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悪の秘密結社乗っ取りマニュアル6

巻頭ふろく①リキュールなりきり監禁セット
「その子を離しなさい!」
「おいおい、何言ってんだよ、正義の味方なんだろ? いちいちそんなこといってないで俺みたいな悪党、怪人みたいに問答無用でぶっころしゃいいじゃねえかよ」


人質。
あまたの悪の組織が多用し、そしてそのたびに失敗してきた陳腐なる手段。
だが、使い古されるほど多用される、ということは、それが間違いなく有効な手段である、ということを意味する。


「くっ………」
「くくっ、出来ねーよなぁ、無理だよなぁ……俺がちょっと腕うごかしゃ、このガキ死んじまうんだもんなあ? 人質無視して倒せりゃいい、なんてのはご立派な正義の味方のプリズムレンジャーにあるまじき考えだよなぁ?」


それでも、こういった悪の組織の作戦は大概失敗する。
それは、優位に立ったことに対する怪人側の無駄な余裕のせいであったりするし、あるいはヒーロー側に隠した手があったことによる奇襲によるものが原因であることもある。

結果として、古今東西一度はピンチに陥らせたとしても、怪人は必ず己のミスによって敗北する……相手の戦力を軽く見積もりすぎたり、正義の味方同士の絆の深さを甘く見たり、といったことで。


それは、正義のヒーローの心、というものが邪悪なものたちと比べてあまりに互いを信頼し、理解しあっているから、他人を信じることが出来ない怪人たちにとっては結果として予想外の事態になりがちであるからである。
あるいは、それは一般の人間やヒーロー達を下等な生き物として見下していがちな怪人にとって、人質を取る、ということは直接戦えば適わない、ということを真っ向から認めてしまうような、気が進まない手段であるから無意識のうちの躊躇があるからかもしれない。


「……この、卑怯者っ!」
「へへっ、悪くない呼び名だ。さあ、このガキの命が惜しかったら、まずは変身を解除してもらおうか……俺はあんたと違って弱いんでねぇ」


あるいは……成功した場合はひっそりと語られることなく、闇の中へと葬られる為かもしれない。









と、まあこんな感じになるんじゃないかと思ってるんだが、どうだろうかねぇ?

ピンクのお出迎えの準備も出来たことだし、後は得物が掛かるまで暇なんだよな。
どうすっかなあ……そうだ!


特別にこっちの手札をとりあえず確認しておいてやるよ。
後出しでルールを付け加えるのはあんまり好きじゃねえし、引く札引く札がすべて運よく、ばっかり見たいなのはゲームのプレイヤーとして冷めさせるものだろ?
イカサマってのは、不自然じゃないようにやるから、どっちもドキドキハラハラやられちゃったー、で終わるってもんだ。


と、言うわけでとりあえず俺の持ち手をここで公開しておこう。
後出しはしねえっていう証明だな、これは。



現在、手駒としてはそれほど余裕があるわけじゃねえ。

幼女とハエはもうほとんど完全に掌握できているし、雑魚戦闘員どもには能力の応用で絶対的な命令権を持っちゃーいるが、いうなればそれだけだ。
いつでも偽情報は流せるし、ことによっちゃあ人質にだって出来るが、それだけ。

俺の洗脳程度なら解除できる正義の味方ってのは、あのプリズムレンジャーにはいないかも知れねえが、世間一般からすればそう珍しいものじゃねえ。
万が一レンジャー側が外部から助けを呼ぶことを考えると、一度ばれたらハエはともかく取り返しの付かない金蔓が二度と使えなくなっちまうし、そもそもサイズがガキとフィギュアだからな……ピンクを拘束する為の物理的な縛りには何にもならねえ。

そんでもって、それを補おうとはしても、怪人関係にはまだ手が伸びてねえから戦闘能力がある奴が他にいるわけでもねえ。

いるのは、いつもレンジャーに蹴散らされてる戦闘員だけ。
人海戦術でその差を覆おうとしても、ウォッカやラムの奴にばれない程度という条件をつけると、俺の権限で動かせる戦闘員は五人ぐらいしかいねえ。

