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悪徳の宴・5

メッツァー陣営でなのはフェイトはやて以上の魔導師と正面から遣り合って対等以上に戦えるのは、多分一人しか存在しないと思います。











メッツァー=ハインケルは、極めて強力な魔導師だ。

もっともその魔法の威力自体はたいしたことはない、と残念ながら言わざるを得ない。
管理外世界出身である為にリンカーコアという臓器によらない魔法を使うが、ただそれだけだ。
大地を見渡す限り焼き払う炎も、破壊不可能な硬度で全てを永遠に凍らせる氷も使えない。
精々、人間二三人を纏めて吹き飛ばす爆雷だとか、触れたものを瞬時に腐食させるボール大の水球だとか、その程度だ。
確かにそれは人間を一人殺傷するには十分な威力を要するが、それの比較対象として登る大規模破壊を得意とするような管理局の魔導師には到底及ばないし、かといってその身体能力が人間の域を遥かに超えるまで強化するような魔法も使えないので、白兵戦では魔法を駆使して武装した兵士数人と戦うのがせいぜい。
武器を取って戦うことなど考えたこともない以上、熟練のベルカ騎士を相手取ってまともに勝利するのは命がけになるであろう。

淫魔サキュバスや『あざ笑う死神』ディラックといった極めて強大な人外の存在を配下に収めているのは、彼自身の人間的魅力というものに前二者が個人的な好意を感じてつき従っているに過ぎず、こと戦闘という面においてはメッツァー自身のそれは配下の者ほど高くはない。

かつての古巣での地位向上に大いに活躍した、彼の特技たる複数魔法の無詠唱・同時行使すらも、マルチタスクという技術が確立されているミッドチルダにおいてはそこまで絶対的なアドバンテージを与えるものではない。
転移や麻痺、異形の召喚といったミッドチルダにもベルカにも当てはまらない特殊な魔法を得手として使うために実際に戦ってみないとわからないが、それでもどうしても出力不足であり、大規模な砲撃魔法や誘導弾といったものを使用する事は出来ない以上、ある一定以上の魔導師ランクを持った者と正面から戦えばおそらく敗れるであろう。
近接も間接も可能な優れた戦闘系魔導師である彼をしても、この世界においては相対的に見てそれほどたいした力を持っているとはいえないといわざるを得ないほどに、このミッドチルダの魔法戦闘技術は卓越したものだ。


「メッツァー様……そろそろ、私も出ようと思います」
「そうか……現場においては基本的な方針さえ違えなければ、お前の好きにするといい」
「はい! この身に変えても、吉報をお持ちいたします」


それでも、あえて繰り返そう……彼、メッツァー・ハインケルは強力な魔導師だ。
並び立つ配下を見て、ココノ・アクアは改めて己の主の強大さを痛感していた。
自分の眼前にずらりと顔を揃えるのは、二足歩行の巨大な爬虫類のような何か。
その褐色の肌と黄色い目、そして牙の生えた口内からのぞくのは鈍い肉色をした長い舌。
見るだけで女の生理的嫌悪をあおりかねないその無機質な表情が、彼女に命令されるのをただただ従順に待っていた。







目標を補足した瞬間、ためらいはなかった。
幾度犯罪者との戦いを繰り返してもなお失せぬ彼女の中での正義の心が、それを後押しする。
だからこそ、非殺傷設定をしているとはいえ、その化け物に対しては全力全開で命を奪う一撃を食らわせることに、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンは迷いもしなかった。


「突き立て 雷光の剣! サンダーレイジ!」


無詠唱でも可能な魔法行使を、あえて詠唱を付け足すことで威力を増し、魔力消費を減らして発動させたそれは、まるで雨のように天から幾重にも降り注ぐ雷を生み出した。
あらかじめ雷光により拘束されていた目標たちは、その拘束より抜け出したごくごく僅かなもの以外ことごとく豪雷に撃たれる。
自然の雷を元とするその威力は極めて高く、全てを拘束することによる時間的猶予からじっくり狙って撃たれたその精度はとてつもなく高い。
テロリスト、シルヴァ・ラドクリフによるものと思われる変容魔法というレアスキルによって、この地域一帯に対してAMFにも似た魔法の使用を阻害する空間変容がなされていることでその一部が削り落とされたとしても、その雷は十分な威力と精度を持っていた。

