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外史につくろう穢土幕府・44

そういえば、今のところ主要三国所属じゃない登場人物は南蛮組を除いて台詞ありますね(あと、漢も除く)。
プロット的に南蛮はノータッチのつもりですが、ちょっと出したくなった。

まあ、麗羽さまの件が片付いてからか。













袁紹の気紛れによりさくっと成立した同盟であるが、当然ながらこれは極めてあやふやな脆いものである。
基本的に同盟というものは両者がある程度の目論見があり、利害が一致したときに起こるものだ。

だが、現状の袁紹と一刀の利害は到底一致しているとは言いがたいものだった。

袁紹の願いは、現状の維持だ。すなわち、漢王朝の安定および皇帝制度の維持を行い、その中での最上の位置に袁紹が座り続ける。
袁紹の頭の軽さを知った一刀が、どれだけ言いくるめようとしようとも、そこだけは本当に袁紹はブレない。
キングメーカーとしてある意味皇帝をも超える地位に袁紹が立ち続けることこそが目的であり、一刀など所詮はそのおまけ、お情けでその末席に座らせているだけの小物に過ぎない。
例えどれほど武勲を挙げようとも、どれほどの貢献をしようとも、精々「袁紹の次」の地位までしか登れない男妾でしかないのだ。
それは例え、内外に今まで河東を実質支配していた北郷一刀という天の御使いが袁紹とそういう関係になって、距離を詰めつつある、という評判が広がったとしても同じ。
袁紹個人としても何度か肌を重ねることでそれなりに一刀本人に対する認識を「まあ、悪くはない」程度まで上げてはいたが、到底自分の主人と認めて上に立てる、というようなものではない。


同盟の実態がそれでは、一刀はとうてい納得できない。
彼が望むのは、完全無欠な自分による天下統一だ。
袁紹どころか、皇帝さえも己の上に立つのは認められない。
袁紹の実質的配下である有力諸侯の一人―――そんな程度の地位で満足するならば、わざわざ戦争などに加わらなくてもねっころがっていただけでやがては手に入ったであろうことを考えると、そんな程度の地位ではまったくもって割に合わないのだ。
例え、自分よりも上位の者が女ばかりであり、自分の女が取られる、という可能性が全くなく、衣食住色といった実利的な面だけで行くとこれより上に上がったところでほとんど変わらないことはわかってはいても、それは許されないことだ。
今まで支払ったものからすると、己の天下以外の対価など認められるはずがない。


そういった面で、二人の認識は致命的にずれている。
結局、お互いがお互いに自分こそが頂点に立たねばならない、と思っている二人では、ともに天を戴くことなど不可能なのだ。

それでもなお同盟が成立しているのは、結局のところ袁紹と一刀の勢力的な力量差が大きいことに起因する。
袁紹の洗脳に失敗した段階ではもはや戦って勝つことしか生き残る道がなかったが、それは同時に大きな賭けになる。
様々な絡め手の策をいくつも用意していたように、後々曹操や劉璋と戦うことを考えると膨大な人員を誇る袁紹軍と全面戦争というものは、一刀にとってできれば避けたい選択肢だ。
太平要術の書の力なしに一息に潰せる程度であれば、そもそも時間の掛かる絡め手などを主力としていなかったに決まっている。
それが出来ないからこそ、今まで策を練っていたのだ。

勿論、やれば勝てるだけの目算はあったものの、それによって力を落としてしまえば結果的に曹操たちと戦った場合にも影響を及ぼし、さらに天下統一までの時間がかかることになってしまう。
術が効かない、という袁紹の特性は、一刀たちによるその勢力に対する戦力評価を著しく上昇させたのだ。


かといって、いろいろとこちらに対してごちゃごちゃといってくる上に、見当違いの方針を押し付けてくる袁紹の存在、それによって圧倒的優位の状況から十数万もの被害をだして敗北しかけた北方大乱での官軍の拙さのことを思えば、彼女と同盟を組んでいる状態で曹操たちを潰そうと動くのもまずいと一刀は考えた。
まさに烏合の衆というに相応しい洛陽軍のことを考えると、彼女たちと肩を並べて戦争に挑むことは、あまりにも不安だった。
ましてや、主導権を握れるならばまだしも今曹操討伐の気風を立てれば宮廷での地位などから確実に袁紹の統制下に置かれてしまう。彼女に術が効かない以上、それは避けたかった。

