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聖賢(ランスクエスト)

実はランスシリーズ、鬼畜王から入ったにわかです。
ハマりにハマって、アリスの館4・5・6→Ⅳ→4.1→4.2→5D…というごくごくありふれた流れを辿ってきています。
それだけ鬼畜王が面白かった、という事で。
このイベントもシリーズのキャラ掴みきれていない段階でさえクソ笑ったなあ、とふと思い出しました。







「うおりゃぁぁあああぁぁ!!」
『ッ! ……ッ!!』


ランス渾身の一太刀が空を切り、大地を砕く。当然ながらそれは、その進路上にあったいかなるものの命も断ち切っている。
声にならぬ断末魔の後、海栗のように棘だらけの魔物は倒れた。迷宮の最深部に位置するには相応しいだけの力を持ったモンスターは、しかしランスの歩みを止めるには僅かではないほどに力が足りなかったという事か。


「ふう、終わったか」
『お疲れー』


そして、その―――この階層のボスであろうと思われるモンスター、ヘクタピラーを撃破した―――直後、ランスは今までとの違いを感じていた。まるで何かの仕掛けを解除したときのように、何かが大きく動いて自分の道を空けたような、そんな感覚。
歴戦の冒険者としていつも感じていたダンジョンクリアの感覚は、決して絶対のものではないがそれでも今回のランスにはこれで終わりだろう、という確信があった。
まるで針山のように尖っていた魔物の死骸を避けて進むと、その先にあったのは今までのように階層を越えるための階段ではなく、精緻に彫刻の施された扉だった。

それを見てランスが、ようやく目的地にたどり着いたのか、と牙をむき出しにして笑う。
これは明らかに、アタリだ。


「お、それっぽい扉にたどり着いたぞ」
『……待て、ランス』


だが、その今回の冒険の目的地と思われる扉を前にして、カオスが止めた。
珍しく真剣な声に、ほんのわずかばかりランスがカオスに対して注意を向ける。
そこには決してカオスを己と対等と見ているような様子は無いが、それでもそれなりに彼の言動を無視しないだけの注視が見て取れた。
少なくともカオスだけは、ランスの冒険についてくることが出来ている……だからこそ、わずかばかりに気を止めることだけはしているのだ。
それを受けて、カオスが重々しく呟いた。


『猛烈に嫌な予感がする……トラップがどうとかそういうのじゃなくて、なんかこうもっとねっとりとした』
「……ついにボケたか?」


が、あくまでそれは一応耳に止める、程度のものであってランスの行動を縛るとまではいかない。
なんか剣になったにもかかわらず、ありもしない尻の辺りがむずむずする、という彼の予感は所詮ランスにとってはほとんど重みを持たないモノであるため、あっさりとスルーされる。


『ボケとらん! ワシはまだボケとらんもん……あ~、婆さんや、飯はまだかね?』
「ボケてんじゃねーか……大体ここまで来て帰るなんてこと出来るか」


まあ、普通に考えて苦労してここまで上ってきたにもかかわらず、そんな予感、などというあやふやなものを元に引き返す事など出来るはずもないことはカオスもわかっていたのだが、それでも嫌な予感は一向に消えない。歴戦のシーフにして千年を生きる魔剣である己をここまでおびえさせる正体が何なのか、カオスにはさっぱりつかめなかった。


『そりゃそうなんじゃが……いや、なんか覚えのある嫌な予感がするんだよ。なんじゃったかなぁ、この感じ』
「お前の勘なんぞ当てにならん」


だからこそ、ランスが自分の言葉なぞ気にも留めずに扉をばたん、と開け放ったとしても何も言えず、ただその瞬間おもわず目を閉じ身をすくめてしまっていた自分にむしろ違和感を抱いていたほどだった。


「よく来たな、ハンサムボーイ……」
「ちっ、爺じゃねーか。キースの奴ガセを掴ませやがったな……誰だお前」


それゆえに、扉が開くのとほぼ同時に響き渡った老成した声を聞いても、一体それが誰のものか瞬時には判断が付かなかった。
声の質、トーン、そして内容。なんだか聞き覚えのある嫌な予感はしても、流石に年月が経験を押し流していた為、ランスの突っ込みのように即座に対応が出来なかったのだ。
そのためカオスは、なんだか嫌な予感を覚えはしていても、おそるおそるそのぎょろ目を開いてあたりを見渡した。