それは、下魔と呼ばれる異形を使い最近多発しているテロの制圧でも、フェイトにとっては幾度となく起こってきた光景だった。
ろくな知性を持たぬ、機械と同類の判断しか出来ない異形相手に繰り返された、正義の鉄槌であったのだ。


だが。


『グルルルゥゥゥ』
「……っ、まだ!」


今回に限り土煙の中から響く低い唸り声によってそれでもなお戦いは終わらないことに気付いたフェイトはおもわず声を上げてしまった。
防御と生命力にその力を割り振られた下魔のいくつかは仲間を盾にするような外道の連携で、しかしあの強大な雷の雨を耐え切っている。

違う。
いつものようにその知性皆無の暴力的な衝動にしたがって暴れまわっているのではなく、あのファルケやシルヴァのような指揮官的な存在がこの場にいることをフェイトは悟り、辺りを見回す。
魔法によって強化された五感は、それによりいとも簡単に対象を見つけることに成功した。


「ふふっ」
「っ!!」


その慌てたようなフェイトの態度を見て、視界の橋に写った少女が笑ったのをフェイトは確かに見た。下魔に襲われることもなく彼らの破壊行為を見ていた状況からこの場における敵の司令官と思われる彼女は、鈍く金に輝く髪を後ろに流し、奇抜な衣装に身を包んでいる。
軍服のようにも見える赤と黒のその服は、しかしそれにしてはあまりに露出が激しく淫靡なものであった。
深い藍色の瞳は大きく、彼女の幼げな容貌の印象を一層強めていただけに、その衣服に込められているであろう意味の裏側が余計に官能的だ。

その姿を見た瞬間に、その視線を遮るかのように化け物が彼女の前に立ちふさがったときに、フェイトはこの戦いが簡単に終わるいつものテロ鎮圧ではないことを直感した。

自身が行使する大規模魔法、それは確かに相当の効果を挙げた。
ジュエルシードによるオーバーロード生命体と同じような性質を持っているのか、非殺傷設定されている魔法を受けたにもかかわらずその恩恵を受けられずぶすぶすと嫌なにおいを上げて焼け焦げた幾体もの異形の姿がそれを物語っている。
いっそ、圧倒的とまで言ってもいいほどの戦果であった。

だが……だが!


「流石の威力ですね……本当に、すごい」
「っ!」
「せっかく召喚した下魔の大半がもう……まあいいです」


たった一人、何人もの下魔とシルヴァたちが使うような聞いたことのない詠唱で見たことのない防御魔法を楯にして天から落ちる雷撃を防いだのであろう少女がそんな声を呟くと同時に、周囲に魔法陣がいくつも生まれ、そこからまたも下魔が呼び出される。
そのことが、彼女の素性を何よりも雄弁に語っている。
もしやと思った予感を、やはりという確信に変えられたことでフェイトはおもわず脳裏で嘆きの声を上げた。

ファルケ、シルヴァ。共に凄まじいまでの悪意と策略の使い手だった。
彼らと直接やりあったことはなく、その様を伝聞でしか知らないフェイトでさえもそれを実感として持っている彼らの同僚と思われる少女がいるのに、今回のテロ鎮圧がいつも通りのわけがないのだ……こんな、自分と挿して歳も変わらぬ美しい少女でさえも、テロにしたがっているとは。

