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外史につくろう穢土幕府・42

もともと麗羽さまはそこまでシリアスじゃないルートである詠ちゃんと仲直りした場合でのラスボスのつもりだったので、ノリが大分御軽い。
ちょっと真面目な展開続いてる最近の空気にはあわない気がしないでもないですが、好きなのでやっぱり出しました。

文章をコメディタッチにするか、真面目にするか、毎回悩んでますが、麗羽さまが出てくると一層難しいです。
でも、好きなキャラなのでそれなりに伝わって書けてればいいな、とも思ってますが。














正面決戦を避けることを一刀が選んだのは、結局のところ彼の保有する太平要術の書の存在があるからこそだ。
対等以下の立場のものに対してであれば、言葉を交わすだけで己が操り人形へと変えることが出来るこの妖術書の存在を前提とすれば、今この世に起きている戦いの形式はがらっと様変わりする。

こちらから降伏を申し出て、玉座の下から這い蹲って見上げながら術をかける、などということこそ条件上出来ないがため、今まで一刀は基本的に捕獲したものに対して強制的に使ったことがほとんどであるが、もともとの条件としては、正々堂々相手が保有する戦力をすべて撃破していく必要など、欠片もない。
ただ、相手とテーブルを同じにして対等の立場で会話をかわせれば、それで話は終わる。
偽りの同盟でも持ち込んで、杯を同じくするだけで即座に相手を自分の操り人形に変えられる。
そんな悪魔の術が、太平要術の書の中身だ。


それを己が人形たちに告げ、それを前提に全員で頭を振り絞った結果として、一刀はいくつかの策を袁紹に対して仕掛けた。

それは例えば、偽の恭順と共に差し出した饗宴の誘いだった。
警戒はしているであろうが、それでも宴に連れてこられる程度の人数であれば、己が保有する関羽や馬超によって平らげられると考えたが故に作ったその策は、実に単純。
宴の最中に持ちかけた話で今の両者の力関係をそれとなく諭して彼我の実力がほぼ等しい、という事実を相手に突きつけられればそれでよし、それが出来ずとも宴の途中で捕獲して無理やり自分に対して這い蹲らせて、術の力で騙し打つ。
一騎当千の武将から誇りさえも奪い去ってしまえるその妖しの術を使っての、卑怯卑劣の大盤振る舞いである。

これは通常であれば、例えその形を取って頭を殺したとしても世間の非難は逃れられず、また敵方の兵力自体もそっくりそのまま残ってしまうがため、結局全面戦争は避けられない悪手といえよう。
だが、術の力でトップである袁紹を操ることが出来る、となれば話は別だ。
術の力を使えば彼女自身の口でこちらの陣門に下る、ということを言わせることが出来るのであれば、ほとんど無傷で洛陽を丸ごと手に入れることが出来る。
後は、術の力と雛里たち優秀な官吏を使って、ゆっくりと漢王朝自体を浄化すればいい。勿論、皇帝に対しても術を仕掛けておくことは、言うまでもない。
術の力によって不正そのものを防ぐことが出来る一刀の統治は、一刀本人による個人の享楽を除けばさぞや正常なものになるだろう。
天下を取った後の統治の手間こそ掛かるであろうが、負ける要素がほとんどなくまた一度成功してしまえば他の諸侯たちに反撃の糸口さえも与えない、文字通りの無血開城による最速最短の完全勝利が出来る実に合理的な手段だ。


もっとも、一刀たちにしてみればこのケースはすべてが都合よく行き過ぎているため、正直なところ期待していなかった。
そもそも相手方の大将である袁紹がそうも容易くこちらの誘いに乗るわけがないし、乗ったとしてもこちらの陣中でわざわざ無警戒になるとは思えない。
例え、それらすべての条件が整ったとしても、結局最後は無理やり袁紹を縛り上げることになる関係上、相手方に例えば呂布のようにこちらの総力を超えるような局地戦力がいればそれだけで失敗となる。
「場」さえ作れればそれによってすべてが解決する、というものではあるものの、いくらなんでもその「場」を作れるほど楽ではないだろう、と思ったがために本命ではない、とりあえずの一手であった。


