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外史につくろう穢土幕府・30

Q:雪蓮って恋とそこまで強さが変わらないみたいだけど
A:外史ですからー

Q:あぶみって原作で普通に出てなかった?
A:外史ですのでー

Q:雛里ちゃんは十手先まで読めるらしいのに、最近出番がさっぱり読めませんことよ?
A:外史ですゆえー

Q:更新が一ヶ月以上も空いたのは、萌将伝のせいですか?
A:外史……ごめんなさい。それもありますが、エヴォリミットとクラ☆クラと悪の女幹部とBunnyBlackとイースシリーズのせいです。


追記 8月11日 時系列訂正。申し訳ない、単純なミスです。一刀の行為は捕獲してからおよそ一週間後になります。 






風こと程立は、外見にはほとんど出ていないものの彼女なりに少々驚いていた。

元々流浪の最中なかなか仕えるべく主を見つけられず不遇を囲っていた彼女は、この地において親友である郭嘉と共に賈駆という尊敬できる上司を見つけられたことを心底幸運に思っている。
山に登って日輪を掲げる夢を見て、おお、これは素晴らしい主が存在すると言うお告げか、と思って改名さえもを考えていた翌日に、その日輪がなんか黒い龍に漫画チックに飲み込まれた夢を見たときは「大丈夫かな、自分」とか思っていたが、最終的にはこうしてちゃんと無事に仕えられたのでよかった、とほっとしている。

ここ河東は小勢力といってよい程度の、彼女が全力を振るうには少々物足りない場所であったことは事実であるが、それさえも賈駆によって命じられた各種政策を実現していくことで凄まじい速度で成長するであろう、と予想していた彼女にとっての不満点とはなりえない。
それどころか、賈駆が持ってくる各種の斬新な知識は、軍師らしく知に触れることをお昼寝の次に喜びとする彼女を満足させるものであった。

だから、実はそれらの原案は城の中で遊んでばかりに見える男、北郷一刀からもたらされたものだ、と聞かされたときも、人格云々がためにそれを否定するのではなく密かに彼を見直していた。
天の御使いと嘯くことは不敬であるとは思ったが、実際に会話してみて大概の書物の概要程度であれば読みつくしたと思っていた風をしてその未知の知識の量と質に驚かされたときは、それもむべなるかな、と思いなおしたほどだ。


「…………お兄さん、一応聞いておきますけど、その方はどなたですか~」
「……ああ、見ての通り、白蓮―――公孫賛ちゃんだ」
「よ、よろしく……」


だが、その彼女をもってしてもこの結果は予想外だった。
いくらなんでも昨日まで散々悪態をついていてこっちにまで非難の矢を飛ばしていた敵方の一角までも多々一晩でめろんめろんに堕として来るなんてこと、彼女の想像力の限界を遥かに超えていた。

何処かやつれたような顔色で突っ立つ男の横には、妙齢の女性が。
目の中にハートマークを浮かべながら、全身についた小さな赤いあざをまるで誇るばかりに露出の激しい格好で、昨晩の激しい運動のせいか腰が抜けたかのように一刀に対してしなだれかかっている女がいる。
赤い髪に風と比べれば遥かに大きな体、馬を日常的に乗りこなしているであろう足の筋肉のつき方に、胸のサイズ。

どう見ても、事前に収集していた敵方の大将の一人とされていた者、昨日まで我が方にて捕虜とされていたものと外見上の情報と一致するのであるが……目の前にいるのがあの白馬侍従を率いてついこの間まで敵対していた領主、公孫賛であることが万事飄々としているかに見える風をしてどうにも受け入れられない。
事前に仕入れた情報によると、公孫賛と言う女はさして特筆すべき才には恵まれなかったようだがそれでも領民には尊敬と親しみを持たれ、戦においても騎馬を得意としたそつのない堅実な戦法で今まで五胡からの侵略を防いできていた。
賄賂等を好んで日々享楽に溺れて遊びほうけている、あるいは領内の男を片っ端から漁っていた、なぞと言う話はついぞきいたことはないし、それどころか天子をないがしろにしている、と言う名目で挙兵したことに対して市民らがそれなりに説得力を感じていることからある程度は高潔な人物であると思っていた。

