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外史につくろう穢土幕府・41

よっしゃ、あんまり満足いってないけどなんとか完成です。
やっぱ昨日読んだ麗羽さま補佐のお話が面白かったので、一気にインスピレーションが得られたのがよかった。
自分にとって面白いの読みたいから自給自足してるだけに、やっぱりまとめてある程度の量の面白いのを読めるとテンションが違いますね。
結構好みが偏っているんでここのところ中々あたりがなかっただけに、久々のヒットが嬉しかったです。

願わくば、この話も誰かのお好みに合っていますように……











「よし、準備は整った。これで最悪戦争になったとしても互角に戦える」


現在の河東は、かつての貧しい辺境ではもはや無い。
幽州を吸収合併し、西域連合から領土を割譲させ、劉備たちが奪った元袁紹の土地であった南陽の一部さえもどさくさにまぎれて領土に組み込み、他の地域であればもはや小国と呼ばれてもおかしくないほどの規模と化した一刀が治める地域の中心地となっている河東は、現在もなお成長を続けていることを思えば洛陽にさえ引けを取らぬ巨大都市といってもいいだろう。
落日の勢いである洛陽を見捨ててこちらに流れてくる先見の明があるものは多く、そしてそれ以上に権力者同士の争いによって焼け出されたものはさらに多い。
そして、賈駆から継いだ多種多様な政策が実行されていることによって、人手はいくらあっても足りない状態である河東はそれらすべての人の流れを容易く飲み込んで己が力へと変えていった。


「いくら袁紹の兵力が膨大だとはいえ、こないだ減らしたのはお互い少ない数じゃないからな。だが、こっちはある程度回復してきてる……失ったものは多かったとはいえ、な」


多大な犠牲を払ったとはいえ、諸勢力の中で唯一完全な形で戦争に勝利したという天の時。
広大な領土と共に強敵に隣接していない立地条件からなる地の利。
そして、妖術による歪んだ、されど強固な人の和。

富国強兵を唱えるには、十分なだけの条件が一刀の元にはそろっていた。
このまま順調に時を過ごしていけば、更なる発展さえも見込め、やがては袁紹を自力で追い抜くことだって可能だったかもしれない。
袁紹の持つ巨大な財の力は先祖代々受け継いできたものであるのに対して、一刀が持つその数の力は彼が妖術一本で稼ぎ出しているものなのだ。
じょじょに衰退を続けている相手方に対して、自分はずっと上り調子で来ているのだから、以前の彼の考えであればだらだらと時間を掛けて飲み込んでしまえばいい、と思ったに違いない。


「もうこれ以上待てない。そろそろ対局といこうじゃないか」


だが、時間を掛けるということはすなわち、もう一方の敵手にも同じく時間を与えることに他ならないこと―――そして何よりも、失った者の墓前に供える花をこれ以上待たせる怒りが、一刀にその選択肢を取らせなかった。
彼が望むは最短距離による、自分の自分による自分のための天下統一。
天下の英雄をすべて叩きのめして這い蹲らせて、その美妃を残らずたいらげることを考えれば、今の一刀はそれをなす為に趣味の時間に入るのを待つことが出来た。


まるで脅迫されるかのように誰かと共に描いた夢を実現しなければならないと痛烈に思い込んでいる一刀にとって、一時の安住の為の停滞は許されない……勿論それは、敗北というこれ以上ない後退よりはマシではあるが、どちらにしても論外の結果だ。
一刀に許されているのは、速く勝つか、圧倒的に勝つか、強烈に勝つか、それだけだ。

その思いを胸に、彼は可能な限りの安全策を取りながらも、もはや怠惰に寝転がるのをやめて必死になって頭を働かせ、雛人形らと図って策略をめぐらし、忠犬たちを走らせて情報を集めて、確実に前進する為の一手を打つために考え続けた。
本人が思う以上に統治能力や判断能力が欠けている一刀ではあるが、妖術の力とそれによって今まで奪い取ってきた数々の駒が、その考えを磐石なものへと変えていく現状において、それは正しい選択といえたし、そのことを彼も河東への各種政策を通じて実感していた。