そして、わずかばかりに驚いた。
あたり一面、草原だ。遠方には澄み切った山脈、花と緑が咲き誇り、さわやかな風が吹いている。
普通の人間ならば、何の冗談だ、と思ったに違いない。
なんといってもここは雪国ヘルマンの中でもさらに厳しい豪雪地帯だ。
ランスにはこの間ダンジョンで見つけた「雪のおまもり」というレアアイテムがあったからよかったようなものの、それ以外の人間であればたどり着くことさえ難しい雪と氷に閉ざされた地帯にひっそりとそびえ立つ、塔の中なのだ。
それなのに、見渡す限りの植物が広がっているなどと、一般的な人間であれば目を向くような様だった。

ただ、ランス達のような高レベルの冒険者にとってはある程度の驚きはあってもありえない、とは感じない。
ここはダンジョン……迷宮だ。
かなり高度な術式であるとはいえ、高レベルの魔法技能を持っていれば迷宮を生成する事が出来ることを知っているカオスは、だからこそこの塔という限定された空間を捻じ曲げてこんな地平線さえ見えそうな広い草花を作り出した魔法使いの技量には感心したが、目の前の現状が異常であるとはしなかった。

ランスに所有されてからしばらく、魔想志津香やアテン・ヌー、アニス・沢渡といった人であったときでさえあまりお目にかかったことのない高レベル術者に短い期間で立て続けに出会うこととなったカオスは、だからこそ「またか、ランスと行動するようになってからは本当によく実力者と会う」という思いで今度は術者を探した。
ここまで平和そうな空間を作り出すような魔法使いだ。まあ、いきなり攻撃を仕掛けてくることはないであろうし、仮にそうだとしても今のランスをたったの一撃で打倒できるような存在なぞ、それこそ魔人の中でも数少ないであろう。

だからこそ、脳裏に浮かんだ嫌な予感は気のせいであった、としてこんな迷宮を花で埋め尽くすような乙女チックな魔法使いを探して、一軒だけ有る赤い屋根の山小屋の前のロッキングチェアーに座っているその姿を見つけて……凍りついた。

先の予感は、実に正しかったのだ。


『んっごぅぉうあぁぁああ!!』
「なっ…なんだ!?」


ランスに握られたままだったカオスは、おもわず雄たけびを上げてしまった。
それはまさにコカトリスの断末魔というか、肉にされる寸前のうしのいななきというか、ハニーの割られる瞬間の声というか、まさにそんな感じのありとあらゆる負の感情の入り混じった『悲鳴』だった。

仮にも魔人や魔王さえ切れる伝説の魔剣が突然挙動不審になったことにランスが戸惑ったような声を上げるが、残念ながらカオスにそんなランスを気遣う余裕はない。
逃げなければ。とにかく、後ろを見せないように逃げなければならないのだ。だが、ランスに対して逃亡を促す言葉さえ、凍りついたカオスの無機物の声帯からは出てこなかった。

彼は、この空間を作り出した魔法使いのことを知っているからだ。当時とは、まるで外見は変わっている……まるで、己のように。かつての若さに溢れていた魔法使いは、しかし今ではまるで老人そのものの姿へと変わり果てていた。
だが、忘れるはずがない。忘れるはずがなかった。一目見ただけでわかった。いや、本来であればそれさえも遅すぎる。声を聞いた時点で理解するべきであったのだ。
こいつは、この老人の姿を取っている男は、自分と同じく神に謁見を果たしたやつだ!


