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悪徳の宴・4

戦闘なんぞは下魔のお仕事です。
といっても、流石にヴィヴィオの同級生として彼らを潜り込ませるのには無理を感じますので、残念ながら伝統芸能は却下しました。

殺す覚悟のお話です。






『てめえは……てめぇは!!』


突如、激昂し始めたテロリスト。
今まではそれなりに悪事を楽しんでいたように見えた男の突然の怒りに、周りを囲む管理局員からも不審の声が上がる。

が、その怒りを向けられた方向の中心にいた管理局員の表情は、その断罪の弾丸によって間違いなく歪んだ。
少なくとも、その全てを見張っていたシルヴァ・ラドクリフにはそう見えた。
当然、彼の後ろに控えるメイド服にも似た衣装を着た彼の副官であるフィエナにも見えたであろうが、彼はそれに対して一顧だにせずに、ただただその一連の流れに対する不快感をはき捨てた。


「つまらない三文芝居だな」
『てめえの顔は忘れてねえぞ、この犯罪者が!』


その評価を聞いたからというわけではなかろうが、一層声を張る男。
その声には、深い憎悪と抑えきれぬ激情が込められていた。
ただのテロリスト、安い犯罪者が述べるにはあまりにも命の掛かった気迫だ。
いかに今まさに世間を騒がせている連続事件の核心たる強化スキンとはいえ、その内に収められた人間性そのものまで変革できないことを考えれば、この男の管理局員に向けた憎悪は随分と長らく熟成されたものだろう。

だがその声を聞いたとしても、シルヴァの評価は微塵も変化しない。
ただ、ひたすらに侮蔑し、路傍の石よと全身に纏う雰囲気で見下す。

両者のいる平地とビルの上、という場所的な高さ以上の高低差がそこにはあった。


優れた魔法の才のみならず、抜群の頭脳まで持つ彼は見るともなしに見ていた資料に書いてあった今回の囮の経歴を思い出した。


孤児として暮らした、暗い幼少期。
決して裕福ではなかった施設は、その彼の心を守り、包むだけの金銭的、時間的、人員的余裕がなかった。
だからこそ、彼は一人だった。たった一人で学び、鍛え、そして気づいた。
自分の中に眠るリンカーコアに。その中に宿る、魔法の力に。
魔法さえあれば、魔法だけあれば、今までの惨めだった、苦しかった暮らしを、人生を変えられると信じた。
管理局に行くつもりはなかった。所詮そこは、彼をさげすみ、見下した家族に恵まれ共に恵まれ周辺の環境に恵まれる奴が入るところだと思っている。
そう語り、民間の魔法関連施設に就職した。
鍛え、育んできた魔法の力によってようやく得られたそこでの暮らしの物質的、精神的豊かさこそが、彼の惨めだった幼少時代を癒してくれた。
だが、事件が起こった。
そして、それが彼のようやく手に入れた生活の終わりだった。


そんな、実につまらないクズの人生を思い出してしまうほどに彼の頭脳は優秀であり、眼下で繰り広げられる叫びはその心を欠片たりとも動かさなかった。
彼にしてみれば、ただの下郎の一人や二人の人生が惨めで、つまらなく、落ちぶれたところで別に一顧だにする必要のないつまらない事実だ。


『ようやく見つけた。そういうことか……道理で見つからなかったわけだ。こんなところにいやがったのか!』


だからこそ、ちょっと好奇心で出かけていた辺境にて、「通り魔」にリンカーコアから魔力を抜かれたことで人生を賭けていた試験に落ちただの、それによって裏街道に走っただの、現在裏街道真っ最中にいる彼からしてみればそんな程度で自分の人生が終わったように話す男にも、それを聞いて表情を申し訳なさげに、悔しげにゆがめる管理局員たる女性、機動六課 ライトニング分隊隊長であるシグナムにもイライラとしていた。


