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悪徳の宴・13

クソ外道になってしまった……シルヴァさん、ファルケやメッツァーより優しいというか、詰めが甘い印象だったのに。
まあ、やってることには大差ないんですけど。


ま、いいか。モチーフは「魔法少女リリカルなのは エロゲ版」だし。
多分カカロだったらこれぐらいじゃすまない。





「はやて! ここは私が食い止める、先に行け!」
「い、嫌や! ザフィーラ一人やったら無理や!」
「ダメだ!」


悲鳴と涙が入り混じった哀願は少女の哀れさを感じさせずにはいられないものであったが、盾の守護獣はそれを一顧だにせずに跳ね除けた。
そんな言葉を交わしている時間さえも惜しいと、彼は鋼の鞭で幾匹もの異形をなぎ払った後、その手ではやての体を強く前に押す。
その手に縋りつくように手を伸ばしたはやてに、しかし彼は背を向けて再び自分たちに放たれた追っ手に対して向かい合う。

力強く語る背中越しのザフィーラのその姿は、しかし魔物の赤ではない血以外にも彼自身の血潮さえも混じったマーブル模様。
その元となったのは、彼が騎士として叩き潰してきた外道の化け物の残痕と、彼自身に残る裂傷、火傷、打撲傷、凍傷、刺傷、その他ありとあらゆる傷から。
白の髪が、褐色の肌が、まるでその元の色さえも塗りつぶしかねないほどに染まっていた。
盾の騎士の異名どおり、その身を盾にして主を守ったのだろう……その横にいるはやてには砂塵の汚れこそついておれど、その身に血潮がほとんど見られないこととはまるで対照的なほどに、その姿は満身創痍といえるものだった。

それでも、彼はその場から僅かたりともそれ以上引こうとはしなかった。
その背に縋りつくはやてさえも邪魔といわんばかりに―――怪我をさせぬよう慎重に振り払って、構える。


「はやてよ。聞き分けてくれ。ここは危険だ」
「だったら、なおさらや、わたしも戦う!」
「はやて!」


言い争っている時間さえも惜しい、といわんばかりにその声が険しくなり、その哀願に涙が混じる。

お互いに誰よりもいとおしい家族だと思っている。
だからこそ、その身を心底思いやる気持ちもまったく同じ。
しかし、状況は二人にまったく正反対の結論を出させた。
そして、それをすり合わせる時間を与えようともしなかった。


『ギギィ!』
「くっ!」
「また、見つかってもうた!」


神経に障る鳴き声とともに、目の前にまたも一匹の異形が現れる。
黄色い目に、爬虫類じみた肌。

下魔。

普段ならばなんとも思わない程度、精々ガジェットぐらいの力しか持たないそれらは、しかしここら一帯に仕掛けられた変容魔法の効果で極めて危険な魔物と化している。
それを今までの戦いで重々知っているザフィーラはいらだたしげに視線を向けて、しかし相手に何をすることも許さず鋼の鞭でなぎ払う。

いかにAMFによってリンカーコアの出力を下げられていても、いかに変容魔法によって下魔の能力が引き上げられていても、一騎当千のベルカ騎士相手に本来であれば敵になれるようなものではない。
だが、ザフィーラの表情は厳しく、はやての顔色も悪い。

それを肯定するかのように、倒した下魔の影から現れたのは、新たな下魔。
それさえも撃退したところで、現れるのは下魔、下魔、下魔。一匹倒す間に二匹が駆け寄り、それを倒せば三匹が待ち構える。
完全にこちらの消耗を計算に入れた、使い捨ての特攻兵達。それが下魔だ。
召喚装置の大元を保有するメッツァーほどではないにせよ、シルヴァであってもたったの一作戦で何十も使い捨てるのをまるで躊躇する必要を感じさせないコストの安さを持って大量に導入されているこれは、管理局から離れ補給を受けられないはやてとザフィーラ相手には極めて危険な存在だった。
ましてや、AMFに満ちた空間変容は彼女らのリンカーコアの消耗を加速させるのだ。

だからこそ、彼女らはここまで追い詰められた。
それを理解している守護獣は、ふと響いたサイレンの音にもはや猶予はないと悟り、なりふりかまわずにはやてに怒鳴りつけた。


「あなたこそが夜天の主。あなたこそが我らが王。たとえ離れたとしても、騎士の忠誠は永遠に変わらない。だからこそ、今は逃げろ!」
「そこにザフィーラがいなかったらそんなん意味ないに決まってるやんか!」


