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悪の秘密結社乗っ取りマニュアル4

完全図解 これが秘密結社キラーアースだ!





コツ、コツ、と硬質な足音が周囲に響く。


通路全体が地下にあるが故にその音の振動は周囲の壁面に吸収されることなく乱雑に跳ね返る。
実に不規則に、あるときは踊るように、あるときは転んでいるような適当な足音をたどると、ツンツンとした髪を逆立ててステップを踏む少年と青年の中間ぐらいの男の姿が。

リキュールだ。
片手に持ったボストンバックの重さを感じさせない歩きでキラーアースの地下通路を歩いていたリキュールだったが、やがて一つの扉の前で立ち止まった。
そこそこ大きいその扉は、まるで金庫室のように分厚い幅を外からもうかがわせた。


楽しげに歯をむき出していた口元を一瞬歪めたが、すぐにもとの表情に戻ったリキュールはその扉についている認証板の前に手をかざす。
重い音を立て、それでもすぐに扉は開く。

暗い。
内部は暗く、ところどころに電子機器のランプらしきものの見えるだけの暗闇だが、戦闘用ではないとはいえ一応改造人間であるからか、リキュールは迷うことなく進んでいく。
まあ、この場所にただ単になれている、ということもあるのだが。

目が慣れてくると、この場所の異常さにも気付くだろう。
大きな試験管の中には緑色の液体が泡を吐いているし、その隣の水槽には出来損ないの深海魚みたいな生き物が浮かんでいる。悪の秘密結社につきものの実験場がそこにあった。
見慣れぬものならば吐き気を禁じえない光景が延々と続くそこを、リキュールは己の庭のように興味なさげに進んでいく。


奥へ奥へと進んでいくと、やがて光が見えてくる一角がある。
そこに乱暴にリキュールは入り込むと、その応接間のようになっている一室のテーブルの上にボストンバックを乱雑に投げ捨てた。


「よーやく見つけたぜ、もっと手前にいやがれ」
「遅かったですね、リキュール」
「てめーのせいだろーがっての」


銀縁眼鏡に白衣といういかにもな格好でここに佇むのは、組織が誇るマッドサイエンティスト……の助手だ。
そこそこ優秀なので個人の研究室を一つ持ってはいるものの、本物の科学庁トップのドクタースピリタスとは才能の桁が違うがゆえに、未だ助手の域は超えていない。

名前は、ウォッカ。
無論、これもコードネームである。

ウォッカは、挨拶もそこそこにリキュールが持ってきたものに釘付けになっている。それでもかろうじて理性が保っているのか、リキュールが許可の声を掛けるまでは手を出さなかった。



「ああ、わかったっつーの、ほら開けていいぞ」
「では、遠慮なく…………おおおおおおーーー!!」



リキュールの許可に飛びつくようにバックを開けたウォッカは、その中身……札束の塊に歓喜の声を上げる。
ウォッカは、金の亡者といってもいい青年だった。


「おおお、すごい、すごいですよ、リキュール。やっぱりあなたを見込んで治療した私の目は正しかった!」
「…………」
「いくらあるんです? いや、やっぱり言わなくていいです。自分で数えるからしばらくそこで待っててください」


そういって本当に一枚一枚を恍惚の表情でウォッカは数えだした。
それを見て苦々しげに表情を歪めるリキュール。
バックの中の金は、以前に洗脳した御光院蘭華の「お小遣い」から融通してもらったものである。すなわち、それはリキュールの金だ。
それを他人に渡さねばならないことがどうにも気に食わないらしい。



「(ちッ、糞気にくわねえ……)」



こつ、こつと前頭葉のあたりを人差し指で何度も叩く。そこには下級戦闘員なら誰でも仕込まれている金属質な感触はなかった。脳改造装置はすでに除去されているからだ。
怪人のような異形ではなく、外見上はほとんど他の戦闘員達と変わらないリキュールが唯一それらとは違う場所だ。


かつて作られた組織が正義の味方によって壊滅し、その後ここキラーアースに捕獲されてすぐにつけられた洗脳装置は、すでにリキュールの頭部には存在しない。
ウォッカが取り除いたのだから。


確かにウォッカは、ドクタースピリタスの単なる助手に過ぎない。
ドクター本人との技術力の差など論じるのが馬鹿らしいほどだ。

だが、それでもたった一人で怪人を生み出し続けるドクターの研究に曲がりなりにも付いていっているのだ。
その腕前はリキュールに掛かっていた『組織に対する忠誠心』という洗脳を解除できるほどだった以上、リキュールとしては金を渡してでもつなぎは取っておく必要があった。

恩義を感じてのことではない。
あくまで今後の為だ。


とはいえ、ただ金を渡すだけ、というのは我慢できなかったらしいリキュールは次なる要求をウォッカに突きつける。


「戦闘員達が自分の意思で俺の都合がいいときに自爆するように改造しろや」
「自爆装置って言うのは、外から爆薬をつけなくても自分の内部にある爆弾で『自爆』出来るって意味だから今のままの名前でも問題ないですよ? 『自由意志で爆発』って意味じゃないですから」