だからこんな一月ほどの付き合いもない男に早くも骨抜きにされている人物であるはずがないのだ。

隣を見ると自分と同じような感想を持ったのか、凛が唖然とした表情をみせている。
が、いくらなんでも延々と現実逃避をしているようでは軍師なんて務まらないので、とりあえず確認を取ってみることで今後の戦略への影響を高速で考える。


「えっと、公孫賛様でよろしいですよね~」
「ああ、そうだ。だけど、一刀の味方なんだったら、真名の白蓮でいいさ」


いかにもないい人オーラを出して、捕虜とはいえ本来の身分的には相当高位にあるはずの彼女がそんなことを言ってくることを確認して、改めてこの現状の不可解さを思い知る二人。
元凶と思われる男の方へと視線をやっても、下手な口笛を吹いてとぼけるのみなのは、今まで彼が落としてきた捕虜のときと同じ。
あいも変わらず得体の知れないその態度に対して風や凛は怪しみながらも、彼の嘯く『天から来た』ということを信じる気持ちがわずかばかりに上昇することは否めなかった。


「そうですか。では、風のことも風と御呼びください」
「私も真名、凛という名をお預けいたします」
「ああ、分かった」


だからこそ、彼女たちが今考えるべきことは、「何故、どうやって彼女がここに」と言うものではなく、「今後彼女がいることでとるべき選択肢は何か」と言うものである。
何と言っても、彼女が自軍にいるということであれば実質劉備が乗っ取った形となる幽州軍に対して様々な策をとることが出来る。
彼女の檄文で乗っ取りなぞを企んだものに非難を飛ばす―――流石に本人の口から舌戦をさせることなどは無理があろうが、こちらに姿がある中で流言蜚語を飛ばせば劉備への悪評なぞいくらでも作れる―――だとか、彼女の名において内応を促すだとかだ。
直接的な戦場での戦闘指揮以上にそういったことに長ける風にとっては瞬時にいくつもの策が脳裏に浮かんできたし、正統派な軍師である凛についてもすでにいくつか腹案は出来ているだろう。


「早速ですが白蓮様、一刀殿。幽州軍のことについて少々質問が……」
「……悪いが、これからちょっと用事があるんだ」
「そうですよ、凛ちゃん。そういったことはお兄さんにご予定を聞いてからでないと~」
「……なるほど。失礼いたしました、一刀殿」


好悪感情以上のモノとして聞きかじる範囲で判断するならば、遊んでばっかりに見えるこの男が有能であることは否定しようがない。
外から見ると遊んでいるようにしか見えなくても、各種の政策の原案を出し、未知の兵器の助言を行い、敵将の引き抜きを行うその手腕は、恐ろしいほどだ。
だからこそ、彼女たちもその不真面目極まりない態度を受けて尊敬こそしないものの、彼に一定の敬意を払うことを惜しむつもりは全くなかった。
だから、一刀の顔色が何処か悪いこととあいまって凛は聞きたいことが山のようにあったにもかかわらず一歩引いて頭を下げる。


「それでは風たちはこれにて失礼いたしますね」
「御二方とも、御暇があれば是非我らの執務室までおいでください。いつでも歓迎いたしますよ」
「ああ、わかった……じゃあ今度遊びにいかしてもらうよ」
「はい、お待ちしております」


ゆえに、彼が引き抜いてきた公孫賛の能力が噂ほどではなかったとしても、それはよくある大将を大きく見せようとする市井の雀たちのさえずりが少々姦しかった為であろうと思い、まさかこの男に原因があるなどということは考えもしない。
天の御使いという自称と現代から持ち込んだ各種の中途半端な知識が隠れ蓑となり、彼がこの地に降り立ってから手に入れ、保有し続けているものについては見過ごされた。
異世界人にとって何が普通で、何が普通ではないのか。
気を撃てる人間などいない、自身の体重よりも重く巨大な武器を振るうことが出来るものなどいない。その代わりに音速を超えることも、深海に潜ることも、空をも超えた世界に到達することも可能とする機械を使役することが出来る、と言ったことさえも一刀自身の口から漏れなければ知らない彼女たちにとって、一刀の異常なまでの説得能力についても天の御使いとしての能力であると判断せざるを得ない状況だったのだ。

