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神も仏もあるものか 完結篇

趣味に走ったダーティ・ヒーロー篇もこれにて完結です。
まあ多分さほど需要は無いのでしょうが、それでも私が読みたいのを書き上げたという意味ではこの上なく満足です。












『おおおおおっ!』
<遅い!>
<っ、また!>


幾度となく、繰り返される激突。
しかしそれは、徐々に一方的な展開を見せ始めていた。

普通に考えれば、レーサークルスであるアベンジがどれほど強化されたところで、正統派の戦闘用真打剱冑である村正の敵になるわけではない。
それは、真昼のレースにおいて村正がまさに鎧袖一触と数多くのレーサークルスをドッグファイトで叩きのめしたことからも明らかだ。
紙細工と称されても仕方がないほどの薄装甲のレーサークルスは、戦場におけるただの一度の激突だって耐えられないほどの強度しか持たないのだから。
大空を書けるための速さの代償が、その強度に現れている。


だが、その当然の事実は、ほかならぬ三世村正が否定した。
磁力制御と重力制御という二つの異能を使いこなして魅せたその限界の遥か先は、甲鉄も武装も身体強化も復元能力もすべてを代償にしてまで速度に賭けていたレーサークルスさえも置き去りにして、裏切った。



だから。



レーサークルスでさえたどり着けぬ領域に、速さの果てにたとえ一時であろうとも君臨した彼と彼女だけは、そのこと―――装甲騎手は武者よりも速く、武者は装甲騎手よりも強い―――を普遍の事実として述べる資格はあるまい。




高速で飛来する弾丸に対して何とか回避を試みる村正だったが、間に合わない。
激突は不可避の減少として巻き起こった。

衝撃。ついで、爆音。
音さえも遅れて聞こえるような濃密な瞬間は確実に景明と村正の体に損傷を与えた。

それにより生まれた一瞬の停滞で、景明は対手の姿をどうにか目に留めた。



アベンジは、ぼろぼろだった。
当たり前だ。 村正に大して遥かに劣る甲鉄しか持たないアベンジ。
いかにその速度ゆえに一切の反撃を受けないで攻撃をし続けることが出来るとはいえ、相対速度の関係上、それと全く同じ速度でアベンジ自身も村正にぶつかられているのと変わりはない。
たとえアベンジは損傷によるダメージの少ない四肢の末端を使って殴り、蹴りつけており、村正はそれを急所に無防備に受けることになっているとはいえ、それでもお互いがお互いにその機体をぶつけ合うブルファイトを行っている以上、柔らかいアベンジは硬い村正以上のダメージを毎回被ることになるのは当然だった。
ましてやその村正の仕手である湊斗景明は優れた武士。
回を追うごとに、その行動の一つ一つは自身の損害を抑え、相手の損傷を加速させる為のものへと進化していった。
それゆえに、村正をまとうことが出来た以上、景明にとってはこの戦いはもはやかんしゃくを起こし続ける彼らをどうやって抑えるか、ただそれだけの意味しか持たない者である。

それゆえに、今まで数多の戦闘を勝ち抜いてきた武者として、景明は初め防御によるカウンターという選択肢を選んだ。
それは、ブンブンと飛び回り続けるレーサークルスとやる気も無い喧嘩をしなければならなくなった武者剱冑の取る手段としては、おそらく妥当なものであったといえるだろう。
速度に劣る剱冑であっても、その他の要素で負けが無いのであれば面倒なことにはなっても、敗北はありえない。
確かに、その考えは「普通」ならば正しい。




しかし、それさえもこの状況においては間違いだ。




<お、おおおおおおお……み、操! 続けるんだ!>
『……行く』


ただの数打のレーサークルスから戦闘用ではない真打競技用剱冑と化すことで手に入れたアベンジの力が、そのすべてを無に返す。


<敵機、復元機能の作動を確認! 所要時間は……今っ!>


アベンジと化した皇路卓の声と村正の警告が響くと共に、アベンジの砕けた薄氷がごとき青碧の装甲が、徐々にうごめき、やがては溶け消えぬ水晶が形作った一枚の芸術品がごとき美しさを取り戻した。


