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八咫(ランスクエスト)

エロゲーなんだから、エロいゲームであるのは当然として、一般ゲームではありえないような展開や絶対に出せない登場人物が生き生きと動いて欲しい。
二次小説なんだから、原作品に忠実であるのは当然として、原作ではありえないような展開や見られなかった部分をみっちりと読みたい。

だから基本的に、ニッチ狙いの隙間産業的な書き方をしている私が書くのは、ちょっとひねくれた邪道系エロゲ二次が多いです。
清廉潔白で真面目な主人公は一般ゲームでやりますし、正当派な面白さを積み重ねた二次はきっと誰かが書いてるでしょうから。






全てを埋め尽くす閃光と爆音と衝撃の後、長年蓄積された埃と土とその他もろもろが大きく巻き上がっているさなか、二つの声だけが聞こえる。
それは、爆音の直後である為に逆にすべての音が死んでいる沈黙にいっそうよく響いた。


『お~い、ランス。生きておるか?』
「ふん、あたりまえだろう。お前こそひびとか入ってても今回からは二度とセルさんは渡さんぞ」
『何で!? ワシだってこんだけ体張って頑張ってるのに、どうしてそんなことを言うんじゃ!』


どちらも疲労か傷によるものか、声には若干力がない。それも無理はないだろう。

鬼畜アタック。
獲得した経験値、今まで奪ってきた魂の欠片を剣に込めて全てを吹き飛ばす、ランスの奥義。
地形さえ変えてしまったほどの衝撃をただの人の身で生み出した反動は、確かにランスに刻まれていたし、それを自分自身の体で生み出すことになったカオスにも、それなりの疲労を与えていた。
そもそも、あたりの光景を一変する爆心地のほぼ中央にいたにもかかわらず耐え切れている方が異常なのだから。

だが、その身を削ってまでも生み出した破壊の効果は絶大だった。
もはや音も光も振動も消えても余韻が残るだけのその場においても、破壊痕だけを見ればその威力の凄まじさは容易に読み解ける。
石畳の大地は大きく抉れ、周囲の壁は今にも崩れそうなほどに傷ついている。巻き起こった土煙がようやく落ち着いてきた今見えるものは全て、ほとんど壊れているかあるいは壊れそうなものばかり。
それが単なる余波によるものでないことを考えれば、未だ晴れていない土煙の中心、技の直撃を食らった場所に加えられた力がいかほどのものだろうか、もはや推測も難しいほど。

それが分かっているからこそ、ランスとカオスの声は疲労を滲ませた、しかしもはや戦闘が終わったかのような落ち着いたものだった。

凡人は愚か、英雄たちさえも置き去りにするランスの究極の力は、まぎれもなく魔人にさえ届くものだった。
そしてその証明が、そこにはあった。


「黙れ……それよりも、終わったか?」
『ああ……あそこを見ろ、ランス』


ようやく見えてきた視界に、一つの物体が飛び込んできた。
ふよふよと半端な位置で宙に浮かぶそれは、ランス達もかつて何度か見たことのある赤い塊―――紛れもない魔血魂である。すなわちそれは、ますぞえの確実な死を意味した。
もっとも大切なものを失ったことにより全てを怨み、憎み、殺意と憎悪にまみれた鬼畜戦士の鬼神がごとき一撃は、まぎれもなく魔人を打破することに成功したということを、その緋色の宝石は何よりも雄弁に語っていた。


奈落の王、魔人ますぞえは倒れたのである。


「ふん、ハニーでもいっちょ前にこれはあるんだな」
『まあ、魔人だしな。とはいえ、このまま放っておく訳にもいくまい』
「そりゃそうだ」


空中に浮かぶ、その魔血魂にランスが何の気なしに手を伸ばした……そのときに。
今までの狂った次元での戦闘をまるでぶち壊すようなものが飛んできた。


「あいやーっ!」
「魔血魂は僕んだーっ!」
「いいや僕んだーーっ!」


どこからともなく現れた何人ものハニーたちが、魔血魂へ群がりだしたのである。

そう、魔血魂を体内に入れることが出来れば、そのものは魔人となることが出来る。
それを狙って、このハニーたちは漁夫の利を得ようと虎視眈々と魔人が倒されるのを待っていたのだ。
彼らがきた方向を見るといくつもの割れた陶器の欠片が転がっているところを見ると、そのほとんどは鬼畜アタックの余波だけで壊滅したのだろうが、運と能力値のよかったごくごく僅かなハニーが生き残り、今争奪戦を演じているようだ。


