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外史につくろう穢土幕府・24

ようやく桃香登場。
三国志ベースなのに魏・呉・蜀のどれ一つ現存していないのは、いかがなものかと思ったり思わなかったり。













「いよいよか……腕がなると言うものよ」
「ここから鈴々たちの伝説が始まるのだー!!」


すでに空気にすら漂うぴりぴりした雰囲気を感じて、義妹二人が軽くではあろうがその強大な武器を振るうのを見て、少女はなんともいえない表情を浮かべた。
彼女たち二人の腕前は知っている。

これでも、太守になるほどの名家に生まれた幼馴染と同じく幼いころよりそれなりの教育を受けてきたし、その過程において武術についても目を養ってきた。
自身には余り向いていなかったのか剣を振るうだけで精一杯といった程度であるが、それでも桃香は武術に関して全くの素人というわけではない。
しかし、その彼女にしてみても義妹二人の腕前は今まで見知った人間とは完全に別格ということは十分に熟知している。
だからこそ、例え戦場に出たとしても自分はさておき二人が遅れを取る場面なんて考えもできない。
たとえ、全周を数百の兵に囲まれたとしても切り抜けられると信ずる二人がいる以上、不安に思うことなど何もない、ということは彼女―――天の御使いが知る知識においては蜀を築くこととなる劉備という名を割り当てられた桃香にはよくわかっていた。

だが、義姉妹二人の絶対の身の安全があってもなお、桃香の顔は暗い。
その桃香に対して、時には妹として、時には友として、時には臣下として彼女に接する二人の少女らは首をかしげて問いただした。


「桃香様、どうかなさいましたか?」
「お姉ちゃん、どうかしたのか~?」


彼女らが知る義姉は、常に笑みを絶やさない太陽のような女性だ。
誰よりも優しく、その場にいるだけで希望と安心感を与える、そんな彼女のことを、二人は誰よりも尊敬しており、鍛えに鍛えたこの自分たちの武芸の腕の上に抱くのであれば彼女しかいないと強く思っている。
だからこそ、尊敬する姉がそんな曇った顔をしているのであれば、見過ごせるはずがなかった。

そんな二人に対して隠し事をするのも信頼していないことになると思った桃香は、素直に妹二人、関羽こと愛紗、張飛こと鈴々に対して、自分の中で引っかかっていることを話すことにした。


「え! あ、うん……これでいいのかな、って思っちゃってね」
「と、申されますと?」
「私は確かにこの国を変えたいと思ってる……でも、そのために人を傷つけなきゃいけない、っていうのが、ね」


知と武こそを重視する曹操、血と信念こそを武器としていた孫策とはまた違い、劉備たる桃香は義と和をもってこそ尊しとしている。
華琳であれば歯牙にもかけず、雪蓮であれば無視するであろう自らの覇道のさなかに踏み潰される弱者の存在は、そういった桃香の信念からすればどうしてもしこりとして心に残ってしまうものであった。

今から幼馴染である公孫賛について戦いに出る。
義姉妹二人があんまり止めるから、自分自身が剣を振るうことはおそらくないであろうが、それでも二人を、そしてその二人の下に付けられた借り受けた兵を使って、戦わなければならない。

それを迎え撃つのは、おそらく官軍。
代々漢王朝に忠誠を誓い、皇帝の命令に従うことを正義とする人たちだ。
暴力で持って村々から略奪する匪賊ではなく、重税をかける悪代官そのものではない。
袁紹のやっていることに協力はしていても、それが悪い人だからなのか、自分の正義にのっとっての事なのか、桃香には判断が付かない。
彼らも、権力に翻弄された守るべき民なのではないのか?
そんな状態で、世の中を変えるために戦う、傷つけることは果たして正しいのか、桃香は思い悩んでいた。


『誰かを傷つけなければ誰かを守れない』


桃香の信念は、現実にそれを押し通すとなればそういった矛盾を孕んだものとなってしまう。
それが、黄巾党の乱がなかったがために一方的に蹂躙してよかった敵という存在に出会うことがなく、今始めて直面したそのことが、何より桃香には辛い。
人を傷つけていくうちに、いつしか守るべきものまでその刃を向けることをなんとも思わなくなっていくかもしれないことが、恐ろしい。

それを優しさと取るか、弱さとするかは人それぞれであろう。
どちらが正しいも間違っているもなく、徹底して能力に応じて働きが認められる国を好む者がいれば、例え失敗をしたとしても再びの再起が許される国を好むものもいる、その程度の差異でしかない。

