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悪徳の宴・3

最近、書きたい気持ちはあるんだけど、書きたいテーマが見つからないので迷走中。
とりあえず、適当に更新してみるか。

>獲物に狙いを付けて外堀から埋めていく過程とかも読みたい

はっはー、そんなこと言ったら今回みたいにほとんどメッツァーたち出てこなくなりますけど。
それでもよろしいか? よろしいか!?
こういうモブ視線の大好きなんです。







犯罪件数の、劇的な増加。
今、ミッドチルダが抱えている問題である。

警察と軍隊と災害救助部隊を足して割らない規模を持つ管理局は、その規模に相応しいだけの力を持つが、しかしそれでもなお現状を改善するには手が足りていなかった。

いや、体制そのものの不備を端になすものである以上、手が足りない、と評するにはいささかおかしいかもしれない。


魔法、という極めて便利で柔軟な運用を可能とする技術を手に入れてから今日まで、ミッドチルダはそれを原型として進歩してきたことにこの問題は生じている。
夜を照らすにも魔法。暖を取るにも魔法。衣服を紡ぐにも魔法。傷を癒すにも魔法。
そして……人を傷つけるにも、魔法。

魔法によって発展した社会は、当然ながら魔法によって維持されている。そして、魔法を使うには当たり前ながら魔導師が必要不可欠だ。そして、魔導師とリンカーコアの保有者は、ほぼイコールで結ばれる関係だ。
そんな物理現象に依存しない、祈りと奇跡をベースとする発展を続けてきたミッドチルダにおいて、だからこそ管理局は最強の魔導師たち、強力なリンカーコアの持ち主を抱え込むことで治安と権威を維持してきた。
魔法によって維持されている社会だからこそ、魔法を手にしたものが有利になるのは子供にも分かる理屈だろう。
だからこそ、管理局はより分かりやすい魔法を手に入れることに腐心した。


「ちくしょう……ちくしょう!」


訓練室の一室。
管理局員ならば誰でも自由に利用できるそこは、完璧な事務方でなければ大前提として武力を必要とし、事務方であっても武力があって困ることは無いとされている管理局においてはそこそこ利用されている施設の一つである。
自分を鍛えることを趣味としているものはもちろんのこと、日々の業務をこなすのに業務中の訓練だけでは足りない、と感じるものは少なくない。
だからこそ、ここの利用者はそう珍しいわけではなかったが、だからといって涙を流しながらひたすらに模擬人形を殴り続けるものなど普通に考えてそう多いわけでもない。

ましてや、時刻は深夜。
普通の勤務体制の局員であれば翌日に備えて眠りについている頃であるし、夜勤のものは勤務真っ最中であるから、このような時間に訓練室をのぞきにくることは無い。
だからこそ、その男の現状が誰かにとがめられることはなかったが、しかしそれは明らかに普通ではない状態であった。


「なんで……なんで俺が、アイツが!」


加えて、言ってる言葉も傍から聴いている限りでは支離滅裂とくれば、これは異常以外の何物でもない。
着ているのが管理局指定の訓練服―――その形状と新しさから、二等陸士程度と見て取れる―――でなければ、不法侵入の狂人と間違われてもおかしくはあるまい。少なくとも、普通の一般人ならばそう受け取るだろう。


「お、こんな時間にやってる奴もいるのか……どこの部隊の奴だ?」


と、そこにたまたま通りがかった、夜勤明けの三尉。
四十は過ぎているであろうその顔には、今までの長時間の勤務を物語るようにところどころにまばらに伸びた髭がその張りの失せた肌を彩っていた。
明かりがついていることで内部に人がいることを知った彼は、こんな時間に何をしているのか、と訓練室の扉に着いた窓から中をのぞく。
中にいる少年は、それに気付きもしない。
ただひたすらに怒りを、苛立ちをダミーに叩きつける。
この少尉にとってそれは訓練というよりも、八つ当たりに見えた。


『ちくしょーー!!』
「ああ、そういうことか……もう、そんな時期か。ま、頑張りな若人。人生には努力ってのも時には必要だ」


そして、そんな少年とも言える年齢の新兵の、狂乱ともいえるべく訓練を目の当たりにした彼は……ああ、よくあることだ、といわんばかりに一気に興味をなくして、目線を通路に戻して歩きなおした。
新たな辞令が出るこの時期、より力を付けるためのこの場所で、悔しさから来るであろう涙を流しながら訓練を行う。
心当たりが無い者は、きっと管理局員のなかでもごくごく少数だけだ。たとえ本人が行いはしなくても、その気持ちは理解出来るであろうし、ことによれば悩みと共にその事実を親友や部下から打ち明けられることもあるだろう。


