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外史につくろう穢土幕府・27

孫子とか読もうと努力はしてみたのですが、ぶっちゃけ途中で飽きました。
故に戦術・戦略何ぞは文章で表現できる自信がありません。









公孫賛は必死になって前の軍勢を追いかける。
そこには、戦略的にあいつらを潰しておかなければ自分たちが思い切った戦いを行うことが出来ない、という思いもあったが、それ以上の感情が入っていなかったなぞと誰が言えるであろうか。

馬は、白馬侍従は彼女の専売特許だ。
他国においてもその名を轟かせるまでに彼女がその配下を鍛え上げるのは、あぶみというモノがあったとしても並大抵の苦労ではなかった。
それをあっさりと模倣され、あまつさえそれによって奇襲を受けた。
いくら公孫賛が天才によって踏みにじられることに慣れてしまっているとはいえ、いや、慣れているからこそそれはあまりに大きく彼女に屈辱を感じさせた。


「逃げるなーーー!! 私と、私の部隊たちと戦え!!」


また、彼女たちがあぶみを使っての馬術に熟練しており、相手のそれが若干拙かったこともそれに拍車をかけた。
公孫賛軍があぶみを導入してからもう随分たつ。
この戦争の為に開発したのではなく、元々五胡と戦う為に作り上げた技術なのだから、それも当然だ。だからこそ、彼女らにとってもはやその技術はあって当然のものとなっている。

それに比べてあの『董』の旗を掲げた一団の速度は、その公孫賛らに僅かに劣ってどこかぎこちなさを感じさせた。おそらく自分たちとは違って急作りなのだろう。
そのほんの僅かな差を白蓮は実に有効に使って、矢を持って追い立てられていた立場から、いつしか逆に董卓軍を追う立場へと転換することに成功する。
一時はその立場を逆転する為に随分距離が開いてしまったが、それでもその差は時間と共に徐々に詰まりつつある。


果たしてそれがあぶみの完成度の違いなのか、それともあぶみを使っての機動を訓練するのに十分な時間を割けなかったが故なのかはわからなかったが、自分たちの馬術と比べて全体的に僅かずつに劣って見えるその動きは、彼女たちからすればその董卓軍が自分たちから盗み出した技術を使っている「劣化コピー」である、ということを強く印象付けた。

ようするに、董卓軍は間者や内応などといった卑劣な手段によってこちらの技術を盗み出して、似て非なる偽者を作り出したのではないのか、という疑いを抱いたのだ。
それは凡人としての妬みが入ったものかもしれないが、至極妥当な思考の帰結でもあった。

そんな司令官の怒りは、当然ながら配下のものにも伝染し、それがまた司令官たる白蓮の元へと伝わっていった。
白馬長史の元で、白馬侍従として戦うことに彼らも誇りを持っていた。
この今までの騎馬兵術を完全に変えてしまうこの新技術を作り上げたこの主君を、心底尊敬していた。
なればこそ、その彼女の必死の努力を容易く卑劣な真似で模倣するような連中を生かして返すつもりはなかった。


「後ちょっとだ、お前ら。一気にいくぞ!」
「「「応!!」」」


公孫賛の声を聞いて、公孫賛軍の白馬侍従部隊は人馬一体のみならず主従さえも一体と化して一直線に董卓軍へと迫っていった。
戦場において呂布が未だ健在なのはその旗印からわかっている。ならば、一刻も早くこいつらを蹴散らして、呂布に向かわなければ。
あの二人では、呂布を抑えることは出来ても、倒すことは難しいだろう。
そう、呂布を倒せるのはこの白馬侍従らによる遠距離からの高速一撃離脱以外にありえないのだから。

少なくとも本人は完全にそう思い込んでいた公孫賛は、だからこそ自分たちと同格の力を持ち、しかし自分たちよりもわずかばかりに全体的に劣る董卓軍を一気呵成に攻め込んだ。
必殺の気迫を込めて突っ込んだそれは、もはや遠間からちまちまと弓での削りあいをするつもりはなく、機動力の差で一気に押し包んで圧殺するつもりだ、という目論見を見事なまでに表したものであった。