世の中、百人切りする犬だっているんだからな。
五人程度じゃレンジャー相手には何の役にもたちやしねぇ。



で、それ以外はというと、もう筋力とかは改造人間だけあってそれなりにあるが、戦闘訓練受けたわけじゃねえからはっきり言って下手すりゃ戦闘員にも負ける―――ただし、タイマンで無防備な相手に一定時間貼り付ければその時点で勝利が確定になる俺しかいねえ。


これが俺の持ち手のすべてだ。

勿論、それなりの金とか怪人に対する偽情報、といった手もあるんだが、それを使って人を動かすと余計な足がつきかねない。
ただでさえ、多分ラムとかには疑われてんのに、証拠を残すようなへまは出来ねえ。
完全に手を下した奴の生殺与奪も記憶の有無も決められるようにするなら、たったこれだけしか手駒はない。

そう、たったこれだけの手駒で相打ち覚悟なら怪人を一人で殺せる超人様を相手どることになってるんだ。



つまり、歩が五つに歩以下のおじゃまぷよみたいなのがが二つ、そして桂馬一つで、何とか五人並んでいる金から一つ奪わにゃならんワケだ―――使い捨てである歩以外を壊されない、つまりおじゃまぷよも消されない、桂馬も取られないって状況まで持っていかにゃならんわけな……
俺、将棋はルールぐらいしかしらねえんだけど、ド素人にゃ激ムズだ、ってことが分かってもらえりゃそれでいい。


……いいねぇ、いかにもゲームだねぇ、ハラハラするねぇ。

これでこそ、対等ってもんだ。
怪人を何人も自由に使える状況じゃあ、こんなわくわくする感じはおきねえでただの作業になりかねないからな。
勝つと分かりきってるゲームは興味がねえ。

たとえ少しでも、相手方に勝ちの目を見せて、俺がミスれば即座に勝利が相手に転がりこむような緊張感がほしいから、こんなリスクの高い手段を取ってレンジャー捕獲なんてことを考えてんだ。



相手の行動範囲をハエによって読みきり、相手はこちらの存在自体に気付いていない。
情報では圧倒的にこっちが有利なんだ。

さらに仕掛けるタイミングも、手段も、すべてこっちで自由に使える。
これで余計な戦力抱え込んでちゃあ、ゲームとしての遊び心ってモノがあまりにねえ。

そうだな、今回は金もつかわねえでおくか……まあ、今手元にある百万ぐらいまであれば拉致監禁する道具一式借りこんでも一月ぐらいは持つだろ。
こんくらいの条件でやってこそ、古式ゆかしく行われるヒーローと悪役の風情ある戦いってもんだ。


よ~し、これであらかた手札の情報は整理できた。

さて、考えようじゃねえか。
直接戦闘が出来るメンバー皆無で、一歩間違えばアッサリ目論見暴露、俺はヒーローと組織両方に狙われる身になる。
そんな状態でいかにイかした略奪愛が生まれるかってな!







まず始めに俺は、実行時期を一月末にと決めた。

一ヶ月ほどのハエによる密偵活動で分かったんだが、やはりこの時期はプリズムレンジャーにとっても、後輩への一部業務の引継ぎがあったり、今まで記録し続けてきた組織との戦いの資料を上に提出したりとばたばたしてるらしい。
この辺は他の戦隊たちと一緒だと最初っから当たりをつけていたが、上手いこときちんとハエ以外のルートからも裏が取れた……流石に泳がされてる可能性もあるスパイの報告を鵜呑みにするほど馬鹿じゃねえが。


無論、俺らキラーアースとプリズムレンジャーが争っている、ということはヤラセの番組ではなく実際にあることなので、二月初めにきちんとうちらが壊滅して、レンジャーが新戦隊に切り替わる、なんてことはない(そもそも俺たちが戦い始めたこと自体が年の瀬あたりからだったし)。
あれはあくまで一通り戦いの決着がついた奴を放送できるように編集した上で、まとめて放映しているだけに過ぎない。

ただ、戦隊モノの放映が二月で切り替わるってのは事実であり、来年度テレビの前のちびっ子諸君に放映される戦隊が誰か、というのが正式に決まるのはこの時期である、ということは確かだ。
あと、公的機関による正義の戦隊に関して言えば、昨年度の活躍ぶりや苦戦ぶりによって定められた、予算や新装備が配給されるのもこの時期だし、放送の上では毎年戦隊ごとにバラバラの時期で途中から唐突に現れる新メンバーだって、実はこの時期の人員補充によって加入していることが多い。