だが、間違いなく桃香のその心の悩みは間違ったものではない、ということを知っている三姉妹の真ん中の少女は、しかしそのことを突き放すかのような言を取らざるを得なかった。


「桃香様の御気持ちは尊いものだと思います……ですが、残念ながら今回はお心の奥に秘めていただかねばなりません」
「う……ん。そうだね、ゴメン。余計なことをいっちゃって」


その言葉は、当然ながら桃香にはわかっていることであった。
当たり前だ。
桃香の力、というものはこの時点ではとても小さい。
袁紹を許せない、民を救いたい、と吼えてはみても、純粋に彼女の意思に賛同し力になってくれているといえるのは義妹二人だけ。
今配下として付いている兵のほとんどは、客将としてこの戦争に参加することになった際に与えられた、公孫賛からの貸し出しだ。
勿論、今までの付き合いの中で桃香の思想に共感してくれた兵隊らは桃香自身の魅力もあって結構な数がいたが、だからといって公孫賛から離れてまで付いてきてくれる、ということは名を上げる機会がなく客将としてくすぶっていた桃香が求めていいものではなかった。
故に、消極的賛成はあっても命を懸けてまで桃香を信じてくれるのは、やはりたったの二人きりだ。


そんな弱小の、勢力ともいえない桃香がいかに今回の戦場において「まずは話し合いから」「袁紹一派は改めるべきだ」などといったところで、実際の効果なぞ皆無。
桃香の民を助ける、という思いは大勢力同士のぶつかり合いの間に挟まれ、すりつぶされ、もみ潰され、宙へと消える。

理想を語るだけの学者であれば、それもやむを得まい。
ただ耳障りのいい言葉のみを並べて、象牙の塔に篭り切り、自身の理想を実現できる権力者の存在を待つまでに自身の思想を一層磨き上げることこそが、彼らの役目。

しかし桃香はそれに耐え切れなかった。
一国も、一秒でも早く苦しむ民たちを救いたいと思ってしまった。

そうである以上、見なければならないのは自身の抱く理想ではなく冷たい冷たい現実だ。
理想実現のために一体何をしなければなならないのか自身の力量を勤めて冷静に判断して、今の自分に出来ることを考えて、抱く夢の中どうしても現実と矛盾するところを切り捨てて、しかし捨ててはならない絶対の部分はどうにかして残るように擦り合わせて。

力がすべてを否定する為には、やはり自身が力を得なければ同じ舞台に立つことさえも許されない。
万人を幸せにしたいという夢を抱くのであれば、当然ながらそれは万民の幸せに対して責任と実行を行うことが出来るだけの力を持っていなければ、夢物語以外の何物でもない。
そういった観点からすれば、もはや力を得るまでにこんな割り切らねばいけないことで立ち止まることなどあっていいはずがないのだ。


「そこがお姉ちゃんのいいところなのだ」
「そうです、桃香様は間違ってはおりません。ですから、まずは一歩一歩われらの力を蓄えていきましょう」
「うん、愛紗ちゃん、鈴々ちゃん。私の……みんなのために、力を貸して」
「御意」
「もちろんなのだ」


義姉妹たちが武将らしい豪快な笑顔を浮かべる横で、つられるように桃香はその名の通り花にも果にも似た、柔らかい笑顔を浮かべた。
そこには御互いの間の明らかな信頼と信用があった。
それを感じた愛紗と鈴々は一層この戦で名を挙げて、少しでも尊敬する義姉の力になろうと心に誓い、桃香はこの二人の信頼を裏切らないよう、一層自分の中での理想を形とするための方法を考えようとする。

だけど、ああ。
彼女の中でのわだかまりは、表層からは消えうせてもそれはいっそう深い部分に沈み込んだだけに過ぎない。
桃香は……大陸すべての民を真剣に考え、そのためにこの戦乱の世に立つことを決めた少女、劉備玄徳は自問する。


今から人を殺す、殺させる。
自分の理想のために他人を殺す私に、果たして人を助けるなんてことをいう資格なんて、あるのでしょうか?
これからこれを、何十も、何百も繰り返して進んでいったその先の場所にたどり着いたときに、今この胸に抱いている大切なモノは、果たして歪まずにいられるのでしょうか?