あちらとこちらの鐙の完成度の違いによるものか、馬上での安定性の差がそのまま速度の差に繋がっているように速度で上回っている公孫賛が取ったその戦法は、騎乗での弓の打ち合いによって削りあっていく、という時間も被害も大きく掛かる方法とは違う、もう一つの正解であった。


こちらの急加速を受けて慌てたのか、あちらの騎馬隊が大きく体勢を崩す。中には、自分の背に背負っていた矢や手に持っていた槍を取り落としているものさえいたことが、白馬侍従の顔に浮かんだ侮蔑の笑みをさらに強くする。
公孫賛は司令官の一人として相手を侮りかねないそれに同調こそしなかったものの、勝てる、という確信を強めたのは確かだった。
現状において、相手がこちらの劣化コピーでしかない以上それは正しいようにも思えた。




ただ、彼女が不幸だったのは……余りに教科書どおりの正解過ぎて、異世界人からのブーストを受けてさらに知を増していた軍師、賈駆の予想の一つをきっちりとなぞりすぎていたこと。
そして、一刀が彼女に与えた牙は、鐙だけではなかったのだ、ということを理解していなかったことに尽きる。


「っ! 止まれ!」


瞬間、嫌な悪寒を感じた公孫賛は全軍に対して停止を求めた。
別に、何か攻撃を受けたわけではない。それでも、いくつもの戦場を才によって飛び越えるのではなく、凡人なりに一つ一つ乗り越えてきた彼女には、その場が危険だということが経験からわかった。


だが、車は急に止まれない。
無機物ではなく生物である馬は車よりもある程度融通が利くが、それでも急な停止の指令に従うのは難しかった。何せ、言い出した彼女でさえつんのめって危うく落馬しそうになったぐらいの急制動。
馬にも人にもあまりにも負担が大きい。

ましてや、何らかの直接的な危険が迫っているようにも見えないのだ。急停止によって部隊員同士が衝突する可能性を考えて戸惑った彼らを責めるわけにはいかないし、実際にその指示に従おうとして後ろの馬に衝突されて地面に落ちた騎士もいた。
そのため、白馬侍従において公孫賛の考えるとおりに被害無しで見事に停止できたものはそうはおらず、大多数のものは今までの慣性の流れを止めることは出来ずに進んでしまった。



そして、それが終わりの始まりだった。


「っ、なぁ!」


始まりは先頭を走っていた馬から。
突然その公孫賛を追い抜いてしまった兵士が乗っていたが前足を跳ね上げて後ろ足だけでまるで二足歩行しかねないほど棒立ちになった。当然、そんな状況下ではいくら鐙によって格段に振り落とされにくくなったとはいえ、耐えられるものではない。振り落とされた兵士は、苦痛の声と共に地面に受け止められた。
その突然前方に障害物が発生したことでそれに当然ぶつかる後ろの騎馬は、今までの速度が速度だっただけに衝突の衝撃で骨を折ってしまったのか、前足から崩れ落ち、その騎手も馬に巻き込まれて地面に磨り潰される。

とはいえ、そこまでならばありえない光景ではない。訓練中でも操作ミスによって友軍が巻き込まれることはないとはいえないので、それなりの訓練を積んでいる彼らは巻き込まれる被害は最小限にとどめる術を知っている。
そここそが、こちらから技術だけを奪った急造の騎馬隊とは違う白馬侍従と呼ばれるだけの実力の現われだ。


「……危ないところだった、大丈夫か、って! 何ぃ!」


だが、その二騎を何とかかわした三騎目が、数歩行っただけで先頭のものと同じように馬が棒立ちになり、落馬させられた段になってしまえば、そんなアドバンテージも消える。。
避けねば転倒し、避ければ数歩進んで自分が振り落とされる。
そんな絶望的な二択の訓練など、積んでいる筈がない。