かくしてこの男、北郷一刀は程立と郭嘉という強力な参謀二人を前にしてもなお、妖術書の力については隠し通すことに成功したのであった。
だが、その顔色は何故か極めて悪かった。







だって、そんな幸運ばかり続くわけがないのだ。
時は少々遡って、一刀の虜となった公孫賛と風・凛ペアが遭遇するその一日ほど前の時を見てみよう。


「御節もいいけど、カレーもね」という名キャッチコピーがある。
一刀はまさにその気分だった。
詠と遊ぶのは、楽しい。風と駆け引きをすることも、凛にきわどい冗談を交えて口説いていくことも、実にいい感じの娯楽だ。自信が圧倒的に有利な立場にあるというその状況下において、一刀はちょっとずつ彼女たちと距離を詰めてエロいことへと持ち込もうとすることそれ自体に楽しみを見出していた。今まで基本的に脅迫か妖術かの二択しかなかった彼にとって、それは斬新な感覚を与えてくれるものだったのだ。
だからこそ、一時期彼はひたすらにカレーにあたるその真っ当な口説き方に凝っていた。
詠によってこの地よりの脱出を阻まれた以上、ここでの戦力を妖術の反動という形で低下させて天下取りへの速度を落とすほどには彼は愚かではなかったこともあって、最近そればっかりやっていた彼は外から見るとただのチンピラ以外には見えないので、風や凛がその術の力に気付かなくても仕方が無いといえば仕方がない。


「ふ~、なかなかよかったぜ、白蓮ちゃん」
「勝手に人の真名を呼ぶな!」


ただし、「御節もいいけど、カレーもね」もカレーばっかりの日々が続くとやっぱり「カレーもいいけど御節もね」に戻るのだ。
手っ取り早く心も体も手に入れる手段を保有している一刀が、いつまでも我慢することの楽しみにこだわれるはずがない。
だからこそ、公孫賛に対してここ数日一刀は極めて居丈高に出ていた。風や凛とは異なり、力ずくの手段に出たとしても彼の天下取りに対してはなんら影響を与えない、と思ったからだ。
鎖をかけられ、枷を嵌められ、重りを付けられた今となっては、鍛え上げられた彼女の技のすべてが、クズである一刀にさえも敵わない。それゆえの増長だ。

虜囚の身である白蓮は、それに対して返せるものなど言葉しかない。


「く……お前がどういう立場なのか知らないが、あんなびっくり戦法ばかりで幽州が敗れると思っても大間違いだ」
「へ?」
「幽州軍は精強だ。一度や二度の敗戦でこんな小戦力に敗れるなんてことはありえない! ましてや、西域連合とも連合を組んでるんだ……きっと後悔する時が来るぞ」


しかし、その彼女に唯一残された手段である言葉さえも一刀には通じない。
一刀の身代から考えて、少なくともとち狂った一兵卒が勝手に自分を嬲っているわけではない、と考えたところまでは正しかったのだが、まあいろんな意味でここ河東の身分や指揮系統はめちゃくちゃになっているので幾度となく語りかけられた彼女のその糾弾はまるで的外れだった。
白蓮は大真面目に一刀に対して囚われの大将として正しい態度で説きつづけるが、彼女はいろんな意味で間が悪い。ぶっちゃけ、一刀はほとんど戦争には関わっていないので、大雑把なところはさておき今現在の戦況なんてことを語り聞かされたとしても理解できない。


「そんなことなんて別にどうでもいいじゃん」
「何ぃ!」
「戦争なんて面倒なことは詠ちゃんとかに任せてあるんだ。とりあえずこっちはこっちで楽しもうぜ」
「っ! この、下種め!」


