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悪徳の宴・6

昔から殴り合いが上手くかけません。
一方的に殴るとか落とし穴用意して嵌めるとかは好きなのですが。









ここは、ファルケこと雨塚鷹佑のラボ。
モニター越しになにやら思案を続ける雨塚の後ろで、ぷしゅ、と空気の抜けるような音がしたかと思えば扉が開く。


「失礼します」


だが、突然の乱入に対して雨塚は振り返りもしない。それも当然か、幾重もの科学的な防御装置と魔法的な警報とその両者の入り混じった致死の罠の仕掛けられた彼のラボに無傷での侵入を許されるものは数少なく、その中でもこの部屋に無許可で立ち入る事を許されているものはさらに少ない。
だからこそ、乱れのない足音とともに彼にカップが差し出され、硬質な、されど女性的な声が掛けられたとしても雨塚は戸惑いもしなかった。
雨塚がこの部屋に無断で立ち入る事を許し、局長と自分を呼ぶ唯一無二のパートナー以外、ありえないと知っていたからだ。


「局長。御疲れ様です」
「ああ、ありがとう、セラフィ。ちょうどコーヒーがほしいと思っていたところだったんだ」


その繊手の主である自分の副官、セラフィの心づくしに笑顔で雨塚は答え、一通り匂いを楽しんだ後にブラックに砂糖をわずかばかりに入れた自分好みの味を美味そうに啜った。
研究者とは思えぬほどのたくましい体に長身、そして柔らかな物腰をもつ上司の笑顔にセラフィの胸は高鳴っていたが、まだあまり感情を表情に出すのが得意ではない彼女は目元を僅かに朱に染めるだけでその礼を受ける。
どことなく、穏やかな時間が流れる。薫り高いコーヒーのアロマとともに雨塚の趣味で常にこの部屋に流されているクラッシック―――今はアニュス・デイ、か―――は会話の邪魔にならぬ程度の音量で耳を揺らし続けていることもあいまって、まるでここが無機質な機械に囲まれた研究室の一室である事を忘れさせるような情景。
その中、彼のくつろぎを邪魔せぬように控えていたセラフィが、遠慮がちに口を開いた。


「しかし局長……よかったのでしょうか?」
「うん? 何がだい、セラフィ?」


珍しい事もあるものだ、とおもわず雨塚は口元をほころばせた。
己の副官、セラフィは最近当たりが柔らかくなってきたとはいえ、それでも自分の職務である雨塚の補佐にその全身全霊を注いでおり、そのあまりに事務的に過ぎると思えるほど一挙一動をもってして雨塚の為に尽くしている。
その彼女が、僅かばかりの休憩をしている雨塚に対して報告事項でもないのに疑問を投げかけてくるとは。

が、内容を聞けば納得のいくものだ。
その生まれから対人関係があまり上手ではないセラフィがそういったことを考えていた事など、とっくに雨塚には分かっていたことなのだから。


「決まっています……局長に対するメッツァー・ハインケルの対応についてです」
「ああ。彼がどうかしたのかい?」


セラフィの透明な声。
そこには、紛れもない怒りが込められている事を雨塚は敏感に察した。
態度こそ事務的では有るが、魔道クローンたるセラフィにも感情はある。確かに「オリジナル」ほど感情豊かではないが、それでも彼女の忠誠がオリジナルに劣るとは今までそれなりに長い付き合いになりつつある彼をして思えない。
にもかかわらず、彼女が主たる自分の前でこうも怒りを露にし、棘棘とした感情をあたりに撒き散らすとは。
雨塚にはそのめったに見ない彼女の態度に驚きと新鮮さを感じていた。

とはいえ、彼は確かに悪党ではあるが、決して暴君ではない。
仮に己の下僕たる少女が多少生意気な口を利いたところでそれを己に対する親しみの表れとして飲み下すだけの度量は確かに持っている。ましてや今回のこの怒りは、自分にむけられたものではなく、むしろ自分を想ってのことだと容易に読み取れるならばなおさらだ。
そして度量と同時にこの懸命な少女に対する愛情も相応に持っていた……ある種歪んだ形であることは否めないであろうが。

だからこそ、未だに指輪一つ嵌めぬ飾り気のない彼女の手を見てたまには着飾って己の目を楽しませてくれてもよかろうとは思えども、彼女が持ったであろう疑問を解消する事に時間を割く事を厭う気など欠片もなかった。
それを受けて、彼の不興を買わなかった事を受けてわずかばかりに安堵の感情が走ったか、といった程度にだけ眉を動かした後、セラフィは言葉を続けた。