「ぐぅ!」
「ダメだ、避けてくれ! ぶつかる」
「あああっ!」


そうなってしまえば、相手を追うために連なってかけていたことがさらに災いした。
前のものに引っかかって後ろのものが転倒し、それを何とかかわしてこの場から離れようとする落馬したものも、次から次へと止まりきれずにこちらに来る馬体に押しつぶされ、蹄で砕かれて倒れていく。
蹄で踏んだ側も同胞を自らの愛馬によって倒したことによって動揺し、それがまた突然棒立ちになって暴れる馬の制御を誤らせて自分もまた落馬して、その場にうずくまる一人となる。

公孫賛の誇る白馬侍従が、見る見るうちに数を減らしていき、後に残ったのはその白い毛並みを赤く汚した半死半生の馬と人、そして僅かに残る公孫賛ら突入を防げた無傷の部隊だった。


「馬鹿なっ、何で!」


目の前でそんな光景がドミノ倒しのように連鎖的に広がっていくのを、公孫賛は止めることも出来ずに呆然と見るしかなかった。
彼女が鍛え上げた部隊は、数々の戦場を乗り越えてきたつわもの達だ。そんな彼らが、こんな初歩的な馬の操り方を間違ったかのように次々と落馬するなんて、ありえない。

先ほどの悪寒が示したとおり、あの前にいた董卓軍が何かをしたに決まっている。
それを証明するかのように、まるでこちらの同様が予定通りといわんばかりに、こちらとは対照的に整然と反転した董卓軍は倒れた兵士たちに止めを刺さんと、今まで持っているだけで一度も使用していなかった長い矛を構えて、突き刺しに掛かってきた。
そうなってしまっては、公孫賛としては罠だとわかってはいても踏み込まざるを得ない。やすやすと仲間が殺されていくのをただ呆然と見ているだけなんて、出来るはずもなかった。

ましてや、ここで逃げてしまえば自分たちはもはや二度と再起できない。
関羽と張飛が抑えられ、西域連合さえも張遼の神速の馬術によって翻弄されて時間稼ぎされているのを突破できていない今、ここで一度でも敗北を決定的なものにしてしまえば、未だ戦力を保持する西域連合はさておき白馬侍従の半数以上を失った幽州は、無事ではすまない。
最悪の場合西域連合からトカゲの尻尾きりのように切り捨てられ、全責任を負わされて反乱軍として一方的に殲滅されるだけだ。


「って、まて、やめろぉ! くそうっ、こうなったら……」



そうと分かっている以上、彼女にはこの罠を食い破ってその下手人を倒して逆転するしか手がなかった。
だが、状況はよくはない。

どういうわけか、こちらの馬は一定の範囲内に入ったとたんに悲鳴を上げて倒れこむというのに、相手の馬はそういったそぶりもなく縦横無尽に駆け回っている。
無論、完全にそうというわけではなくこちらの軍でも普通に乗りこなしているものもいるし、あちらの軍でも馬に悲鳴を上げさせ、落馬している者がいないわけではなかったが、それでもその比率の差は余りに歴然。

一体その差はなんなのか、と目を凝らすと、相手の騎馬の足には何やら藁だの革だの布などで出来た覆いがかぶせられている。それがなんなのかはわからないが、その仕掛けの差が公孫賛軍と董卓軍の差なのだろう。
自身の秘奥を盗んだばかりか、そんな仕掛けまでしていることにぎしり、と奥歯をかみ締める公孫賛だが、気付いてからの判断は早かった。


「全員、下馬しろ! ここでは馬は役にたたない!」


騎馬対兵士、という余りに圧倒的な戦力差になってしまうが、それでもろくに動けない状態で不安を抱えながら騎馬同士で戦うよりかはマシと判断して、そう公孫賛は思い切った決断を下す。
自分自身率先して降りて、馬の手綱を放す。
彼女の乗っている馬は賢いものなので、今の惨状を見て何かを感じたのか、一直線に安全圏まで逃げ出して、待機する。それに他の馬も従っていったのを確認してから公孫賛は改めて振り返る。

馬上から自分の足へ、と目線の位置が低くなった。
そのことで、わかることがあった。


「くそっ、やられた!」


何故自軍の馬が突如暴れだしたのかわかった……地面に、何かが転がっているのだ。
それも、一つや二つではない。大量に、凄まじい密度で。
それで、自分たちの白馬が足を傷つけられたのだ!