曹操が実際にはどれほどまで強大なのか、一刀はそこまで認識しているとは言いがたかったが、それでも自滅するだけではなく、こちらの足を引っ張りかねない袁紹という巨大な枷をつけたまま戦うのが拙いのぐらいは分かりきっている。
ましてや、その手柄を全部奪われる可能性を考えれば、出来るはずがない。



敵にすればわずらわしく、味方にしても頼りない。
術が使えないことで、一刀の選択肢は大きく狭まってしまった。
袁紹という巨大勢力は、どちらにしても「停滞」を招く嫌な選択肢だ。
それでも、太平要術の書の無効化のショックを引きずっている河東では、戦うぐらいであればまだ戦略を練り直して再度謀略を仕掛ける方が、早く袁紹を倒せる。
袁紹の一声で戦わなければならない状況であれば選べなかったことを思えば、それは随分贅沢で余裕ができた選択肢だった。

だからこそ、どちらにしようか見比べた挙句に一刀はそちらを選んだ。
全面戦争を、袁紹の気紛れで避けることが出来たのであれば、それを蹴ってまで戦争をするメリットが薄い、と思ったからこそ、一刀は己と描く夢が異なっていることを分かっていながら袁紹と同盟を結ぶことを選択した。
ただしそれは、恭順を意味しない。あくまで、忍従だ。

洛陽と河東の結びつきはそういう経緯で結ばれた同盟であり、袁紹と一刀の関係はその力量差が逆転するまで、一刀が確実にほとんど無傷で袁紹軍を始末できる力をつけるまでの時間制限付きのものだった。








河東領と洛陽領の構造は基本的に良く似ている。
勿論、規模が小さいが故にゆがみが少ないこと、汚職役人を発見次第妖術で無理やり消すことが出来ること、主要官僚の能力差が論じるのも馬鹿らしいほどの差があること、圧倒的にめちゃくちゃな麗羽に比べれば凡人であっても主君としてはマシなこと、僅かながらも現代知識を応用できること、を考えると河東の方が洗練されてはいる。
それでも袁紹軍のほうが戦力評価で上になるのは、ひとえに規模の大小の差でしかない。
が、ほとんど官僚頼り、丸投げが基本であるために、主君は大方針さえ決めてしまえば後は毎日エロイことしたり食べ歩きしたり出来るぐらいに余裕があるという点では、二勢力は極めてよく似ていた。

少なくとも、主君が必死こいて寝る間も惜しんで働かねばならなかった公孫賛領や曹操領とは性質を異にしている。


「あ~ら、そこにいらっしゃるのは北郷さんじゃありませんこと?」
「……よう、麗羽」


だから、お互いプラプラと歩いていれば、住居を同じくしていることとあいまって遭遇する確率はそう少なくはなかった。
訳のわからぬ思考回路によって河東と同盟を結んだ袁紹は、同盟を結んだ以上はここは自分の城も同然、とでも言わんばかりの勢いで、以前よりもさらに遠慮のない態度で河東を闊歩していた。
前方から進んでいた一刀はその姿を当に発見していたが、だからといって国主の彼が袁紹の姿を見たとたんに踵を返すようなこともまた間違っていると思ったがため、あえて進んできていた。


「相変わらずさえない顔をしてますわね。わたくしを見習ってはいかがです?」
「そっちこそ相変わらず調子がよさそうだな」
「当然ですわ、わたくしを誰だと思って? お~ほっほっほ」


向かいから来た一刀相手に普通に声をかけるあたり、結構な扱いをされたはずの袁紹が彼に対して全くもって怨みのかけらも持っていないことが窺える。
本当に何を考えているのか、一度割り開いて調べなければならないかもしれない。
その主人の態度を承知してか、彼女の側近も普通にこちらに対して声をかけてきた。


「やっほ、アニキ~」
「こんにちは、一刀さん」
「猪々子に斗詩も、しばらくぶりだな」
「ま~ね~」


文醜と顔良。
たしか、三国志でも演義でも二人とも関羽にさくっと殺されたはず。
その程度にしか覚えていない一刀の認識と同様に、この外史における彼女達の力はさほどではない。
呪いによって能力を落とした関羽にさえも二人がかりで敵わないであろう程度の力しか持たない二人は、しかし袁家の宿将であるにもかかわらず親しげに一刀に接する。
その笑顔に影はない。


(こっちもあいかわらずか……くそ、なんで袁家はどいつもこいつも!)


