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悪の秘密結社乗っ取りマニュアル10

今日から君も、キラーアースの一員だ!






逃げる逃げる逃げる。
よくもまあこんだけ、って感じで桃香ちゃんとサトシはこの建物の中を逃げ回っている。

防火シャッターを改造した障壁で一部の通路をふさいでいるし、窓だってラボにする時点で外部から見れないようにすべて特殊な強化ガラスに変えてあるから、ここはすでに閉じられた世界、俺が自主的にキーを開けるか壁を超パワーでぶち破らない限り逃げきることは不可能なんだが……それでもまだ逃げ続けてる。

サトシに対しては本気で逃げろ、って指令をこっそり出してたんだが、それにしてもすげえ機動力だ。
この建物中には俺の監視の目が光っているにもかかわらず、俺には自分のほかに四体もの手足があるにもかかわらず、未だに逃げおおせてる、ってことは正直あいつらを舐めてたわ。
こりゃ事前にいろいろ用意してなきゃ危なかった。


ま、別にいいんだけどね。
今、視界をつなぐことで俺にあいつらの姿を映し出している監視カメラは、ちゃ~んと二人が荒い息で座り込んでいることを捕らえている。

これはあくまで鬼ごっこであって、かくれんぼじゃないからな。
鬼はすぐさま二人に迫るぜ?



ってなわけで、戦闘員の誰かをあっちに向かわせる。
そこは袋小路だ。
さて、どうやって逃げ出す?



「はぁはぁはぁ、いい加減つかまってくれよぉサトシ、触手祭りの為に!」
「何いってんだ、お前! サトシって誰のことだよ!」



……また戦闘員五号か。
まあ、逃げられたらアイツいわくの触手祭りとやらは開催できないから、他の奴より随分熱心だ。
だからこそ、こうやって一番に追い詰めに掛かってんだろうが、よくやるぜ。

サトシもある意味同僚がここまでやばい奴だとは思っていなかったのか、顔を引きつらせているが、どうやらピンクはそんな余裕すらねえみてぇだ。

一人会話に加わらずに荒い息を吐いている。
まあ、触手マニアの五号は別の意味で荒い息を吐いているが……あいつら一応戦闘員だから肉体自体を改造してあるもんな。
無改造のピンクとはそりゃ体力が違うわ。



と、いうわけで多分五号は気付いていないだろうが、サトシがピンクの体力回復のために会話で時間を稼いでいる。
まあ、新手がくることを考えればすぐさま逃げなきゃならんのは分かっているだろうが、もう愛しの桃香ちゃんが潰れかけているからな。

何とかして五号に攻撃させないように必死の時間稼ぎだ。
だが、獲物を前にした五号のいかれっぷりは正直俺もびっくりなぐらいだ。

二人とも、相当引いてる。



「触手様もお待ちかねなんだよ! さあ、さあ、さあ、さあ!」
「っ……お前、頭大丈夫か!?」



……ちなみに、断言してもいいがあのマリモに待つとか待たないとか考える脳みそは断じてないぞ、五号よ。
俺がコントロールできる以上脳自体は残っているみたいだが、ダイレクトに他人の考えを覗ける俺にしてももはや犬以下の知性しか感じない。

もうほとんど宗教みたいな感じがするぜ……何がお前をそこまで駆り立てるんだよ、五号。





とはいえ、多少なりとも会話の引き延ばしが出来たとしても今の五号の情熱というか、執念というかそんな感じのナニを止められるもんじゃねえ。



「それじゃあ…………女の子、ゲットだぜ!」
「しまったっ!」



改造人間の俺から見ても妖怪じみた動きで、五号が飛ぶ。
正確には、塞いである窓枠の端に足を引っ掛けて天井まで飛び上がった挙句に、天井を蹴って、壁を蹴って、地面を蹴って、ここが廊下であるということを最大限利用した立体的な跳躍でサトシをすり抜けた。
どう考えても訓練も碌に受けていないで筋力だけ増強した戦闘員の動きとは思えんが、奴は心底戦闘員(左手のみドリル)なんだよな。