自身を取り囲むように次々と虚空より現れてくる異形を前に構えを取りながら、フェイトは息を整えて思案をめぐらせる。
突如管理地域の一部で起こった空間変容に対して単独で高速の飛行能力とかなりの戦闘力を持つ管理局員として単身先行し、その直後に起こったこの魔物のような生き物たちによる破壊陵辱略奪を防いだのは確かにフェイトの判断であった。
だが、自分の大規模魔法による奇襲に対してこうもあっさりと対応して見せるということは、結局これは相手の罠であったのであろう。あの召喚魔法の後ろではどれだけの軍勢を用意しているのか分からないが、今の様子を見るとこれで打ち止め、ということもないだろう。
あのファルケ、シルヴァと名乗った男たちに続くテロリストであろう少女を倒さない限り、この消耗戦は続いてしまう。

雷撃からも生き残った者の数ともあわせると、今まで倒した数を有に倍する軍勢が瞬く間に生み出されたことで、フェイトの顔に僅かながらの影が差す。


「どうしてこんなことを、あなたの目的はなんなんですか」
「……どうして? 決まっています。全ては我が主のため」
「っ!!」


ガジェット・ドローンを思わせるその圧倒的なまでの数に、これから始まるであろう消耗戦を思ってのこと、ということは勿論ある。
だが、それ以上に何処か露出の激しい少女の姿は、その彼女が瞳に浮かべている妄信ともいえる光の色は、そのどこかで、いつかに見た光景をフェイトに思い起こさせるその少女の姿は。

彼女に、幼かったときのころをフラッシュバックさせた。
ただひたすらに、親の愛を求めて虐待とも言える苦痛に耐え、母プレシア・テスタロッサの望みであるジュエルシードを集め続けていた、フェイト・テスタロッサを。


「やめて! やめてください、こんなこと!」
「どうしてあなたたちはいつもいつも同じことを……それに、もう遅いですよ」
「え?」


これから始まる戦闘行為そのものを嫌い、そしてそれ以上に己が同じぐらいの少女と争わなければならない、ということに心を痛めてフェイトは叫ぶが、その声は届かない。
フェイトの万感の思いが込められた叫びは、冷笑とともに一顧たりともされずに切り捨てられる。まるで、あのときを鏡に写したように。
魔王の治世こそが最上のものだと心底信じているココノ・アクアとは胸に抱く理想の形がいっそ致命的にまで異なっていることを知らないがゆえに、かつてそれとほとんど同じことをした自分の姿をフェイトはどうしても脳裏から消せなかった。

そしてそれは、人としては正しくても、戦闘者としては隠しきれないほどに大きな無駄でしかなかった。


「ほら、始まりました」
「っ!!」


そんなさなか、唐突に空が変わる。
六角形の半透明に輝く薄い板が上空から降り注ぎ、やがてそれが組み合わされて大きなドーム状の球体を作り上げて二人を、そして無数の下魔を囲んでくる。
フェイトが気付いた頃には、もうそれを止めるにはあまりにも遅かった。

空間閉鎖現象。
そう名づけられた、近年新たに見つかった物理現象の一つである。

このテロリストたちがどういうわけか制御していると思わしきそれは、お互いの決着が付くまでの他者の介入を拒む結界のようなものだ。
とてつもなく強力な壁により内部からの逃亡は愚か、外部からの援護も得られなくなってしまう。中に入ることが出来るのは、転移系の能力を持つものか、召喚魔法によって呼び出されるものだけ。
管理局の観測と推測計算によってアルカンシェルクラスでもないと突破できないとされるそれは、個人の力ではもはやどうしようもないほどの強度を誇る。
まるで互いの死闘を望むかのような現象は唐突にフェイトが見たことがないほど広範囲で、あっという間に逃げ場を奪っていった。


「これ以上我が主がお待たせするわけにはいきません。さあ、始めましょう。
「そんな!」


どこまでも相手の思惑通り。
一度引いて対策を練り直すことも、誰かと共に協力して力を集めることも、もはや叶わない。
ここで全ての型をつけなければもはや逃がすつもりはない、ということなのだろう。
改めてフェイトは覚悟を突きつけられて唇を噛む。

