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外史につくろう穢土幕府・33

毎回目次に故事から取ったサブタイトルをつけているのですが、『微妙に当てはまってるようで当てはまってない、いや、でも考え方によってはあってるかも?』ぐらいを目指しています。
下手に内容ずばりなこと書くとネタばれになりかねませんしね。

ってな適当具合で、悪一刀の冒険 33話『人間万事塞翁が馬』、始まります。


『俺、この戦いが終わったら、あの子に言いたいことがあるんだ』









北郷一刀には、身寄りが無い。それも、完全無欠に徹底的に親類縁者が存在しない。
とはいえ、別に彼とて樹のうろからぽこんと生み出されたわけではないのだから父も母もちゃんと存在しているし、それどころか二人ともちゃんと生きているはずだ。
だが、この外史にたった一人で落ちてきた彼にとって、もはや二度と会えないところに来てしまったと覚悟している以上やはり家族と言うものは死んだも同然であって、その意味ではやはり身寄りが無い。

そして同様に、彼にはこの世界に来るまでの知己が一人たりとも存在せず、この地において育ってきた思い出深い場所、などというものもまた存在しない。


「……雛里ちゃんの策もどうもイマイチだなぁ。まあ、能力低下しまくってるからある意味仕方ないけど」


だからこそ、危なくなれば袁術を見捨てて逃げ出して、自身の快楽の為に配下の者を使い捨てにして戦を弄んできたような時間と金と命の浪費ともいえる活動を続けることが出来た。
一切に執着がないがゆえに、例え情を交わした女であっても彼は見捨てることが出来たのだ。


だが、そんな彼にとっても、どうやら詠だけは特別な存在になっていたらしい。
殺すだとか、口封じに操るだとか、声を出せないように喉を潰すとかいった最終的な結論を元に様々な献策を続けてくる軍師系の新たな人形、雛里に不満を表す一刀。
彼が望んだのは詠と元の関係に戻る方法、または詠のことを何とか折り合いを付けてお互いにいい関係を築く方法であって、彼女を殺したり傷つけたりすることで自分の秘密を漏れないようにすることではない。

そういった意味では、元の能力値が高いがために能力低下の影響をもろに受けてしまってちょっと凄い軍師レベルにまで落ち込んでしまった雛里の策は、彼の望んでいたものとは大きくかけ離れたものだった。
だからこそ完全に詠を信じきることが出来ずに未だに仲直りできないままで彼女を戦場へと送り出してしまい、ここの所碌に会話もできていないがために彼の中での「詠成分」が不足してきたと感じていた一刀は、何とかならないものかなあ、と頭をかきむしる。

人形となって献身的に尽くすようになった雛里の体はそれはそれで味わい深いものであったのだが、やはりどうして、久々に一刀は詠が恋しかった。


「とはいえ、たんぽぽちゃんを差し出してきたことから考えると、やっぱ裏切るつもりは無いのかなぁ?」


だからこそ、術の影響下にないにもかかわらず今までの享楽がために思考能力が激落ちしていた一刀は、もういいかな、とか思い始めた。

ふと傍らに目をやると、そこにもまた少女が。
従姉とおなじ太い眉とスレンダーな肢体が特徴的な少女もまた、詠が一刀のために捧げてくれた三国に名の残る武将の一人、馬岱だ。
初めはそこそこの武力があるということで暗殺でも言い含められているのかとビクビクしていた彼だったが、ぶっちゃけ縛られて身動きできない状態にさえなっていればどうとでも出来る能力を持つ彼にしてみれば、すでに恐れる部分など皆無でしかない彼女は詠からの貢物に他ならない。

そのことは詠も分かっているということを証明するかのように、洗脳してから(SM風味で)尋問しても詠が一刀に対して害意を持っている、ということへの証言は欠片たりともでてこ無かった。
むしろ、事情を知らなかった公孫賛のときと全く対応が変わっていない、という事実が改めて裏付けられただけである。

こんな状態でアホの子である一刀に延々と詠を疑い続けろ、というのはどうせ無理なことだったのだ。
ましてや、相手は詠なのだ。少なくとも一刀本人でさえ気付いていない内心の奥深くでは、彼女だけは疑いたくない、という気持ちがあった以上その破綻は見え隠れしている。