「とりゃーっ」
ハニーパーンチ。
「あいたっ、うわーん」
「とう、魔血魂いただきっ」


醜く貧弱な争いだ。罵る言葉も繰り広げられる戦いも、全てが低レベル。先ほどのランスとますぞえの戦いのことを考えると、よくもまあそんなことが出来るものだとあきれてしまうほど。

だが、こんなハニーでさえ、魔血魂さえ手に入れれば魔人になる。
聖刀と魔剣以外では絶対に傷つかない24人の一人となるのだ。


「よこせ、奈落の王になるのは僕だっ!」
ハニーターックル。
「あっ、返せ! 僕が取ったんだぞ!」
ドタバタ、ドタバタ。


それを知っているからこそ、彼らは彼らなりに必死なのだろう。
たとえハイエナのごとき所業と罵倒されようと、誇りがないのかと軽蔑されようと、魔血魂さえ手に入れることが出来れば、全てがチャラになる。
自分も『最強』になることが出来るのだ。

そのハニーの一匹でもが勝利し魔血魂を飲み込めば、その瞬間に魔人が生まれる。たとえそれがますぞえに体を乗っ取られるだけになり自分の意思など速攻で消去されるとしても、万が一、億が一、己が魔人になれるかもしれない、というその甘美な誘惑はどこまでも弱者である彼らにとっては魅力的だったのだろう。

たとえ、それがありえないほど自分に都合のいい夢想だったとしても。


「とったーー!」
「……消えろ、お前ら」

ぱりーん


眼前で繰り広げられたその出来の悪い喜劇は、当然ながら疲れているランスの気に障った。
あっけに取られることさえ面倒だ、といわんばかりの面倒くさそうな表情でランスが振るったたったの一太刀で、そのハニワどもはことごとく割れ砕けた。


「あーーーー!」
「アイヤー!!」
『そりゃ、そうなるじゃろ……』


カオスの言葉もむべなるかな、それが当たり前である。
魔人を倒せるほどの強者が、なぜ彼らなぞに遠慮してボーっと見ていなければならないというのか。
相打ちであったというならばさておき、傷つき疲れているランスであってもこいつらをしごく簡単に蹴散らす程度の力など有り余っている。
ひたすらにうざったく、面倒で、空気を読め、というイライラした気分にはさせられても、それが理由でその魔人を殺した一撃が止められることなど、ありえないのだ。

だからこそ、そんな手段で魔人になったものなどほとんどいない。魔王からの直接任命以外で魔人になった存在なぞ、千年を生きるカオスをもってしても、たったの数例しかしらないのだ。


「これが魔血魂か」


無造作にそんな雑魚どもを蹴散らしたランスは、今度は邪魔されることなくその空中に浮かぶ宝石を掴んだ。
何人も魔人を倒してきた彼であったが、考えてみれば魔血魂をその手に握ったのは初めてかもしれない。

イラーピュにてレキシントンのものをつかんだことはあったが、今考えるとあれは柔すぎるし、色も違う。魔血魂ではなかったようだ。おそらく、万が一にもレキシントンの意識が消えぬよう、使徒であるアトランタが長年をかけて何か調整をしていたのであろう。
リーザスで倒したアイゼルとノスのものは戦争のドサクサとその後のジルの影響によってランス自身は確保していない。
ゼスに現れたジークのものも、ゼス側に完全に管理を任していた。Japanのザビエルは不快感から即座に魔王である美樹に消去させる為に手渡した。
それを考えると、彼自身が魔血魂を手にするのはある意味初めてだった。


「ふんっ……ぐぎぎ、生意気な。いっちょ前に硬いぞ。ムカツク」
『握ったくらいじゃさすがにどうにもならんか……かといって、ワシでも切れんとは』


握りつぶす。踏みつける。カオスで切る。
始めてみるような好奇心でいろいろと試行錯誤を繰り返してみたが、変化はない。流石に硬い。
ランスの力を持ってしても壊せないそれに、彼はそれなりに興味を持った。
元々、根っからの冒険者だ。こういったわけの分からぬアイテムは割と好きなのだろう。


