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鬼畜ま!23

この頃はまだ先生やってたと思う。











「ネギ先生! 私を他のクラスに移してください!」
「い、いきなり何なのよ、あんた」
「おめーは黙ってなっバカレッド」
「な………それ言わないでよ! 今はそれは関係ないでしょ」


ネギは訳が分からなかった。
明日菜と刹那にカモがのどかを巻き込んでしまったということを報告をして、今後の相談をしていたときに、この間ちょっと迷惑をかけてしまったもののそれなりにきちんと授業も受けてくれている千雨が、何故いきなりこっちに来てクラスを変えてくれなどと言い出した挙句に、まったく関係の無いところで明日菜と喧嘩を始めたのだろうか。




長谷川千雨。
出席番号25番。成績は中の下。
帰宅部であり協調性はまったく無い。
地味な丸眼鏡をかけて無造作に髪を後ろに縛った目立たない格好をしているものの、実際にはかなりの美貌を誇る自称№1ネットアイドル。そのコスプレ画像は周囲より高い評価を受けており、それを掲載している「ちうのホームページ」はネギも毎日チェックしている。

日記や掲示板では普段の地味な生徒の姿とはかけ離れた言動が書き込まれているため、自らの知らない一面を見れるということで直接の会話はやたらと接触をしてくる椎名桜子などとは異なりそれほど多いわけではないが、ネギにとってはそれなりに人となりを知っているつもりの生徒だった。
会話はそれほど無いもののそれなりに友好的な関係が築けていると思っていたネギにとって、いきなり他のクラスに移りたいという千雨の言葉は、まさに日本のことわざで言うところの猫耳に水だった…………ネズミに水だったような気もする。


「長谷川さん、いきなりどうしたんですか? はっ、ま、まさかそんなこのクラスに限っていじめなんかが……………何かあったら、変に気に病まずになんでも相談してください!!」
「そうではありません。とにかく、今すぐとは言いませんが修学旅行が終わったらすぐにでも他のクラスに移らせてください」
「な、何でですか、いったいなにがあったんですか?」
「私は前にも言いましたがこのクラスみたいな変人の集団にはなじめないんです」
「そ、そんな……みんな良い人ですよ。長谷川さんももっとみんなとお話してみれば……」


とにかく、せっかく仲良く慣れたと感じていたのに突然「転組」したいなどと言い出した千雨から理由を聞き出そうとネギは必死で話しかけるが、千雨には取り付く島も無い。
その冷たい視線を受けて思わず口ごもってしまうものの、クラスメートの事をとても大事に思っているネギにとって、このような提案を受け入れられるはずが無かった。
そのため、必死で前言を撤回させようと言葉を重ねるネギに対して、千雨はたまりにたまったストレスと共に切り札をボソッとつぶやいた。


「…………先生が魔法使いだってことネットにばらしますよ?」
「っ!!」


あまりにも予想外の言葉を受けて、まるでシィルに魔法を実際に見せられた千雨のように固まってしまうネギ。
驚愕のあまり喉の粘膜が急速に乾いていくのを感じながらも、どうにかネギはかすれさせながらも声を絞り出す。


「ど、どうしてそのことを…………」
「何でそのことをっ!!」


 そして、疑問の声を上げたのは彼女にバカレッドと呼ばれた明日菜も同様だった。そもそも、明日菜は学校でのおとなしい千雨しか知らないのに、いきなりこんな事をいつもからは想像もつかない乱暴な口調で言われて困惑を多分に含んでいたが、とにかく自分他エヴァなどごくごく小数しか知らないはずの絶対の秘密を昨日まで一般人だと思っていた千雨にいわれて思わずネギよりも強い口調で聞き返す。
 だが、千雨はその質問には直接答えず、自分の要求だけをネギに叩きつけた。


「ふっ、その反応、状況証拠だけでも十分です。それとやっぱおめ―も関係者かよ、バカレッド。とにかく、私はこんな変人集団や変態教師から一刻も早く離れたいんです」
「そんな…………」
「ちょっと、いくらなんでも一方的すぎるでしょっ! 大体そんな一生徒の要望でクラスを自由に変えられるわけないでしょうがっ」


 どうしてそこまで嫌われているのだとショックを受けてしまうネギ。やはりいくら大人顔負けの知性と魔力を持っているとしても所詮十歳の男の子。子供のケンカにも似た明日菜とのやりあいとは異なり、そこまで憎悪にも似た感情を年上の少女から受けたことなぞなかったためにネギは非常に打たれ弱かった。