リキュールの無茶な注文に、ウォッカは札を数える手も止めずに即答する。
金に触っているときこそが最も頭脳が働くときだ、と断言してやまないこのウォッカの専門は、さんざんリキュールが使い捨てにしてきたいわゆる雑魚戦闘員の作成である。

すなわち、いい加減な求人に乗っかってきた派遣社員などをで捕獲して改造したり、ニートにお困りの家庭からこっそり連れ出してあげて改造したり、暴走行為で事故って半死半生になっている珍走団員をそのお友達ともども救出して改造したりするのが彼の専門だ。
その専門家として積載量の限定されたフレームである「人体」に量産性を削ってまで不要な機能を積む余裕はない、との間接的な反論であったが、リキュールは不満そうだ。

それは自分の思考か読まれたことに対する不満であったし、同時にそのウォッカの言に一理あることを己の何処かが認めてしまったがための苛立ちでもあった。



「ちぃ、じゃあそっちはいい。いつも通りデータ出してくれや」
「ええ、かまいませんよ。ただ、まだラム様に提出する前でしたので裏を取っていないものも多いのですが……」
「かまわねえよ。ついでにそういう何も気が向いたらやってやるよ」



それゆえの譲歩。
その気まぐれの代わりとしての対価。
それを聞いてウォッカはリキュールを頼もしい、と思う気持ちが増えるのと同時に警戒心も湧き上がってくることを自覚する。


リキュールは決して馬鹿ではない。
寧ろ、怪人たちを脳筋としてさげすんでいることからも分かるように、非常に頭が回る。

よくわからない自分のルールに従い、よくわからない縛りを自分に課し、よくわからない基準で相手の生殺を決めたりするが、それは膨大な下調べのデータと瞬時の判断能力に基づく確かな答えである、とウォッカは評価している。


手の触れた相手の脳をコントロールする能力と、それの応用として他の怪人、改造人間とは比べ物にならない精度で戦闘員達を操れるという直接戦闘に向かない能力しか持たないリキュールを、金蔓として組織ににらまれる可能性も考慮に入れた上で自由にしたのには、理由があるということだ。

リキュールの手にだけは触れないように距離を置いて、それでもその警戒を気付かれないように自然な動作で動いたウォッカは、リキュールにドクタースピリタスのした働きとして日ごろから集めている情報の一部を開示する。


例えば、警察関係から流されたものの中には、こんな情報があった。


『先月に改正された租税特別措置法第5432条による特殊悪生体討伐による特別企業減税の結果として、新たに東京近辺のみでも十三の特殊派遣業が発生した。その内、十二の組織については規模の大小こそあれすべて一部上場程度の企業による自警団的な能力しか持たず、警察程度の武装しか行っていない。しかし、六菱扶桑により作られたトラックをモチーフとした戦隊については、六菱が何らかの超科学を持つ団体と接触したのかB級怪人相当の能力を持っていると考えられる。先日、怪人を一体所有していた犯罪シンジケート、グリーズ団が壊滅したことも、位置的に彼らによるものである可能性が高い。今後も情報を集める必要性あり』


これは、法改正のたびに起こる正義の味方の一時的な微増について警察の内部資料だ。
正義の味方も一枚岩ではない、当然一般公務員である警察の一部は、事件が出てくるたびに勝手にしゃしゃり出てくる連中を苦々しく思っている。

基本的にこの国では上場する際に数%ぐらいの確率で賭けに出る企業が出る。
主にベンチャー企業が多いのだが、正義の味方業という賭けに。
その中にはそれなりに脅威になるものもごく稀な確率で存在する。

だから、そんなことなどウォッカにとっては気にすることではない。
自分の才能を信じているウォッカは、他者の動向など気にすることなどないのだ。


あるいは、こんな文章もある。


『魔道教団ダークアイズの裏工作によるものと思われる、通称巨大怪人対策法案の一部改正が成功した。これにより、ガソリンを動力源とする巨大ロボを所有する敵対組織達は、巨大怪人以外に使用すると燃料費の補助が激減する為、これまで以上に人型サイズの怪人用としては使用が困難になった。しかし、未知の科学的エネルギー、あるいは魔法によって動く巨大ロボについては未だ変化はなく、対抗策として我々も巨大怪人の開発を急ぐ必要がある』


巨大ロボは、現在怪人を巨大化できる方法を所有していないキラーアースにとっては最大の鬼門だ。
以前、巨大ロボを使って怪人を踏み潰す、という戦略に出た正義の味方組織がいて、そのとき手痛い敗北を喫したからだ。