が。



「きゃーーーーー!!」
「へぶんっ!」
「も、桃香さん……」



そこに桃香ちゃんの迎撃が、見事な感じに股間に当たった。

うわっ、痛え!
さすが正義の味方の下っ端公務員。

一応戦闘員達はそこにはプロテクターを着けていたはずだが、五号の迫るスピードがあまりに早く、そこにカウンターが入る形で決まったから……ありゃ最低でも数分は復帰は無理だな。
半ば泡吹いてるぞ、五号。


別に俺が食らったわけじゃねえが、そこばっかりは反則だぜ。
思わず腰が引けてしまいながらも監視を続けると、やっぱりサトシも同じように腰が引けてる。
まあ、男としてあれだけは敵味方問わずやっちゃいけねえことだよ……俺は容赦なくやるけどな!





そんなわけで再び二人は逃亡の旅へ。
多少は桃香ちゃんの体力が回復したから五号が復活しないうちに、ってことだろうが……戦闘員とかならさておきただの一般人がそんなに早く復活するかよ。

サトシに手を引かれてはいるものの、ほら。
さっき一時的には息が収まったものの、もうすでに桃香ちゃんの息は上がってるぜ?

やれやれ、いつまで持つと思ってんだかねえ。
まあ、追っかける側としては面白いからいいや。
飽きるまではやらしておくとしようじゃないか。

じゃ、こっちも休憩はおしまいにして、鬼ごっこの再開と行くかな。












ってなわけで、一時間もすれば飽きてきたのでアッサリと追い詰めましたとさ。
他の戦闘員ども(触手への執念で復活した五号含む)と幼女を後ろに背負った形で登場して、二人をついに再び袋小路まで追い詰めたんだが……



「ぜー、ぜー、ぜー、ぜー」
「がふっ、も、桃香さん……」



うっわ、色気も何もあったもんじゃない。

実質もう駄目になってた桃香ちゃんをサトシが背負うような形でやってたけど、そんなことしてりゃあ人の数倍筋力があってもすぐさま体力が尽きる。
引き回されている状態じゃ背負われてる方も別に回復するわけじゃねえし、そもそも追いかける方もおんなじ能力だからなあ……一人だけ貧弱な女の子が衰弱するのはある意味当たり前だろ。
ってなわけで、二人とも、マジでもう限界だ。


さあて、そろそろ締めに入るとするかな。



「よおし、じゃあ、そういうわけで……」



口元が歪むのが自分でもわかっちまう。
それを受けてびくり、と肩を揺らす桃香ちゃんだが、もうそれしか出来ることがねえんだろうなあ。
さぞや恐怖と絶望に塗れてんだろう。
まあ、またもや監禁生活へ逆戻り~、だからな。

だけど、そこはまだいっちゃん下じゃねえ……まだまだ底はあるんだぜ?



「そろそろ目を覚ましな、勇人……いや、『サトシ』」
「え?」
「……っ! アレ? 俺、何でこんなとこに」



うわっ、結局勇人って呼んじまったよ。
まあ、桃香ちゃんにも誰のこと言ってるかわかってもらわにゃならんからしゃーないんだが。
未だに理解が及んでない、って顔してるけど、すぐにわかるから安心してくれよ。
ってなわけで。



とりあえず、俺は能力を行使する。

っつっても、そう大したもんじゃない
今までサトシの奴に掛かっていた『不自然な思考操作』を全部解除して、その間の『記憶を消去する』だけだ。
それだけで、全部終わる。



「あー、その辺はどうでもいいんだよ、サトシ。とりあえず、そうだなぁ……そいつ、こっちに連れてこいや」
「え? 隊長? はぁ、解りましたけど、一体全体何でまた」
「え? ……どうして」



そのまま羽交い絞めに近い形で桃香ちゃんをこっちに連れてくる、サトシ。

その顔には、先ほどまで桃香を守ろうと必死になっていた表情など微塵もない。
脳内麻薬の分泌も俺がちょっと弄ったから、さっきまでの疲労ももうとりあえずは見えない……まあ、ドーパミンとかが切れれば筋肉痛やら体力の激減による免疫力低下等を一辺に受けることになるから、地獄だろうけどな。