 一方その保護者的な立場に立っている明日菜は彼女なりの正義感を持って千雨に反論をした。
確かにネギにはいたらないところも多く、このガキャーと思うことも多々あるが、最近は教師としての自覚もできてきたようだし、後で聞いた話ではエヴァの魔の手から生徒を守ったりもしていたらしい。

異常なほど成績が悪い自分らのような生徒に対してはきちんと補習を行ったり、生徒に何かトラブルがあれば出来る限り尽力しようと試みたり、最近では教師としてもそれなりにやっていけていると思っていた。
その明日菜からしてみれば千早の主張は一方的で理不尽な脅迫であり、一方的に彼女の弟分がいじめられているのを見過ごして置けるほど彼女の在り方は柔らかなものではなかった。


が、その言葉が千雨の逆鱗に触れた。明日菜にとって見ればネギのいい面と悪い面をプラスマイナスゼロで相殺できるものであっても、それほどまでネギとのかかわりが深くない千雨にはそういったネギのよさというものは未だ理解できていなかったのだ。
いまさら常識を持ち出すなぞチャンチャラおかしいとばかりに千雨は明日菜とネギに向かってもはやネギに対する取り繕いすら捨て去り、吐き捨てた。


「はっ、10歳のガキが偉そうに先生面できる学校なんだから、クラスぐらいあっさり変えられるだろっ。大体魔法なんて妙な力で人の学園生活好き勝手にしといていまさらそんな半端な正義感なんぞ持ち出すなよなっ」
「!!!」
「そもそも、どんなに勉強が出来たとしても、あんたまだガキだろーが。そんな未熟な人間にいったい何を教わるってんだよ」
「!!!!」
「ちょ、ちょっと言いすぎよ!」


その一方的すぎる主張にネギはショックを受ける。魔法使いとしての鍛錬を怠るつもりはないが、それを理由に生徒達の邪魔をしないようにと努力をしてきているつもりだったネギにとって、突如子供の魔法使いという自分の存在自体が千雨の不快を買っているという事実は、かつて明日菜に中途半端な気持ちで担任をやるな、といわれたとき以上の衝撃をもたらした。



確かに千雨の主張は物事を一面から見れば実に正当なものだ。
麻帆良学園そのものが魔法使いによって運営されており、その人事に関しては関東魔法協会やその他の魔法関係機関の思惑が入るため、今回のように10歳の子供が教師になると言う無茶も押し通せる。そこには生徒の思惑などまったく考慮されていないし、民主主義に基づき選挙による国民の代表が作成した法律とも、異なった原理が働いている。
そして、学園内には魔法関係の施設が数多く存在しており、それらは一歩間違えば生徒を死の危険へと誘うことも当然ありえる。また、他の魔法協会の諜報機関や学園内の魔法使いの暴発によって、例えばこの間の吸血鬼騒動のようにもっと直接的に生徒に危害が加えられることもごくたまにではあるが存在する。
さらに、そのことは魔法使い達が隠蔽しているため、被害者である一般人が属する、司法の場においてそれらの者が正当に裁かれる事は無い。

生徒においても魔法生徒や高レベルの体術を収得している生徒などには非常時に学園の召集に参加するという見えざる義務と引き換えに様々な特権を与えられており、そのしわ寄せが一般生徒に来る事もある。


たとえば、二年の三学期の期末テストにおいては、バカレンジャーと呼ばれる者達の点数には学園長が特別に下駄を履かせていた。
その結果として一般の生徒が多かった二年F組などは、学業において二年A組より努力を重ねていたにもかかわらず最終的に学年二位という評価になるように巧妙に点数操作が行われていた、などといったことだ。
努力以上の成果を当たり前に手に入れられるネギには決してわからないだろうが、一週間ぐらいの勉強で成績が急上昇するわけがないのだ。


さらに、ごくごく軽いものではあるが学園全体に張り巡らされる思考操作等の魔法によって、魔法使いの都合の悪いものは見づらく、魔法使いにとって都合の悪い考え方はしにくいように生徒全体が操作されている。校内においてはH○NDA以上の技術力を持って破壊ロボをこっそり非合法に製造したりもしている。