つまりは、正義の戦隊たち全体が一番忙しい時期がこの一月末だ、ってことらしい。
逆に、この時期を乗り越えてしまえば、正義の戦隊にとって備品も完全にそろい、人員にも余裕があり、予算も充実している、ということで余裕が出来てしまう。

実際に、この時期にそれぞれバラバラにではあるもののまとまった休暇を取るレンジャーも多いらしい……ま、民間とか私的な機関による戦隊や、個人主義なライダー、あるいは何故か低学年の者が多い魔法少女などにはない、公的機関による正義の戦隊特有の事情って奴だな……お役所は、有給とか福利厚生の表面上だけとはいえ数のノルマの達成に厳しいからよう、へへ。


ちなみに前も言ったように、キラーアースの戦闘員どもには基本的に有給などない。
まあ、そのかわりに訓練とかもしないので、招集掛けられたり、実戦がない日はほぼ休日なんだけどな。
改造人間の俺はさらに勤務形態がフリーダムだからいざとなれば怪人程度による召集も一回や二回ぐらいなら拒否できるし、監禁陵辱の為数日抜けてもオッケー、問題なしだぜ。




確保場所は、俺のラボ。
というか、御光院のガキ蘭華が個人で所有していた不良債権での差し押さえ物件の一つだ……幼稚園児にそんなもの与えんなよ、とは思うんだが、まあ連中にしてみれば誕生日プレゼントぐらいの意味なんだろうし、こっちにゃ別に不都合もないのでガキの両親とかにばれない程度に使わせてもらうことにしている。

流石に御光院が飼っているであろう正義のヒーローの目を掻い潜って両親たちまで操ることは出来なかった……蘭華一人でもだいぶん怪しまれ、誤魔化すのに苦労したからなぁ。

以前洗脳する前の事前調査として身辺関係をざっと調べたところ、御光院家は何らかの正義の味方のスポンサーになっている。
まあ、あれだけでかい家なら正義の味方か悪の秘密結社のどっちかを飼っていても、おかしくない。

多分正義の味方の方だろうとは思ってはいたが、万が一他の組織の息が掛かっているようであれば手を引かねばならないからよかったよかった。
いや、他の組織への仁義とかそういったことじゃなくて、正義の味方なら蘭華ごと爆殺だ、ってことはなさそうだけど、相手が悪の組織ならその保障はないって意味でだ。
操ろうとした瞬間に蘭華ごと始末されかねないから、他の組織の獲物なら手を出したくなかったんだ。



まあ、悪の秘密結社とコンタクトを取るのは正義の味方のスポンサーになるより数十倍は難しいからないだろうとは思っていたんだがな。

この国では現在、悪の組織の総勢と、正義の味方側の力がほぼ拮抗している。

基本的には多種多様な技術や生態をもつ悪の組織側が優勢なんだが、正義の味方側のみが持つ変身ツールと、権力者による支援がそれをぎりぎりで推しとどめている感じだ。

俺なんかは、こっちも同じことすりゃいいじゃねーか、と思うんだが、いろいろな理由でその二つは悪の組織側にはまねができねえんだ。


まず、一匹狼を気取りがちな怪人たちには正義の味方が使う変身ツールは使えねえ。
正義の味方しか使えない、愛と勇気が動力源、見たいなのが使えないのはまあ成り立ちから行って当然だが、それ以外のシステムも大概手に入った時点でぽしゃる。

うちの組織みたいに中堅だと、たとえ幹部クラスが手に入れたとしてもシステム自体が解析できずに宝の持ち腐れ状態になるってこともあるんだが、それ以外に正義の心を持っていない奴でも使える変身ツールは、手に入れた怪人が力に酔って組織を裏切って独自の道に行っちまうんだ。

システムで装備できる、ということは逆に言っちまえば、誰でも使えるアイテムってことだろ?
協力し合うことで相手を倒すヒーロー側なら有効な武器でも、自分以外が強くなることをよしとする怪人や改造人間は、俺も含めてあんまりいないからな。

