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悪徳の宴・7

そういえば、手法的にはこの話とかもザッピングに入るんだろうか?
メッツァーたち基本的な活動方針が同じだから、被るところはある程度カットしていこうと思うんですが、時系列の並べ方を失敗したかもしれません。






下魔とよばれる異形の怪物や非殺傷設定を無効化する特殊なバリアジャケットを使用したテロ行為が近年多発している。
今までの安い犯罪を一つ上のランクへと引き上げることが出来てしまうこれらの「道具」が何者かによって意図的にばら撒かれている事は間違いない。
JS事件のあまりの衝撃にしばらくおとなしかった凡百の頭の軽い犯罪者たちによる爆発的な事件件数の増加は、大事件によって物的なものとともに人的資源を大量に失ってしまった管理局内での人手不足をさらに加速させていた。

だからこそ、JS事件ののちには高町なのは同様教導官として後進の指導に当たっていたヴィータでさえも、ある程度の安全を確保できている情報を得てからとはいえ、未熟者を引き連れて現場に出ざるを得ない状況になっていた。

初めはひよっこたちを引き連れての事件解決に戸惑いを見せていたヴィータであったが、他の管理局員とは生まれの違いからか「非殺傷設定無効化」に対してはさほどダメージを受けることはなく、また優れた騎士たる彼女にとって下魔など物の数にも入らない。
だからこそ、なれぬ現場に四苦八苦し、己が手で他者を傷つける悔恨の念で混乱をし続ける歳若い少年少女を率いてでさえも十分な結果を出していた。


だがしかし、それこそが悪辣な魔導師のたくらみの一つ。
若干慣れが入り、その件数の多さとままならぬ現状、徐々に傷ついていく仲間たちのことに心を痛めてほんのわずかばかりに注意がそれた瞬間に、金の幻影錬金術師の悪意の刃が突き刺さる。
ただの作業に見せかけた非情の罠は、戦士として劣化を続ける今のヴィータにとっては避けられぬものであった。


油断。
確かにそれは油断だったのだろう。


「弱い……なんだ、騎士を名乗ってもこの程度ですか」
「借り物の力でえらそうにしてんじゃねえよ!」


AMF影響下にあるヴィータは到底全力を出せるという状況ではない。
だが、それを超えてあまりに不自然な動きが続く事で、どうせ主の魔法が魔法無効化以外の行動阻害系の効果を己以外にも付与しているのだろう、という察しは付いてはいてもその体たらくにおもわず侍女姿の元暗殺者が侮蔑の声を放つ。
それは彼女の戦闘者としての挑発でもあったが、同時に心底本心でもあったのだ。
魔法戦士ではあれども強力な攻撃魔法の打ち合いよりも肉体を使った直接戦闘こそを得意とするフィエナにとって、今のヴィータはあまりに容易い相手だった。
そして、それはそんなさえない教官の教え子を相手に取るテロリスト一味の雑兵たちにとっても同じであった。


「ふっ、己の戦士としての技量を恥じずにもう早言い訳……流石は騎士様ですね。神経が図太くていらっしゃる……」
「てっめーー!!」


突然のAMFによって攻撃魔法のみならず、身体強化魔法の行使さえも不自由になってしまっているという事実は、魔法込みの本来の実力差を大幅に縮め、純粋な武術の腕のみの勝負に持ち込んでいる。
本来のヴィータであれば消耗は激しくなるが何とかある程度までの魔法ならば使えるはずなのだが、変容魔法という特殊技術によって生み出されたAMF空間は今までとはまるで別種のもののように彼女の四肢に絡みつき、力を奪っていた。

振るった鉄槌はその根元を大鎌に押さえられるだけで容易く止められる。
まるで、本来の実力差を逆転させたように。


「フィエナ……遊ぶのもいいが、増援が来る前にかたづけろよ? マナを回収する時間もいるんだからな」
「……承知いたしました、シルヴァ様」
「主従ともどもなめてんじゃねーぞ!!」


変容魔法は彼の生まれ育った世界パレキシアでも非常に特殊な術式だ。
ヴィータやフィエナのように敵の打倒を行うためにただただ魔法の威力とそれを確実に当て、相手のそれを避ける為の技術を求める一般の魔法とはまったく違う。
その違いによるものか、この戦場となった場においても武器さえ持たずにシルヴァは腕組みを崩さない。