初撃こそ見事だったものの結局は公孫賛らよりも僅かに劣る速度で、しかしある程度の距離を保ちながらずっと逃げ続け、防戦一方になっていた董卓軍。
こちらの追撃を受けて、先ほど武器や矢を取り落としさえした董卓軍。
それを見てその余りのみっともなさに自軍には笑ったものがほとんどであったし、自分自身もそれが単なる相手のミスだ、所詮は剽窃者か、と思っていた。


だが、それもすべて、この棘が上を向くように作られた四本の鉄針を組み合わせた足止め用の道具を巻くための布石だったとは!
一つ一つが握りこぶしほどあるそれは、人を引っ掛けるには明らかに巨大な、注意して歩かなくても気付くほどの大きさではあるが、しかし土であらかじめ汚されて目立たなくされているならば高速移動中の騎馬が見つけるには余りに小さすぎる。
そのことからも、これが歩兵を止める為に作られたものではない、ということは明らかだ。そもそも、これほど贅沢に鉄を使用して、出来ることが歩兵を止めるだけ、というのでは明らかに製造費に見合わないし、ここまで大型化しなくてももっと一つ一つを小さくすればいい。だが、それも、すべて騎兵対策であると考えるのであれば話は別だ。
自軍に騎馬を、鐙を使って運用しているというのであれば、今までの馬上では出来なかった新戦術の威力も当然知っているはずだし、その突進を止めることが出来る、ということの凄まじさも当然わかっているはずだ。
騎馬の突進を止められるのであれば、貴重な鉄を地面にばら撒いても元が取れる、ということなのだろう。


「こんなのを用意していたなんて……」


明らかに馬の蹄を貫いて足止めすることを目的に作られたと思われるそれは、公孫賛が想定さえしていなかった、しかし明らかに目的を馬に定めて、強力な騎馬隊を保有する公孫賛軍と西域連合を嵌める為に作られた『騎馬殺し』だ。
山岳戦や攻城戦では騎馬は役立たずであり、だからこそ公孫賛も平地における馬の機動をメインに訓練させてきた。
なのにまさかこんな方法で平地に局地を作られて自分の自慢の白馬侍従が潰されるなんて、彼女は思ってもいなかった。

この様子ではおそらく、あの藁や革で作られた足覆いにも何か仕掛けがしてあるのであろう……用意周到に自分たちへの対策を練っていたと思われる董卓軍を、自分たちは余りに侮りすぎていたのだ。


彼女と同じことを考えたのか、ようやく隊列を整えた「元」白馬侍従の兵士らも同じように悔しそうな顔をする。当たり前だ。尋常な手段で正々堂々と戦って敗北したならばさておき、まさかこんな方法で自分たちが破られるなんて想像だにしていなかったに違いない。
大きな損害に衝撃を受けた公孫賛には、そんなことありえないと普段の信頼関係からわかってはいても、その一人一人の表情がまるでそんなことさえ考え付かなかった無能な主君である自分を責めているようにさえ思えた。


「っ! 公孫賛様、敵軍が!」
「!! そうか。もはやこいつらを倒してひっくり返すしか手がないな……お前たち、白馬侍従の名は、馬を完全に制御する優れた騎士がゆえの字だということを、あの卑怯者どもに教えてやれ!」
「「「応っ!!」」」


