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外史につくろう穢土幕府・47

停滞よりも無為にであっても侵攻すべきだ、と悪一刀君も言ってるので、上手くいかないけどもう諦めます。
がんがん進むよ!














この地は河東。
かつて一人の少女が築き上げ、そしてそれを守る為に散っていった小さな、されど大きくなりつつある街だ


「あ~、疲れた疲れた。すげぇ働いた気がするし、昼はなんか美味いものでも食いにいくかな」


今日は書類仕事には飽きたので張り切って各所に対して視察(と称したエロ巡業)を午前中一杯おこなった一刀は、そんな世の労働者様たちを馬鹿にするようなことを言いながらいつも通りとある部屋へと向かった。
権力者にしてはあまりに軽い足取りではあるが、いざとなればいくらでも盾を召喚できるこの城下においてはそれほど問題のある行為ではない。
実際に一刀本人は気付いていないものの、彼の身を案じた優秀な人材たちは影に日向に彼の行動を制限しないように細心の注意を払いながら今もその身を案じている。
そのことを知識としては知らなくても、実感として自分の身の絶対的安全が保たれていることを知っているがために一刀はそれを当然と受け取って、我が物顔で城内を闊歩して目的の部屋の前にたどり着く。

突然現れた最高権力者の姿を見てその部屋の前の椅子に座って控えていた侍女があわてて取り次ごうとでもしたのか、腰を浮かせたのを手だけで制して、一刀は勝手に私室の中でも応接用に使われている部分へと遠慮の欠片もなくずかずかとあがりこんだ。
一応彼の城の中であるとはいえ、他人の私室に入り込むには随分乱暴なものであったが、どのみちこの部屋に住まう連中はそんなこと気にもしないであろう、ということを経験から知っている一刀は特にその行為に何かを思うことはなかった。
なんてことはない、ただいつも通り自分の女を訪ねるだけなのだから。

もちろん、何もこの河東の主である彼自身がわざわざこんなことしないで執務室から誰かを呼びに行かせてもよかったのだが、今日はたまたまそういう気分だったのだ。
だからこそ、今までとはちょっと異なり自分自身で他人に誘いを掛ける、ということにわずかながらの新鮮味と可笑し味を感じながら、一刀はしばしあたりを見渡す。


「あれ、奥にいるのか? それにしちゃ静かな気もするが……」


が、そこを見渡しても御目当ての人間がいないことを確認すると、肩をすくめてその奥にさらにあった個室へと続く扉をこつん、と叩いた。
流石にそこ―――寝室にはいきなり踏み込まない。
別にそれをしても何も言われる筋合いは無いと思うが、だからといってそんな三流ラブコメにもありそうな揉め事をわざわざ起こすようなことは好みではなかったからだ。


ノック、という風習が通じることは今までで十分承知していた為、それで一刀は用が足りるであろうと予想していた。
だが、残念ながら彼のお目当てはまたも外れた。扉は彼の拳の発する音に対して沈黙で応えた。


「あ~、ひょっとして、留守か?」


ふと思いついて先の侍女に尋ねると、どうも朝から街へと繰り出しているらしい。

珍しく直々に足を運んだにもかかわらず空振りさせられて多少気分を害した感がないではないが、まあ自分が目当てとして訪れたこの部屋の持ち主である彼女たちが自室にこもらずどこぞへとふらふらしていることは珍しいことでもなんでもないので、一刀はそれを溜息一つだけで抑えて、街に飛ばしている諜報員から目当ての人物の現在位置の報告を受けるためにその部屋の椅子へとどっしりと座り込み、手を上げて天井に控えているであろう者に合図を送った。


「やれやれ、どこでまた遊んでるのやら……」


合図に応じて僅かな物音が動いていくのを聞きながら、一刀はこの部屋―――一刀が貸し出している河東城内に用意された麗羽の私室―――にあった椅子を勝手に引いてどっかりと座り込み、目を閉じる。
待たされているにもかかわらず、その表情は柔らかい。普段であれば僅かな時間も己が待たされる、ということを許容しない一刀が、ことこの相手だけは例外としている。
そのことが……いや、そもそも、私室に出入り自由とされていること。そして、ほかならぬ一刀自身がおのずから袁紹を探しに来たこと自体が、彼と彼女の関係の進展を何よりも雄弁に語っていた。