だが、この場の状況は間違いなく彼によるものだった。


「嘗めてなんていないさ……お前だけは連れ帰ってからやってやるよ、ヴォルケンリッター様?」
「結局運ぶのは私でしょうにそんなに偉そうにしないで下さい」
「くそっ、こんな奴らに!?」


もはや半ば勝利を確信した言葉。
挑発であるとはわかっていても、現実にそのように自体が動きつつある今、ヴィータはそれを実力でもって否定できていない。
自らの鍛え上げてきた技が、積み重ねてきた経験が、それを上回るものによって破れるのではなく、まったく発揮できないまま止められる事に言いようが無い不快感に襲われる。

しかしそれも、こんな状態では負け犬の遠吠えでしかないこともまた、事実としてヴィータは知っていた。


魔力を周囲に伝播し、それによって変化を促すという非常に間接的な効果しか持たないそれは、原理さえ知っていれば非常に対策を取りやすいものだ。
物質に働きかけて強引に変化を行うよりも、その変化を妨害することのほうが圧倒的に容易であるが故に、直接戦闘には向かず、かといって事前に用意周到に陣地を整えていたとしても容易く対応が取れてしまう変容魔法は、故郷のパレキシアでは廃れつつある技術であった。
自身や味方の強化といったある程度の素質を引き出す事ならばそういったディメリットは無く、それによって実際にエリクシルライムやローズをある意味生み出したシルヴァであるが、同時に彼女たちが並みの魔法戦士と同等の実力しか持っていないように、結局はその引き出される側の個人の資質によってある程度以上は頭打ちになる。

だからこそ、幻影錬金術師としては破格の実力を持っており、それによって極限まで強化した戦士であるフィエナという駒を保有していながらも、変容魔法への対抗策を持つアザハイド帝国の特務機関所属という「雑兵」ごときに追い詰められる事となったのだ。
だが、この世界。
ミッドチルダはそのときとはまるで違う。


「そら、<空間魔法 闇>!」
「……<麻痺>」
「くそっ、こっちも魔法さえ使えればこんなもの!」


本来であれば魔導師ランクにしてAAA+を持つヴィータのバリアジャケットを抜くには相当に魔法力がいる。
しかし、AMFによる魔法発動妨害と変容魔法による能力低下・弱点付与された今のヴィータには魔導師ランクに直せば然したるランクでもないフィエナの魔法さえも防げない。

聞き覚えの無い詠唱によって発生した魔法の効果か、ガクン、と自分以外の意思で右膝が落ち、おもわず反射的に反対側に重心をかけて踏ん張るヴィータ。
しかし、そこをまるで狙い済ましたかのように伸ばされて置かれていた大鎌が引かれることで、完全にバランスを崩してしまう。
魔力によって研ぎ澄まされた刃の切れ味こそ、バリアジャケットで何とか防いだヴィータだったが、同時に確実に変容魔法によって能力を落としている今の状態ではその衝撃までは殺しきれず、悲鳴を上げるまもなく、足を取られて転ぶ。


「ぐぅっ!」
「……終わり、ですね」


それは、周囲の管理局員魔導師対下魔と似たような構図を示す結果であった。

確かにミッドチルダの科学技術は驚異的であり、リンカーコアという臓器によって生み出される威力は、最大強化してもシルヴァやフィエナの使える攻撃魔法など塵芥といえるほどの差がある。
加えて高度に洗練された官僚機構は原始的な統治制度をとっていたかつての故郷とは比べ物にならない錬度での多数の魔導師を要している。
エリクシルナイツぐらいしか敵対者がいなかったある世界とはまるでけたが違う戦力を相手は有しているのだ。

だが、この世界は未だに「変容魔法」の脅威について知らぬのだ。
その違いは、あまりにも大きかった。


「ああ、よくやった。じゃあ俺の出番か……<眠れ>」
「あ、ああ!!」
「結局美味しいところだけ横取りですか……まあ、いつもの事ですが」


一時的に味方を最大限強化することや周辺に敵対者の弱体化をもたらす地形効果。原生生物を毒や瘴気を生み出す魔法生物への変化。今までまったく見たことも聞いたことも無い魔法効果にたいして突然対策など取れるはずも無い。
くわえてこの世界の魔法限定ではあるが、魔法使用そのものを妨害するAMF技術をとりこんだことで、現在他の二人と比較してシルヴァの使う変容魔法は世界に対してもっとも魔法的な威力で猛威を振るっていたのであった……鉄槌の騎士が、こうも容易く捕らえられるほどに。