結果として、一人独自の道を行く悪の組織が新しく誕生するか、あるいは公式に認可されていない正義の味方がまた一人増えるわけだ。
元怪人の現ライダーによって。



そして、政治家連中とのつながり。

多くの悪の組織は基本的に怪人しか権力を握れないシステムになりがちなんで、それ以外の人間でも権力握れる悪の組織とコンタクトが取れなかった政治家は、自身が人間であることもあって正義の味方を支援せざるを得なくなるからな。
基本的に怪人は、改造人間も含めて人間を軽く見てるからねえ。

うちの堅物、怪人でなければただの使い捨ての駒だ! な、ウィスキ将軍が海千山千の政治家連中と仲良しこよし、何てのは想像もつかねえが、まあそういうことだ。


そんなわけで今この国では、お金持ちとか権力者の間では自分のボディーガードもこっそりと兼ねさせる為、正義の味方のスポンサーになることが多いワケ。

ま、なってたとしても俺みたいにうまいことやる奴は出てるんだけどな、へへ。
まあ、間抜けな連中は気付いていないってことで、今んところ上手く言ってる。

周りの護衛だとか教育係とかにも隙をついてある程度能力のタネを仕込んであるから、蘭華が俺の元に定期的に金持って通ってきたり、この建物を普通に使用している分には親にばれたり踏み込まれたりすることはねえ。


と、言う事情で長々と説明したが、簡潔にまとめるなら場所の確保についても問題がない、ってことだ。
元病院だったところをこっそりと改装して使用しているので、上手いこと捕獲できたらその中にあったシールドルームに監禁するつもりだ。
ヒーロー系はライダーみたいに改造人間であることは少ないので、変身ツールさえ取り上げれば常人並だ。
だから、電子キーレベルで監禁できるし、他の連中に連絡をつけられないようにする、という意味でも電磁波とかを通さないシールドルームならちょうどいいだろ。

一応身体検査はするつもりだけど、皮膚の中とかに埋め込まれた発信機とか付いてて、他のメンバーに押し込まれでもしたら目も当てられないからな。






で、最後は手段。
どうやって、そこまで連れ込むか、ってことだよ。
まあ、全部説明しちまうのも面白くないんで、冒頭だけ見て今はせいぜい想像してな。

それじゃ、始めるぜ。
悪役なら悪役らしく、分かりやすくて効果的な……蘭華を使っての、人質作戦を。






おいおい……ありがちとか、言っちゃあいけねえぜ。
効果があるからありがちなんだってよ。
五人に対していきなり人質使うなんて不安なことはやんねえから、安心してくれよ。


そんなわけで俺ことリキュール、プリズムレンジャーのピンク捕獲作戦について、準備は万全だ。
細工は流々、後は仕上げを御ろうじろ、ってとこだな。
次にはピンクを「詰み」状態に出来るか……あるいは、俺がやられるか、ってことだぜ。


と、言うわけで、来週も絶対見てくれよな! ……なんつってな。
嘘だよ、そんな来週なんて俺が待ってらんねえよ。
せっかく仕掛けた罠が錆ちまうだろうが。

ってなわけで、どうやらピンクもこっちに来たみたいだし、まとめて見せてやんよ。





それじゃ、最初っから~~~VTR スタート!







東京都大刀区担当特別保安委員長管轄超常科学広域指定特殊暴力団対策課特殊委託員 虹色戦隊プリズムレンジャーのプリズムピンク、滝川 桃香は焦っていた。






思い返せば、迂闊だったとしか言いようがない。

今回登場した悪の組織の新怪人、キラメタルの圧倒的なまでのパワーに、プリズムレンジャーはちりじりになって分断されてしまった。
採石場で戦っていた桃香も近くの川まで落とし込まれ、その場から流されてしまったのだ。
他のメンバーも大なり小なり、数人ごとにバラバラにされてしまったことだろう。

いや、そこまではまだ挽回のし様があった。
たかが数十メートル上から落下して水没した程度では、プリズム粒子で出来ているこのスーツが機能障害を起こすはずもない。
通信系統は生きていたし、他のメンバーと連絡することも、本部に対して救援を要請することも出来た。

即座に連絡を取って合流すれば、先ほどの怪人の戦闘データを解析した本部からすぐさま送られてきた有効な対策案を元に撃破出来たはずだ。

だが、先日配備されたばかりの新メンバーがすでにキラメタルと交戦中、という情報が桃香の判断を誤らせた。
キラメタル対策であり、先日配備されたP-バズーカーを使う為には、五人のスーツから供給されるプリズム粒子が必要だ……逆に言えば、五人以上は必要ない。