『く、またか!』
<戦闘中の自己修復なのに、外装まで!>


己の取った選択肢が間違いだ、ともはや心底思い知らされるほど繰り返されたそのことに、おもわず景明たちはまたも何の役にもたたない意味のない声を上げた。

皇路卓が鍛冶師として培ってきたすべてを賭けて獲得した、剱冑自身による自己修復及び仕手治癒能力。
これは決して剱冑としては珍しい能力ではない。
数打剱冑でさえもある程度持っている剱冑固有の能力であり、真打ならばもはや常識といってもいい程度のものだ。
継戦能力を維持するために古の鍛冶たちが考え抜いた究極の戦闘兵器たる剱冑は、心鉄に致命的な損傷を受けなれれば時間と共に自動的に回復する能力を備えているのみならず、仕手として縁を結んだ人間の治癒能力さえも飛躍的に上昇させるのだ。

当然ながら、妖甲と呼ばれる所以の呪いはさておき、機能としては正統派の剱冑をそのまま持っている三世村正にもその能力は備わっていることを考えれば、驚くほどのものではないように思えるかもしれない。



だが、それは間違いだ。
稀代の鍛冶師―――否、レーサークルスエンジニアであった皇路卓が作り上げたアベンジは、その当たり前であるはずの機能にさえも速さという特別さをもって作り上げた。


<傷ならいくらでも修復してやる……世界最速は、それを生むための『最強』は、僕たちたった一対でいい!>
『続けて……いく!』


一方的に垂れ流される金打声―――装甲通信が、それを表す。いまだ、通信は相手からこちらに向けられるだけで、こちらの声は聞く耳を持っていない。
いくら砕いても、いくらへし折っても、アベンジはそのことごとくを治癒して見せた。
いかなる妨害にあおうとも、いかなる姦計が張り巡らせられようとも、いかなる談合が行われようとも。

そのすべてを振り切って、そのすべてを置き去りにして、ただただ永遠に最速の頂で飛び続けることだけを願って生み出された現代の名品を前に、そんな装甲の厚さだけを頼りに相手の自滅を待つなどという手法が通じるわけも無かった。


<さあ、やってみろ、あのときの加速を、お前達の本当の力! それさえも僕は、操は、乗り越えて見せる!>


……そう。
「殺さずに止める」などという選択肢が、許されるわけが無かったのだ。
こちらに対して殺意をこめて挑んでくる相手を、殺意もこめぬ鉄の肌だけでいなそうなどと、出来るはずが無かったのだ!

鞘の中に納めていた太刀の柄を握る景明の、村正の力が強くなった。


『村正』
<……御堂。いいのね?>
『良いも悪いも無い。俺は、俺たちは……そういうものだ』
<そう……ね>

彼らは、死ぬわけには行かなかった。殺されてやるわけには行かなかった。
たとえどれほど高尚な理念を前にしても、たとえどれほど純粋な思いを前にしても、それを汲んで道を譲ってやることなど出来ない。
悪鬼外道と罵られたとしても、冥府魔道に落ちたとしても、やれねばならぬ、なさねばならぬことがあるのだから。


「いくぞ」


そのために数多の強さ、邪悪に囚われた魍魎を踏み潰し、それと同じ数だけ善良な魂を汚してきた彼らに、今回もそれをためらうことなど、許されるはずが無かったのだ。

自らに降りかかる火の粉を払う、という名目で、今回も殺戮を行うほかは……

剱冑の甲鉄が己の肌に、村正の知覚が己の耳目になるのと同じ感覚で、景明は心に思い描いた空想ともいえる異常がこの世界に具現化することを願った。
それを端的に表す呪句を受けて、村正も応える。

風をも超える異能が、生まれた。


『磁装・負極――』
<――〝ながれ・かえる〟>
『何っ!』
<操―――!!>


速さに命を掛けるものを、速さにて踏みにじる。
それを端的に表すように、命を掛け、身を削るような突撃を、磁力という名の妖しの力によって、弾き飛ばす。
全くの未知の力が突如介入したことに、最速の剱冑は全く対応も出来なかった。
なす術もなく、いなされた。

その卓越した技術の粋である可変式ウイングマウントによって、大地との激突こそ免れたものの、その現状はまっすぐだった機航を歪に歪ませて、何とか立ち直ったに過ぎない。
混乱が、困惑が目に見えた。