「え~っと、後とりあえずこれだろ、それにこれもだろ、それからこれとこれとこれも!」
「文ちゃん、そんなに食べると後で大変だろ?」
「いいんだよ、斗詩。どうせアニキか麗羽様のおごりなんだから。こういうときに食っとかないと!」
「あら、わたくし今日はお財布持っていませんわよ?」
「……そもそもこっちが一言も言ってないのにさも自然なようにタカるなよ」


街で袁紹らと合流した一刀は、ちょうど時間が時間ということもあって空腹を訴えた文醜の扇動によって、とある飲食店へと入っていた。
一国の国家元首といってもよい彼らが突然訪れたことで店の者達の混乱もひとしおだったが、そんなものなど彼らの内の誰一人、気にもしなかった。
支配階層としての傲慢さをそのままに、当然のように最もよい個室を強制的に開けさせ、そこに集ってはてんで好き勝手に注文をつけて卓の上を山海の珍味で並べつくさせる。
おそらく大変であったろうが、そんなものなど気にもしない……不満も苦労も、すべて金銭で解決する。
金払いだけはいいだけに、誰も何もいえないのだ。

最近ではよく見かける光景だった。


「まあ、いいじゃありませんこと、そんな些事……それにしても、猪々子のお勧めですから最初はどうかと思ったのですけど、割といけますわね、このお店」
「ん? ……ああ、正直質より量を覚悟してたんだが、どれも美味いな」


とりあえず会話もそこそこにむさぼり喰らう猪々子の勢いに押されてしばし無言で食べていた全員だったが、それも腹がある程度くちくなってくると収まるものだ。
ある程度は空腹も収まったのか、食べるペースを若干落としてそのつややかな唇を布で拭って一息入れた麗羽がいった言葉に、一刀は完全なる本心より同意の意を返す。

人種も生まれた時代もおそらく違うであろう二人でありながら、割と味覚は似通っているのか食べ物の好みは近い。そして、今までの美食によるものかどちらもそれなりに舌も肥えている。
その二人が素直ではないとはいえ賞賛の言葉を述べたことで注文を聞くためにこの部屋にて直立不動で控えていたこの店の者は内心喝采を上げていたが、その賞賛の裏側で微妙に馬鹿にされているのが気に食わなかったのか、文醜は逆に抗議の声を上げた。


「二人ともひどいですよ~あたいはこれでも『ぐるめ』なんですからね」
「文ちゃん、ほらそんなに匙を動かすから零れてるよ」
「あ……ごっめ~ん、斗詩。悪いな」


餡の掛かった炒飯のようなものを載せたレンゲをふりふりしながら、『二人』の主に対して言うその口調はちょっと憮然としたものではあったが、もちろん冗談じみた二人の言葉を本気で取っているというほどではない。
だから蒼の少女に注意されたことであっさりと正気に戻ってその行動を取りやめて謝罪した。
一貫性というか、落ち着きのない態度に一刀と麗羽はまるでやんちゃな子供でも見たような表情で顔を見合わせたが、まあいつものことなのでお互いに軽く笑って視線を外し、食事に戻った。



一刀の認識としては、ここは古代中国ではない。
確かに、三国志の物語の時代と似通った部分は多く、また出会う人物もそれに乗っ取ったものであることは確かだ。
だが、主要な登場人物がことごとく女、というその一時だけを見ても、ここが過去の地球ではないことは明らかだ、と思っている。
いくらなんでも三国志の登場人物は実はすべて女性だったのだ! あの三国志は大胆に性別を丸ごと史実を改変したパロディだったのである、という考えに比べてみれば、ここが似て非なる世界である、と考える方が性にあった。