「どうせ雪蓮と月がこっちにいる以上、何も出来やしねえし」


ゆえに、彼の知る中では呂布を除いて絶対的武力を誇る孫策の存在を背後に居丈高に出ることが出来るのであれば、詠と相対していっぺん突っ込んだところまで聞いてみよう、もしそれでもなおなんか言うようであれば、術を使わぬ自分自身の腕前でちょーきょーしてもう一度彼女との関係を正常に戻そう、と彼は考えた。

そして、彼に対して忠告を行おうとする者はいない。
周囲すべてを術の力による強制的なイエスマンで固めた一刀にとって、命じられれば自らの基準に従って答えをはじき出すものはいても、その決断の実行を促したり急かしたりするものはおらず、勿論反対したり否定したりするものもいない。
だからこそ一刀は、その自分の選択が正しいものであろうと端から思い込んでいた。


「ま、いいや。こんど来たときに一度体に聞いてみるかな……」


そう呟いて両側に控えていた二人の少女を抱きしめてベッドへとダイブする一刀の姿が、結局のところ彼の詠に対する猜疑心の限界と、今まで詠が積み重ねてきた彼女への信頼を証明しているようであった。


歪んだものとはいえ、そこには絆が見えていた。








そして、その鎖の先につながれたもう一人の当事者は……いまだ戦場にいた。


「っ! 左翼、一端下がって! 風、騎馬を使ってあっちに回って!」
「はいなのですよ~」
「詠様、私は逆側に回って迂回と半包囲への指揮を取ります」
「任せるわ、凛!」


文字通り一騎当千の人間が存在する世界において、軍師の役割とは何か。
それは自軍の武者たちの戦いを有利にするための場の形成である、と詠は認識している。
この世界は、平凡な人間と比べて一部の女性の能力が突出している。それは詠たち事務屋の処理能力もそうであるが、それ以上に個人の戦闘能力という場面において顕著な特徴を示す。

たった一人で百も二百も相手にすることが出来る人間相手には、一般の兵では近寄ることさえ容易ではない。無理やり追い立てたとしても足がすくみ、剣先が震え、結局は無造作に刈られる首の数を増やすだけのことになりかねない。
だからこそ、それこそ膨大な兵の数を集めるだとか、遠距離兵器を用意するだとか、あるいは一刀のような反則技を使うだとかいった方法を使わない限り、戦場での推移は武将と武将の決戦によって形作られる。


こういったことを前提にすると、いかに疲労なく自軍の武将を戦場に届けるのか、がまず軍師の腕の見せ所として現れる。
いくらあっさりと殺せるとはいえ、片っ端から一般兵を殺しながら進んでいれば、いずれ来る『本当の戦』のときまでにはかなり消耗してしまう。
そうなっては、一騎打ちにて遅れをとることもあるだろう。

そのために詠たち軍師は出来る限り相手の武将を消耗させ、味方の武将を万全の状態で戦場に送り出せるように頭を振り絞るのだ。
一般兵を怯えさせないように「消耗させるだけでよい、適当なところで道を開けろ」といい含め、しかし「万が一武将の首を取れれば名誉栄達は思いのまま」だと煽り、それらのバランスを絶妙なところでとって戦場を操る。


そうしてお膳立てされた舞台の上で武将と武将がぶつかり合って勝敗を決める。
一騎当千の武者同士の戦いは余人が関与できる段階のものではなく、そのためにこの段階にいたってはもはや誰も手を出すことが出来ない。


これがこの外史の戦争における一般的なセオリーであり、この局面の終了によってこの戦争の八割は終わる。
が、十割でないところがまたこの戦争の罪深いところだ。

残りは後始末――これも彼女たち軍師の仕事である。
先の一騎打ちによって決まった勝者側と敗者側の図に従って一般兵たちを後追いに掛けさせるのだ。
敗者側は負けた武将を援護しながら一目散に逃走を図り、勝者側は勝った武将を先頭に嵩にかかって攻め立てる。
ここで一般兵の援護が足りなければ負けた武将は逃亡を図ることが出来ずにあえなく自分に勝った相手に捕獲ないし殺害され、勝った武将は戦闘では勝利していながら相手をみすみす逃がしてまた次にも最終的な決着をつけるための戦いに参加する機会を与えることとなってしまう。