「やはり…ハンサムボーイの腰にある羨ましい剣はカオスだったか…久しぶりだな…」
『よるな、変態!!』


カオスの大きな声をまるで「知っていた」のかのように驚きもしないで皮肉げな目線と笑いだけで納めた男は、まさしくカオスの同類だ。

カオスの所属していた千五百年前の最強パーティ、エターナルヒーローが一人、ホ・ラガ。
人類統一を成し遂げた唯一の人間、M・M・ルーンと同じ魔法LV3を持つ、魔人を殺す事を願った最強の魔法使い。

かつての仲間と久しぶりの再開をしたカオスは、しかし嬉しさを込め親しげに話しかけるどころか、嫌悪感いっぱいの声で叫ぶ。
だが、カオスの必死の拒絶をもホ・ラガはおかしげに笑いを含んだ声で言うだけだった。あまり、堪えた様子は無い。


「ふ、久々の再開だというのにな……私としても君よりも他の仲間たちに会いたいのだが。まあ、君もそんな姿では以前ほどむさくるしくはないがね」
『最悪だ……くそう、依頼を受けた時点で気付くべきじゃった。そうすれば絶対にこんな奴のところになんぞ来んかったというのに』
「なんだ、お前ら…知り合いなのか?」


いつもある種飄々として他人とは一線を引いているように見えるカオスにしては珍しいその態度に、ランスが不思議そうな表情を浮かべた。
そんなランスの表情を見て、何故か顔をほころばせたホ・ラガと、それを見てさらにどん
引くカオス。ランスは未だに理解していないが、カオスにとってはホ・ラガが微笑んだ理由など明白であったからである。
微笑む爺と悲鳴を上げる剣と事態についていけていない男。
総計して、あまりにもここは変な空間だった。


『ああ、そうだ。ワシはこいつが嫌いだ』
「自分よりいい男は、皆嫌いなんだろう…? ふっ…」
『馬鹿野郎! お前は嫌われる要素が多いんだよ! ああ、よるな、よるな! 変態がうつる!』


カオスが嫌悪感たっぷりに叫び、それをホ・ラガがいなす。
仲のよい仲間との会話というには少々ギスギスしたものであったが、二人がそれなりの長い時間をともに過ごした、気心のしれた仲であることはよくわかるのだが、兎にも角にもカオスがホ・ラガの一言一言に反応して怒鳴り散らすので話がまったく進まない。
ランスの米神にビシリ、と怒りのマークが浮かぶ。


「……まあ、爺同士の思い出話なんぞどうでもいい。後でやれ」
『お、おい、ランス辞めておけ! お前がこの男に関わると、ろくな事にはならんぞ』
「黙れ、カオス。お前の昔の仲間だろうと俺様には関係ない。邪魔するならば殺すだけだ」
『いや、そうじゃなくてだな。ワシはお前さんの心配を』


その怒りがそのまま殺意へと変換されるその様は、まるでゼスやJAPANで随分と丸くなる以前の彼のようであった。
犯している最中に抵抗する女の腕をへし折り、すれ違った男の顔が気に食わないと切り捨てる。当時の彼のそんな暴虐を現すかのように、自分の言葉を遮る老人たちを今にも叩ききりそうな凶悪な面相を現すランス。

が、カオスはそれを受けてもホ・ラガのほうではなく、ランスのほうを心配する声を上げた。
そう、ホ・ラガが恐ろしいのは、その魔法による戦闘力ではない。
いや、それも確かに一員ではあるが、それ以上に彼自身が恐ろしいのである。
事情を知るカオスの親身なアドバイスを、しかしランスは鼻で笑った。そもそも、ランスにとってカオスの言葉なんてキースや言裏の戯言と変わらない程度のものだ。
だからこそ、思いっきり彼を軽んじる発言を重ねる。


「ふん、えらそうなことを言ってもお前ら結局魔人一匹殺せなかったんだろうが。俺様の敵じゃない」
『……ああ、そーですかそーですか。せっかく人が心配してやってるというのに! もう、わしは知らん、忠告はしたからな!』


その言葉に、流石にカチン、ときたカオスは、その言葉を最後に沈黙を選んだ。
実際彼にしてみればホ・ラガに聞かねばならないことがいくつかあるのであるが、それ以上にこの男と関わるとろくな事にはなるまい、という実感もあって、もうどうにでもなれ、と思ったのである。
そしてそれは、今の状態では実に正しい態度だった。
事態はもはや、カオスの手などとっくに離れていたのだから。


「何を言っているんだ、この馬鹿剣は……まあいい。やい、爺。その老い先短い命を無駄に散らしたくなければ、俺様の質問に答えろ」
「くっくっく、私に向かって老い先短い、とは……『知っていた』とはいえ、やはり君は良い」