勿論、性別の一事のみであるならばそちらの方の説のほうがありえるといえばありえるのであるが。


「なー、アニキー。あたいにそのシュウマイくれよ~。何か物足りないんだよ」
「ちょっと文ちゃん、自分の分は食べたのに一刀さんのまで取るなんて」


言うが速いか箸をひらめかせ、一刀が確保していた皿の上のシュウマイをあっという間にさらっていく文醜。
一刀の反射神経で一応武将である文醜のそれが防げるはずもなし、彼が何を言うまもなくそのさらわれたピンク色の物体はあっさりと少女の口の中へと納められた。
あきれたようにその口の持ち主に対して視線をやる一刀であったが、まあはっきりいってこれはそう珍しいことではないのでもはや強くいうこともなく、ただ一応のお約束として軽くぼやくのみに留めた。


「いいけど、返事する前に取るなよ……」
「なら、わたくしも、っと」
「って、も~麗羽様まで!」


が、そんな態度は更なる悲劇を招いた。
大振りなその巨体とは打って変わって、中の具である叩いた河海老が透けて見えるほど薄くつややかな皮を持つこの店での一番人気のシュウマイの最後の一つが、またも一刀の皿から連れ去られていってしまう。
彼の皿に後に残ったのは、海老と皮の甘さを打ち消す為に載せていた付け合せの青梗菜だけだった。
つるり、とした樹脂にも似た蝕感を持つ箸でつかみにくいこともあってあまりそれが好きではない一刀は、しかしかつての飢えから来る経験かそれを残そうとはせずに、皿に残っていたオイスターソースをたっぷりつけることでその味を誤魔化して口へと放り込んだあと、とりあえずこの猛禽類どもに餌を与える為に口を開いた。


「……はぁ。おい、シュウマイ追加」
「はは! ただちにお持ちいたします」


実際この一場面のみを切り取ったとしてもタイムスリップ? とか考えるのが馬鹿らしくなるし。
酒店・飯店といった感じの格子壁の奥で、一応屏風に囲われたスペースにて四人で丸テーブルを囲んでいたその場所から多少視点を大きくしたとしてもそれは見つけないでいる方がおかしいほどの文化風俗技術等の差異だった。
多少の差異はあれども現代におけるいわゆる「飲茶」とあまり変わらぬ状態で昼食を取っていた彼らの状態は、料理の内容、店内の内装、小物の作りに出てくる茶の質、そして彼ら自身が纏っている衣服や装飾品、そのどれをとっても到底古代の中国では得られないはずのものだ。


「……別に欲しいならいくらでも頼めばいいだろうに」
「分かってないなあ、人のを貰うからうまいんじゃないか!」
「わたくしはただ、猪々子がやっているのにわたくしがやらないなんてなんだかおかしいと思うのですわ」
「すみません、本当にすみません~」


勿論これは一刀も袁紹も支配者階級の頂点に等しい地位にあり、自由に出来る金銭の額や権力の幅が庶民とは桁違いに多いからこそ実現できている、ということはあるのだが、それにしたって一刀が習った紀元前の中国であればこれらはどれ一つ取ってみてもどれだけ金を積んでも不可能な贅沢だ。
味覚的にも現代人である一刀を満足させるだけのもの、となるともはやありえない、の一言では足りない。

とはいえ、もはやそれが日常となっている一刀からしてみれば、時々違和感を覚えることはあれど、もはやそれに対して突っ込む段階は当に過ぎ去っているので特に今更騒ぎ立てるほどのものではなかった。




それほどまで見知った歴史的知識とこの世界の差異を日々目にしており、また袁紹らのぶっ飛んだ態度につきあっていた彼にとって、正直なところ「三国志」という物語の価値は極めて低下していた。
一応自分以外は絶対に読めないであろう日本語で未だ覚えている限りのことを覚書として記して忘れないようにしてはいるが、正直今の一刀にとってみればそれはもはや、名前を聞いただけで美女かどうかがわかるだけ、という程度の意味しか持たない。
黄巾の乱も反董卓連合も劉備の曹操暗殺未遂も魏呉の同盟も、一刀の知る限り何一つ起こっていない現状において、それも無理なからぬことである。
実際には一刀が知らないだけで、桃園の誓いだとか、三顧の礼だとかはひょっとして起こっていたのかもしれないが、特に興味もなかったので桃香たちに問いただしたりもしていない……その程度のものである。
かつて学び覚えた歴史とこの世界は違うものだ、と思っていたが故に、そのかつての歴史を記した書物の価値は預言書ではなく、参考書程度のものでしかないのだ。