どこまでも武将たちによって作られ、武将たちによって決められ、武将たちのために謳われる戦場こそがこの外史における戦争なのだ。
勝利条件が味方武将の勝利であり、敗北条件が味方武将の敗北をきっかけとした士気の低下による全滅。
そんな状況下においてその一定程度の力量を一人たりとも持たない状態で戦場に立つ羽目になった詠は極めて不利な条件から始まっている。

だが、そんな満たせない勝利条件を十分以上に知ってなお、詠たち河東軍師勢は見事に指揮を続けて幽州軍を翻弄していた。


「右陣、拍を合わせて! 騎馬が引いた後追撃掛けてくるのを受け止めて、そのまま包囲!」
「そうそう、そのままなのですよ~。いいですね、い~ち、に~い、さ~ん。はい、銅鑼を鳴らして~」
「詠様に南東に伏せておいた伏兵二百、ほぼ無傷で帰還いたしましたと伝えなさい!」


歴戦の武将であろうと追いつけない騎馬の速度を使って軍略の御手本のように戦場をかき回し、怯える兵たちに適切に叱咤激励を飛ばして奮起させ、一刻一刻はかるように敵の兵を減じさせて、それによって頭に血が上った武将たちの突撃を上手く最強の武将を保有する官軍に押し付けて、たった一人の駒さえ持たない状態で自身の身をほとんど鎧もつけぬ無防備さで指揮を続ける。
戦場においては一騎当千の強さを誇り、部隊指揮を取らせても超一流の関羽、張飛、馬超と言った面々が、その力をろくに発揮することが出来ないほどにそれは冴え渡ったものだった。

もっとも、西域連合の得意とする騎馬軍団による高速一撃離脱は、それよりも遥かに小さな規模でありながらも鐙と撒菱、そして蹄鉄と言う三つの超兵器を保有している河東騎馬軍団相手にはほとんど効果を発せられないのは公孫賛と馬岱相手にすでに証明されている。
一騎打ちできる相手がいないために馬超を討ち取ることは出来なくても、少なくとも彼女に追いつかれて敗北すると言う局面はありえない。

そして、万能の凡人たる公孫賛を欠いた幽州軍には部隊単位ではなく軍単位で適切な用兵の運用を出来るものがいないために、いかに局地戦では強力な武将を保有している劉備とはいえ、詠たちにいいように翻弄されて押し付けられた呂布の相手に四苦八苦している。
一刀によって鳳統、周瑜、陸遜、そしておまけの張梁と公孫賛までもが戦場から退場させられているこの外史において、賈駆、郭嘉、程立を保有する河東軍団にある程度レベルであっても対抗できるほどに軍団単位で指揮できる人間は、はるかはなれた地にて名を挙げる絶好の機会であるこの戦に参加することさえ出来ずに歯噛みを続けている曹操一派や一応味方側である呂布配下の陳宮、内に篭って相変わらず主君とともに適当に遊んで暮らしている張勲などを除くともはやほとんど残っていない。


最終兵器である武将を一人たりとも保有しない今の河東勢では、例えどれだけ高度な用兵運用を続けようとも自軍の損害を無視して武将の首を取らせて決着を付けさせる為に必要な膨大な傀儡兵を保有しているわけでもない為に完全勝利は出来ない。
だがしかし、武将を潰すという形での勝利こそ望めないものの、所詮は局地戦力である武将たちに速度で勝る河東軍師勢が負けるということもありえないのだ。
そして、負けなければ友軍には天下無双一騎当軍絶対無敵傍若無人最速最強の武人、呂布がいる。

なればこそ、詠はこのまま細心の注意を払って自分の得意分野で勝負していけばある程度の勝利はつかめると確信していた。
才に勝る自分ならば、並程度の指揮能力しか持たない者しか残っていない反乱軍たちに負けることなどありえないことが分かっていたからだ。
いくら武将ゼロの状態に陥ったとしても実戦レベルで最低限度の軍略を論ずることが出来た公孫賛を潰した時点で負けはない、ということがこの局面でも生きていた。
事前にそれについては理解していたものの、実際に何が起こるか分からない場において、今回もそれが有効であるであろうことを半ば確信した三人は、緊張感はとぎらせないものの密かに内心安堵の息を吐いた。
これならば、何とか生きて帰ることが出来るであろう、と。