今はそうすることしか出来ない、と知っていながらも、桃香はそのことに対して未だ明確な答えを出すことが出来なかった。
そして、一度始めたからには間違った道に進んでしまったと後悔する事になろうとも決して留まることなど許されない、というその事実を、完全に理解していたわけではないがそれでも予感として桃香は感じていた。









で、桃香が地の果てにて悲壮な決心を固めつつあるそのほぼ同時刻。
詠の色香に騙されて逃亡することが出来なくなった一刀もまた、考えることとなった。

だが、当然ながら考えているその内容は桃香のものとはまるで正反対……どうすれば、この戦いを自らの利があるようなものに出来るか、とただそのことだけを求めるものであった。


現在、一刀は別に拘束されているわけではない。
いくら詠に対して愛着が湧いてきた一刀ではあっても、ずっと拘束されるという不快なことをされるぐらいであれば術を使うことをためらう性根なんて持ち合わせていない。
プレイの最中であれば足蹴にされるのを拒むつもりなどさらさらないが、だからといって普段からそんな扱いをされて怒りを覚えないほど彼の天狗っぷりは軽いものではないのだ。

それを知っているのか、詠は一刀に対して高ぶらせるだけ高ぶらせた後、己の体を使って十分に彼を楽しませ、その後実にあっさりと開放した。
ちょっとした色気のないピロートーク的なモノは確かにあったが、だがたったそれだけで詠は一刀を解放した。
自分を逃がさないために拘束する、といった余りに余りな応対と裏腹の潔さに、思わずあれ? とか思った一刀であったが、結局彼は「何だ、最近程立にばっかり構ってたからちょっと拗ねてたのかな?」というふうに先の詠の行動の原因を結論付けた。
詠の必死の懇願であっても、彼にとっては精々その程度の重さしか持たないものなのだ。

が、それを重々知っていた詠がなお、決死の覚悟で行った行為の効果は抜群であり、いつの間にやら一刀はこの地から逃げ出そう、とする考えをなくしていた。


「さて、どうしたもんかなぁ……なんでかしらないけど黄巾党がないから、この戦いが三国志において何に当たるのかイマイチ特定できないんだよな……赤壁あたりだったら連環で決まりなんだけど」


彼は、思い直したのだ。
きっかけは、事が終わって一服していたときに詠がかいがいしくも自分の体を濡らした布でいろいろと汚れたところを拭いてくれたり、飲み物を注いで持ってきてくれながらたわいもない話をしていたときに電撃的に感じた直感だ。


一刀がこの場所から逃げ出そうとした理由は、自分の安楽な生活が今後保たれない可能性がある、というただそれだけだ。
散々尽くしてくれる詠や月の体に飽きたわけでも、ようやく手に入れた程立や郭嘉への執着がなくなったわけでもなく、ただ単に戦争が起こったとなれば身の危険が迫るかもしれない、そうなるとこんな暢気な生活が出来なくなるかもしれない、とそれを考え、それの前に逃げ出してしまえばいいじゃん、ということが彼の考えた脱走の理由であった。
だからこそ、身の安全さえ確保されれば別にここを去る必要はないし、ここを去った場合であれば当然次の街でも同じような生活が出来ることを望んでいる。

だから、別に面倒なことになるくらいであればまた脱走を試みてもいいのだが、考えてみれば次の街にいったとしても詠ほど気が利く人材が配下に入るとは限らない、ということを示唆されてしまえばちょっと次の街へと向かうことは考えざるを得ない。


「ま、詠ちゃん見た感じ優秀そうだし、こっちにゃもうすぐ援軍も来るらしいから何とかなるかな?」


自分のことを天才であると思っている一刀であるが、同時に太平要術の書が自身の基盤となっているものであるとは自覚しており、それゆえに術無しでも自分に従う詠のことを相当気に入っている。
そして、詠ほど優秀な人間が他の町でも早々見つかるかどうかはある意味賭けになってしまう、という程度にはこの世界のことは知っていたし、「天の御使い」を名乗ってはいても、その名前を聞いただけで優秀な人間が無条件で自分に跪いてくれるわけではない、ということも雛里や人和などを通じて実感としてまだ覚えている。
そう、色に惚けて快楽に逃げて半ば溶けている脳みそではあっても、洗脳しなくても己に従ってくれる人間なぞそうはいない、ということぐらいは一刀には重々承知のことだ。


そうであるならば、痒いところに手が届くほどの気の効く詠の代わりが次の街でも都合よく出てくるという偶然を願うのではなく、むしろ詠のいる陣営を勝たせることによってこの安楽な生活を続かせることを目指した方が手っ取り早いのではないか、ということもまた一理ある、と考えることも当然の思考であった。
あんな何でもいうこと聞いてくれて、でも普段は結構ツンツンしていて、衣食住のすべての面倒を見てくれて、しかも自分からおねだりしてきたりしてくれる美少女を捨てて新天地に向かうのは、ちともったいないのではなかろうか、ということだ。