『俺から奪った魔力を、未来を使って自分は、自分らはらくらくと正義の味方か! ふざけんじゃねえ、ふざけんじゃねえぞ!!』
『…………』


だが、止めることはない。彼は彼なりの思惑があるからこそこんなところまでわざわざ来ているのだから、たとえその脚本がどれほど気に入らないものであっても席を立つことは認められない。
だからこそ、喚きたてる男のあまりの無様さに衝動的にその口の中に爆裂魔法を叩き込んでやりたくなろうとも、油断仕切りの管理局員達の背後から下魔に襲わせてやりたくなろうとも我慢して、その男がファルケの作った強化スキンをもって暴れまわるのを遠くから見ていた。
当然、その結末として何人かは倒したもののファルケ本人の劣化コピーである量産型の強化スキンでは当然管理局の高ランク魔導師を倒すことはあたわず、しかもその特性である「非殺傷設定無効化」能力によって、命に関わる重症を受けて敗れ去る様も。
どこまでも、どこまでも彼が、彼らが描いた絵図面を逸脱することなく、その範囲にすっぽりと納まる範囲内にてこれ以上ないほどに陳腐な喜劇を行うそのさまを、不愉快さに顔をゆがめ続けながら最後まで見続けたのだ。





やがて、すべてを見届けた上で破壊音も呻きも悲鳴も足音も消えて静かになっていく廃墟の音を聞きながら、シルヴァが呟く。


「こんなもんなのか? 今回の魔法戦士も」


はっきり言って、彼は他の二人とは違い魔法戦士と呼ばれる少女たちをそれほどたいした敵であるとは認めていない。無論、自身のミスで敵対者を生み出してしまった過去を考え、それに対しては反省をしているが、それでもそんなものなど所詮は遊びでしかなかったと考えていた。
魔法の威力や戦士としての力量とはまた違う問題で、先の戦いは彼にとってはあまりにも簡単なものでしかなかった。
そう、アザハイド帝国帝王、ピエナ・メルキュールとその彼女によって率いられた諜報猟兵と特務機関兵による執拗な追跡とあまりにも悪辣な手法によってパレキシアから追われた彼にしてみれば、そのあまりのぬるさに彼女たちとの戦いは遊びにしか思えなかった。

持つ武器に毒は塗っているか? それも、熱病と腐敗の魔術をかけた毒を。
追っ手を恐れて彼が口封じに殺したものの脳の中身を無理やり投影しないのか?
善人面で近付いて、その身に針を、その食料に毒を、その寝床に魔物は用意したか?

最低限でもそういった多種多様の悪意に晒されて生まれ育ち、そして逃げて叩き潰した過去を持つシルヴァは、他の二人とはまた違った意味で残酷な闘いになれている。


だからこそ、今回はそんな平和な何の争いもないような世界ではなく、魔法が全てを支配する社会であると聞いてそれなりに警戒をし、またある一面ではやりがいさえ感じていたのだ。
かつてのような学生気分の抜けぬ、されど正義感と心が強い少女とやったようなままごとのような正義と悪の争いではなく、かつての敵対者とやったようなひりつくような殺気と泥土のような策謀、謀略の支配する戦場。
片手に掲げた正義の名の元に残った手で殺し合いを行うような、そんな紛争を、ある意味では心待ちにしていた。

だが、今までの報告であがってきたように、そして今まさに眼下で繰り広げられている笑えない喜劇のように、この世界もまた自分が一息で踏み潰した世界とほとんど変わらぬとは。


なるほど、確かに戦力としては凄まじいのであろう。
この世界に初めて調査の根を下したとき、その上位ランクの魔導師の放つ魔法の威力の凄まじさに唖然としたことは確かである。
実際、彼があまり直接攻撃を得手としない魔法を使用することを差し引いたとしても、己の知る魔法体系であそこまでの威力が出せる魔法など存在しないことから、決してこの世界の戦力としての力が原始時代同然に低いわけではない、ということは十分に承知できていた。



だというのに、このぬるさはなんだ?
正面からぶつかる力ばかり磨き、謀略も陵辱もないこの世界の甘さはなんなのだ?

彼にしてみれば、他人を餌にしてのし上がることはなんら戸惑うものではない。
それこそ、自分の願いをかなえるために相手のリンカーコアを奪い取って破壊することなど、良心の呵責さえも起こらせない程度のものだ。

最高評議会の立てた計画による社会構造の違いゆえか、あまりにも成功した教育制度の成果か、はたまたリンカーコアという器官を保有する種族の違いゆえか。
シルヴァが、フィエナが、そしてメッツァー・ハインケルが保有する悪意の量と質は、彼女たちミッドチルダに生きる管理局員の想像の埒外に位置するものであった。