「……たとえそれが無駄だったとしてもな」


呟く彼の脳裏には、かつて己が行った全く同じ行為が十年以上のときを得てもなおも鮮明に、浮かび上がっていた。
それも、当然か。
低ランク局員の嘆きと、それをやすやすと追い抜いていくエリート様に対する反感は、年を得てもなお毎年彼の胸に黒い感情を呼び起こしているのだから。
何せ、今年だってまた年下の上司の元へと配属だ。それに対して自分の力の不足を怨み、リンカーコアの出力が弱い生まれを憎み、訓練によってそれを補おうと無茶な鍛錬を日々続ける情熱はもはや磨り減ってなくなってしまったが、だからといってその理不尽に対する憎悪は消えてなくなったのではなく、ただ結局何も出来ない、何も変わらない現状を諦めてしまっただけに過ぎない。
年下の上司にこき使われる情けなさとも怨みぶしともいえぬ何かを飲み下しながら日々の勤務を続ける彼は、そう感じながら背後の訓練室に篭る昔の自分の姿をもはや見ないように目を逸らしながら、足早に去って行った。



管理局が求める魔法とは、すなわち力だ。治安を維持するために必要なだけの力。
つまりは……リンカーコアとレアスキル。
それを持つものを何よりも―――例えば、年功序列による経験の力だとか、長年の努力による学力だとかよりも―――重視して重用してきた管理局に、魔法の力で敵う存在などそうはいない。
徹底した能力主義とそれに伴う雇用体制、高待遇でもって数多くの優秀なリンカーコアの持ち主、天賦の才による軍勢を保有する管理局は、たった一人や二人の天才の存在では揺るがないほどの力を持ち続けていた。

たとえば、オーバーSSSとかいう非常識な存在が突如世界に現れた挙句にとち狂って世界征服などをたくらんだところで、SSSも、SSも、AA+も、そしてもちろんオーバーSSSも保有する管理局に敵対する以上は、敵うわけがない。
当然その考えは、相手のランクがAであろうが、Bであろうが変わりがない。
犯罪者へと身を落とす人間よりも、それを防ごうと守る人間の方が強ければ、多ければ……絶対に犯罪は成功しない。
だからこその魔導師ランクの格付けと、それに基づく階級だ。


金が欲しいから犯罪をなすというのであれば身内に取り込んで存分に金を与えてやればいい。
過去に罪を犯したから裏街道を走るしかないというのであれば、その罪をなくしてやればいい。
名誉と権力欲を欲して君臨したいというのであれば、こちらで管理出来る程度の階級という名の力をやろうではないか。

悪の組織に所属することで叶えられる欲望程度、こちらにいても手に入れられるし、それどころか規模の違いから一層充実することが出来る。
だからこそ、才を持つものよ、わざわざ危険を冒してまでそんな道に走る必要は無い、ただ管理局に所属すれば良い。


そういった、大多数の圧倒的戦力による正当な運用という実に戦略的に正しい方法こそを至上としてなしてきたのだ。
勿論、内部に入れてからそういったものたちに対する『更正』にも力を注いではいるし、そういった欲を暴走させないよう初めからコントロールしようとばかりに若年層からの囲い込みによる『正義の管理局員』の純粋培養も行って実際にそれは成果を多く上げている。
力を得ることだけを妄信せず、それを正しく使うことにだって、勿論管理局は実に熱心に取り組んできた。
だが、それらもまずはそういった存在を他の組織よりも早く、正確に内に取り込むことによって実現することだ。


だからこそ管理局は、自分たちを上回る規模で、自分たちよりも遥かに上手に「天才」を集めるシステムを犯罪組織やシンジケートに構成されないことにこそ心血を注いだ。

優れたリンカーコアの持ち主こそをまず第一に選び、珍しいレアスキルの保有者であれば年齢に関係なく高位につけた。
勿論、それを振るうにふさわしいようにたびたび矯正は行ってきたが、それでもそれはあくまで彼らの欲望を制限するだけであり、決して才能と引き換えにしてまで無くそうとまでは思っていないものである。
将来の敵を減らし、有力な味方を増やす。管理局による『才能狩り』は徹底していた。
それはこの世界においてどんな組織であってもやっていたことではあったが、管理局はそれをどこよりも、誰よりも上手にやってのけているのだ。