ゆえに公孫賛の捕獲の成功は、久々に彼にそっち方面の楽しみを思い出させることとなった。駆け引きは駆け引きで悪くないが、絶対服従を誓う美女というものはそれはそれで男心をそそるものがあるのだ。
だからこそ、ここ数日の逢瀬にて一通り捕獲した状態で抵抗するじゃじゃ馬を無理やり乗りこなすことを楽しんだ後は、一刀はさくっと操ってしまうことにした。


「下種って……ひっどいなあ。まあ、別に今は何言ってもいいさ。どうせこいつの前には意味ねえんだし」
「っ! な、何をするつもりだ!」
「まあまあ、とりあえずこっち向いてね~」


結局のところ、それは強者であるがゆえに発せられる油断というものであったのだろう。
匪賊時代にはどうあがいたところで得られなかった「有能な協力者」が出来たことで、一刀の運は劇的に回ってきた。
元々妖術によって捕らえた人海戦術だけが武器だった彼の力は、彼自身が持つ未来知識を的確に生かすことの出来る賈駆というパートナーを手に入れることによって一層補強された。
強大な力と共に欠点も多く持つ太平要術の書を保有しているとはいえ、これまた知識だけはあってもいろいろな面で欠点だらけな一刀が運用していくよりも、あらゆる面で有能でありながらも一刀に対して逆らわない三国有数の軍師がいろいろとやってくれるという事実は、相当使い勝手がよかった。


「な、やめろ! やめてくれ」
「はいは~い、黙ってこっち向いてね」


そんな無能な、しかし有力な君主である一刀から出る不穏な雰囲気というものを肌で感じ取ったのか、必死になって暴れる公孫賛だが、しかしここまでがんじがらめにされた上にその素肌を守るものが破れに破れた服だけとなってはろくな抵抗など出来やしない。
まるで芋虫のように身を僅かによじってその意を表すのが精一杯で、非力な一刀であっても難なくその抵抗を押さえつけることが出来る。
その力の差は、自力で懸命に今まで積み上げてくることで幽州を治めていた太守である公孫賛と河東を遊び半分で支配する一刀の今を証明しているかのごときであった。


なにせ、一刀はマジで寝ているだけでいい。
たったそれだけで、いつの間にか彼の軍勢は増強され、周辺の敵は駆逐される。
小勢力だからどうなるかと思ったのが嘘のように、彼のその寝台周りの周辺数メートルは戦争があろうがなかろうが静かなものでそれを破るのは嬌声だけという現状は、やばくなったら逃亡しようとする彼の気概を根こそぎ挫きに掛かっていた。

やることといったら時たま詠が意見を求めてきたときに適当な返事を行うことだが、それはそれで結構お楽しみがあるからいやなことではないし、それがどれだけ適当な言葉であろうと十個のうち一個ぐらいは彼の目にもはっきりと見える形となっていつしか最適な事実となって現実に当てはめられる。
一刀的にはたいしたことをやっていないのに、いつの間にか彼の領地は「二毛作」「二期作」「屯田制」その他もろもろも実験がそろそろ実現段階に入るぐらいに発展していた。一刀の知識的にはこの辺が精一杯で、より一層の効果が見込めるであろうノーフォーク農業だとか、工場制手工業だとかについては彼も完全に名前だけしか残っていないレベルのうろ覚えだった為詠と言えども何から手をつけていいのかさえも分からず、その結果として全くもって実現に至っていなかったが、それでもこれは恐るべき国力増強手段だ。
だから、ここのところは兵員増強に術を使うことすらなかった。

その必要もないほどに、満たされていた。


「はいは~い、じゃあ、俺の言うことを聞いてくれよ、白蓮ちゃん」
「うっ……あぁ……」
「君は俺のかわいい部下だ。恋人で、愛人で、奴隷だ。分かったか?」


だからこそ、久々に術を使うつもりになった一刀は、最終的にはエロ目的とはいえじっくりとその過程さえも楽しもうと思い、公孫賛の額に手を当てながらそんな言葉をゆっくりといい含めるように彼女にかけていく。
数刻前であれば盛大な罵倒でそれに返したであろう白蓮は、しかしその言葉を聴いたとたんに抵抗の意思をなくしたかのごとく瞳から力を抜き、暴れるのを辞めた。
いつも通りのその光景を見て、一刀は喜びでまぶたを細めた。いつ味わっても、この相手の心も体も命さえも握ることが出来た瞬間というものは、楽しいものであった、などと思いながら。