ホ・ラガの意味深な言葉も、今のランスには届かない。
いらだちを強めるばかりで、口調もさらにとげとげしくしたランスは、投げつけるかのようにここに来た目的である質問を一方的に行った。


「俺様の奴隷が余計なことをしたせいで魔王の魔法をくらって凍っていやがる。そこから出す方法を言え」
「ふむ、私はその問いに答えることが出来る」


そして、神と謁見した事により『全知』を与えられているホ・ラガにはランスの問いの答えは愚か、その問いを彼が行う、ということでさえわかりきったことであった。
だからこそ、彼は自分が次に告げる言葉によってどのようなことが起こるのかさえ理解したうえで、ランスが望んでやまない桃色の少女を取り戻す為の手段について、注文をつけた。


「だが、条件がある」






「……死ね」


今のランスに対して、自分の我を通そうとする「交渉」など、愚考以外の何物でもない。
自分の意思を阻まれた―――それを悟ったランスは、即座に行動に移る。
ホ・ラガは魔法使い。当然、戦士たるランスの動きなどろくに読めはしない。ましてや、ランスのほうが彼より相当レベルが高いのだから、回避が許されないのはむしろ当然の帰結だった。
それを端的に現すかのようにランスはホ・ラガに対して瞬時に距離を殺し、エターナルヒーローであろうとも反応できぬほどの速度で剣を振りかぶった……完全無欠にホ・ラガの予想した通りに。
かつて仲間だった黒剣が自身の頭部に迫るのを何の色も見せない瞳でホ・ラガは見つめ、それはその剣が自分の頭上でぴたりと止まったときもまた同じだった。

その強大な魔法力で障壁を作って防ぐのでもなく、絶大な先読みでかわすのでもなく、ホ・ラガはただそこにいるだけでランスの攻撃を防いで見せた。
かつての彼のパーティリーダーさえ凌駕する、ランスの一撃を。


「やはり君は素晴らしい……まるで彼を思わせるほどだよ」


ランスが自分を攻撃する事、そしてそれが己に傷一つつけないことを知っていたホ・ラガはだからこそその唐突な行為の帰結に対して一切の感情の動きを見せずにただ見つめていた。
知っていてもなお、見とれるほどに華麗な一筋の斬撃。
そのランスの鮮やかな動きに、かつての薔薇色だった過去を振り返る余裕さえ見せて。


「なっ!!」


が、ランスはそうではない。
脅しを込みとはいえ、それでも死んでもかまわないという心持で振るった剣が、何の反応も見せることが出来なかった相手の前に止められた、ということに彼は驚愕し……そして、気付いた。
自身の剣が止められたこの感覚は、以前にも覚えがある、と。
凄まじい殺気とともに周囲を睥睨したランスの目先の先には、彼の予想通り不気味な魔物の姿があった。
舌打ちとともにランスは罵倒を吐き捨てた。


「ちっ、小細工を」
「まあ、そうだね。君の前にはトロールなんて本当に小細工でしかない」


目先の先。
そこにはランスの予想したとおり、狂った造詣をした緑と紺の化け物が踊り狂っていた。

紺の水着を着た落書きドラゴンのような生き物。
世界のバグ。神の想定外。
二種の例外の一つ、トロール。
力の代償を問わず存在するエリアの物理攻撃そのものを全て禁ずる魔物の前に、ありとあらゆる戦士の攻撃は意味を失う。
ホ・ラガがあらかじめ用意していたその魔物は、力でも技でもなくただそこにいるだけでランスの攻撃の一切を無意味とした。

種族の壁、人類の限界を超えるほどの力を持つランスでさえ、その世界の法則を書き換えてしまう魔物の前では、攻撃を禁じられてしまう。
そのことをランスは以前の体験として知っているだけにいらだたしげに鼻を鳴らしてホ・ラガを睨んだ。
涼しい顔をして彼を見つめるホ・ラガに一層怒りを掻き立てられたのか、ランスは二人を一度に視界に納めることが出来る位置まで飛びさがって魔法を放つ。


「けっ、失せろ、雑魚が! 『ライトニング・レーザー』!」
「そう……それが正解だ。物理攻撃には無敵を誇るトロールも、魔法にはてんで弱い……もっとも、私にはその程度の魔法力では効かないがね」