ならばこそ、彼はここであえて自分よりも強大なはずの袁紹に挑む。


「曹操なんていう邪魔者が舞台に上がってくる前に、どちらが強いのか、まずは決めよう」


自身が英雄であると思い上がっている一刀であっても、同時にこの世界における『登場人物』たちの恐ろしさを完全に忘れたわけではない。
たった一人で千人を潰した孫策、それをも超える能力を持つ呂布……そして誰よりも、決して失策を口にしなかった賈駆の名は、彼の脳裏に痛烈に刻まれている。
彼女らの存在を知っている以上、いかに自身の能力に自信がある一刀であっても「三国志の登場人物」の名を無視出来るはずもない。

確かにここは三国志の時代であり、彼女たちはその名に相応の能力を持っている。
それを前提に頭をめぐらせる。


「『魏の武帝』様は、その後でゆっくり料理してやる」


だからこそ彼は、間違いなく三国最強の能力を持っているはずの曹操と、『倍ぐらい』の国力差しかない状態において挑んだり、あるいは時間をゆっくりと掛けてお互いの才を競い合う内政の上手さを競うレースなどをするつもりなど端からなかった。
今まで警戒さえしていなかった障害物であっても、実際に自分がそれを超えていく立場へと参加するのであれば、間違いなく最大の障害であると認めたのだ。
例えどれほど戦力差があったとしても、戦えば負けるかもしれない。

故に、戦う前に相手を這いつくばらせたりしない対等の状態で万能の天才と戦ったり、あるいは時間を掛けて魏の武帝を強大化させるぐらいであれば、たとえ現時点では相手に対して兵力などで劣ってはいても、自らの知る物語やこの地に来てより得た噂話などから総合して考えて組しやすいであろう愚物、袁紹に挑むほうを選んだ。
そう、一頭の狼に率いられた百頭の羊と戦うぐらいであれば、一頭の山羊に率いられた百頭の犬と戦うほうがマシである、とこの世界における率いる狼の桁違いさを知った一刀は判断していたのだ。


「とはいえ、お互いただ単にぶつかり合うだけだったら、勝負の後に呼ばれてもないその役者がノコノコ出てくるかもしれないからな。そっちには呂布もいることだし、先手を貰った俺はとりあえず角道を空けさせてもらうとするか」


だが、同時にこの外史における一刀の気質は、決して自らよりも強大な相手に正々堂々とした正面決戦を挑むようなものでないことも確かだ。
質に対して数で対抗してきた彼は、実際に戦場に立ったことがない故に配下の関羽や張飛の力をあまり信じてはいない。
報告、という形では自軍の兵士たちがたった一人に擂り潰された、全滅を喰らった、信じられぬほどの怪力を振るった、と確かに彼女たちが千もの兵に匹敵する、ということを知ってはいるのだが、同時に彼女たちは今すでに一刀の配下に入っているように、すべてが敗者。
すべてが一刀の用意した「数」や「策」などというただその一点にて敗北した結果を見ると、例え能力が半減しているにしても他の君主の誰一人として持ち得ないこれほどの戦力を揃えてなお、「例え相手のほうがちょっとばかし数が多かったとしても一騎当千の関羽、張飛、馬超、馬岱や公孫賛がいる以上、負けっこない」などという楽観は出来なかった。
数で英傑を押しつぶしてきた一刀は、だからこそ驕っていたとしても自身も自分の才をも越える数に押しつぶされるかもしれない、ということに対してある程度の警戒を失わない。

ましてや、相手は「最大」だけではなく、「最強」もだ。
かつての北方大乱における友軍であった呂布の個人としては桁違いの戦果も考えるに、そんな力を保有する袁紹ら官軍側と正面から戦う、ということであれば、流石の彼でも苦戦を強いられると思ったのだ。
だからこそ、武力衝突をまずは避けて、相手の出方を窺う。
そもそも、まともに戦うことの意義なんて欠片もないのだから。