確かにやっていることだけ見るとショッ○―と比較されても仕方が無いぐらいの秘密結社っぷりだった。



無論これら全てのことを千雨が知っているわけではないが、もともと体質的に思考操作、知覚操作系の魔法に対して明日菜ほどではなかったものの抵抗力を持っていた千雨は何かおかしい、と常々感じていた。
その不信感に「魔法使いが存在する」というファクターを加えて考えた結果からすれば、たしかに魔法使いが直接ではないにしても間接的に千雨の学園生活を操っていると考えてもおかしくは無いといえる。
そして、そのことを知ってしまえばこれらのことに不快感を覚える生徒というのも学園全体で見てもそう少ないものではないだろうということを千雨は生徒の立場として考える。


 その千雨の言葉にネギはなすすべもなく黙り込むしかなかった。



だが、魔法使いという存在はこの学園に害ばかり与える物であろうか? と考えてみると千雨の考えとは別の角度から見てみれば必ずしもそうとは断言できないことも事実であった。


たとえば、麻帆良学園は私立であるにもかかわらず学費がとてつもなく安く、しかも設備は他の学校とは比べ物にならないほど整っている。
これは前述のように日本政府自体がこの魔法使いの学園に対して密かに金銭的支援を行っているという面もあるが、それだけではない。

一般人よりはるかに広範囲を監視する事ができる魔法使いの警備員化による人件費の削減。これほどの大規模学園なら当然起こりえる犯罪行為や暴力行為の抑制。
人目につかないところで密かに導入されている最先端魔法技術による交通網や情報網の利便化、魔法技術による施設の消耗率の鈍化など最新技術がこの学園には多数導入されており、それによる利益が学費の廉価化という方法で生徒に還元されている。
その中には、学園付属という事で昨今の住宅事情から考えれば信じられないほど広く、清潔で、且つ一等地にあるにもかかわらずとんでもなく廉価な寮や、その寮に付属する一流ホテルにも匹敵する大浴場や食堂などといった千雨がその恩恵にあずかっているものも数多くある。

また、明日菜のような苦学生のために奨学金制度や学園内での就労支援、商行為の認可などといった物も、まるで御伽噺の学校のように理想的な環境が整えられている。


さらに、ネギのようなごくごく一部の未熟なものを除いて魔法を自身の知識の収集のために、マギステル=マギを目標として正義の自覚を持って活用している魔法教師や、その魔法教師と同僚として対等以上にやっていけている一般の教師の能力も、その高潔な人格と学問を分かりやすく教えるという面で一般の中学や高校などは足元にも及ばないほどの高水準のものだった。
教師の質の低下が叫ばれている昨今においては、たとえ魔法使いのついでに行っている教師という職業であっても、きちんと自らの目指す正義に基づいた教育理念を持っている教師というのは通常の生徒の要求水準は満たすものであると思われる。

部活動も潤沢な資金に支えられて盛んであり、図書館にも世界レベルのすばらしい蔵書が数多く収められている。また娯楽関係においても生徒が暮らしやすいように様々な創意工夫をこめて魔法使いによって運営されているものが学園各所に点在している。

勿論これらの事があるからといって先にあったディメリットを全て許すべきであるというものではないが、これらの恩恵を全て無視してネギを攻め立てている千雨の行為は、決して「悪の魔法使い」に対して正当な要求を行う正義の代理人という構図ではなかった。



が、そのような事は全てを俯瞰できる立場に立ったものだけがいえるものであり、突然自らの生徒から自分があこがれている立派な魔法使いというものの存在自体がある側面から見れば正義ではないという事を不意に気付かされたネギは、今まで考えても見なかったことに驚きに目を見開いたまま反論すらできない。

そして、明日菜もネギの行為はあくまで魔法使いの余技として教師を行っているという事自体には反論できず、教師という生徒を導くべき立場のものを二足目のわらじにしているということに納得ができない生徒も確かに存在するであろうという事は、一時であれかつてネギの存在を否定した一人である以上反論できなかったため言葉に詰まった。



ネギの脳裏についこの間自分に向かって告白してきたのどかの姿が浮かぶ。一生懸命教師であろうと努力をしてきたけれど、そんなものは空回りで年下の少年としてはともかく、みんな自分のことを教師としては不満を持っているのではないだろうか。

ランスと同じく余りに普通のものと比べて桁違いに才能を保持している彼だったが、それを行使する思考だけは未だに子供。
かの鬼畜戦士がごとく弱者すべてを無視して傲慢に振舞う事などできるはずもない。


ランスと違って基本的にネガティブなネギは、一旦そういったことを考え出してしまうともはやその嫌な想像の拡大を押し留めることが出来なかった。今までの数ヶ月間の教師生活全てが失敗だったように疑心暗鬼に陥っていく。そんなことで頭いっぱいになっていったネギは、その不安感、自己嫌悪といった負の感情に対していつものように対応することにした。