袁紹をだまし討ちにして、亡き者にしようとした、という事実を側近二人はどう考えているのだろうか?
思考回路が完全におかしい袁紹とは異なり、少なくとも顔良の方はまともな会話が成立するだけの知能を備えていたはずであるにもかかわらず、そのことについて二人は何も言わない。
例え袁紹本人がなんといおうと勢力的な力関係から考えると一刀がやったことは紛れもない弱み以外の何物でもないために、二人と会話するたびにいつそのことを言われるのか、と気まずさがついて回る。

いったい彼女たちはどういうことを考えているのか。
一刀が知らないかつての三人の会話に、その答えがあった。


『麗羽様、結局なんで同盟なんて言い出したんですか?』
『あ、それあたいも疑問だったんです。いったいどうしちゃったんです?』
『別にたいしたことはありませんわ。ただ、河東を仕切ってる北郷さんという方がこのあまりのわたくしの美しさにど~しても、仲良くして欲しい、といわれただけですわ。そこまで言われてしまえば断っては角が立つじゃありませんの。お~ほっほっほっほっほ!』


……麗羽が二人に、つかまった挙句に無理やり犯られたことを告げてないだけでした。
まあ、彼女本人にしてみれば別に言うまでもないほどどうってことないことだったからわざわざいわなかっただけであるが。

勿論、二人とも袁紹のめちゃくちゃ具合は知っているだけにその言葉を丸まる鵜呑みにしたわけではなかったが、実際にあってみると河東は発展しているわ(洛陽以上に活気があります)、お供である二人にまで待遇は立派なものだわ(これ以上洗脳できない麗羽の機嫌を損ねるのを恐れているだけ)、麗羽の前で彼女の顔を正面から見ようとしないほど彼女の美貌に感じ入ってる(なんとなく苦手意識がついているだけです)と、一刀の態度は権力者に媚びるだけではない麗羽本人を見た、結構好ましいものと思えた(勘違いです=結論)。

だから、二人としては一刀のことを、実質的に河東を支配する有力者、天の御使いにして、麗羽の美貌にころっといっちゃっただけのいい人、と思っている。
能力はさておき、外見だけならば自分の主が誰にも負けないことを知っているが故に、それを否定する要素も彼女達の頭の中にはなかった。
もっとも、その後に袁紹のわけの分からぬ言動によってその処女を一刀に捧げさせられているにもかかわらず、袁紹、一刀の両者に対して怨むでもなく「仕方ないよね~」といった態度で普通に流せるあたりは流石に袁紹の側近な訳だが。



そんなわけで、この二人も一刀は少々苦手だった。
袁紹よりはマシだとはいえ、どんな不合理な経緯を聞かされたとしても「まあ麗羽様だからそうもなるか」というただの一言で諦めて受け入れてしまう二人の思考が袁紹自身のわけ判らなさに連動していることもあって読みにくいこともさながら…………この二人にも術がかけられないからだ。

もっとも、袁紹とは違い理由が分かっているだけまだマシだが。
その術がかけられないというのは袁紹のように術が端から何故か無効化される、といった性質によるものではなく、勢力や地位的な差から彼女達の中で「袁紹>一刀」の認識があるため術を作るための『対等または優位』という認識を作れないという条件的なものだったのだが、どっちにしても今の関係が一刀にとっては心地悪い。



術を使っていないにもかかわらず、自分が好かれるわけがない、という認識ぐらいは一刀にはある。
故に、袁紹勢力のこのあまりにあまりな態度はどう対応していいのか全く判断がつかない。

実際に顔良からしてみれば現時点でもっとも武で名高い河東を取り入れられる、というのであれば一刀との行為はぎりぎり許容範囲であっただけであり、同性愛の気が強い文醜からしてみれば男なんてどうでもいい、という楽観的な思考によるものであった、というものだったのだが、袁紹の件で思いっきりビクビクしている一刀にしてみれば権力を使って無理やり抱いたにも近い二人がこのように割りと好意的に近付いてくる意味がわからないのだ。