雷光をまじえたレーザーが四本。二つはトロールへ、二つはホ・ラガへ。今度は脅しなどではなく、頭に血が上ったランスの本物の殺意をまとってその必殺の四条は空を切る。

怒りの衝動とともに放たれた魔法はトロールをまるで紙のように容易く貫く。
あたりまえだ。戦士たる彼の魔法力など所詮は余技でしかないが、同時にその極端なまでに上がりきったレベルの恩恵は、その余技でさえ雑魚モンスターの命を終わらせるには十分なものだ。
だがしかし……流石にそれが限界だ。いかに相当なレベル差があるとはいえ魔法技能を持たないランスのそれでは魔法レベル3を持つホ・ラガの魔法防御を無視できるほどではない。
シィル・プラインから与えられたランスの魔法はレベルアップによって相当強化されはしたものの、大賢者を殺せるほどではなかったのである。
それをもはや語るまでもない常識であるとでも言わんばかりに、ホ・ラガが腕を一振りするだけでその身に向けられた雷光纏ったレーザーは霧散した。


「てめぇ……死ね!」


が、トロールを打破した事によりこの場を縛る物理攻撃無効の縛りはなくなった。ならば、彼にはそれで十分だった。
自分の攻撃をこんな姑息な手段で防がれた怒りをそのままに、再度の攻撃。
その勢いはまるで時を止めたような速度を伴ったものだった。


「ところで……実は君がこの場に入ってくるほんの少し前、魔法を唱えたのだ。たまには、と思ってね」
「っ!!」


しかし、それさえもホ・ラガの予想は超えられない。
一手一手、着実に、堅実に積み重ねていく。

魔人を殺した、神にも届く踏み込みで再度間合いを詰めようとしたランスは、しかしその意思に反して場から動けなかった。
再度の罵倒が、口を付いて出る。


「くそ、志津香の使ってた奴か!」
「ああ、『粘着地面』という。君が部屋に入ってくるほんの一呼吸前からそこにしておいた」


さきほど魔法を撃つ為に間合いを取り、足を止めた場所が悪かった。
魔法によるとりもちにも似た効果がその場には仕掛けてあったらしい。もともとは彼の仲間である魔想志津香の得意とする魔法であったそれは、ある意味彼の天敵だ。今までどれほど煮え湯を飲まされてきたか。
そして、ホ・ラガはそれを誰よりも効果的に使える。


「この、クソ爺が!!」


必死になってもがくランス、しかしそれは全て届かない。今までだって破れた試しがないそれは、そもそも力で破れるものではないのだから。
効果範囲は狭く、その割には使用する魔力が多いそれは戦場では使い物にならない類の魔法。実際、志津香だって本気でランスを殺害するつもりのときはこんなもの使ったことがない。
本来であればこんな欠陥魔法でランスの動きを留めることなど出来るはずがないのは、術者ならばわからないはずがないからだ。
当らなければ意味がなく、当てるにはあまりに狭く、遅く、無駄。

いかにホ・ラガの魔法レベルが伝説級であろうとも、効果範囲を通常のよりも絞り込んで、それこそハニー一匹分ぐらいにまで狭めるその代わりに粘着力を高めてでもなければ今のランスの動きを封じることなどできはすまいし、そんなことをすれば当然ながら運良くランスがその場所に行かなかった場合はまったくの無駄になる。
普通であればありえるはずもない選択肢であり、だからこそそれはランスもまったく考慮していなかった「攻撃」である。


「くそう、こんな程度で!」
「ああ、いっておくが靴を脱いで逃れようとしても無駄だよ。そこにもきちんと仕込んであるから」
『ああ、薄々そうじゃないかと思ってたが今のでわかった。やはりそうなのか、お前。お前の願いもワシらと同じように……おい、ランス。こいつの前じゃ何をやっても無駄じゃ、諦めろ』
「何ぃ!!」


だが、現実はこうだ。
ホ・ラガの魔法の前では、いかにランスが猛ろうとも、いかに剣を振り回そうとも、その力は届かない
真正面からやれば負けるはずも無いにもかかわらず、こうもあっさりと攻撃が止められたというそれは、まるで赤子と大人ほどの差を逆に物語る。
それをあらかじめ予想していたのだろう。何処か疲れの滲んだ声でカオスは囁くような小さな声で、ランスに向かって語りかけた。