故に。


「そこまでだ、動くんじゃねえぞ」


いつの間にやら、自身が感知するまもなく急行してきた魔導師たちに取り囲まれたとしても、焦ることなどほとんどなかった。


「あんた、こんなとこで何してたのか、ちょっと話を聞かせてもらおうじゃねえか」


そして、それを察知していながら主に告げなかった戦闘侍女も、主のそれを知っているが故に微塵も揺らぐことがない。
だからこそ主従は、先の言葉を一切考慮することなく、悠然と振り向いた。

その視界に、赤の髪を持つ騎士と、その両脇を固める少女を二人、そしてそんな彼女たちに負けず劣らず瞳に信念と揺らぐ心を映した数人の管理局員が写った。
その中の幾人かを認めて、ようやく自分達のまいたタネが成果をあらわにしたことに口角を上げて、シルヴァは腕を前に掲げて、ぎゅっと握り締めた。








「動くなっ」
「……何をいってるんだ、お前らは。さっさと魔法を叩き込めばいいだけの話だろう?」
「っ!!」


二度にも渡る、無意味な警告とそれに対する無視。
かつての古巣ならば、とっくに殺害を目的とした行動が取られていたはずである。
人権だとか、損害賠償なんてもの、『帝国』にあるわけがないがゆえに、それを判断の基準としているシルヴァたちは実に野蛮であり、それに比べれば非殺傷設定に代表されるミッドチルダの社会は実に洗練されている。
だが、そういった人が築き上げてきた対話のための数々のルールは、蛮族には通じないものでもあるのだ。
だからこそ、言葉こそ通じてはいるものの両者の思想は全く交じり合うことがなかった。


「非殺傷設定しているんだろう? だったら、別に容疑者に対してそれをためらう必要なんぞないだろう」


自身が捕らえられる側であるということを重々承知の上で、シルヴァはそう嘲笑った。
あまりに大胆かつ傍若無人なその態度は、周囲を囲む局員の半数に対して反感を抱かせたが、残りの半数には言いも知れぬ恐怖と狂喜を感じさせた。

それを重々承知して、その上でシルヴァはそれを煽る。


「てめぇ!」
「それとも……ひょっとして、非殺傷が効かない相手かも、ということでためらっているのか?」


というのも、彼らと実際に始めて対面して、改めて感じたからだ。

正義を信ずる管理局員を正義たらしめていたもの。
人より優れた力を生まれながらにして持つ者達に、自分こそが正義であり、己の行っていることが間違っていない、と確信させたもの。
それこそが非殺傷設定である、と自分の前で嘯いたメッツァー・ハインケルの言葉の正しさを、眼前の少女らの反応によって改めてシルヴァは感じ取った。


「こっちが武器を持って、防御を固めて、お前らの気持ちがいいように準備した上じゃないと戦えない、ってか」
「っ!!」


たとえ間違っていたとしても、「誠心誠意の謝罪」程度でなくすことが出来る範囲に被害を抑えることが出来る非殺傷設定。
殺す覚悟どころか、傷つける覚悟さえもない者が、命がけの戦場を渡ってきた、とでも言いたげに振舞うことの滑稽さを、シルヴァは痛烈に皮肉ったのである。


その言い分に、赤毛の少女の脇を固めていた少女達の顔色が代わった。
あまりに急増した犯罪者達の活動に、せっかく変わった所属からも出向させられてかつての上司の下に再度付けられた彼女たちにとって、それは今まで考えたこともなかったことだった。
なるほど、確かに彼女たちはあの凶科学者ジェイル・スカリエッティと、その配下たるナンバーズと激戦を繰り広げた。
そのさなかでは大いに傷つき、時には立ち上がることさえも困難な損傷を受けた。そして、それと引き換えに相手に対しても大きな傷を与えてきた。
実際に、ガジェット等との戦いによって亡くなった局員だって、決して少ないとはいえない。

だが…………あの巨大な陰謀のさなかで、多くの死者を出した戦いの中で、スカリエッティ一味の中での死者は、僅かに二名。
自身も不本意に蘇らせら、それによってほとんど寿命も尽きかけていたゼスト・グランガイツと、その彼が親友を殺された怒りのままに、自身の誇りさえも投げ捨てて獣のように殺したドゥーエを除けば、誰一人死んでいない。
多くを欺き操って殺した女も、数多くの空戦魔導師の未来を断った女も、無力を嘲り踏みにじった女も、誰一人死ななかった。


あれほどの大事件にもかかわらず、管理局側の人間は誇り高き騎士への断罪・救済としてゼストを「殺した」シグナムをのぞけば、誰一人としてその手をどす黒く濁っていく血で染めることをなかったのだ。

