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数多の夜を重ねて(MinDeaD BlooD)










極東最強の吸血鬼、園原醍醐落ちる。

その報は、表の世界においては何の意味ももたなかったが、裏の世界においてはそれなりの衝撃を持って語られた。
数百年の年月を持って日本に君臨していた『純体』の吸血鬼―――年月を追うごとに老獪に、残虐になっていく吸血鬼の世界において、それが倒れた事の意味は決して軽くはない。

ましてや、それを成し遂げたのがかつては醍醐の下僕であった『被害体』―――吸血鬼に血を吸われた「元」人間を指す―――であったとなれば、それは尋常の事ではない。そんなこと、百年や千年の単位で起こりうることではないのだ。
その事を聞いた各地の退魔組織たちは実に機敏に反応した。あるものたちはその危険性を瞬時に悟り、またあるものは実に好都合な実験体が生まれたと歓喜し、またあるものは自らの宿敵を退治したそのものに興味を覚えて、ほぼ全員がその決戦の舞台であった海上都市、千砂倉へと人員を送り込み……愕然とする事となる。

千砂倉は、その園原醍醐を倒した吸血鬼の一味の手によって、すでに魔都と化していたのだ。
これほど大きな吸血鬼被害に対して何の対策も取られていなかったことで慌てた各組織はこの極東担当の退魔組織に対してコンタクトを取ろうと試み……やがて、それらがすべてもうすでに壊滅させられている事を驚愕や絶叫と共に知ったのである。
すなわち、トランシルヴァニアの亡霊と呼ばれる高ランクハンター、Ghostの命を持ってすらこの事件は解決する事が出来なかったその意味を!


純粋な吸血鬼に血を吸われただけの、元々は純然たる人間であった被害体の吸血鬼が純体の吸血鬼を倒し、一つの都市を支配している。
純体ほどの力を持たず、それどころか大半のものはまともな思考能力すら奪われてただ吸血衝動と肉欲に沈むはずの被害体は、例え最初はその勢いによって周囲に被害を広げていったとしても、決して退魔を専門とするハンターに匹敵するほどの力は持ち得ない。
無論、その驚異的な意志力を持って血に滾るだけの獣から脱し、自分の上位の吸血鬼の支配からも脱して人としての人格を取り戻すものもいないではないが、そんなものなどごくごく少数であるし、その者達にしたところで理性によって吸血鬼としての力が純体ほど上昇するわけでもない。

配下たる被害体の力は吸血したものの力に準じる事になる以上、上限が低い位置で固定されている被害体が祖となっている集団ではどうしてもハンターを打倒できるだけの力を持てる個体が一定数以上生まれないのだ。


恐れるべきなのはこちらの強さを知り、それに対する己の力を知り、両者の差を正確に見定めて老獪な策を練り配下を動かすだけの力を持った純体の吸血鬼であり、それらの下僕でしかない被害体や半体の吸血鬼など恐れるに足りない……ましてや、短絡的に何も考えずに一つの都市を丸ごと自分の配下にする、などといった目だった真似をするような「成り立て」の吸血鬼なぞ。
それゆえ、一時的に都市機能が麻痺するほどの吸血鬼被害を受ける国があったとしても、それらはハンターの派遣とともにごくごく短期間で収束する。
それこそが裏の世界での常識だった。


だが、その常識に囚われた結果がこれだ。
強力な純体の吸血鬼とはある程度の協定を結ぶ事に成功している以上、こんなありえるはずもない事態が巻き起こった事に世界は動揺した。
無論、各組織とも手をこまねいて見ていたわけではなく、バチカンのクルセイダーから今まで山に篭っていた導師まで、様々な人員が派遣され、その人間世界に打ち込まれた余りに巨大な「吸血鬼化」の楔を何とか引き抜こうと懸命な作業が繰り返された。

だが、それらすべては町一つがすべて吸血鬼であり、それらの勢力は今なお拡大し続けている、という現状の前に焼け石に水の言葉通りになってしまった。
いかに強力な近代兵器で武装しようとも、やはり数は力である。数に劣るハンター側がそれを無条件に跳ね除けることが出来る時期は、もはやとうに過ぎてしまっていた。