「局長が考えた作戦は最高の成果をあげています。『非殺傷設定を無効化する』、量産型スーツにこの機能をつけただけで管理局の戦力を一時は最大79%まで制限することができており、馴れによるものでその数字は多少の効果減が見られたものの今でもなお50%を下回ったことはありません」
「まあ、実際に俺がエース・オブ・エースに対峙したときからのことを考えるに、こちらの予想を超えて効果的だった、ということなんだろうね」


淡々と語られる言葉はその中身に比してあまりに無機質なものであった。

使い捨てとはいえ紛れもなく非エリートであってもそれなりに、ドロップアウトした高ランク魔導師であればさらに強化する強化スキンを与えられた頭の軽い犯罪者たちは、その能力に酔いしれて安い犯罪の数々を繰り返し、その結果として管理局に喧嘩を売って最終的にその軽挙の代償を己が命で支払うこととなる。だが、それさえも力があればある程度は乗り越えられる。魔法というクリーンな力が遠ざけたはずの暴力が全てを支配する時代が近付きつつある。
管理局は日々増大する犯罪の予防から事後処理までにその心身を擦り切れるほどの仕事に追われ、そんな最中ある者は疲労より最後の手加減を間違い自分が奪ったものの重さに対する罪悪感で潰れ、ある者は被疑者に対する思いやりの心と同時に自分を正義たらしめる誇りを失って闇におちた。そして、そんな行為を間近で見る事となったその同僚たちもまた、同じような道を辿りつつある。

低ランク魔導師の戦力を飛躍的に増大させる事と引き換えに、非殺傷設定を無効化する術式を組み込んである使い捨て型の強化スキンを裏社会に対象に横流しした結果として、犯罪者側、管理局側の双方に対して「血を流し合う闘争」―――それは今までの発展したミッドチルダ社会ではありえなかったものである―――を無理強いしておきながら、そのことに対して微塵も罪悪感など覚えていないようなその様は、まるで悪魔のよう。

警察機構の不全による治安の悪化から市民の不安と疑心暗鬼、町から消えなくなりつつある暴力の影によってここ数ヶ月で涙を呑んだ人間の数は数知れずであるにもかかわらず、そのことに対して心底セラフィは何も感じていないのだ。


「そのとおりです。それはすなわち、局長の功績です。にもかかわらず……」
「戦利品として認められるのが一人では割に合わない、ってことかな?」
「……はい」


淡々と語るような口調でありながら、その実随分と感情豊かになったものだな、と雨塚はそのセラフィの怒りを曖昧な笑顔で受け取った。


「メッツァー・ハインケルはまだしも、シルヴァ・ラドクリフには八神はやてと彼女が率いる守護騎士、ヴォルケンリッターの領有権を得ています。これはAMFのことを考えても、我々と比較すると過剰にすぎるものです」
「まあ、その分彼は今も苦労しているんじゃないかな? せっかく捕らえた鉄槌の騎士も、ああもあっさりと湖の騎士に奪還されているようではね」


ついこの間同僚が起こした失態を笑って語る雨塚の声には同期に対する親しみだとかいたわりといった感情は微塵も感じられなかった。
それも当然。
雨塚にとってシルヴァは仲間などではなく、どれだけ言葉を取り繕ったとしてもせいぜいライバル、もっと直接的に言うのであれば敵以外の何物でもないのだから。

しかし、その敵の失敗を聞かされても、セラフィの表情は変わらない。それは彼女が常としている経験の薄さゆえの無表情だけではない危惧の表れだ。
確かに己達の敵であるシルヴァはこの間失敗していたが、しかしそれは致命的なものにはなりえないだろうと彼女は予想していた。
それは妄想ではなく、信頼などでは勿論なく、どちらかといえば当たり前の事実を語るときに感じる確信にも似たものである。

あの悪辣な男が、何の仕掛けもなく一度捕らえた捕虜を帰すはずがないはずだ。たとえその奪還自体は想定外のものであったとしても、何らかの悪意を撒き散らす準備をしていないとは到底思えない。
そうである以上、シルヴァのミスはたいした失敗であるとはいえないはずだ。


「それでも、もはや時間の問題でしかないと私は思います」
「まあ、不満がない、とは言わないよ。フェイト・ハラオウンも八神はやても実に魅力的な女性だ。仲間にできればどれほど心強かったことか」