彼らとしては、例えば袁紹の領土の各地においていくつか扇動を起こして反乱を起こさせ、その対応が出来なくなったぐらいにこちらから協力を申し出ていくつか貸しを作り出し、その弱みでもってこちらと対等と認識させる、だとか、あるいは五胡討伐の気風を立ち上げ、そのときに同盟軍としていくつか仕掛ける、だとかいったことを本命としていた。
宦官の腐敗に付け込み、手の者を送り込み、または中の者を己の味方へと裏返し、袁紹陣営の内部崩壊を加速させるような手も考えていたが、これはのちの統治に悪影響を及ぼすとしてあまり積極的に動いていなかったように、「いくら美羽の身内であってもそこまであっさり引っかかるほど馬鹿ではあるまい、」という考えがあったからこそ、袁紹を歓待する準備はそれほどまでの重要性を持って用意されていたわけではなかったのだ。


「わりとよく出来た城ですわね……もっとも、わ・た・く・し・の! 洛陽ほどではありませんけど」
「……恐縮です」
「(そんな……馬鹿な)」


が、そんな天人である一刀に加えて能力を減じているとはいえ歴史に残る天才軍師の孔明、鳳統、程立その他が考えに考えた計算を、いとも簡単に袁紹は超えて、こちらが打った手による反応よりも遥かに早く、出端を挫くかのように先制の一撃を加えてきたのだ。
影武者役としてたてた人形さえも戸惑っているのを影から見つめる一刀の口は、意識していないにもかかわらず大きく開かれてしまっていた。
そしてその口は、急遽用意した歓待の場に案内された袁紹の背が扉の陰に隠れるまで、閉じられることもなかった。
当然、表情も呆然としたそのままであった。


棋士気取りだった一刀の横っ面をはたくがごとき袁紹の行動は、なるほどすべてを知っていると豪語する天の御使いに対するあてつけとしては実に効果的だった。
事実、一刀は一刀の謀略の手のどれよりも早くこちらに対して行動してきた袁紹の一挙一動に意表を突かれまくってあたふたしていたのだから。
現在保有する知力の数値の差からは、曹操であろうともここまで彼と彼の持つ家臣団の想定を外すことは出来まいとを考えれば、袁紹は実に最高のインパクトでの初撃を与えることでこの開戦を彩ってその名を知らしめたといえるであろう。

扉の奥から聞こえてくる袁紹の馬鹿笑いともいえる笑い声と、それを呆然と聞く一刀という図式からすると完全に一刀は袁紹の行動についていけておらず、後れを取っている。


が、問題が一つあった。
それも重大な。


「(……なんで、自分からこっちの手の内に入ってきたんだ!?)」


問題とは何か。
……戦略的に何の意味もないどころか、明らかにこれで勝負を捨てているような行為であることだ。

一刀たちが戸惑ったのは、あくまで袁紹の意図が読めないことであって、それによってすでに多大な損害が出ているだとか、将来的に避けえぬ災厄が訪れるであろうだとかでは全然ない。
あくまで、こちらに対して損害を与えられない行為を何故するのか、という戸惑いであって、心情的なものを無視してしまえば彼らの立場は何一つ変わっていない。そのはずである。

それは、雛里や朱里、風といった一流の軍師のみが分かることではなく、一刀や白蓮といった通常通りの思考能力を持つものであれば、容易に理解できることであったのだが、そのことが逆に一層袁紹のとった戦略の異端さを示す。