「こちらの恭順に喜ぶか、それとも恐怖するか。まずは一手だ。さあ、御手並み拝見といこうじゃないか」


勝算はあるにしても、わざわざ真面目に百の犬と戦うことを考える前に、まずその頭の山羊を潰す。

戦うならば、強い方よりも弱い方を。
そして、弱い方相手にも、正面からではなく搦め手をもって。

この外史における数と質の違いによる戦争の仕組みを知っていた彼は、だからこそ妖術書の保有者として相応しい初手を動かした。










「おーほっほっほっほっほ!」
「「……はぁ」」


笑い声とお供のため息だけで誰だか判別が付くため、描写がとても簡単に済む彼女の名前は、もちろん今現在洛陽と宮廷を一手に牛耳る袁家当主、袁紹である。
その金に輝く長い髪も、白くつややかな肌も、自身と自負に彩られた瞳の輝きも、すべてが彼女こそがこの宮廷の支配者であると証明していた。
ちなみに、もう一つの袁家、袁術一派とは従姉妹関係である―――故に、ありとあらゆる面でよく似ていた。


「所詮は公孫賛さんでしたわね、私には向かおうなんて考えるからあんなふうになってしまうのですわ」
「……あの~、麗羽様?」
「何ですの、文醜さん?」
「一応あたしら、反乱起こされた側の最高責任者なんで、そろそろある程度の反省と再発防止案、見たいなのを皇帝陛下に述べるべきだと思うんっすけど」
「え? 反乱なんて勝手に起こした公孫賛さんが悪いに決まってるじゃありませんの」


位人臣を極めたのみならず、それを授ける側さえも思うが侭とした袁紹は、だからこそ袁家の二枚看板の一人として認められている腹心たる文醜の言葉を聞いてもなお、自らの間違いなど認めはしなかった。
脳まで筋肉で出来ている文醜の口からさえそんな危惧が出てくることの異常性にさえ気付きはしない。

そもそも彼女は、現時点で自分に逆らう勢力がいる、ということ自体を想定さえしていない。
一刀の想いとは裏腹に、袁紹にとって見れば、あの「くるんくるん小娘」曹操さえも自分に対して頭を下げてきた今となっては、もはや自分に逆らう勢力がいるなんてこと考えられないのだ。
故に、彼女の考えの上では、あとはこの華麗で美しい袁紹様が、愚民たちによって乱されまくった世を正していく、これしか頭になかった。

だから、周りからこれ以上にらまれない為にやっておくべきことという珍しく真っ当な正論を述べた文醜の意見に対して、そもそも言われている意味がわからない、といわんばかり態度で却下した。
本当に珍しく、相方さえもその久々ぶりに思わず目を向いたその現状をきわめて正確に把握していた意見、「諸侯どもに足元を崩されないためにいろいろと地盤を固める」という方針を、理解さえ出来なかったのはいくらなんでもこの再びの戦乱が近付きつつある時勢を考えるとうかつに過ぎた。

いくら麗羽でも、それはあまりに現状を見ていない言葉だ。
そのあまりに堂々とした態度に、意見した側であるはずの文醜は思わず「あたしの方が間違ってんのかなぁ?」などとも頭によぎったが、元宦官派の連中からそれとなく、しかし延々と続く抗議するに出来ない程度の地味な嫌がらせにまいった部下たちから必死に懇願された内容はかろうじてまだ頭の中に残っていた為一応さらに説得に掛かる。
流石の脳筋と呼ばれる彼女、文醜こと猪々子とて、同僚に言われずとも今の麗羽の行動が不味い、ということはそろそろ分かってきたのだ……主に先祖代々袁家に仕える忠義心厚い部下による必死の懇願によって。


「いや、それはそうなんっすけど、皇帝陛下とかにも体面ってもんがあるでしょうから、一応臣下のあたしらもこういうことは二度と起こしませんよ~、見たいなのは必要っしょ?」
「そ、そうですよ~麗羽様。文ちゃんの言うとおりです。ちょっと形だけでいいですから、書状にご署名をいただけません、ね?」


