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鬼畜ま!22

二十二話





「さて、これであなたも私の獲物ね」
「よ、寄んなぁ!」
「もうこんなに固く……」
「無理に縛られとったら体が固あなるのは当然やろ! くそっ、こんなほっそい糸何ぞで俺が! ほどけ! この!」
「無理ね。大人しくしなさい。そもそもあなたから私に挑んできたのだから」
「くっそ、殺すなら殺せや! 一体何する気や」
「……清童でもたまにはこういうのも面白い、か。そうね、解いてさしあげましょうか? あなたの意思なんか関係ないけど無粋なことは好まないわ。自分から「どうかこの昂ぶりを鎮めて」と懇願するように……」














「くっ………あっ………このぉ」
「ふぁん、ごめんね…………本当にごめんね…………」
「ふふ、そう、もっとしっかり動きなさい、かなこ」


暗闇の中で三人の男女が身体を重ねていた。
いや、身体を重ねるといった生易しいものではなく、一人の女がそれぞれ違った意味で幼さを残す少年少女を一方的に嬲っているといっても過言ではない。
この場所の主である初音が、新しく手に入れたペットである小太郎をまるで新しいおもちゃを買ってもらった子供のように弄繰り回しているところだった。

ここは京都府内のとある建設中のビルの中に隠された初音の巣の中。
初音が要蜘蛛と呼んでいる初音の力をじきじきに分けられた八対の眷族が、常人の目には見えぬ糸をお互い複雑に絡めあい、人々の感覚を塞いで思考を操る結界を形成しているその中に、初音は妖糸の巣を作っていた。

 最上級の絹糸にも勝る手触りの目に見えぬ糸によって、この場に近寄ろうとするものはすべて自らの思考すら操られて遠ざけられてしまう。
その力は精緻にして絶大であり、初音が許可したものと神代の時代から生きていた初音より上位の―――かつてこの国に君臨していた今はもう亡き蜘蛛神以外のものであれば、何人たりとも侵入を許さない。
人の手による人払いの護符などによって作られた半端なものではない、真の静寂と薄闇に包まれた正真正銘の「初音の世界」がその場には築かれていた。


その中でも特に糸の濃い中心部に近い場所で、初音の妖糸が幾重にも折り重なってシーツの海のようになっているところで、小太郎は下に組み敷いた奏子の中を動きながら、後ろから抉られていた。


「うあ…あう………くぁ」


延髄に直接差し込まれたかのような快楽が、小太郎の下腹部から一気に登ってくる。自慰すら知らなかった少年にとってあまりに強烈なその感覚は、快感を通り過ぎて痛みにすら感じられるほど鋭いものだった。
ぐちゃ、ぐちゃっと中身のたっぷり詰まった筒をかき混ぜるかのような音、赤く頬を染めて組み敷かれながらも命令に従って懸命に腰を動かす奏子のゆがんだ顔。
いままで組の関係で嗅ぐことはあったものの汚らわしいとしか思わなかった埃と女の肌と汗の発する淫靡な香りや、肺に空気を取り込むたびに入ってくる飛散して気化した体液の分子の味も、この異常な快楽をより倍化させるのに一役を買い、それに伴い小太郎から強制されてこのようなことを無理やりやらされているという自覚を削り取ってゆく。


(何や、この妙な感覚は………オレは何をしとるねん)


性的なことを行った事は愚か、そういったことを感じる事すら早い年齢の小太郎にとって、このずきずきと登ってくる快楽とそれに伴う脱力感は、まったく未経験の想像すら出来なかったものだ。
口づけ一つで頬を染める少年には、余りに強烈過ぎる刺激。
それでもその本能は目の前にある身体をむさぼれとまったく経験、知識の無い身体を衝動という形で突き動かしてくる。


小太郎は無意識に、自分が組み敷いている奏子の太ももに手を置いた。

しっとりと湿った滑らかな肌を感じて、小太郎は震えた。
こんなに気持ちいいものがこの世の中に存在するなんて、と思い、自分は何をやっているんだ、という内心の至極当然のつぶやきすら無視して、その小さな手の指の股にとろけ落ちて来そうなやわらかい太ももの肉の間で五本の指をそれぞればらばらに動かして、指という感覚器官でその甘美さを味わう。

太ももでこうなのだ、もっと上の部分であればどれほど柔らかいのだろう。
その好奇心にとらわれて、左手を奏子の胸のふくらみのところまで持っていき、ぎゅっと握り締める。