とりあえず、今は桃香の乳を揉みながらこっちに近づいてくるその姿は、まかり間違っても正義の味方の協力者なんかじゃありゃしねえ。
いかにもぴったりな、俺の部下だ。

突然の心変わりに思わず元ピンクもびっくりだ。



「勇人君……どうして!」
「はぁ? 隊長、こいつ何いってんすか?」
「ああ、気にスンナ。能力の影響でちょっと混乱しているだけだ」



突如、最大の味方に裏切られた桃香ちゃんが悲痛な呟き(叫びを上げられるほど体力回復してねえみたいだ)を上げるが、へらへらと笑うサトシはそんなことを意にも介さない。
まあ、こいつの認識からすれば、俺に呼び出される前の自室でマス掻いていた直後にこんな状況になっているわけだから、桃香のことなんて単なる「この間隊長が捕まえたいけ好かない正義の味方」に他ならないわけだ。


そりゃ、乳も揉むわ。



対する桃香ちゃんは、まだ、わからないかなあ?
要するに、ついさっきまでの正義の味方ならぬ、桃香の味方の勇人くんは、君の前から完全に消え去ったわけだよ。


ちなみについ先ほど、コイツの本名は本人の中でも『サトシ』になるよう書き換えたので、これで心底『勇人』なる人間は消え去った。
本人も自分のことをサトシだと認識しているから、勇人と呼ばれてもそれが自分のことだとはわかっていない……後々不都合が出るかもしれんが、断じて直すつもりはない。
コイツにはそれがお似合いだ。




徐々に、徐々に事実が染み渡ってきたのか、羽交い絞めにされた状態でゆっくりとつれてこられながらも、酸欠でぜーはーぜーはー言ってた桃香ちゃんの顔色が、さらに青くなる。
そんな彼女の理解を助けてあげる為に、俺からの実に些細なプレゼント。
種明かしを、してあげようじゃないか。



「と、いうわけで、実は勇人君というのも俺の操り人形だったわけだな、これが」
「彼も、あの子みたいに!」



あん? 
どういう意味だ、そりゃ?


ああ、そうか。

明らかに元一般人な蘭華の件を先に見せたから、あらかじめ仕込んであったのではなく、勇人という善人を今まさに悪人に洗脳したと思ってんのか。
まあ、手でふれなきゃ一般人はすぐには洗脳できないなんてこと知らないから無理もないんだが、まだなんか勘違いしてるみたいだな。




しょうがない、このサトシ君はもとから悪人だということを教えてあげよう。



「ああ、違う違う……こいつは最初っから、サトシだよ」
「っ、何を、ぬけぬけと!」
「だから違うっての……あれは―――勇人君とやらは、俺がこいつの体を使って演じてたんだよ」
「えっ……」



正確には違うんだが、理解を助けるように噛み砕いて説明してやる。
これから長い付き合いになるんだ。
ゆっくりと、丁重に、染み渡るように勇人とかいうエセ善人の残滓を俺の色へと染め上げる。



「あんたに食いもんの差し入れしたのも、いろいろと話し相手になったのも、変身小道具持っていったのも、ガキのこと教えたのも、ぜ~んぶ、俺があいつの体を使ってやってたのさ!」
「そんな……」
「おかしいと思わなかったのかい? たかが一戦闘員がこれを取り戻してくるなんて。
あやしいと思わなかったのかい? あんたに都合よく監禁場所を知っていて、俺に都合よく俺に発見されて」



ぴ~らぴらと変身ツールをひけらかして懇切丁寧に説明してやると、ようやく事実がはっきりわかったのかな? もう顔面蒼白だな。
ちょっと正義の味方にしては心弱すぎんじゃないのか、と思ってしまうほどだ。

まあ、だからこそそんな心を狙い打つ作戦立てたわけで、ここまでは実にスムーズだ。








いや~しかし、楽しい楽しい!