勿論それは、いくつもの偶然が重なった結果だ。
相手が戦闘機人という、非常に固く、また回復ではなく修理が出来るものであったこと。
敵であったスカリエッティが生体ポットといった回復手段をふんだんに保有していたこと。

それは確かに事実だ。

だが、命なき兵隊をことごとく撃墜した狙撃や、金属をも容易く切り裂く斬撃、そしてなによりも幾層もの装甲板を打ち抜く砲撃を受けてもなお、今のナンバーズが笑えるのは、泣けるのは、悲しめるのは、怒れるのは……生きているのは。
彼女たち管理局員が非殺傷設定をしていたからだ。

こちらの命を狙う相手にさえも、殺すことだけは、傷つけることだけは避けようとした努力の結果だった。
それは、彼女たち戦闘機人の天敵たるスバル・ナカジマのIS「振動破砕」をもっても同じだ。怒りに任せてふるったことはあれど、それでも彼女は最低限のラインを崩すことはなかった。

相手によって傷つくこと、傷つけられることは覚悟していても……傷つけて、殺すことだけは行わない。

それは管理局の気高い理想を象徴すると同時に、彼女たちが今まで一切他人を傷つけることを考えもせずに『正義』を行ってきたということでもある。


だからこそ。


「どうした? 手加減なんて必要ないといっている容疑者相手だ。日ごろの抑圧からおもいっきり魔法をぶちかませるんじゃないのか?」


傷つけることに対するためらいをもたなくてもいい拳は、さぞや強く振るえることだろう。
自分の正義を疑わなくてすむことは、どれほど自身の能力を高めることか。
あとでちゃんと「お話」が出来るからこそ、別に今、相手の言を聞かなくてもかまわないんだろう。
だからこそ……今まさに、無防備な相手を前にして、以前と同じように「正義」を語れるか?


そういったことを、凄まじい毒をまじえた言葉で語るくすんだ金の髪の男に対して、多くの管理局員はその言葉が突いた自分達の今までの正義に対する一面の真実を突きつけられて返す言葉を持たなかった。



傷つけないのではない。殺さないのではない。
傷つけられないのだ。殺せないのだ。その胸に宿した、殺さない覚悟に誓って。

自分を正義と自称する以上、そこは絶対に譲ってはいけないラインだ。
傷つけてしまったら、その時点で己はその敵たち……質量兵器などを使い、他者を傷つけることに戸惑いを持たない「犯罪者」たちと同じところに立ってしまう。
ミッドチルダという世界に、あるいはそこにひどく近い次元世界に生まれ育ち、魔法という存在を前提として構成された社会の構成員が大多数を占める管理局員たちにとってそれは、禁忌に近いものだった。


今現在、強化スキンという技術によってそれを強制的に強いてくる犯罪者たち相手に、その権力を、財力を、武力を、組織力を、そして正義を削られ続けていることで日々追い詰められている管理局員たちに、その事実を極めて直接叩きつけてくるシルヴァの言葉。

その中に込められた強烈なまでの悪意は、この非殺傷設定を無効化する犯罪者の増加、という一連の流れがこの男を含む一味の思惑によって作り出されたのだ、ということをはっきりと示すと同時に、そういった手法に対する正義の刃を持たぬ彼らの動きを大きく縛った。


「……じゃあ、そうさせてもらうか。一応いっとくが、あんたには弁護士を呼ぶ権利と自己に不利なことは黙秘する権利が認められてる。それをどう使うかはあんたの自由だ」


勿論、それをも超えて自らの正義を信じて相手を殴りつけて捕らえることが出来るものだって、いなくはない。
その動機が馴れなのか、犯罪に対する正義感なのか、悪を憎む復讐心なのか、はたまた己を特別と思う選民感なのかはさておいて、管理局に所属する人材はそれなりに多いのだ。
九割のものが非殺傷設定が効果を持たないことで何らかのPTSDを抱え込むことになったとしても、一割が残る。
この傷つけることを是としない社会においても、自らの意思で人を傷つけることに耐えられる、あるいはなんとも思わない「異常者」だって、管理局にはそれなりにいるのだ。

