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神も仏もあるものか・雌伏篇

創作の肥やしが足りない気がする。


『御堂、また来る! っ、駄目、また避けられない!』
「全力で耐えろ、村正! やつとてダメージは受けているはずだ!」


切羽詰った声が響いた。
そしてその直後、それ以上に大きな音が聞こえた。

甲鉄と甲鉄がぶつかり合う音。
最強の兵器が、最強の兵器に戦いを挑んでいる音だった。

だが、その不協和音は、決して互角の戦いを彩るものではなかった。


『胸部被弾! 損傷は軽微、しかし度重なる衝撃で今度は駆動系が潰れかけてるわ』


最強というに相応しい名物、勢洲右衛門尉村正三世が一方的に追い詰められる音だった。


甲鉄。
飛翔速度。
旋回性。
攻撃力。
陰義。


飛行技術に劣り三体そろわなければまともに戦うことも出来ない剱冑ではなく、すべての行動を陰義に頼り、仕手の熱量にひたすら依存しなければ飛行もろくに出来ない剱冑でもなく、叩けばぽこぽこと軽い音がするうえにいくらでも曲がってしまうようなmkgpともまた違う。

すべてにおいて優れた傑作である三世村正が…………一方的に打ちのめされる光景であった。


「くっ、合当理と母衣の修復を最優先にしろ。このままでは一方的に嬲り殺されるだけだ!」
『もうやってるわよ! でも……っ、また来る!』
「お、おおおおおおぉぉぉ!!」


相手の剱冑を見て、村正の内心におもわず剱冑らしくもない愚痴じみた感情が生まれた。
それが故に、おもわず仕手相手に対してすら言葉が荒くなってしまう。
剱冑にしてはあまりに感情的なその態度だが、彼女が割合その身に人としての心を残していることを差し引くならば、それも無理もないものだ、といわざるを得ないような状況があった。

またも重厚な音が響く。
敵機の痩躯から剥がれ落ちた破片があたりに舞い散り、村正の装甲が火花を散らす。
剱冑による肉弾戦という異常は、当然ながら人体によるそれのようにある程度まで柔らかいものがぶつかり合うのではなく金属と金属のぶつかり合いであるが故に、一方のみではなく双方に対して少なくない損害を与えている。
だが、それでもなお……結果としてあるのは圧倒的なまでの劣勢だった。



誰が想像しただろうか。
陰義の一つ、それどころか武器や兵器の一つさえ持たない剱冑相手に、村正と言う名を持つ剱冑が敗北を受けそうになるだろうと。

なるほど、確かに彼女は幾度となく母親である二世村正に敗北を喫している。
だがそれは、相手の仕手がどういうわけか、「無限に陰義を使い続けることが出来る」という反則級の特異性を持つがゆえのものであり、剱冑としての性能は決して劣っていない。
それどころか、あまりにその性能を陰義の力に偏らせすぎた先代に比べれば、三世村正の剱冑としての評価は凡夫のみならず一流の剣士をもってしても高くなるに違いない。
剱冑としての三世村正の評価は、決して初代や二代に劣るどころか、むしろ代を重ねて洗練された技術があるだけに優れており、だからこそ彼女こそが二世に秘められた「善悪相殺」が世に悪をなすのであればその野望を阻止することが出来ると認められるほどのものだ。

だが、そういった事実があるからこそ、なおさらにこの今の状態……天下の妖甲たる村正が「機体性能の差」によって一方的に打ちのめされている状態の異常さを物語るものである。


なるほど、相手には『硬さ』はない。
それどころか、『力』も、『技量』も、彼ら村正とは比較にならない程度だ。
その点においては、語るまでもないほどの機体性能や仕手の腕において上回っている。

稀代の妖鋼と呼ばれ、その力の大部分を装甲と力に割り振った村正一門に「比類」する剱冑鍛冶ならばいなくはないが、その彼女らを「圧倒」する剱冑など、それこそ同門のものぐらいしかありえない。
そして、それを駆る仕手をしても、才を磨き、努力を重ね、経験を積んだ湊斗景明を一蹴出来るような武者など、何かの異常を用いなければ、ありえない。


