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嫌い嫌い大嫌い?

タイトルを見て元ネタがピン、と来なければ多分最後まで読んでも意味がわかりません。










自分の息が知らず知らずのうちに荒くなっているのをその口元からの吐息を聞くことで感じたサイトは、必死にその衝動を押し殺そうと努力した。

ゆっくり、ゆっくり息を吐く。
深く、長く。
一呼吸ごとに体の中に残る熱を追い出すように、脳裏に浮かぶみだらな映像を消し去ろうとするように。
僅かに開けた唇の隙間から熱くなった吐息が漏れる音を、目の前の少女に聞かれるわけにはいかない。
まるで何かの薬の禁断症状のように細かく震える手を鋼の意思で押し殺す様を、この少女にだけは見られるわけにはいかない。


だからこそサイトは、平静を装い、生返事を返し、視線を逸らせてその己の中の邪まな願望を押し殺そうとするのに必死だった。


そしてそれは成功した。
何とか誰にも聞かれることなく、口元から吐息という形で現れようとしたその物心ついてからずっと付き合ってきた衝動を後一歩のところで押し殺すことが出来たことに、サイトは言いようのない喜びを感じた。サイトは、現代日本、平成の世で十数年以上過ごしてきたサイトは、己の胸のうちに生じた衝動を人に知られても良いものだとは決して思えなかったからだ。

だがそれは、消えたのではない。
あくまで彼の意思に応じて一時的に押し込められただけであり、今なおその衝動は彼の中では荒れ狂い、それどころか目の前の光景に応じて一層強大になりつつある。
今は何とか理性という名の檻で閉じ込めることに成功したものの、その中で荒れ狂う野獣は今もなお己を解き放て、と叫びながら檻へ負荷をかけ続けている。

いつ獣が解き放たれるかわからない。

明日かもしれない。
明後日かもしれない。
一年後や、十年後、唐突に、本当に何の前触れもなく弾けてしまう未来は十分にある。
あるいは老人となり最後の息を吐いた後に安堵と絶望の中死に行くまで押さえ込めるのかもしれない。

もはや、先の予想が付かないほど、サイトの心の中でのその衝動は荒れ狂っていた。


そしてそれを、目の前の桃色がかった金の見事な長髪をもった、眼を吊り上げて、どこもかしこも華奢な体を振り回し、その小さな整った歯を見せて此方に対して「貴族の誇り」について語り続ける少女の姿が、後押ししていた。




平賀才人。
日本人。
十七歳。
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの使い魔。
『神の左手』ガンダールヴ。

彼は日本にいたころからインターネットやパソコンを好んで使用する、いわゆるオタクだった。
というか、ある特殊な嗜好を持っていたから漫画などに傾倒して行きいわゆるオタクと呼ばれる人間であると自覚するようになったのだから、それがなければアニメにも漫画にもゲームにも興味がなかったため、フェチといったほうが正しいのかもしれない。
まあ、その嗜好についてがカケラでも出ていればその対象がどんな媒体であれ異常な興味を示していた以上、最低でも自己でも認めるほどフェチズムに満ちた存在であったことには間違いない。
故に、胸を張って言うことはできないが、サイトは自身をオタクであると認識していた。

といっても、休日になるとアニメプリントのTシャツにリュックサックを背負ってそこにポスターをさすような、いかにもな開き直ったタイプではなかった。
自己の性癖が間違いなくオタクと呼ばれる人種の中でも特殊なものであると自覚していたためか、同類とつるんで漫画研究会、などといって明るく一種のコミュニティを形成するようなこともなかった。
その結果、目立たなく、特に趣味を見せることもなくただ暗い、ということでオタクと呼ばれる、どこのクラスに一人はいるような休み時間になっても誰ともつるむことなく、窓際の席で一人ぽつんと読書を続けるような、そんな生活を十年以上続けてきた。


本来彼はその性癖を外部に対して何らかのアクセスさせるつもりは全くなかった。
彼はそれが世界中においても有数の文化的許容度と性癖に対する寛容度をもつ国日本においてすら、空想の世界でしか許されないことであることは十分理解していたし、それ以上に空想を行うだけであってもそのことをわずかばかりにでも外部に表明することが自身のみならず自分の家族にすら脅かしかねない致命的な社会的損害を与える可能性があることにも考えが及んでいた。

それゆえ、その手の品物を集める場合は同年代の少年達と比べても桁外れな用心を行っていた。
例えば、日本からこのハルケギニア世界に持ち込まれた数少ない文明の利器、彼所有のパソコンの中においても、その手の画像は一切入っていない。普段は取り外して何十にも物理的に鍵をかけた上で、プログラム上もロックを掛けた外付けのハードディスクの中にのみ、それは存在する。
そうでなければ、自身のノートパソコンをそう簡単に修理に出せるはずがない。


このように、彼は偏執的とも言えるほどの用心を重ねて、自身の嗜好が表に出ないような努力を続けていた。
その嗜好は十数年の時を経てもはや彼自身の人格と分離できないほどの成長を遂げていたし、もはやそれなしの生活など考えられないほどある意味サイトはその趣味に蝕まれていたが、普段それについてかかわりを持つ可能性を放置することは、万が一ことが露呈したときのダメージの大きさを考えれば取れるはずもなかった。