わざわざ能力の種明かしして毎度毎度正義の味方にやられる怪人の気持ちがわかってきたよ。
普通悪役がこういった種明かしをするのは油断を突かれて敗北ってパターンの前座なんだが、周囲の警戒は今もきっちりしているから問題ない。
同じ轍は、踏みませんよ?


だが、種明かしが種明かしだけで終わっちゃあ片手落ちだ。
もっとしっかりきっちりと敗者だ、ってことを教えこまにゃならん。
それでこそ、わざわざこんな回りくどい計画立てた意味があるってもんだ。



「つまり、あんたの決死の脱走劇はぜ・ん・ぶ! 俺の手のひらの上で踊っていた、ってことなんだよ!」
「…………」
「どうだった、つかの間の自由は? 久しぶりの正義の味方への変身の感触は? 楽しかったかい、サトシとの逃避行は? 俺が全部操ってるともしらねえでよぉ」
「…………もう……止めて」



ん?
なんかいってんなあ…………聞こえねえよ!
して欲しいことがあるんなら、もっと大きな声で言ってくれないと解りませんよ?



「楽しかったか? 監禁状態から久しぶりのまともな人間との会話は。美味かったか? 俺が作った料理は。だったら嬉しいね……そうだ、また炒飯でも作ってやろうかい? 勿論、サトシの体を使ってな、ひゃはははは」
「………もう、わかった」



だから、止めてあげないぜ。
ゆっくりゆっくり追い込んでいく。

たとえるなら、毒電波使って脳の構造を読み、その心の中のニューロンとシナプスの配置を一個一個動かしていくときのように丁重に。
俺のいうことを聞かない怪人の動きを計算し、逆に俺の命じたとおりにしか動かない戦闘員達を連携させて動かして、レンジャーを追い込むときのように。
すべてに細心の注意を払い、楽しみながら動かしていく。

なにせ、ここがクライマックスだ。
一辺に味わっちゃあ、勿体ねえじゃねえか……なあ?



「……もう、わかったからぁ」
「悪の秘密結社にも、正義の心に目覚めるものがいると思ったのかい? 正義は必ず勝つんだってか、ははっ! 笑っちまうような駄々甘の考えだなぁ」
「もう、やめてっーーーー!!」



うわっ、うるせぇ。
キンキンする声だな……思わず耳を押さえちまったぜ。
よくもまあまだそんだけ声出せるだけの体力があったもんだが、それが正真正銘最後の力だったみたいだ。

あ~、こりゃ、堕ちたな。
がっくりと肩を落としてやがる。
完全に表情も色を無くしてるわ。








「おっけーおっけー、最初っからそうやって負けを認めてりゃあ、こんな悲しい思いをしなくてすんだのになあ、可哀想に……」
「…………」
「だけど、逃げ出した罰は与えなければ示しが付かないってことぐらいはわかってるよな?」



ありゃ、やっぱり俺の軽口にも、全く反応しやがらねえ。
あんまりこういった負け犬の顔は好みじゃねえんだが、まあこの段階ではしょうがねえべ。
とりあえずは、『正義』って考えに対して楔を思いっきり深く打ち込むのが今回の目的だからな。

俺に協力するようにすんのは、その後の開放してからのフェーズだ。
もう十分楽しめたからな、後は嬲るだけだ。

……なんつーの?
プラモとか、作っている過程が楽しいのであって、出来上がっちまえばそれほどでもねえとか、そんな感じ?
まあ、後最後の一手順で完全に完成するだろうから、それをやるまではほんのちょっとだけ心の骨休めをくれてやるかな。



「じゃあ、五号、約束どおりマリモ使っていいぞ……俺は後でいいや」
「うぉぉぉぉぉぉっしゃーーーー!! ありがとうございます、ごちになります、触手祭りの開幕です!! いぇい、いぇい!」
「…………」