もちろん、名前を聞いただけである程度強いか弱いかぐらいは分かるし、実際にそのことによって曹操に注視し、結果として彼女が脅威となるであろう、という推測を立てているぐらいには信用してはいるのだが、そもそもそこに乗っていた人物観とは全く当てはまらない者―――主に、袁紹とか、麗羽とか、洛陽相国とか三馬鹿筆頭とか―――も数多くいる為、所詮は参考意見の域を超えるものではない。
そんな不確かなものよりも、一刀は己の人形たちが多方面から集めてきて、それを分析した結果として出してくる報告のほうを侵略の手引きとして使っていた。
一応の目安として侵略計画の参考にすることがないでもないが、劉璋が男、ということを聞いてさらに価値が低下したこともあいまって、現在の一刀にとって見ればはっきり言って御伽噺とほとんど変わらないものだ。


だからこそ一刀は、その報告が来たときにそれが史実に則ったことだ、ということがぱっと頭の中へと思い浮かばなかった。




「御免、御免! 御使い様に、ご注進!」


にわかに店先が騒がしくなってきた。
自分の呼び名を連呼するように聞こえたその声に、思わず一刀は視線を入り口の方へとやった。

VIP中のVIPである天の御使いと相国、そしてその側近による会食であるため、麗羽が思いつきで突然入った店とはいえ警備は厳重になされており、彼らが囲む卓自体も店の中では極めて奥まった、上等の場所が用意されている。
物乞いなぞが近寄れば即座に切り捨てられるだろうし、それは現在の民の苦境を命を掛けて訴えにきた義士であっても同じだろう。
一刀の配下は、彼の享楽を邪魔することを決して見逃しはしないに決まっている。
当然それは、それなりの時間彼と共にあり、その環境に浸ってきた麗羽たちにとってももはや当たり前となった事実だった。

にもかかわらず、その彼らにまで届く大声に思わず麗羽は眉をひそめた。


「……なんですの? せっかくの食事時に無粋な」
「ああ、悪い。よっぽどのことがない限りここには来るなっていっといたんだが……ここだっ! なんだ、騒々しい」


彼女からしてみれば、楽しい食事の時間をたかが下民風情に邪魔されるのは我慢ならないことだったのだろう。
そういった彼女の性質を重々理解している一刀は、彼女に即座に謝罪の言葉を飛ばした。
ご機嫌取りの為におこなったわけではない反射的なその言葉は、今の一刀と麗羽が利害というよりももはや友愛の関係で結ばれていること示すものであると同時に、一刀自身の本音でもあった。
袁紹に対する取り繕いではなしに、単純に不快だった。
彼自身も、食事の時間に仕事の人間が踏み入ってくることに不快を感じるほど、もはやそれは支配者としての立ち位置……袁紹と並び立つのに相応しい精神構造を持つようになっていた。

だが同時に、流石に袁紹ほど思考能力が狂っているわけでもない一刀はその呼びかけを無視することだけはかろうじてせず、傲慢にこちらに呼び寄せて審問することに決めた。
当然ながら、軍事的にはこの判断は正解であろう。
もたらされる報はこの上なく重要であった。


「ははっーー!! 突然のご報告、真に申し訳なく! しかし、非常事態でございます!」


ここまで一直線に走ってきたのだろう、息を切らせながらもそれによって何とか一刀たちに不快を与えまい、と思ってかいっそ這い蹲るように視線を低くしてこちらに対して跪いたのは、一刀も城で何度か見たことのある伝令の一人だ。
確か……情報を統括している孔明直属の伝令だったか?
流石に名もなき兵の一人一人まで覚えていられるほど彼の脳のリソースは無駄にあまっていなかったがため、その程度の覚えしかなかったが、まあ護衛として使ってる孫策がここまで通してきたということは味方であることに間違いはないだろう、と思った一刀は、そのものに対してねぎらいの言葉一つかけることもなく、むしろつまらないことでこれだけ騒ぎ立てているのであれば首を撥ねてやろう、という気持ちのまま顎でしゃくって話を促した。