意識がおちる、という自覚さえないままに、一人の少女は檻に囚われた。
















意識が、徐々に覚醒していく。
電源が入るようにはっきりと目が覚めるのではない。
まるで霧でかすんだ視界が徐々に開けていくように、ゆっくりと、確実に。
熱気と瘴気と気持ちの悪い魔力に満たされたその場所の不快感は、到底いつまでも眠ってなどいられるものではない。
覚醒した意識で始めてみた視界は今まで見覚えの無いもので……しかし、そのことに対して熟練の戦士たるヴィータは見苦しく取り乱すなどはしなかった。


「ようやく御目覚めか、寝起きが悪いんだな」
「……」


ただ、ぽたり、と自分のこめかみあたりから流れ出た汗が頬を伝い、顎から落ちていく音をヴィータは確かに聞いた。
彼女は元々、夜天の魔道書の主を守る為に作られた人造の魔導師、魔道プログラムである。ゆえに生存には魔力以外のいかなるエネルギーも必要とせず、当然ながら汗に代表されるような生理現象とも無縁だったはずだ。


「中々目覚めないから心配したぜ……まさかあの程度でどうにかなっちまうかもなんてな」
「……」


聞こえてくる声にはまるで応えようとせず、無言で手に付いた鎖を思いっきり引っ張る。
ただの人とは比べ物にならぬほどの臂力をもってしても、その鎖はちぎれも砕けもしなかった。
いや、ちがう。ところどころ銀が入り混じったマーブル模様をした鎖の強度やそれに掛けられた強化の魔法もさることながら、ヴィータ自身の力がまるでその外見と挿して変わらぬ程度まで弱体化させられているのだ。
それに気づいた事で、頬を伝う汗がまた一筋、薄汚れた石造りの床を目指して伝わる。


八神はやてという主を得て、人のぬくもりを、思いを、心を知った彼女たちはいつしかプログラムとしてはあまりに逸脱してしまった。
夜天の書の致命的な損傷と奇跡じみた修復、そして統制人格の消滅と新たなヴォルケンリッターの誕生。
そのどれが影響したのかは今なおわからず、複雑に絡み合ったそれらの因子を考えるともはや変化は不可逆なものであった。
いつしか、自動修復の速度が遅くなり、ある日変化魔法を使っていないにもかかわらずヴィータの身長が僅かばかり伸びた。
そう、今の彼女からは、プログラム染みた五体の欠損の修復機能も魔道兵器としての永遠を約束する肉体の老化の停止などといったものは徐々に失われつつある。


「とはいえ、無事に目覚めたようだし、改めて気分はどうだ、おい」
「……」


止まらぬ汗。
冷や汗さえ混じったそれが指し示すのは、渇きと疲労、そして体内魔力の霧散。
眠りという形で体を休めたにもかかわらず、一向に回復したようには思えないほどに、それは不快な感覚としてヴィータを苛み続ける。

いや、事実回復していないのだろう。
この身を捕らえ続ける鎖と魔術の効果によって、この部屋に入った術者以外のすべての「人間」が困憊するようになっているに違いない。


最強のプログラムは徐々にただの人へと劣化し続ける。
しかしそのことを彼女は、彼女たちは決して悲しむことなく、むしろ肯定的に受け入れていた。


「返事も出来ないぐらいに駄目ってか、ははっ」
「……」
「おいおい、本格的に一人芝居をやらせるつもりなのか? まあ、別にそれならそれでいいがな」


嘲る言葉の方向を睨みつけるが、どれほど強烈なものであってもそんな視線などというものではこの金の男の口を閉ざさせるには到底足りない。
後ろに控えるメイド姿の女の無口はそれはそれで腹が立つものであったが、それ以上にこの男の軽口は聞くに堪えない。

永遠に戦い続ける魔道兵器であったときには考えもしなかったことであったが、本来今の彼女にとって老いは、変化は、むしろ主と同じ時を過ごす為には望ましいものであった。
闇の書の完成ではなく、自分たちとの生活こそを望んでくれた主と同じように歳を重ね、やがては同じように死ねるという事は、身についた戦士としての技をさび付かせるという意味ではある意味さびしいものであったが、それ以上に喜びが強いもの。
己がもはやプログラムというだけではなく、主と同じ人であるのだ、と感じさせるそれらは肉体を持った今では不便を感じる事もあれども、平和の象徴そのものに思える。