「そうですわ、北郷さん。あなたからも斗詩にいってやってくださらない? このわたくしの美貌の為ならそんなこと二つ返事ではいと言うべきだ、と」
「は?」
「……麗羽様、朝から温泉がどうこうって聞かないんですよ」


だからこそ、かつての自分と同程度に楽観的なだけの袁紹一味が、あまりに恐ろしい。
多分単純に馬鹿なだけなのに、そのすべての行動がとことん自分の考えと会わないのだ。
今の不穏な雰囲気を完全に無視して普通に遊びに誘ってきたりする袁紹の一挙一動にビクビクせざるを得ない。


相性がよくない。
一刀は、自覚せざるを得なかった。
劉備―――桃香のときとは違い、お互いがお互いに噛み合わないのではなく、こちらが一方的に苦手なだけで相手からするとこちらの態度は苦手でもなんでもない、というそれは怒りをぶちまけることが出来ない、という点でどうにもやりにくいものである。


「そうか……たしか、ここから北西へ一刻ほどいったあたりに天然の温泉が湧いてたと思う」
「あ~ら、それはいいことをご存知でしたわね、北郷さん」
「やるじゃねえか、アニキ」
「ちょ、ちょっと一刀さんまで……はぁ」


故に一刀が出来ることは、当たり障りがないように表面上の付き合いを続けることしかなかった。
どうせ麗羽との縁はこっちが力を溜め終わるまでの短いものだ。
元々敵同士である一刀と麗羽は、術によって無理やり仲間に出来ないのであれば、最終的には潰しあうしかない。
だからこそ、それまで麗羽の機嫌を損ねないよう、しかしへりくだって気分が悪くならない程度の関係を続けて時間稼ぎをすればいい。

やさぐれ気分で一刀はそう思っていた。
麗羽を前にすると、そうでも考えなければやってられなかったのだ。


「では、案内なさい、北郷さん」
「……は?」


そんな考え、こちらの態度など全く考慮せずにずんずん踏み込んでくる麗羽にはまったく持って無意味であったが。









かっぽーーーーん

「ふう、しかし、いい湯ですわね~」
(どうしてこうなった……)


一刀は、温泉が好きだ。
現代人的な潔癖さで、この時代にしてはありえないほどの贅沢として城においても毎日風呂を沸かさせて入っている一刀であったが、やはりそれはそれとして天然の露天風呂というものも日本人として心引かれるものがあった。
基本的にこの外史は古代中国ベースなので、日本ほど掘れば即温泉が出てくる、というほどではないが、それでも一刀が支配している領域はそこそこ広大なので探せば温泉の一つや二つ、いくらでもある。
そのうちのいくつかを権力者らしい力を無理やり使って自分のものとして徴発していた一刀は、基本的に対してやることがないためにひたすら城の中でエロイことをするのに飽きたときに、気分転換もかねて何人かの女を連れて温泉に行くことは、さして珍しいことではなった。


だから、別に全裸の袁家三馬鹿トリオと混浴するぐらいで動揺するほどうぶではなかったのだが、それでも彼の頭の中では「どうしてこうなった」の文字が踊り狂っていた。


(おかしいよな、おかしいよなぁ! 同盟組んだのはいいとして、なんでそのトップ同士がプライベートで普通に遊んでんだよ!? もっと普通ギスギスしてるモンなんじゃねーのか!)
「北郷さん、お盆こっちに流してくださらない?」
「おう……」


確かに犯したのは一刀が先な訳であるが、少なくとも彼はそれなりの目論見があって袁紹に手を出した。
そういえるほどたいそうなものかどうかはさておいて、彼の行為は政治の一環としてだったのだ。
例えば、残っている敵対勢力の長、曹操と劉璋が同盟を結び会食をすることがあったとしても、それはきっとお互いがお互いに探り合うための、外交の一環としての会話であり、食事だ。
間違ってもこんなのほほんと全裸で湯の中に沈んだ平たい石に腰掛けながら、こっちに向かって無防備に酒の乗った盆を渡すようにいうようなものではないはずである。


ぷかぷかと、湯船の上に浮かべられていた盆に載った徳利に入れてある河東の特産品の一つ―――ニホン酒の熱燗が気に入ったのか上機嫌で自分で御猪口に注いだ袁紹は、その勢いで手ずから空いていた杯にその徳利の中身を注いだあと、盆の表面を軽くつついた。

