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外史につくろう穢土幕府・12

いろいろと試行錯誤中。 
うまくいくのもあったりなかったりですが、まあ無駄になっても所詮個人ブログなのでどなたかにご迷惑をお掛けするわけでもなし、気楽にやってます。
何か思うところがあれば是非アドバイスください。


2月27日 ご指摘いただいた開戦理由その他を追記しました。



「ねえ、冥琳」
「突然呼び出してなんだ、雪蓮。私だって暇ではないのだが」


江東のとある城にて。
三国志の史書においてはその名を外す事の出来ない重要人物、孫策と周瑜がそこにはいた。

両者ともかなりの長身ながらも絶世の美女といっていいだろう。
タイプは違えども、どちらもその能力を見事に花開かせた事を外見にも見せつけるような容姿をしている。

容姿だけが優れている袁術や七乃や、能力にその外見の成長が未だ追いついていない鳳統とも違い、その有能さとその覇気は、出会った瞬間に彼女達の印象として忘れられないものになるであろう。

そんな印象的な主従は、袁術麾下にいざるを得ない状況を常々変えたいと考えており、今日もそのために打つべき一手についてを話すこととなる。


「なんだか嫌な予感がするの……」
「……はぁ。軍師としては本当はそんな予感なんていう怪しげなものに頼りたくはないのだけれど。なまじ当たるから判断の参考にせざるをえないわ。で、今回はどんなものなの?」
「う~ん、まだわかんない。でも、冥琳。ちょっとみんなを連れて蓮華のところにいってみてくれない? あの子の身が妙に心配なの」


彼女らは、すべてを孫呉のために捧げている。
自分を慕う配下の人生も、唯一無二ともいえる親友の心も、本当はとても大きな肉親への愛情も…………そして、自らの命さえも。

一刀が今まで出会ってきた人物とは全く違い、体のあり方から心の持ち方まで共にその姿は伝説として後世に残るのにまさに相応しいものであった。












わりとアッサリと荊州が一刀の手に入った。
余りに余りな展開だ。

一刀的には、もうちょっとドラマとかピンチからの逆転とかがあったほうが物語的に面白くなるんじゃねえの? とか思っちゃうぐらい拍子抜けだった。

正直、この展開にはヤクザ家業が成功して上り調子になってから調子こいてる一刀であっても疑問を持たざるをえなかった。


「ちょっとこれはどうなんだろうか……」
「むぅ? 妾に何か不満でもあるとでもいうのか、一刀」
「まあ、なんて礼儀知らずなんでしょ~。いけませんよ、一刀様」


そしてこいつらは、何でこんなに変わらないんだろう。
というか、太平要術の書の効力は確かにあるはずなので、袁術配下の武官・文官は大抵容姿以外の能力値が激減しているはずなのだが、特に政務が滞っている感じはしないのは何故なのだろうか。

確かに一刀の匪賊団がこの国を裏から纏め上げているので、早々たいそうなトラブルは起きないはずではあるが、それでもいくらなんでも人員が半減したに等しい足枷を付けられても今までどおり運営されるのは、明らかに異常だ。



「実は俺、超すげえんじゃね?」
「うむうむ、一刀やるのお」
「さすが美羽様の主。よ、中華一ぃ!」


疑問系で呟かれた言葉には即座に同意が入ったが、無論そんな訳はありえない。
ゆとり真っ盛りな現代日本人学生がそんな特別な「すぐに太平要術の書の力をディメリットなしで扱えるようになる」才能持ってるなんて事は、まずありえない。


実情は、こうだ。


太平要術の書による能力低下=今までやってた袁術・張勲による政務の混乱


この公式が成り立っていただけである。
一刀が袁術のわがままを術で押さえつけている為に今までのでたらめ政務が一旦止まり、その今までのわがままでの余波での政務の滞りがなくなった。
その結果が文官の能力減少と大体イコールで結ばれたためこうなったのだが、普段の袁術をさほど知らぬ一刀からしてみれば不気味な事この上なく、自分の才能と勘違いしてしまうのもまあ若干の無理はあっても仕方がない。