今の彼女の力では、この壁―――この戦場は壊せない。相手が望むままに結果が出るまで戦い続けなければ、この場からは誰一人出られない……少女の勝利か、あるいはフェイトの勝利かという結果が。
ならば管理局員としてのフェイトは、この目の前の少女を倒すことでこの場を収めなければならないに決まっている。


「その方とお話させてください! あなた達のやっていることは、間違ってる!」
「それを決めるのは私やあなたではなく、主です。さあ、武器を構えなさい」


しかし、彼女を真っ先に倒す、ということは中々に難しい。

……いや、それは違うか。
倒すだけならば実にたやすいことだ。
幾重にも重なるこの下魔と呼ばれる魔物を貫いてなおあの敵司令官である少女に対して攻撃を加える、ということはフェイトには十分可能なことだからだ。
元々彼女は魔力を雷という極めて殺傷能力の高いものへと変換できるレアスキルを持っている。攻撃の威力だけならば、エース・オブ・エースさえもあっさりと凌駕出来るだけの力がある。
魔力ダメージや誘導や防御よりも威力と貫通と速度に特化した彼女の魔法には、それだけの力が秘められているのだ。
たとえあの下魔と呼ばれる生き物が何百匹重なろうとも、一発で打ち抜くことが、他の誰にも出来なかったとしてもこのフェイトには出来る。


ただ、短絡的にただ魔法の力に頼って全力でぶつかればいい、などとはフェイトは思わない。執務官としての経験と知識、それを積み重ねていくたびも醜い現実を見てもなお、彼女はその正義の心を失うことはなかったからだ。
その心が現実に即した場合あまりにも残酷な事実をたたき出すとしても、彼女はそれを無視することを是とはしない。
だからこそ、今まさに苦しい。


彼女がファルケやシルヴァ、と名乗った男の一味ならば……あのなのはやはやての一撃により重症を受けて真っ赤な血を流した男の仲間である、と言うのであれば。
フェイトの心に、致命的な影が走った。

ファルケと名乗ったテロリストは、未だに元気に活動している。なのはからうけた一撃により焼け爛れた左の顔さえも、記録映像からすると今では治っているように見えた。
シルヴァと名乗ったテロリストは、今日も空間変容を続けている。はやての援護によりシグナムに切り落とされた左手も今はつながって両手でなければ、この魔法は使えなかったはずだ。
きっと彼らの陣営には極めて優れた治療技術があるのだろう……相手を傷つけることに、そして自分が傷つくことに慣れている彼らの側には。



正義を行うためならば、たとえ相手を傷つけたとしても戦うしかないのではないか?
管理局員の中でも、そう割り切ったものだっていなくはない。


「その青臭い正義を主に語るというのなら、まず私を殺してからにしてください」
「っ!!」


だが……ファルケの側にいた今目の前にいる少女によく似た四姉妹は、ティエナとスバルに遭遇して戦闘を行って以降、最近三人でしか行動していないらしい。
シルヴァの隣にいつもいた、フィエナと呼ばれていたメイド服の少女の姿は、彼女と最後に戦ったシャマルの探索魔法を持ってもなお、最近どこでも確認できていない。

それが真実、何を意味するのか、フェイトには完全には理解できていない。
管理局の情報班の必死の活動にもかかわらず、彼らの陣営の情報はほとんど入ってきていない。彼らが力で管理局の管理地域を奪い取り、空間変容で作り変えた敵地で本拠地を探そうと侵入を試みたものや、レアスキルを含む魔法的な手段で監視・偵察を行おうとするもののほとんどが、まるで劇団のような仮面を被った貴族趣味な衣装の男のたった一撃でつぶされているからだ。
とてつもなく高度なジャミングと強力な攻撃魔法、理不尽な転移を使いこなすディラック、と名乗る男が何故直接の戦闘の場に出てきていないのかはわからないが、敵陣営の防諜を担当していると思わしきあの男がいるかぎり、彼らの内情は分からない。
だから、先に上げた少女たちが何を理由として戦場という表舞台に立たなくなったのか、その理由は本当の意味では彼女たちは知らない。