「ま、とりあえず持って帰るか」
『そうじゃな……こんなとこに置いておいたらまたさっきみたいなことになるじゃろうし』


魔人の魂、という意味ではなく、単なる戦利品として扱うランスの態度は決してその希少性に相応しいものというわけではなかったが、別に問題はない。
これは彼がますぞえを倒したことで得た報酬だ。気に入れば珍重し、気に入らなければ売り払うなり大陸の端っこから投げ捨てるなり、好きにしてもいいものなのだ。
その結果として何処かで魔人が生まれようとますぞえが復活しようと、カオスならばさておきランスにはもはや興味がない。
何もしないならば放置するし、己の邪魔をするというならば再度殺すだけだ……たとえそれが、ハニーが魔人になるなんて生意気だ、などという言いがかりに近いような『邪魔』であったとしても。
ランスにとっては全て、己の自由に出来るものだ。

それにケチを付けられるいわれはないし、万が一そんなことされたとしても……関係がない。魔人をも超えるランスの力で、そんな愚かなことをぬかす輩を踏み潰せばいいだけの話だ。
故に広い地上に24しかない希少な魔血魂の一つを手に入れたとしても、ランスの態度はさして変わることはなく、普通に懐に収められた。
それを持って何をなそうと思うわけでもない、しかし他者にそれを渡すことなど考えもせずに実に自然な動きでランスはいつも通り戦利品を手にした。

それで、今回の冒険は終わりだった。


「しかし、少しばかり疲れたな……よし、城に帰って一眠りしてから乱交パーティだ。あ、お前はサーナキアちゃんのいる門の前にぶっさしておいてやるから安心しろ」
『だ~か~ら~! さっきからワシの扱い、なんかおかしくありません? 魔人を倒せる魔剣をいたわる気持ち、生まれてきませんか? ワシも参加させるべきじゃろ!』
「黙れ。ここに置き去りにするぞ」
『ぐ、ぐぐぐぬぬぬ……ず~る~い~、心の友ばっかり美味しい目を見て、ずるいぞい!!』


溜息とともに歩き始めたランスの足取りは、疲労のためか重い。彼の戦士としての類稀なる勘からすれば別に後に残るような傷ではないと分かっているにしても、もはや全身の傷を治療するのも面倒なのだろう。全身の損傷が睡眠という形での休息を求めている。
カオスと漫談をしているその声にも、疲れの色が見え隠れしている。


そして、それをすぐにでも癒してくれるような桃色の少女は、ここにはいない。
どこにも、いない。


だからランスは、胸の奥に眠るなんとも言いようのない空虚さとムカつきを眠気と疲労とともに押し殺して、ただ一人で帰路についた。それ以外、出来ようはずもなかった。
後に残るのは、破壊しつくされた大地と、僅かに残る陶器の破片だけ。












帰り着いて傷の痛みで気絶したとかそういうことはもう全然なく、ただ単に不眠不休で戦い続けたことに体が飽きが来たのか、まるでヘルマンの軍勢を一人で平らげた後にパラオ山脈を越えてきた後のように自分の女を発見した瞬間に眠ってしまったランスは、すでに一日近く眠り続けていた。
その大の字になって眠る体と大イビキからは、もはやほとんど激戦の疲れや傷の痛みなど感じられぬ、気持ちよさげなものだった。
強靭なランスの肉体は、たった一日の睡眠で魔人との戦いさえも忘れようとしていた。


「そろそろ起こして差し上げたほうがいいかしら……って、あら。もう着かれたんですね。流石は」


いい加減健康の為に起こすことを試みようか、とチルディが考えるほどに長時間眠っていたランスであったが、残念ながらそのチルディによる甘いささやきを耳元に受けて気持ちよく目を覚ますことはなかった。
その前に、乱入者が存在したのだから。

もはやゆっくりあけるのももどかしい、といわんばかりの音量で大きく扉が開け放たれ、それと同時に蒼白のドレスに身を包んだ美女が飛び込んで、まるで飼い主に出会った愛犬のように一直線にそのけたたましい音で僅かにまぶたを震わせたランスに向かう。


「ダーーーリーーーン!!」
「うおっ……リアか!」
「何処か痛いところはない? 食べたいものとかある? ああ、こんなに怪我しちゃって」


いや、彼女を乱入者と呼ぶのは少々おかしいか。彼女こそがこの部屋を割り当てられているものなのだから。
そう、リア・パラパラ・リーザスのお帰りである。
どうやら政務の大多数をぶっちしてリーザスからうし馬車を飛ばして帰ってきたようだ。

