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神も仏もあるものか・野望篇

番外編、というか今までとは別の話です。
時系列やルートも違います。
茶々丸、出てきません。

……項目作るのもあれだったんでタイトルとか目次、流用したんですが、分けた方がよかったでしょうか?
基本的な根底は一緒のつもりで書いてるんですけど。












彼女にとって、それは生まれて初めての安らぎだった。

この世に生まれて来たときから死ぬまでずっと、彼女は戦っていた。
戦え、すべてを賭けて、すべてを捨てて、ただ戦え、と……そう、『神』から定められていた。
戦う為に生まれてきたのだ。
戦う為に育ってきたのだ。
彼女は、それ以外のすべてを知らなかった。


だからこそ、今の状況は彼女にとっては初めての体験だ。

常に全力で走り続けなければ背後から何か強大な化け物に襲われるかのごとき焦燥がない。
たったそれだけで、これほどまで世界は静かなのか、と。

意外ささえ感じるその静けさの裏では、激闘が繰り広げられているらしいが、彼女にとってそれはもはやどうでもいいことであった。





神聖なるレースを汚す輩を憎憎しげに、しかしその暴挙を防げたことに安堵の感情を持って睨みつけていた湊斗景明は、その六人を視界に収めていたがその死角にいたひとりにまでは角度的に目を向けていなかった。
すべて制圧が終わった時点でそれは決して間違った判断であったといえるほどのミスではなかったし、実際その男の手の届く距離にお宝はなかった。

だが、事を終えてみれば、それは彼自身をもって失敗であったと己を責めずにはいられないほど致命的なミスだった。


パン、と軽い音がした。
本当に、軽い軽い音だった。
それは決して超重の武者同士が空中にて鍔迫り合いにてぶつかり合ったときに出るような轟音ではなく、また陰義という超常の現象によって生じた異形の殺人剣が発するような異音でもない。
ただ、ほんの数十グラムの粉末が衝撃を受けて発火し、燃焼し、その勢いを持って僅か数グラムの金属塊を空へと飛び立たせた、たったそれだけのことを表す実につまらない音だった。

それほど一般的な音ではないそれは、優れた武者といってもどこからも非難は起こらぬであろう、しかしとある少女ほどの耳を持っていなかった男、湊斗景明に、その音の意味をすぐには理解させなかった。




「ああああ゛っ!」
「お父さんの……騎体が!」


だから、何事か、と振り向こうとした景明の注意を、そのさっき鳴ったばかりの音を掻き消さんばかりの悲鳴が上書きして呼び寄せた。

すべてを嘆くような悲鳴に、思わず景明は振り向いた。
そこには、美しく優美な蒼い表面に醜いひび割れをつけた騎体と、その前にまるでありとあらゆる負の感情をぶちまけたような表情を浮かべた男の姿が合った。


場所は、タムラファイティングファクトリーの整備部屋。
偽の箱という奇策で相手の破壊工作を防いだタムラであったが、それによってすべてを防げたと油断したほんの一瞬の隙を突いて放たれた凶弾は、防げなかったのだ。


絶望の声を上げる男の声を皮切りに、事態は動き出す。
事の原因となった銃弾を放った男、おそらく最期の一念で一撃を喰らいつつも気絶もせずに意識を保っていた翔京の工作員が大鳥大尉によって問答無用で「黙ら」されたことでここに不法にも乱入してきた連中はすべて沈黙することとなったが、一手遅かった。
手榴弾ほどの威力を持たない、いやそれどころか直接的な物理的なエネルギーの総量としては鉄の棒を振り下ろしたものにも劣る威力しか持たない鉄の弾であるが、精密機械にも勝るとも劣らない繊細さを持つ剱冑に致命傷を与えるのには十分だったのだ。
予備の予備として隠し持っていたのであろう、拳銃という凶器を異常なまでの執念と受け取った金銭に対する責任感で最適の瞬間に放った男は、この後留置所にぶち込まれることも、すさまじいまでの恨みを受けることも、肉体的に回復不能なまで痛めつけられるかもしれないことを理解していたであろうにもかかわらず、そのにやけた顔を変えることなく激痛によって気絶していた。