もはやこれ以上この場にはやてはおいて置けないと、ザフィーラは焦りも隠さずに声をかける。
総合SSという凄まじいまでの魔導師ランクを誇ってはいても、彼女の親友のように直接戦闘を得意としないはやては、このような乱戦状態ではザフィーラごと巻き込みかねない足手まとい。
それを自分自身でもわかっていながら、それでもシルヴァに幾度となく抉られた傷口の痛みにより再び家族を失う恐怖に耐え切れないはやての哀願を、ザフィーラは叱り飛ばすような勢いで励ました。


「まだシャマルがいる、それを助ける友とて! あなたがいなければ、シャマルらとてどこを目指して進めばいいというのだ!」
「っ!」
「頼む、主よ。囚われたヴィータらを救ってやってくれ! もう一度、家族六人そろって笑い合える日のために、力を尽くしてくれ!」


衝撃を受けて立ち尽くし、見開かれた瞳。
家族を失う事を恐れる少女に、もう一人の家族の事をダシにして己の命については諦めろ、というのは酷なことである、ということを知るほどにはもはやプログラムではなく人として生きてきたザフィーラにとって、それはあまりに哀れに移る表情だった。

だが、それでも彼は彼女に生きていて欲しかった。
この少女があのような知性の欠片もないようなけだものに嬲られ、犯され、そして殺される事など許されるはずがないと思っていた。
たとえ自分達のことをあきらめたとしても、この誰よりもいとおしい主で妹で娘である少女が幸せになって欲しかった。
そして、一人残される湖の騎士がその思いを汲んで彼女と末妹を導いてくれる事も確信を持っていた。参謀たる彼女ならば、己が考えるよりもずっとはやての身をよりよく取りはかってくれる。
もはやこの状況が逃れ得ないならば、一時の悲しみを包み込んででも、自分やヴィータを切り捨ててはやての幸せだけを考えてくれるに決まっていた。

だからこそ、この場で別れることにためらいはなかった。


「……っ、絶対、絶対にここで死んだらあかんで、ザフィーラ! あとで、あとでちゃんと帰ってこないと、ご飯抜きにするで!」
「もちろんだとも。そうだな……たまには骨付きの肉が食べたい」
「了解や! 他にもいろいろつけたるわ」


涙の混じった少女の声に、勤めていつも通りの声音で返すザフィーラ。
それに泣き笑いで答えて、ようやくはやては駆け出した。
本来であれば二人で逃げ込むはずであったシャマルとリインが待つ場所に。
誰よりも大切な兄を置いたままで。


「ふっ……さあいけ、はやて!」
「絶対、絶対やからな!!」


だからこそ、彼はここで命を捨てることが出来た。
それが欺瞞と知っても彼女の背が小さくなる気配を感じる事で、自身としての人格の死に場所がここであるということを悟っても満足できた。
遠ざかっていく足音が、その直後に聞こえる飛行魔法独特の風切り音が、何よりもうれしい彼への応援だった。

ただ、後悔がないわけではない。
またも彼女に家族を失わせる痛みを感じさせる己の不甲斐なさと、それを仕組んだ男たちに対する怒りなど燃え上がらんばかりだ。
握られた手はあまりにもきつく握り締められており、その瞳の睨みつける先の下魔など、文字通り一撃で砕け散った。


「さあ、意思も持たぬ人形どもよ……たとえ一体たりともここを通れると思うな」


だからこそ、その怒りの矛先に対しては微塵の躊躇も感じず、純白の魔力光が煌き、ザフィーラの全身を覆う。
意思を持たぬはずの下魔さえも思わず一歩退いたほどの迫力がそこにはあった。
一歩たりとも前に進ませぬというその歴戦の意思は、まさに鉄壁と呼ぶに相応しいものであり、実際に鋼の軛に埋め尽くされた道は、飛行能力を持たぬ下魔には容易に突破できるものではない。

だからこそ、ザフィーラははやての逃亡の為の時間を、そして彼女が補足されないようなかく乱を、十分に果たしていた……そう、炎の蛇が届きそのすべての結界を破壊するまで。


「来たか……かまわん。主の敵はすべて破壊する」


連結剣に炎を纏わせた女が、下魔ごとザフィーラの魔法を切り裂き、破壊し手その場に降り立つ。
それを見て、ザフィーラは歯軋りをしながら、しかし自分の役目を思い出し改めて構えを取る。
それによって、彼の役割は果たされた。
だからこそ、彼は叫ぶ。