が、基本的に彼は河東軍の伝令であって、洛陽からの使者ではない。
今まで一刀が属して来た諸勢力とは違い、洛陽と彼らを結びつける物は袁紹の気紛れによる同盟唯一つであって、彼らの利害は当然ながら一致しないこともある。
軍事的なことなどまさにそれであり、実際に自分の持ってきた情報がどれだけ重要なことか理解していた彼は、だからこそこの袁紹らがいるこの場においてその自分がもってきた一大事実をこの場で開帳してもいいものか、若干迷った。
このあたり、今回の同盟の件について積極的に反対はしていないまでも、そこまで軍事的には都合のいいものだとは思っておらず、しかし絶対服従を誓った一刀の意向によるものである以上反対も出来ない孔明の、部下への教育が行き届いているといえる。


「その……」
「どうした、いってみろ? ……ああ、そういうことか。かまわない、聞かせてやれ」


その伝令を使わした孔明ほど現状を理解しているとはいいがたい一刀はだからこそすぐにはピン、とは来ずその持ってきた内容をこの場で告げることに言いよどんだ男に身勝手な怒りが一瞬よぎった。
が、別に一刀は袁紹ほどもはや常識という言葉がむなしくなるほどの馬鹿ではないので、その足りないなりに回した頭によってこの男が何を危惧しているのか理解してその怒りを面に現す前にその男が気にしていることはもはや無視できるものだ、と言い放つ。
それが果たして真実同盟を組んでいる彼女たちに対してもはや隠すことなど何もない、ということなのか、あるいはそう袁紹たちにアピールする為のポーズであるのかはこの伝令の男には判断が付けられなかったが、術には掛かっていないものの心底孔明を尊敬し、それが故にその彼女の主である天の御使いに対しても敬意を崩さなかったこの男に、その言葉を無視して袁紹たちをこの場から追いやることなど出来るはずもない。

だからこそ彼は、天の御使いによって彼の気分を害したという理不尽な理由により首を飛ばされることを覚悟でこうして乱入してまで持ってきた情報を、かの天人の前で開示した。


「はっ! 謀叛です、呂奉先将軍が出奔されました!」


かくして舞台の幕は上がる。
対するは三国最強の古今無双、文字通りの一騎当万を誇る方天画戟の呂布と、その彼女を取り込んだ曹操。
兵数的には圧倒しており、国力だって比較にならない。
普通に考えれば負けるほうがおかしいどころか、相手が何を思って挑んだのかも分からないレベルだ。


「なっ。あの呂布がか! くそ、諜報班は何をしていたんだ……すぐに追っ手を出して、捕捉を!」
「おーほっほっほっほっほ! な~にを焦っておられますの、一刀さん。」
「……麗羽?」


それを知ってか知らずか、麗羽はいつも通りの高笑いを上げた。
その溢れんばかりの余裕は、地軍の最強戦力がいきなり引き抜かれたという現状を考えるとあまりに似つかわしくないものであったが、この外史における袁紹、という存在が語るのであればかなりのお似合いだ。


「いいじゃありませんの。所詮はただの下賎の蛮族……この洛陽よりも寂れた荒野のほうがお気に入りなのでしょう。別に気にすることじゃありませんわ。またすぐに落ちぶれて帰ってきたいとこちらに向かって頭を下げるのも分かりきっていますし」
「そうそう、アニキ。確かに呂布はちょっと強いけど、あたいらが負けるわけないだろ」


傲慢で、高慢で、浅慮で。
何の根拠もなく自分自身が最高の存在である、と確信している彼女は、それこそ本当の意味で目の前に刃が突きつけられでもしない限り、自分にとって不利な現状を認めようとはしないだろう。
どんな物事も自分に都合のいいように変換出来る幸せ回路を持っている袁紹にしてみれば、むしろこの場においてそれほどまで慌てている一刀の態度の方がおかしい。
彼女の側近の一人も慌てているが、そもそも今は食事時なのだ。
もう一人の少女を見習うがいい、などと本気で考えているぐらいだ。

実際、彼女の側近の一人である文醜もまた、麗羽と同じく現状を限りなく自分に都合よく解釈して、それほどまで危機感を持っていなかった。


「そんなこといってる場合じゃないんですよ、麗羽様!」
「もう、斗詩も一刀さんも心配性ですわね。いいですわ、そこのあなた。二人が落ち着くようにそろそろ食後の甘味を持ってきなさい!」
「って麗羽様! ……うう、もう!」