だからこそ当然ながら、その影において涙を飲ませた凡人の数はそこらの犯罪組織の比ではなかった。管理局の通ってきた道筋の至るところに、区別という名の差別がまかり通っている。
それが仕方がないことであったとはいえ、魔法という生まれつきのリンカーコアの強度によってその力が決まってしまうものを文化の根底としてきたミッドチルダを守る為には、より大規模な影響を与えうる高ランク魔導師に偏った体制に、せざるを得なかったのだ。

そのしわ寄せが凡人に来ることを知っていながら、だが、それらを管理局は無視したと非難されても、それは甘んじて受けなければならないそしりであろう。
それこそが、この魔法によって維持される平和の代償だったのだから。





「……あ、あああああ!」


このまま歩み続ければやがてたどり着く未来の自分が去っていったことも気付かず、少年は最後の一撃をダミーに叩き込む。周辺より集めた魔力を取り込んで変換した炎を纏った拳はそのやけくそ気味な動きに従って、的の中央を僅かに左にはずれた位置に突き刺さり、消えた。

と、そこで体力の限界が来た。
その拳を突きつけたまま膝が崩れ、彼は荒い息のままそこに座り込んだ。
その四肢に宿る体力とリンカーコアに集めた魔力を限界まで振り絞ったからだろう。


<ピーーー>


その動作により、機器が訓練終了を感知したのだろう。彼の眼前に、今回の訓練データを浮かべて持ってきた。
荒い息ゆえに揺れる視界の中で彼はそれに対して必死になって視線を走らせ、内容を読み解いていく。
先の必死の形相での、涙の訓練。それが全てその中にあると知っているのだから。

が、それをみて彼の口から、声にもならない呻きが漏れ出した。

【一般評価項目総合】
魔力制御総合技能  C-
近接格闘戦総合技能 C
技能使用判断能力  B-
【特殊評価項目】
魔力変換資質『炎』効率 D


そこには、彼が先ほどまで行っていた自主訓練を測定し、基準に当てはめた結果が何のひいき目も手加減もなく、これ以上ないほど正確に表れていた。
『総合評価 C-』
それが、彼に与えられた評価だった。


このシステムが全管理局員の戦力を判定するものであり、経験を一切考慮していないことを鑑みた上で、今の彼の年齢を考えれば割といい評価である。
少なくとも、彼のたたき出した成績を平凡ということは同年代のほとんどのものには出来まい。
このまま順調に努力し、成長していけば、今は二等陸士ではあっても一等曹士へも夢ではない程度に、それは実に彼の鍛錬の成果を真摯に評価したものである。


しかし彼は、その結果を見て顔を歪ませた。
喜びにではない……憎しみで、だ。
総合評価、C- 
悪くは無い。悪くは無かった。
曹も夢ではないほど、それは彼の鍛錬を表したもので……佐官以上に上がることを許さないほど彼の資質の低さを示したものだった。
陸士訓練校を次席で卒業したほどの鍛錬を積んだ彼は、しかし残念ながら魔力に乏しかった。
魔力変換資質というレアスキルも保有していたが、それとて炎という希少性のそこまで高いものでもなく、またその精度も低かった。
どれほど訓練に時間を注ぎ込み、どれだけその肉体を酷使しようとも、それは容易に向上しようとしない……士官学校に入学を許されず、訓練校時代に次席に甘んじたときと同じく。

それでも彼は努力を続けていた。自分の夢、災害救助の先鋒たる特別救助隊への転属を許されるように、その資質の低さに腐ることなく日々の訓練に耐え、業務を行っていた。
だが、その夢は……同期の者に奪われた。


ああ、何故。
何故、自分ではなかったのか。


特別救助隊を希望する者は決して少なくなく、しかしそれに反して人員補充の数は極めて少ない。結果、率は高い。
だからこそ、同じ年齢、同じ期のものが配属された以上、もはや数年は補充や転属はないだろう。そして、それが過ぎれば……今度は自分より若い者も大勢希望するだろう
つまり、自分はもう……


「ちくしょう!」


何故駄目だったのか。
決まっている。
リンカーコアの資質に劣るからだ。
希少度の高いレアスキルを持たないからだ。

自分から主席を奪い、スカウトによる引抜を受けて、あのエースオブエースによる個別教導を受け、その素質を開かせ、手柄を立てて、そして特別救助隊の目に留まって引き抜かれた女の今の魔力ランクを知っているか? 
あるいはそのバディだった女でもいい。どのくらいだと思う?
彼は自問し、自嘲をこめて脳裏で浮かべたその問いに対して、答えを吐き捨てた。


「AAランクだってよ……そりゃ、そうだろうな」


そりゃ、AAランクとC-だ。
特別救助隊だって後者を取るに決まっている。
それは彼にだって、わかっている。
分かっていて、それを覆せるようにと日々努力することで心を支えていたのだ。