激しい音とともに甲高い声が突然発生したことで、いい加減眠りすぎて浅くなっていたランスの眠りは一気に吹き飛んだ。
もうその声だけで誰か寝起きにでも判別出来るぐらいの長さの付き合いになりつつある少女の乱入は、そもそもランスにそれ以上睡眠を許すつもりなど欠片もないらしい。
矢継ぎ早に放たれる確認と嬌声は、少々耳にきつい。おもわず寝起きのランスの顔がしかめられる。
だが、リアはそれを察することもなくまるで速射魔法のように立て続けに言葉を続けた。それは、誰か他のものに命じるのと同じトーンでランスの鼓膜に突き刺さる。


「……でも、大丈夫。すぐマリスに治させるから。マリス、マーリース!」
「はい、リア様。では、ランス殿。ちょっとお待ちください『いたいのいたいのとんでいけ~』」
「……いや、分かってるんだろうが、マリス。もう治ってる」
「ええ。ですがリア様のご命令ですので」


が、リアとは対照的な落ち着いた声を持つ美女―――神魔法LV2という稀有なる才能のみならず剣戦闘LV1まで持つ有能な神官戦士であり、リアの筆頭侍女であり、実質的には秘書とも共犯者とも言えるリーザス王国の陰の実力者、マリス・アマリリスは残念ながらそれを留めようとはしなかった。
リアのことだけを思い、リアのためだけを願い、リアのためだけに働く緑髪の美女は、そんなランスの不快感よりもリアの幸せだけをかなえるためにここにいる。
だからこそ、すでにほとんどの傷がふさがれていて意味がないとは分かっていても、ランスに対して回復魔法を掛けることだってリアが望むのであれば否はない。


「……」
「さあさあ、リア様。お話もよろしいですが、ランス殿がお待ちかねですよ」
「あ、そっか。ゴメンね、ダーリン。ちょっと待ってて」


とはいえ、彼女はとんでもなく有能だ。冷酷で残忍なリーザス女王であるリアが本気で頼りにするほどに。
そんなリアの他者を気遣わぬ己の為の態度を受けて、最近とみに凶暴化しているランスの顔に大きな不快感が走ったのをマリスは瞬時に読み取り、その怒りがリアのところに降り注がないように計算し、ランスの機嫌を取ると同時にリアの望みとなるようなことを即座に口に出した。

本来であればリアとて気付かないわけではあるまいが、しかしランスの側でのみ彼女は時に盲目だ。
感情を操り、表情を演じ、計算をめぐらせるそのリアリストな普段とは裏腹に、どうにも子供っぽい態度でリアは自分のドレスの胸元に手をかけ、一気に引き降ろした。
下着を着けていなかったのか、豊かな胸があっという間に外気に晒され、ぷるん、と震える。


「おお!」
「ダーリンは寝てていいからね。リアが全部してあげる」


そして妖艶な笑みを浮かべながら、しなだれかかってくるリアを見てランスの相好が見る間に崩れる。
ニヤニヤとした笑みをその大きな口元に浮かべている表情からは、先の不快感は跡形もなく拭い去られていた……マリスの思惑通りに。

そのまま二人ベッドでいちゃつく様をみて、マリスは満足げに笑う。
いちゃつくといっても付き合い始めの恋人同士が抱きしめあうような淡いものではなく、まるで蜜のように甘くてねっとりとしたものであるが、それこそまさにリアが望んでいたものである以上、マリスにとってこの結果は最上のものだ。


「チルディ殿、ご連絡ありがとうございました」
「いいえ、マリスさま。リアさまのお役に立つことこそが親衛隊員の勤めですから、当然のことをしたまでですわ」
「ええ、それはそうです。それでも、あなたの忠誠にはきっとリア様もお喜びになっておられますでしょう」


故にその結果を導いた功労者に対して評価をさらに上げることは当然のことだ。
実質的なリーザス王国の参謀である彼女に対してそうしてもらうことこそが、このリアとランスの逢瀬を企画した少女の望みでもあったことを考えると、実に的確な判断である。
二人の会話は、これ以上ないほど望みと答えが一致したスムーズなものだった。

形式的にはマリスは単なるリア付きの侍女頭である。
役職としては何一つ公的なものを持っていない、リアが頼む私的な役割である。
だが、少なくともリーザス城内において彼女を侮る者はいない。