触手と聴いても何の反応もしない桃香だが、まあそっちの方が今はいいだろう。
嬲られている間は、もう考える必要なんてありはしない。

つまりは……裏切りの心の痛みから解放される。
桃香ちゃんもこの状態なら、多分そっちに逃げ込むだろう……自分の心の中っていう逃げ道にな。
俺に従ってれば楽だ、ってことを数日間快楽と恥辱の闇の中でじっくり味わってもらおうじゃないか。

今度は、希望なんて無しにな。


プッツンきて依存までいってくれりゃあ、俺としても万々歳だ。
ま、最低でも帰ってくる頃には、もう正義とか口にすることはなくなるだろう。
あとは出てきてからの心を読み取ってから考えればいいや。



そして対照的にテンションがおかしい五号……おかしいなあ? ここまで変な奴だったかなぁ?

まあいいや。
それに、こいつらもよく働いてくれたからな。
股間を強打したにもかかわらず、いつの間にやら戦線に復帰していた五号にとりあえずの褒美をやることには異存はねえ。
他の連中もなんか興味深そうな顔してたから、犯すのはあとでもいいみたいだしな。




だが、一応もう一人の功労者にもボーナスはやらにゃならん。

そう、勇人とかいう名で半月近くもジゴロみたいなことをしてくれたサトシ君だ。
その功績と、目が覚めるや否やとりあえず事情もわからないけど目の前の乳を揉んでおくか的な考えで、桃香の心を即座に打ち砕いてくれたことを鑑みて、電気ネズミ怪人への改造推薦は勘弁してやろう。

よく頑張ってくれたよ、サトシ君。
感動したっ!



「サトシ、お前にもボーナスやるわ。参加許可」
「へ? ボーナス? 何のことっすか、隊長……って言うか、俺未だに現状がよくわかんねえんですけど」
「うるせぇ! てめえはそんなことよりさっさと付いてきて触手様を崇め奉るのが先だ! じゃあ、隊長、お先に失礼します!!」
「え? 触手様ってなんなんだよ、おい! 説明しろよ、せめて」
「黙らんかーーーー!! さっさときやがれ!」



……言うが速いか、五号が二人を引きずっていきやがった。
他の連中も付いていっているが、まあ五号の楽しそうなこと、楽しそうなこと。
歩き方からして他の連中とは違うね。

どの道俺がマリモを操作せにゃあいつ動かねえんだけど、よっぽど気が急いているんだろうな。







後に残ったのは、俺とガキの二人だけ。
桃香ちゃんから失われた正義としての誇りだとか、彼女が頼りにしていた勇人君とかいうのは、一切残ってねえ。
その場に痕も残さず、風に晒されて消えちまったみたいだ。

諸行無常だねえ……



「さて、それじゃあ俺たちも行きますか……よかったな、蘭華。もうすぐお姉ちゃんが出来るぜ?」



腰をかがめて目線を合わせて頬に手を当ててやると、すでに桃香ちゃんの行く末を表すように俺に完全に洗脳されている蘭華は、脳の蕩けた様な崩れた笑みを浮かべるだけだった。

















数日後、開放された桃香の手にはプリズムレンジャーへと変身する為のツールが戻っていた。
だが、自室でそれを握る桃香の手は震えていた。

重い、余りにも帰ってきた其れが重いのだ。
自分の中での確固たる正義の誇りと共にあったときは羽根のように感じられたそれも、今ではあのリキュールという男による自分に付いた首輪のように思えてならない。


自分が解放されたとき、あの男から一つの命令を言い渡された。



「プリズムレンジャーの内情を探れ」



冗談ではない、と思う。

確かに一時自分はあの男の言いなりになった。
体を汚され、心を壊され、余りにも汚らわしいことをされたし、自分から進んでもした。
あのおぞましい生き物に対して寄りかかるような真似さえしてしまった。

だが、開放されたからにはそんなものなどもはや無効、嫌な悪夢であったと忘れてしまえばいいのだ。
今すぐ仲間に連絡してあいつを倒し、正義の誇りを取り返せばいいのだ。


だが、そうしようと思うたびに、桃香の手は止まった。


(……でも、私の仲間って、誰のこと?)