「八神はやての騎士が一人、ヴォルケンリッター 盾の守護獣 ザフィーラ。参る!」


闇の書は何一つ変わっていない。
夜天の書と名前を変え、管理局員として幅を利かせているのはすべて欺瞞で偽善でしかない。
結局闇の書は、ヴォルケンリッターはどこまで行っても殺人プログラムなのだ。
今はたまたま条件が整っていないから発動していないものの、ひとたび条件がそろえばたったの一声でミッドチルダの禁忌たる殺人さえもためらわない化け物たち。
いくら善人面して管理局員として働こうともそれは結局今代の主たる八神はやてがそう命じているからという以上の意味を持たない。
それは彼女がふと気を変えれば即座にひっくり返る程度の薄い薄い価値観に守られているだけのものであり、それこそ万が一八神はやてが主でなくなれば、そんなものなど何の保障にもなりはしない。

そんな悪意の塊による言葉を、瞳の色を失いながら今まさにこちらに対して剣を向ける『剣の騎士』は無言でザフィーラに突きつけてどちらかが倒れるまでの時間を、確かに稼ぐ事に成功したのだ。

鳴り響くサイレンの音が、また一際大きくなった。









闇の書事件。
その一件に関するはやての落ち度は何一つないにもかかわらず、その傷跡は未だに深く大きかった。
何と言っても、転生を繰り返すロストロギアであった闇の書による被害者は、十年二十年単位の近さで戦艦一つが吹き飛んだ事もあるほどなので、ロストロギアの中でも比較的多く、また記憶ではなく記録になって風化しないほどには新しい。
歴代の闇の書の主には様々な性質の者がいたが、自身の利益の為であろうと騎士との友情の為であろうと、闇の書の目的自体を拒んだ者ははやて以外にはおらず、結果として蒐集を受けた魔導師の関係者も少ないものではない。
それが故に、ヴォルケンリッター自体に憎しみを向けるものもさることながら、その彼らの主、というだけではやてについて憎しみを持つものもいなくはない。
何と言っても、彼女こそが今代の『闇の書』の主なのだから。

その痛みに、今も少女はあがいていた。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……ザフィーラ、ごめん」
「ふっ、どこに逃げても同じだぞ」
「っ!!」


風切音とともに飛行魔法で逃亡を続けるはやてに突然声が掛けられたかと思うと、高度を下げて見つからぬように偽装を施してあったにもかかわらず瞬く間に結晶状の板が幾重にも落ちてきて彼女を囲う。
慌てて釣瓶打ちにならぬように地上に降りてデバイスを構えながら見渡すはやての前には、やはりあの男―――シルヴァ・ラドクリフが現れる。空間閉鎖によって逃亡を禁じたことで勝利を確信しているのか、はやてが彼女の力で放てば必殺を約束するシュベルツクロイツの切っ先を震えながら向けても、その不敵な表情は変わらない。
そして、それをなぞらえるかのように隣に従えたメイド服の少女と鉄槌の騎士の表情もまた、凍りついたように変わっていなかった。


「シルヴァ!」
「そうだ、八神やはて」


どれほどヴィータに語りかけたとしても、もはや完全に男に操られている彼女は何一つ返答を返してくれない。
今までの幾度もの戦いでそれを思い知らされていた彼女は、だからこそ憎憎しげにテロリストの男の名を呼ぶに留めた。
それさえも心地いい、といわんばかりにシルヴァは鼻で笑って言葉を続けた。
その余裕は、あまりにはやてとは対照的だった。


「さて、お前がどちらを選ぶにしろ、そろそろ鬼ごっこは終わりにしないか?」
「ふざけるのもいい加減にし……」
「ふざけてなどいない。闇の書の主に対する極めて冷静な判断の元の提案だ」
「闇の書なんて、もうない!」


シルヴァの声に不快そうに叫んだはやての言葉のように、闇の書というロストロギアは公式にはすでにない。
闇の書は夜天の書と名を変えたのだ。

そして、今は八神はやての手の中にある。
その事実は、決して軽くはない。

だが、同時に彼女は巻き込まれただけの孤独な少女だった、という事もある程度の解決を見たと管理局から説明を受けた被害者たちには広く知られていた。
かつてのヴォルケンリッターが犯したとされる罪さえも知らず、ただただ家族ができたことを喜んだだけの無力で哀れな子供。
人を害してまで自らの足の完治を願ったわけでも、愛する家族を守る為に善良なる人々を傷つけることをよしとしたわけでもなかった。
結果として事件が収束する際にも、流されるままに結果を受け入れた……それしか出来なかった。