「ふわぁ、あ……こ、小太郎君」


想像以上にやわらかいそれを感じながらも、奏子の哀願を聞いて一瞬小太郎の良心がうずく。男児として相手の意向を無視するなんてことが許されるはずも無いだろう、その声は決して無視できるほど小さなものではない。
 だが、その心の声は身体に止めろ、と指令を伝えるほど大きくなる事はなく、かえって初音によって呼び起こされた小太郎のオスとしての意識が、その良心を押さえ込む。


(この女のどこが嫌がってるように見えんねん? そもそも、誘ってきたのはあっちやし、この表情が拒んどるように見えるかぁ? 嫌がりながらっちゅう趣味なんやろ?)


実際に、小太郎に挑みかかられる前に初音によって奏子は散々蕩かされていたため、理性の歯止めがかからなくなってしまい、明らかに幼い小太郎と身体を交わすことにも禁忌憾が薄れてきている。
それでも、この行為が初音の意向である以上、姉さまを慕う少女である彼女に直接的な否定の言葉を発する事は許されないからそれを発していないだけで、奏子の倫理観からすれば小太郎は……否、姉さま以外の人すべては性の対象としては嫌悪しかないものだ。
だが、時を重ねるごとに小太郎の動きは、その初音のものとは比べ物にならないほどお粗末なものであろうと自らの疼きを抑えてくれるのであればかまわないのではないかと甘い誘いへといざなってくる。


その奏子の良心が悲鳴を上げてきしんでいるのを鋭敏な小太郎は感じていながら、初音の仕込んだ「快楽」という名の毒に汚染されたその心は気のせいだとしてごまかしていく。
一気に腰の動きを加速させ、快楽をむさぼり、眼下の女をあえがせる事に小太郎は没頭していく。


その様子を見て壊れない程度に奏子をいじめつつ、ゆっくりと小太郎の無垢な魂が穢れていくのを感じていきながら、初音は一人いい玩具を拾ったとほくそえみ、自身が下腹に組上げた擬似男根を持って小太郎の後ろを一層強く押し入れる。
何をされるのか、という具体的なことまでは今だけ意見の浅い彼にわかっていたわけではなかろうが、それでもきゅ、っと反射的に小太郎は尻の筋肉を引き締める……だが、何も知らない彼では出来ることは精々その程度。
ずぶり、というような音が見えるような勢いで初音は腰を突き出し、小太郎の抵抗ともいえない抵抗を一切無視して一気に突き破った。


「おわっ!」
「ああぁん!!」
「ふふふ、いかがかしら? 私のものは」


その異様な感覚に背筋を電気が走ると同時に肛門から前立腺を刺激され、小太郎の未だ剥けきっていない一物が、奏子の胎でさらに膨れ上がり、小柄な二人を狂わせていく。

余りに余りな未経験の感触と嫌悪感から殴殺された犬のような声を上げてその初音の動きから逃れようと小太郎が腰を動かし、その動きによって小太郎のまだ貧弱な代物が奏子の内部で触れていた場所を微妙に変える。
それを聞いてまた含み笑いをした初音は、今度は力強さは変えずに動きをゆっくりと変え、小太郎の直腸内を探るように抉っていく。痛みを感じさせる事は無いようにゆっくりと、しかし快楽を探れるように小太郎が反応した場所は覚えておき、基本的には快感で神経が焼ききれないように、前後の感覚が強くなりすぎないようにそこを外して、しかし時折意図的にその場所を強く刺激する。
その動きは、小太郎のものと比べれば余りに熟練の後が見て取れた。

そのたびに、小太郎は反射的に腰を動かし、より強い後ろの排出する快感と前にいる女をあえがせる柔らかな感覚に酔わされ、堕ちていく。
それが幾度となく、この時間の感覚をなくした空間に続いていく事でやがて小太郎は相手の優しい姉ちゃんに対する配慮をかなぐり捨て、自らの行為に没頭していった。




その様を見て、かつては自らに対する敵愾心をむき出しにしていた子犬が牙を抜かれて自らの前に屈服したことに初音は歪んだ喜びと、ほんの僅かな倦怠感と失望の入り混じった退屈を感じた。
獲物が強ければ強いほど、それが屈服したときの充足感が、銀に爪が貫いたあのときの喜悦を、そしてそれよりはるか昔のかつての自分を思い起こさせるが、それは同時にこれほど強くても己の敵となりえない世界すべての平凡さを思い起こさせる。