『一体、何が!』
<一瞬、強力な磁力を確認したが、一体何があったというのだ!>


陰義のしの字も、双輪懸のふの字も知らぬ、純然たるレーサークルス、アーマーレーサに対して。


村正は、静かに鞘に入ったままの太刀を構えた。
居合/抜刀術の構。
一刀必殺の意思の具現。

最強にして最凶、近付いたものすべてを滅ぼすと謳われた妖甲。
その呪いの究極。


『磁波鍍装―――蒐窮』
<諒解。死を始めましょう>


不吉な雷光が、紫電が、その手元からあたりを強く照らすほどに迸り、死を知らぬ赤子でさえも怯えさせかねない鬼気があたりに漂う。
全てを殺す一撃の訪れを、その全てが予告した。


だが、その明らかに死を感じさせる状態を前に、アベンジは、皇路卓は、そして皇路操は一切引こうとはしなかった。
彼らが行ったのは、姿勢を低くし、風を感じ、機体を暖め、そして前を向くこと。
すなわち、再度の突入、突撃。

この戦場における速さの、現れ。
最速での、体当たり。

死を前にして、一歩も引かないだけの覚悟がそこにはあった。


<何を使おうと、どんな小細工をしようとも!>
『……私の翼は、全てを裏切る 全てを捨て去り忘れ去り なかったものにしてしまう』


それも当然か。
全体の三割以上が競技のさなか、その騎手としての命を失う装甲競技。
その速さの先に一人で立ち続ける夢に狂ってしまった一流の騎手にとって、死は極めて近いところにある。
それを飲み下し、収めることが出来ぬようでは空を駆ける事など出来るはずが無い……真打、と呼ばれる名工の手による逸品を受け継ぐほどの武者であれば殺し殺される覚悟があるように。


<どんな御題目を唱えようとも、どんな汚物にまみれようとも!>
『なぜならこれは、恋ではないから なぜならこれは、逆襲なのだから』


唱えるように発信される、仕手と剱冑の相互の声の終わりが。
その叫びに酔うように、その声に祈るように響き。
お互いが、お互いを信じるということさえももはや当たり前として言葉にしないで。


<速さこそが、正義なのだから!>
『アベンジ・ザ・ブルー!』


その最後の激突への合図だった。

そして……









『電磁抜刀――――〝禍〟』











装甲したまま、誰もいない、もはや誰一人存在しなくなったガレージに立ち尽くす武者が一対。
そのうちの一人が、じつにあっさりとここに来た最大の目標を発見すると同時に、おもわず呟いた。
ここにしての予想通りに、自分のもつ共感覚通りに、『それ』があったことが彼女の推論を肯定し、それとともに芽生えていた疑問をいっそう大きくしたからだ。


『ねえ、御堂。一つ、疑問があるのだけれど』
「なんだ、村正」


返す声は、平淡。
悲哀も、鬼気も、後悔も、すべて塗りつぶした声で、仕手が返す。
浴びた血潮でさえも剱冑の自浄作用によってすでに剥がれたように、そこにはつい先ほどまでの彼を覆っていた熱気と殺気は微塵も残っていなかった。
それを剱冑は当然として感じ―――あるいは、当然であると強く自分に言い聞かせて。


『どうして彼は……皇路卓は、アベンジに自己修復なんて機能をつけたのかしら?』
「……」
『だってそうでしょう? 私からみても、彼らの目的は速さだったのは分かりきっている。数打だった頃のアベンジでさえ、ああだったんだから』


どうして、真打となることで獲得した力のすべてを、速度にのみ特化させなかったのか。
そう、村正は問うた。



回復能力、などという蛇足をつけるぐらいであれば、砕けた鎧でさえもより速く、より高く飛ぶための機能を選ぶ方が、あの現代の鍛冶師には相応しい。
すべてを、すべてをただ速さのために。
あの男がそれが出来ないほどの下手糞には、もはや村正には見えなかった。


にもかかわらず、どうしてあんな選択肢を取ったのか。
優れた剱冑鍛冶である彼女にとって、あれほどの速度にこだわった鍛冶師が、回復能力にばかり力を注ぎ込んで、その結果として速度の向上にほとんどその機能を費やせなかった、というのには違和感がある。
以前の彼の執着を見てしまうと、どうにも村正にはおかしなことに見えた。
少なくとも自分が彼の立場であれば、そうした、そう思えたからだ。



だが、その一流の鍛冶師を持ってしても理解できなかった感情に対して、その仕手は答えを返す。


「俺には、少しわかる気がするがな」
『え? どういうこと』


戸惑いが、剱冑を覆う。
答えなど返ってこないつもりでかけた問いだったのだから、それをまさかこの人の機微に疎い仕手が答えを返すことが出来るとは思っても見なかったのだ。