珍しく同僚がごくごくまともなことを言っていることに驚いて思わず反応が遅れてしまった袁家の二枚看板の残り一枚、顔良もそれに同調する。
三人衆の中で唯一まともな頭脳を持つ彼女は、相棒がこんな理知的なことをしゃべっていることに対する驚きはあれども、この絶好の機会を逃すまいとに以前より主張していた自分の意見を通そうと、以前より用意していた書状を何枚か、この機会に懐から取り出した。
その準備のよさは、彼女が二人とは違い以前より現状―――河東がこちらの隙を狙っているかもしれない、ということを正しく把握していたことを表していた。


(文ちゃん、ありがと~! これで少しでも麗羽様が危機感を持ってくれれば……)


彼女は、麗羽の統治ともいえぬ現状が決して長くは続かないだろう、ということを承知していた。

現時点での最強勢力であるとはいえ、袁家の屋台骨はもはや傾いている。
袁紹による統治は、確かにその有り余る財産で一時的に落日の勢いであった漢王朝そのものの延命に成功したが、所詮そこまで。
いくら先祖代々溜め込んだ財や権威であっても、流石に滅びゆきつつあった王朝そのものを助けるにはそれだけでは無理があった。
官の腐敗は行き着くところまで行っており、それに乗ずるかのように各地に巨大勢力が台頭し始めている。
それを掣肘するには、長年の平和により弱兵となってしまった漢王朝の兵ではもはや不可能。
袁紹について漢王朝の中に入って始めて、顔良はこれらのことを知った。

この外史においては一刀のある意味大活躍により起こっていなかったが、それでも黄巾党の乱のような大規模な反乱が起こる下地さえ出来ていた漢王朝は、長年の統治によってもはやちょっとやそっとの改革では改善が不可能なほどの内憂に犯されており、それに加えてトップが袁紹になってしまった、というこの事態に袁紹一派では誰よりも早く気づいた顔良は、だからこそそれを変える為に必死に奔走していたのだ。


「嫌ですわ。何でわたくしが白蓮さんの尻拭いをしなきゃならないんですの!」
「……まあ、そうっすよね。あたしも言いながらも途中で多分そういうと思ってました」
「……麗羽様が、形だけとはいえ誰かに謝るはずないですよね、はぁ~」
「その通りですわ! 猪々子さんも斗詩さんもこの栄光ある袁家の側近ならばもっと普段より誇り高くなさい」


ましてや、他人に対して自身の高貴さがゆえに一切譲らぬ袁紹の態度は、そういった漢王朝の腐敗部分を一層悪化させるものだ。
何とか政務を改善させようと顔良が彼女の傍を離れて四苦八苦している隙を漬け込んで蜜にたかる蛆のように取り入ってきた有象無象によって、袁紹はすでに幾度となくいいように操られた。
まともな文官武官が次々と匙を投げて逃げ行くほど、もはやその統治には大義も伝統も信念も何一つ残っていないものとなってしまっている。

そして袁紹自身にも、確たる目的ややりたいことがあって天下を統治しているわけではなく、ただ己こそが最高の人物と思うがゆえの統治。これでうまくいくはずがなかった。
ある意味、かつての一刀と同じであったのだが、それを分かっているはずの文醜と顔良はどこぞの誰か達とは違って残念ながら補佐役としての最上の才を持っているとは言いがたい。

だからこそ顔良は、今の衰退の原因がわかっていてもなおそれを改善するには至らなかった。
彼女たちだって、他の凡俗とは比べれば優秀な能力を持ってはいるのだが、流石にその能力はその舵を取る方向を間違えてまで覆せるほどではない、ということだ。
そんな出来ることは精々被害を最小限に抑えることだけだった。


「すみません~」
「じゃ、じゃあ麗羽様。せめて、あの河東の董卓へ御言葉だけでも」


そのことを自分でもわかっている顔良は、そういった自分の微力さを痛感しつつも、愛する主人の為に何とか現状を改善しようと献策を続けている。
軍師というには物足りない、武将と呼ぶには最低限度。
それでも彼女は、忠臣だったのだ。


「董卓? ……ああ、あの白蓮さんたちを破るのに呂布とかと協力したとか言う者の名でしたかしら」
「ええ、割といい奴みたいっすよ? 使者も随分歓待を受けたって話ですし」
「今のところこちらに忠誠を誓っているものの中ではすっごく優秀ですよ。ですから、そろそろ恩賞とかも与えておかないと!」


