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外史につくろう穢土幕府・34

前回と今回、お約束として何とか本文中に「孔明の罠」という単語を入れたかったのですが、雰囲気が崩れるので自重しました。

そういえば、公式の壁紙が後一回で出揃います。
基本的に順位に不満はないのですが、一つだけ……第四回だけは納得がいきません。
どう考えても『ウェディングドレス』というテーマ的に一刀よりも貂蝉か卑弥呼の方がおいしかっただろうがぁ!!
全く、世の人たちは見る目がないものです。








軍棋、と言う遊戯がある。
日本で言うところの軍人将棋、もっとダイナミックに意訳するならば、取った駒を使えない将棋みたいなものだ。
この外史では知識層における人気のある遊戯である。

取った駒を使えないだとか、見知っているものに相当する駒がないだとかいった今の将棋に慣れ親しんだ一刀の身からすれば少々違和感を覚えるところもあったが、そんな戸惑いなど元々この世界に住んでいるものにとっては何の生涯にもなりはしない。
戦が現代よりももっと一般的だったこの外史にすむ一般的な人間の間でならば、戦場を模したその遊戯がはやるのはある種当然だった。
むしろそれ以上に、模擬的にとはいえ軍師として戦場を俯瞰しながら、敵軍の軍を蹴散らし、自軍の王を守るその遊戯は、軍師の間ではお互いの読みの深さを競う一判断要因としてさえ遊ばれていた。
つまり、軍棋の上手い者と戦場での優れた軍師がある程度まではイコールで結ばれていたといってもいい。


それほどまでに当時はやっていたゲームに、基本的に年中エロイことばかりして暇している一刀が食いつかないわけがなかった。
将棋もチェスも、とても得意とまではいえないがそれでも駒の動きを理解していて1局指せる位にはたしなんでいた一刀にとって、この世界における数少ない知的な娯楽である軍棋は、次なるエロイ行為をするまでの体力回復の間の暇つぶしとしてちょうどよかったのだ。
故に、詠は言うに及ばず、雪蓮や月相手でも遊べるそれを、割と一刀は好んでいた……とはいっても、所詮は楽隠居の娯楽としては、だが。


そんな限られた範囲の中でではあるが一刀の腕前がどうだったのか、と言うと。
意外かもしれないが、割とよい。すべての面で白蓮よりも上な感じで才能にあふれている雪蓮相手にさえ6:4で勝ち越すぐらいだ。
天和と地和以外ならば大体指せる彼の女の中でも一刀に勝ち越しているのは半分いるかいないか、ぐらいなほどだ。
勿論、彼女たちの大半には能力低下の呪いが掛かっているし、掛かっていない詠や風、凛といったガチ現役の軍師連中相手ならば手加減してもらわなければどうしようもないほどの差があるのだが、それでもこれはかなりのものだ。

それは、居飛車穴熊だとか矢倉戦法だとか行った優れた未来の戦術を、一部とはいえ応用することが出来たからであるのかもしれない。
もしくは、太平要術の書の一能力、『それなり』の戦術眼の付与、という力が僅かなりとも軍棋という遊戯においても働いた結果かもしれない。
あるいは、彼の女である者たちが一刀の機嫌を損ねないようある程度手加減をしていた結果かもしれない。


だが、あえて最大の要因を決めるとするならば、一つ忘れることが出来ないことがある。
それは、一刀はこれが完全に遊戯であると理解していたことだ。
擬似的な戦場を板と駒で作り出す軍棋。ゆえに、軍師や武将である以上どうしても軍棋板の上に思い描いてしまう戦場の風景を、一刀は一切感じることなくただ淡々と駒を指す事が出来た。
コンピューターゲームの隆盛を間近で見続けながら育った世代として現実と仮想を完全に区別することを当たり前のこととして知っていた一刀は、死に行く兵の絶望を、自身が武器を持って強敵と当たる風景を軍棋板の上に一瞬たりとも省みないで、ただひたすらに駒としての最上の動きを図ることが出来た。
そこが、遊戯であるとともに鍛錬でもあるとして一刀の相手をしてきた詠や風、凛とは致命的に異なる点だ。


そしてそんな軍棋の場以外でも、駒の扱いということについて一刀はきっと、この外史における誰よりも慣れ親しんでいた……自身の妖術の力で数百数千もの駒を常時指し続けるこの男は、戦場において駒の一人として参加するこの三国の英雄の誰よりも、駒を操る軍棋の指し手としての位置に近しいところにい続けた。