そして、強力な主の下に統制されている吸血鬼らであれば、『奪った武器を使いこなす』、というぐらいの知能を残せる吸血鬼や、それらを指揮する程度の将才が僅かであっても残っている持ち主もある程度の数が揃えられるのが当然……初期消火に失敗して都市ひとつ分から始まってしまっているという絶対数の多さを考えれば、それはハンターらの総数と容易に拮抗しえる。
どういうわけか被害体を祖とする集団であるはずのそれらが、純体を祖とするのと同程度にも迫らんばかりの能力の上限を持っている状態と合わさっては、被害が小さく少ないうちに事案を食い止めることに失敗したハンターらにとってのアドバンテージは、もはやほとんど残っていなかった。


結果、時間だけが無為に過ぎていき、それに伴い被害は鼠算的に加速。都市が県に、地方に、国にと広がっていくのを止める事は出来なかった。
最終的にこの国においても極秘裏に建造されていた戦略級核兵器搭載のイージス艦が吸血鬼らの一派に奪われた事で、すべての退魔機関はありとあらゆる打つ手を失った。
最終的に彼らハンター、そして彼らを統括する人間社会そのものは、コンタクトが唯一成功した機関から伝えられた吸血鬼国家へと堕ちた『日本』に対して「討伐という形での干渉すべてを禁じる」、という相手方からの通告を飲まざるを得なくなる。
例えそれが一時的な休戦協定でしかなく、相手方がそんなものを守るはずも無いということがわかってはいても、世界にはそれしか取れる手段がなかったのだ。








「ねえ、しずる~これから一体どうするの?」
「うん? いや、そういえば何も考えていないな」


ソファーに座る男の腿の上に寝そべりながら、ぱたぱたと足をバタつかせる彼女の名は園原麻由。
純体の吸血鬼たる父と被害体の吸血鬼たる母の間に生まれた、「半分だけ生まれながらの吸血鬼」である半体の少女だ。
とはいえ、男の腿の上でただ退屈であるとわめく様は、年相応よりむしろ幼く見える少女でしかない。

ただ彼女はそれをあやす青年に血を吸われたことで、半体でありながらも彼の被害体でもあるので彼に対しては絶対服従であるはずなのだが、主の気性を現してかある程度の制御の自由を与えられているのか、かつてと同じようにひたすらに己の欲求をあらわにする。


「おねえちゃんも忙しくなって最近帰ってこないし、正直退屈~」
「麻由……七瀬さんにご迷惑をかけるのは」
「だってだって退屈なんだもん」


それをたしなめるのは、麻由と瓜二つの見た目をした少女。
双子の妹、園原麻奈だ。
麻由から活発さを取り除いておしとやかさを変わりに埋め込んだ程度の外見の差異しか持たない少女は、しかしその外見の差通りに他人にわがままを当然のように言う姉を言葉弱く抑えようとするが、ほとんど無意味だったのは次に続く言葉が示すとおり。

彼女もまた青年から『口付け』を受けた身ではあるが、もともとの性質が弱肉強食を是とする吸血鬼の論理に近いものがあり、それがゆえに自分の血を吸うことが出来た強者に傅くことに疑問を持っていないのか、麻由のように礼を失うことなく主の傍に控えるように立っていた。

そんな己の下僕となった二人の姉妹それぞれの気性の違いを楽しむかのように、彼女らの主たる青年はその口元に苦笑を浮かべながら猫のように体にまとわり付く麻由の相手をしていた。


「あ~あ、日本全部をしずるの下僕にしちゃうのは面白かったんだけど、終わっちゃうとなんだかなぁ、って感じ~」
「これ以上増やしすぎてもと思って止めたんだがな」
「うう~、それはそうなんだけど~~」


