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外史につくろう穢土幕府・38

基本的には人の数だけ好みがあり、人の数だけ思想がある、というスタンスを持ってます。
故に主人公=正義でござい、ってのは少々苦手です。
まあ、ニッチ狙いの人間が、「少数派にも配慮をした世論の形成を」って吼えても説得力ないことこの上ないんですが。

要するに、劉備の甘くて温い考えなんて間違ってる! とは言いたくないし、言わせたくないです。











「いくら仮面で顔を隠したって、分からないわけないだろう」
「…………」
「今までの奴らだって、どっかで見たことあるような腕前してるし、怪しいなぐらいは思ってたんだ……そこに従姉妹が加わって戦ってるの見たら、すぐ分かったさ。何せ、お前を鍛えてきたのはあたしなんだから」


思わずもれた呟きは、間違いなく風に乗って相手の耳に届いたはずだ。
しかし、あまりにも無力なその言葉は、今まで培ってきた思い出、絆、愛情すべてを乗せたとしてもすべてをひっくり返すには軽すぎて、届いただけで再び風に乗ってかき消された。


「……そっか~。ゴメンね、お姉さま。御主人様の命令だったから、諦めてね♪」
「っ! ……いったい、いったい何がお前をそんなに変えちまったんだよ、蒲公英」


だから、その万感の思いを込めた言葉は何一つ状況を改善することなく―――馬から引きずり落とされて全身打撲だらけの状況でかろうじて槍を構えた馬超は、未だにその周囲をすべて敵に囲まれていたという状況は何一つ変わらなかった。
そして、その元凶たる少女も、覆面越しなので顔色や表情はよくわからないが、少なくともその声音は間違えようもないほどに楽しげで、少なくとも馬超の悲壮さとは到底つりあわないもの。
思いや絆、努力などよりも才が優先されるこの外史では、言葉だけでは悪の妖術を打ち破ることなど出来ない。
その事実の前では、もはや何を言っても無駄なのだ。


故に後に残るのは単純にお互いの力と力のぶつかりあいだ……すなわち、この場合は一対五、そしてそれを囲う幾重もの雑兵たち、それこそが考えるべきもの。
いかに馬超の腕が優れたものであり、いかに相手の槍が鈍っていようとも、それを上回る数の差を感情に入れて計算した結果のみが、勝敗を左右する。
だからこそ、何処か諦めたような口調で呟いて悪足掻きをすることだけが、五人もの将―――その全員が覆面を被っている―――に包囲された馬超に出来る最後のことだった。







劉備軍を滅ぼすのは、実に簡単だった。


稀代の人垂らしたる能力を持つ英雄、劉備。
この世界における最上の軍才を持つ少女、孔明。

まともに戦うとするならば、例えどれほどこちらが大勢力であり、相手が小勢力であったとしても決して油断できない、ということは、袁紹の号令によって発された必殺の反乱軍殲滅さえも利用して、彼女たちが幽州全土を支配するようになり、その力を持って官軍を退け続けたことからも証明されている。
反乱軍と官軍の小競り合いが二年近く続いたことで時間的猶予を得た三国最後の一つ、魏の曹操が、あまりにも有能すぎるとして袁紹に嫌われて洛陽から遠ざけられ、ようやく県令という地位を得て群雄の一つへと加わった段階でしかないことを考えれば、元がただの義勇軍ですらない一兵卒であった劉備の立身栄達はあまりに早すぎるといわざるをえない。

それは孔明が加わったことで運だけではない実力さえも加味されたものとなっており、もともと幽州の強力さもあいまって、現時点での兵力では曹操は愚か、袁紹にさえも届きそうなほどに膨れ上がっていたことにも現れている。
政にも軍にも策にも通じている最強軍師、諸葛孔明による連戦連勝は、戦時においてもなお彼女たちの勢力を増させたのである。
だからこそ、当初の人数としては十数万もいた官軍を押さえ込み、一人で一軍に匹敵する天下無双の呂布さえも一時的とはいえ封じ込めることを可能とし、その上でこのあと河東を吸収合併すれば、さらに勢力を増して官軍を撃破して袁紹の暴政を非難できる一歩手前までに進むことが出来たのだ。

それは、建前ではなく本気でこの乱世を仁と和によって治めようとする劉備の思想に、多くの人々が共感したからであり、その実現の為に孔明が全身全霊を使って尽力をしたからこそ出来たことであった。
紛れもなく彼女たちは英雄であり、彼女たちに率いられた兵は精強であり、彼女たちの治める幽州は強国であった。