「仮に今管理局に戻ったとしても犯罪者としておまえ自身が罰せられる事はないだろう……なんと言ってもお前は今回もまた、『巻き込まれただけの哀れな少女』だ。奴らを諦めて平凡な幸せを紡ぐ事など、一部のたちの悪い輩以外に非難するものなどいないだろうさ」
「そんなこと、誰が!」


故に、たとえ歴代の闇の書の主に、それに従ってきた歴代のヴォルケンリッターに対して憎しみを隠しきれない被害者たちだって、大概は彼女に対しては矛を収めたのだ。
彼女は、主とは言え何も出来なかった少女なのだ、自分たちと同じ巻き込まれた被害者なのだ、と。


ただ。
八神はやては夜天の書と名前を改めた「闇の書」の主であるが、彼女は悪くはない。

そういった擁護の為には、ある一つの大前提がある。
そうした人間たちにとっては、八神はやては無力な少女でなければならなかった。
運命に翻弄され、それを覆す事が出来なかったからこそ、彼女を非難する事は正しくない、ということである。


「ヴォルケンリッターの主である以上、あいつらを切り捨てない限りはお前に未来はない」
「わたしはあんたらとは違う! 誰一人だって、切り捨てるような事なんかするか!」


叫ぶ言葉は、紛れもなく本心。
下魔の命などまるで物の数でもないように使い潰し、時には僅かだけ障壁をゆがめ僅かなダメージを敵に与える為だけに自爆さえさせるシルヴァたちとはまるで異なる真摯な言葉。
副官として大事に使いはしても、直属の部下であるフィエナさえもどこか駒とみなしている節もあるシルヴァとは比較するものおこがましいほどそれはヴォルケンリッターとの絆を感じさせるものだった。

闇の書に巻き込まれただけの無力で哀れな少女であるはやての存在を象徴するかのようなそんな言葉に代表される彼女の優しさがあったからこそ、誰も彼女を責めなかった。


だが、しかし。
彼女が選んだのは、選んでしまったのは……家族の一員としての贖罪としての、管理局員としての平和への貢献。
無論闇の書の主としての過去は決して広く一般に公表されていたわけではないが、これだけの輝きを放ってしまっては隠し切る事は難しく、結果として一つ裏にもぐってしまえばそれは公然の秘密として扱われていた。

結果として能力もあり、才能もあった彼女の働きは今の彼女の地位を示すかのように決して小さなものではなく、ことによってはエースと呼ばれるなのはよりも全体としての貢献は大きなものだったかもしれない。
彼女は懸命に努力を行い、その努力に相応しいだけのれっきとした結果をたたき出した。
彼女は家族たるヴォルケンリッターを守る為に必死だったし、無意識とはいえ自身が巻き起こした事件に対する贖罪に一生懸命だった。
まるで物語のように、才能を見せ付けるかのように、活躍し、手柄を立て、贖罪を果たしていった。
そうでなければヴォルケンリッターは決して許されず、たった一つでも大きなミスをすればきっと引きずり落とされたであろうそんな立場で、はやてはその年齢が信じられないほどに冷静に、正確にうまく泳ぎきっていた。

そしてそれは、ある種あまりにも彼女個人を取り巻く悪意に対しての無条件の免罪符を失う悪手だった。
無力な少女であるから、我慢した。
何も出来ないのだから、平凡な暮らしに戻る事を許した。
それなのに、と。


「今まではそれで何とかやってこれたからそんな馬鹿な言葉が出るんだろうが、現状を見てみろ、八神はやて。士官学校とかいうのでちゃんと情報分析ぐらいは習ってるんだろう?」
「っ!!」


そういったことをあまりに狡猾に利用しておいた挙句に、あきれた、といわんばかりに首を振って肩をすくめて見せる男の態度の冷たさにはやては息を呑んだ。
このような人間がこの世に存在しているとは、今まで彼女は想像だにしていなかったに違いない。
だが、現にそれは目の前に存在する悪意だった。