だが、現実は残酷だ。
勤務成績は多少良いが、しかしそれだけのちょっと出来る二等陸士と、手柄を立ててエリートとのコネもあって覚えがよい二等陸士。
資質のな差を努力でカバーしようと何とか必死の形相で喰らいついていたものと、陸士訓練校時代でさえもその恵まれた資質の片鱗を見せていたもの。
なら、後者に前者と同等の訓練と努力を強いれば、結果は明白だ。
生まれの差は、リンカーコアとレアスキルの差は、すでにスタート位置で十分な差をつけており、それは今後も広がることはあっても狭まることは無いだろう。


「ふざけんな……たかがリンカーコアの一つ二つの出来で。ふざけんなよ」


それを、彼は改めて今日悟った。
今まで、幾度となく打ちのめされてきたときと同じように。

声にならない嗚咽と、とめどない涙が止まらない。
幼い頃からの夢が、思い描いていた将来像を、残酷で冷酷な真実が駆逐する。
誰も、誰も助けてくれない、救ってくれない、分かってくれない。


正義を志し、努力を重ね、夢を描いて……大地に堕ちた。


何を怨めば良いのか、どこを変えれば良いのか。
幼いころより魔法によって包まれ、育まれてきた彼にとって、その結果はある意味当然の常識であった。
自分ならばその例外に入れる、という埒もない全能感の熱が冷めてしまえば、今まで感じてきた当然の現実が戻ってきた。
別に、あの自分の夢を阻んだ女だって、自分を評価しなかった上官だって、彼の事を決して悪意を持って貶めたわけではないだろう。
ただ、彼らには彼らの思いがあり、考えがあり、それが故に自分の希望は叶わなかった、ただそれだけだ。
別に悪いわけではないだろう。それぞれがそれぞれの思惑にしたがって動くことが。


だが、ならば自分は、一体どうすればよかったのか。
そんな馬鹿げた夢など抱かずに、ただ小さくなって日々の幸せを感受していればよかったのか。
そんな、愚者の幸せに浸ってただひたすらに己の分を弁えて生きていけというのか!


「君の気持ちはわかるよ……俺だってそうだったんだから」
「っ!!」


嗚咽が響く聴覚に、涙で滲む視界に、突如深い声と白い影が入ってきた。
とっさに涙を拭って顔を上げた彼の前には、白衣の男が立っていた。
外見から見ると、おそらくこの施設に隣接する技研……技術研究部の職員のように思われる男が、そこにはいた。
施設のメンテナンスも担当している職員が来るほどまでの時間が過ぎていたのか、と愕然とした彼は自分の先の一人芝居を見られていたとしって、赤面した。
少なくとも、現状を嘆いて愚痴って涙することを恥じる程度には、彼は幼くても男だった。

そんな彼の様子を微笑ましげな顔で見た白衣の男は、こちらの返事を必要ともしないように独白を続けた。


「ただの細胞、内臓器官の出来一つで違いが生まれるなんて馬鹿げてる、って」


響く声は、少年の内なる声の代弁者。
そのように思えるほど、それは彼の―――そしてそれは当然ながら、多くの低ランク、あるいは魔力資質を持たない者の―――内心を、これ以上なく的確に表していた。

この魔法によって紡がれた世界の恩恵に自身も浸っておきながら、しかしそれでも己がその社会における下層にしかいられない者の、なんともいえない感情を。

無論、このミッドチルダにおいて、魔法が使えないものが奴隷のように使われている、という事実は無い。
管理局という一種の武力を必要とされる組織ならばさておき、一般市民としてごくごく普通の会社に勤め、働くのであれば魔導師ランクなんて建前上はほとんど意味も無いことは確かだ。
たとえ、就職活動において魔力資質がある程度優遇されるとしても。
その汎用性の高さが故にありとあらゆる分野でその魔力を活用する機会が巡ってこようとも。
建前の上では、平等なのだ。

この今まさに現実に打ちのめされている彼だって、そもそもそんなことは正義を志して管理局に入った時点で、弁えておかなければならないことなのだ……それがいやだと、魔力で区別されるのを拒むと言うのであれば普通の一般市民としての生活を選ぶことだって出来たのだから。


「だからこれを作ったんだ」


だが、それでもなお納得できない感情は残っていた。
魔導師だって、笑うし、怒るし、食べるし、子供だって生む。
事実上、ただの人間に出来て魔導師に出来ないことは存在しない……逆の事例はいくらでも存在するというのに。
むしろ一般人よりも生きるに易い。この、魔法によって生まれた魔法を使えるものが優遇される社会では。
それが、魔力ランク、リンカーコア、魔導師ランクという目に見える数字によってこの世界ではきっちりと表示されている。