勿論、たったそれだけの人数でこの広く多い次元世界の平和を守れるとはいえないが、それでも今ここで眼前の犯罪者を相手するぐらいは、何とかなる。


「あんたにどんな主張があるのかはしらねえが、それはまあ取調室で聞かせてもらうぜ」


そんな、局員。
古代ベルカの騎士、魔法を通じての命のやり取りがごくごく当たり前だった時代を生きたヴィータ。
そして、デバイスである槌を構えた彼女に呼応して、自分のデバイスを構えた一部の局員たちを見て。


「ふん、俺を捕らえるだと? 好きにすればいい……出来るならば、な」


自分達の立てた策の一つをあっさりと踏み越えてくるものたちの姿を確信しても、蒼白の衣装に身を包んだ男の不敵な瞳の色がにごることはなく、その隣に控える少女の無表情が崩れることもなかった。
もとより、先の言葉など時間稼ぎの言葉遊び。

非殺傷設定の無効化は、ファルケの策だ。
彼と彼女の脳裏には、まずそれがあった。
強化スキンという魔道兵器をばら撒くことで管理局への潜在的な敵対者を表面化させると同時に、管理局員の正義にヒビを入れ、その動きを鈍らせる。
メッツァーが提示した方向に向けてファルケが考え出した、いかにも元科学者のあの男らしい策謀であると感じ、実際にそれがことのほかよく似合う相手に対面してその効果を実感したシルヴァとフィエナであるが、所詮それらは他人の力によるものだ。
上手くいっているならば利用することもやぶさかではないが、それが破れたところでなんら痛痒を感じない。
彼の根底を形作る自分への絶対的な自信が、そしてそれを強いる従属の呪いがあるかぎり。


「(こいつらが黒幕か……ちっ、嫌なやつだ)」


同じように非殺傷設定を無効化した上で戦いを挑んできて、結果つい先ほどたいそうな傷を与えてしまった上で確保に成功したと報告を受けた、自分たち「八神はやての守護騎士」への断罪者とは、その態度はあまりにも違いすぎた。
だからこそ傷つけることへの葛藤も、自身の罪も、主への謝罪も、平和への思いも全て乗り越えてきた鉄槌の騎士は警戒を新たにし、おもわず身構える。


「(とりあえず、一発ブチ……っ!)」


そんな不審も不安も焦燥もすべて飲み込んで、とりあえず先制攻撃、先の先を取ることによって機転を制しようと魔法を放とうとするヴィータ。
古代ベルカより綿々と紡がれ、今に蘇った騎士は恐れを外に感じさせぬフォームで戦闘への第一矢を放とうとして。


「た、隊長っ」
「しまった!」


やがて気付く。
巧妙に偽装が施されてはいても何処か覚えのある、全身を覆う倦怠感とも拘束感ともいえぬ、忌々しくも懐かしい感覚に。
それと共に、低ランクの局員が倒れこむ音と、高ランク魔導師の戸惑った声があたりに響いたことで、ヴィータは失策を悟りながらも瞬時に相棒に対して声をかけた。


「っ! グラーフ・アイゼン!」
『…Ni……ザ…ザザ』


焦燥に駆られて、自らの相棒に対して語りかけるヴィータ。
だが、もう遅い。
高密度のそれの元では、高レベルの魔導師ランクを持つ彼女でさえもデバイスをまともに運用するのには、独特のコツがいる。
それを彼女は、知っていながら怠っていた。

いや、怠ったと称し、それに対して落ち度と評価するのはいささか語弊がある。
軌道拘置所における収監の持つ意味の強さを知っている彼女にとって、それはありえないことだったのだから。
ジェイル・スカリエッティが収監された今となってそれは、管理局のごくごく一部の研究機関以外では完全に抹消された技術のはずである。


「リンカーコアってのは周辺の魔力を吸収し、溜め込む器官だ。そして、魔法ってのは結局のところ、魔力の動きを阻害されたらその威力をおおいに減ずることになる」


そんな中、平然とした態度で腕を組み、こちらを見下す男の声を聞きながら、ヴィータはかつての苦い記憶の数々を思い出した。

そう、ジェイル・スカリエッティ一味がなのは達をおおいに苦しめた最大の要因は、基本的にはたった一つの技術である。
戦闘機人技術も、レリックウエポン技術も、それに比べればなんってことはない余技に過ぎなかった。