「うわ~~~~~~ん!!」
「ちょ、ちょっとネギ!」
「ふんっ。やっぱただのガキじゃねーか」


 すなわち、大声を上げて頭を抱えながらその場から逃避する事で一時的にではあっても、その問題から逃れる事にした。ランスが来てから始まるここのところのストレスに、ネギの心は限界だったのだ。そのため、まるで檻の中に飽きたハムスターがひたすら自らの尻尾を追い掛け回すかのような原始的なストレスからの逃避を図った。
こういったところがのどかの警戒心を解かせ、あやかのショタ心を満たして……そして今の千雨の不信感に繋がっているという事を考えもしないまま、ネギはその場から逃げ出した。肩にこっそりくっついたカモを貼り付けて。
 
 そして、その場にいたネギの保護者的存在の明日菜も呼び止めたものの自分でもどうしていいのか分からずにネギの逃げ去った方向を見て、そしてその姿をいい気味だといわんばかりににらみつけている千雨を振り返り、しばし迷った挙句、それでも自分の信じる正義のためにネギを追う事に決めた。




 が、しかし………


「あ~~~う~~~~~」
「あ、明日菜の姐さん、何とか言ってやって下せえ」
「……ちょっとあんたねぇ」


 ようやく明日菜が追いついたところ、ネギは膝を抱えて三角座りをしながら地面を指で突っついていたのを見て一気に気が抜けた。どうやら一通り走って改めて千雨の言葉を考えてみて、更なるネガディブ思考に染まりきってしまったらしい。
 その「僕は惨めで間抜けなモグラです」といわんばかりのどんよりと曇った表情を見て、どうやってネギを励まそうか、などと思いながらネギを追って来た明日菜は、励ましの言葉をかける前に呆れが口に出てしまった。

 いつもは先生ぶって自分の生活態度などに口を出すネギが、今この場ではまるで単なる年下の子供のようにいじけている。そのことに対して思わず口に出した言葉だったが、次の瞬間その意地を張っていても優しい心を持つ明日菜の口から、ふふっ、と軽く笑いがこぼれた。
 よくよく考えてみれば、いくら大人ぶっていても親元から離れた寂しさを自分の布団にもぐりこんできて紛らわそうとするぐらい子供なのだ。ひょっとするとニ、三年前にはおねしょなどをしていたかもしれない。
 そう思うと、むしろこの態度が当然なのだと、明日菜は努めて優しい声をネギへと掛けた。


「ねえ、ネギ。あんたまさか自分がみんな悪かったとか思ってるんじゃないでしょうね?」
「だって、だって、僕が先生としてちゃんとやっていけないから長谷川さんは……」


 やはり、自らどん底まで進んで落ちていっていたようだった。気まじめな性格は好意に値する物だが、それも時と場合によるものだと明日菜は思う。そもそも千雨の言葉なんてまともに考える必要なんかないのだ。


「あんたねえ、あれはあくまで千雨ちゃんの意見でしょ? 同じこといいんちょとかに聞いてみなさいよ。きっと魔法の事知ったとしてもネギが先生でよかったって言うわよ。三十人もクラスにいるんだもの、いくら先生でも一人ぐらい意見が違う人間も出てくるし、そりが合わないやつだっているわよ」
「そおっすよ、アニキ」
「………明日菜さん」
「大体、あんたが魔法使いだから本屋ちゃんは助かったんだし、あんたが先生だからみんな勉強頑張って学年トップ取ったんでしょ? あんたが3-Aの担任でよかった事もあるし、悪かった事もあるけど、決して端から先生失格だなんて、少なくとも私は思ってないわよ」


 魔法使いなのに教師なんて副業でやっている、と千雨は言った。だが、それは違うとかつての自分の言動も振り返って明日菜は思う。ネギは魔法使いの余技で教師をやっているわけではなく、「魔法教師」という職についているのだ。
教師として、生徒を導く立場であるものがやらなければならないことで、でも普通の人間には、年上の人間には出来ないこともあるのだと思うのだ。決して、教師とは勉学についてのみ教えればいいというものではない。魔法使いとして、少年として、他の普通の大人ができない「魔法教師」の仕事を果たす事も麻帆良学園という桁外れの巨大教育機関の教育方針としてもありではないだろうか?