だが、それでもなお。
彼女たちに与えられたのは、腕をも貫く鋭い衝撃と、独特の風切音とそれによって引き起こされた暴風が肌を撫ぜる感触だった


『まったく、あれのどこが「競技用」なんだか!?』


それを受けきったと思いきや、またも眼前に迫る敵機の影に、仕手からの指示が来る前に装甲を固める。
この相手に回避は無謀だ。だからこそ、仕手である湊斗景明もその武器であるはずの村正の勝手な行動を咎めようと馳せずに、むしろ反射的に己の腕も十字に交差させてその行動に追随した。

彼女の愚痴は、唯の一つ己が相手に劣る一点、『速さ』という強みに遮られて対戦相手には届かなかったものの、景明には完全な沈黙という名の同意によって迎えられた。









きっと、誰もが考えた、ことがある。
おそらく競技用剱冑の製造を手がけたものならば程度の差こそあれ、誰しもが一度は思ったことだ。
そして、その思いの度合いはきっと、世界最速を作り出すことに賭けているものが重い者ほど、強くなったことであろう。



恵まれた肉体と知性を表すかのような美貌を持つ若者が、大空を見上げながら呟いた。
「いずれは、世界の大舞台に立ちたい。あの世界最速の男の背を見た瞬間、そう思って来たんだ」
弱い。弱すぎる。
そんな夢物語を寝言以外で語るものでは、きっと頭をよぎるだけで終わってしまう。


フケまみれの髪の男が飲み干した杯をテーブルに叩きつけながら、叫んだ。
「あの会社にだけは、負けられない。今度こそ、今までの屈辱を纏めて返さなければならない」
そんな程度の覚悟か。
所属する会社に対する愛社精神に端をなすそんな想いでは、きっと自社が潰れた程度で潰える程度のものでは、仲間内で酒のつまみとしてちらと話題に上げるだけで精一杯だ。


老境に差し掛かりつつある男が、血走った瞳で唸るように声を上げた。
「今までの人生、これにかけてきた。もし出来ないのならば、今までの時間すべてが無駄になってしまう」
ようやく、近付いた。だが、まだ、弱い。
二十数年の月日を賭けてはぐくんできた思いは、しかし残念ながら今後の余生で薄れて消える程度である。時がたてば、そんなことを思い込んでいたことを笑って話せる、そんな程度。


そして、男が言った。
「速く。ただ、速く。そのためならば、自分の血も、肉も、命も、魂さえも捧げても惜しくはない。狂おしいまでの速さへの挑戦、それだけが自分の生まれてきた意味で、最速であれるならば、今すぐ死んでも惜しくはない」
ここまで来てやっと、本気の検討にあがる。
情熱も、愛情も、時間も、とうにすべて捧げつくした上でもまだ足りぬと自分自身の身を削り、それでもなお足りないものをどうにかしてほかに支払えるものがないかと常に考えている者だけが、その発想を真剣に考え出す。



きっと、その狂った速さへの代償を。







競技用剱冑は、もともと数打剱冑をベースとしている。

剱冑の人格の統制を機械式計算機で行う数打剱冑は、だからこそその製造に極めに極めた熟練の剱冑鍛冶師の命を要求しない。
この技術の進歩によって、今まで一人の鍛冶師につき一領しか打てなかった剱冑を様々な制約はあれど数多く打つ事が可能となった。
人の命と引き換えだった剱冑という武装は、そのことによって爆発的に数を増やし、利便性を増し、今までとは比べ物にならないほどの様々な可能性を生み出した。
技術の進歩とともにその性能はますます増しており、やがては真打剱冑に勝るとも劣らない強さを持つ数打剱冑が生まれることは、もはや間違いないであろう。

性能、という面では剱冑鍛冶が命を賭けて作った真打が勝ることは間違いない。
甲鉄錬度、騎航推力、騎航速力、旋回性能、上昇性能、加速性能、身体強化。
どれをとっても、数打剱冑は真打剱冑に劣っている。
これは技術的な限界を示しているものであり、例え今後どれほど技術が進歩しようとも、容易にひっくり返せるものではない。
所詮、写しの魂で与えられる物はそれほど多くないのだ。
ただ、戦という面ならばそれは武器一つ―――たとえば、発振砲。たとえば、高速徹甲弾―――でひっくり返せる程度にまで縮んでいる。
そして、戦という面以外ならば、一つの逸品よりも多数の凡作のほうが、よっぽど使い出があることは間違いなかった。