勿論、直にはやてやヴォルケンリッターと交流したことのある管理局員や、どのような状況においてヴォルケンリッターがあのような行動に移ったのか、グレアムの証言などから知ることが出来るほどの政府高官の中ではそのような認識が無いものも多い。
実際に全てを知るなのはやフェイト、リンディやクロノたちは、はやてが夜天の書を使って何か悪行を行うなどとは欠片たりとも思っていないだろうし、聖王教会高位のカリム、そして聖王たるヴィヴィオだって、一片の疑いを抱いた事も無いだろう。
はやてはいつも、頑張っていた。その過程を見たことがあるならば、それは侮辱以外の何物でもない馬鹿げた認識だ。

だが、管理局は巨大な組織であり、闇の書関係の被害者はあまりに広範に渡る。
ミッドチルダ社会のみならず、広大な次元世界をたった一つの組織で管理するには、当然ながら人員も膨大なものとなり、発展しきった高度な魔法社会においては見知らぬ個人と個人のつながりはどうしても希薄なものとならざるを得ない。

結果、八神はやてという人物がどのようなものなのかは、管理局やいくつもの次元世界に渡る闇の書の関係者の大半のものにはデータや噂話の上でしか関わりの無いものだ。
はやてと直にかかわった事があるものならば一笑に付すようなものでも、書類の上で、あるいは同僚や世間の噂で聞いただけならば否定しきれるものではない。


「ヴォルケンリッターの切捨て。それが出来ない以上はお前に未来はない」
「っ!!」


結果として、彼女をよく知らぬ第三者の反応は、決して善意に満ちたものだけになるということはありえない。

彼女を見て、頑張っているな、と思っている人間はいる。
いわれのない過去の贖罪を必死になって背負おうとして、実際に懸命な努力を重ねている彼女に好感を持つ政府高官も多い。
実際に彼女が被害を完全には防げなかったとはいえ、JS事件を最小の範囲で収めることに成功したことを知ったことで、快哉を叫んだ元闇の書の被害者は決して少ない数ではない。
かつては彼女をこの上なく憎んでいて、しかしいつしか誰よりも熱心な彼女の信奉者となった部下とていたのだ。

だが。
それだけで、優しさだけ出回るほどこのミッドチルダ社会は童話じみた理想郷でもない事もまた、真実なのだ。


「もはや管理局は当てにならないということはわかっているんだろう? どこに逃げたとしても、もはや『闇の書の主』や『ヴォルケンリッター』を救おうとする動きが起こることはありえない」


シルヴァに操られるヴィータの姿が衆目にさらされることが多くなる事で、シャマルやザフィーラに化けた上魔が暴れまわる事で、ヴィータのみならずヴォルケンリッターそのものを危険視された事がはやてがいま管理局員としてではなく個人としてシルヴァと対峙している理由であるという事を知っていながら、彼はあざ笑う。
すべての元凶の言葉に思わず唇をかみ締めるが、それで事態が快方へと向かうわけでもない。
仮にシルヴァやファルケなどをことごとく討ち果たし、ヴィータをこの手に取り戻したところで、その管理局との関係が劇的にもとの蜜月に戻るわけではない事は、はやてには十分わかりきったことであった。


「くっ、全部、全部あんたのせいやないか!」
「それがどうした? それともその言葉だけを持って、今までどおりこの目の前にいる鉄槌の騎士を傷つけず、俺だけを倒す事を狙って無駄なことを繰り返してみるか?」
「っ!!」


正当なる弾劾は、しかし自省というものをまるで持っていない男には何一つ効果を表さない。
だからこそ、彼を無傷で捉えて法廷において悪事を白状させることを諦めざるを得なかった現状では、シルヴァが語ったように何の意味も持たない。
その指摘は正しく、しかしどこまでも彼自身が言うには怒りを抑えきれない言葉に、はやては激昂のあまり言葉をなくした。
だが、それさえも今の現状では無意味なのだ。


ミッドチルダ社会は傷つけることなく成り立つ魔法社会だが、だからといって人間のねたみや嫉み、恨みといった感情から完全に無縁でいられるわけでもない。
ファルケの誘惑に負けた人間がリンカーコアに恵まれなかった低位の管理局員に相当数いるように、メッツァーがばら撒いた下魔を使ってのテロ行為に手を染める人間が一向に減らないように、居酒屋で上司の愚痴を言うレベルから、権力闘争の末に自分の邪魔になりそうになるものを睨む段階まで、そういった人間は意識の大小はあれども相当な数に上る。
そういうものがないのであれば、地上の治安維持を任務としたレジアス・ゲイズが戦力ほしさにあのスカリエッティと手を結ぶほどに追い詰められる事もなかったであろうことからも、それは明らかだ。