だが、しかし。
いかに劉備が理想を人々に伝えようと、いかに孔明がそのための策を練ろうとも。
もはや、すべてが遅かった。
なぜならば、一刀の保有する妖しの術はそのすべてを無効化するのだから。

そもそも、劉備軍の軍備の要である関羽さえもその能力をいくらか減じることとなったとはいえ、そっくりそのまま彼の手に落ちたのだ。
そして、彼女たちはそのことには全く気付かず、それどころか今までどおりの全幅のおいたまま、関羽たちに接している。
今までの信頼があるとき急に変化して敵にまわるなどということになり、しかもその動きは時を置けばおくほど、ゆっくりとではあるが全軍へと浸透していってしまう。
なるほど、監視をする人数が多い上に一刀本人の絶対的安全を前提条件としているため、その数をすべて抜いて場を作るにはいささかの時間がかかることになるが、それでも中核である劉備にまでその魔の手が伸びるのも、逆に言ってしまえば時間の問題でしかない。

この状況では、劉備の徳が趙雲を仲間にしようとも、孔明の行っていた在野の武将集めに偶々華雄がひっかかろうとも、はっきり行って誤差の範囲でしかなかった。
極論から言えば、この状況下ならば時間稼ぎさえ出来れば一刀からしてみれば劉備と袁紹と曹操と劉璋と孟獲が連合してくれてもかまわないのだ。
むしろバラバラになっている現状の方が一勢力ごとに捕獲洗脳侵入支配といちいちやらねばならなくなって面倒なぐらいである。
一刀の怠惰と安楽、それと引き換えになった術の力の乱発とは、それほどまでのアドバンテージを主にもたらすのだ。

それに加えて彼が今まで集めに集めたコレクション……この影響も非常に大きい。
一人一人は能力が半減したに等しいにしても、それでもその駒のほとんどが一騎当千と呼ぶに相応しい者ばかり。
一対一ではもはや特級の武将とは戦うことが出来ないほど弱体化したとしても、それも数さえあれば補える程度の欠点でしかない。
数さえあれば孫策相手に雑兵でさえもが勝利できるのだ。ならば、五人を超える豪傑を手駒に揃えた一刀からしてみれば、後はその舞台さえ作れればそれで終わり。
数を無効化する能力を持つただ一人の例外、飛将軍呂布を除けば、もはや勝利は約束されている。



だからこそ、戦時においてもなお力と数を備えていたにもかかわらず、かくもあっさりと劉備軍は―――幽州・西域連合連盟による反乱軍は、落ちた。
例え各地の英雄豪傑にどれほどの才があろうとも、どれほどの智があろうとも、それ以上の才たる太平要術の書の支配者の前には全くの無意味だった。






「反乱軍の首魁が一人、劉備を連れてまいりました!」
「……」


縛られたまま一人の少女が自分の前へと引っ立てられてきたことを周囲の言葉で察知したことで、一刀は数々の装飾が施された豪奢な椅子に座ったまま閉じていた瞳をゆっくりと開いた。
縛られた少女が、不安そうで心細そうな表情と同時にこちらを胡乱げに見ているが、それでも一刀は揺るがない。
なぜならば、彼が座るものは戦場に持ち運べるように簡易的なものであるとはいえ、紛れもない玉座だ。
そこに座るものとして、敗者たる眼前の少女のちっぽけな同様なぞにかかずらう必要など無いと考える一刀にしてみれば、この場は自分の一方的な要求を相手に伝えるだけの場所なのだ。


「あ、あなたが……董卓さんですか?」
「……」


だからだろう、目の前の女―――公孫賛亡き後、幽州軍の頭領としてこの戦争の代表者の一人であった劉備が、己に対して先に声をかけてきたときには、その先ほどから能面のように凍りつかせていた表情を僅かに動かした。
敗者が、元凶が、仇が、自分に向かって先に口を開くことなど、『間違っている』はずだ、という思いで。
その主の怒りを感じたのか、一刀が何を言うまでもなく、彼の隣に控えていた少女が先に口を開いた。


「董卓は、私です。この方は、河東の真なる主、天の御使い北郷一刀様です……控えなさい、劉備」
「天の御使い……」


かつて、『とある少女』が立っていた場所に代わりのように立っていた月は、その一言をまるで言い聞かせるかのように劉備に告げた……主たる一刀の意思どおりにまるで人形のようにただ淡々と言い含められた言葉だけを。
それによって己に告げられた言葉、『天の御使い』という言葉のあまりの大胆さと北郷一刀という名の聞き覚えのなさに、言葉を失う劉備。