術と未来知識、それこそが彼の力だ。
だが、それに加えて彼の配下は戦争にも勝った。
弱小としか思われていなかった彼らは、馬術においては二大勢力の一つであった幽州軍を、よりにもよって馬術で降した。それは今対陣している西域連合や幽州軍だけではなく、各地の将たちにとってさえも衝撃だったことであろう。
ほとんど被害さえ出さずに董卓の名を一方的に高まった結果が示しているように、それは今回の戦において周辺の諸侯らが分け合って得るはずだった評判を根こそぎ奪い取るほどのものだった。
一刀にとってそれは、自分の指揮する軍隊の名声が一層高まった、と言う自尊心を満たしてくれるものでもあった。

さらに、戦争の後のお楽しみとして当初の予定としていたものの一人、公孫賛も予定通りにこのように手に入った。これで調子に乗るな、と言っても無理があるだろう。
ここ河東を見捨てて幽州に逃げ出していたとしても、これほどまで短期間に容易く彼女に手が届いたかは怪しいところから考えると、実際には最短ルートを進んでいるといっても過言ではなかろう。
さらに詠たちからの報告によると、野に潜んでいた劉備たちを引っ張り出すことにも成功したらしいし、先の戦争で張遼隊とぶつかったことによる混乱により、戦の後に本隊から外れてこのあたりを逃げ回っているらしい馬岱の補足も完了して、今追い込みに掛かっているとも聞いている。
この調子だと、次にぶつかるときにはさらに充実するに違いない。


一度逃げ出そうと考えたからこそ、この環境のありがたさというものを改めて実感した一刀にとって見れば詠の献身は実に得がたいものである。
彼女の為ならば馴れないNAISEIをちょっくらやってみるか、と思ってしまうほどに……実際には適当なアイディアだけでほぼ丸無げなわけだし、そろそろネタが尽きつつあるので今後は完全にヒモと化す可能性の方が高いのであるが、それでも優秀な詠は今のところ結果を出してしまっているし、同時に現在の飛躍は彼がいなければそれが成り立たないということが実に皮肉である。


「よっしゃ、白蓮ちゃん……俺が誰か分かるか?」
「ああ、一刀……酷いじゃないか、これじゃあ肌に傷がついてしまう。まあ、そういう趣味だって言うなら、私だって付き合わないでもないけど」
「……くっくっく。いやいや、そういうなのはちょっと好みじゃない。すぐに外すよ」


こうしてあっさりと彼の術の力のトリコになった公孫賛だって、結局元を辿っていくならば詠のお膳立てによるものなのだ。
彼がその妖術のみを頼りにしていたならば、このようにスムーズに行っていたわけではないことは、彼自身だって何処か認めていたほど、彼女の存在は大きかった。

まあ、そんな感じで一刀は段々と詠がいる生活になれ、それが当たり前になりつつあった。
戦争の一方の当事者になっておきながら自ら手を汚すこともなく、適当ぶっこいているだけで日々生活が保障、改善されるその生活は、彼にとっては理想といってもいいものであった。
時々現代の音楽やテレビを見たいと思ったり、アイスや菓子等のこちらではどうあがいても手に入らない嗜好品が欲しいなあ、と感じたりすることはあっても、それはある程度妥協できる不満であり、逆説的に言うのであればその程度しか彼は日々の生活に不満を持たなくなってきた。