魔道演算器を体内に秘める少女にとって、一度捕獲したヴィータを奪還されたシルヴァの失態は確かに当初の計算にはなかった想定外のイベントではあったが、同時にその計算を根本から吹き飛ばすほどの遅れを発生させるほどではないとも評価していた。


それを自分以上に知っているだろう、とセラフィはその色のない視線を彼に向ける。

それを受けて整った顔をゆがめて雨塚―――ファルケは嘲笑の欠片を浮かべる。仲間、のところであえてアクセントをつけて。
彼が心底仲間としての彼女を求めているとは到底思えないその態度は、しかしセラフィの「義憤」を晴らすまでには行かなかったのだろう。
彼女はいつもと変わらぬ冷徹な声で、しかしそのうちに秘めた感情を僅かとはいえのぞかせながら言葉を続ける。


「でしたら」
「……だが、ここで欲をかいてはいけないのさ、セラフィ。俺の敵は管理局だけじゃない。それはわかっているんだろう?」


が、それはいくばくも述べぬうちに遮られた。
その声音に秘められた今までの軽口とはまるで違う、深い欲望の色にセラフィはびくん、とおもわず身を震わせた。
殊勝な言葉とは裏腹に、雨塚の瞳はまさにぎらつき、笑みには牙が見え隠れする。
渇望、欲情、自負、高慢。
自分以外の全てを見下し、自分が頂点にいない現状の全てを否定する。
雨塚の根源、それが今まさにこの場に現れていた。


そう、雨塚が望んでいるのは、断じてメッツァー・ハインケルの一の部下、などという地位ではない。
そんな程度で満足できるようであれば、そもそも彼は動こうとしなかったであろう。
雨塚鷹佑の欲望は、そんな程度では終われないのだ。
それを改めて彼に告げられて、セラフィは自分の考えはまるで間違っていたのではないか、ということを薄々感じる。それは、続く彼の言葉で一層強くなる。

オリジナルたるココノ・アクアによって、一度は奪われたこの心。
だからこそ、取り戻した今となっては一層いとおしく、それと同時に歪んだ絆は一層強固になったものだ。
対策は施してある。今度はたとえ殺される事はあっても、奪われる事はありえないほどに雨塚はその天才たる技術の粋をもってセラフィを強化し、それを彼女も受け入れた。

それが現すのは、目指すのは……一つの結論。
そう。今度は、自分たちが奪う側であるのだ。


「それは……勿論です、局長」
「だったら、ここではとりあえず『あれ』だけでとりあえずは我慢しておこうじゃないか。本命の方だって順調なんだろう?」
「は、はい。現在B-ランク以下の魔導師に対する新型バリアジャケットの普及率は約8%です」
「市井の方へのばら撒きもほぼ完了したんだっけ? だったら、そろそろ気づかれる頃かな?」


非殺傷設定を無効化することで管理局の体制に対してヒビを入れるのは、あくまで雨塚のミッドチルダ侵略―――および、メッツァー・ハインケル打倒―――計画の第一段階でしかない。

今現在、世界中を騒がせる犯罪者たちが使っている強化スキンと、管理局内でこれぞ、と思うものに与えてきた新型バリアジャケットはほとんど同一の素材だ。
もちろん、それなりに偽装工作を施し、精神に対する働きかけも含めて被験者に対して情報封鎖をしてきたが、そろそろ限界だろう。
その推測については間違いない、という確信を持っていたからこそ、セラフィは自信をもってそのことについては解答できた。

自分達の計画通りに事態は推移している、と。
メッツァー・ハインケルの行動も、シルヴァ・ラドクリフの暴発も、フェイト・T・ハラオウンの正義も、八神はやての信念も、全ては主の計算の中から一歩たりとも逃れられていない、と信頼と愛情を込めた瞳で見つめながら、答えた。


「はい、人材を選んで渡したとはいえ、計画の上ではそろそろ口止めが効果をなくす頃です。おそらく、近日中にも上層部から何らかのアクションがあると思われます」
「だろう? かくしてこちらは労せずして大量の人材を確保でき、加えて管理局の様々な内部情報まで得る機会があるんだ……そんな中、高々SだのAAだのといった魔導師の一人や二人なんて、無理してまで求める必要はないんだよ」