リアがお気に入りの侍女である。その考えは正しい。苛烈で逆らうものには容赦のない暴君かつ名君である彼女の気に触らずに長年仕えることが出来ているほどに気に入られている彼女に対して害をなせば、どんなことが起こるのか。
そんな想像力のない者は城内にはいない。
だが、それだけで終わっているものも少なくはないが、それ以上に彼女を評価しているものも多い。少なくとも、チルディの知っている自分より上位の将軍で彼女を軽く見るような無能はそうはいない。あの俗物にしか見えない青の副将でさえ、彼女に対しては恐れはしても侮りはない。
それも当然だとチルディは思う。リアをのぞいたマリス自身の能力を考え、それが実際国政のどれほど多岐に渡るまで影響を与えているのか、少しでもまともな政治的センスを持っていればすぐさま理解できるはずなのだ。

だからこそ、単なる侍女に対しても親衛隊の小隊長であるチルディは礼を尽くすことにためらいを覚えなかった。


「ところで、マリスさま」
「はい」


故に声を潜めてマリスに対してさらに礼を尽くす……媚を売る。このリアの為にリーザスをもっともっと大きく、強くしようとする大陸一の陰謀家に。
そのチルディの態度をよくあるものとして受け取りながら、即座にマリスはチルディに答えて見せた。
その打てば返す返答とあまりに変わらぬ笑顔に同性ながらもおもわず背筋に走るようなものを感じながら、しかしそれをある程度は隠してチルディはランスに聞こえぬように声を潜めて言った。


「……ランスさまがなんと魔血魂をお持ちかえりになられましたわ」
「まあ……」
「先ほど落とされたのでなくしてはならないと思いお預かりしているのですが、いかがいたしましょうか?」


声を潜めたその内容の意味は、彼女たちにとっては明らかだった。
魔血魂は魔人を倒した証であると同時に魔人を知るための研究材料であり、さらに「人間が魔人になる」ための必需品だ。
どれほど大国の王たるリアが望んでも手に入れられない珠玉の結晶であり、同時に巨大な爆弾だ。これをもっていることで、魔物や魔人の使徒に付けねらわれることになるのはもちろんのこと、他国の侵攻を招くかもしれない。
戦闘力はさておき、立場的には一冒険者でしかないランスがもっていていいものではなく、またいくら強いとはいえ睡眠も休憩も必要とするれっきとした人間の彼一人でその宝玉を魔物の侵攻から守りきれるとも思えない。
ヘルマンによるリーザス侵攻の際、ランスが城内で倒した魔血魂の一つを来水美樹に回収されてしまい、それが新たな魔人小川健太郎を生むためのものとなったことを考えると、その状況は決して放置していいものではないだろう。
誰か力を持つもの……ランスのようなものではなく、人員と権威という意味での力を持つものが管理しなければ、せっかくの魔人打倒という人類の福音がまたも無意味になってしまうかもしれない。
魔血魂は確かにランスのものだ……だが、同時にランス一人で管理しきれるものではないだろう。
それが、彼のような超人―――気に食わないというだけで魔人を打倒できるような英雄以外のごくごく普通の人間の考え方だ。


ならば、マリスとリアの立場としてみれば、そんな危険でしかも魅力的な副次効果を持ち合わせた物体は、他国ではなく自身で管理したいと考えるのが普通であろう。
それを確保している、とチルディは暗にマリスに伝えたのだった。

封印して二度と魔人が現れないようにするのはもちろんのこと、いざというときの取引材料に、あるいはリアに永遠の命を与える為にもぜひとも魔血魂は自国で確保しておきたい。
通常ならば、どれだけ対価を積んだとしても手に入らないものが、ランスの機嫌次第では破格の値段で譲り受けることが出来るだろう、ということをチルディは示唆する。
それは、彼女としてはごくごく当然の考えであり、実に気の効いた彼女らしい説明である。リーザス軍精鋭の金の軍 親衛隊の小隊長まで上り詰めたのは伊達ではない。


「とりあえずわたくしはリアさまとご一緒したいと思いますので、マリスさまがお持ちになっていてくださればと思うのですけれど……」
「……」


手元から深紅の宝石を掲げ、マリスにさりげなく渡そうとするチルディ。それは、ランスに対する敬意と同じぐらい自然な動作だった。
彼女にとって、その判断は迷う要素が欠片たりともないものだった。