だが、知らないということはすなわちまったく無視していいというものではない。
いや、むしろ知らないからこそ出来てしまう想像は時として、現実よりも遥かに残酷な事実を正義の使徒に突きつけた。
決まって姿が見えなくなる前に管理局員との戦闘によって大きな傷を負った彼女たちがどうなったのか、どうなってしまったのか。
おそらく、直接戦ったことのあるなのはやはやてにもわかっているのだろう。彼女達の顔にいつからか纏わり付くようになった暗い影がそれを如実に現している……いくら治癒技術の優れた彼らであったとしても、やはり一つの絶対的な法則だけは超えられない―――死者蘇生は行えないのではないのか、という推測が成り立ってしまう。

誰にとっても死は死であり、殺人は殺人だ。
正義があれば、愛があればそれが必ずしも救えるわけでもないのだ……少なくとも、彼らのような敵が相手であるとしたならば。

ならばもし、この場においてわずかばかりにフェイトが加減を間違ってしまえば。
下魔だけを貫くつもりであった他者を傷つけられる雷の魔法が、ほんの僅かに威力が高くなってしまえば。
あまりに殺傷に特化したこの力が、非殺傷という優しい魔法をほんの僅かにであっても纏えなければ。
フェイト・テスタロッサ・ハラオウンは、彼女を殺してしまうかもしれない。


「(なのは、はやて……母さん!)」


愛する、信ずる相手の為に悪事をなすことを心に決めたらしい少女を、母からの愛を得るために管理局の法に違反し人を傷つけた自分が殺すことになってしまうかもしれない。
やり直す機会や更正する機会を与えることなく、相手の事情を微塵も汲まずに一方的に相手の思惑を断罪して、その裏に潜むこういった行為へと至った経緯をまったく考えもせずに相手の未来を永劫に断ち切ることになってしまうかもしれない。

なのはのやさしさによって救われた自分が、相手を救うことなく一方的に正義をかたることになるのだ。


「殺しません……絶対にあなたにも傷つけさせないし、あなたを殺すことなんてしません。きちんと捕まえて、裁いて、やり直させて見せます!」


今、彼女の親友として生活をともにしているフェイトにとって、それは絶対に許せないことだった。
だからこそ、親友たるなのはと同じことを叫んで、消耗戦になることがわかっていても、誘導ではなく貫通、防御ではなく回避に偏った己の力がこのような状況では不利になることをわかっていてもなお、この無数の軍勢が尽きるまで戦いぬくことを誓って新たな魔法を唱えた。







目の前で凄まじい威力の魔法を放ち、大鎌へと変化させた杖を振りかざし、下魔をまるで紙でも割くかのごとくあっさりと切り裂いていく金髪の姿を見て、ココノ・アクアは改めて彼女達の強大さを思い知った。
この場には主の協力者、シルヴァ・ラドクリフによる空間変容がほどこされている以上、彼女はAMFの効果下にあり、己と下魔たちはその恩恵により普段以上に力を得ているはずだ。

しかし、それでもなおこの金の少女の強大なことよ!