なんといっても、彼は役目を果たしたのだ。
先に述べたそのどれが行われたところで、彼が与えた致命的な損害が回復することはもはやないのだから。


「僕の……僕の、アベンジが!」
「そんな、そんなことって……」


穿たれたぼろぼろの木箱は、その外見同様防御の力を発揮することもなくあっさりとその向こうへと通し、内に守るこの世界における唯一無二のモノを無粋な侵入者に明け渡すこととなった。
砕けた木の板の隙間から、僅かにではあるが確かに、パラパラと金属質の破片が落ちてくる。
その破片は、間違いなく蒼い魂の色をしていた。



この瞬間、アベンジの大和グランプリ決勝戦への出場不可が決まった。



誰もが、呆然とするしかない結果だった。
もはや、慰めの言葉や応援の言葉さえ出てこない。
いや、悲しみや怒りといった感情さえ、それらすべてを表して嘆く一組の男女―――破壊されたアベンジの設計者と騎手の大きさを感じ取ってしまえば己が表すわけには行かなかった。

悲劇を防げなかった湊斗景明は、この瞬間悪鬼としてではなく一人の人間として、そのことに悲痛を覚えた。






《逆襲》アベンジは、今までのレーサークルスとは一線を隔した騎体だ。
可変式ウイングマウントという夢物語を実現させたそれは、タムラが今まで積み上げてきた技術をほとんどすべて無視して、ただ一人の男の執念ともいえる鍛造によって作り出されたものだ。
過剰ともいえる出力を重視した中枢設計に、風を弾き受け流すことしか考えていない流線型の甲鉄、何も知らぬものには狂ったとしか思えないほど低角度のダンパー。
タムラのボルト系レーサークルスが培ってきた、『安定した高速度』というものすべてを否定するかのごとき速度重視の―――否、速度偏斜というしかないチューンナップ。

最高の素材で最高の機構を、という《理想》ウルティマ・シュールなどとは比べ物にならないほど、偏って狂っている思想の元作られた騎体だ。



「あたり」の強さなんて、考えたことがない。
敵機の体当たりによる妨害はすべての騎体を追いつかせもしないことで防ぐ、という狂った思想の元、甲鉄は最小限だ。

整備性もほとんどない。
今までの騎体とは技術体系がまるで違うがために整備用の機械もすべて新調したが、複雑すぎる機構をいくつも備えたその騎体は整備班にとってもじゃじゃ馬だ。一戦ごとにオーバーホールにも近い整備が必要だった。

騎手への守り、安全装置もほとんどない。
少しでも操作を誤って事故でも起こせば、その極限まで薄く軽く脆い騎体はただの棺おけにしかならない。だからこそ、皇路卓はこの騎体に最適の騎手を『作り出す』ことで、操作ミスそのものをなくすことにした。
騎体を騎手に合わせるのではない。騎手が騎体に合わせるのだ。


唯一つの目的。
一分二十五秒一三の壁を破る為に。


すべてが、すべてが偏執的とも言える執念によって削り上げられてきた騎体。
究極のバランスを騎体の中でせめぎ合わせて、時にはその範疇から無理やり逸脱させて、騎手の力も込みでぎりぎり走らせていたそれは、僅かな瑕疵でも騎航不可能になってしまう。
それこそが、速さと引き換えにアベンジが奪われた『代償』だった。

それでいいと皇路卓は思っていた。
速さのために、すべてを犠牲にしてもかまわないという信念を形にしたものがアベンジだから、そのことによって敗北したとなれば否はなかった。


だが、だが!
だからこそ、速さで競うことも出来ずに戦いの前に破れるなどと、認めることなど出来なかった。








「皆さん……本当にありがとうございました。心からお礼を言います」
「いえ……申し訳ありませんでした。あなたの心血を注いだ騎体、お守りすることが出来なかったこと、真に遺憾です」