「えーと、美羽…ちゃん?」
「なんじゃ、一刀」


思わずもう一つの可能性『術が上手く機能してなくてみんなで一刀を担いでいる』パターンを疑ってしまっても、美羽がこうなのだから仕方がない。

親しげにこちらに向かって幼い流し目をくれてくるこの幼女は、噂ではわがままで高ビーでどうしようもない太守だったらしいが、今は一刀の傍でごろごろと喉を鳴らしながら侍っている。
だから、術の効力があること自体は間違いないのであろうが、イマイチ一刀は信じられない。


「まあいっか。とりあえず、城の人を一人ずつ呼び出してもらえるか?」
「うむ、そんなことでよいのか? 任せるがよい……七乃」
「は~い、お嬢さま、一刀様。ちょっとだけ待っててくださいね~」


が、事実としてゲリラ戦略で各都市を占領してやろうと思っていた一刀が、突如正規の軍隊を手に入れたことは確かだった。
元々兵力がないからまともに競うことができなかったのだ。兵力さえあれば、そんな面倒な手順を踏まなくても正面から撃破していけばいい。

太平要術の書の力という肥料とめぐり合わせのよさという水により、日本にいたときに受けていたゆとり教育が見事に花開いた一刀は、そのように兵力さえあれば「正面からの決戦」で三国志に登場する人物を自分が倒せると信じきっていた。
今まで出来なかったのは、あくまで強い自分を補佐するに足る兵力がなかったからだと。


ならば、もはや私兵レベルではない軍勢を手に入れた一刀が望むのは、裏づけのない自信を基にした、勝利。


黄巾党が発生しておらず、未だに一応漢王朝が健在である以上、各地方領主はおおっぴらには軍事の増強と、他国への侵略といった皇帝の権威を真っ向から無視するようなことは出来ない。
他所から恨みを買っていることを大いに自覚している宦官たちは、軍備の増強=自分たち打倒の為の兵か、と勘違いして逆恨みしてくる危険がある以上、これは大抵の英雄豪傑とはいえ破る事の出来ない縛りだ。
何せ破れば、宦官の命を受けた諸侯すべてから、正史の董卓のように全周囲を包囲されて攻撃を受ける可能性があるのだから。


当然ながら、豪胆さとは無縁の一刀も、三国志越しにこの事実を知っている以上軍隊手に入れたからといって即「侵略戦争しかけようぜベイベー」とかいえるわけはない。

だから、いかに自分の能力に自信を過剰に持っていようとも、一刀がいきなり袁紹に対して戦を挑む事はありえない。


「つまり、孫策様は今なおこちらに対する敵意を消そうとはしておりません」
「あ~、やっぱそうなってんのか。そりゃそうだな。美羽の配下にされたらまともな英雄だったら普通不満持つわな」
「なんと! 孫策の奴、今までの恩をそのように思っておったのか」
「というか、それに気付いていないのなんてお嬢様だけですよぅ」


だがしかし。

自身の安全の確保の為、城の住人を残らず術の効力下においたときにたまたま発覚した、もぐりこんでいたその勢力の諜報員も洗脳する事に出来た事によるカウンタースパイの情報で一刀が確信した事実。

たった一人。というか、たった一勢力のみ。
一刀が仕掛けても、皇帝(というか宦官)から文句を言われない勢力がある。

客将であり、江東において自分たちに対する反乱の準備を着々と積み重ねている孫呉の一派。
彼女らを倒すのであれば、要は「身内の不正を事前に正す」という言い訳が成り立ってしまう。