下魔を切り裂く強力な一撃を前にして、同時につい先ほどの攻撃さえ何とか凌いだものの、ココノは彼女が本気になって自分の殺害を狙えば、それを防ぐことなど出来はしないであろう、ということもつくづく思い知り、己の非力さと管理局という敵の大きさを改めて痛感する。


「捕まえる……裁く。愚かなことです」


だが、それでもココノは怯えて逃げようなどとは欠片も思わなかった。
ただ冷静に、次に来る下魔の為に彼女とフェイトとの間にスペースを空けようと五歩下がる。それだけで、必死になって下魔を切り破ってフェイトが詰めてきた距離は無へと帰った。

彼女は元々回復魔法を得手とする後衛要因であり、近接戦闘能力は無きに等しい為、この乱戦になってしまえば魔法の弓を使って攻撃することも近寄ることも出来ず見守るしか出来ない。
今彼女の一撃により倒された下魔は三人、女神騎士団の魔法を吸ってより体力と防御に力を割り振った彼らをこうも容易く倒せる彼女の力には驚嘆を禁じえないが、下魔の代わりなどいくらでもいる。

そう思いながらココノは手のひらでマナ、と呼ばれる人体に宿る生命エネルギーを込めた魔法石を転がして弄ぶ。
次なる召喚魔法を使うための触媒として使用するつもりのそれは彼女の懐に数あるものの一つでしかなく、また次の次の召喚でもなお彼女が無双しているつもりであれば自室よりさらに一袋分呼び出すつもりだ。
ディラックが作り上げた空間閉鎖の障壁の内側にあってもなお、彼女の召喚魔法はディラックの調整とシルヴァの空間変容の効果によりむしろいつもより冴え渡って効果する。

どちらも全面的な信頼を置ける相手ではない。
特に気紛れとはいえ己の主の下僕として今まで一度も期待を裏切ったことのないディラックとはことなり、シルヴァ・ラドクリフは信用できない。
きっとこの空間変容だって、時が来ればシルヴァ以外には効果を逆にするような術式が仕込まれているに違いない。
だが、それがわかってもなお好きにさせるメッツァーの意を汲んで、十分な余裕を持ってココノはフェイトの前に未だに立ち続ける。


「今回の為に用意した下魔は千を越えます。彼女の戦力予想からするとそれまでリンカーコアの酷使がもつわけがありません」


フェイトは知らない。
たしかにココノ・アクアは元々ナイツ騎士団の一員ではあり、ナイツとしての力も取り戻している現状では弓を使っての遠距離攻撃や回復・防御魔法を得意とはしているが、それ以外で強力な攻撃魔法などを使いこなせるだけの才覚はない。

彼女はあくまで副官であり、性奴隷であって、本来ファルケやシルヴァと並び立てるような天才魔導師などではないのだ。
彼女がフェイトのサンダーレイジを耐え切ったのだって、彼女達の使用するロア式の魔法は消費するマナの増大にしたがって際限なく威力を上げることが出来る、という特性を利用して、膨大なマナを結晶体として持ち歩き、それを非効率この上ない消費の仕方をすることで、かろうじて可能としただけだ。
フェイトのように己の有する十の源から百の威力の攻撃を生むことが出来る才覚があるのではなく、あらかじめ用意した二百の源を使ってかろうじて百の威力の障壁を張ることで防いだに過ぎない。
彼女の主がその支配地より吸い上げた膨大なマナをあらかじめ与えていなければ、そもそもエリートの管理局員たるフェイトの前に立つことさえ出来ない程度の能力しかないのだ。


「仮にそれが尽きたとしてもまた呼び出せばいいだけですし、そろそろゼルゲスも投入しても……ですが、その前に心変わりするでしょうか?」


故に、この無数の下魔を召喚しているのは、彼女の力ではない。
フェイトの気が変わって自分を殺そうとしたとしても逃げることなど欠片も感じぬほどココノが忠誠を捧げる相手、彼女の主であり、ファルケ、シルヴァを従え、なのはやはやてと対等以上に戦うことの出来る力を持つ銀髪の魔王によるものであった。

フェイトが倒すべきなのは彼女ではなく、彼女の主であった。
だが、ディラックによる遮蔽陣によって、すべての情報を防がれているフェイトにそれが分かるはずもない。
そしてそれが結局のところ、彼女の終わりだった。
 