それでも彼女は剣を取り、隊列を指揮してその戦場に突っ込んでいった。
敵の覆面の司令官が、その覆面越しにもわかるほどの笑みを浮かべて、こちらに対して殺気を叩き込んできていることに気付いた以上、もはや逃亡も待機も出来ないのだ、ということがわかったのだから。


「我が名は幽州太守、公孫賛! いざ……勝負!」
「あらあら。やっぱり賈駆ちゃんの予想通りこの状態でも向かってくるのね。ま、これで一刀に怒られなくてすむかしら」


だからこそ公孫賛は、死中に活を求めんとその司令官らしき褐色の女性に対して一直線に徒歩での突撃を配下に命じながら、自身も駆けていった。
その最中にさえも、地面に転がった鉄針―――天の御使い、北郷一刀の未来知識によって案が出され、董卓の軍師賈駆によって製造された兵器こと『撒菱』によって注意力を削がれながら。
孫策こと雪蓮が縦横無尽に操って駆ける騎馬に付けられた足覆いの袋―――その中に仕込まれた、この時代にはほとんど見られない馬の蹄を保護する馬具、『蹄鉄』の秘密にも気付かずに。


「はあぁぁぁあぁぁ!!」
「剣速はまずまず……だけど、私よりかは遅いわよ!」


彼女は自身も誇った騎馬の突破力と機動力によって完全に打ち砕かれたのだ。










「公孫賛、公孫賛っと。たしか、赤い髪だったって噂だけど、どこにいんだろ?」


遠くから、なにやら筒のようなものを目に当ててそんな他人事のように呟く男の名は、当然ながら北郷一刀。
戦場において女性武将の品定めをするような男が、この世界においてこいつ以外にいるはずがない。
勝負が決まりかけたことでもはや自分の身の危険はあるまいとノコノコと戦場に、しかしそれでも臆病なのでかなり遠くに出てきたこの男は、しかしその距離からでも公孫賛と雪蓮の戦いの行く末を視認していた。


手に持っているのは、遠眼鏡―――すなわち、望遠鏡だ。
これもまた、彼の未来知識を活用して賈駆が準備、作成したこの時代のオーパーツ。

ガラスの作り方なんてものまでは一刀は理解していなかったので、彼の知識からすれば作れないはずであったのだが、そこはきちんと賈駆がカバーしている。
とはいえ、「何か珪素とか言うのを溶かして作るんだっけ?」レベルでは流石にガラスから凸レンズまではたどり着けなかったのだが、運良く城の宝物庫にはその代用品が眠っていた……というか、詠が必死になって探し出した。
その代用品、水晶の珠をレンズ状に磨いて加工して作られたそれは、原材料費だけでも極めて高価なものであったがために一刀が持っているそれを含めても僅か三本しか製造されていないが、それでもその効果は賈駆をして支払った代価の分だけの価値を認められていた。

それを使ってやることが、暢気な品定め。
詠は半ば諦めているとはいえ、これはひどいといわれても仕方がない。

とはいえ、一刀が見ている公孫賛がいる戦場ではすでに勝敗は決したも同然であり、殲滅戦の様を現しているがために、勝っている側の関係者である一刀からしてみればもはや応援する必要もない、ということは確かに事実。
そして、この望遠鏡の性能では倍率的に流石に他の戦場までははっきりとは見えないが、それでも一刀が美女ばかりを見続けられるほど戦争というものは穏やかなものではなかった。
だからこそ、暢気な言葉を呟いてはいても一刀の視界に入るのは美女同士の絡み合いではなく、剣と剣のぶつかり合い、命と命の奪い合いだった。

しかも、もはや明らかに一方的なものとなりつつあるものだ。
当然そこには血が流れ、肉が割かれ、骨が砕かれる凄惨な光景も含まれる。


「って、うわ、グロッ……見なきゃよかった」


それでも、一刀の反応はこの程度のものだった。
虫も殺せぬ現代人であったことを思えば余りに淡白なその反応は、しかし非難すべきではなくむしろ彼の精神構造が当時と比べれば明らかに歪んでしまったことをあらわしている。