彼女は、余りに長く生きすぎているのだ。



いずれ、この飼いならされた子犬は自らを狙う蜘蛛となりえるだろうか。
いや、奏子では役者が足りなかったように、この子犬では軽すぎる。蜘蛛になるには力よりも、才能よりも、努力よりも、妄執こそがふさわしい。
あるいは、憤怒、怨恨、強欲、飢餓。

そして……嫉妬。
小太郎には、それらすべての負の感情が余りに少なすぎた。


未だどれほどでも育っていける小太郎を前に、四百年を生きた蜘蛛神はその経験を持ってあっさりと見切りをつけた。
たとえどれほど強くなったとしても、それこそかつての仇敵以上の力をつけたとしても、この心では、この魂では、この性根では、この在り方では、小太郎は決して初音の真の敵とはなりえない。
義侠心と強さにあふれたこの子犬では、例え蜘蛛を与えて、いずれ自分よりも強力な力を持ったとしても、今と代わらず自分の下で喘ぎ続けるだろう。

そのことを改めて自覚する事によって、初音は自らの能力への自負にほんの少しだけ心が慰められ、そしてそんなものなど完全に塗りつぶしてしまうほど大きな失望と退屈を感じる。
だが、それが普通なのだ、いまさら期待なぞすることが間違っているとこの退屈しきった生で悟っていた初音は諦めた。


父であり、兄であり、恋人であり、仇敵でもあった銀よりも早く、ナナスという銀髪の少年に導かれた時の止まった異世界で精気を集め終わったために、自分より上位者との生死をかけた戦いという永遠とも思えた甘美な娯楽を失った初音は、そうやって人生の目的を取り戻す事を諦め、失った虚脱感をこの無垢な子犬を汚す喜びでほんの少しの時間だけ忘れることにした。



こうして、小太郎は完全に巣に囚われた。
もはやどこまで逃げていったとしても、その首輪に繋がった生糸の鎖からは決して逃れることは出来ないほど心の奥深くまで。









「あ、ランス様。おはようございます。プレゼント、本当にありがとうございました!」
「プレゼント? 何の事だ? 俺様の帝王液ならたっぷりとやったがな、がはははははは」


 朝起きていきなりシィルに礼を言われたランスはちょっと面食らった物の、即座に自分的思考で結論付ける。
勿論そんな事に対する礼を言ったわけではないシィルは、朝から上機嫌になっていた原因であるこの品が、ランスからの贈り物で無いことを知って一気に落ち込んだ。
その手には、妙に精緻な二枚のカードが。


(よく考えたら、ランス様が寝てるあいだにプレゼントなんてするわけ………)

 気を取り直して、じゃあ何でこんなものが、ということシィルの脳裏をよぎる。さっきはランスからのものだと思い込んでいたため、不審に思わなかったがこのJapan風の建物はなぜか鍵がかからないというか、鍵が無いのだ。
誰かが入ってきたのに気付けなかったのだろうか? 背筋がぞわっとする。


「あの、ランス様。実は今朝起きると私とあてなちゃんの枕元にこんなカードがあったのですが……」


その背に入ってきた冷気を抑えるようにシィルはまずは主人にお伺いを立てることにする。
手に持っているのは精緻な模様の台座にディフォルメされた自分と比較的自分に近い姿が描かれている二枚のカード。
主人からの下賜であると考えたならば問題は無いが、赤の他人からのものだと思うとその精緻さが余計に薄気味悪さをそそる。このカードの書かれた模様一つ一つが見知らぬ他人が自らへ向けて送った怨念にも似た感情を受けているように見えてしまう。


「あん? ほー、変なカード。まあいい、貰えるものは貰っておけ」
「……はい、ランス様」


だが、そんな微妙な感情に気付くはずも無い主人は、冒険者としてごくごく当たり前の、手に入れれるものは後々役に立つかもしれないからとりあえず持っておく、という返答を行った。そこには自らの女が他者に取られるかも、といった嫉妬の欠片ほども見えない。
あまりに嫉妬深いランスなんてものは想像の範疇外だけど、自らに対して執着心の一つも見せないことはまるで自分がランスの心の中でまったく価値を認められていないようにも思えてしまい、シィルはちょっと悲しかった。
それでも、シィルはその奥ゆかしさと主に対する愛情を持って、その返答に対する乙女心をため息一つに収めてポーチにカードを収めた。