「メッツァー様……彼女の体力気力魔力が尽きるまでもうすこしだけお待ちください。ココノはきっと吉報をお持ちいたします」


戦闘にも補助にも優れた万能系の魔導師たるメッツァー・ハインケルがもっとも得意とする魔法は、生体魔法と召喚魔法。
その中でも天才魔導師であるメッツァーが作り上げた最高傑作が、召喚装置だ。
これは、通常魔術師が陣を描き、マナを消費して一体の妖魔を召喚する、という作業を反復する魔法装置である。
召喚できるのはほとんど知性を持たない下級の妖魔、下魔に限られるがマナさえ供給されればいくらでも呼び出せる。
一般人から搾り出したようなほんの僅かなマナからでさえ無数の下魔を生み出すことを可能とすることに代表されるような無限の軍勢こそが、魔王たる彼の持つ真の力だった。
そして、世界一つを支配するメッツァーが保有するマナは……

主の強大さを信じ、そして偉大なる主君の為ならば己の命さえも駒とみなせる少女にとって、この場における己の命の帰趨などもはやどうでもいいものであり、かつての正義の騎士団から悪の下僕と成り下がったことなどさらにどうでもいいことである。


「ああ、メッツァー様」


自分の報告を待つであろうその白皙の美貌と冷たい眼差しを思い出して、ココノはその幼げな容姿とは裏腹のむっちりとした太ももを擦り合わせて切なげに溜息を吐いた。
その瞳には、もはや目の前で彼女をどうにか殺さずに、傷つけずに救おうと奮戦するフェイトの尊き勇姿など、欠片も映っていなかった。


つづく

Comment

No title

ああ、二つの世界、魔王とその取り巻き、正義の味方とその仲間の違いがよく出てるわあw
なのは世界の連中に比べたら確かにメッツァーは…だけど奴の恐ろしさはそこじゃないんだぜみたいなのもよく出てたぞ
それとフェイト、気持ちは判るが魔王とその子との歪な絆はお前の過去とは違うんだぞw
まあ、似てる部分もあるが今更改心は…
それにしても管理局側は苦戦しつつもまだ持ってるのか
敗北するのはいつになるんだろう…w

No title

まーリリなの世界の悪役とメッツァーじゃ格というか、大前提が違いますからねぇ。
魔法戦士側の悪役は基本(ヒロインをこますという結果以外の)手段を選ばないですしね。
対して、リリなの側はスカ博士ですら基本紳士的というか劇場型犯罪者でしかなかったですし。
リリなの側が戦うことそのものに意義を見出してるなら、メッツァー側は戦う時点で既に結果が出し終えているみたいな。
だからこそ、その配下の気質も違うわけで。
今回もフェイトがココノと自分を同一視してますが、実際は全然違いますしね。
ほぼ一方通行だったフェイトと違い、メッツァー側にも(形はどうあれ)愛がありますものw

No title

> 火殺傷という優しい魔法~
優しすぎて灰になりそうです(笑)。

ディラックの舞台裏での活躍により、ヴェロッサが人知れず退場のお知らせ・・・、だったりするのでしょうか。教会のよく当たる天気予報も気になります。「聖王」ならぬ「性王」の来訪。

No title

>メッツァー側にも(形はどうあれ)愛がありますものw

今回、メッツァーらが管理局に喧嘩売ったのも『管理局の三女神』に対する歪んだ求愛とも取れるしなw
終盤でそれをなのはらにカミングアウトして欲しいぞw

No title

相変わらずディラックさんは凶悪ですなぁ。
さすが元魔王さまやで・・・。
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プロフィール

基森

Author:基森
蚕鳴や円禍と名乗ってたこともあります。

主に小説・ssなどを置いているブログです。

自前の本棚を持つのは初めてなので手探りでやっている程度のものですが、わずかばかりの暇つぶしにでもなれば幸いです。


メールは「kulukku106☆yahoo.co.jp」まで、☆を@に変えた上でお願いいたします。

そろそろ、非営利にならトップへのリンクフリーとか言ってみたり。

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