それゆえサイトは、普段は「たった」一つだけしか、それらに類するものを持ち歩いていなかった。
そのため、この世界において持ち込めた彼の趣味の品もまた、たった一つだけだった。



万全の防御対策によって今まで自身の性癖の露呈という危険を回避してきたそのことを、サイトはこの異世界に来た当初は惨く後悔したものだ。流石にハードディスクを持ち歩くことは、危険が大きすぎるため、ある場所に保管してあったからだ。
ほとんど着の身着のままでこの世界に呼ばれた彼が持ち込めたのは、たまたま修理に出していたそういったものが一切入っていないように自分自身で処置を行ったノートパソコンのみ。
他のすべての画像や動画は、この異世界ハルケギニアからは遠い遠い場所にある。

サイトにとって、誰にも見られる心配はないものの自分でももはや取りにいけないという事実は、すべての宝を深海の奥底に沈めたことに等しかった。
その性質上、どうしてもなかなか手にはいらない自身の好みに合わせた画像や動画、文章等はもはやこの世界では再現することなどできはしないのだから。




だがしかし、物心がついたころから彼の理性と共について回ってきたその性質は、漫画やアニメといった、日本における文化的娯楽の爛熟とは遠くかけ離れたこの地、今だ戦乱の火が収まらぬ異世界ハルケギニアに来たとしても早々消えることはなかった。
すぐさま触れられる場所にはないが、それがゆえにその炎は一層深く奥底に沈み、沈殿し、攪拌されてさらに深いところまで汚泥のように潜っていった。


故にこう言える。
ヒラガサイトは間違いなく、今なおオタクであると。
いや、今なお、という言い方は適切ではない。

サイトは、虚無の使い手の使い魔であるヒラガサイトは、日本での生活すべてと引き換えに、たった一つだけ力を授けられた。
それは、彼を単なるオタク、という存在から逸脱させようとしてきた。




ずくん。


現実世界から過去へと精神を透過させることで何とか自身の衝動を抑えようとしていたサイトだったが、左手に宿った力に対して思いをはせた瞬間、思わず高鳴ったサイトの心に応じて強く疼く。
そんなことはしてはいけない、という心を振り払うかのように、鋼の力を宿した左手はサイトの中の獣に強く誘惑の吐息を投げかけてくる。


『…………名誉は命よりも大切なものだわ。それを失ったら、わたしは貴族じゃなくなる。貴族じゃなくなるってことは、わたしがわたしでなくなることだわ。だから二度とわたしの前で、貴族の名誉を否定するようなこと言わないで』


目の前の少女が以前に言ったことを反芻する。
彼女は貴族である、ということがようやく現代人であるサイトにも理解できた。
彼女にとって、名誉>命、である、ということが、それが何を意味するのかサイトにも理解できてしまった。
フーケのゴーレムに押しつぶされそうになったときにルイズが見せたあの顔も、決死確定のアルビオンへの使者の命を即座に引き受けた時の笑顔も、いまなおトリステインに迫る数万もの大群を前に捨て駒として命を賭けるといい切れてしまうその素顔も。
今まさに実家に反対されても参戦したその意味を。


そう、彼女は認められたいからなのだ。

この桃色の少女は実家の両親やクラスメイトのみならず、この世界すべてに、貴族としてルイズ・フランソワーズ・ル・ラ・ヴァリエールという存在を刻み込まねば、自分に意味がない、と思い込んでいるのだ。
そのためなら、トリステインという国を守って、大勢の人を守って、そして死ねるなら、それは自分の生よりも価値があると。

今までサイトが自身の衝動と戦ってきたのと同じぐらいの期間、ゼロ、と呼ばれて生きてきて、貴族として育ったルイズは、「貴族として国のために命を捨てるのは当然だ」と思い込んでいる。



現代日本人であったサイトは、その姿に「カミカゼ」を見た。
GHQによって、戦後教育によって、徹底して悪だ、と教え込まれている「国家のためには個人の命を投げ出すべきだ」という価値観を見た。
高校生として学べる範囲の歴史においてほぼすべて、世界すべてを巻き込んだ挙句無駄な犠牲を出し続けることとなった愚行である、と十字架を背負わされている、旧日本軍と同じ精神を見てしまった。

このことによって、シエスタが、ジェシカが、アンリエッタが救われるとしても、その代わりにルイズが死ぬことは正しくない、と理屈ではなく心で感じてしまった。
貴族として今までルイズが受けてきた対価のことを考えてもなお、『ルイズの死』を支払わねばならぬ義務など重すぎる、と。



それは果たして、ルーンに宿る「主人を守るために力を発揮する」というルールがサイトの精神に影響を及ぼしたのか。
それとも、サイト自身が自らの異常な趣味を肯定するために無理やりひねり出したルイズを否定するための理屈だったのか。
はたまた、ごくごく単純に、たとえその犠牲によりどんなに他人が救われるとしても自分が惚れている少女が死んでしまう、ということを許せない男心のなせる業か。