外見だけであれば太平要術の書でどんな美女であろうとも手に入れられるのだが、その美女に中身が伴っていなければあっさりとそんな楽しい生活も崩れることになる、ということは袁術のところを通じて十分実感した一刀にとって、詠は実に得がたい手駒だ。

馬鹿であれば手中に収めやすいが収めた後で役に立たないし、有能であれば鳳統のようにこちらに対して牙をむく。
無論、実力で孫策さえ下したと思っている一刀からすれば、それでも御せるだけの自信はあるのだが、雛里のように頑固者であれば面倒なことになるかもしれない可能性だけは否めない。
だとすると、この地にいて詠を確保した上で新たに運ばれてくる獲物の味見をしながら自身の環境を向上させていく方がいいように一刀には思えてきたのだ。


「まあ、どの道そんなに時間は掛かんないから、もうちょっとの辛抱ってとこかね……ああ、馬超とかどんな子なんだろ。楽しみだ」


それに、今回の戦争の相手は公孫賛と馬超らしい。
時期的には霊帝が没している以上、黄巾党の乱あたりの時期はもうとっくに過ぎているので、ひょっとすると劉備とかも入っているかもしれない。
すなわち、勝てば一気に獲物と領土ゲットである。
以前一刀自身が狙いを定めてどちらの領地に向かって侵攻しようかと考えていた相手が、わざわざこちらに来てくれるらしい。
官軍においても強力な部隊が来るという話しであるし、わざわざ一度逃げて、また公孫賛らを操る為にここに来るなんて面倒なことしなくても、自分の才能で勝てば面倒なんて何一つないのだ。

勝つ。
たったそれだけで新たな女が手に入り、また金も権威も転がり込んできて、その上で自分の下僕である詠の領土も増えてまた一歩天下統一へと近づく。
順調、実に順調だ。


勿論、一応形式的には朝廷の臣である董卓が今回の反乱に少しばかり協力するのであり、メインとなるのは朝廷から来る官軍というか袁紹軍になるわけであるから領土を勝手に切り取ったりしたら戦後の交渉で朝廷がなんだかんだ言ってくるかもしれないが、そんなときこそ懐の書の出番だ。
あっさり操ってしまえばいいし、なんだったらこれを機会に朝廷に乗り込んで歴史どおり董卓を宮廷の主にしてやるのも面白いかもしれない。


結局のところ逃げてちまちまと町々を洗脳して歩き回るなんて面倒なことしなくても、勝てばいいのだ、勝てば。


「俺がいて負けるわけないんだから、考えてみれば危うく公孫賛とか取り逃がしちまうとこだったな」


ここまで考えて、一刀は不敵に笑った。

そう、一刀からしてみれば己こそがこの世界の主人公。
袁術のときは面倒くさいことになってしまったが、あれば袁術と張勲が無能だったせいであり、賈駆だとか程立だとかが手に入っている今の自分であれば、敵なんてちょちょいのちょいだ。
ようし、いっちょ戦争やって英雄になってやろうではないか、と一刀はまず何をするべきなのか、含み笑いをしながら悪巧みを始めることになった。




「…………やっぱり引き止めないでどっかにやっちゃえばよかったかもしれないわね、あんな単純馬鹿」


とまあ、そんな感じに一刀はいっそ見事なまでに詠に思考を誘導されていた。
そしてその詠の言が、あながち間違っていないがために妖術書の効果も出ることなく、戦争へと突入することとなった。

 25へ

Comment

詠ちゃん、頑張れ

やっと劉備が出てきましたね。
悪一刀が暗躍するこの世界でどうなっていくのかな。
詠ちゃんの活動の結果、各勢力のメンバーが変わってるんですよね。
一刀が袁術や呉を潰した影響も出てるだろうし。

それはそうと詠ちゃん、公式の人気投票で一位を争ってるw
頑張ってくれ。
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プロフィール

基森

Author:基森
蚕鳴や円禍と名乗ってたこともあります。

主に小説・ssなどを置いているブログです。

自前の本棚を持つのは初めてなので手探りでやっている程度のものですが、わずかばかりの暇つぶしにでもなれば幸いです。


メールは「kulukku106☆yahoo.co.jp」まで、☆を@に変えた上でお願いいたします。

そろそろ、非営利にならトップへのリンクフリーとか言ってみたり。

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