「さあて、これからがある意味本番ね……伝令! 郭嘉と程立へ次の段階への準備に移るように伝えなさい」
「ははっ!」


だからこそ詠は、この局面でも何とか劉備を捕獲することを狙うことにした。
彼女たちにとってここは最低限のライン。それ以上を望まなければ、いずれ袁紹の気紛れによってジリ貧だ。
強力な敵武将たちを避け、呂布による死の暴風に巻き込まれないよう細心の注意を払い、自分たちとは違い普通にやっていても勝てるだけの戦力を持つ友軍軍師陳宮の用兵すらも読みきって、何とかこの戦争における自分たちの最終目標を達成しようとも考えたのである。

それは決して容易なことではない。
何度も述べているように武将を持っていない彼女たちは、負けないことは出来ても勝つことは極めて難しい。それでも彼女は諦めようとはしなかった。
そこには、小勢力たる河東の運命を変える為には、相手のトップを取らねばならない、というもの以上の決意が見て取れた。


「劉備……だけではきっと足りないわね。厳しいけど、関羽か張飛、どちらかも抑えたいところだわ」


だって、詠にとって今出来ることは、こんなことしかないのだから。


自分が操られているのか、それともいないのか、それがわからない。
相手がこちらの反乱を恐れているのか、それともこれすらも出来るものならやってみろと心を操るという圧倒的な力を保有する一刀による趣味の悪い遊びなのか、その区別さえ付けられない。
いまだ自分の感情の整理がつかず、そのために怯えている、あるいはあざ笑っている彼の前に這い蹲って許しを請うことさえ出来ない詠。

信じることも、裏切ることも、あきらめることも未だ出来ていなかった彼女にとって、それでもなおも捨てられない思いを何とか最低でも現状を維持したまま続けて崩壊させないためには、今までよりも遥かに急いでかつて彼と約束した対価を積み重ねることしか思いつかなかったのだ。

自分の感情にはほとんど結論が出ている。
だからこそ、その後ちょっとだけ残るもやもやを完全に割り切る為の後ほんの僅かな時間の間、一刀に―――愛する男に「裏切った」と思われないための何かが必要となる。


「いえ、やっぱり違うわね……もうボクには、劉備の身なんて、どうでもいいもの」


そこまで考えて、詠は始めて自分の心があまりに変革していることに気がついた。

劉備を捕らえて一刀に差し出せば、また公孫賛や月のような犠牲者が増えることになる。
だが、それを知っててもなお、今の自分はそのことによって躊躇するつもりなんてさらさらなかったではないか。
馬岱のときには戸惑いながらの熟考の結果だったそれが、今ではもはや相手の身を気遣って悩むこともなく自然と結論として出ていたではないか、と。


「ふふ……なんだ、もう結論なんて出てたんじゃない。よし、決めた! 今回で劉備ともう一人捕まえられたら、一刀に会いにいこう」


そう、実のところもうすでに詠には一刀がどんな奴であろうと、例え自分の心を操っているのであっても最後までついていこうと覚悟は出来ていたのかもしれない。
一刀の力を知った詠にとって、捕まえた敵とはいえ一刀に差し出す自分の行為は心を弄ぶ共犯に近い。
それでもなお、彼との仲直りのためにその行為を肯定する自分の罪深さは十分自覚すべきものであり、それを理解してもなお詠にとって彼の存在は大切だったのだ。
例え隣に、操られているとはいえ自分の地位を脅かしかねない雛里がいたとしても、映画すべきことなのは一刀に対して想いを与えることだけなのだ。

必要なのは、もはやきっかけだけ。
「例えどんな悪逆非道な真似をしたとしても、あなたを見捨てない」と伝えるために、彼に少しの間だけでも自分を信じてもらうために必要な誠意の顕れさえあれば、ギクシャクしていた二人がまたもとの位置へと戻れる。
あの、悪態をつきながらもどこか繋がっていた楽しい日々に戻れるのだ。