そんな数打剱冑の新たな可能性の一つが競技用剱冑、レーサークルスであった。
命をかけての武器だった剱冑は、その対価として代替不可能な命、というものを必要としなくなったことで、言い方は悪いが『娯楽』として使い潰せる程度のものへとコストを下げた。
製造工程を作るために国が傾くほどの費用が必要であるとはいえ、逆に言えば費用さえあれば何とかなる程度にまでなったのである。


速く、ただ速く。誰よりも、速く。
コースに沿って速度を競うだけのその競技は、初めは剱冑を趣味に近いレベルで所有する金持ちたちの遊びとして始まった。
だが、回を重ねるごとにそれはもはや剱冑を使っての余技ではなく、純粋にただ早さを競うためだけのものとなっていったのだ。
そして、それにしたがって製造に命を必要としない数打剱冑はその姿を変えていった。
速度を上げる為に合当理と母衣を巨大化させ、その形を空力性能を最大限引き出せるように最強の兵器である剱冑としては極めて歪に変化させ、運動性を上げる為に旋回、加速の機能だけを研ぎ澄ませて、不要な待機形態からの変形機能をオミットし、仕手との五感の共有機能を失って。


だが、そもそも剱冑の大きさは有限であり、その腕の中に収められるものは限られている。
技術の進歩はあれどもそれ以上に今までよりも何かを得ようとするのであれば、当然今まであった何かを減らすことで賄わなければならない。
数打剱冑がベースであるが故に元々持っているものが少ない競技用剱冑は、そういった騎航能力を上げる為に今までの剱冑が持っていた戦闘用の武装としての機能をいくつも失うこととなった。
速度を少し上げるごとにその甲鉄の錬度を一つ落とし、運動性をさらに上げる為に仕手―――装甲騎手の身体強化能力をがくんと落とすこととなった。

命を費やさないが故に使い潰せる。それこそが数打の最大の利点だ。
少しずつ、少しずつ改良を重ねて、それによって得たものと同じ分だけ今まで持っていたものを失っていった剱冑は、やがて数打剱冑とさえも全く違うものとして生まれ変わった。



競技用剱冑―――レーサークルス。



もはや、戦う為には使い物にならない、しかしある意味本家をも凌駕するものが次々に出来上がっていった。
銃弾一つ防げない脆弱な装甲は、しかし風を切り裂いて進む為には最適の形と軽さを手に入れた。
常人とほとんど何も変わらない程度にしか装甲騎手の肉体に作用できなくなったその機構は、その代償に熱量を合当理に注ぎ込むにはもはや本家が足元にも及ばないほどの効率をたたき出した。
全周囲を警戒し、遠方から飛来する武器さえも警告するはずだった剱冑の機械式計算機は、風と己、そして隣に並ぶ強敵たちの動きを見切るためだけのものとしては世界のどんなものよりも優れた効率をたたき出した。。



ただ、速度という一点だけのために尖らせてきた剱冑、競技用剱冑はこうして基礎が出来上がった。
だが、これで完成ではない。この剱冑が作られたのは、数打剱冑や真打剱冑に速度で勝つというただの理論実験のためなどではないのだ。
すべての目的は、最終的にたった一つに集約される。


速く、ただ速く。
誰よりも、速く。
何よりも、速く。

そのためだけに作り出され続けている競技用剱冑は今なお進歩を遂げており、それを作る現代の鍛冶師たちは日々それに心血を注いでいる。
その中には、命をかけずに作り出すことが出来るようになった剱冑を世界最速にするために、文字通り命を懸けて挑んでいる者さえも、存在していた。



だから、そんな世界最速の競技用剱冑のために生きている彼―――皇路卓がそういった発想にいたるも当然だった。

競技用剱冑は数打剱冑を元としている。
すなわち、剱冑に数多くの魂を転写する方式を取っているがために今ある騎体を破棄して、新たな理論を組み込んでより速い騎体を打ち出すことが出来ている。
だが同時に、数打剱冑を元としているが故に、その中に込められる力には大きな制限が掛かっている。
その制限の中でいかに速い騎体を作るか、ということでもはや削れるところはすべて削って今自分は騎体を打ち出している。


だが、もしも。
その騎体に数打剱冑の限界を超えて力を込めることが出来たのならば。
さらに、さらに速い騎体。
今までの限界を超えて新たな世界へと踏み出せる騎体が出来るのではないか。