そして流された先には、自分の姿を見て大慌てに逃げ出すキラーアースの下級戦闘員達―――何か、子供一人ぐらいは入りそうな大きさの暴れる麻袋(微妙に少女の顔が見えていた)を持った連中だ。

自分が運悪く、たった一人で吹き飛ばされていたことも、桃香の判断を加速させた。
応援を頼んでいては、間に合わない。
そして、怪人キラメタルの場所には、新メンバーも加えて五人がすでに到着しているという情報も、今入った。
それが結局、桃香の心を後押しした。


連絡する時間も惜しい桃香は、本部に通信を一度入れただけで、その戦闘員達を即座に追った。
それが、キラメタル付きの戦闘員達の行動を影から操り、ピンクを一人孤立させる位置まで誘導した上で怪人に吹き飛ばさせ、下流にて待機させていた私兵の姿をわざとピンクが意識を取り戻した位置まで移動させていた一人の改造人間の策だと気付くことなく……桃香は戦闘員達が逃げ込んだと思われる、廃工場へとたどり着いた。

戦闘員一人一人は基本的にレンジャーなりライダーなりの変身スーツを纏ったものに対して痛打を与えることは出来ない。
だが、その行動を妨害し、怪人の一撃を思い通りに当てるための位置に誘導し、誘拐に見せかける為の人手とするには十分な戦力である、ということを未だ実戦経験が少ない下位の正義の味方である桃香は気付くことが出来なかったのだ。




ぴちょん、ぴちょん、と昨晩ぶった雨の名残であろうか、ところどころの屋根に開いた穴のふちから未だに水滴が垂れ続け、コンクリートむき出しの地面に出来た水溜りに当たって水音を響かせている。
随分古い工場だ、というのは周辺の鉄骨の錆び具合からもよくわかる。
バブル時にでも放棄され、今では公道と通じてもいない工場に逃げ込んだ連中の姿を探しがてらに、桃香はあたりを用心深く見渡した。

出入口が一つしかないことは、すでに一度周囲を巡って確認している。
地下通路のようなものがないこともスーツに付いた音響反射装置で確認しているし、入ってきた搬入口には、警報装置を取り付けておいた。
そこから逃げ出そうとすれば、すぐに分かる。

つまり、この中に追い詰めたことは確かなのだ、と桃香は確信を持ってスーツの内側から拳を握り締めた。
考えてみれば、桃香はプリズムレンジャーの隊員としてスカウトされてから、いつもチームだった。
特定の波長を持つ人間にしか使えないツールを渡され、訓練課程を受けたときから常に位置の力を協力し合うことによって十にも二十にもすることばかりを学んできた。

勿論、単独行動についてもそれなりに訓練は受けてきたが、実際にたった一人で悪の組織の一員と対峙することを考えると、手に伝わる銃の金属質な感触が今はことのほか頼りなく思える。


だから。
不意打ちを警戒はしていた。
それでも、間に合わなかった。



「っ……!!」


がらっ、という音を察知した頃には、もう遅かった。
天井が崩れ、四方八方からさび付いた鉄骨やらコンクリート片やらが上から落ちてきた瞬間にようやく、桃香は己の失策に気付く。
前後左右からの戦闘員による襲撃は予想していても、まさか死角となる頭上からこれほど大規模な攻撃を受けるとは夢にも思いつかなかったのだ。
桃香がまとうスーツは筋力と防御力については上昇させても、それほどまで速度を上げることがなかったこともそれを後押しした。
まさに、実戦経験の不足が露呈した結果となった。