そもそも、河東軍―――否、いまでは北郷軍、か―――の内情については、ほとんど世に知られていない。
詠がいた頃はまだ一刀による介入がほとんどなかったがために、軍師三人組によって組まれた高度な防諜網はしかし割ける人数の少なさゆえにそれほど機能していたとは言いがたい。
それがために、一刀の派手な行動によっては当時は民間人であった孔明に鳳統の行方などまでばれることもあった。
だからこそ、董卓あるいは賈駆の愛人らしき調子に乗っている一人の男のことならば、諜報を統括していクラスの人間にならばある程度は知れ渡っていたといってもいい。

が、例えば旧孫呉のように王城に単独で侵入できるレベルの斥候がいるわけでもない劉備軍にとって、一刀が本格的に介入してきてからの内情でつかんでいるモノは、というとほとんどがでたらめなものばかりだ。
現代人故に情報の大切さを知っている一刀が臆病さと今後の布石として、能力を大幅に減じているとはいえそれでも有数の軍師である鳳統に対して太平要術という超常の力まで織り込んで考えさせたそれは、レベルとしては以前のものより劣ったが、それを構成する質と量が全く違った。
侵入してきたものを捕獲して操って偽情報を散々流したり、捕獲したものから内情を聞きだしてさらに大勢を手駒に変えたりといった手も込みで考え上げた鳳統のそれは、もはや反則といっていいレベルでのアドバンテージと化している。
とくに、軍の統括である関羽の協力さえも取り付けられてしまった劉備軍には、もはやまともな情報など何一つ入っていかなかった。


だからこそ、事前に想定していた相手とは全く違う者が目の前に現れたこのときには、今まで考えていたいろいろな言葉をすべてすっ飛ばして、素直な感情がそのまま出てしまった。
それは、尊敬だとか、驚愕だとか言ったことではなく、ただこの多くの人々の死、という現状をもたらした絶対者へ対する疑念だ。


「御使い様……どうして、どうしてこんなことを」
「どうして、だとぉ?」


そしてそれはみずからを「主人公」であると信ずる一刀にとっては許しがたいことであった。
敗者たる彼女に許されたことは、自らの前に這い蹲ることだけであり、今となってはもはや慈悲を請う以外のすべての権利が一刀の胸先三寸のみで定められている。
そう信ずる―――信じざるを得なくなった一刀にしてみれば、その劉備の言は許せぬことだったのだ。


「どうして奪った? どうして騙した? どうして殺した? どれを聞きたかったのかは知らないが、そのどれにしても、お前に言う資格はねえ!」
「っ!!」


何せ相手は劉備……彼が得ることを望んだ獲物にして、その過程として使い勝手の非常によかった『駒』、詠の命を奪い去った高くついた買い物の結果だ。
一刀にしてみれば、支払った代価以上の素晴らしい代物でなければならない。
そうでなければ、ならないのだ。


「お前が、お前のせいで、詠が、それなのに!」
「っえ? い、いったい……何のことですか?」
「うるせえ、黙ってろ!」


だからこそ、彼女と違って自分の言いたいことの一つも察せない劉備に対する苛立ちは相当なものだった。
一刀からしてみれば、劉備という存在は賈駆の損失さえも忘れさせるほどの素晴らしい女でなければならないにもかかわらず、彼女は肉付きこそいいものの、その性格も、態度も、言葉遣いも、能力も、すべてが彼が『育て上げた』挙句に失った対価と比べれば、あまりにも御粗末であると一刀は感じた。
だからこそ、怒りはその大きさを増し、失ったものから生まれた空虚さはより大きくなって己が身を切り刻むことで、その原因に対する恨みをさらに募らせた。

だが、興奮のあまりか支離滅裂な単語を叫ぶだけとなった一刀に対して、そんな八つ当たりとでもいうべきものをぶつけられただけで取るべき態度がほとんど一刀との付き合いのない劉備に判るはずがない。
だからこそ、例え己が身を危うくするほどの怒りを買ったとしても、何とか今の自分が万民の為に出来ることを、と口を閉ざすことはなかった。