多くの人間を狂気に落とし、多くの吸血鬼を乾かせたその大惨事を称するには余りに軽い言葉。
しかし、この日の本の国におけるヒエラルキーの最上位に位置する男とその直近の下僕にしてみれば、先の大事件はまさにその程度の暇つぶしに過ぎなかった。
自分たちに好意を寄せる少女らさえも容赦なく下僕へと落とした彼にしてみれば、まさに戯れといったところだ。
だからこそ、その延長線上として今の退屈を何とかする手段がないかと考えた彼は、ふと人だったときの自分のことを思い出して、こう呟いた。


「……なら、酒でも飲んでみるか?」
「お酒? ワインとかなら、確かに地下にいっぱいあるけどぉ……前にちょっと飲んだのは、全っ然美味しくなかった!」


唐突な提案。
だがそれは、退屈する麻由の心にはそれほど触れなかったらしい。
不満げな返答だけが帰ってくる。
双子の妹も、それ自体には興味がないのであろうが、愛しき男が提案したこと自体には僅かに小首を傾げ、言葉の先を向ける。


「七瀬さん、お酒がお好きだったんですか?」
「いや、特別に好きって訳じゃないぜ? ただ、たまには面白いんじゃないかと思ったんだ。そのへんのコンビニに転がってる缶ビールから、高そうなこの家の酒まで、適当に飲んでみるのも暇つぶしにはいいんじゃないかと思ってな」
「う~、あんまり気が進まないけど、しずるがそういうなら」


それでも彼女らの主、七瀬しずるはふとなんの気もなしに口に出したその思い付きが妙に気に入ったのか、麻奈をそっと押しのけて立ち上がる。


その身に纏うのは強烈な血の香りと底知れぬ覇気。
吸血鬼の強さは、単純に生まれと今まで吸ってきた血の量で決まる。
吸血鬼の大元である真祖、純体の吸血鬼とその下僕たる被害体の吸血鬼では、相当の差があるものの、血を吸えば吸うほど強くなる、ということには変わりがない。
だが、その両者の間にある壁は決して薄いものなどではありえない。
だからこそ、その差を乗り越えた彼の異常性がなおさら際立つ。

被害体の身でありながらもその身分を逸脱した彼は、その後も奪った血の力だけ強くなった。
人を、家族を、集団を、町を、都市を、国を、次々と落とした今となっては、もはやかつての極東最強の吸血鬼の名なぞ遥か後方に霞むほどの力を手に入れたのだ。
もはや、人間の中に敵はおらず、同じ吸血鬼であっても彼に敵うほどの力を持つものは存在しない、そういいきれるほどの力を全身に纏った彼は、まさにこの黄泉の国と化した日本の王と言ってよい存在であった。


「なあに、所詮は暇つぶしだ……外の連中がこの国になだれ込んでくるまでのな」


だが、その結果として得られたのは永遠の灰色。
吸血鬼としての生を諦める事で人に戻って塵に消える事も、新しい形の吸血鬼として血を吸わぬまま同族を狩ることで魂を燃やす事もなく、ただただ快楽に溺れ、娯楽を探し、思うが侭に生き、喰らい、犯すだけの日々。


いずれ年月がたてばそれも退屈へと変わるのかもしれないが、少なくとも今はまだ、絶対者としての楽しみ方を探し続けるしずる。
その姿はまさに、永遠の夜を生きる吸血鬼の王として相応しいものであった。




これは、そんな彼の、ごくごく当たり前の一日の記録。






「きゃははははははははは、ほら、麻奈、もっと飲みなさいよ!」
「……」
「……」


すでに酒乱の気を見せている麻由を見て、お互いに視線を合わせて無言になるしずると麻奈。
普段から年相応に落ち着きがないとはいえ、それでもここまでの狂態は見せていないはずの彼女は今、ソファーにぐったりと横たわりながら空中の何かを必死になってけり飛ばすかのようにその細い足を振り回している。
幽霊の類さえ見えかねない吸血鬼の知覚を使ってもそこには何もないのであるが、一帯何が気になるのか麻由はさっきからひたすらに足を振り回しているのだ。

普段より双子の妹より若干短いドレスの裾は無残にもまくれ上がり、彼女の白い腹、へその位置まで見えている。
当然、その手前である彼女の秘部を覆っている布切れなんかチラとは言えずに完全にモロにさらけ出されていた。