不気味だ。
あまりにも、不気味だった。

これがまだ、袁紹による何らかの策の影が見える状況ならばよかった。
例えば、少数勢力によって乗り込み、呂布の圧倒的なまでの力で河東中枢部をなぎ払って、その後洛陽を抑えているという地位的アドバンテージをフルに使ってこちらを反乱軍に仕立て上げる、などであればまだ理解できた。
戦略的には愚策であると分析していたが、それはこちらと敵対する意志を固めた勢力として取りうる対応だったからだ。
だから、袁紹来たる、の報が来たとき彼らはまずそれを考え、ここまで請求におこなわれるとは予想していなかったが、そういったケースについても想定を済ましていた以前の対策どおりに、最初は影武者を立てて袁紹の出方を探った。

が、そんなことはなかった。
様子見をしていたここ数日、普通に袁紹は僅かな護衛のみで正面から乗り込んできて、普通にえらそうな態度を取った挙句に、普通に視察と称して食っちゃ寝を繰り返している。
殺そうと思えば、いつでも殺せた。
それこそ、妖術を持っていなかったとしても、袁紹を虜にするぐらいの力は今の河東は持っているのだから、太平要術の書の存在を知らなかったとしてもこちらが絶対にとち狂わない、という確信でもあるかのごとき態度。
それは、王者の気風にしてもあまりに大胆でありすぎる。
いくらなんでも、そんなことあるはずがない。何か裏があるに決まっている。


この袁紹の態度に、策によってなる一刀勢力は戸惑った。


対応が、全く出来ないのだ。
自分たちが妖術書の存在を基盤としてだまし討ちにも似た奇襲を得意とするだけに、袁紹の行為も何かの罠にしか思えなかった彼らにとって、相手の出方がわからないというのは随分やりにくい。
最強勢力である袁家の頭領がここまで常識はずれだとは思わなかったのであるが、だからこそ頭でっかちの嫌いがあり、しかも全体的に一刀の価値観だけで統一されている河東はこういった方向には少々弱かった。
袁術を見てはいても、その判断能力の低さは術による呪いと幼さによるものだと考えていた一刀にとって、まさか袁紹が袁術をそのまま、いやむしろもっと極端に拡大進化させたような人物だ、ということなど予想だにしなかったことである以上、じりじりと情報を積み上げて袁紹の意図を理解しようとするしか打てる手がなかった。


「洛陽の顔良から送られてきた書状を見る限り、もはや間違いありません……完全無欠に無策で来てるみたいです」
「そんな……馬鹿な…………」
「あえて言うなら、こちらに対して親愛を示して距離を近付ける、といったことでしょうか~」
「あんな態度で!?」
「……しばらく会ってなかったけど、いくらなんでもひどくなりすぎだろ、麗羽のやつ」


故に、場内に放っている密偵の数を急速に増やし、いろいろと思案をめぐらせて、ありとあらゆる邪推をした挙句に、「あれ? これひょっとしてただの馬鹿なんじゃね?」という結論に達するまで相当な時間が掛かった。

呆れ顔でそう伝えてきた軍師たちを前にして、一刀などはその結論が出たあとも相当受け入れられなかった。
彼の知る袁紹、という名前は決して有能なものではなかったが、それでも当時としては画期的な新兵器「弩弓」を用いて公孫賛の白馬部隊を一方的に撃破したり、謀略で持って一時宮廷に君臨するだけの能力があったことも災いした。
彼にとって、己よりも劣っていることは間違いないにしても、歴史に名を残す人間がそこまで無能なはずが無いと思ったのだ。
俺の知る武将がこんなに無能なわけがない、と。


「ふ、ふざけんなよ! いくらなんでもありえないだろ」
「とはいえ、現状ではそれ以外考えられませんし」
「こちらがどんな手を打ってきても防げる、なんていうほどの人員や装備でないことは間違いないです」
「袁紹自身を囮にして得られるほどのモノなんて、どう考えてもありえないですし」
「ふざけんなよ、マジでただの馬鹿だって言うのか!」


が、現実はある意味非情であった。
戦略的には都合のいいことこの上ないにしても、一刀の心理的には致命的なまでに袁紹は馬鹿であったのだ。
どう考えても無防備にしか見えない最強勢力の長が、その見た目のまま完全無欠に普通に無防備に訪問しに来たということをようやく一刀は思わず脱力したが、その後には激しい怒りをもった。


彼が望むのは、最速最高の天下統一。
それを、才あるものによる強力な意思によって邪魔されるならばさておき、よりにもよってただの馬鹿に邪魔されるとは!