だが、それでも幹部連中はあわてなかった。
ただ、怪人の巨大化を優先するようにドクターに命じるのみ。

傾向と対策などというものなど、悪の秘密結社には必要ない。
必要なのはそれを上回るだけの力だ、ということが浸透しているからだ。

実際、巨大ロボは次の週にはウィスキ将軍の一撃で破壊された以上、それほど脅威にも思っていないのだろう。

他にも各種情報は戦闘員の改造を専門とすることでこの組織で最も人手を所有するウォッカの元に続々と集まってくる。


『以前確保したライダーエルスの変身用ツールだが、中に潜むらしき小型生命体が非協力的なため未だ進展なし。物理的に接触できない為魔法・超能力関係の能力の確保によって引きずり出すまで現状維持』
『東京都庁怪人対策課に、新型拳銃が支給された模様。詳細は未だ不明ゆえ、継続的な調査の必要あり』
『半年前壊滅したヘルバンドから取り入れた巨大化技術だったが、ヘルバンド型の魔法の使い手を必要とするため、彼らの儀式魔法を完全には把握できなかった我々には活用できないことが判明した。同じく二月前半壊して現在東北地方で再起を計画中と思われるビーテスの巨大化技術については巨大化細胞によるものであるということが分かっているので、そちらを期待したい』
『前回の作戦により、資金が増加した。予算申請が通りやすくなるかも』



正義の味方もいろいろあるし、悪の組織もいろいろある。
そういった裏情報は確かに大事ではあるが、しかしそれはあくまで戦闘能力の足りない連中がすることだ、という考えが中堅以上の悪の組織にはある。

正直言って、集めているウォッカもこんなものは自分の担当である科学関係以外はあまり読んでいない。
どっかの怪人も作れないようなヤクザ上がりの弱小組織がひいこら言って集めているのを、ラムの命令で奪ってきたのを適当にまとめているだけだ。
直接の上司であるドクタースピリタスなど怪人の研究以外には全く興味がない為、こんなものが存在していることすら知らないかもしれない。

この組織、キラーアースにおいてもこれらをすべて正規の資料として読んでいるのはラム参謀だけであろう。
好きなことをやる為に怪人や改造人間、戦闘員になったような人間が、好き好んで書類仕事なんてものをやるはずがないのだ。
結果として、お役所仕事で下手すりゃ怪人に殺される前に書類に殺される、とか言われるような国家公務員的正義の味方とは真逆に、悪の組織の間では力がすべて、ということがまかり通っている。

法律なんてものは対等の立場にあるものが考えるものだ、弱者である人間の法など俺たちには関係ねえ、と思っている奴らがほとんどだ。
まあ、実際巨大ロボットに単体で勝てる怪人が存在する以上、その考えは間違ってはいない。
書類仕事してる時間で自分を鍛えたり改造したりする方が侵略には効率がいいのだ。

まあ、悪の組織にも個性があるので裏工作したり、選挙に出たり、といった行動をするものがいないわけではないのであるが、全体として少数である。
この怪人が量産出来る程度のそこそこの規模を持つ組織においても、こんな情報を好むものなど幹部のラムと、このリキュールだけである。


だからこそ手駒の一つとしてウォッカはリキュールを選び、そして逆に彼に取り込まれないように警戒する。
組織の方針を決めるラム参謀のようにではなく、戦闘員を連れて行って力ずくで物事をなすよりも、自分で面倒な計画を立てて自分なりの世界を作って作戦を実行するリキュールは、得体の知れない相手に見える。
ただの洗脳特化の改造人間にもかかわらず、戦闘能力をつける再改造を拒んだり、確実に取れたはずの正義の味方を見逃したりと彼の行動には不審が多い。

自分とは違う行動原理で動いている相手だ。
今はwin-winの関係が築けているとは思ってはいても、いつこちらに牙を剥くかはわかったものではない。
改造人間としての戦闘能力はこちらの方が上なので、相手の手の上に無防備に頭を預けるような間抜けな油断さえしなければ負けることはないが、それだけに気を抜けない。




だからウォッカは、リキュールが去った後に通信機のスイッチを入れる。


「ああ、ラム様ですか? リキュールの動向についてまた一つ新しい情報がはいりましたから、買っていただけませんか? ええ、今のところそれほど目立った行動はしてませんが、どうやらまたスポンサーを見つけたようで」


力こそがすべて、という気風をもつキラーアースの幹部達にとって、リキュールの性格、行動は黙認こそすれ、それほど歓迎するものではない。

それゆえ、幾重にも保険を掛けて自分のコントロールの置ける範囲下に置こうとするのは当然だった。






「(完全に駒に出来るまで後、半年ってところか。チッ、やっぱ非接触では効きが悪いな。だが……ウォッカさえコントロールできるようになれば、スピリタスにも手が届く。そうなりゃ、怪人のすべてを操ることも不可能じゃねえぜ、ひひっ)」



そして、当然それは気風と違う性格を持つリキュールも同じようにウォッカに対して持っている感情でもあった。
そして、その裏切りを察知するには、彼らはあまりにも力に傾いていた。



次の話

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プロフィール

基森

Author:基森
蚕鳴や円禍と名乗ってたこともあります。

主に小説・ssなどを置いているブログです。

自前の本棚を持つのは初めてなので手探りでやっている程度のものですが、わずかばかりの暇つぶしにでもなれば幸いです。


メールは「kulukku106☆yahoo.co.jp」まで、☆を@に変えた上でお願いいたします。

そろそろ、非営利にならトップへのリンクフリーとか言ってみたり。

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