詠に与太話と共に適当にうろ覚えの構造を伝えたらいつの間にやら作られていた望遠鏡は、微妙に像が歪んで見えたり虹色付いていたりするが、だからこそそれを覗いていた一刀に現実感はないのかもしれない。
そこで人が死んでいるのはわかっているし、よく見れば血や髪とかそんなレベルではなく、首が、脳が、腸が潰され、切り裂かれ、飛び散っているのも見えなくはないのだが、一刀はそれを見てもまるでホラー映画を見た程度の嫌悪感しか覚えていなかった。

遠眼鏡ごしに見る以上肉のつぶれる音もなく、今まさに零れ落ちた鮮血の香りも届かない歪んだ映像は、この世界に来てから磨耗しきった彼の現代人的良識を呼び起こすには少々インパクトが無かったのだろう。
自身もその現場にいて命をBETして天秤を揺らしていたならばさておき、絶対安全な場所から覗くだけならば、進化しきったゲーセンでのFPSゲームを思い起こさせはしても、真実命のやり取り、というものを彼に感じさせることは無かった。


「でもまあ、これは勝ったな、見るからに一方的だし」


とはいえ、その瞳の先に映っているのは紛れもない事実のみ。
彼の望遠鏡の狭い視界の中では見事なまでに公孫賛軍が詠の仕掛けた策に嵌められて、有利から不利に、そして敗北へと移り変わっていく様が刻一刻と映し出されていた。
馬用に作った巨大な撒菱によってすっころばされた公孫賛軍を、これまた対戦用に作った蹄鉄の力で自軍には被害が及ばないようにした雪蓮率いる董卓騎馬隊が一方的に蹂躙していた。


「おお、何で降りてんのかと思ったら、やっぱあれのせいか! ……流石だな、俺」


そんなことを呟く彼は、間違いなく「俺TUEE!!」な状況に酔いしれていた。
ちなみに企画立案が詠で、命令が月、実行が雪蓮その他騎馬隊の皆様であって、彼はこの戦いでは何一つやっていない。
史実では公孫賛の白馬侍従は袁紹による連弩部隊によって壊滅させられた、ということを詠に伝えたことは確かに一刀の公孫賛対策としての考えだったが、その中途半端な知識には当然袁紹の秘奥である連弩の構造なんかが入っているはずもなく、その結果として当然ながらその知識はこの戦いにおいては何の役にも立っていなかった。
望遠鏡はさておき、鐙も撒菱も蹄鉄もここが現代地球と同じような歴史的経緯を通っているのだとすればこの時代にすでに世界の何処かに原型はあるはずだ。たまたまこの世界ではそれらは世間の周知を受けるほど運用されていなかっただけであり、そして彼はそれをインチキで伝えただけに過ぎない。

だから、別に彼が強いわけではない。
というか、この一刀のアドバンテージは基本的に現代から来たことによるうろ覚え知識と妖術だけなので、直接的な強さとはまるで無関係だ。


それでも、そんな事実さえも彼の脳内を通れば「華麗な一刀の指揮によって見事に強敵を撃破した」という風に変換されるらしい。
この血で血を洗う凄惨な戦場において、彼の頭の中だけが似つかわしくないお花畑であった。


「っ! いた、多分アレだ!」


そんな彼の視界によぎったのは。
必死の抵抗を続けたのであろう、動くものも少なくなりつつあった戦場において未だに立っていた血と土ぼこりに汚れきった一人の女武将を、馬上の褐色の肌を持つ覆面の司令官が剣の腹でぶったたいて倒したまさにその瞬間だった。
一刀の呪いによる能力の低下があっても項羽の再来とまで謳われた彼女を止めることは「普通」の人間には不可能なことを誰よりも知っている一刀は、それを当然の結末と受け入れた。