 そのことに対して普通の教師を望んでいる千雨が嫌悪感を抱く事も理解できないわけではないが、彼女も義務教育を今まで八年間受けてきて分かっているはずだ。どれほど嫌な人間が担任だったとしても、生徒に選ぶ権利はないのだということを。
学校なんて嫌な事ばっかりだ。勤労学生として自ら勉学への道を歩んでいる明日菜ですらそう思う事が多々ある。それでも、自らの意に沿わぬことをやるということは実社会に出ればむしろ大多数であり、そのための練習期間である学校においてはそれに耐えるということも学ぶべき事の一つである。
そのため、教師として欠陥があるならばさておき、一定の教育環境を与えられている以上は残念ながら教師を変えろということができるほど教育制度というものは生徒の立場に立った甘くて優しいだけの制度ではないのが現状なのだった。


「ほら、千雨ちゃんはああいっていたけど、別にあんたに魔法のことばれた心当たりがあるわけじゃ無いんでしょ? だったら、あんたのせいじゃないじゃない。悩んだり答えを出すのは修学旅行が終わるまで待ってもらって学園長先生なり高畑先生なりに相談してからにして、今は他のクラスのみんなに対して「先生」でいないとそっちの方がみんなに失礼よ」
「明日菜さん………そ、そうですよね」


 教師としてふさわしくないといわれた自分を、教師として求めてくれる人がいる。その言葉はドンドンとどん底へと落ちていっていたネギを拾い上げる太いロープとなった。明日菜の言葉は単なる自分を気遣った励ましに過ぎないかもしれない。それでも、そういって教師として信頼してくれる人間がいる以上、その人達を無視して教師を辞める、3-Aという家族を壊すなんて事は出来ないと改めてネギは思い直した。
 その決意を込めて、またも自分を救ってくれた明日菜に礼をいう。


「………長谷川さんの意見もできるだけ聞いた上で、今の僕を信頼してくれているクラスの皆さんのためにも、先生を続けられるよう考えてみようと思います。ありがとうございました」
「よっし!! いこっか、ネギ」
「はい、明日菜さん!!」


 その明日菜の限りなく優しい言葉に励まされ、決して千雨のことを棚上げしたわけではないがネギは立ちあがる。そのネギに微笑をこめた目線をくれた明日菜は、バン、とネギの背中を少々強めにたたいて、皆の先生でいるようにネギを促してみんなのところに戻ることにした。
 ネギがぬぐった涙には気付かない振りをしながら。


「今日は皆さんも自由行動なので僕は親書を渡しに行こうと思います」
「よーやくってカンジだな」
「じゃ、そろそろ行こっか?」
「そうですね………って、ええ! 明日菜さんもいらっしゃるんですか?」


 そうして、千雨がきたことで中断になっていた本来の目的を果たすために関西魔法協会の総本山に行こうというネギに対して、ごくごく当たり前のようについてくると言ってのける明日菜にネギは思わず驚きの声を返してしまう。
 そのネギに対して、明日菜は何を当たり前のことを言っているのだとばかりに肯定の言葉を返す。が、せっかく明日菜も修学旅行という一生の思い出になるような機会に恵まれたのだから、ここは自分ひとりで行くつもりだったネギは思わず遠慮をしてしまい、お互い譲らずに水掛け論になってしまう。
 だんだんお互いに興奮してきて声のトーンが上がってきた事を危惧したカモが、埒が明かないとばかりにポツリと明日菜に呟いた。


「姐さん、普通の女子中学生なのになんで修学旅行を蹴ってまでこんなに協力してくれんだい?」
「え?」
「なんでも朝倉の姉さんの話だともともとガキ嫌いがポリシーだったみたいじゃねーか」


 結局のところ、ネギが明日菜の助力を遠慮するのもその点に尽きるのだと、カモはいっそ直接聞いてしまうことにした。はっきり言って、明日菜の言動はカモにとっては都合のいいものだ。超中学生級の運動能力に加えて魔法使いに大して絶対的なアドバンテージを持つ魔法無効化能力者の明日菜が何かの拍子にでもネギの従者になってくれれば、それこそ昨日ののどかなぞ比べ物にならないほどネギの魔法使いとしての格は上がる。
 明日菜に自らに対して好意的な魔法以外は完全に無効化するという特殊能力がある以上、不意打ちで仮契約するのはほぼ不可能であるため、自主的に協力してくれる気になるというならこれに越したことはない。
 だが、いくらその明日菜とはいえ物見遊山な気分でこられるよりも最初っから自覚を持ってきてくれるに越したことはないため、その動機を聞いてみようと思ったのだ。