「ねえねえ、カモっち、ほんと~にあれでよかったのかな?」
「よか~ねーけど、あれしか思いつかなかったぜ」


 さて、昨日の騒ぎの元凶にして、修学旅行に来ていながらなぜか命の危険に最も近い二人組、朝倉とカモはシィルがネギについて修学旅行三日目の朝の朝食に出てきているのを見て、こそこそっと今朝の悪巧みについて話し合っていた。

昨日、ランスとシィル・あてなとの間に仮契約を成立させる元凶となった二人は、テンパりにテンパった挙句、最終的な結論として、なかったことにするという駄目人間まっしぐらな事を選んだ。
すなわち、仮契約があったことを知っているのはこの場の二人だけであり、ランスたちはこちらの魔法事情についての知識がほとんど無いと思われるため、この場で証拠を隠滅してしまえばばれはしないのではないか、という可能性にかけたのだ。

……思考の方向性からして駄目である。少なくとも学園に帰ればそのうちあっさりとばれ、ランスの仮契約は誰が結ばせたのかという事でネギ以外の魔法教師によって問い詰められるに決まっているが、それでも二人は命の危険だけは避けたく、問題を先送りしたかったのだ。まるでテスト前の中学生のごとく。
そんなわけでカモのオコジョ魔法で仮契約カードをシィルたちの元に転送した後は、無視を決め込む事にした。

ネギに話すことはできない。話せるわけが無い。無断で仮契約の成立を狙った自分たちがいまさらどの面下げて助けを乞えるというのか。
かといって、彼らには他に頼る伝もなかった。
結局、嵐が通り過ぎるのを布団を被って震えるしかなかったというのも単なる地方妖精と一中学生には仕方が無いのかもしれなかった。

今のところはばれていないとしても、いずれ破綻する嘘を、それでも必死に塗り固めて一人と一匹は日常へと混ざる事にした。







(なななななな……なんじゃありゃー!!)


まわりがいろいろと時間いっぱいまで見て回っているのに一応ついていっていながらも修学旅行になんか参加するんじゃなかった、と昨日の正座の痺れが残る足を軽くマッサージしていた千雨の眼前にいきなり男が飛び込んできた。

ある意味3-Aの面々の中で最も常識人な千雨は、この修学旅行において立て続けに起こる明らかにおかしな出来事と、それに対しての能天気というよりも「頭悪いんじゃないのか、こいつら」と思ってしまうようなクラスメートの反応に辟易していた。
普段は自らのホームページに書き込むことで愚民の賞賛を浴びて解消しているストレスも修学旅行という行事中にはリアルタイムでさくさく更新といった形で発散できずにたまっていく一方で、こうなったらあのロボ子たちのように修学旅行なんてサボればよかったと思っていた。

そう、彼女には友達といえるような人間はリアルにはいない。
たった一人で表面上だけ班の行動にあわせて修学旅行を過ごすことほどさびしい事は無い。それはたとえ普段クラスの面々を内心軽蔑して見下している千雨にしても同じ事だった。
しかも、まわりはどう考えてもテンションがおかしいながらも百二十パーセント修学旅行を満喫している面々という環境は、「友達なんかいらねー」とある意味突っ張っている彼女にしても孤独を感じざるを得なかった。


が、そんな感傷なぞ吹っ飛ばすような格好で、たそがれていた千雨の前に男が通りかかった(ちなみに、男の名前はランスという)。

中世の鎧に具足、悪趣味な目の模様の付いた大剣。
まごう事なきファンタジーの格好を見て、改めて千雨が思う事は一つ。


(こんなとこでコスプレすんじゃねー!!!)


瞬時にこのあたりで今行われているイベントはないかと思い返し、ここ一週間は自分が知るほどの大規模なイベントはなかったと思いあたった千雨は、さも普段着ですといわんばかりに鎧を着込んでいる男の存在をこの世界から抹消したい思いに駆られた。


(バ、馬鹿ヤロウ!! そんなことするから私みたいな善良なネットアイドルやコスプレイヤーの肩身が狭くなんだよ!! あんたの気持ちはわかるが、TPOってのをわきまえろよ!)