例え、駒の繰り手としては少々小器用、程度の腕であったとしても……









「くぅ……左翼、前進!」
「ダメです、文和様! 側面よりまたも弓兵が!」


いかなる指示を飛ばしても、まるで真綿の上に水をこぼしたかのようにすべてが空振りに終わり、それどころか指示によって動かした兵によって生じた隙間を瞬く間に突かれる。
魚鱗を穿たれ、鋒矢を阻まれ、方円を抜けられ、雁行を封じ込められて。
詠のすべてが、阻まれる。

いかなる策を並べても、いかなる知識を伝えても、そのすべてを相手方の軍は―――それを指揮する軍師は読み取って対応して見せた。
詠が今まで培ってきたはずの軍事についてのすべてを、そのいまだ姿の見えぬ「諸葛孔明」は上回ってみせたのだ。
その様を見て、彼女は一刀の『予言』を思い出して思わず背が震えるのは止められなかった。


元々董卓軍はこの戦場における他のどの軍よりも、兵数や戦力では負けている。武将の数は言うに及ばず、歩兵の数や騎馬の数さえも最小の勢力が今まで何とか持ちこたえてこれたのは、ひとえに三人もの軍師を抱える河東軍が常に戦略の単位で上回り、戦場を支配していたからに過ぎない。
そんな状態で戦略面で五分に持ってこられるだけで十分苦しいにもかかわらず、それ以上の成果を出されてしまえば、もはや河東軍に有利な部分なんて何一つない。ただちょっとだけ小器用な小勢力にまで落ち込んでしまうこととなる。

いくら稀代の軍師の三人組とはいえ、切り札たる武将の一人さえも一刀から預かってこれなかった現状においては、もはや逃げまとうことしか出来なかった。


「くっ……(ダメ。ここで崩されちゃったら、最悪一気に河東まで攻め込まれる!)」


だが、逃げられない。


勝利という甘い果実がすぐそこまで来ており、それにすぐ手が届くところまで来たとしてそれを元に一刀と関係を修復する皮算用を描いていた詠にとって、それらの計算がすべてひっくり返されたことはあまりに大きな衝撃をその頭脳に与えられた形となった。
軍師としては失格かもしれないが、幸福な未来を思い描いていただけに現実に起きた失敗とのあまりの大きな落差に衝撃を受けずにはいられなかったのだ。


(一刀……一刀!)


もし、劉備を手に入れられなかったばかりか、敗走したなどということが一刀に知られれば、それを裏切りと見て彼はあの力を自分に使うかもしれない。
その胸に宿った疑念は、自身の心さえも疑い、彼に信じてもらうために成果を積み上げねば、と必死になっていた詠にとっては到底消しきれないものだった。
戦力差以外の面においても追い詰められていた詠にとって、ここでの敗北、ということは単なる生死以上の大きな意味を持っていたのだ。

焦りもあり、危惧もあった上に初めての負け戦を経験することとなった彼女がそうなってしまったことは責めるべきではないのかもしれない。
だがそれは、この局面においては致命的な失策だった。


「詠様、ここは撤退を」
「いえ、ダメよ! ここで引いてしまえば河東はもう、立ち上がれない」
「それはその恐れがあるだけですよ~。ですが、ここでずるずると負けを引きずってしまえばそれ以上にマズい事態に」
「まだよ!」


だからこそ、風や凛からすれば何をそれほどまで焦っているのか、と思うほど詠は強硬にこの「諸葛孔明」に策で上回ることを主張した。その気迫はまさに背水の陣というに相応しく、いまだ五分を少し割った程度の戦場の風景からすると少々似つかわしくないほどである。
一刀と詠の間に何かがあったことぐらいまでは悟っていた二人の軍師も、まさかここまで詠が追い詰められているなぞとは考えつかなかったがためにそこに不可思議さを感じることを隠せない。


「…………風、何か聞いてますか?」
「…………いいえ。一体何があったんでしょうか」


二人は、一刀という人間をある程度は知っていたし、その男に詠がどれほどまで尽くしていたかも十分知っていた。
一刀がいかにエロと出所不明な妙な知識と推察力しかない男か知っていただけに彼が本気で詠に対して敵意と疑念をぶつけるなんてこと思いもしなかったし、その彼のことをどれほど詠が思っていたかも知るだけに彼女が一刀に反旗を翻す未来なんて考えたこともなかった。
だからこそ、ここまでの詠の焦りは少々以外であり、ここで一敗地にまみれたとしても又次の戦場で立て直せばいいではないか、という思いがあった。
この混乱しきってしまった戦場はもはやどうしようもない。今までその圧倒的なまでの指揮力の差を生かしての勝ち戦しかしてこなかった河東軍が脆弱であるということを除いても、敵の動きはあまりに精密だ。
対策なしで勝利を願えるほど甘そうには到底思えない。そしてそれ以上に、ここで無理することの意義が詠の事情を知らぬ彼女たちには見出せない。