袁紹が何も考えていなければいないほど、無駄に推測を重ねて無駄なことをした自分たちがあまりに間が抜けていて、それによって無為に過ごした時間が今まで散っていった命とあまりにつりあわない。
それは変に考えたがために出会った瞬間に術をかけようとしなかった己のうかつさに対する感情にも繋がったが、当然ながらそれ以上にそんな何も考えていないにもかかわらず、あまりにも意味なくこちらの時間を縛った袁紹への怒りへと繋がったのだ。


「くそっ……愛紗! いますぐ袁紹の奴を俺の前に引っ立ててこい!」
「……御意」


怒りに任せた判断は、策ともいえぬ乱暴な力ずくのものであったが、別に問題はない。
彼の側近も、その判断を止めなかったことがそれを証明している。
相手は策を持ってこちらに対抗する賢者でも、力を持って立ちふさがる強者でもないからだ。
ただの愚者相手には、短絡的なその判断さえも不正解とはなりえない。

馬鹿とはいえ、袁紹はある程度の数の護衛はつけている……だが、そんなものは無意味だ。
もはや彼の忠実な奴隷となっている関羽に対抗出来るほどの人材がいないことは、ここ数日の連日の調査によってわかりきっている。
また、仮にその用心をしていた―――例えば、袁家の二枚看板、文醜と顔良をつれてきていたとしても、一刀の持つ人形兵団の兵力を越えられるほどの才はないことも、すでに分かっている。
万を越える兵やあるいは最強の局地戦力である呂布をつれてこなかったことが見えた時点で、これはいつでも実行できたことなのだ。

だからこそ、一刀が短絡的に関羽に対して命じたその命令は、さしての暇も空けず、即座に実行され、その言葉どおりの結果が彼の前につれてこられた。
ものの四分の一刻もしないうちに、一刀の前にはその金髪の巻き具合とさして変わらぬほどに縄で縛られた、袁紹の姿があった。

周りには彼女を守る護衛など誰一人いない。
すべて、関羽たちに倒されたか、捕獲されたのだろう。
こうして洛陽さえも手中に収める、現時点での最大勢力袁家の長は、いとも容易く一刀の前にひっとらえられてその無様な姿を晒した。


「なんですの、あなた! この名門袁家の当主、袁本初に対してこの仕打ちはどういう了見をしていますの!」
「……黙らせろ」
「はい」
「ちょ、やめなさっ! ……! ~~」


こんな状態であるにもかかわらず自身の危機も感じずに己の権威をひけらかしてこちらに向かって悪態をついてくる袁紹に、一層苛立ちを感じた一刀は彼女を縛って連れてきた己が配下にその口さえもふさぐように命じる。
忠実な彼のシモベは、そのことに対して一切の反論をすることなくどこからともなく取り出した布でさっと枷を作って袁紹の口を封じようとする。
縛られた状態でも何とか上体を捻ってその手を回避しようとする袁紹だが、そもそも体を使うことで彼女が武将級の人間と争って勝てるわけがない。
びちびちと陸揚げされたカツオのように暴れまわったところで何の意味もなく、あっさりと縛られた状態で出来る最後の抵抗さえも封じられる。
こんな状態では、その大きな瞳で一刀を睨みつけるのが精一杯であり、それさえも憎しみにも似た光を浮かべてこちらも睨みつけている一刀の前には僅かなりとも役に立っているとも言いがたい。

だが、それも当然なのだ。
早いか遅いかの違いだけであり、一刀が巣を張るこの河東の地に袁紹が自分から飛び込んできた時点で、この結末はすでに決まっていた。
そう、決まっていたのだ。
にもかかわらず!