確かにその男の格好は、ナンバー1ネットアイドルとして君臨する千雨の目からしてもすばらしいものだった。
重厚な鎧の質感に、まるでついさっきまで使っていましたよ、といわんばかりの刀傷や土埃。本物としか思えないその金属の重量感。これなら自慢したくなるのも分かるほど精巧な出来であり、しかもそれをまるで実戦で鍛え上げたがごとくの素晴らしい体格で完全に男も着こなしており、萌えを追及する自分とは方向性が違うが完全に一流の芸術品だと思わされた(注:千雨観点)。

が、ここは京都だ。
しかもその中心部、某ファーストフード店の伝統カラーである赤と黄色という配色すら条例で変更させるほど、日本一日本文化というものの継承に力を入れている街であり、その町並みもいかにも古都然としている。
その中において、本当に中世ヨーロッパにいてもおかしく無いほどきちっと西洋鎧を着込んだ男は一層おかしさを際立たせていた。


(せめて新撰組とかそういう和風関係に……ってそういう問題じゃねえ!)


今のところ周囲の一般人の反応は、一瞬男の顔に見とれる者はいても係わり合いになりたく無いのか基本的にそれほど注目を浴びているわけではないが、こんな事を日常的に続けられれば確実にイメージダウンになってしまう。
ただでさえ、「キモいオタクの超マイナーな趣味」や「妖しいお店のHなサービス」と見られがちなコスプレ趣味にとって見れば、些細な事でも十分に警戒しなければならないことぐらい普通の良識を持つものであれば十分理解しているはずである。
それとも、そんなことすらわかっていない頭の中までおかしな電波男なのだろうか?


その日本全国のコスプレイヤーを脅かしかねないその行為を脅威と感じる心とは裏腹に、千雨の心には嫉妬心ともいえるような感情もわきあがってきた。

自分はこんなアホなクラスメートに囲まれて、細々とネット上で自分の一面をさらけ出す事しか出来ないのに、あの男は普段から自分を見せ付けて恥じない。
フツーの学園生活を送れない苛立ちの掃け先としてのネットアイドル生活だったが、今やそれで裏の世界において天下をとってやると決意している千雨にとって、表の世界に堂々と出ているこの男の行動は、まるで自分のやっている事は実にくだらない事だと思い知らされるような気がしたのだ。

そのため千雨は、後から考えると実に表の世界では地味に堅実にいようとする普段の自分らしからぬ、大胆な行動に出てしまった。


「おいちょっとあんた、ちょっとこっち来てくれ!」
「あん?」


そのことは、自分で明らかにおかしなことをしていながら、何かおかしなことがあったのかと尋ねんばかりの疑問顔でこちらを振り向いた男の顔のイメージと一緒に、生涯の修学旅行の思い出として残る事となった。


ちなみに彼女には、茶々丸がロボだと見破ったように認識阻害系の魔法が効き難いという体質があったりする。








「はあ? 何言ってんだ、なんでも頭に魔法ってつければ説得できると思ってんじゃねーぞ。ネットアイドル舐めんなよ」
「あるものはある! まったく、魔法テレビも知らんと田舎ものだな、がはははははは」
「テレビぐらい知ってる! テレビってのはな、電気で動くんだよ。魔法なんていうファンタジーな物で動いてるんじゃないってことぐらい、いい年した大人なら言われずとも分かれよ!」
「魔法力じゃなくて雷の矢を閉じ込めておく事の方が難しい事の方が子供でもしっとるわ! 魔池とよばれるものに魔法力を閉じ込めて使うのだ……おお、そうだ。シィルが魔池の充填のバイトをしてたから、シィルに聞いて見るがいいぞ!」
「はあ? あんたシィル先生の関係者かよっ。まったく、あのクラスは本当にろくな人間がいやがらねえ!! よし、呼んでくるからちょっと待ってろ」


 ちょっと表通りから離れた場所において、自分の名前を告げた千雨は、同じコスプレイヤーという事ですっかりこのランスという男の事を気に入ったようだった。ランスという男は自分の作品世界に入り込むために、自ら独自の世界観まで構想しており、その詳細な設定に千雨はあっという間に引き込まれていった。
 意気投合した二人は仲良く話をして、共通の知人であるシィルを呼んでさらに話を弾ませる事にした……はずだ。


「シィル先生、ちょっとこっちまで来てください!」
「え? 長谷川さん? ちょっと?」


 千雨がそうやってクラスメートと親睦を深めていたシィルの手を引っ張ってランスのいる地点にまで引っ張ってくる。
 その姿は、まるで三年当初ネギがコスプレのまま千雨を引っ張り出したときのようだった。やはり彼女も厭ってはいるものの、このクラスに馴染んできてしまっているのかもしれない。
 そんなことには当然気付かず、千雨はそのおかしな男の関係者であり自らの教室付きの教育実習生であるシィル=プラインをその男の前へと引っ張ってきた。