筆頭軍師たる詠と、その配下たる風と凛の考えるこの戦場での勝敗の重要性と今後の展開にあまりの温度差があったことで、今まで連携し、一致団結して一つの軍団として機能していた河東軍師勢の考え方にずれが生じることとなる。
それは当然ながら用兵の乱れに繋がるし、連携の不備にも掛かってくる。
元々高度な連携で武力の不足を補っていたに過ぎないのだ。


「はわわ、敵が来ちゃいました。関羽さん、よろしくお願いします~」
「心得た!」


天才軍師、この世界でもっとも智の方面において才能に恵まれたものである孔明はそこを見逃さない。
戦術単位では最強を誇った雛里が堕ちた今となっては、世界最強の名は彼女にこそあるのだ。それは呂布の武と同じく、そんじょそこらの英雄豪傑では太刀打ちできないほどの才能に裏打ちされたものであった。

詠が本当にこれでいいのかと判断に迷った隙を、風がやむなく撤退から戦線の維持へと指揮を戻した合間を、凛が胸に思い描いていた退却までの青写真を破棄して次善の策に映るまでの僅かな時間を、朱里は的確に見抜いて漬け込んでいく。
そこには手加減も容赦も微塵も見えなかった。

水鏡系列の独自の諜報網によって董卓の館において雛里の姿を捕らえた彼女からすれば、詠たちは到底逃がすことの出来ない相手だ。
不確定ながら、屋敷の中で雛里が首輪を付けて引き回されていた、という話も耳に入っている。
消息不明だった親友を捕らえている相手……なんとしてでも圧倒的優位な立場から彼女らに雛里の引渡しを要求したい朱里は、彼女なりに必死だった。
そのために何とか今回劉備軍に潜り込んで……そして劉備に出会ったのだ。


「絶対、絶対二人でもう一度天下泰平をめざすんです! ここは負けません」


その器の大きさに感服して今後主と仰ぐ劉備に自身の才覚を見せ付けるためにも、ここは絶対に落とせないと細心の注意を払って指揮を続ける。
机上ならばさておき、実戦における本格的な軍団指揮は初めてであるはずの彼女だったが、そんなことは微塵も感じさせない冴えを見せて見事に用兵を行って見せる。

その手腕は、呂布の理不尽なまでの暴力以外のすべての戦場をすでに推し量っていた。


細心の注意を払って軍を動かし、激突しあう部隊同士の裏にこっそりと配備して。
機動力を持つ騎兵の進路上にあらかじめ槍兵を配置することで進路を限定して、追い込んで行き。
時に自軍の歩兵を犠牲にして敵軍の弓兵を潰し、時に自軍の弓兵を犠牲にして敵の伝令を取り込み。
逃がすときは逃がし、締めるときは締めて、しかし勝敗を決するのに絶対に必要な相手の本陣だけは決して逃がさないように、あえて負けさせ、勝たせて相手の軍師の思考を誘導していく。
こちらよりも考える頭の数が多いであろうことを読み取った後は、その頭同士の思考が食い違うように情報を制限して、その対応として取られた策の中身から相手の首魁たる人物の居場所を特定して、やがてそこだけ孤立するように兵を包囲体系へと導き出す。


「っ! しまった!」
「詠様!」
「ダメです、風! もはやこれでは……」


相互の連携の不具によって思考を阻害されていた詠たちが気付いたときには、すでに手遅れだった。


それは、呂布の持つ力にも及ぶ軍師版の天下無双。
悪党たる一刀よりも、そのシモベたる賈駆が行うそれよりも、ずっと洗練されてしかし残酷かつ悪辣に、一兵たりとも生かして通すまいとする必勝必殺の布陣。
これぞ、稀代の軍師、諸葛孔明の最奥―――偽兵によって紡がれた石兵八陣の後に続くそのいかなる相手の策にも絶対の対応力を誇る縦横無尽の必殺陣形―――名を、奇門遁甲。
一騎当千の英雄豪傑を生かすためにのみ作られた詠の知る数多の戦略とは一線を隔した、芸術的なまでの歩兵による英雄殺し。
すべての英雄豪傑英才神童の力を、武将に頼らず一般兵のみで無力化する計は、才無き者は言うに及ばず、才あるものさえも無慈悲に踏み潰す。