だが、ランスとの付き合いが彼女以上に長いマリスにしてみれば、即座に頷くのはどうかと思われた。
理屈ではなく、培ってきた勘が警鐘を鳴らす。
これを手にとってはならない、と。
理性は大事であるが、時にこういった勘はそういったもの以上の働きをもたらすことを知っていたマリスは、それを無視してチルディの言葉にうなずくことを是としなかった。
しかし、チルディの提案は紛れもなく大きな利益を生むものだ。理由もなく却下するには、氷の女たる彼女でもいささかの躊躇が必要だった。

だからこそ、それに対してどういった答えを返そうか、珍しく僅かにマリスが悩み、しかし瞬時に判断を下して唇を開いて吐息とともに声を出して今後の応対を答えようとしたそのとき。


「マリス」


低い声が、その部屋の中に響き渡る。


「っ!!」
「……はい、ランス殿」


その声が夢中になってランスの腰元あたりに跪いているリア以外のこの部屋にいた全員の耳朶に届くのとほぼ同時に、極寒の冷気を思わせる殺気が寝台の方向より一瞬にして膨れ上がった。
それは直接向けられたマリスとチルディだけではなく、彼女達の背後に空気のようにしたがっていた王宮から連れてきた一般メイド、そして天井裏に潜んできた見当かなみにさえも感じられるほどの滅茶苦茶な規模の威圧だった。
リアが気付かない、あるいは気付いてはいても無視しているのが信じられないほどの邪悪さだ。悪魔にさえも、劣るまい。

常人ならば震え上がり、舌の根さえも凍りつきかねないそれを受けて。
マリスは先の考えにもかかわらず表面上は一切動揺を表に見せず、従順にランスに対して顔を向けて見せた。
目はまっすぐ、唇は侍女らしい笑みの曲線を描き、顔色はかわらず。
隣のチルディがいつもの笑顔さえ凍りつかせて硬直しているのと比べれば、あまりに対照的でその姿は何処か不自然でさえあった。

どこまでも普段の彼女そのままのその姿に対して、ランスはふん、と一つ鼻を鳴らした後冷たく言い放つ。


「それは俺様のものだ。勝手に触るな……チルディもだ」


ランスの目先の先には魔血魂があった。リアに奉仕させたそのまま向けたその瞳は暗い。
その視線と言葉は、常のランスとは思えぬほどに冷たいものであった。

大金や高級品は好きで、楽なことを好み、権力を行使することにためらいがないにもかかわらず、どこかそれらに対して興味がないように見えるランスにしては今までなかったことだが、どうやら今回は己の戦利品を勝手にどうにかされることが気に食わないようだ。
それを悟ったマリスの行動には迷いがない。


「申し訳ありませんでした」


魔人を打倒する強者であり、主君の思い人の機嫌を己が損ねてしまったことを察したマリスは、即座に真摯に謝罪を返す。
そして、ゆっくりとした動作ながら、丁重にその場に魔血魂を置いた。
近場にテーブルがなかったからか、鎧の真横の床に置いたわけだが、直にではなく即座に取り出したハンカチを一枚敷くだけの気遣いさえ見せた。
それをみてようやく、若干ランスの目線が和らいだ。安堵の息さえ吐かず、しかしこの上ない歓喜を持ってマリスはそれを受け入れた。

ああ、実に危ないところだった、と。


魔血魂は確かに重要だ。だが、同時にそれはランスの機嫌を損ねてまで入手するほどのものではなく、またそれを可能とするだけの戦力も利も今現在この場には存在しない。価値は確かにこれ以上ないほど高いとしても、『魔人』を一人敵に回してまで得ようとするようなものではないのだ。

そこの判断が、チルディには足りなかった。今のランスを見てもなお、己の愛嬌等などで十分買い取れる、と安易に考えてしまったのだ。それが駄目であったときのことまで考えるべきであったのに。
いくら腕利きの神官戦士と親衛隊小隊長がいるとしても、いまのランスの前ではそんな程度では戦力として数えるのも愚かしい。万が一交渉が決裂したときに力ずくで奪い取るなど論外だった。
そして何より、リアの思い人と刃を交えることこそがまったく持ってありえない。
勝てる要素などほとんどなく、また万が一、億が一でも勝ってしまえばそれはそれで大問題だ。
だからこそ、この場ではチルディの先走りを咎め、謝罪することこそが正解だった。