『ワシらは神に会ったときそれぞれひとつずつ願いをかなえてもらったんじゃ。ワシと日光は魔人を殺せる力を。カフェは絶対の美貌。そのワシらについての結果はお前さんも知るとおり。願いは叶ったが全員胸糞悪くなるような曲解をされた』
「だったらなんだ!」


魔人を殺す力を願った二人はその代償として己一人ではろくに動く事も出来ないほどに己自身を武器へと変えられたあげく、永遠の生を与えられ、その中では魔人の帯剣となるような屈辱さえ味わった。
コンプレックスによって自分を絶世の美女にすることを願った少女は、その美貌ゆえにありとあらゆる男から欲望を叩きつけられ、絶望の檻に捕らえられることになった。
どちらもそれによるカオス達の苦しみを予想していたのであろう、残酷な神の思惑通りに。
ならば、神と対面した最後の一人であるホ・ラガにだけその邪悪な思惑が降りかからないことなどあるわけがなかった。
じかに再会した事で改めてそれを思い知らされたカオスは、その意味をランスに対して説明する。


『そしてこの男、ホ・ラガが願ったのは魔人を倒す為に必要なことも含めた……すべての知識だ』
「そう……そして私には全てがわかっている。世界の成り立ちから、ありとあらゆることの存在意義までね」
『その挙句の果てが無気力になっての引き篭もりなんだろう……ある意味ワシらよりもしんどかったんだろうな』
「知るか、そんなこと!! 俺様には関係ない」


神によって与えられたのは、文字通りの全ての知識。
砂の一粒の位置から、この世界を縛る絶対の法則、そしてすべての楽しみも喜びも悲しみも怒りもそれはホ・ラガにとっては既知の情報でしかなくなった。
そしてその中には当然、ランスが生まれてから死ぬまでどのような行動を取るのか、指の一本の動きまでも含まれている。

どれだけランスが桁外れの力を持って地を蹴ろうとも、どれだけランスが人を超えた力で剣を振ろうとも、それはすでにホ・ラガの知っているそのままでしかない。
いかにランスがレベルアップで強くなろうとも素手では魔人や魔王に傷一つ付けられないように、いかに力を付けようともホ・ラガの予想は超えられない……それゆえに怒りに任せたランスの行動の全てが、最上位の神によって「この世全ての知識」を与えられたこの男の手の中で踊るだけとなる。
カオスが悟ったように、ホ・ラガ自身が創造神の見えざる手の範疇から逃れられないがごとく、ランスもまたホ・ラガの知識の範囲からは逃れられない。


「ふふ、元気で動けない君とこのまま楽しむのも悪くはないが……それはまたの機会にしておこう。さて、これで私の力はわかったはずだ」
「……殺す、殺す殺す殺す!!」
「その上でもう一度言おう。私は君の問いに答えることが出来る。だが、条件がある」


こんな説得の仕方がランスとの関係にとって良いはずがないことを知ってなお、ホ・ラガは圧倒的な高みからランスを見下す。
それこそが己にとって最善であると知っているが故に。
これにより彼も最後には願いを叶えられると知ってるが為に。
彼こそが自分の待ちわびた、『神』に一泡吹かせるために必要な人間であると知っているからこそ。

不死の体に全知の頭脳。
それによって得られたのは世界の残酷さと永遠の灰色。

絶望や悲観は愚か、魂の汚染さえも乗り越えてしまったかつての英雄は、しかし世界の破滅を願う呪い付きの女や神に絶望し堕落した聖女ともまた違う。
混乱を呼び起こすのではない。
人々を殺すのではない。
ただ、何もしない。この塔に篭って、世界を終わりまで見つめ続けるだけだ。
それしか、しない……それしか、出来ない。


「君に一つのクエストを頼みたい。なに、君になら実に簡単なことだ」


そこには善意もなければ悪意はない。
善も、悪も、正義も、邪も、魔王も、神も、意味などないことを知っているが故に、ホ・ラガは自分から動く事はない。
たった一人の力になることだけを考えて魔人に挑んだ愛深き賢者は、その愛ゆえにこの場にとどまっている。