今まではそれに疑問を持つことはなかった。
彼自身が暮らしてきた社会においてそれは極めて当たり前のことであったし、実際に魔導師として彼はその恩恵に浸ってきて生きてきたのだから……もちろん、高ランクの者達ほどの優遇は受けていないにしても。
だからこそ、この魔法という優秀でクリーンなエネルギーのことを、それによる不公平をほとんど意識せずに生きてきた。

今回のように壁にぶち当たって、自分が不遇をかこう立場になって初めて、その成り立ちの不公平さを覚えたに過ぎない。
それは決して、公平な態度ではないであろう。
だが。


「ちょっとしたプロトタイプなんでね、運用してみて感想を聞かせて欲しい……ああ、まだ正式に予算がついてるわけじゃない俺の個人研究なんだから、できれば内密にやって欲しいという希望は先に言わせて貰うよ」


不公平だ。不公平ではないか。
ただの生まれの違いでしかないのに。
たかが髪の色が違うように、肌の色が違うように、臓器の出来が違っただけなのに。
こうも歴然とした差をつけるということが、正しいというのか?
そんなわけがない。
努力が報われないなんてこと、あっていいはずがない。

今までの自分は、そして今頃気付いた自分は確かに愚かであったが、だからといってその当時考えていたことが間違っていたというわけではなく、このランクと生まれによる『貴族制度』のほうが間違っているに決まっているのだ。


「だけど、リンカーコアの出力に不安があるというのなら……魔力資質が全てというのが間違っていると思うのなら」


だからこそ、男が語る内容は実に素直に彼の心に入り込み、沁みこんでいく。
この男を今まで見た覚えがほとんどないことも、そもそも語る内容があまりにも胡散臭いことも、冷静に考えれば不審でしかない数々の事実も、この不公平の前に憤る正義の心の前では些細なことでしかなかった。


妬ましい。
ただ、ひたすらに妬ましい。
己に才がないことは、まだ認められた。
努力しなければ、結果が得られない、という単純な数式にも似たその至極当然な理屈に己が当てはまる、という事は納得できない事もないからだ。
だから、自分がここまで強くなれたのは今までの努力の成果であり、これ以上強くなれないのはそれ以上の努力を怠った怠惰の結果なのであろう。
だから、それはまだいい。
だが、問題となるのは自分には出来ない、努力もせずに結果を得られた天才の存在だ。
自分がどれほど努力をしたとしても追いつくことの出来ない、生まれの違いによる不公平への憎悪だ。


「俺が考えた、高レベル魔導師との差を詰める新型バリアジャケット……使ってみないか?」


リンカーコアに頼らない新しい魔法の形。

それこそが、今の彼が望んでいたことだから
だからこそ彼は手を伸ばし、その男の手に握られていた黒の衣をためらいもなく受け取った。
強化スキンという、今まさに魔力を持たなかった者たちに魔法に匹敵する力を与え、それがゆえの「犯罪件数の劇的な増加」という軋轢を産んでいるファルケの作品のことを何一つ知らされずに。


『地上の英雄』レジアス・ゲイズと同じ選択肢を、選んだのである。









また一つ、闇夜の鷹に見出された種がその片鱗を静かに芽吹かせる。



つづく

Comment

No title

これは悪の組織に勧誘じゃなくて、管理局内にもスーツを普及させて現在の体制を崩そうとしてるのかな?

No title

ああ、こういうのが読みたかったんだよw
なのは世界はけっこう歪みがありますからこの手の二次創作アイデアが多い多い
でも飽きないんですよねw
質量兵器やロストギアス級のアイテムの扱いとか火種になりそうな解釈がごろごろと…

いずれ管理局そのものやなのは達に影響していくだろうな…

No title

この視点の話が見たかった。
こういうの、だーれも書いてくんないんだものなぁ…世間的にはつまらないんだろうか?
非公開コメント

プロフィール

基森

Author:基森
蚕鳴や円禍と名乗ってたこともあります。

主に小説・ssなどを置いているブログです。

自前の本棚を持つのは初めてなので手探りでやっている程度のものですが、わずかばかりの暇つぶしにでもなれば幸いです。


メールは「kulukku106☆yahoo.co.jp」まで、☆を@に変えた上でお願いいたします。

そろそろ、非営利にならトップへのリンクフリーとか言ってみたり。

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