ゆえに、汗や涙といったこの数百、数千年ぶりの生理現象でさえも普段のヴィータにとってはむしろその象徴として喜ばしいものであったのだが。

だが、今この場―――四肢を鎖で縛り付けられているこの現状において流れる汗は、喜ばしさなど欠片も感じさせない実に嫌なものであった。
ガラス越しにこちらをいやな目で見つめるシルヴァ・ラドクリフの姿を認めたヴィータは虜囚の身でありながら挑発的な瞳を向けたが、その内心ではこの状況を打開する為に必死になって頭を回転させていた。
しかしそれも、これほどまで圧倒的なまでの状況下では蟷螂の斧以外の何物でもない。


「まあ、部下がこの程度なら主の器も知れる。案外早く八神はやても捕まえられるかもな」
「はやてには手を出すんじゃねえ! どこだ、アイゼン!!」
「くくっ、だんまりは終わりかよ、鉄槌の騎士様?」


己の弱みを突かれることで黙って入れなかったその思いは、外道魔導師にしてみれば実にイキのいいおもちゃでしかない。
AMF技術を完全に己のものと化した自信からか、はたまた己が変容を施した牢獄の強度への自負からか、シルヴァの態度は完全にヴィータを無力と見下すもの。
たとえロストロギアである夜天の魔道書の守護プログラムでさえも、己が術式の内側から逃れることなど出来はしない、という絶対的な自負がそこにはあった。

相手が持つ過剰ともいえる自信と、自身や主に対する過度の侮り。
それをわかっていてもなお、罵倒を口にする以外のことが出来ない事に、ヴィータは歯噛みする。
今はまだ言葉のみとはいえ、愛する主を汚されてもなお何も出来ない自分が悔しかったからだ。
しかもそれは、よりにもよって己が一番誇りに思う武による敗北の結果ゆえ。

敗者の弁がどれほど無意味なものなのか、数多の戦場を駆け抜けたが故に知る彼女は、しかしだからこそこの嫌な笑顔を浮かるような下種に対して潔く諦めるなどという選択肢は取れなかった。
故に、無力とわかっていても、見苦しいと理解していても、一秒一瞬でも時を稼いで手を尽くして魔力を振り絞って、この男たちの思惑を邪魔してやるべきだ。

だからこそ、紅の魔力光を迸らせ、必死になって身体強化を試み、何処かに遠ざけられたであろうデバイスに必死に呼びかけ、死力を尽くす……たとえそれが無駄に終わるという事を知っていても、ヴィータが諦めるなどという事ありえなかった。


「あたしは、あたしらははやての騎士だ! おまえらみたいな外道なんか、はやてに指一本触れさせねえぞ!」
「ふん、高濃度のAMF影響下でこれだけ暴れられるのはご立派だが、そんな努力や根性、正義とか友情なんかで結果は変わらないんだよ」


徹底した現実主義の下、ヴィータのその必死の抵抗さえあざ笑ってシルヴァはガラス越しに手を伸ばす。


「魔道書を守る魔道プログラム、だったな。だったらこういう「ウイルス」はどうだ?」


物質に己の魔力を流し込み、自由自在に書き換える変容魔法は、どこか悪意のあるデータによってもとのプログラムを書き換えるコンピューターウイルスに似ている。
この世界に来てより知った知識を元に、そう嘯いてシルヴァは己の業を遠慮なく振るった。

ヴィータに向けられた手から監禁用のガラス窓を、そしてそれに接するよどんだ空気を、ヴィータを縛る鋼の鎖を。それらを通じて、悪意ある魔法が伝播する。
光とも、音とも、振動とも違うその異形の業は、いかに直接的な戦闘能力で言えば大人と子供では足りぬほどの実力差があるとはいえ、デバイスを遠ざけられた上にAMF影響下にあるヴィータが身に纏った薄紙のようなバリアジャケットに防げるような代物ではない。
ゆえにそれは何者にも妨げられる事もなく、人になりつつあったプログラムで出来た少女に容赦なく突き刺さった。


「うっ、ああぁ……!」
「ふん、それなりに面倒な構造をしていやがるな」


突如起こった悲鳴をBGMに心底面倒そうな口調で、しかしその言葉とは裏腹にぎらぎらと輝く瞳でシルヴァは呟いた。

その光景を見て、彼の後ろに控えていた侍女はすっ、と目をそらした。
その視線の先には、己の手が……正確には、その指に嵌った指輪があった。一度は砕けた彼女にシルヴァに対する服従を強いるメタモライズの指輪はしかし、再び彼女を縛る鎖となっている。
ヴィータが浮かべた苦悶の表情にそのときの光景を思い出したのか、フィエナは指輪から視線を外した後もヴィータ自身ではなくその己が守護するシルヴァの背をみつめる。