「一体どうなされたんですか、長谷川さ……ランス様!」
「おお、来たな、シィル。この物の分からんガキにわかりやすい炎の矢でも見せてやれ」
「あ~、やっぱり関係者かよ!! やれるもんならやってみろっ」
「え? え? え? 一体どういうことなんですか~」


 いきなり引っ張り込まれてきたシィルからしてみれば、たまったものではない。
なぜか自分のクラスの今までそれほど関わった事の無い千雨に唐突に引っ張り込まれたかと思うと、なぜか自分のクラスとは本来かかわりを持たないはずのランスがそこに降り、これまたなぜか秘匿しなければならないと学園長に厳命されているはずの魔法について生徒に見せなければならない状態へとなっている。
 シィルは訳が分からなかった。ランスの無茶はいつもの事だが、何故そこに今まで見た範囲ではおとなしくてまじめなはずの千雨までが加わって、こんな奇妙な状態になっているのやら。時期が時期だったので彼女は千雨の私生活でのはっちゃけ具合を未だに知らなかった。
 だが、彼女の主は戸惑っているからといって待ってくれるほど理屈が通じる存在ではなかった。


「いいからとっととやれ。十―」
「は、はい!!」


 それは体に染み込んだ奴隷根性からか、いきなり始まったカウントにしたがって反射的にランスの命令に従おうと体内の魔法力を練っていくシィルだったが……


「九、八、ゼローー!」
「ええ!! またいきなりですか?」
「シィーーーール!!!」
「は、はい、炎の矢――!!」


 あっさり自らのカウントすら無視してシィルに迫るランスの勢いに押されて、シィルは本当は人前で見せてはいけないはずの魔法を使ってしまった。
 手のひらを掲げた虚空から、そのレベルの高さもあいまって数千度を超える炎が矢の形をとって具現化し、前方へと突き刺さって爆音を立てる。できる限り目立たないよう控えめに打ったものの、かなりの大音量とともに炎の矢が大地を穿つこととなった。






「うわっ!!」


 マジで出しやがった。
千雨の感想はその一言に尽きる。

千雨とて心のどこかで、ひょっとしたら出るんじゃないだろうか、この世界には自分の退屈な日常とは180度異なる、魔法のようなファンタジックな力が存在するんじゃないだろうか、と考える部分がまったくなかったとは言い切れない。
しかし、千雨は変わった者の多い3-Aの中では比較的まともな感性を持っている。自分と五つ近く下に離れている小学生に惚れる事は無いし、クラスメイトにロボがいて不思議に思わないほど達観もしていないし、教師としての頼りがいの欠片も無い者を一学生として好意的に見ることも無い。

その千雨の感性からすれば、質量保存の法則などのこの世の物理法則を真っ向から無視する魔法なぞという力は存在するはずが無いものだった。
そんな常識を完全に覆すような出来事が目の前で起こったのだ。驚愕しないはずが無い。


 勿論、一番千雨が自らを納得させられるであろう回答として、何らかの仕掛けを使ったトリックをまず疑ってみた。シィルが何らかの引火性の物質を発射する装置を手に持っており、自動発火する火種を仕掛けているのかとも思ったが、それはシィルが狙ったであろう大岩が完全に融解しており、さらに先ほどの矢の進路上の地面に真っ赤に熱されたすり鉢上の穴が開いてぐつぐつ煮えたぎっていることから否定された。
 物理学や科学技術等についてはせいぜい中学レベルの知識しか持っていない千雨であっても、あんな一瞬で岩石や大地を融解させる熱線を出せる装置が手元におさまる程度になるはずが無いだろうと思う。
無論、魔法というものが存在する、という事実とどっちが非常識かと問われればどっちもどっちだと思うが、そんな装置を作ってわざわざ自分を引っ掛ける必要があるのか、という事実がその疑念を確かなものへとするのを防ごうとする。

 つまり、あの男の言っていた事が本当で、本当に「異世界というものが存在する」のだろうか。
 あまりに予想外の出来事が現実だと認識した千雨は、完全に固まってしまった。


「マジかよ……」
「どーだ、参ったか。俺様が正しいという事を理解して、即座に涙ながらに謝罪しろ」
「ランス様……その……大人げないです」
「だまれ」(ぽかん)
「ひんひん」