そんな仲直りのきっかけ程度のために他人の運命をめちゃくちゃにすることを肯定するようになってしまった詠は、もはや一刀の連れ合いとして相応しいほどに穢れていた。

それでもなお、そういった身勝手な行為であってもこの外史の天意はそれを否定しない。
一刀のそれを否定しなかったように、この世界において詠が考えた自分のために他人を苦しめることを是とする選択は、世界にとって間違っているとはみなされることはない。
力さえ、才さえあれば許されるのがこの外史だ。それは散々述べてきて、今なお一刀が多くの人の上に君臨して猛威を振るっていることからも明らかだ。

なればこそ、例えどれほど詠が身勝手なことを考えようとも、彼女に才能がありさえすればそれによって詠に天罰が下る、などということはありえない。
それこそが、この世界における絶対の法則だ。








だが、それらすべてを鑑みた上で逆に言うならば……そういった身勝手な考えは、才が無ければ許されない。

不意に詠は、自分の予期せぬ場所での戦況が崩れていることに気付いた。
望遠鏡という超兵器を使って遠方での呂布の戦いぶりを観察していた為に、視界が狭くなっていて気付かなかったのだ。
そのことに眉根を挙げて自らの失策を悟った彼女だったが、即座に伝令を走らせてその失敗を取り返そうとした彼女だったが、その方向からこちらに向かってまるで坂から転げ落ちるような勢いで走ってきた伝令の姿を認めて、その報告を先に聞くことに決めて改めて輿に備え付けられている椅子へと身を沈めた。
それはそういった突発的な自体の前でさえも取り乱さない彼女の軍師としての力を証明しているかのごとき見事な様であった。

だが、しかし。


「っ! 賈駆様、お逃げください! 伏兵です、謀られました!!」
「何ですって!」


告げられた内容は、彼女の予想していた戦況とは大いに食い違っていた。

見れば、幽州軍の後ろの方で縮こまっている劉備を捕らえ、呂布に撃退されて散り散りになって逃げていた関羽か張飛を捕らえるために、僅かに動かした軍があった。
今までの敵軍の能力から考えるにその予備戦力の位置を少々動かしたとしても戦況には影響が無いと判断した、まさにそのほんの僅かな空白地帯。
だが、まるでその場所があらかじめ分かっていたといわんばかりに鮮やかに、唐突に。
幽州の旗を掲げた兵が突如奇術のようにそこから湧き出ていたのだ。


「遊撃隊、半壊です! 残ったものも、ちりぢりになって追い立てられています!」
「到着地点に対象がおりません、ご指示を!」
「第三軍、背後を突かれ、援軍を求む、とのことです!」


いや、そこだけではない。
その報告を皮切りに、唐突に戦況が悪化したという不吉な報告が立て続けに入ってきた。

彼女が全身全霊をもって敵兵の現状を推し量り、風や凛とも合同で考えた上で劉備たちを捕獲する為に動かした兵によって生じた、僅かな隙。
勝敗が半ば決まったこの状況下ではもはや意味をなくしたはずのその場所から、一気に戦況を悪化させる報告が伝わってくる。そればかりか、完全とは言わないまでも七割がた成功するであろうと予想していた劉備の捕獲さえも失敗したとの報告があがってきたことで、詠はその顔色を真っ青に染めて思わず叫んだ。


「まさか、これがあの一刀が言ってた蜀の軍師の!」





才があれば、いかなることでも許される。
なるほど、一刀が証明したとおりだ。
だが、彼がこの外史に来てよりもう一つ証明したこともまた忘れてはならない。


「これは……凄い、凄いよ!」
「えへへ……」
「おお~、ちびっ子の癖になかなかやるのだ!」
「軍師というものがここまでのものとは……正直、侮っていた感は否めませんね」