無論、後での届出は必須であるし、配下となっているものすら袁術は押さえられないのか、と統治能力のなさを指摘されて不都合が出るかもしれないが、一刀はそんな事知ったこっちゃではなく、ただただ大軍を率いて華麗に活躍する自分の姿に、そしてその後手に入る女武将というご褒美の夢に酔っていた。




かくして相手として挑むのは、笑っちゃうほどいい加減な三国志の知識を基にして、今後巨大な勢力になって自軍となった袁術領を脅かす可能性のある江東の虎である。









袁術軍が攻めてくると斥候から聞いて、孫呉の主、孫策こと雪蓮は即座に笑い飛ばした。


「惰弱な袁術に、そんな者に従う盲目な張勲が、この孫呉に向いて牙をむくだと? これはお笑いだ、こちらから攻めにいく手間が省けた」


と。
その姿はまさに王というに相応しいものであり、その威厳に報告に駆け込んできたものも思わずその威に打たれて膝を突いた。

袁術の突然の暴挙に思わず腰を浮かせかけた配下たちは、その常と変わらぬ主の豪胆さに落ち着きを取り戻し、同時に余りにも愚かな事をしでかした袁術に対する憎しみであふれかえりそうになる。
こちらがもぐりこませていた諜報員から一切情報を送らせずに挙兵準備を終わらせたその常とは違う準備のよさに少々驚きはあったが、それでも錬度が違う彼等孫策配下は、すぐに対抗できるだけの手立ての準備を実行する。


数日前、孫策の突然の言葉によって突如孫権の元へといっていた周瑜ら主だった武将がいないことに不安を見せるものもいたが、それでもその雪蓮の王者たる態度の前ではそんな不安も忘れて、皆淡々と戦の準備を進めた。


戦闘が始まった際にも、今まで散々こちらに向かって辛苦を味あわせてくれた袁術に対する意趣返しといわんばかりに様々な策で雪蓮は袁術軍を痛めつけ、打ち倒したし、その策の段階が終わって正面衝突する状況へと戦況が移っても、彼女は軍の先頭に立って一番に袁術軍に噛み付いた。


その自分たちの主の勇敢さに孫呉の兵は残らず奮いあがり、皆その意気が移ったがごとき勢いで、こちらもまた袁術軍を自分たちの領域から追い出さんと槍を取って突っ込んでいった。


そんな中孫策は他者を鼓舞し、自身が誰よりも危険な場所で、誰よりも勇敢に、そして誰よりも効果的に敵を葬る。
それこそが、袁術にも、張勲にも、そして一刀にも欠けていた、王者としての姿であり、三国志に記される英雄に相応しい姿であった。

先頭に立つ主の姿が続く限り、あの袁術の無能さを知っている孫策軍は誰ひとりとして自軍の勝利を疑わなかった。
だからこそ彼らは、孫呉のために戦い、孫呉の再びの独立を祈って死んでいった。










母である孫堅の遺志を最も継ぐ女であり、孫呉すべての臣下の主、孫策。
彼女はまさに英雄と呼ぶに相応しい知も、武も、美貌さえも持ち合わせた才媛だった。

そしてその美貌は、戦場においてすら損なわれる事なく、むしろ常とは逆の、剣呑な雰囲気に包まれた一種の野蛮な美を体現していたほどだった。

振るわれる細肢は、その軌跡さえも美しく、しかし強力を。
体の動きに従って様々な光の反射で絵を描く長い髪は、その体躯すべての素早さを。
その余りにも輝き美しい瞳は、残酷なまでの殺意を。



強く、賢く、美しい。
彼女はまさに、この歪んだ外史の武将すべてを代表するかのごとき、そんな存在だ。

雪蓮が剣を一つ振る。
無造作に振るったとしか思えなかったそれは、しかし正中線にまるで定規でも当てたかのようにぴったりとそって人間一人を2分割したのみならず、その後ろにいた一人の片腕を切り落とす事さえして見せた。切られる側であった袁術軍の兵士は、抵抗さえできていなかった。
また一つ、凡人が英雄の糧となる。