「それは……」
「……へっへっへ、もしかして姐さん、ネギの兄貴に…」
「何馬鹿な事いってんのよ。フツー十歳のガキが危険な事をしてるのほっとけないでしょ」
「へへ、冗談だぜ」
「明日菜さん…」
「……それにあたしはねえ…いっしょーけんめいがんばってる奴は、ガキだろーが何だろーが嫌いじゃないのよ。悪い?」


 確かに頭は悪いが、完全無欠にいい人でこの次には「お前を倒すのはこの俺だ、ネギロット」とかいわんばかりのツンデレっぷりで明日菜はネギから目を逸らしてそう呟いた。










「あの…………」
「はい? どうかしましたか、シィル先生」
「いえ、そのぅ」


 で、そのネギを教師生命の危機になるほど追い詰めた相手のランスサイドはというと、ランスに責任感なぞ女性がらみでも少ししかないのに近右衛門のような老人と交わした約束なぞ適用されるはずもなく、必然的に残されたシィルが後始末をする羽目になったのだが……これがなかなか難しい。

とりあえず、何を差し置いても近右衛門にまずは連絡をすべきなのだが、はっきり言ってシィルに複雑怪奇、説明書だけで辞書並みの厚さを誇る日本の携帯電話など使いこなせるわけがなかった。
学園内においてはランスは以前マリア=カスタードとの通信に使ったような通信機を使いこなしていたが、シィルはあくまで生徒に怪しまれない程度の現代社会の知識を優先して覚えさせられていたため、まだ最初っから持っていないとしても何とか頑張れば誤魔化しが効くこういった小物類の知識についてはあまりなかったからだった。
 そのため、ランスが生徒にばらしてしまった場合どうすればいいのかを聞くためにはだれか近くの魔法教師から近右衛門に連絡をつけてもらうしかなかったのだが………


(瀬流彦先生って、魔法教師なのかしら……でも、この修学旅行には表向きではネギ君しか魔法使いは来ていないはずだし)


 あまりに広い麻帆良学園に所属する無数の教師のうち、誰が魔法教師で誰が一般人なのかシィルはまだ覚えていなかった。ようやく魔法っぽい気配をしている教師を探し出したのだが……これが微妙なラインだった。魔法使いにしては魔法力が少なく、一般人にしては鍛えすぎているような気がする。この世界では技能レベルがなくても普通に魔法が使えるため、あまり意味がないとは分かってはいるものの、どうやら魔法技能も持っていないようだとシィルの直感はささやいた。
 今まで新田先生と親しげに話しているところやシィルやネギに対してそんなそぶりをまったく見せないところからも、普通の教師のようにも見える。また、基本的に最初から修学旅行についてきている人間のうち西洋魔術師はネギ一人だとも、それでも関西呪術協会とか言うところから妨害がくるかもしれないのだということもあらかじめ言われていたりもする。

でも、ランスとあてなを宿舎に案内したりする場にもいたような気もするのだが……


「やっぱり、なんでもないです。すみませんでした」
「そうですか、何か困った事があったら遠慮なくおっしゃってくださいね」
「あ、ありがとうございます」


 結論として、万が一でもこれ以上被害を拡大させてはいけないという意識が勝って、シィルは瀬流彦に話しかけることを止める事にした。が、何にも知りませんよ~みたいな顔をしてさも何か意味ありげに答える瀬流彦をぶしつけな視線で見てしまったことぐらいは許される範囲内だとシィルは思った。


Comment

久しぶりに更新されて嬉しいです
原作だと過剰なネギTUEEEが鼻についてどうも。このネギ君みたいに適度に障害となってくれる相手が居るのはいい事だとおもいます
いやまあ、ランスを乗り越えられるとは思いませんけど

久々の更新!
まさか更新されるとは…
次のランスの出番に期待
もう最近ランスSSとか全然見ないんで数少ない楽しみの一つかもw
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プロフィール

基森

Author:基森
蚕鳴や円禍と名乗ってたこともあります。

主に小説・ssなどを置いているブログです。

自前の本棚を持つのは初めてなので手探りでやっている程度のものですが、わずかばかりの暇つぶしにでもなれば幸いです。


メールは「kulukku106☆yahoo.co.jp」まで、☆を@に変えた上でお願いいたします。

そろそろ、非営利にならトップへのリンクフリーとか言ってみたり。

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