もっとも景明が答えようとしているそれは、仕手としてではないため、その疑問は少々的外れではある。
それは、かつてレーサークルスに憧れた青年としての答えだった。


「村正……お前は誰かに「与えてもらった」力で他の剱冑を差し置いて、天下第一の名物と称えられたいか?」


その考えを、どうやって室町の頃、スポーツマンシップなどという言葉の欠片もない時代に生まれた己の相棒に理解させるのか、人の機微を覚えぬその様とは裏腹な聡明さを持つ彼は、考えた挙句に実に陳腐なたとえを持ち出した。

そのどこか優しくしかし間違った気遣いに気づくこともなく、彼女はその鋼の脳髄で創造した。


お前は選ばれた。
さあ、最強の剱冑となる力を、「与えて」やろう!

そんな光景を、村正は幻視する。
そして、自分がその力を持って他者を蹂躙し、己の正義を一方的に声高に叫ぶ姿を連想した。

その後すぐに、彼女は鋼の身にはあるまじき人間臭さで、こう吐き捨てた。


『……絶対に嫌ね。怖気が走るわ』


誇り高き剱冑鍛冶であった彼女にとって、そんなどこぞの誰かの気紛れで与えられた力によって己が打ち出されるなど、耐えられるものではない。
だからこそ、その馬鹿げたたとえ話によって、皇路卓の感情を容易く理解する。


なるほど、真打剱冑であれば、確かに数打などとは比較にならない力を持つ。
数打剱冑とも数多く戦ってきた村正にとって、その性能差は絶大なものといわざるを得ない。
だが、だからといってその力に胡坐をかいて、その力に頼りきった鍛冶を行うなどと、愚か極まりない。
もしこの時代に己が生まれ変わったとしても、最新の技術を得ることでたとえ適当に打ったとしても圧倒的な業物たる剱冑を打ちだせる自信があったとしても、手を抜くなんてありえない。

誰かによって、何かによって、自分に有利な条件を「与えてもらった」上で、他人と対等の勝負を競うなどと、御笑い種だ。
きっと皇路卓は、速度というただの一点だけは、己の命という不純物を混ぜることなく単純に機構としての優劣によってのみ達成したかったのだろう。

だからこそかの稀代の鍛冶師は速度に対してそんな不純物を混ぜることを拒み、また、どこぞの誰かから与えられた『卵』などという怪しげなものを頼るよりも、己の命を持ってそれを贖った。


とはいえ、それでも見ようによっては他の数打剱冑と比べてずるをした、ということもまた間違いではないが、彼が考えたことは別に彼しかできないことではない。
命を競技に費やす覚悟があれば、誰だって行うことは出来ることだ。
それでもなお、速度においてだけは彼は自分の鍛冶としての誇りにかけて、きっと手を出したくなったのであろう。


その精神の働きを、尊さを、同じ鍛冶師として痛いほどに理解した村正は、しかしその精神に対して、同意だけを吐くわけではなかった。


『……でもね、御堂』
「ん?」
『その「与えてもらった力」とやらで、銀星号を止められるなら……私たちがそれを拒むのもまた、馬鹿げていると思うわ』


善悪相殺。
今の彼らにとってそれは、彼らを縛る呪いであって、目標ではない。

彼らが掲げる今の目標は、ただの一つ。

破壊を振りまく妹《母》を、打破する。
それだけだ。


そして、罪人たる己たちには、そのための手段を選ぶなどという上等な資格などありはしないことを、お互いに知っているがために、そう村正が呟いた小さな声は。


「……違いない」


苦笑さえも起こさずに生真面目な音階で紡がれる仕手からの完全な同意とともに、『善を殺した後悔』と全く等しい、『悪を滅ぼす衝動』によって振り下ろされた太刀が妖しく輝く光球を破壊する音にまぎれて、宙に消えた。


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プロフィール

基森

Author:基森
蚕鳴や円禍と名乗ってたこともあります。

主に小説・ssなどを置いているブログです。

自前の本棚を持つのは初めてなので手探りでやっている程度のものですが、わずかばかりの暇つぶしにでもなれば幸いです。


メールは「kulukku106☆yahoo.co.jp」まで、☆を@に変えた上でお願いいたします。

そろそろ、非営利にならトップへのリンクフリーとか言ってみたり。

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