確かに仲間だと思った人が、確かに助けなければと誓った少女が、最初っから敵だったのだ。
相手を頼ろうとするその心の動きが、相手を助けなければとするその情熱が、すべて誘導されたものだったのだ。
すべての行動を見透かされ、あの男の手の中で遊ばれていたに過ぎない自分にとって、本当に信頼できる仲間とは誰なんだろう。


本部にリキュールのラボのことを教えるための通信を入れようとしていた手が震える。
もし、こうやって自分が本部に連絡をしようとすることさえあのリキュールに見透かされていたとしたら。
もし、本部の仲間だった烈や凱、蓮に連絡することすら相手の想定の範囲内であり……烈達すら自分をあざ笑う為のリキュールの操り人形だったとしたなら。


(駄目……怖くて、出来ないよ)


あの、誠意に満ちて自分に向かって真摯に対応してくれた勇人が、あれほどまで自分を嬲った卑劣漢に豹変した瞬間を思い出して、桃香はその場に力なく崩れ落ちた。

疑い出せば、きりがない。
自分をこうやって無防備に解放している、ということはすでに準備が出来ているということにしか思えない。
そう考えれば、仲間と思っていた彼らが全く助けに来てくれなかったことすらも、それを裏付けるように思える。
自分が彼を裏切ったとたんに、再び弄ぶ為の駒にしか過ぎないように、世界のすべてが見えてしまう。
そして、裏切らなければそんな目にあうことはないのだ。



今連絡すれば、きっとみんなは表面的には気遣ってくれるだろう。
自分もそれに従っていれば、きっとそんな彼らとの関係は続いていく。
何も言わずにこっそりとリキュールの命令さえ聞いていれば、自分も彼らも今までどおり正義の味方として戦える。


だが、一歩リキュールの追求のために踏み出したとたんに、それはどうなるか解らない。

リキュールの命令に反して、彼に捕まっていた、と答えた瞬間に、彼らは憤ってすぐさま反撃の準備を整えてくれることは以前の桃香だったら疑いもしなかったことだ。
だが、それを行ったとたんに「あ~あ、また裏切りやがったな」というあの男の口調で、彼らもまた自分を犯しに掛かってくるかもしれない、という恐怖は桃香の空想の中から全く出て行こうとはしてくれない。


正義の味方として、一人の女として、あんな奴の命令を聞くわけにはいかない、あんな男を許してはおけない、という心と、でももしそれを実行してしまえば何が起こるかわからない、と思う心が、天秤の両端で激しく揺れうごく。





そんな中、半月ほど留守にしていた部屋の空気の入れ替えのために開け放っておいた窓から、ある人物が飛び込んできた。
とはいっても、地上数十メートルにある高層マンションの一室にあるこの部屋の窓から入ってこられるのは、超人ぞろいのプリズムレンジャーのメンバーでも限られている。



「桃香、無事だったんだね!」
「ルン……」



そこに現れたのは、唯一プリズムレンジャーの仲間で自由に飛行することが可能な妖精、ルンだった。
その羽根を羽ばたかせて自分の部屋へと突入してきたルンは、半月ほど誰もいなかった部屋の主が帰ってきていたとこに、顔を輝かせる。
妖精としか言いようがないその無垢な容姿が自らの無事を心底喜んでいることに、幾分かささくれ立った心が癒されることを感じる。



「え、ええ……心配してくれて、ありがとう。私は大丈夫よ」
「みんなも心配していたよ! さあ、早く顔を見せてあげようよ!」
「そ、そうね」



だが、その言葉には素直に頷けない自分がいた。
まだ、結論が出ていないのだ。
そんな状態で彼らに変にいなかったときのことをつつかれて、ぽろっとリキュールに対して不都合なことを喋ってしまえば……自分はもう戻れなくなってしまう。
とにかく今は一人で、その結論が本当に正しいのか、じっくり考えたいのだ。