とっさに頭を覆う形でガードしたものの、質量の違いはどうしようもない。
鉄骨やらなにやらに押しつぶされる形で、地面に仰向けに叩きつけられた。

そこに声が聞こえる。
妙にくぐもった声だったが、それは確かに感情を感じさせるものだった。


「よっしゃ! うまくいったぜ」


コツッ、コツ、コツッ、という特徴的な足音を響かせて、誰かが近づいてくるのを人間の五感を数十倍まで強化するスーツ越しに桃香は聞いた。


「さ~て、どうやってこっから掘り出すかなぁ」


どうやら、この工場すべてが自分を罠に嵌める為のものだった、と気付いたのもそのときだった。
足音は、完全に近くまで、それこそ瓦礫の傍までやってきた。

確かに相手からすれば、瓦礫の除去、それをしなければせっかく捕らえた獲物をどうにかすることなどできやしない。

だが、それは声の主が何かをやる前に事がなった。


「はぁっ!」
「何ぃ!!」


桃香は全身の力を一気に周囲へと撒き散らし、その勢いでもって瓦礫を吹き飛ばす。
常人とは完全に異なる正義のヒーロー(ヒロイン)、プリズムレンジャーの力はたかが瓦礫で阻めるものではないのだ。

いきなり吹き飛んだ瓦礫の山々に驚愕の声を発しているその声の主も、瓦礫にでも当たったのかしりもちをついているのがクリアになった視界で確認できた桃香は、瞬時に行動を起こした。

こちらの意図に気付いたのか、あわてて四つんばい状態で逃げようとしていた人影を、その身体能力を使って踏みつけた。


「ゴバッ!」
「さあ、さっき攫った子を返しなさい!」


相手の息が詰まる音を尻目に屹然と言い放つその姿は、まさに正義の味方、という姿であったが。


「キーっ」
「っ!! 違う!」


その彼女の下にいたのは、人語を喋ることなど出来なくなっているはずの、単なる戦闘員でしかなかった。
改めてみると、首元に何か掛かっている……今では珍しい、トランシーバーだ。
くぐもった声は、おそらくそこから出ていたのだろう。

それに気付き、その本当の声の主を探そうと首を回す前に、乾いた音が耳に届いた。


「さっすが、正義の味方。あの程度じゃ障害にもならねえみたいだな」


ぱち、ぱち、ぱち、と乾いた拍手が響く元を探すと、ちょうど工場の支柱の影になる一から、一人の男が出てきた。

距離は、数十メートル。
常人離れした視力を得ても、ズームでもしなければ今はまだ大雑把な人相しか見えない程度に小さく見えるその距離は、いくらスーツの補助を得ても一瞬では詰めることが出来ないほど離れている。

そこに、男がいた。
少年と青年の中間ぐらいに見える男は、他の戦闘員と同じような衣服を着ていたが、唯一その頭部を覆うマスクがないことが違いをアピールしていた。

そしてその足元には、麻の大袋から首だけ出した金髪の少女の姿も。
何かされたのか、先ほど首だけ出した状態でも精一杯暴れていた姿とは打って変わって、ぐったりと目を閉じて横たわっているのがこの遠目からでもよく見えた。

元々、経験不足ではあっても愚かではない桃香は、瞬時に答えをはじき出した。
すなわち、自分が今捕らえている戦闘員ではなく、この男こそが首謀者である、と。


「あなたがっ!」
「おおっと、動くなよ。あんたほどすばやく動かれちゃあ、びっくりして手が滑るかもしんねえ」


そのため、速攻を掛けてまずは少女を保護せねば、と足に力を入れたが、その機転を制するかのような形で男はその手に手品のようにナイフを取り出し、足元の麻袋に包まれた少女の首に押し当てた。
それだけ、たったそれだけで、戦闘員など物の数にしない、怪人にすら比類する能力を持つ桃香―――プリズムピンクの動きは止められた。


それを見て、ニヤニヤと男がいやらしく笑う。


「さて、状況も分かってもらえたと思うんでね……とりあえず、その変身を解除してもらおうかねぇ」
「何を言って「そら、どうした? この嬢ちゃんの頭と体が、離れ離れになってもいいってのか?」っ…………」


頭の悪そうな挑発を続けてくる相手だが、それに対して有効な手段を持っていなければ、どれほど愚か者相手であろうとも反撃することが出来ない。


思わず周囲を見渡すが、当てになりそうなものは何もなく、目に付いたのは……自分の足元でひれ伏す、戦闘員のみ。
それを見た瞬間、桃香はひらめいた。

人質、実に下劣な手段だ。
だが、それが可能なのは何も相手だけではない、と。


「そら、さっさと変身解除しろっての。このガキの命が惜しくねえのか?」
「……それはあなたも同じではないのですか?」
「あん?」


察しの悪い相手に、いい含めるように桃香は真実を告げる。
人質というなら、お互い同じだろう、と。


「その子のように、あなたの仲間も私に捕まっているのですよ?」
「…………」


ぽか~ん、とあっけに取られたような表情を取る男。
桃香だって、こんな手段なんて取りたくない。
だが、相手の言葉に従うことがあの少女を取り巻く状況を改善させるとは到底思えない以上、こんな手段に頼るしかない。