相手を消耗させる笑いとともに冷静な思考でもって今後の展開を考えているであろうその背は彼女が殺すべきであった、そして今は守るべき背である。
パレキシアを追われたときより時を経たにもかかわらず、彼の敵は一向に減っていない。
メッツァー・ハインケル。ファルケ。時空管理局。アザハイド帝国の残党。

どれもこれも一筋縄ではいかない奴ばかりであり、到底この愚かな主一人で乗り越えられるほど容易い障害とは思えない。
たとえどれほどシルヴァの才が優れていようとも、きっとこのうかつな男一人では何処かで致命的な間違いを行い、志半ばで倒れるだろうと思う。


「シルヴァ様!!」


だから、守る。この身を賭けて。
警告の声とともに彼の身を守る為にフィエナは微塵も躊躇をせずに己が体を白刃の下へと晒す。
彼を敵が殺すのだとすれば、それは己でなければならないのだから。


「クラールヴィント、お願い!」
「ヴィータ、無事か!」
「縛れ、鋼の軛!」


だからこそ、突如空間に亀裂が走り、そこから主に対する脅威が放たれたとしても、抱きしめるがごとき勢いで加速をつけて彼をその場から逃がすことが出来たのもまた、必然だった。


「なっ! 馬鹿な!」
「ふっ!!」


驚愕する主を後方に投げ出し、AMFと空間変容によって弱化している相手の魔法を瞬時に呼び出した大鎌できり払い、牢の檻を切ろうとしている女を射撃魔法で牽制し、下魔を呼び出す。
相手がすでに何らかの戦闘をこなしてきたのか、相当に疲弊しているらしい事を考えてもフィエナの行った三手は奇跡としかいえないほどに最適な行動。


「ヴィータ! 今助ける」
「ザフィーラ、頼む!」
「おおっ!」


だが、たった一人でしかなくまた眼前の弱体化した連中と比較してさえそこまで隔絶した実力差を持てていなかったフィエナに出来たのはそれが限界だった。

下魔がその突如出現した三人―――囚われていたヴィータ以外のヴォルケンリッター―――に襲い掛かるまでのほんの一瞬のタイムラグで、シグナムは牢を切り捨て、シャマルは研究材料として隔離していたグラ―フアイゼンを旅の鏡で掴み取り、ザフィーラがヴィータの四肢の自由を奪っていた鎖を溶かしきる。
綿密に組み立てられた戦略も、数多に仕掛けられた罠も、その優秀な個の力によって瞬く間に食い破られた。


全てが一騎当千の強力な魔導師。
八神はやての騎士、ヴォルケンリッター。
そのお出ましは、瞬く間に盤上をひっくり返してこれほどまでシルヴァが積み重ねた状況をあっという間にゼロへと戻したようにも見えた。


「よし、何とか無事のようだな」
「おっせーよ、シグナム! 全然無事じゃねーっての。おい、シャマル。アイゼンよこせ!」
「ふっ、それだけいえれば十分だと思うが」
「今、回復しますね」


だが、自分の直轄地での傍若無人な振る舞いなど、シルヴァにとって到底許せるものではない。
あくまで状況はゼロに戻っただけで、決してシルヴァの持つ力が破られて不利になっているわけではない。
ここは悪の魔導師であるシルヴァの持つ領土の一つ。
そこに何とか踏み込むまでが、ヴォルケンリッターの限界だった。


「紫電…」
「調子に乗るなよ、お前ら!」
「はぁああ!!」


襲い掛かった下魔が瞬く間に切り捨てられるその合間に立ち直ったシルヴァの空間変容によって空間が歪み、フィエナの鎌が振り落とされることで、カートリッジの消費による大技を許さない。
たとえどれほどヴォルケンリッターが強力な力を持っていたとしても、不意打ちでもなければこの幾重にも空間変容の施された場所においてはシルヴァを容易く討ち取るなど不可能だ。


「くっ!」
「駄目、効果が薄いわ!」


続く下魔の数はまるで無尽蔵なようで、それもすぐさまシルヴァの影響を受けて強化されていく。
どれほどの力をヴォルケンリッターが誇ろうとも、AMF影響下でシルヴァの領地に踏み込んで無事に済むはずが無かった。
苦悶の声を上げ、必死に魔力をめぐらし、戦いを重ねても状況が有利になることはない。