実際に実行に移ってみると、こんなにも早く、簡単に出来てしまう。
戸惑うことなどなかったのだ。
袁紹が来たその日のうちにやってしまえばよかったのに、それですんだというのに。
簡単であればあるほど、一刀の身勝手な心は自分の落ち度を責めると同時に袁紹の愚かさに対して見当違いの怒りを生み出す。

それを受けて、条件は整った。
それによってもはや戸惑うことなど欠片もなく、一刀は己のみに備えられた唯一の力を存分に行使した。
胸元に仕込んだ妖術書に軽く手を立てると、怒りを込めて大きく叫んだ。


「っ! ……! ~っ!」
「くそ、馬鹿の癖に面倒な手間かけさせやがって……俺に従え!」
「~~っ!! …………」


不快さを感じさせる波とも光とも音とも言い難い何かが一刀の言葉を媒体としてその空間に広がっていき、それは紛れもなく袁紹へと直撃した。
まるで背筋に何か冷たいものでも入れられたかのように体を振るわせ、口枷の上からでもなおも騒がしく呻いていた言葉も力を失って地に落ちた。
その瞳が光を失い、じょじょに閉じられていく。

いつも通りの風景、一刀の思う通りの展開だった。
こんなにも、簡単だったのだ。
巨大勢力の長とはいえ、所詮はたったの一人なのだから。

その普段と寸分変わらぬあっけなさに思わず虚脱感を覚える一刀であるが、これがそもそも正しいのだ、今までが間違っていたのだ、と思い直して、ふう、と大きく一つ息を吐くことだけでその感覚を体の中から抜いていった。


「気分はどうだ」
「……う~ん、何か、変な気分ですわ」


だから、控えていた愛紗に袁紹の口枷を取るように命じたときにはすでに平静を取り戻し、いつも通りの声音で袁紹に対して声をかける。
その響きを受けて、閉じていたまぶたがゆっくりと開いていく。
いつも通り、全くいつも通りの光景。
そのあまりのあっけなさに怒りは抜けないものの、それでも大分ましになった。
冷静になって考えてみれば、真正面から戦争することに比べれば大分時間の短縮にもなったことであるし、最終的に袁紹を手に入れられた、というのであればもはや勝利は決まったのだ。
過程こそいいたいことがないでもないが、それでも何とかうまくいったのだ。




もちろん、こんなに簡単にいくのであれば、何故もっと早くしなかったのだ、という後悔はいまだある。
その「早く」は、袁紹がたずねてきたときのことのみをさすのではない。
これほどまで袁紹がうかつである、というのであればそれこそもっと早く、もっともっと早くの時期に彼女の力を手にしておけばよかった、という思いだ…………例えば、北方大乱が始まったばかり、だとか。

手中に収めた袁紹の身につけた、その装身具の豪奢さを見て改めて思う。
袁は強大な国であった、と。

もしも『あのとき』、この袁紹ほどの国力、財力、兵力があれば。
一騎当万の将も、数万にもなる兵も、全軍に鉄製の鎧を支給するだけの財も、優秀な軍師も、すべてあったならば。
きっと自分が一手ぐらい間違えたところで、この手から零れ落ちたりなんてしなかったのに。


だが、そんな思いを一刀は頭を一度左右に振ることで振り払った。
英雄たるもの、後悔などしてはならない。
ましてや、「もし、こうだったなら」「あのとき、こうしていれば」などを語るなどと、御笑い種以外の何ものでもない。


払った犠牲は、無駄な犠牲などではなかった。
失敗などしていない。
必要な対価だったのだ。
そうでなければならないのだ。

自己を肯定しろ。
間違っていた、などと考えてはいけない。
今後、その失ったものの価値以上のものが手に入るはずなのだから、これは正しいのだ。
現に、また一つ獲物が増えたではないか。