「わ、私は……皆が笑って暮らせる世界を作るために戦ってきました! 御使い様は、いったい何のために!」
「うるせえって言ってんだろうが! はっ、万民の為? だったらなんで反乱なんか起こしやがった!」
「反乱なんかじゃありません! わたしは、私は、皆を救おうと……お願いです、御使い様。私はどうなってもかまいません。だから、どうか、洛陽の人の、皆のために!」


通じない、噛み合わない。
とにかく、一刀と劉備の相性は、最悪だった。

会話さえろくに成立しないほどのそれにより、お互いの意図するところが伝わることもなければ、『己』と『民』を優先する順序が全く違うという思想上の食い違いもあって、いっそ見事なまでに噛み合わない。
一刀にしてみれば敗者である劉備はもはやただ頭を垂れて勝者のやることすべてにおとなしく従うべきであるのに対し、劉備からしてみれば例え負けたとしても何とかして自分の信ずる正義を勝者に分かってもらい、もはや舞台に立つことが許されなくなった自分の変わりにやってもらわねばならない。

それはある意味どちらも同じぐらい自分勝手な考えであったがために、だからこそ余計な反発を生んだ。


「救うって……俺は、あいつは救われてねえだろうが! 手前らのせいで……お前たちのせいで詠は!!」
「おねがいです!」
「黙れーー!!」


この外史に来てより、一刀がここまで声を荒げたことはなかった。
ここまで、他者を憎んだことはなかった。

彼にとって、もはや関羽は単なる駒だ。
詠と引き換えにして得た、そこそこ使える、だけど支払った価格にはまだ足りない、それだけの駒。
彼女が直接詠を手にかけた、ということを知らない、ということを差し引いても、関羽自身を怨んだり、憎んだり、といったことはなかった。
だから、術をかけて操り人形にした後はほとんど他の人形たちと同じような取り扱いをし、同じようにその肢体を弄んだ。
そこには、彼女の能力値や容姿に対する不満はあっても、詠を奪った相手、ということによる憎悪はなかったのだ。

それはある意味一刀の歪み―――自分自身の因果応報によって不幸が降りかかってきたということをあえて考えないということ―――を象徴するかのようであったが、だからこそ彼は自分に逆らう不特定多数を憎み、こんな因果を巻き起こした世界を怨む事はあっても、ただの駒、歴史の流れを演じる単なる役者であるはずの特定の誰かに対してその感情を撒き散らすことはあえて避けていた。
おそらく、誰が一番悪いのか、ということを考え出すならば、『北郷一刀』の名前を避けて通れないということを無意識に出会っても自覚していたのだろう。
怠惰で愚鈍な一刀は、臭いものには蓋の理論でそういった事実を避けることで、詠の死という事実をあえて直面しないようにし、その責任の所在について考えないようにしていたのだ。



そこを劉備は逆なでした。
一刀にしてみれば単なる駒であり、獲物でしかない存在であるにもかかわらず、彼に逆らうことで自らは歴史の流れに流されてきた駒でないのだ、自分の意思でもって一刀に敵対した人なのだ、と主張した。
今後の利益を考え、他人に不幸を押し付けることになっても結果的には自分の幸福さえ満たせればそれで満足だ、元が取れる、とした一刀に対して、『正しい意見』を真っ向からぶつけることによって、『どれほどの美姫を集めたところで彼女の代わりなんていないのだ』『失ったもの以上の利益を得られることなんて決してないのだ』ということに直面させたことになる。
それは、一刀が今もっとも考えたくなくて、もっとも触れられたくないものだった。


「平和を口にするんだったら、戦うな! 殺したんだったら、奇麗事を抜かすな! どれだけ平和を唱えようと、どれだけ民の為だの御題目をつけようと、お前が詠を殺したのは事実だろうが……それとも、平和の為だったら仕方なかったとでも言うのかよ、九十九人の為に一人は死ぬのが当然っていいたいのか!」
「そんな……私は、私は!」


だからこそ、一刀はそのぶつけられた相手に対する感情を隠しきれなかった。
劉備を自分の邪魔をしたただの駒、ではなく、自分の考える『詠(に匹敵するもの)を取り戻す』プランを否定した相手というのは、未だに現実を否定している一刀からしてみれば到底穏やかに受け入れられるものではない。

劉備軍に比べて、スパイをあまりにも簡単に、しかもいくらでも作り出せる一刀軍は、直接的な戦場での働きもそうだが、それ以上に情報面で優位に立っている。
だからこそ、自分自身での世界征服をたくらむようになった一刀は、何を思って劉備が幽州太守として立ち、何を唱えて戦を仕掛けてきたのかを知っている。
彼女が、民に慕われ、戦に勝ち、英雄を使いこなして蜀を打ち立てた劉備の名を冠するに相応しいだけの信念を抱いて立った、ということを知っていてなお怒りに任せて一刀はその劉備のすべてを否定した。