湯の上に浮かんだ盆は、その勢いを受けてゆっくりとこちらに向かって返って来た。
さきほど斗詩と猪々子にツマミを作らせにいかせた今、湯船には二人っきり。ほとんどの護衛は戦力となりうる文醜・顔良の監視についていったとはいえ最小限度の人数はここの近くの何処かに潜んでいるのであろうが、それを袁紹一派が知っているとは思えないし、まさかそいつらの為に麗羽がお酌をするわけがない。
ということは、この表面張力ぎりぎりまで注がれた杯の行く先は一つしかなかった。

そのため一刀はコレジャナイ感満載ながらも、やむなく袁紹の気遣いに片手を上げて答えながら、杯を乾す。


(……なんで俺、こんなことしてんだろ?)


やるせなかった。
失ったさまざまなものと引き換えにより価値あるものを得るため、天下の英雄と知恵比べとシリアスにしゃれ込んでいたのに、現実は金髪美女とまったり温泉でさしつさされつの酒盛りである。
そのこと自体は別に珍しいことでもなかったが、自分がどう動けばいいのか全くわからない、そもそも考えて動いた結果がまるで意味を成さない、という状況は一刀の情熱と怨念とやる気を根こそぎ削いでいた。

なので。


「あら? ちょっと北郷さん、くっつかれると熱いですわよ」
「うるせー」


目には目を。歯には歯を。常識はずれには常識はずれを。
というわけで、唐突に杯を投げ捨てて、抱きついてみた。
ふにょん、とあまりに大きくやわらかいものが一刀のあんまり分厚くない胸板の間で潰れる。
湯温がぬる目の温泉だったので、長時間浸かっていてものぼせそうな気配はないため、熱いといった袁紹本人も口には出したものの特に不快そうなそぶりを見せることなく、くぴりと酒を飲む。

なんとなく負けた気がして、一刀はそれを思いっきり揉みしだく。片手にひとつずつでは余ったので、片方を両手で揉んだり、はたまた先端だけ摘んだりしてみる。
その意味不明な一刀の行動に目を丸くした麗羽だったが、特に思うことはないのか一刀の行為を静止することもなく好きにさせている。

一刀の手だけが僅かな水音を立てる中、なんとなくお互い無言の時間が流れた。

普通女ならここはきゃー、とか抵抗してみるべきではないだろうか、と一刀は思ったが、ここで袁紹に圧倒されて引いてしまっては今までと同じだ。
何かしなければならない、と先ほどからやけ酒ってたせいで若干判断が怪しくなっていた一刀は思った。

何はともあれ、行動あるのみだ。
そう、停滞こそがこの北郷一刀を殺すのだ。
なんか前回そんな感じの決心をしたはずだ。

というわけで、いい加減もみしだくだけというのもあれなので今度はその胸の谷間に収まるように抱きつく。
そのままがばっ、と袁紹を持ち上げ、自分の膝の上に強引に座らせる。

身長差はさほどない上にあまりに袁紹のアレがおっきいので顔面全部が埋まるようになるが、構わなかった。
とにかく今は常識に囚われていてはならない……強迫観念にも似た何かを感じて一刀は何かに命ぜられるがままに行動する。


「……何がしたいんですの?」
「なんとなくだ。意味なんてない」


流石の袁紹とはいえ、戸惑っているような雰囲気を感じる。
ほとんど胸に顔を埋めているために彼女の顔は見れないのだが、一刀はなんとなくそんな感じのことを思って謎の達成感を覚えてにやっとした。

が、次の瞬間戦慄する。
手持ち無沙汰だったのかなんなのか、何を思ったのか己が胸の谷間に挟まった男の頭を、袁紹はその器を盛っていないほうの腕で優しく撫でた。
湯に浸かってはいてもまだ髪を洗うことはしていなかったために中途半端に飛沫で濡れた一刀の髪を、湯から上げたばかりで湯気さえ立てている袁紹の繊手が伝っていく。

おそらく、こちらも意味があっての行動ではない。
酒が大分回ってきているがために、目元を軽く赤く染めた袁紹は、本当に特に意味もなく目の前の男を撫でただけなのだろう。
瞳が僅かに潤んで細められており、紅を差さずとも染まった頬よりなお赤い厚めの唇から吐息を漏らしながらほんの僅かに開いているところからも、その酔いは見えて取れた。