同僚がやられている合間を隙と見た周辺を囲う兵士たちが、慌てて槍を突き出すが、それもまた遅い。
渾身の力で突き出した槍はしかしあっさりとかわされる。それのみならず、その直後の硬直を狙われて、立て続けに二人が首を飛ばした。


「っ!」
「ぎゃあああ」
「つ、強い。強すぎる!」


倒れた死体の物音で、彼女の周りを覆っていた兵士の圧力がそのスペース分僅かに緩んだ。
だが、雪蓮はそれに満足することなく再度命の花を散らすために次の獲物に飛び掛った。

彼女にとって、雑兵を十人ほぼ同時に打ち倒す事なぞ造作もない。
百人だってなんとかなるだろう。
それだけの武を、彼女は持っている。
それは、生まれ持った才能が今までの鍛錬で見事に花開いた結果でしかない。

孫呉を率いるものとして生まれたときからそう育てられ、結果として気高く強く成長した。
だからこそ、才亡き者の努力などがその剣の前で少しばかりの役に立つ事さえない。


「所詮は雑兵か! お前たちなんてこの孫策の前に立つ資格も無いわ。退けぃ!」
「くっ、所詮は一人だ、囲め、囲めーー!!」


血を見るたびに抑えきる事が出来ないほど興奮し、それは彼女を前進させる為の力となる。
その身が持つ両刃剣 南海覇王は、まるで妖剣がごとく何人切り殺したところでその切れ味をいっこうに衰えさせない。
単なる一般人とは根本から異なるがごとき筋力、臂力、脚力から繰り出される剛剣は、他者の努力なんて丸で無意味といわんばかりに紙くずのように切り裂き、進む。
それは、雑兵ごときが止められるものではなかった。

抵抗は許さない。
逃げる間さえも与えない。

それを前にした凡人に許されるのはただ頭を垂れて死を待つのみで、間違っても抵抗などできる相手ではない。例え数人で連携して槍を突き出そうと、死を覚悟して向かおうと、必死になって隙を見つけて打ち込もうと、気付けば傷一つつけることすらかなわず切り倒される結果は何一つ変わらない。
彼女の回りを守っていた孫呉の精鋭が時の流れとともに軍勢の波に飲み込まれ、やがてたった一人で大量の敵と対峙する事となったとしても、彼女の剣のさえは一向に変わらず、彼女の回りを囲った人形へイタチの剣が届く事もまた、なかった。


まさに英雄。
まさに王者。

雑兵とは文字通りの格の異なる生物がそこにはいた。



だからこそ、彼女は雑兵相手ならば、容易く無双が可能である。
彼女にとって敵とは、殺される危険を冒すものではなく、無慈悲にその命を刈り取るものに過ぎない。

きっと彼女を殺すなんてことが出来るのは、彼女と同じく英雄と呼ばれるものによる、同じような武をぶつけた末の正面からの戦いか、あるいは戦場以外での卑怯な手段だけであろう、そう思わせるほどの戦いをいつも彼女は繰り広げてきた。


「数だけ多い雑兵でこの孫策が何とかなると思ったか。張勲を、袁術を出せ!」
「まだまだぁ~!」


だが同時に、彼女は三国無双と謳われるほどの武は持っていなかった。

また一人、孫策が南海覇王を血で染めて叫ぶ。
その言葉どおり、まるで周辺の兵士は彼女の武の前では相手になっていなかった。
どれだけ向かっても、どれだけ囲んでも、彼女に対して一太刀だって浴びせる事も出来ずことごとく屍を晒していた。
ただその周りに積み重なった死体の数だけが、その場に残る成果であり、一方的に孫策が勝利を続ける戦いの証である。
だが、その足場に積み重なった死体によって……孫策が自在に動き回るだけのスペースはもはや残っていなかった。
そして、それらの重たい障害物となった死体を一撃で薙ぎ払えるだけの余裕は、すでに彼女にはなかった。