この今の自分の現状が、絶望が、この知識を与えたものの思惑通りであることを心底理解しているからこそ、この場を動けない。
すべての答えを知っている、すなわち神々が仕掛けたたった一柱を楽しませるために作った仕掛けを何のドラマもなく淡々と攻略していくことの出来る己がこの塔から一歩でも出れば即座に殲滅される事を理解しているのだ。
だからこそ、彼は仲間であるカフェ・アートフルをクグの拷問機械から助け出さなかった。破片の場所から囚われた美女の名前まで知っている彼は、だからこそその行為が誰にとっても救いにならないこともまた、同じぐらい知っていたのだから。
そしてそれこそが、彼が今まさに永遠の牢獄に囚われている最愛の者を救いにいかない理由でもあった。

最愛の者を助けることは愚か、その者が願った魔王打倒さえ、ホ・ラガにはそのためのわかっていながら何も出来ない。
彼に出来ることは、神の機嫌を損なわない範囲において、彼らが設定した「プレイヤー」の為の都合のいい舞台装置になること、それしかない。
自分がわずかばかりにかつての仲間の助けとなり、自分の内に秘めた夢をかなえるためのほんの一度だけ背中を押す、それだけが自分の出来る限界。

そんな彼の絶望はきっと、己が手で魔人打倒を出来ぬような体にされたカオスのそれともまた異なる形のものなのだろう。
事前の知識とまったく同じに、同朋意識とともにホ・ラガからすれば何処かずれた同情をカオスに寄せられたとしても、ホ・ラガは動じなかった。


『……お前もやっぱり、変わっちまったんだな。ホ・ラガ』
「君ほどではないと思うがね、カオス」
『けっ、ワシは大して変わっとらん。魔人を殺す、今も昔もそれだけが望みだ』
「(それが変わったというのだよ、カオス……)」


きっとこの心は、誰にも理解されないであろう。
かつての仲間であるカオスや日光、カフェ、そして己の最も愛する人でさえ、今の己の考えは理解できないとホ・ラガは思う。

それは千年以上もの間剣として過ごしてきた己との類似点を感じているカオスの歪んだ顔が如実に表している。
全てを知り、それが故に絶望して捨て鉢になっている、そう思われていることは明白だ。
だが、それでいいとホ・ラガは思う。
それでこそ、あいつたちを欺けるからだ。彼を、助けられるからだ。
そして、そのために待ち望んだ第一歩がようやく今まさに目の前に来たのだ。

未来という希望さえ奪われて定められた枠をほんの僅かにさえ超えることが出来ないホ・ラガは、だからこそランスという人類の枠さえ超えた無類の戦士が自分の前に到達する今この一瞬を誰よりも待ち望んでいた。


「……さて。私達の時間は永遠だが、彼はそうではない。ならばさっさと話を進めよう。彼と彼女を助ける為……そして魔王を、超えるために」
『…………』
「殺す!」


だからこそ、ひっそりとした笑みを浮かべたエターナルヒーローの一人は、ランスに対して魔王の呪いを解く方法を教える条件として塔の中で暇を潰せる自分の愉しみを求め、その因果によって起こるであろう今後のことを考えて喉の奥で笑ったのであった。
そしてそれを、全能ではあるが全知ではない―――彼らの全知は己が楽しみがためにあえて封じている、とホ・ラガの脳裏にある知識ではなっている―――創造神たちは、知らなかった。



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Comment

No title

arcadiaのほうでいつも楽しく読ませてもらってます。
偶然サイトのほうを発見したので感想を。

さすがホ・ラガ! シリアスになれるときはなれる男!
決してホモキャラというだけじゃなかったんや!
たしかにリーダーの末路を知っているはずのホ・ラガがあそこの塔から離れないのは変ですもんね。納得できる設定だ。
非公開コメント

プロフィール

基森

Author:基森
蚕鳴や円禍と名乗ってたこともあります。

主に小説・ssなどを置いているブログです。

自前の本棚を持つのは初めてなので手探りでやっている程度のものですが、わずかばかりの暇つぶしにでもなれば幸いです。


メールは「kulukku106☆yahoo.co.jp」まで、☆を@に変えた上でお願いいたします。

そろそろ、非営利にならトップへのリンクフリーとか言ってみたり。

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