我に返ったのであろう。
皇路卓はまず、景明たちに礼を述べてきた。

あまりに空虚なそれは常に聞いたのであれば鼻白む者とていたかもしれないが、この状況でまずそれがなされたことにむしろ景明たちは気まずささえ感じていた。
どれほどの悲しみだろう。どれほどの怒りだろう。
その胸の内を推し量るしか出来ない傍観者相手に、今なお涙を流し続ける娘を胸に抱きしめて慰めながらもこちらに対して気遣うその様は、理想の設計者といっても過言ではない姿だ。

すべてを賭けていたものを失ったにもかかわらず、このような態度を取れることに、尊敬よりもむしろ哀れみのほうが強くなる。
だからこそ、こちらも反射的に口に出すことになってしまった無意味な謝罪だったが、それさえも彼は笑って受け流した。


「いえ、操が無事だっただけでも何よりです」
「…………」
「機体は……アベンジはまた造ればいい。だけど、操の替えなんて物はどこにもないんですから」


きゅっ、と胸の中でいまだ涙を流し続ける少女に回した手の力を僅かに強めるだけで、そう呟いたその方は、何処か一回りほど小さくなったように見えた。
半狂乱ともいえる態度をいまだ取っている少女に比べれば、確かに彼は父として年を重ねているだけに一時の狂気から冷めた後はひどく冷静さを保とうとしている様子だったが、その回した手が小刻みに震えていることでそれが表面だけだったことは誰の目にも明らかだ。


少女が無事だっただけ、何より?

そんなはずがない。
そんなはずがなかった。
騎手だけで走れるわけがないのだから、卓の言葉は全くもって空しかった。

剱冑と騎手。二つそろっての、彼の逆襲だったのだ。
それは僅か一日前にアベンジの機航を見たっきりの景明たちにさえ分かっていた。
無事だった、というならば両者ともでなければならなかったに決まっている。
そう、彼の胸のうちに抱いた感情、逆襲に至るまでの思いを景明は完全に理解しているとはいいがたかったが、その程度のことは理解出来るほどに、彼らの情熱はすべてその機体に注がれていたのだ。

それが潰えたにもかかわらず、表面だけでも取り繕って相対する彼のどれほど偉大なことか。


そんなこちらの感情を察してだろう。
皇路卓はまるでこちらを励ますかのように大きな声で言った。


「それに、まだ終わっちゃいない。アベンジは何とか修理して見ますよ」
「それは……」
「そうだ、こんなところで終わってなんかいられない……ここからだ。ここから、僕達の逆襲は始まるんだから」


己の言葉に自ら興奮してきたのか、徐々に瞳が血走ってくる。
修理が可能な傷ではないことは明らか。にもかかわらずその言葉を出す彼に対して、景明は否定の言葉を持たなかった。

装甲競技を愛する彼、湊斗景明は、当然ながら競技用剱冑の脆さを知っている。
少々古い知識であるがため最新機であるアベンジにまでそれがそのまま適応できるわけではないのは分かってはいたが、異形たるアベンジであってもその範疇をそこまで逸脱出来るわけがないこともまた、数打と真打の違いを痛感している武者として、知っていた。

それにもかかわらず、それをまるで現実のように語る彼の姿は、英雄であった彼に憧れの目を向けていたものとして、正視に耐えなかった。
だからだろう……村正の改修を理由に言葉少なにその場から立ち去ることしか、景明には出来なかった。


「そうだ、僕は、操は……世界に挑むんだ!」


そしてそれゆえ、狂気にも似た皇路卓の最期の呟きは、彼の耳には入らなかった。




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プロフィール

基森

Author:基森
蚕鳴や円禍と名乗ってたこともあります。

主に小説・ssなどを置いているブログです。

自前の本棚を持つのは初めてなので手探りでやっている程度のものですが、わずかばかりの暇つぶしにでもなれば幸いです。


メールは「kulukku106☆yahoo.co.jp」まで、☆を@に変えた上でお願いいたします。

そろそろ、非営利にならトップへのリンクフリーとか言ってみたり。

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