そう、彼女は呂布ではない。
たった一人で、数万の軍を壊滅させられる異形の天才、飛将軍呂布では決してないのだ。




一人二人の雑兵なんて、彼女にとってはいないも同然。
十人いたとしても、造作もない敵でしかない。
百人いたって、彼女の命を脅かす敵とはなりえない。


「くぅぅぅぅ! 袁術、袁術はどこ!! この孫策が一騎打ちを申し込む、出てきなさい!!」
「…………」


だが。
千人ならばどうか。
万人ならばどうか。
さらにそのすべてが、ある目的の為ならば自身の死をなんとも思わないほどの死兵と化していたらならば。

その結論が、この戦場にあった。


「うん? 七乃~、何か呼んだかの?」
「いいえ? 何もいってませんけど……」


苦し紛れの必死の剣も、万の兵を集めたこの場においては戦場の熱気にすべて吸い込まれ、消えていく。
幾重にも重ねた凡人の積み重なった玉座、戦場の奥の奥の、何十も守られた中心核に対してはその声さえ届かせることも出来ない。

いかに声を振り絞ろうと、いかに周囲の雑魚を死という形で黙らせようと、圧倒的なまでの物量がそのすべてを無効化し、そんな僅かな時間の隙さえ虎視眈々と狙ってくる。
彼女が今まで踏み潰してきた雑兵の死骸に、そして今まさに奪おうとしている目の前の安い命によって、すべての抵抗が阻まれてしまう。


「そうか。しかし、こうもうるさいと何も聞こえぬのう。七乃の声も聞き取りにくいわ」
『っ! どこよ、袁術! 張勲! 孫呉の怒りを受けるのがそれほどまでに恐ろしいか!』
「だからいったじゃないですか~、わざわざお嬢様がこんな野蛮な場所に来る必要なんてないって。さあさあ、帰りましょうか」
「うむ、そうじゃな。早く帰って一刀の下へいくべきじゃな」


一人ならば殺せる。
十人でも、百人でも殺せる。

だが、数とはすなわち暴力だ。
実力的にはまったく敵わなくてもその者を殺す為に剣を一振りするだけでその一振り分の体力の減少は確実に蓄積していき、それは目をつぶってもかわせる鈍い剣をかわすときもまた同じ。
対して相手は、常に新鮮な命を供給し続ける。まるで、終わりがないかのように。


なれぬ兵士では、一度に同時に繰り出せる剣は僅かに三人。
その程度であればこの世界ではある程度の武を持つものであれば正面から吹き飛ばせる。
だがそれが、百回、二百回と続けば、一度ぐらいまぐれにカス当たりをしたりもする。疲労が体を、心を縛ってしまうのは限度には大きな差があれど、英雄でも凡人でも同じなのだから。

ならば、そんなまぐれ当たりでも数が続けばやがては致命的な部分にまで蓄積されていくのもまた同じ。




寡兵で大軍を打ち破ったり、英雄豪傑が一騎駆けで雑兵を蹴散らす。
英雄譚に謳われる将軍・軍師の花であり、そんな事が数多くおこり、そのための多数の登場人物の文武が競われる事こそが見所の三国志の舞台がここである。


だがそれは、同時にそんな事めったに起こらないからこそ特別視される。
それが当たり前ならば、そんな後世まで語り継がれる事なんてない。
才能があるものにおいても、めったに起こらないからこそ例外が光り輝くのだ。