「二度とこのようなことは」
「まあいい。それよりお前たちも参加しろ」


言葉に含まれていた誠意と深く下げられた頭から滑る長い髪、そして自然に揺れた大きな胸元を見てランスは殺気を消した。
いや、もとより彼とて脅すつもりで出したわけではあるまい。マリスとの付き合いもそこそこ長いランスは、彼女にはリアに関すること以外の全てに関して自分が命じるだけで従うことなど分かりきっているはずだ。リアの思い人であり、それに相応しいだけの力を持つランスはその立場を今までだってたびたび当然のように利用してきた。
だから、先ほどの殺意だってその存在の大きさゆえに意識しないまま隠し切れずに漏れ出た程度のものなのだろう。

だが、あまりに強大な鬼気は周囲のものをおびえさせずにはいられないものだった。侍女としての働きはさておき戦闘レベルが低いが故に余波だけで使い物にならなくなったメイドたちには退室を目線で命じた後、自分の後ろで同様に直接的に殺気を浴びせられて硬直しているチルディの肩をぽん、とマリスは叩いた。
それで初めてランスの殺気が収まったことに気付けたのか、チルディはようやく我に返り、普段の彼女からは考えられないほどのぎこちなく、されど意地を見せて笑顔を浮かべてランスのほうへと歩いていった。

彼女は誇り高く、同時に頭も良い。
今の対応の何が悪く、何が間違っていたのかをマリスに言われずとも理解している。
ならば、己が犯した大きな罪を償う為にベッドの上で娼婦じみた真似を演じてみせることに、微塵も躊躇など見せないだろう。


「かなみ」
「……」


そしてチルディが妖艶に肩の鎧から外して、されど慣れていない感じで少しずつ脱いでいくことでランスの気を引いているほんの僅かな隙に、マリスは小さな声を呟いた。
それはきちんと、天井裏に潜む忍者へと伝わる……なんだかんだで彼女―――見当かなみもJapanやここ最近の冒険の結果として、随分鍛えられているのだ。
ただ、ランスの機嫌を取る為だけに生贄にさせられるのはゴメンなのか、ぎくり、とした態度を天井越しにさえも感じさせるのは正直忍びとしてはどうかと思うが、それもまた彼女の愛嬌なのだろう。
だからこそマリスは、彼女のそのうかつさにかすかに溜息を吐き、しかしその能力は信用していた。


「魔血魂を見張っていてください。他の誰にも触れさせぬように」


だからこそそれを当然のこととして、マリスは呟く程度の音量で頼み、命じた。
彼女がランスたちに巻き込まれて天井裏から出てこないのはまあ許容範囲であるが、この場を離れることは許さない。
そんな、断固たる決意を秘めた声はくちゅり、とチルディの桃色の舌が這い回るランスの耳に届いたかどうかは分からなかったが、届いたとしてもこれならばランスの気に触ることもあるまい。
そう考えながら、この場において出来ることは大概終わったとマリスも歩を進める。
後、この場で己がやらねばならぬことは一つだけなのだから。


魔血魂を保有している。
魔人を倒せる魔剣カオスの所有者である。
ここ、ランス城の主である。
ゼス、Japanに並々ならぬ影響力を持つ。
カラーの次期女王の父親である。

そしてなにより、敬愛してやまないリアの思い人である。


そんな重要性を持つ男性に対して、可能な限りの誠意を言葉と体で語り、次に繋げる為に、マリスもまたしゅるり、と帯をはずすことでランスの目を釘づけにした。


「では、ランス殿。私にもお願いいたします」


笑みは変わらず。誰に向けるときも変わらない博愛たっぷりの慈母じみたものでありながら、その場にいる誰よりも計算をめぐらせ、しかしリアの為にランスに心底尽くす心持で、マリス・アマリリスはその肉欲の宴に心から望んで参加した。

なにせ、ランスは実にいい男なのだから。



  昔歳へ

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プロフィール

基森

Author:基森
蚕鳴や円禍と名乗ってたこともあります。

主に小説・ssなどを置いているブログです。

自前の本棚を持つのは初めてなので手探りでやっている程度のものですが、わずかばかりの暇つぶしにでもなれば幸いです。


メールは「kulukku106☆yahoo.co.jp」まで、☆を@に変えた上でお願いいたします。

そろそろ、非営利にならトップへのリンクフリーとか言ってみたり。

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