誰よりも、何よりも速い剱冑を打つ。
ただそれだけを考えて生きている皇路卓が、己が命を使ってのその発想に至ったのは、ごくごく自然なことだった。
今まで数打で培ったノウハウはそのままに、それをさらに一歩踏み出して、更なる力を秘めた剱冑の力を、すべて速度に費やす。
無論、それによって得られる力がどれほどのものなのか、正確に算定できない以上無駄になってしまう部分が出るのは間違いない。
自分の命という一つしか与えられていないものを使って、一度っきりの鍛造によって、今まで必死になって探し続けていた「今まで」競技用剱冑の最適なチューニングと同等の難解さを持つであろう「新たな」競技用剱冑の最適なチューニングが見つかる、と考えるのはあまりに楽観が過ぎる。

だが、それでも。
今までの「数打」競技用剱冑と比べれば遥かに大きな力を持たせることが出来る方法を使えば、今までよりもより大きな推力、より繊細な旋回性能をもって、今世界の頂点で競い合う数多くの「数打」たちさえも尻目に、到底太刀打ちできない段階まで登ることが出来るであろう。

それを考えなかったといえば、嘘になる。




だが、皇路卓はその考えを、いろいろと考え、そのために必要な手法、準備をすべて整えた上で、命を速度の為にかけるレベルの有能な他の競技用剱冑製作者たちと同じ理由で却下した。
その理由は、勿論命が惜しいだとか法的に許されていないとかそういったちゃちな理由ではない。
そんな程度の理由であれば、皇路卓を止める為には何の役にも立たない。きっと、すぐさまその命を剱冑に捧げたであろう。


彼が考えたのはただの一点。
それは、その「新型」はたった一度しか打てない、という点だ。

彼が今まで打ち出した競技用剱冑は、十にも満たない。
だが、その剱冑は一作一作確実に、着実に速さのために進歩し続けてきた。
実践を繰り返し、それによって得られたデータをフィールドバックして改良し、その素体の改良ではもはや追いつかぬ、と感じた段階で更なる最適化した剱冑を新たに打った。


その結果として出来たのが、誰もが驚き、時には馬鹿げたものをと笑った、自分の最高傑作、『アベンジ』だ。
今まで打ってきた剱冑を踏み台にして、それらすべてを「あえて」無視して踏みにじることで作り上げた、渾身の一領。
これは間違いなく、今までの経験を総動員することで始めて打ち上げることが出来た最高の競技用剱冑。
だが、それさえも完成ではない。

これをさらに磨き上げ、進化させることで速さの極みへと達する。
改良し、改造し、研ぎ上げて……いずれは、このアベンジで培い、築き上げた可変式ウイング機構を磨き上げた、世界最速の騎体を作り上げる。

改良と、新調とを繰り返して高みに上っていくことが出来ることこそが、数打の利点だ。


だが、彼が一時開発に取り組んだ「新型」にはそれが出来ない。
生涯たった一領しか打てないそれは、日々進化する技術の進歩のことを考えると、極めて効率が悪い。
例えるなら、もし打った日の翌日に画期的な新技術が発見されたとしても、それを剱冑に組み込むことが出来ないかもしれないのだ。
あくまで現時点での最速しか作り出せない「新型」による競技用剱冑は、今まさに数打剱冑によって戦場での働きが取って代わられようとしているように、いずれは追い越される過去の遺物となりかねない。
それは、伝説を目指す皇路卓の理想とは相容れないものだ。

無論、皇路卓が不老不死でもない限り、未来永劫に至るまで最速でい続ける、ということは不可能なわけではあるが、それでも剱冑鍛冶として心身の充実したころに打たねばならぬその「新型」剱冑と、機械の助けを借りることで病床、死の間際であっても一応打つことの出来る数打剱冑とでは、進歩にかけられる時間が違いすぎる。
脳髄の、技術の進歩による進化には、肉体的な衰えの影響は少ないのだ。


だからこそ皇路卓は、そのために必要なすべてを備えた上でそのことによるリスクとメリットを十分比較衡量して、その誰もが考え付き、しかし誰もが否定したその画期的な理論を自身のアベンジには組み込まない―――あるいは、組み込むには時期尚早である、との判断を下したのだ。