「すぐに馴れるさ」
「そうですわね」


帰ってきた返事にも違和感がないことで一刀はもはや駒となった袁紹に対する怒りも消して、欲情の混じった声をかけた。
その顔には、すでに影は消えていた。











「……って、ちょっと、あなた! ちょっと一瞬ほうけていましたが、この名門たる袁家の当主、袁 本初に対してどういうつもりですの!」
「…………えっ?」


が、そこから帰ってきた言葉がおかしかったので、再び顔色は容易く変わった。
これ以上なくおかしかったのだ。
周囲を囲うものさえも、愕然とした表情をしている。

が、響き渡るキンキンとした声はどれほど一刀たちが硬直していようと、いっこうにやむことはない。


「どうしてこのわたくしがあなたなんかに従わなければなりませんの……しかも、言うに事欠いて『馬鹿』?不愉快ですわ!」
「…………………」


思わず聞き間違いかと思うが、そんな一刀のことなど一考だにせず、一気に袁紹は不満をまくし立てた。
そう、絶対の支配者であるはずの一刀に対して、「不満」をまくし立てたのだ。
縛られていて、一刀に対抗する武力も持たず、一刀の声が届いている以上もはや俎上の鯉以外の何物でもなかった。
今の今、確実に一刀の忠実なる駒へとかわったはずの袁紹が、縛られたことに対する不満と共に不当な扱いに対する抗議の声を大きく上げる。


「さっさとこの縄を解いて土下座をして詫びなさい……ちょっと、聞いていますの!? この私を誰だと思って?」
「はぁ!?」



対等以下のものに対してでなければ発動しない太平要術の書。
そもそも袁紹の頭の中に、「敗北」だとか「不利」とかいう言葉が存在するのであろうか?
流石に敗北を認めるだけのぎりぎりの能力がある袁術とは異なり、いついかなる状況であってもこの袁紹である麗羽が、間違い、ミス、自分に都合の悪い決着を認めるわけがない、ときっと彼女の側近であればいうであろう。
そういった自分に対する不都合の存在そのものを認められないからこそ彼女は洛陽を衰退させ、今まさに一刀の前に囚われているのであるが、兎にも角にも袁紹はそういった一種の精神障害ともいえるかのごとき頑固さで自分の最高さを妄信している……もともと一般人であった一刀が環境によって増長しているのとは桁違いのレベルで。

はたして本当にそういった認識が影響したのかは不明であるが、この外史において唯一、袁紹に対しては太平要術の書が機能しなかったのは紛れもない事実。
ひょっとすると、そういった劉備にも、孫策にも、曹操にも持ち得ない、彼女の特性こそが世を大乱に導き、乱れれば乱れるほど力を増す妖術である太平要術の書の天敵なのかもしれない。


自身の絶対の力が破られる、そんなありえない現象を前に一刀は混乱を隠せなかった。
そして、それに相対する袁紹。
いまだ縛られたままであり、その高慢さを裏付ける物はただの根拠のない自負でしかないとはいえ、またも袁紹によって一刀達の予想は外されたのである。



   43話へ

Comment

No title

袁紹パネェ
もうそれしか言葉が浮かびません。

No title

さすが麗羽様っスネ

No title

そうだなよなぁ、こいつは洗脳できないよなぁっと納得させられましたw

No title

これは爆弾を抱え込んだか?w

No title

ああ、なるほどw
確かにこいつは洗脳できんわw
さて、それではどうするで次か
どうなるやらw
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プロフィール

基森

Author:基森
蚕鳴や円禍と名乗ってたこともあります。

主に小説・ssなどを置いているブログです。

自前の本棚を持つのは初めてなので手探りでやっている程度のものですが、わずかばかりの暇つぶしにでもなれば幸いです。


メールは「kulukku106☆yahoo.co.jp」まで、☆を@に変えた上でお願いいたします。

そろそろ、非営利にならトップへのリンクフリーとか言ってみたり。

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