仲間を巻き込む勢いで放たれた矢の雨を切り払い、それさえも無視して突き出される槍を弾き返した孫策だが、しかしその陰に隠れた鎖はかわせない。左足に勢いよく絡みついたそれを思いっきり蹴り足を上げる事で持ち手をこちらに引き寄せてカウンターをとったことで頭を蹴り砕く事には成功したが、乱戦のさなか鎖を解く時間は彼女には耐えられなかった。
行動を完全に殺されるほどではないが、その邪魔な武器は間違いなく彼女の行動の一部を制していた。
その隙を見て、新たな兵士が飛び掛る。
そのうちの一人の眉間に剣を突き刺しながら、雪蓮の表情には焦りが走る。引き抜いた剣と同時に迸った血の雫は、彼女の褐色の肌と輝く衣装をまだらに汚した。


例外を取り除いた後に残るのは、単純な普遍の事実のみ。
歴史上においても多くの英雄が屈し、雑兵の手によってその首を奪われた事実が示す、単純な定理。

戦いとは、数×質の競い合いである。
軍師の知略や、個人の武勇など、あくまでそれをサポートするものでしかない。
そう、たった一人で千人分の能力を持つ英雄がいたとしても、一万人の前ではかなわない。
一万人の動きをたった一人で読み取れる頭脳とて、十万人の軍勢を前にしては計りきれない。
結局最終的には、寡兵よりも大軍の方が強いのだ。

だからこそ。

不意に雪蓮の肩に向かって槍が振り落とされる。
倒した別の兵に止めを刺すために剣を振り切っていた彼女には、それと同時に自分の心臓と肝臓めがけて突き出された二本の槍を交わすのが精一杯だった。
その状態でも超絶的な反射神経で何とか体を捻り、驚異的なバランス感覚でもって一歩分だけ前に進んだ雪蓮はなんとかその振り落とされる刃の部分をかわす事に成功し、しかしその代償に後に続く金属製の柄の直撃を肩に受けることとなった。


「貰った!」
「ぐっ! ……なめるなぁ!」
「ぎゃあぁぁぁぁぁ」


悲鳴をかみ殺し、無理やり奥歯を食いしばって動かなくなった左肩を無視して右腕一本だけで振るった剣は青銅製の槍の柄を容易く切り落とし、返す刀でその持ち主の喉を切り裂いた。

だが、張勲が集め、袁術が誇り、そして一刀が操る無数の軍勢のうちの一人が、またもその穴を即座に埋めた。
そして、雪蓮の左肩の痛みはまだ治らない。


数の力。
今まさに一刀が積み上げつつあるそれは、孫策が今一番求め、しかし手に入れていないものだった。
無論、そんな事歴戦の将である孫策がわかっていないわけがなかった。
わかっていても、彼女はこうして戦いを続ける事で相手が焦れ、望みが薄いとわかっていても頭を引きずり出すことで逆転を狙うしかなかったのだ。

それでもなお、彼女がその数を個人の勇で撃破出来るというのであれば……


「効いてるぞ! あと少しだ、押し込め!!」
「くっ……」
(冥琳。孫呉を…蓮華を……お願いね)



孫呉はとっくに独立を果たしていたというものだ。









「……なんっつう化け物だ」



報告を聞いて、一刀は戦慄した。
現在勢力的には袁紹に継ぐ勢力を持つ袁術のすべて。
領土の資金力、指揮下における権力をフルに活用した挙句に宦官ににらまれない程度の最大動員した兵一万二千。

未だ各地にいる旧臣を集める事は敵わず、江東のごくごく一部の自治権しか認められていない孫策が突然の奇襲を受けて集める事の出来た兵数が二千にも満たない事を思えば、余りに圧倒的な数の差である。
孫策という人物がどれほどのものかを歴史の知識として知るが故に、いかな英雄豪傑であろうと勝つ事が敵わないであろう数を、一刀は用意した。


その心には、正直なところ噂を考えてもそれ以上に割り引くところがあった。



「袁術とか張勲がこんなもんなんだから、ちょっと甘く見てたけど、これはひどい……」
「うにゅ? 何か言ったかのう?」
「お嬢さま~、一刀様の邪魔をしてはいけませんよ?」