感情に任せて叫んだだけのその言葉の数々は、すべてを俯瞰する立場からすればおそらく鼻で笑われるようなものだろう。
孔明であればおそらく瞬時に論破出来る程度のつたない言い分であり、元の関羽であれば歯牙にもかけぬ、その程度の言だ。
もっとも、どれほど正しい言葉を述べたとしても己のことしか考えていない一刀が言うのであれば大概の言はあまりに薄っぺらになってしまうのであろうが、そういった言った立場の人間性を差し引いても穴だらけの弾劾。
少なくとも、心底万人の為を思って立った劉備に対して、それよりも優れた代案もなしに一方的にいっていい言葉ではなかった。


「お前のやってきたことは正義なんかじゃねえ! 天の御使いである俺が、断言してやる! それとも幽州の連中を賭けてもっかい俺と遣り合ってみるのか、ああ!?」
「っ! ……そ、それは」


が、勝者たる一刀が言い切ってしまえば、それはこの世界では事実に変わる。
対等の立場であれば言い返せたかもしれないその言葉も、戦に負け、兵を失い、血に汚され、義妹に裏切られた挙句に縄で縛って引き出されたという弱りきった状態の劉備に反論させないだけの雰囲気を作り出す勢いだけはあった。
元々この場は一刀に一方的な有利な状況で、端から両者は対等ではない。
相手がどれほどの正論を並べ立てようとも、一刀が感情に任せて喚きたてるだけでも議論に勝利できるだけの差が存在しているのだ。
そこを嵩にかかられては、もはや敗者たる劉備が言える言葉は何もなかった。

そして、その信念を圧倒的な力の差で無視されてしまえば、智も武も持たない劉備はただの少女に過ぎなかった。


「もういい、審問は終わりだ、とっとといつもの部屋につれてって俺が行くまでにそれなりの準備させておけ!」
「そ、そんな……待って、待ってください、御使い様! お願いです、私の話を!」
「そういうことは寝台の上で歌え! 今は精々身奇麗にしてまっていろ……衛兵、さっさと引っ立てていけ!」
「はっ!」


怒りに任せてわめき散らした後の結果として荒い息をつく男は、その事実を誰よりも理解していた。
力任せに引っ張っていかれたこの場でただ一人の人間だった少女を排除して、周囲に囲ませた人形に汗を拭かせたり、酒を持ってこさせたりしたこの男が席を立ったことで終わりが始まる。
やがて力任せに一人の少女の純潔を奪い、その心身ともに弄び、気が済むまで痛めつけた挙句に天の御使い、北郷一刀がまた新たな人形を一体作り出したことによって、ついにこの『北方大乱』は完全に鎮圧されることとなった。

そしてそれは、この男が次なる野望の為に新たな足がかりを作ることが出来たことと、同義であった。


39話へ

Comment

No title

今回は切ないっすね、今までただ「欲しいモノ・便利なモノ」を求めていた一刀が「詠に代わる存在」を求めているのが哀れで切なかったです。ほんと、何一つ今までしたことを思えば同情出来ないはずの主人公であるのに……あまりに人間としての弱さがちゃんと描かれているこの作品の一刀は魅力的だと思います。今の一刀の"人形"の様子や生活も少し見てみたいような気がします……続き期待してます!

No title

VS劉備が終わりましたか。
詠ちゃんの代わりは劉備じゃ無理ですよね。
大体人形にするのでは。華琳を手に入れる頃には
洗脳はしないこともあるみたいなので、またちがうのかな。
詠ちゃん以外にも分かり合える人がいてほしいんだけどなぁ。

ところで孔明はどうなったんだろう。
劉備軍が崩壊したのだから、一緒に捕まったんですかね。
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プロフィール

基森

Author:基森
蚕鳴や円禍と名乗ってたこともあります。

主に小説・ssなどを置いているブログです。

自前の本棚を持つのは初めてなので手探りでやっている程度のものですが、わずかばかりの暇つぶしにでもなれば幸いです。


メールは「kulukku106☆yahoo.co.jp」まで、☆を@に変えた上でお願いいたします。

そろそろ、非営利にならトップへのリンクフリーとか言ってみたり。

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