 だが、ランスたちがいつものワンセットを追えた頃には、千雨はその驚異的な猫かぶり能力を総動員してその衝撃から立ち直っているように装うことに成功していた。


 確かに魔法というものは実在していたし、この男はその魔法というものが存在する世界から来たのであろうという事もとりあえず認めよう。
 だが、所詮異世界の話だ。この世界にどれほどの異世界人がきているのかは知らないが、それほど数が多いとは思えない。テレビやネット等で取り上げられればスーパーハッカーを自称する千雨のアンテナにまったく引っかからないはずがないからだ。それならば、できる限り関わらないようにすれば自分が平凡で平穏な表の世界の生活を送るためには特に問題は無いはずだ。
千雨が目指す裏の世界のトップとはどちらかというと人間の影、法を犯しているわけではないがなんとなく人に言うことがはばかられる後ろめたい気持ちの部分だ。まあ、いわゆるオタクな趣味の方向性であり、魔法や剣で切ったはったをして血飛沫が飛び交うようなヤクザのような世界があったとしてもそんな闇の世界に首を突っ込むつもりは無い。
 こいつらにこれ以上関わらない事が表の世界で目立たず騒がず危険を冒さないことにつながると千早は言い聞かせ、自分の安全を確保するためにこのランスとか言う男の機嫌をある程度とるために上辺だけの謝罪の言葉を重ねる。


「悪かったよ。ホントに魔法ってのがあるのは分かった。あんたの言葉を疑って悪かったよ」
「がはははは、ようやく俺様の偉大さが分かったか」
「(そーいう事は言ってねーだろーがっ!)……だけど、あんたらみたいな他の世界から来てる人間がそう多いわけじゃ無いんだろ? だったら知らないのもしょうがないじゃないんじゃないか?」
「何言ってやがる、魔法使いなんてその辺にもごろごろいるだろうが。ほら、あのネギとかいうガキや学園長とか言う爺もそうだろ」


 が、千早の将来設計と希望は一瞬で砕け散った。副担任となったシィルがそうなのはもはや仕方が無いとして出来るだけ近づかないでおこうと決心した矢先に、担任のあの子供教師までも魔法使いだといわれてしまう。
ましてや自分の学園のトップまで……いや、まあ確かに朝礼とかあるたびにあの頭を見て封神演義? とか思ってはいたのだが。


「な、何っ!!!」
「ラ、ランス様!!」


 おもわず狼狽した声を出てしまったが、同じくらいあわててランスの言ったまずいことをごまかそうとするシィルの態度が、それが真実であると千雨に告げる。
 道理で労働基準法を無視した人間があっさり担任になるわ、あの教師が担任になってからろくな事が起こらないわと妙な事ばかり続くわけだとある意味納得する千雨。
 だが、今まで自分を苦しめてきた理不尽な現象が、偶然ではなくこの男に代表される異世界人によるものだと分かって、はいそうですか、と納得できるほどネギが担任になってからの数ヶ月で溜まりに溜まったこの胸のイライラは大人しいものではなかった。


「あんたらいい加減にしろよなっ! 人のフツーの学園生活をめちゃくちゃにしやがって。あの子供教師連れてさっさと自分の世界に帰れよっ」
「? あのガキはそもそもこっちの世界の者だろうが。もっとも、そうでなくてもガキなぞ俺様と一緒に連れ歩くわけが無いがな。俺様と一緒に過ごしてよいのは美女のみ!」
「………………………は?」


 ランスはそういって馬鹿笑いするが、その台詞の前半部分に聞き捨てのならない言葉を聞いた千雨は、言葉の後半部分は聞いてすらいなかった。
 千雨脳内で半ば公式となっている魔法使い=異世界人がいきなり揺らぎ始める。まあ、この世界の魔法使い達の一部は実際には魔法界の住人というある種異世界人であるのだが、そこまでランスは知らないために出た言葉だった。


「ちょ、ちょっと待て、あのネギってガキはあんたらと同じ世界の人間じゃないのか?」
「何をいまさら言っている。俺様達がこの世界に電撃訪問したときにこっちの世界の魔法使いのあいつらが出てきたのだ。さすが俺様、その溢れ出るカリスマは異世界の魔法使いすら引き付けてしまったようだ……美女以外はいらんがな、がはははははは」


 そしてその次の言葉にそのことをあっさり肯定される千雨。
もはや魔法使いの秘匿義務など、頭の端っこにも無いランス。
…………そもそも、ランスに義務を求める事自体が間違っているとランスと旧知の仲である元の世界の知り合い、魔想志津香なぞはいいそうであるが。
 勿論まじめで優秀で才色兼備な彼の奴隷はそのこと自体はまったく忘れていなかったのだが……