それを癒しの風の効果があまりにも減じられることによって参謀役は気付いた。
現状で戦い、この罠の山を食い破るには己たちはあまりに拙速に過ぎた、と。
ヴィータを救い出すために無理に侵入を重ねたことは、確かに救出という面ではプラスに働いたが同時に強力なAMF下で活動を続ける事を前提にするにはあまりに準備が足りない。
巧遅ではなく拙速を選んだツケは十分に現れていた。

だが、彼女たちはそれに焦り、破れかぶれに突撃するような新兵ではなく、己が有利な場だけではなく不利な戦場さえもいくつも乗り越えてきた猛者だ。
だからこそ、こういった場合の判断も早かった。


「くっ、引くぞ!」
「覚えていろよ、お前は絶対あたしが倒す!」


シャマルの目配せを受けて四人は固まって転移する。
捨て台詞さえ短く、しかしその目に残った殺意だけは四人とも変わらないほどの強い印象を持って。
目的さえ果たせば、それ以上欲張る事もなく、実に鮮やかな手順で、彼女たちは撤退に成功した。

始まりと同じぐらいの唐突さで、終わりは実にあっけなく訪れたのだった。
後に残ったのは、ぐちゃぐちゃにされたシルヴァ自慢の牢と撒き散らされた下魔の肉片と魔力だけだった。


「ちっ、逃がしたか……」
「……追いましょうか、シルヴァ様?」
「いや、おそらく無駄足になるだけだ。下魔だけやっておけ」


ある程度は予想をしていた展開。
だからこそ、一瞬で始まった奪還劇が見事に幕を引いた後でもシルヴァは驚愕といった表情は浮かべていなかった。
管理局員を捕らえる。当然ながら、リスクがある。
あの捕獲する場においてマナを根こそぎ奪い取るという行為にもそれ相当のリスクがあったように、ヴィータをこの場につれてくることで奪還部隊が繰り出されてくることも、それによって己の本拠地が狙われることも、勿論考えていた。

その上で対策を幾重にもとっていた。
変容魔法による攻性魔法や呪術障壁、強化AMF、下魔、上魔、致死性トラップ。
凡百の管理局員が数で押してくるならば捕らえて犯してマナの補給に。優秀な手駒になりそうなものがあれば、それもまた捕獲を。
それこそ三者の会合で決まった取り決めさえ無視して、襲撃されたのを撃退しただけに過ぎないと高町なのはやフェイト・ハラオウンが来たとしても捕らえて己の配下に加える方策さえ立てていた。

にもかかわらず、何一つそれが機能せず、結果として手元に残ったものがあまりにも少ないことにシルヴァは驚きはしていないまでも苛立ちを隠せない。


「くそ、どいつもこいつも面倒な真似を……」


そもそも、こんなことなど本来ありえないはずの事態なのだ。
メッツァーが、ファルケが、本当に理論どおりに理想的な協力をするつもりがあるというならば。
いかにヴォルケンリッターが強力であろうとも、少なくとも亜空間を使った転移の類は絶対に成功するはずが無い。
なぜならば……


ジジッ
「よ~う」
「っ!!」


そんなシルヴァが思案に耽る時間さえなく、再び空間が割れる。
幾重にも施したシルヴァの拠点防御の為の仕掛けをヴォルケンリッター同様発動さえさせずに侵入を行ってきた相手に再度シルヴァが身構え、フィエナが戦闘体勢に入ろうとするが、その姿が現れるにつれてそれも収まる……その身に秘められた苛立ちと怒りはそのままに。
ある意味、現れた存在がヴォルケンリッターの襲撃以上に予想できていたからだ。

割れる空間からのぞいた上半身には、見事な縫製のジャケットと上質な布と思われるシャツ。続いてのぞいたスラックスや革靴も、一瞥だけで安物ではない雰囲気をかもしている。
が、そんな絶世の美男子がまとってもおかしくない衣服に身を包む男の顔には、まるで道化のような大振りの仮面がわずかばかりもその下の素顔の存在さえ感じさせずに収まっていた。
決して人間離れした異形が現れているわけではないその立ち姿は、しかし人とは思えぬ禍々しい気配で全力でもって彼が人間や魔法戦士ではなく魔界に住まう化け物であると主張していた。