が、第一回チキチキどっちが意味不明なこと出来るか大会決勝戦に挑んでいるつもりだった一刀にとって、これは紛れもない袁紹の反撃だ。


故に胸に埋めていた顔を離し、袁紹の手を振り払って彼女の瞳を見つめる。
不思議そうに、可笑しそうに、こちらを見つめる麗羽の目には、こちらも同じような表情をしているであろう、小さくなった自分の顔が写っていた。

そこで気がついた。
考えてみれば、初めてだった……こんな表情の女と酒を酌み交わしあいながら見詰め合うなど。


「?」
「……何でもねえよ」


術で操ったり、無理やり組み敷いたり、脅迫したりといった手法によって女と閨を共にしたことはあったが、考えてみればそれ以外の女とは一刀は日常会話をしたことさえもはや遠い世界、天での話がほとんどだ。
そして、この世界におけるその唯一の例外だった少女は酒など好まなかったし、そもそもいつも追い立てられるように忙しそうに走り回っていたため、見つめ合うための時間など取れなかった……そしてその当時の一刀も、そんなことを彼女に求めやしなかった。

ずきり、と胸の何処かが強く痛む。
それは女を前にして別の女を想うことに対する罪悪感であり、それを自覚してもなお忘れられないことに対する己を責める気持ちだった。


「くそっ……」
「どうしたんですの? さっきから」
「お前にいわれたくねえよ……黙れ」


馬鹿げている。全くもって、馬鹿げている。
己にそんなものが残っているなど、全くもって冗談みたいなものだ、と一刀は思った。
閨にて女を比べるような甲斐性のない男にだけはなっていないつもりだったのに。
そう何度も言い聞かせても、胸の痛みは消えなかった。
だがそれは、外に出していいものではない。

自分の中にすべて収めて、自分ひとりで飲み下さなければならないものだと分かっていた一刀は、これ以上喋っているといってはいけない言葉を喋ってしまいそうな己の口をふさぐ為にも、これ以上麗羽に余計なことを言わせないためにも、強引に麗羽の頭の後ろに手を回し、鼻柱がぶつからないよう顔を僅かに傾けて、そっと唇を寄せた。
半分ほど酒気によって眠たげに閉じられていた麗羽の瞳は、そのことによって再び丸くなった。片目でそれを確認していた一刀は、だからそれがゆっくりと閉じられていく様ももっとも近くで見ることになった。


(コイツは俺の戦利品だ! 俺が奪い、俺が犯し、俺が掴んだただの女だ!)


それを受けて、袁紹に出会ってから狂わされっぱなしだったペースが元に戻せるような気がした。

だから口付けを、一層強くする。乱暴な一刀の思考とは裏腹に、唇を重ねたと同時にゆっくりと顔の輪郭をなぞるように伸ばされた手は、どこまでも優しく麗羽のすべらかな頬を撫でた。
咥内で酒気色の吐息が交じり合い、お互いの熱を交換し合う。
麗羽の真綿のように柔らかで艶やかな唇は、今この瞬間は間違いなく一刀のためにあった。

やがて、ゆっくりと開かれた唇を一刀は己が舌で割り開いてさらに奥へと進もうとする。
勢いが過ぎたのか、小さくこつりと歯が当たる感触の後に、やがて奥へと割って入った。
舌先で麗羽の歯の形をなぞっていくと、甘いような香りと共に唾液がたちまち絡みつく。その感触が甘美であると共に何処か自分を縛るような錯覚を覚えて、一刀は思わず唇を外した。
だが、そのどこまでの柔らかな感触は離れると同時に急速にそれがないことの寂しさを感じさせる。
誘惑には勝てない。一度放した唇を、再び近づける。それを繰り返す。
何度も何度も唇を重ねていくことで、やがて吐息の隙間に酒の熱だけではない甘くとろけた感触が感じられる。
半ば夢中になってそれを続けているうちに、くたっと麗羽の全身から力が抜けたことを感じた一刀は、ようやく我に返った。