「ラ、ランス様。その……学園長先生に魔法のことは……その」
「あ……………しらん!」
「そ、そんな~~」


 やはりシィルはランスにとっては薄紙で出来た歯止めにもならない首輪だった。一応その言葉によって学園長との約束を思い出したランスであったが、ランスにとって自分に都合の悪い事は全てなかった事になっていると本気で思っている以上、そんなことはいまさら何の役にも立たなかった。
 むしろその言葉で千雨の中にあった疑念が大きく膨らんでしまった。わざわざ自分の正体を隠して学園を運営しているという事は……


「つまりなんだ? あんたらみたいな異世界人だけじゃなくて、この世界にも魔法使いがいて世界を裏から操っているってことかよっ」
「まあ、あの爺たちは概ねそんな感じだろう」
「裏から操っているというのは語弊があるような気がしますが……」


シィルの力ない否定など、ヒートアップしていく千雨の耳には到底届かない。


「あのくそガキ達は労働基準法違反や器物損壊、たびたび重なるセクハラ(逆もあったけど)、果ては私の部屋に無断侵入して公衆の面前で辱めたくせに何言ってやがるっ!」
「わ、私に言われても。そもそもこっちの法律とか事情はあまり詳しくないのですが」


 今までネギが担任になってからたまったありとあらゆる不満が「世界を裏で操る悪の魔法使い」というはけ口を与えられた事によって怒涛のごとく千雨の口から飛び出てくる。
その不満の大多数は魔法使いだからというわけではなく、本来ネギが子供だからという理由に起因するものではあるのだが、一旦仮面を外したせいで歯止めが利かなくなっている千雨は抑えられない。

 やはり協調性の無い千雨はネットというはけ口が無いと誰かに相談することもできずただただストレスを溜め込んでしまうタイプのようだ。
一旦気になり始めるとネギのそんな些細な行動の一つ一つが気に入らなくなっていく。
坊主憎けりゃ袈裟まで憎しのまさにその言葉どおりに、一通りネギや学園のほんの僅かな些細な欠点まで述べ上げるとやがてまくし立てるだけでは限界が来たのか一気にきびすを返して走り出した。


「もー我慢できねえ、あのガキ問いただして教育委員会に訴えてやるっ」


 そういうと、いつもの猫っかぶりはどこに行ったのやら、千雨はダッシュでネギのとことへと一直線で向かっていった。
魔法使い「なんぞ」に自分のたった一回しか無い中学生活を邪魔されていたなんて、結構激情家でもある千雨には我慢できなかったようだった。

 後に残されたのは、ランスが生徒に魔法の事をばらしてしまう形となりどう言い訳したものかとあわあわと慌てるシィルと、そもそもあの少女は自分に何を言いたかったのだろうといまさら気付いたランスだけだった。


Comment

おおー、復活おめでとうございます
鬼畜ま! の続きに期待していたので、更新があって嬉しいです。千雨も好きですし

さて、魔法に気付いた彼女はどこへ行くのでしょうかね……?

待ってました!
悪一刀やリキュール、捕らわれのアンリエッタにも期待してます!

おお、帰ってきてくれたw
俺も悪一刀やリキュール、捕らわれのアンリエッタ、出来ればナイツ×なのはの始まりを期待してます!

所詮はイヌ。イヌならイヌらしく・・・などと、
ほんの一瞬だけ考えてしまったのは罪なんでしょうか?
原作で嫌いなキャラわけではないですが、
ほんの僅かでも可哀想と思わなかったのは
羨ましいことをされたなと思ってしまった故ではないと
信じたい。(ぉぃ

ヒャッハー更新再開だーしかも鬼畜まだー
初音さまエロい、そしてランスフリーダムすぎるw
これから京都の事件にどう関わっていくか楽しみです。

やはりランス様の唯我独尊思考はみていて楽しいw
続き期待してます
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プロフィール

基森

Author:基森
蚕鳴や円禍と名乗ってたこともあります。

主に小説・ssなどを置いているブログです。

自前の本棚を持つのは初めてなので手探りでやっている程度のものですが、わずかばかりの暇つぶしにでもなれば幸いです。


メールは「kulukku106☆yahoo.co.jp」まで、☆を@に変えた上でお願いいたします。

そろそろ、非営利にならトップへのリンクフリーとか言ってみたり。

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