だが。


「なあ、操……」
「何、お父さん?」


砕けた剱冑を前にして、二人は向かい合った。
その二人の間の距離は、父と子、というにはあまりに近く、兄と妹、というには余りに遠かった。
だが、彼らにとってはそれこそが普通、いつもの距離だった。

だからだろう。
皇路卓が漏らした僅かな声にさえも、少女はすぐさま反応した。


たとえその声が、絶望と焦燥によってもはや枯れ果てたような小さなものであろうと。
たとえその眼差しが、内に宿った狂気と強欲を表したような濁ったものであろうとも。
それを皇路操が聞き漏らすわけがなかった。


絶対の信頼―――否、信仰がそれを保障する。
彼女の信ずる「神」が、この状況をただただ嘆いて過ごす、などということ、全くもってありえない、と彼女には分かりきっていたからだ。
打開策は必ずあるはずだ。

彼が願い、彼女が叶えると誓った夢のためならば、彼は、彼女は……何を犠牲にしてもかまわなかった。

だからこそ、彼女はそれに応えようとただの一声だけを返しただけで、ただひたすらに祈りながらその「神託」によって己がなすべき行動を示されることを待った。


「……操」
「……?」
「お前は……僕を、信じるか?」


だから……これ以上競技用剱冑を打つことが出来ない、というのであれば、それを行うことに両者とも否はなかった。

アベンジは決して誰もが手放しで褒める傑作機ではない。
実際、先にも述べたように速度と引き換えに数多くの欠点を抱えているのだ。


唐突に行われた、問い。
そのすべてが込められた問いの意味など、弱年の皇路操はほとんど理解できなかったに違いない。
だが、それでも彼女はほとんど即答した。それは、もはや語るまでもないごくごく当たり前のことだったのだから。


「……うん。わたしはお父さんを、信じてる。何があっても」
「そうか……」


それによって、皇路卓への最期の一押しは成った。


タムラの中でさえ否定的な声が多いそれが、この社運すべてを賭けた装甲競技の賭博化の是非を問うこの大一番でもしも敗北するようなことがあれば……おそらく、第二のアベンジ系統の騎体は造られることはもはやないだろう。
個人で作れるほど、競技用剱冑というものは安価なものではないのだから。
ボルト系開発者の山崎が主流となって、次代のタムラを築いていくことになる。


それでは、皇路卓には意味がないのだ。
勝つのは、世界に勝たねばならないのはタムラではない。
皇路の名なのだ!


「お前には、僕のすべてを教えてきた。そして、お前はそれにすべて応えてくれた」
「……お父さん?」
「だから今度は……お前が僕を導いてくれ」
「え?」


父の言葉の意味を理解していないであろう娘は、絶対者であったはずの父が、逆に己に対してかけた、祈りを捧げる敬虔な信者にも似た縋るような声に思わず疑問の声を上げたが、卓は応えないまま血走った目で後ろを振り返った。

そこには、クレーンに吊り下げられた騎体があった。
砕けてもなお、美しい騎体。
彼のすべてを賭けて作り上げた甲鉄は、脆くも鋭い。
彼が信ずる理想をそのまま形にしたら、きっとこのような形になるのであろう。
その思いは、この剱冑の設計構想が出来てから、一度たりとも途絶えたことはなかった。
きっと、自分はこれを生み出すために生まれてきたのだ、と感じた。
皇路卓の生涯最後の一領として、不足はない。


「打ってやる、操……この皇路卓最後にして最高の一作を! だから……操。僕を世界の先まで、連れて行ってくれ! この僕が、皇路が、アベンジこそが、世界最速なのだと証明してくれ!!」


叫びと共に、皇路卓はすぐさま槌を取った。


機体の性能はそのままに。
速さを、僅かなりとも損なうことなく。
競技用剱冑が数打であるが故に削ぎ落とされた、剱冑自身による損傷を修復する能力を獲得する。


「真打」の競技用剱冑を鍛造する為に。

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プロフィール

基森

Author:基森
蚕鳴や円禍と名乗ってたこともあります。

主に小説・ssなどを置いているブログです。

自前の本棚を持つのは初めてなので手探りでやっている程度のものですが、わずかばかりの暇つぶしにでもなれば幸いです。


メールは「kulukku106☆yahoo.co.jp」まで、☆を@に変えた上でお願いいたします。

そろそろ、非営利にならトップへのリンクフリーとか言ってみたり。

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