その兜もつけていなかったためよく目立つ真っ赤な髪が大きく振られ、やがてゆっくりと台地に向かって堕ちていくのを理解して、思わず一刀は望遠鏡で覗きながらもGJ! と大きく手を振る。
大きく手を振って自分の意思をアピールする一刀に気付いたのか、彼の操り人形である覆面の女も大きく手を振り返すことで了承の意を返す。
それは余りに戦場においてはあまりに軽い動作であって戦場を嘗めていると思われても仕方がないものであり、歴戦の勇者である彼女がするには似合わないものであるが、それを受ける男と対比すれば実に相応しい。
彼女を戦士としてみるのではなく、戦場をただの傍観者として娯楽気分で眺める男の従者と見るならば、まさにハマリ役な態度。


「よっしゃ、よくやった雪蓮! そのままつれてきてくれ」


ついにこの戦争にて念願の新キャラゲットに沸く一刀にしてみれば、この戦争は所詮その程度のものでしかなかったことをその孫策の動作は見事なまでに表していた。









巻末特別付録
〈天の兵器の作り方〉


『あぶみ』
「騎馬隊とか作んないの? え、鞍の上で不安定? 何か三国志ってみんな馬乗ってるイメージがあるけどなぁ……って、これが鞍? なんでアレ作んないの、アレ……え~っと、なんて名前だっけな。アレだよアレ、こんな形の…………そう、アレ! あぶみ。
鞍に足を引っ掛けるところを来るってそこで固定すりゃ、太ももで挟まないでも多分落ちないよ。
え、俺が? やだよ、馬なんて怖いじゃん。一人じゃ乗ったこともねえよ」


『蹄鉄』
「U←こんなのを蹄に嵌めてた気がする。付けると強くなる、馬版のネイルアート。どう強くなるのかは知らないけど、まあ硬いところ走ったり敵を踏み潰したりは出来そうだよな。あ~、そうそう、なんか足を保護する、とかいうのが目的だった気がする。まあ、靴あるのとないのだったら、あるほうが馬でも走りやすいんだろう。やってみてから考えよーぜ。
問題は、どうやって固定してたのかがわかんないことだ……アロンアルファとかあるわけないしなぁ。いや、そもそも俺馬の実物なんてここ来るまで見たことなかったし。最悪米粒?
…………釘って。釘で蹄に打ち込むって。詠ちゃん、いくらなんでもひどくね?」


『撒菱』
「そういやさあ、スパイ―――間諜の人らに手裏剣とか撒菱とか持たせない?
この時代なら多分日本にはいないだろうし、なんかかっこいいじゃん。こう、覆面させて、背中には忍者刀って奴で、痺れ団子を街娘に食わせるんだよ。
撒菱? あれだよ、テトラポットみたいなのを地面に撒いて追いかけてくる奴に踏ませて足止めするやつ。え、テトラポットがわからない?」


『望遠鏡』
「何か、レンズが二枚あって、それを筒で繋げると遠くのものでも見えるようになるんだったとおもう。
信長だって大喜びするはず」





「……こんなんで出来るわけないでしょーがーー!!」


自分で竹簡に書き起こした一刀からの『天啓』を改めて読み返して、詠は思わず思いっきりその竹簡を地面に叩きつけた。

無理もない。いや、そうじゃなくてやっぱり無理だ。
普通に考えてチートトリッパーでもない限りこんだけの情報量で完成品を想像しろというのがまず明らかに無理だ。三行革命と同じぐらいの無理難題である。
こんな適当な仕様書ともいえない戯言であっさりと次のページまでに完成品が出来てしまったら、次はジャイロ効果知ってればライフル銃作れるとでも言わねばなるまい。
そもそも彼女は政治家、もっと正確に言うならばどちらかというと軍師であって、発明家なんてのではないのだ。