それだけにルンの存在がありがたいのと同時に邪魔だった。



だが、それは、ある意味逃げだ、ということも桃香にはわかっていた。
このままの状態でしばらくいる、ということは、それはすなわちリキュールの命令にそう、ということとほとんど同義になってしまう。

だからこそ、桃香はルンにこの場で話しかける。



「あのね、ルン……」
「なんだい、桃香!?」
「その、あの……」



リキュールのことを言おうか言うまいか、桃香は最大限迷った。
正義の味方として、仲間へあの卑劣な改造人間のことを言わない理由などないからだ。
だが、それでもすぐには口に出てこなかった。

その一瞬のためらいが、最後の勇気を振り絞って告発しよう、とするその矢先に、優しい妖精によって機転を制されてしまうことへと繋がった。
桃香のためらっている様を見て、どうしたのだ、と思っているのか小首をかしげていたルンだったが、やがて心当たりがあったのか、その小さな小さな手をぽん、と叩き、笑顔でこう言ったのだ。






「ねえ、桃香。お願いだから、裏切らないでね!」






「っ!!!」


桃香に衝撃が走る。
震える目線でルンを……プリズムレンジャーの仲間であるはずの妖精を見るが、その笑顔には一点の曇りもなかった。


その言葉の主語は―――『誰』を裏切るな、といっているのかなんて、明らかだ。

じわ、っと視界が滲んでいくのが自分でもよくわかる。
それでも、ルンの表情は変わらず笑顔だった。



ルンが本当に正義の味方の仲間であるならば、仲間の裏切りなんて考えやしないはずだ……かつての桃香のように。
だから、そんなことに対して釘をさしてくるなんてありえない。
そもそも、プリズムレンジャーを裏切るな、なんてわざわざ仲間同士でいうことなんかじゃない。
『悪の秘密結社』じゃないんだから、お互いを怪しみ、監視しあうなんてことは、ありえないのだ。

そうである以上……答えは決まっている。



「そ、そうね、解ってる……もちろんよ」
「よかったよっ! 蓮に桃香を追いかけて、なんていいたくないからさっ」



もう、桃香は駄目だった。
ルンの声が遠く、近くに、ぼやけて、クリアに聞こえる。

希望など持てない。
正義など語れない。
仲間など信じられない。

一世一代の決心すら、口に出す前に泡と消されたのだ。
すべてがあやふやで、腐った果実のような甘ったるい匂いがするあの男の掌の上としか思えない。
誰が味方で、どこが裏切って、自分が誰なのか。


たった一人の男を除いて、桃香は世界のすべてを信じることが出来なくなった。
騙しているはずの男だけは、裏切らない、態度を変えないはずだから、それ以外のすべてが。



「ええ、リキュール…様を裏切ったりなんて絶対にしないわ」



桃香は、そう答えるしかなかった。
二度目の勇気を振り絞ることがもはや出来なくなった彼女にとって、それは心底本心からの答えだった。














「ひひっ、これで詰んだだろ? も~もかちゃ~ん」





廃病院の中で一人すべてを操りながら笑う男の策略どおりに、そう答えるしかなかったのだ。




次の話

Comment

No title

まあ、『仮面ライダーになりたかった戦闘員』のように家族とかと天秤にかけて悪の組織に入ったなんてのもさがせばいるんでしょうけどねwwwww
リキュールの配下にはそんなんがいるわけないですね。

いいね、コレ
貧弱な肉体能力を策謀でねじ伏せるのはある意味ロマンですよ

>仮面ライダーになりたかった戦闘員

おぉ懐かしい
ふたばちゃんねるの落書板の奴やね
非公開コメント

プロフィール

基森

Author:基森
蚕鳴や円禍と名乗ってたこともあります。

主に小説・ssなどを置いているブログです。

自前の本棚を持つのは初めてなので手探りでやっている程度のものですが、わずかばかりの暇つぶしにでもなれば幸いです。


メールは「kulukku106☆yahoo.co.jp」まで、☆を@に変えた上でお願いいたします。

そろそろ、非営利にならトップへのリンクフリーとか言ってみたり。

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