今はまだ、敵ではない。だからこそあからさまな戦闘体制は二人は取っていない。
だが、敵以上に厄介な厄介な相手のお出ましに、警戒だけは最大級のものであった。


「シルヴァ、大丈夫だったかよ?」
「お前、あいつらを素通りさせておきながら今頃何しにきやがった」
「キヒヒッ、おいおい、俺様だって反省してるからこうやって頭を下げにきたんだぜ? すまねえなあ。なんか半透明な犬がいっぱい出てきてうっとおしかった上に、あいつら思っていたより出来る奴らだったんで突破されちまった」


まったくもって誠意の欠片もない声でその上魔がうわべだけの謝罪を口にする。
ふざけるなと即座に断罪の刃を落としたくなるほどに神経をかきむしる口調と声音にシルヴァの米神に青筋が浮かぶ。
だがこの自負にまみれた男にはらしくないほどにそれ以上の行動はなく、その主に従う侍女にも動きが無い。
故に特に行動はなく、淡々とした答えだけをシルヴァは返した。


「チッ…………まあいい。こちらにも油断があったからな。お前にばかり言っても仕方ない、か」
「そうそう、あんまりすぎた事に愚痴愚痴いわねえ方が健康にいいぜ?」


そんな二人をおかしそうに見つめた仮面の男は、あえて煽るような台詞を続けるが、それでも握り締めた拳の震えこそ大きくなれ、その仮面が外からの衝撃で砕かれる事は無かった。
睨みつける瞳は鋭く、わざとこのアジトの場所を敵に教えたとしか思えない同盟者に対しての憎しみはまるで隠そうともしなかったが、それでもシルヴァにしては珍しく彼はその場で自制を行った。

だが、シルヴァの短気さを知っているフィエナでさえ無理も無いと思う。


「こういうことが何度も続くようなら『あざ笑う死神』の噂のほうを疑うべきだろうしな」
「ケケッ、安心しな、このディラック様の名前にかけて、次からは一人だって通さねえよ」
「ふん、そう願いたいもんだな」


目の前にいる妙な仮面をつけた男、メッツァー・ハインケルが保有する最強の上魔の真の実力を知る者であるならば、理解せざるを得ないのだ。
メッツァーの意思をうけて、「あえて」この場にあの三人を誘い込んだことがわかってもなお、それを止めることは実力的に今の彼らにはできない。


「じゃあ、仕事に戻ってやるから、そっちも『侵略ゲーム』ちゃんとやれよ~? ギャハハハハハ」


不愉快な笑い声とともに空間をゆがめて消え去る、防諜・拠点防御をまかされる上魔、ディラック。
他の上魔であればフィエナ以下の力しかない以上は三人ものヴォルケンリッターの侵入を防げなかったことも無理は無い。
だが、立場こそシルヴァさえ召喚出来る触手だとか昆虫だとか言った姿を取り、魔法戦士と対等に戦い彼女たちを苦しめた上魔と同じであれども、このディラックという魔族にまでそれを当てはめて言うのはお笑い種だ。


「糞っ!! ふざけやがって」
「……少なくとも真っ当な方法で倒すのは無理でしょうね。何度か仕掛ける隙をこちらに向かってわざと見せていた節がありますし」
「何であんな奴がメッツァーなんぞに従っていやがるんだ!」


完全に気配が消えてから怒りとともに拳を壁に振り下ろすシルヴァを、冷徹な副官の眼差しが貫く。
それがわかっていてもなお、彼は苛立ちを隠せない。

たとえ他の上魔が出来なかったのと同じく侵入が防げなかった、という事実があってもあの化け物の実力が足りなかったからだ、などと信じるものなど少なくとも彼らテロリスト側の三陣営に所属するものであれば、誰一人いまい。
分身体でさえ魔法戦士の誰一人寄せ付けなかった圧倒的なまでの実力は、この世界の魔法を見た今でもなお脅威として心に残っているだろう。

最強の上魔。
魔力の化け物。
あざ笑う死神。

そのどれもが、まったく大げさではないほどに、ディラックという上魔はあまりに強すぎる。

メッツァー・ハインケルと比べて己が劣っているなどとは欠片たりとも考えていない彼であったが、その彼にしてもあの魔界を支配していたほどの大悪魔をまともに使役できる自信は完全にはない。
にもかかわらず、ディラックは忠実とは言わないまでもメッツァーの配下としての行動を今なお崩していない。
その差こそが、今の己とメッツァーの今の立場を指し示しているように思えて、不快感が消えず、周りにおもわず当り散らしてしまう。