「はぁ、本当にもう。人の苦労も知らないで簡単に適当なこと言ってくれるんだから……」


だが、これらを何とか上手く実用化しておかなければ、小勢力である自分らはいずれ何処かのいざこざに巻き込まれて潰されるということもわかっていた彼女の力で叩きつけられたその衝撃は、竹簡を破壊するほどの威力なぞ全然ないあたりこれは八つ当たり以外の何物でもなかった。

実際、一刀の助力が全くない状態で詠に「馬を御する馬具」や「相手を足止めする道具」、「多少の荒れ野であれば踏破できるようにする馬具」に「遠方の光景を覗ける道具」の原型となる程度のものでも腹案を作れたか、ということについては否定するしかできなかったし、そうであるならば一刀のやった功績は例え完全なものを提供できていなかったとしてもとても大きなものだ。
そのことを自分自身でもわかっていた詠は溜息を一つ吐いた後、自ら投げ捨てた竹簡を拾い上げ埃を払い、ぎゅっと胸元にそれを抱きしめた。



この後詠は、本当に試行錯誤を繰り返して苦難の末上記四つを何とか大戦までに用意することになる。
掛かった費用は膨大なものであり、時には郭嘉や程立などの下の者に丸投げしたりもしたものの、結局は直接疑問を一刀にぶつけることの出来る彼女が関わらざるを得なかったそれの開発には、彼女は本当に苦労した。

そして、作っている途中は実はコイツ適当ぶっこいているのではないのか、とか何度も思い、睡眠時間が足りなさ過ぎて寝不足の自分の隣でのんきにグーグー寝ているのを見たらかなりいらっときて起きない程度に腹にぐーパンしたりもしたが、実際に完成してしまえばそんなことも過去のもの。
同様の経路で結局実用化しなかった失敗作は数あれど、それでも完成したものがこれほどある。一から詠が自分で考えていたとしたならばこれだけの数の揃えることなんて出来なかったであろうことは明白だ。
おそらくもうすぐ始まるであろう公孫賛らと袁紹のぶつかりあいまでに用意できたこれら四品。
そのどれもが戦争においてこれ以上ないほど有効なものである、となまじ軍師として優秀であったがために詠はいっそう一刀を頼りにせざるを得ない部分があった。


「ねぇ、一刀。何かもっと使えそうなのないの? そ、その……また、いいことしてあげるから」


だからこそ彼女は口ではいろいろ言いながらも、どれほど適当に便利に扱われたとしても一刀に対する一定の態度を崩そうとはせず、しかし少しずつその距離は近づいていっていた。




 28へ

Comment

詠有能すぎwww

そんなメモから生み出されたとか、詠ちゃんどれだけ凄腕なんだw

失敗は成功の母、詠の努力の勝利、だな。
詠ちゃん、後世では為政者としてより発明家として
名が残ることになるかもしれない。
他のキャラに拾われてたら、こんな偉業は達成できなかったかも。
良くできた嫁ですね。

ところで詠ちゃんが公式人気投票で一位になりました。
おめでとう。嬉しいです。

なんという敏腕軍師w

投げ捨てて拾い上げてぎゅっと抱きしめるとか可愛いなw

詠ちゃん、公式僅差の大勝利おめでとう!
つーかここの影響があったのではないかと思わされる僅差だったぜいw

しかし詠ちゃん頑張れ超頑張れ!
というか有能すぐるw
才色兼備とはこのことだー

公式サイトにて

装甲悪鬼村正の公式サイトにて作品が投稿できます。
作者さんにはぜひやってほしいです。
http://sp.fmd-muramasa.com/toukou/
非公開コメント

プロフィール

基森

Author:基森
蚕鳴や円禍と名乗ってたこともあります。

主に小説・ssなどを置いているブログです。

自前の本棚を持つのは初めてなので手探りでやっている程度のものですが、わずかばかりの暇つぶしにでもなれば幸いです。


メールは「kulukku106☆yahoo.co.jp」まで、☆を@に変えた上でお願いいたします。

そろそろ、非営利にならトップへのリンクフリーとか言ってみたり。

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