現時点で洛陽が少々やばいことになっていようとも、北方大乱を勝利したことには間違いない。
例えその勝利によって世間の評判や金銭、兵力、仕官といった利を得たのが河東と呂布がほとんどだったとしても、袁紹たちは勝者側なのである。
先に上げた二者とは対等ないしこちらが上の立場であり、敵対しているわけでもない。
そうであるならば、潰れかかった漢王朝に袁家の金銭が流れ込んだことによって一時的な延命に成功したように、彼女たちを取り込むことで体制の安定を図ることが出来るかもしれない、と思った顔良は、だからこそ以前より何度も言っていた董卓への恩賞へと話を持っていった。

同じような流れで呂布の固執する野生動物たちへの保護を袁紹に認めさせたのと同じように、相手に恩と金を与えることでこちらと結びつくことによる利を示さなければ―――あるいは、自分たちよりも名声を獲得した彼女たちを何らかの理由で取り潰さなければ―――もはやこの戦乱の空気を孕んだ不穏な歴史の流れの中では生き残れない予感を、彼女は感じていたのだ。

そんな彼女の焦りも気付かずに、同僚と主君はその言葉で暢気な言葉を交わす。


「いや~、使者に行った奴が持って帰ってきた馬乳酒もうまかったけど、それよりもっとどろっとした……なんだっけ? よ、楊愚瑠戸、とかいうのに蜂蜜混ぜたのも最高でしたよ」
「……ちょっと、猪々子さん? わたくし、その話聞いてませんわよ」


反乱軍の最大勢力二つに囲まれるという窮地にあったとしてもそれに阿ることなく、漢王朝に対して忠義を示してきた董卓は、今なおこちらに対する恭順の態度を崩してはいない。
そのことを考えると、暢気な二人よりも先のように利と恩でもってその更なる忠誠を買おうとしている自分のほうが間違っているような気がしてこないこともなかったが、だからといって用心を怠ることは出来ない。

とはいえ、結局この袁家の主導権はすべて麗羽にあるのであって、例えどれほどの良策を考えられたとしてもそれを認可してもらえなければ何の意味もない、ということも分かっていた顔良は、だからこそ主君の機嫌を損ねそうになった同僚を何とか抑えようとした。
が、残念ながら彼女の相方はその意を汲んでくれることはなかった。
そのことに溜息を吐くが、同時に深刻ぶっているのも二人には似合わない、とも思ったので強くもいえない。

公孫賛に近いレベルで政武共に優れた顔良がいながらも、袁家が緩やかに衰退している理由はこういうところにあった。


「……文ちゃん、それは文ちゃんが一人で全部食べちゃったから麗羽様には内緒にしておこうって」
「あ……いや~、すみません麗羽様。あまりに美味かったのでつい……いや~、美味かったな~また食いたいなあ」
「きいいいいい~~、なんなんですの、あなたたち! わたくしだけのけ者にしてそれでも歴史ある袁家に仕える者ですか?」


河東から運ばれてきた貢物の意味も、彼女たちにとってはあまり関係ないのだ。
斗詩が必死にその目録より相手が忍従を選んだのか、従属を求めているのか、雌伏の為の時間稼ぎをとおもっているのか、読み取ろうとしている横で、彼女達の関心はその品に対するものでしかない。

だが、それでいい。
彼女たちは、それでよかった。


「使者の報告なんて聞いてらんない、って出て行ったの麗羽様じゃないですか~」
「……文ちゃんも献上品だけ取り上げてひたすら食べてるだけだったけど」
「まあまあ、いいじゃないか、斗詩~。あたしと斗詩の仲だろ?」


例え、政務が出来なくても、あまりに自己中心的な考えが強くても、斗詩は麗羽が好きだった。
どれほど他人にとっては暴君であっても、彼女にとっては仕えるに値する主君だ。
だからこそ、その彼女が笑って過ごせる日のために、その身を削ってでも全力を尽くす。
そのためには、河東は必要だ。