万事力任せに物事を切り開いてきた自分たちのものとは質の違う強さに、豪傑二人とその上に立つ英雄が感嘆の声を上げる。
それを受けて、今から詠にとっての惨状を、何人もの河東兵が倒れる死地を作り出さんとして声を上げていた少女が照れたような笑みを浮かべるが、それも一瞬。
その突然現れて幽州軍へのいくつもの献策を行い、あっという間に戦場の勢力図を塗り替えた少女は決意を秘めて口元を戻し、視線を元の場所へと追いやった。
その幼いながらもある種の凛々しさを感じさせる外見を受けて、すでに幽州軍の全権を掌握していた英雄である劉備はさらに信頼を強め、彼女に全権を預けることを改めて伝えた。


「やったよ、朱里ちゃん。もうちょっとで逆転できるよ!」
「ふぁい、ま、任せてください、桃香様! ……待っててね、雛里ちゃん。すぐに助けに行くから」


一刀が孫策相手に証明したもう一つの真実。
才あるものとて、それ以上に才があるものには、無残に踏みにじられても仕方がないのだ。

一刀の魔の手が伸ばされた三国の数多くの軍師。
その中からかろうじて逃れた、一刀の生きていた現代でもなお語り継がれていた名軍師、諸葛孔明は、それを証明せんとばかりに史実通りに劉備の元へとたどり着いてしまった。


 34話へ

Comment

雛里かと思ったら、朱里か。遅かったな、雛里はもう一刀の人形だ。
軍師系のキャラは戦士系より能力値の減少が痛い気がする。
突出するものがなくなって、単純なデスクワークしかできなくなるような。でも対朱里兵器にはなりそうな。能力値が下がっても朱里の事はわかるんじゃないかな。

詠ちゃん頑張ってくれ。彼女に幸運を。
一刀なんとかしろ。天の御使いなんだから天を味方につけろ。
天意を示せ。愛が勝ってほしい。

色々詠ちゃんを贔屓しちゃうくらい好きになってます。

詠が可愛いwww
でも、”楽しい日々に戻れるのだ”とか明らかに死亡or破滅フラグっぽい。プロローグにのみ存在していた覚醒悪一刀への布石かな?

ともあれ、詠が幸せになれそうにないからこそな魅力的を持ち始めた気がするこのお話、続きを楽しみにしております。

詠ちゃん・・・。
なんかもう詰んだ感じがするのだが、それでも彼女の幸福を願ってやみません。

フラグが立ちすぎてる・・・。もうだめなのか?
せめてifもいいから仲直りするのみたいなあ。
次回も待ってます。

死亡フラグが山盛りすぎて、詠が不憫ですね。
きっと、詠が一刀と仲直りしていつものように言い合いをしながら、一刀のおかげで洗脳をとかれた月にいちゃいちゃしてるところをひやかされながらも祝福される。ってところで夢想シーンが終わって詠が首チョンパなんていう展開が思い浮かんで鬱です。

詠ちゃんが不憫でかわいすぎます。
どこまで行っても不幸キャラですねぇ。不幸能力といい、一刀に色んな意味で捕まっているところといいw

恋姫は武将にスポットが当たるのが当たり前で、作者様の詠ちゃんのように日常パートだけでもなく戦闘でも軍師が中心(ただ一刀陣営に正常状態の武将がいないだけかもしれませんが)というのも珍しく面白いです。

まさに孔明の罠にひっかかった状態ですが、ここで魏の最強軍師お二方がどう動くのかが楽しみでなりません。

悪一刀が武将を洗脳した能力低下状態を見て、ko○iの三○志や信長の○望の武将が負傷や病気になった時の能力低下状態を思い出しました。

あの世界の戦争の解釈がおもしろいな。

それにしても死亡旗立てすぎだよ詠……。
リアル孔明の罠だ! 状態に陥ってるし。
何とか詠には生き延びてほしい。
桃花面子になら捕まっても雛里と交換で助けてくれそうだし。
愛紗くらいだもんな、斬首賛成の人。
朱里には雛里、翠には蒲公英がいるし。
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プロフィール

基森

Author:基森
蚕鳴や円禍と名乗ってたこともあります。

主に小説・ssなどを置いているブログです。

自前の本棚を持つのは初めてなので手探りでやっている程度のものですが、わずかばかりの暇つぶしにでもなれば幸いです。


メールは「kulukku106☆yahoo.co.jp」まで、☆を@に変えた上でお願いいたします。

そろそろ、非営利にならトップへのリンクフリーとか言ってみたり。

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