唇と唇が離れ、一筋の細い銀色がやがて途切れることで、その一刀の行為は終わった。
傲慢な思いと共に唐突におこなった己の暴挙に対して、麗羽が急に全身を弛緩させる、ということで答えたことに一刀は不満を感じた。
ここからが本番だったというのに。

力が抜けてぐったりして自分の体に絡み付いているようになっている麗羽を僅かに引き剥がし、思わず不満の表情でその顔を見つめる。
上気し、瞳が閉じられたままのその顔は…………どう見ても、のぼせていた。


「う~~ん、きゅう~~」
「なんか妙に反応がおとなしいと思ったら……これかよ!」


思わず拍子抜けして叫んだ一刀の声にも反応していないあたり、温泉+熱燗+情事というコンボは麗羽の体にはきつかったようだ。
全身の力が抜けていくような感覚を覚えて思わず湯船に沈んでぶくぶくと泡を吐きたくなった一刀であったが、自分の体の上でくったりと意識をなくしている麗羽の存在がある以上そんなことなど出来るはずもなく、やれやれと溜息一つ吐いて麗羽の体を支えながら立ち上がった。


「しっかりしろよ、おい……お~い、猪々子、ちょっと来てくれ!」
(はぁ……まあいい。精々、俺も楽しませてもらいながら時が満ちるのを待つか)


結局、今日も袁紹からペースを取り返すことは出来なかった。

だが、今までのように圧倒されるばかりでなくなったことは気絶する袁紹にそれを抱え上げて風の当たる場所へと運び上げる一刀、という図式からも明らかである。
この日から、徐々に袁紹に対する態度を徐々に一刀は身に付けていったのである。







特選 オススメ河東土産

基本的に、天の御使い様の天啓を受け、我が河東の料理人たちが試行錯誤をおこない作り上げて献上したものです。
再現できたかどうかはさておき、河東には優秀な人材が集まっているのでそれなりに形になった物の数は結構あります。
そして、それ以上に橋にも棒にも掛からなかったものの数は膨大です。

〈ニホン酒〉
米から作る酒について雪蓮に話したら、知らない間に酒好き連中が集まって勝手に作ってたらしい。
一刀は○○才なので日本酒に詳しいわけではなかったが、実際飲むとなんか違う感がある。多分、製法の何処かが致命的に間違っている。
結構アルコールがきついので、あまり酒に強くないものは何かで割って飲むことも。

〈ようぐると〉
西域連合あたりの『酪』という馬乳で作られたヨーグルトの原型的なものに蜂蜜等を混ぜたものを袁紹に献上。
当然、ようぐると本体より混ぜてる蜂蜜の方がはるかに高価。

〈華麗〉
黄色くない。あまり辛くない。トロミもない。
日本の味に飢えた一刀はこれを食べた後、ターメリックやシナモンといった香辛料欲しさに南蛮に侵攻しようか真剣に悩んだ。
唐辛子は何故か存在するので山ほど入れたバージョンもあるが、完全に別物の罰ゲーム的なものと化している。

〈拉麺〉
もともとストレート細麺が主流だったこの地方に、縮れ極太麺が生まれた。
それと同時に海産物によって出汁をとった和風ベースのスープという発想も出来たが、基本的に河東に海はほとんどないので市井で出す店は皆無。
高価な食材を遠方より運ばせてそれを食べられる数少ない例外いわく「そういえば俺、昔っから和風ラーメン好きじゃなかった」な味だそう。


  45話へ

Comment

No title

素敵だ麗羽様

麗羽様エロいいよ!

なんか一刀に知能が身についてる感があってびっくりしました。
もっと、泣き叫ぶまで調教してやろうとかじゃなかったんですね。
なんだか麗羽さまのカリスマってこういうことかと納得しました。本能で生きてる人って小物に対しては恐ろしく強いですよね。

No title

ははは、振り回されっぱなしだなw
当分はこのままだろうな
非公開コメント

プロフィール

基森

Author:基森
蚕鳴や円禍と名乗ってたこともあります。

主に小説・ssなどを置いているブログです。

自前の本棚を持つのは初めてなので手探りでやっている程度のものですが、わずかばかりの暇つぶしにでもなれば幸いです。


メールは「kulukku106☆yahoo.co.jp」まで、☆を@に変えた上でお願いいたします。

そろそろ、非営利にならトップへのリンクフリーとか言ってみたり。

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