいてエルフとは、恐怖の代名詞であると同時に迫害の対象である。

にもかかわらず、エルフの何が悪いねんと訳わからんちんな表情をしているブラッドは、明らかにこの世界においては異質であった。
人によってはあほの子のように見えるであろうその態度は、しかし今のテファには限りない安心感を与えた。


「えへへ、なんでもない。それより、ドラゴンってみんなブラッドさんみたいなの?」
「どういう意味だ?」
「えっと……みんな、変身できて、その……怖いものとかなさそうな」
「俺が怖いのはリュミスだけだ」
「……リュミス?」


そんなに胸を張って言うことではないにもかかわらず、許婚が怖いときっぱりと言い張るブラッド。彼のイメージする結婚生活はいったいどんなものなのだろうか。いい加減に心配になってくる。
だが、幸いなことにテファはリュミスのことを知らなかったために、ブラッドのことを許婚から逃げる情けない男だとは思わなかったようだ。まあ、本当にリュミスのことを知っていたならば、ある意味間違ってもそんなことは思わないだろうが。


「でも………たとえばエルフって、人間を食べるとか思われて、すっごくひとに嫌われているのよ」
「俺も人間に怖がられたり、嫌われたりしているが、そもそも人間に恐れられない竜のほうが明らかに駄目だろう」


リュミスのしつけの恐怖を思い出して、いまさらながら震えるブラッド。
人間に舐められなどしたら、今度こそ三度目の命の危機だ。

それゆえの略奪者としてはある意味当然の発言だったが、只エルフというだけで人間に迫害され、つらい思いをして生きてきたテファとしては驚きの連続だった。怖がられるほうがいいという価値観は、テファにはさっぱり分からないが、この男が自らと似たような境遇にいることは分かったのだ。

思わず自分がいつも思っていることが口から飛び出てくる。
その思いは、どうすればそのように強く生きられるのか、ひょっとすると、自分の同類がこの男なのか、というたらされた細い蜘蛛の糸のようだった。


「つ、つらくない? 寂しくないの?」







「? お前の言うことはよく分からんな。確かに気分はよくないが、俺の巣を荒らす人間なんぞに怖がられようが何がつらいんだ? そもそも、お前だって同族の友達ぐらいいるだろう」


だが、その一言で細い糸がぷつんと切れる音をティファニアは確かに聞いた。彼は私の同類ではないと、はっきりと告げる音を。
テファは自分とブラッドとの差を今この瞬間に悟り、浮ついた気持ちが元に戻るのを感じた。


「あ……そ、そうだよね」
(ああ、そうか。この竜さんには、同じ竜のお友達がいるんだ)




いいな、友達がいて。

彼は、エルフとして生きることで人との生活を捨てきることも出来ず、その耳によって人の中で生きることも出来ない自分とは、違う。中途半端な合いの子、ハーフエルフのティファニアとは違うんだ。
たとえ人から嫌われようとも、確固たる己を確保できる人間(?)関係を、きちんと築けているんだ、と。


「そうだよね……お友達がいれば……さみしくなんてないよね」
「? おい……」
「わ、私、もう帰らなきゃ。じゃあね、ブラッドさん」


そういってあわただしく後ろを向いて持ってきていた洗濯物をしまって、帰り支度をするテファ。

どこかで選択肢を間違ったような気配を感じるブラッドだったが、いったい何が悪かったのか分からない。まさかこの少女がずっと孤立無援の一人ぼっちであり、己と友のいるブラッドとを比較して、一人落ち込んだなぞと気づくはずもなかった。
しかし、このまま放置していくのはいかにも雰囲気が悪い、何とかして声を掛けなければ、と悩むブラッドに、その気配に気づいたわけでもあるまいが、涙を押し殺して精一杯明るい声を出して、最後にこちらに振り向いたテファのほうから声を掛けてきた。


「ねえ、また……あってくれる?」


惨めな自分を感じながらも、涙が勝手に零れ落ちそうになりながらも、それでもようやく手に入れた、他人との平和な日常会話のぬくもりを手放せないテファ。
短い時間ではあったが、ブラッドと交わした会話は、間違いなくティファニアが恋焦がれていた友達との会話だったのだから。

それはきっと、本来であれば出会うはずの少年の立場である「初めての友達」というポジションをブラッドが奪った為の、間違った好意だ。
ブラッドのやっているテファの価値観からすれば悪鬼のごときその所業を知れば、きっとそんな気持ちなど持ちはしなかっただろう。

だが、今まで友人を得られたことのなかったテファにはそれが間違っている、ということさえもわからなかったのだ。


(これからも会うたびにつらくなるんだろうな。それに、こんな勝手に落ち込む子にこんなことを頼まれても、きっとブラッドさんも迷惑だよね)


そうおもって、振り返るまでの短い間に何度も口に出さないでおこうと考えた。それでも、振り返ったときには気づかぬうちに声に出していた。
だからこそ、返事で肯定されたときの一抹の悲しさと寂しさをふくんだ喜びは格別だった。


「ああ……別にかまわないが」


そして、だからこそ基本的に雑事はクーに任せているため、それほど忙しくもない、むしろ暇なブラッドが、なんの気負いもなく単に遊び半分で答えたこととの対比がいっそう物悲しい。


「あは、ありがと」
「だが、連絡手段がないな。今度会う日を決めておくか?」
「大丈夫だよ、ブラッドさんおっきいから、来たらすぐに分かるもの。じゃあね!!」


そーですね、でももっとおっきいのがあなたです。去っていくテファの背中越しでも大きく揺れているのを見て、思わず反射的に口にのぼせかけたるブラッド。
が、自称紳士としての沽券に掛けてなんとか食い止めて、呆然と立ちすくむだけで収める。

テファと比べてあほすぎるその中身も、自分の気持ちに整理をつけるのにいっぱいいっぱいで駆け出したテファには気づかれない。
こうして、温度差に最後まで気づかぬまま、二人は分かれた。
そしてこれが、アルビオン王国の未来を大きく変えることになる、最初の分岐だった。




「テファねーちゃん、なんかいいことあったのかな?」
「わたしにはなんか悲しそうに見えるけど」
「え~。ぜっていあれは何かいいことあったんだって。桃りんごがいっぱいなってる木を見つけたとか」
「ちがうもん、きっとお夕飯のおかずを少し焦がしちゃったんだって!!」
「二人とも、ご飯よ~」
「「は~い」」




「お帰りなさいませ、ご主人様。ご報告しなければならないことが……どうかしたんですか?」
「いや、なんでもない……………はぁ」
「……どこ見てため息ついているんですかっ!!」 





ブラッド のステータスが更新されました。
ティファニアとの約束 を手に入れた。
目の保養が出来た。
アルビオン王国のフラグ1がたった。



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プロフィール

基森

Author:基森
蚕鳴や円禍と名乗ってたこともあります。

主に小説・ssなどを置いているブログです。

自前の本棚を持つのは初めてなので手探りでやっている程度のものですが、わずかばかりの暇つぶしにでもなれば幸いです。


メールは「kulukku106☆yahoo.co.jp」まで、☆を@に変えた上でお願いいたします。

そろそろ、非営利にならトップへのリンクフリーとか言ってみたり。

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