そして、王者を殺すのはいつだってそういった慢心からなるものなのだ。


飢えの為に人を傷つける決心をしたときや、間接的とはいえ手を汚したときのように、世界が彼に厳しかったときとは違って彼には安全が常に確保されていた。
そんな状態で、常に野獣のように精神を張り詰めて置けるような者は、そういった才能か経験があるものだけであるのだ。
当然ながら、一刀にはそんなものなど欠片たりとも存在しない。
この世界においては特異な未来知識と洗脳という二つの能力を除いてしまえば単なる凡俗でしかない彼の心は、今の安楽に溺れて将来への用心というものをまるで忘れていたのだ。

だから。


かしゃん、と何かが壊れる音がした。
それはすべてを崩壊させる音色だった。


「か、一刀……それは、やっぱり」
「っ!」


その音と共に呟かれたその声に、弾かれるように一刀は顔を向けた。
まさか、この場所に人が居るはずがない、という油断。
万が一刺客がやってきたとしても、武力によるものであるならば隣の部屋に潜む雪蓮で十分に防げるはずだ、という過信。
それを思って、一刀はそれが単なる見間違い、もしくは夢であると判断した。


だがそれは、紛れもない現実であることは視線の先に今なお映る少女の姿が霞のように消えていないことからもわかる。
彼の目には、いつも一刀がやんちゃをした後にかいがいしく持ってこられる水差しと器、そして濡らした後固く絞って纏めてある何枚かの肌触りのいい布を載せてきたのであろうお盆を取り落として、目を大きく見開いて彼を見つめる優秀なパートナーの姿が。
真っ青に顔色を失い、瞳と唇を卵形に開いて、こちらを見つめる緑髪の少女がそこにあった。

盆を取り落とし、その自身も時折磨かされている床を汚したことさえも築かぬように、こちらに向かってただただ呆然と立ち尽くしている。
その態度が、何よりも雄弁に一刀の妖術のすべてを見ていた、ということを語っていた。


「一体……それは何、何なのよ、一刀」


とっさに語る言葉が出てこないこともまた、彼のこの環境における気の緩み方が見て取れる。
そんなふうに一刀が普段の生活のさなかで警戒心というものを徐々に失いつつあった以上、太平要術の書のことを彼の一番近くに常に居続けた少女に知られてしまうのは、早い遅いの違いはあってもある種の必然だったのかもしれない。


 31へ

Comment

修羅場きたあああああああ

更新してて嬉しいです。
遂にこの時が。。やはり詠がはじめての相手だったか。
洗脳せずに仲間にして欲しいんだけどな。純愛?のままで。
さすがに、詠ちゃんのスペック低下は一刀でも嫌だろう。
今こそ彼女を口説く時だ。

おぉう、これでヒモ一刀から悪一刀に進化する切っ掛けが出来たかな?
腑抜けの時間はおしまいだ!
さぁ悪党として愛情も踏み台に成り上がれ!

今更すぎて本を知られてないってことすら忘れてたぜ!
さあどうなるワルイットゥ!

詠に対して使っていないという証明ができないからなぁ、修羅場は確定。
一刀は更に外道に落ちていくのだろうな。

まだ詰んでないな。
詠には使ってないし使う気もない、詠が信じてくれないならここを去る
みたいなことを言えば引き留めてくれそうだもん、詠。
それに一日後時点でまだ詰んだ様子がない。
月をまっとうに口説いたとは詠も思ってないだろうし。

それに時系列を整理するとこうなる。
28話(一刀、普通の人と会う)
 ↓
30話後半(詠にばれる)
 ↓
30話前半
 ↓
???(詠説得イベント(仮))
 ↓
29話(一刀がここ数週間捕まらない、という描写より)

もう一度言おう、まだ詰んでないと。


それにしても悪一刀化は何時なのかが楽しみだ……。
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プロフィール

基森

Author:基森
蚕鳴や円禍と名乗ってたこともあります。

主に小説・ssなどを置いているブログです。

自前の本棚を持つのは初めてなので手探りでやっている程度のものですが、わずかばかりの暇つぶしにでもなれば幸いです。


メールは「kulukku106☆yahoo.co.jp」まで、☆を@に変えた上でお願いいたします。

そろそろ、非営利にならトップへのリンクフリーとか言ってみたり。

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