改めて仲間をせめてもう一人つれてくるべきだったと思うが、今は悔やんでも仕方がない。
人質の交換という正義の味方にあるまじき下劣な手段を己が使わなければならないという事実を、今この試練を乗り越えるまではひとまず棚上げにして相手を睨む。

だが、当然ながらそんな手段はこの男―――改造人間リキュールにはそんなことなど通じやしないのは、周知の通りだった。


「仲間、ねぇ……そんじゃ、これでどうだい?」
「なっ!」


BANG!
そうリキュールが呟いた瞬間、嫌な予感を感じて桃香はその場を離れようとして……下の戦闘員の体から巻き上がった炎に巻き込まれた。

桃香が身にまとうスーツには当然ながら爆発等を軽減する能力がある。
それゆえに、たかがこの程度の爆発に対してそれほどの痛痒は受けないのであるが、それでも桃香は動きを止めざるをえなかった。

この爆炎にまぎれて近づけば、相手に気付かれることなく間合いを詰めれたかもしれない。
この爆音にまぎれて回り込めば、相手の知覚よりも早くあの人質の少女を取り戻せたかもしれない。
だが、桃香は動けなかった。

思わず、下を見る。
コンクリートの床面が吹き飛び、地肌が見えているそこには、わずかばかりの人の残骸だけが残っていた。


「そ……そんな…」
「さて、これでそっちの人質はなくなったわけだが……」


何気なく言ってくる相手に、桃香は恐怖を感じた。
怪人、というのが人とは違うのは分かっていた。
悪の組織、というものが犯罪者集団、ということも分かっていた。
戦闘員を、ある種使い捨てのように使っていたことも知っていたはずだった。

だが、それでも躊躇なく同じ戦闘員と思われる男ですら、味方を爆破するほどまで精神の箍のはずれ具合が違ったとは覚悟が足りなかった。
そして、そのきっかけが間違いなく自分ひとり―――仲間と責任を分かち合うことなく自分の肩に掛かる、というのは想像以上に重たいものであった。

無論、今まで桃香は悪の組織と戦ってきた。
その中では、死者もあっただろう。
怪人を「殺した」こともあっただろう。
そのための覚悟は、とうに済ませたはずだった。


「そこまで対等にこだわるってんなら、こっちの人質も爆破してやろうかい?」
「止めてっ!」


しかし、そんな覚悟などあざ笑うかのように、自分の選択が間違っていたばかりに、敵とはいえ一人の命を自分のせいで失わしめてしまった、という事実は、そしてそれが戦闘員のみならず、何の罪もない少女の命にすら及びかねない、という事実は、二十歳にもならぬ少女にとってはあまりに重たいものであった。

狂っている。
確かに相手は狂っているのだ。
外見が異形とも言える怪人ではなく、マスクを脱いだ戦闘員にしか見えない―――自分と大して変わらないただの人間に見えることも恐怖を加速させる。

味方をたいした意味もなく殺せる相手だ。
それが今人質となっている少女の身に降りかからないと、誰が言えるであろう。

たとえ今変身を解除することは何の意味も持たないのかもしれない。
だが、それをしないことが相手の狂気に満ちた気まぐれを加速させてしまうかもしれないことを考えると、桃香が拒絶できなかったことは正義の味方として寧ろ当然のことかもしれなかった。


からん、と手から変身ツールである、携帯型の機械が落ちた。


次の話

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プロフィール

基森

Author:基森
蚕鳴や円禍と名乗ってたこともあります。

主に小説・ssなどを置いているブログです。

自前の本棚を持つのは初めてなので手探りでやっている程度のものですが、わずかばかりの暇つぶしにでもなれば幸いです。


メールは「kulukku106☆yahoo.co.jp」まで、☆を@に変えた上でお願いいたします。

そろそろ、非営利にならトップへのリンクフリーとか言ってみたり。

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