無意識のうちに、サイトの中ではルイズの命>その他(ルイズの誇りのみならず、シエスタやジェシカの命まで)という公式が成立してしまった。
ルイズが―――あるいはルイズの代わりの「誰か」が―――戦場にいかなければ、トリステインは滅びる。

それが正しいのだ、と。
アルビオンという国に、トリステインが滅ぼされる。栄枯盛衰とはそういうものだ、と。



その考えに没頭していたサイトは、ルイズが彼女自身は誇りに準じるが、サイト自身に対しては逃げろ、と告げたことにすら気付かなかった。
ルイズがサイトを想っていたように、サイトもまたルイズを深く想っていた。
ルイズの命がこの世から無くなる等ということは、耐えられないほどに。

だからこそ、サイトは強く感じる。

ルイズは、この可憐で誇り高い少女はこんなところで死ぬべき存在ではない。
貴族であるならトリステインを守るために命をささげるべきだ、というならばまず彼女をゼロとさげすみ続けた者が行うべきであろう。
こんな小さな少女は、断じて戦場に出すべきではない。もっと、そう箱庭のような場所に入れてその成長を見つめ続けるべきなのだ。世間の冷たい風に当てるのは、もっと屈強などうでもいい連中で最大限風除けした後にすべきなのだ。


そして、サイトには、「ゼロの使い魔」であるサイトには、そのルイズを守るための力が与えられていた。






だから、サイトは。







「ヴュセンタール号に積みっぱなしでしょ、あんたの飛行機械。あれを使ってあのメイドと一緒に東の世界にっ「お前をおいていけるわけないだろ、ルイズ」っ! ……サ、サイト……一体……何を」


詰まる言葉、叫ばれる愛、鈍い打撃音。
そのこの世界に来るまで武器など持ったこともなかった左手に握られていたのは、メイジ殺しの魔剣、デルフリンガー。
その感情の高ぶりを示すかのように淡い光を放っている左手に刻まれているのは、所持者にありとあらゆる武器を完璧に使いこなす力を与えるルーン、ガンダールヴ。
呪法に秘められた想いを示すかのごとく強く握り締められた光る左の紋章が位置しているのは、柔らかな、柔らかな最愛の少女ルイズの腹部。

ルーンの補正を受けたその手によって、サイトはルイズの意識を刈り取ろうとしたのだ。


「安心しろよ。俺がルイズを守ってやる……」
「サ…イト…………」
「だから、今はとりあえず眠っていてくれ………」
「あっ!!」


貧弱な高校生だったサイトにも、ルーンは達人の技と力を授けてくれた。
それは、人形を破壊し、巨人を打倒し、人を殺し、メイジを打ち倒し、愛する人を守れる力だった。
追加の一撃で、ルイズは後に残るダメージを一切受けずにただその意識だけを刈り取られた。


その体を強く抱きしめて、サイトは呟く。
あまりの熱にかすれたその声にあるのは、渇望だ、歓喜だ、愛だ。
その声に込められていた感情は、最愛の少女を抱きしめているというにもかかわらず、興奮はあっても性愛は全くなかった。


込められているのは、そのあまりにも純真な身を汚したいなどという野蛮で穢れた肉欲ではない。
そこにあるのは、ただただ限りない愛情と―――庇護欲。


彼女を害する可能性のあるありとあらゆるもの、剣も、矢も、魔法も――それどころか風や光すらも、ルイズには一切触れさせない、という断固たる決意と共に、サイトは己の願望を持ってルイズを守ることを誓った。



「そうだ。この世界のあらゆる危険から守って見せる。もう危険は、たとえ空気さえもお前には触れさせない」
「だから……どうか少しでも俺を受け入れてくれよな、ルイズ」


そういって、サイトは、異世界地球から僅かに持ち出せた品の一つをルイズの顔にそっとかぶせた





……その漆黒のラバーマスクを。



平賀才人は、ラバーフェチであった。


『やっと、俺の夢がかなったんだ。俺の好きなゴムの衣装に身を包んだ、俺の大好きな女の子。誰にも渡さない。誰にも触れさせない。絶対、誰にも触らせるものか。』『ルイズは、俺だけのルイズなんだ・・・。』



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いやぁ、懐かしい! 
絵も不気味で、キャラ造詣も崩れてはいましたが、あの重苦しさと独特の息苦しさのあるあのゲームを愛してた人がここにもいたとは!

楽しく読ませていただきました!
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プロフィール

基森

Author:基森
蚕鳴や円禍と名乗ってたこともあります。

主に小説・ssなどを置いているブログです。

自前の本棚を持つのは初めてなので手探りでやっている程度のものですが、わずかばかりの暇つぶしにでもなれば幸いです。


メールは「kulukku106☆yahoo.co.jp」まで、☆を@に変えた上でお願いいたします。

そろそろ、非営利にならトップへのリンクフリーとか言ってみたり。

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