すなわち、アンチ・マギリング・フィールド―――AMF。
これは、魔力結合、魔力効果発生を無効化、ないし阻害化する『フィールド』系魔法である。
天才たるスカリエッティ―――『無限の欲望』をして始めて実用化出来たその技術は、そんな御手本があるにもかかわらず未だに他の犯罪組織のどれも実用かできていない、ある意味ロストスペルであった。
一山いくらのくず鉄に適当に詰め込んでいたようにしか見えなかったであろうが、その魔導師の天敵である魔法という意味的に矛盾した代物は、最高評議会によって財も才も力も全て与えられたスカリエッティでもなければ、使えない代物だったのだ。

だが、最悪なことに。
周辺の環境を魔法を使用できないように作り変えるその魔法技術は……


「て、てめぇ!」
「俺の変容魔法は、よく効くだろう? 特にお前らのような、デバイスなんていう『魔力で動く』玩具を使ってる連中には」


物質に魔力を流し込んで変質させる禁呪、変容魔法《メタモライズ》の使い手たるシルヴァの使う『空間変容』と極めて親和性の高い技術でもあった。


「くっ、おまえら……やっぱり、スカリエッティの」
「ん? あんな連中と一緒にするなよ」


幻影錬金術師。
その名で呼ばれる者はシルヴァしかいない。

努力と、運。そして、何より天賦の才に恵まれねば使用できぬ変容魔法の使い手が非常に希少であることを差し引いても、《イリュージョナリーアルケミスト》と呼ばれるのは、三界を見渡したとしてももはやシルヴァ・ラドクリフだけなのだ。
長年をかけて対抗手段を整えなければ防ぐことさえ出来ない変容魔法を、対抗手段を用いられてもなお使い続け、戦い続けた唯一の術士であり、そしてそれを使いこなし高めていく覇王の器の持ち主だからこそ、銀髪の魔王に見込まれた。

そして、シルヴァの覇気と共に吐き出された言葉を受けて、その側に侍る少女も動き始めた。


「……参ります」


AMF下であるにもかかわらず、どこからかともなく取り出した大鎌を構えると、召喚魔法によって呼び出した青い下魔を率い、闇色の紫電を伴いながら、射撃魔法を撃ち放ちながら高速で突撃を行って。
シルヴァ・ラドクリフの片腕として、代行者として管理局へと戦いを挑んだ。


「せいぜい肉色で染まるまでは覚えておけ。俺の名は、シルヴァ……シルヴァ・ラドクリフだ!」


AMF技術を知り、それを取り込んだことでさらに強く、さらに凶悪に、さらに悪質になった変容魔法を持って。
シグナムのように、ヴィータのように、そしてはやてのように、己の力を高め、鍛え上げ、それをぶつけるのではなく。
空間そのものを変質させることで自身の力を数倍に、そして他者の力を数分の一へと貶めることを可能とする希少技能の使い手は、だからこそその技に相応しいだけの策略を持って、正義への反逆を叫んだのである。



つづく

Comment

No title

シルヴァさんばねえw
なのは世界の特徴を出しつつ、なのは世界との違いがよく判る作品ですわ

No title

シルヴァさんマジ悪役!
いっそ変容魔法でバリアジェケットを消すとか透明化としかしてくれないだろうか。
実際原作だとローズにやってたし。
まあ今の相手はヴィータだからあんま効果がないというか嬉しくないかもですがw

No title

むしろロリだからこそいいんじゃゲフンゲフン
それはそうと私だけかもしれないのですが、フォントの関係で文字が読みづらいので修正希望

No title

雨塚君が魔道技術方面から、
シルヴァさんが特異技能方面から、
それぞれ自分を生かして攻めてますね。

この2人と比べるとメッツァー様って特徴がなぁ…
高レベル上魔2匹従えるカリスマくらいか?
何気にレムティアのエンドでも2人を従えてたのあるし。
…小説版ならなぁ…

それはそうと3人の部下に魔法戦士がいるのかが気になります。

No title

メッツァーの特徴はやっぱり戦力を限定された中ですらファルケとシルヴァを圧倒できる高い召喚能力と指揮力じゃないかなあ。
セイクリッドじゃ応援で魔物を加速できるし。

あと神速のお触りとか。
非公開コメント

プロフィール

基森

Author:基森
蚕鳴や円禍と名乗ってたこともあります。

主に小説・ssなどを置いているブログです。

自前の本棚を持つのは初めてなので手探りでやっている程度のものですが、わずかばかりの暇つぶしにでもなれば幸いです。


メールは「kulukku106☆yahoo.co.jp」まで、☆を@に変えた上でお願いいたします。

そろそろ、非営利にならトップへのリンクフリーとか言ってみたり。

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