そして、そうではない片割れの顔良にしたところで、彼女達の行動をある程度責め、それについて謝罪はしてもそれを抜本的に変えようとまでしないのでは、結局同じ穴の狢だ。
彼女は確かに真面目で、優等生的な能力を持ち、袁紹勢力では少数派なまともな思考力を持っているが、それはほとんど生かされているといえない以上、彼女の評価自体もおきらくな同僚と大して変わりはない。
結局、彼女がどれほど頑張ったところで袁紹の気紛れ一つでひっくり返せてしまう以上、『袁』としてのこの呂布の離反への対策など、ないも同じだった。


「すみません、一刀さん。本っ~当~にすみません!」
「(…………まあ、麗羽たちならこんなもんだよな。はぁ、何か手を打つにしても俺も少し落ち着くか)」


だからこそ一刀も、その報告を聞いて慌てふためいている方がおかしく思えて改めて椅子に座りなおす。
結局、軍事的には呂布の離反だっていくらだって取り返す腹案が彼にはあるのだから、そうしたところで自分の優位は大して揺るがない、ならば大物であるべき彼のとるべき態度は麗羽達のものと近しいべきだ、と思ったからだ。
そしてその思考の中身は、かつての少女の死の後に誓ったすべてを費やしてでも実を取る、といったものではなく、格好を気にして女の前で慌てるのを厭う、と言う体面を最上のものとしておく袁紹の影響も確かに見て取れた。
結局飢えと色によってかつてこの世界より落ちてきた頃とは随分変わってしまった北郷一刀という男は、美食と女によってありふれた権力者へと変わる道を進み続けていた。

が、実際のところ、そういった袁紹からの影響以前に勢力の数と財力だけを語るのであれば、それを取ったとしても何の不思議もないほどの力を彼はすでに築いていたのだから、これらの一時をもって彼を責めるのは間違いであるともいえる。
実際に、呂布の離反という一事だけならば、大した痛手に感じないほどの現状があったからこそのこのような対応を取った一刀のそれは、絶対的な自己の肯定を基礎にする袁紹の判断とは微妙に異なった過程を得た後の判断だ。
そう、麗羽と同盟を組むことに成功したことで潜在的に最大の敵とみなしていた曹操に「逆」赤壁を仕掛けることを可能にした一刀が驕っていたとしても、普通に考えるならばそれは油断ではなく余裕というべきものだ。
強者には強者足るべき余裕を保つ義務がある、という考えは、洋の東西を問わず珍しいものではない。
だからこそ、一刀の常識からすれば今の態度だって決して間違っているものではなかった。



だが、この外史において戦を左右するのは単なる兵の数や武器の量のみにあらず。
才のみを頼りとし、何よりも英雄豪傑の力こそがそのすべてを決める戦いにおいて、洛陽という巨大な足手まといと段々本気で同盟を結び、しかしその不正腐敗の温床に対して彼のみが持つ唯一の特効薬さえも使用しないことで徐々に蝕まれつつあった北郷一刀には、呂布さえ封じてしまえば己が才でその数の差を埋められると曹操が判断するほどに確かに隙があったのである。
そして、現在この外史における最大の敵役が、そのようなすべてを歪める強欲な男が見せた惰弱な隙を見逃すはずもなかった。


48話へ

Comment

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あ~やっちゃった
核兵器を野放しにしたらアカンよ~
幸いハングリー精神は完璧には失われてないみたいだから
そろそろ気付けをかましてやってください!
蘇れ悪一刀!!!
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プロフィール

基森

Author:基森
蚕鳴や円禍と名乗ってたこともあります。

主に小説・ssなどを置いているブログです。

自前の本棚を持つのは初めてなので手探りでやっている程度のものですが、わずかばかりの暇つぶしにでもなれば幸いです。


メールは「kulukku106☆yahoo.co.jp」まで、☆を@に変えた上でお願いいたします。

そろそろ、非営利にならトップへのリンクフリーとか言ってみたり。

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