「ですが……『思ったよりも強かった』という言葉は本当かもしれません」
「何?」


そんな中、彼が把握する以外の情報が冷たい声でもたらされる。
全面の信頼は置けぬ己の命を狙った元暗殺者、しかし誰よりも己に忠実な副官の声を聞き、思わずシルヴァは振り返る。
それをうけて、フィエナはにこりともせずに言葉を続けた。


「巧妙に隠していましたし、ブラフの可能性もありますが、普段の奴に比べて若干気配にほころびがありました。おそらく、交戦していくらかのダメージを受けたというのは事実なのでしょうね」


主とは違い純粋な戦闘者である侍女は、先のやり取りの中で読み取った事をただ淡々と答えた。
それをもってディラックを打倒せよと命じるでもなく、その事実を持ってメッツァーに対して交渉を行え、と諭すでもなく。
ただ、絶対の判断権を持つ主の思案の一助となる事だけを目的としたその彼女が感じた純然たる事実報告を前に、シルヴァは苛立ちを収めて顎に手を当てて考え始める。
先の怒りの気配は僅かに残すのみのその様子は、フィエナには何処か幼くさえ見えた。


「……そうか、ヴォルケンリッター。あまり期待していなかったが、案外使えるかもしれないな」
「とはいえ、逃がしてしまえば一緒ですが。同じ手が二度も通じる相手とは思えませんし、千載一遇のチャンスを逃がすところがあなたらしいです」
「何を言っているんだ、フィエナ。チャンスを逃がす?」


ヴォルケンリッターを捕らえていれば、彼の技能と合わせてあのディラックに対抗する一手となったかもしれないのに、と目で語るフィエナに対して、シルヴァは思わずその犬歯をむき出して笑った。
それは獰猛なまでの闘志しか残っていなかった。

その一応笑顔であるはずなのにあふれ出るあまりの邪悪さに、思わずフィエナは眉をひそめる。


「何がです。せっかく私が苦労して捕まえた捕虜をあっさり奪還されておきながら、何を偉そうな顔をしているのです」
「おいおい、俺が逃げられたときの対策を講じてないとでも思ったか? 馬鹿な。遊び心で逃がすにしても、ある程度嬲ってからじゃないと意味がないだろ」
「……なるほど、ですが前言は撤回しません。そっちの方が確かにあなたらしいです」


それを見て、そして主の資質を思い出して、フィエナは溜息を吐いて言葉を返した。
なるほど、確かにそうだった。
捉えていた時間こそ短けれども、己が手中に入った蝶に対してこのクソ主がなにもしないはずが無かったのだ。
それを彼女が理解したことを知って、シルヴァは呟いた。

物質に対して魔力をぶつけることで己に有利な変化を促す変容魔法。
魔道プログラムという『物』であるヴィータには、すでにその一つ目が仕掛けてある、と。


「すでにあの魔道プログラムは『感染』している。伝播がいつになるかは正確にはわからんが、ヴォルケンリッターと八神はやてはもはや、俺の手の内だ」


だから見ていろ、メッツァー・ハインケル。
今日の貸しと侮りは、近い将来十倍にして返してやる。
俺の手駒たちがな。


同じような侵略を他の二者もやっていることを確信していながらも、しかしシルヴァ・ラドクリフは己が負けることなど欠片たりとも思わずに、手札に回ってきたカードを確認して再びチップをレイズした。


つづく

Comment

No title

どんどん面白そうな展開になっていきますね
3つのストーリーが同時進行しているから、なおのこと続きが待ち遠しいです

No title

ああ、いいわあw
確かにどんどん面白くなってきてますねえ
管理局の三女神の最後はどうなるやらw

No title

続きが気になってしょうがないですね
3人の中でメッツァーがダントツに好きなので
今回は出てきてないけどメッツァーがんばれー
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プロフィール

基森

Author:基森
蚕鳴や円禍と名乗ってたこともあります。

主に小説・ssなどを置いているブログです。

自前の本棚を持つのは初めてなので手探りでやっている程度のものですが、わずかばかりの暇つぶしにでもなれば幸いです。


メールは「kulukku106☆yahoo.co.jp」まで、☆を@に変えた上でお願いいたします。

そろそろ、非営利にならトップへのリンクフリーとか言ってみたり。

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