そして、エースクラスを能力限定する事によって無理やり所属させるなど、相当強引な設立を行った機動六課の課長に対しては、主に戦力に恵まれていない地上部隊を中心に相当な反感がある。
それは、スカリエッティの事件を収めることが出来たことにより大多数は消滅したように見えるが、戦力を奪われ、犠牲を強いられ、挙句に手柄を掻っ攫われたと憎憎しげに見る視線とても決して少なくない。
たったひとつでも失敗を犯せば、それをあげつらおうと虎視眈々と彼女を眺め続けるものとて、いないわけではなかったのだ。


そこに加わったのは、八神はやての『容疑者の殺傷』の覚悟と敵に鹵獲された一部のヴォルケンリッターによる殺傷を含むテロ行為。
これはミッドチルダに生きるものにとっては禁忌に近いものだ。たとえどれだけ仕方がなかったのだとリンディやカリムが強弁しようとも、拒絶反応は一定の規模で絶対に出る。
勿論、今の現状を知りやむをえないと考えるものも多くいたが、それと同じぐらいの数だけどれだけ追い詰められたとしても管理局員たるものは相手を傷つけてはいけない、と考えるものも多い。

そんな彼女に今まさに向けられつつある、「敵のせいとはいえ今現在テロ行為に組している鉄槌の騎士らと同じヴォルケンリッターを抱える主」という偏見は、たとえこの事件が解決したとしても、容易く薄れる事はあるまい。
いや、むしろ闇の書事件と立て続けに起こったこの現状を考えると、もはや絶対に不可能な事にはやて自身にさえも思えてくる。
それでも自分さえ負けなければいつか家族が取り戻せる、いつかまたあのときのようにお互い笑い合える平和な時間が戻ってくる、と必死に信じてはやてはきっ、と目の前の悪党を睨む。


「どのみちそれが出来たところで無駄な事だがな。俺が死んだところでもはやあそこまで進んだ変容は戻らない。やつらが人間だったらまた違ったんだろうが……魔道プログラムである以上は、もはや不可逆だ」
「それは、それは……!」


そんなはやての希望を、絶望を、シルヴァは内心予想通りだと感じながら容赦なく挫きにかかる。
その声には何の落ち度もないのに彼に言いがかりを付けられて地に落ちた少女に対する哀れみなど欠片もなく、むしろ弱者を嬲る喜悦さえ混じっていた。


「ま、元に戻ったとしても、管理局の出したこいつとシグナムへの捕殺命令が覆るとは思えないけどな。『闇の書の主』が再び管理局のエリート士官として働ける確率と同じぐらいに」


そして彼はその喜悦のまま、彼女に自分に都合のよい未来予想を元にした言葉の武器をその喉元に突きつける。

今のはやてと志を同じくして、「傷つけてでも敵を倒し、しかし敵に操られたとはいえ多数の市民を今なお傷つけているヴォルケンリッターを元に戻そう」と考える人間が、世間での支持を得られるほどの大多数になるだろうか? と。
かつて罪を犯した殺人兵器が二度目の間違いを犯したとしても、もう一度チャンスを与えてみようとなるだろうか? と。


「っ!! あ、ああっ!!」


それは正義の魔法少女であれば、そんな言葉など仲間を、未来を信じる力を元に否定しなければならないものであるはずであった。
たとえ理解してくれない人がいたとしても、話し合いを重ね、思いを伝えて、皆で笑い合えることを目指すと宣言しなければならないはずの場面であるはずであった。

だがその言葉は、今まで彼が仕組み、積み重ねてきた幾重もの場面によって、はやての致命的なところを容赦なく抉り取り、ねじ切った。
限界まで見開かれたはやての涙に、絶望の色が映る。それは彼女が直視しないように必死になって否定していた未来であった。


闇の書は転生を繰り返すロストロギアだ。いまだに再現どころか解析さえも進んでいない、超一級のいまや失われた高度魔法技術の結晶だ。
この世界の誰一人、その完全な理解など出来ていない。

ならば、夜天の書と名前を変えればその危険がなくなったなどと誰が保障できるのか。
管理局内での僅かな保障が、最高協議会が作っていた裁判の資料が、本当に信用できるものなのか。
八神はやてが、そしてその後の夜天の書の所有者がその気になれば、第二第三の闇の書事件が起こる可能性は以前とまったく変わっていないのではないと誰が証明できるのか。