それに対して同じ顔をした少女は、自分と同じくあきれたように視線をやっている。
頬が軽く染まっている程度のその顔を見て、酔っているとはいえても、酔っ払っているとは全くもっていえない双子の片割れについついしずるの口から確認の問いが流れた。


「麻奈は強いんだな」
「そんな事、ないと思いますけど」


だがそれは、いつも通りの控えめに弱弱しくではあったが即座に否定された。
横を見ると確かにまだまだ序盤、缶チューハイの残骸がいくつか転がっているだけだ。
しずるはその病的なまでに白い肌の上にはいささかも酒の気配を漂わせていないし、麻奈にしたところで精々頬を赤く染めている程度。
ジュースみたいということで麻由は気に入ってかぱかぱ飲んでいた事は確かだが、それにしたって二三本、本格的に酔うには早い時期である。
この段階でつぶれていないからといって、酒に強いという事にはなるまい。

だからこそしずるも、自分の言葉をあっさりと訂正して新たな行為の提案へと移った。


「それもそうか。じゃあ、そろそろ違うのも行ってみるか」


彼らの住んでいるのはいかにもな洋館であるため、ワインならば屋敷にもあるだろうから新鮮さがあるまいと、わざわざ近くの酒場から失敬してきた一升瓶を取り出す。

最近しずるの領地になり、ほとんど吸血鬼たちによる狂乱の続く地域となった日本であるが、そんな廃墟となりつつある国でも酒はまだ残っている。
電気や水道のようにしずるの娯楽を支えるために命令によって無理やり労働に従事させられている僅かな連中を除けば、狂気に染め上げられた吸血鬼たちは一切の生産的な活動を放棄する。ゆえにたしかに、新しく作られる事はもはやないかもしれない。
だが、しずるや麻由麻奈などの血が嗜好品の一つでしかない数少ない例外を除けば、吸血鬼にとって酒よりも血の方が何十倍も己を高ぶらせる上等なアルコールだ。だからこそ、酒を飲もうなんて酔狂な真似をする吸血鬼の数は、決して多くない。
結果として見向きもされず襲われる事もなく、各地の酒蔵だった場所では上等の酒がごろごろと手付かずで転がっている。
それは、今回の遊びを始めてからしずる自身も始めて知った事実であった。


「まあ、いくらでもあるがとりあえずはこれからいってみるか?」


その中の一つ、しずるが彼女に差し出した瓶にかかれたラベルには、酒豪を自称する人間がもったいぶって出してくるようなご大層な名前が書かれていたが、麻奈は勿論そんなものなど知らないからその貴重さもわからずに、こくんと頷いて同意を示す。

幼さが垣間見えるそのしぐさに、しずるは牙を見せ付けるように大口を開けて笑う。
彼自身は、記憶喪失の身であるにもかかわらずその酒がどれだけ珍重されるものなのか、以前ならばどれほどの値がつくものか知っていたが、別に麻奈の態度が間違っているなどとは欠片たりとも思っていなかった。
上等に、丁重に扱ってまるで一滴の宝石のように楽しむもよし、つまらぬ遊びに費やして馬鹿のようにこぼしながらもかっ喰らうもよし。
どちらにしたところで、彼からしてみれば変わりがない。
結局、その程度の認識で十分なのだ、己たち吸血鬼にとっての「血」以外の何かなど。


「なんかぐい飲みでもあれば都合が良いんだが……まあ、このご大層な洋館にそんなものがあるわけないか」
「私が持ってきましょうか? ありさにでも言えばすぐに」


ただまあ、知らないならばまだしも一応価値を知っているしずる自身はあえてそこまでぞんざいに扱う気にもなれずに、その逸品を注ぐに足る相応しいグラスを探すが、酒宴を前にそろえた酒器の類はさきほどから麻由が乱雑に使い捨てているからか手の届く範囲ではそれらしいものは見当たらない。
この家に同居するもう一人の少女を呼び出して持ってきてもらうことも考えたのだが、自分の頼みでわざわざツマミを作ってくれている彼女にさらに手間をかけさせることは、結果としてツマミが来るのが遅くなるという意味であまり喜ばしいことではないか、と今更ながら思い返した。