今まで三国志の登場人物でありながら自分の前に出てきたのが、大喬小喬、雛里、美羽、七乃。
大喬小喬は非戦闘員だから置いておいても、正直なところ雛里も美羽も七乃も、鳳統や袁術、張勲という名前が相応しいほどの能力がもっているとは一刀は実感していなかった。

雛里はろくな機会が与えられていないし、美羽や七乃はああなのだから一刀の認識としては無理もないのだが、それでも彼の心に「所詮は名前が一緒なだけで女だから本物ほどの能力はないに違いない」という侮りが入ったのは確かだ。

だからこそ一刀は、孫策に対しても「どうせ噂ほどの傑物じゃあるまい」と、ある種嘗めて掛かっていた。
まあ、それでもなお六倍もの兵力を出すあたりが彼の臆病さを証明しているともいえるが、とにかく戦う前から兵力で勝っているならば多少地力で負けていても余裕だろうと楽勝ムードを感じまくっていた。



「これはもう、英雄とかじゃなくて、化けもんだろ……」



相手の持つ二千にも満たない軍を潰す為の犠牲が、二千の戦死と五千の重傷。
これが、袁術軍が孫呉を降す為に差し向けた兵の結果であった。
平地での正面決戦での結果がこれとは、一刀が知る乏しい軍事的知識でもありえないものだということははっきりとわかる。

軍とは死傷者が3割で全滅、5割で壊滅というが、その壊滅というべきものだ。
もはや袁術軍は、軍としての体裁をなしていない。
六分の一にも満たない軍勢を倒す為に、敵軍の三倍以上自軍の半数以上の被害を出したのだ。
自軍には術の悪影響が出たとはいえ、いくらなんでもひどすぎた。

予想外すぎる結末に、思わず一刀の疑問はそれを指揮していたであろう孫策もしくは孫権へと向かった。


「おい、孫策ってのはどんな女なんだ……」
「はっ、まさに狂犬のような女です! まるで血を見ることが何よりも好きだ、といわんばかりに我が軍の兵を笑いながら屠っており、それを捕らえるまでに千人以上の兵が奴一人に倒されました!」
「…………一人で……千人、以上?」
「はっ! 正確な犠牲者数を直ちに聞いて回ります!」



先はその指揮能力に驚き、次はその個人の戦闘能力に驚いたが、前者に比べても後者の驚きはあまりに大きかった。
これはもう、戦争が上手いとか、剣が上手とかいうレベルを遥かに超えている。
一応剣道部に所属していた一刀であるが、もはやそこまでいくと想像さえ出来ない領域にいる女が、この世界では実在するというのだ。

早とちりした伝令兵が、負傷者らがいるところまで駆けて行くのを、一刀は呆然と見送った後、呟く。



「…………せっかく捕らえたはいいけど、まさかゴリラみたいな女じゃないだろうな」



いくら「ドキッ! 女ばかりの三国志」でも、そんな三国志は余りに嫌すぎた。




   13へ

Comment

暴力的なまでの物量作戦、王道ですね。
戦いを仕掛ける切欠がなんだかなー、と思いましたが
これから先のことを考えると、この世界の異質さが分かって
良かったと思える。一刀は運が良かった、と。
雛里への認識も変わったかな。
雪蓮は不運でしたwハーレムの行先に期待です。

文字サイズを変えるのは、個人的には嫌いじゃないです。
やりすぎるとうざいですが、自然に溶け込んでますし。
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プロフィール

基森

Author:基森
蚕鳴や円禍と名乗ってたこともあります。

主に小説・ssなどを置いているブログです。

自前の本棚を持つのは初めてなので手探りでやっている程度のものですが、わずかばかりの暇つぶしにでもなれば幸いです。


メールは「kulukku106☆yahoo.co.jp」まで、☆を@に変えた上でお願いいたします。

そろそろ、非営利にならトップへのリンクフリーとか言ってみたり。

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