がくがくとその細い四肢を揺らし、もはや立っていられないほど震え、涙をこぼすはやての惨状をまるで意にも返さないように、シルヴァはそのようなことを語っていく。
それはメッツァーやファルケによりなのはやフェイトに加えられている現状と絡み合い、今まで彼が打ってきた数々の布石もあいまって、はやてに家族を失わせる恐怖を十分以上に突きつける。
突きつける騎士杖は本来であればシルヴァを容易に殺害しえるものであったはずだ。少なくとも、家族を守る為には彼を殺すことさえ覚悟したはやてには出来なければならないはずの事だ。
しかし、いつも通りその射線上に庇うようにヴィータが入ってきていることを差し引いたとしても、もはやそのデバイスを構える事さえ精一杯な彼女にとってはそんなことなど到底出来そうなこととは思えなかった。
 

「ヴォルケンリッターはこの社会において存在を許されず、お前が管理局員として働く事もない。これはお前が俺を倒そうがどうしようが、今後どれだけの人を救おうが、もはや変わらぬ確定した未来だ」
「そんなん、そんなん!!」


必死な否定とは裏腹に、シルヴァの言葉をきっかけに一つのイメージがはやての中で出来上がってしまう。


そこでは幾人もの若者たちが、街宣車の前でスピーカーを片手に通行人たちの前で演説していた。その周りにはノボリを掲げ、かつての英雄の釈放を叫び、その判断の正しさを並べ立てる。
彼らが告げるのは、結局はたった一つの言葉。
すなわち。

『グレアム提督はやはり正しかった』

こんなすぐに殺人を容認するプログラムなど、ミッドチルダにはあってはならないものだ。
闇の書は少数の犠牲を払ったとしても今すぐ滅ぼさなければならない代物だったのだ、と。
いや、間違いは正すべきだ。かつて出来なかったというならば、今すぐにでも奴らを……モノであるヴォルケンリッターを「消去」しなければならない。
その影に誰かの幸せな暮らしという犠牲があったとしても、それは必要最小限の犠牲で、やむをえないものであるのだ、と。
そう、無責任な善意の第三者が正義を語る未来。

現代地球を出身とするはやてにとって、独裁国家や旧時代の帝王制でも引いていなければ、そんな「言論や思想の自由」を留める術など無いように思えた。

そして、それらの声が一定数を超えてしまえば、もはやもう一度過去の平和な彼女の家族との団欒が許されることは……

それは、友人により、仲間により否定されたはずの映像だった。
なのはの活躍によって亡き者とすることが出来た暗黒の未来であったはずだ。
だが、目の前の男の悪意により家族を奪われ、その男に組する連中により親友と引き離された今となっては、それを徹底してもう一度否定するだけの力をはやてはもはや欠片たりとも持ち合わせていなかった。


「つまり、ヴォルケンリッターを救いたければ、最低でも管理局とは敵対せざるを得ない。その上で、今までどおり俺までも敵に回すか?」


そんなはやての心の動きは、歴戦の幻影錬金術師にとってまるで手に取るように読み取れるもの。
機は十分に熟した事を知って空間に映像を投影するシルヴァ。連絡は受けていなかったものの、そこには彼の予想をたがえる事のない光景が写っていた。
そこには、赤い騎士に剣を突きつけられ、たおれ付す褐色の男の姿があった。周りには、幾重もの下魔。
語る結果は、明白だった。

それを見た瞬間、はやての中で何かがぶちり、とちぎれた。


「い、いやぁぁああああ!!」


裂ぱくの気合とともにはやてが距離を詰め、シュベルトクロイツを振りかぶる。
それをみて、フィエナとヴィータが彼を守るかのように前に出ようとしたが、シルヴァはそれを手で制する。
なぜ、という表情でこちらの顔をみるフィエナと命令に従いあっさりと引き下がるヴィータに対して、シルヴァは笑って見せた。

涙をこらえた必死の形相でこちらに向かって駆け寄り、武器を振り下ろそうとするはやてだったが、その「攻撃」はあまりに稚拙なもの。
肉体強化魔法どころか、加速魔法さえも使わず、そのデバイスには欠片たりとも魔力刃なども付与されていない事が彼には見るからにわかっていた。
ならば、八神はやては無力なただの少女でしかない。