「いや、いいさ。こうすればいい」


そんなてきとうな自身に一声笑ったしずるは、だからこそ適当な器を探すのをあっさりと諦めて瓶を封じてある蓋を親指一つで跳ね飛ばして、中身を一気に煽る。
そうして、近くでお酌をしようとこちらも何か入れるものはないかと探していた麻奈を唐突にぎゅっと抱き寄せ、近くへと寄せる。


目を見開いて驚きを表した麻奈だったが、しずるの腕が自分の腰に回ったのみならず、その距離をさらに近づけようとし、同時に顔と顔が近づいていくのに気付いてくすりと笑みをこぼし、従順に瞳を閉じてその時を待つ。
自分の意図を麻奈が理解した事を察したしずるも目だけで笑い、その唇を器として麻奈に酒を飲ませた。

己の咥内で受けたが故に、先ほどまで煽っていたジュースのようなものとは違いそれなりにきつい酒だという事を理解していたしずるは一度に多量の酒を流し込む事は決してせずに、ゆっくりと、ゆっくりと口付けに交えて酒を交わす。
受け取る側の麻奈も瞳を閉じたままに、しずるの首にその繊手を巻きつけて、頬を染めながらゆっくりコクリコクリとその唾液の混じった美酒を飲み込んでいく。
吸血鬼である為成長が人とは異なるのか、大人の女とは到底いえない、だけども双子の姉よりも明らかに大きいその胸を分厚い胸板にこすりつけるようにしながら、ゆっくりと瞳を閉じたまま口付けを続ける。
それは、すべてを飲み干した後でも終わらなかった。

もはや口移し、などではなくれっきとした交合となってもなお、二人は辞めようとしない。
段々と別の熱に取り変わられていきながらも、辞めるべき理由もないため続けられたそれだが、止める人物はいたがために唐突に口付けの時間は終わった。

先ほどまでけらけらと笑っていた麻由が不意にこちらに視線を寄せ、二人の行為を見てその酒に潤んだ瞳を吊り上げて二人の間に体ごと割り込んで止める。
その瞳には、子供じみた嫉妬の色が浮かんでいた。


「あ~~~! 麻奈だけずる~~い。しずる、あたしもあたしも~!」
「麻由はちょっとばかし、酔っ払いすぎだな」


その細腕から出たものとは思えない人外の臂力―――それでも、吸血鬼の長たるしずるからすればじゃれ付かれている程度の力―――で強引に麻奈と離されてたしずるは苦笑一つを浮かべて、それでもその瞳はどこか温かなもので唇一つ麻由に落としてその腕の中で暴れる子猫を壊さぬように抑える。

酔いに任せて暴れることで、さらに酔いが回った彼女はたったそれだけでふにゃふにゃとその場に酔い崩れた。
それをただ見つめることとなったしずると麻奈は、おもわず二人で視線を合わせて、おかしげに笑った。





たまには、こんな一日があっても構わないか、としずるは思う。


犯すのも酔うのも、しょせんは暇つぶしだ。
今の彼にとって、殺すことも生かすことも何一つためらうものなどない。
愛を語る心など、もはや思い出さえも色あせた。
正義を歌う声など、もはやとうの昔に枯れ果てた。

ここにあるのは、化け物としての永遠の命だけ。
無意味な血と無価値な死と無感動な性だけが彼の枯れたキャンパスに秩序もなく塗りたくられている。
これはきっと、誰かに倒されるか、あるいはすべてに飽きて自ら命を絶つまで永遠に続くのだ。
ならば、一日どころか一年も十年も、その日々に意味などない。

どれだけ重ねても、どれだけ続けても、何一つ生み出さない生を続けるなかで、とりあえずいまだに飽きてはいない。
ただそれだけの理由で、最強の吸血鬼七瀬しずるは暴君を選んだ。



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