だからこそ、その計画の範囲内においてであればヴォルケンリッターごときをシルヴァに取られたところでなんら痛痒を感じない、と告げる雨塚の姿は、凄まじく男らしい気概に満ち溢れているようにセラフィには見えた。

そう、己の主たる雨塚鷹佑―――ファルケ―――は断じて無欲な善人などではない。
全てを望み、欲し、万物を己の元に跪かせることを求める強欲な悪人である。
普段はその優雅な物腰に隠れているものの、セラフィや彼女の「妹」達の体をあれだけむさぼっておきながら、それでもなお足りぬという飢えた野獣さながらの本当の彼の一端を見たことで、セラフィの女としての芯に火がともる。
その体がおもわず欲情の反応を見せてしまいそうになるのを必死になって制御しながら、セラフィは陶然としながら彼の声に聞きほれた。

色の薄い肌に僅かに血の気が登り、瞳の奥が欲情に霞んで潤む。うっすらと開いた唇からは吐息が漏れ出て、まるで部屋の空気そのものを甘い香りで埋め尽くしてしまいそうなほどだった。
右手は頼りなさげに宙をさまよった後、その衣装より大きく覗いた胸元で強く握り締められて添えられた。そこから視線を誘導されてみれば、暑くもないよう空調が整えられた部屋にもかかわらず豊かな胸元は僅かに汗をかいてまばゆく白く輝いていた。


そんな少女の愛らしい仕草に、雨塚は目を細めながら、しかしその肢体に対して欲情を露にする事はなかった。
そんな衝動をぶつける先は、今は彼女ではない、ということを十分理解していたからだ。

だからこそ雨塚は、己の忠実な副官である魔導クローン セラフィに対して背を向けて、声を張り上げた。


「だから、そんなことで怒るよりも一緒に考えてくれないかい、セラフィ? 何と言っても彼女は俺のラボへの招待を一番最初に受けてくれたんだから」


目先の先のモニターには、顔を伏せた女性の姿があった。
輝く栗色の髪に成熟した肢体、男のことなどまるで知るよしもないほど清廉なその体つきからは、匂うほどに処女の気配が香り立つ。
その身にまとう魔力はリンカーコアの確かさを示し、気を失い閉じられた今でもなおその瞳を通した経験を透かし見せる目元からは、その若さをして歴戦の管理局員を象徴するかのような凛々しさが溢れている。
完全無欠の少女だ。最強の魔導師だ。皆の希望であり、平和の象徴だ。

……いままで、その部屋にとらわれてきた少女たちと同じように。

彼と彼女の目の前にいるのは、翼を折られてひれ伏す、鎖と埃と闇に囚われた「正義の味方だった」少女だ。


「たっぷりと持て成してやらないと、この名がすたるというものだよ。なあ、君もそう思うだろう……高町なのは?」


その策謀でもってエース・オブ・エースを手中に収めたことで、己が計画どおりに物事が完全に進んでいることを、そしてその根本を支える思想が正しい事をファルケは誰よりも確信していた。


つづく

Comment

No title

おお、順調に話が進んでる
最初に捕らえられたのはなのはさんとヴィータだったか

No title

相変わらず、メッツァー様が出てこない・・・。
次回もお待ちしております。

>コノノ・アクア

ココノ・アクアですね。
久々なので自信がないですが。

No title

組織的には今のところ雨塚君が一番うまいかな?
資質にあまり左右されない戦力が質・数共に揃えられてるし、データフィードバックによるアップデートがあるだろうから強さ関係を維持したければ裏切れないし。
魔道師側にも得はあるから、あくまで雨塚君を上位だけどWin-WInの関係がちゃんとできてる。

メッツァー様は下僕や奴隷や手下は使っても部下って感じじゃないし、
シルヴァさんは基本、自分でやる人だから、
これは雨塚君ならでは。
御二方も別の手法でことを進めてるでしょうが。

リリカルの方は戦略で完敗して戦術で後れを取った状態でも戦闘でちゃぶ台返しするから油断は禁物ですが、さて、どうなるか?

今後も楽しみにしてます!
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プロフィール

基森

Author:基森
蚕鳴や円禍と名乗ってたこともあります。

主に小説・ssなどを置いているブログです。

自前の本棚を持つのは初めてなので手探りでやっている程度のものですが、わずかばかりの暇つぶしにでもなれば幸いです。


メールは「kulukku106☆yahoo.co.jp」まで、☆を@に変えた上でお願いいたします。

そろそろ、非営利にならトップへのリンクフリーとか言ってみたり。

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