「ふん、弱いな、八神はやて」
「あ、ああっ!!」


その言葉を証明するかのように、振り下ろされた杖をごくごくあっさりとシルヴァは受け止め、奪い取ってみせた。
魔法がなければ、SSランクにも及ぶリンカーコアの助力がなければ、彼女はか弱い少女でしかない以上、より魔法の発展していない、肉体に依存する世界における高級軍人だったこの男にかなうはずがない。
しかしそれは、AMFによって、それを元とする変容魔法によって彼女の魔法を禁じて見せたがために彼女は加速も魔力刃も出せなかったからそうなった、ということを示すのではない。
それを使うまでもなく、戦いは今まさに終わったのだ。

そもそもまともな近接戦闘技術を磨き上げていないはやてが接近戦を挑むという事自体が間違っている。
それが叶うか叶わないかはさておき、砲撃魔法でヴィータをかわすように打つことこそが、この場における正解なのだと彼女が理解できなかったわけがあるまい。
それでもはやては、少女の腕力で、魔法も通わぬただの棒を振り下ろした。
そうであるならば、これはもはや攻撃ではない―――ただのかんしゃくだ。


「誰か…助けて……」


それを示すかのように実にあっさりとデバイスを奪い取られたはやてはがっくりと膝を落としてその場に座り込み、涙を流して呟いた。

彼女が望んだ正義の形は……家族との幸せ。
根底からそれをもはや壊されてまで、正義を突っぱねる事はもはや不可能だった。

だからこそ、効かぬとわかっている攻撃を魔法のまの字さえない鉄の棒で弱弱しく振り下ろした。
それが、最後の抵抗だった。
そんな些細な抵抗が踏みにじられる事で、ようやくはやては己の無力を思い知ったのだ。


「ふふ、助けてやるよ、夜天の主!」


それを聞いた瞬間、ついにことがなった事を確信し、シルヴァは叫び、ゆっくりとその魔手を伸ばす。
奪い取ったデバイスを放り捨てたその手には、いつの間に現れたのか、鈍く輝く指輪があった。
座り込んだ涙に暮れる少女に手を差し伸べるその姿だけを見るならば、まるで物語に出てくる誠実な騎士のようで、しかしその表情の邪悪さがその印象をまるで肯定しない。

どこまでもすばらしい悪の魔導師による物語がここで一つ紡がれ終わるのだ。


「さあ、八神はやて。俺の手を取れ! そうすれば、お前に再び『家族』を返してやるぜ……俺の下で、管理局では出来ない家族と過ごす平和な暮らしをもう一度与えてやる!」


もはや、その手をはやてが跳ね除ける事はなく、呆然と涙にまみれた力のない瞳でその己の左薬指にゆっくりと隷属の指輪を嵌めてくる男のくすんだ金髪を見つめる事しか出来なかった。



 つづく

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No title

元々、個人的な印象ではシルヴァさんが一番外道だったのでむしろしっくりきます。
魔法戦士への対応にしても一番愉快犯的だった・・・というかそもそも必要なかったはずの遊びでしたし。

ともあれそろそろ三陣営同士でも動きが出る頃合いですかね?
どいつもこいつも先手取られるのは好きじゃなさそうですし。

No title

流石シルヴァさん、外道度では三人の中でもトップですな!
なんだかんだで愛というか、人間味のあるメッツァーやファルケと違い、彼は本当に俺様主義感があるからなぁ。
エリクシルナイツでライムとローズをおもちゃで遊ぶ感覚で相手してたように。
ものの見方というか、彼が一番「人を人としてみてない」っぽいんですよね。
一段上から目線というか。
ルートによってはフィエナさんがその辺を多少ゆすってはいましたが。

はやて陥落。
一番厄介なようで、弱点が多い娘さんだからなぁ。
フェイトが「自分がないがゆえに依存が強い」なら、はやては「自分が弱いとわかってるから依存が強い」というか。

No title

ふう、はやての追い詰められっぷりを見て愉悦を感じましたw
弱点が多いけどそれを的確に力一杯抉れる人間は限られてますからねえ
そういう意味ではシルヴァさんはよくやったw
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プロフィール

基森

Author:基森
蚕鳴や円禍と名乗ってたこともあります。

主に小説・ssなどを置いているブログです。

自前の本棚を持つのは初めてなので手探りでやっている程度のものですが、わずかばかりの暇つぶしにでもなれば幸いです。


メールは「kulukku106☆yahoo.co.jp」まで、☆を@に変えた上でお願いいたします。

そろそろ、非営利にならトップへのリンクフリーとか言ってみたり。

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