かの五帝が一人、黄帝がその基礎を作り、神仙とも謳われた天才太公望が完成させたという占術方術を組み込んだ、もはや仮に一刀が現役の現代軍人であっても容易には理解できないであろう失われた陣術であった。
武力的な面で言えば一般兵にさえ劣る詠が抜けるには、あまりにその壁は分厚い。


「ふぅ……せ、成功しましゅた」
「……なんと鮮やかな」
「朱里ちゃん、すごーい!」


諸葛孔明の名を持つ彼女は、こうして詠たちが考えるありとあらゆる策を無効化して、一方的に自分の都合を押し付けることに成功した。

ありえない。
こんなこと、普通に考えればありえないはずのことだ。

ついこの間まで他人の軍であった幽州軍の頭である劉備。そしてさらに、その彼女の下に孔明がついたのがほんの数時間前。
この策を行う為には、どうしても役割としてわざと傷つく兵、敗走する兵が必要となる。そして、その者たちの敗走に合わせて極めて高度に配置へと走るものも。
軍略というのは高度になればなるほどただまっすぐ行ってぶつかって、自分の力量を示す以上のものを兵士たちに要求することになるのだ。

普通に考えれば、これほどまでに高度な連携、綿密な連絡を必要とするものがにわか作りの信頼関係しか持たぬ軍師に作れるはずがない。
そんなことが出来るのであれば、普段の調練など意味が無いということになってしまう。
いまだ小規模ながら鉄の軍規を徹底させている夏侯惇配下や、あるいは意思をも奪う妖術使いの一刀でなければ不可能なはずの事実。


だが、現実としてそれはあった。
伝達の遅れや突然出てきた軍師への諸兵士たちの反発、いまだに劉備の就任に対して不満を持つごくごく一部の将による反感さえも朱里は計算に入れ、そしてそれ以上の数を誇る劉備の人柄に引かれ、彼女の任じた軍師を信じた兵たち。
それらすべてを想定し、思考し、対応して朱里は見事なまでに今まで頭の中だけで描いていた必殺の陣を作り上げた。
そう、実際に戦場に出たのは今回が初めてであり、机上ならばさておき演習としてさえ今まで一度たりとも指揮を取ったことのない朱里たった一人で、経験や修練以上の才能一つで。

それは、いまだに軍の規模が小規模であった影響もあるだろう。群雄割拠がいまだ始まりそうな気配を見せ始めた段階の諸国では、各国の吸収合併が起こっていないために保有兵力数はまだずっと少ない。
何十万もの兵を一国で保有する段階ではないがために何とかなった、ということは確かにある。
だが、それ以上に彼女は詠たちと比べても圧倒的なまでのその天賦の才によって、それを成し遂げた。
一刀によって力を減じられた彼女たちでは、到底叶わぬほどに。


「これで、終わりです」
「くっ、何か、まだ何か手が!」


かくして気付けば、詠は大軍の中で頼るべき騎兵や風や凛から切り離されて孤立する絶対王手の状況へと落とし込まれた。
だが、それでも彼女は諦めようとはしなかった。
彼女自身が踏み潰してきた数多の凡人同様に、彼女にもまた守るべき者、望む物があったのだから……







「しっかし、詠ちゃん遅いな。いつもの調子なら、もうそろそろ帰ってきてもいい頃なんだが」


例えその対象が、自分と同じ立ち位置に並ぶことのないものだったとしても。



  35話へ

Comment

だんだん朱里が嫌いになってきた。
詠ちゃん頑張ってくれ。まだいける…?
実際、詠殺したら朱里は描写できないくらいむごたらしい
殺され方するぞ、たぶん。

にしても一刀あいかわらず緊張感ないな。

前半のフリはつまりワルイットゥは単純な損得だけを考えた場合、詠すらも切り捨ててしまえるってことなのか…?
どうなんだワルイットゥ!
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プロフィール

基森

Author:基森
蚕鳴や円禍と名乗ってたこともあります。

主に小説・ssなどを置いているブログです。

自前の本棚を持つのは初めてなので手探りでやっている程度のものですが、わずかばかりの暇つぶしにでもなれば幸いです。


メールは「kulukku106☆yahoo.co.jp」まで、☆を@に変えた上でお願いいたします。

そろそろ、非営利にならトップへのリンクフリーとか言ってみたり。

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