ならば、求めるのは袁紹からの河東への心象の上昇。
今の洛陽の維持には呂布と河東が大いに関係している、ということをたとえ麗羽が認めなかったとしても、ある程度の優遇を斗詩が測ったとしても文句を言わない程度まで気に入ってくれれば、後は斗詩が自分が何とかするつもりだ。
自分の力で河東も呂布も潰して、袁紹の天下を守ってみせる! とまでいえない斗詩にとって、これが精一杯だった。


「え~っと、麗羽様? 今ある物はもうどうしようもないですけど、今後も河東とは連絡を続けるつもりですのでまたそのときにでも」
「わ・た・く・し・は! 文醜さんが一人で食べたという事実が許せないのです!」
「痛い、痛いですよ麗羽様~」


もっとも、ぐにぐにと猪々子の頬を引っ張る麗羽がそれを酌んでくれるとは、彼女自身でも思っていなかったが。

この前呼び出したときの夏侯惇のあの冷たい殺気を覚えている顔良にとって、彼女の主君であり麗羽の天敵ともいえる賢人、曹操がこのまま麗羽の下風に立ち続けるとは思えない。
兎角、二人の相性は最悪なのだ。

それでもこちらに反旗を翻さないのは、同じように立って潰された公孫賛と馬一族のことを思い、曹操がいまだこちらの勢力の強大さを警戒して雌伏のときと思っているにちがいない。
そう、前回の戦争のことを思うと彼女が恐れ、警戒しているのはきっと麗羽たちではなくて呂布と河東勢だ。
彼女の性格として麗羽にナイショで呂布や河東とつなぎをつけよう、とするかは微妙なところがあるが、おそらく仲たがいをたくらむ程度のことはやるであろう。
そうなってしまえば、きっと今以上に麗羽は苦境に立たされることになる。

だから、どのような形であっても麗羽に河東に対する関心を抱いてもらえるということは大切だ。

持ちうる物は、金と権力。
望む物は、武力と忠誠。

その互いに都合のいい交換を成立させる為にも、何とかして河東を見方に引き込む為の工作を麗羽に認めてもらいたい顔良にとって、麗羽が河東の特産品にひきつけられること自体は歓迎できることだった。


「もう、いいですわ! わたくし自らが河東へ視察にまいります」
「え?」
「あ~、麗羽様さては一人で河東食べ歩きするつもりですね? も~、食い意地張ってるんですから」
「あなたにだけは言われたくありませんわ、猪々子さん!」


が、いくらなんでも、単身敵地であるかもしれない河東に出向くなんてことをいいだすとは、想定外にもほどがあった。
洛陽勢力にて唯一指し手に助言が出来る顔良の思考を上回るほどに、袁紹の手順は定石はずれのめちゃくちゃだったのだ。








「さてさて、いったい何手目でここまで誘い込まれてくるものかな?」
「一刀様! 洛陽よりまたも御使者が」
「……は?」


もっとも、それは何とかして袁紹を手の内に誘い込んで力ずくで術をかけようとしていた一刀にとっても、同じであったのだが。



  42話へ

Comment

No title

さすが袁紹そこに痺れないし憧れもしないwwww

No title

流石麗羽様、俺たちの予想に対して斜め上を行く行動だw
そこに痺れないし憧れもしないけどwww

No title

既に上で言われてる様に麗羽様バネーw
そこに痺れないし憧れもしないけどなwww

No title

とあるサイトで『悪の秘密結社』が紹介されてまして、そこから一気に読ませていただきました!

こちらの作品もとても面白く読ませていただきました…詠ちゃんの死が未だに悲しすぎますorz
これからも応援してます!頑張ってください!


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プロフィール

基森

Author:基森
蚕鳴や円禍と名乗ってたこともあります。

主に小説・ssなどを置いているブログです。

自前の本棚を持つのは初めてなので手探りでやっている程度のものですが、わずかばかりの暇つぶしにでもなれば幸いです。


メールは「kulukku106☆yahoo.co.jp」まで、☆を@に変えた上でお願いいたします。

そろそろ、非営利にならトップへのリンクフリーとか言ってみたり。

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