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外史につくろう穢土幕府・03

ハイパーダイジェストタイム。
これでようやくプロローグという名の舞台設定完了。
ある程度、性格改変に説得力を持たせられればという目論見です。













人は、磨耗する。

正義感に燃えて警察官になろうとするも、そんなもの十年もすればお役所仕事の一つとしてたらい回しをしたりする。
国をよくしようと理想を胸に抱き政治家を目指そうと、金がなければ戦えない現実を前に、やがては金を稼ぐ事自体が目的となる。
未来ある若者をまっすぐ育てる事を目的として掲げようと、次々と入れ替わる生徒達にやがてそれは日常と化し、やがては思い通りにならない苛立ちが情熱を凌駕する。

何も特別な事ではない。
ただ、どれほど最初は新鮮で、喜びがあり、理念に燃えようとも、それは年月の前に容易くすり減らされてしまう。
それを越えられるのは、最初に抱いた理想がよほどに大きかったものか、あるいは日々の中で理想をすり減らさない術を見つけたものだけだ。

凡人にとって、理想とは現実を生きる中で手放さざるを得ないものなのだ。


それは、この三国志の世界に突如飛ばされた異邦人、北郷一刀にとっても同じだった。



「今日の収穫はどうだったんだ?」
「へい、一刀様。おう、お前ら……報告しやがれ」



初めは、食べる事が目的だった。
生きていく事だけを目指してやむを得ず手を染めたそれが、いつしか歪んでいったのは一体どんな物事がきっかけだったのか。


飢え死にしかけた今まさにそのときに、匪賊の三人が持ってきた―――誰か、善良な民から奪ってきた一片の肉を口にしたときからであろうか。

日本で味のよいもの同士を掛け合わせる等の品種改良されている上に山ほどあふれていた牛肉とは違い、年老いた農耕馬の肉をこのまま無駄飯を食わせるぐらいならばと干したそれは、味覚的にはダントツに劣るものであったであろう。
もともと食用品種ではないし、栄養だってろくに与えられていない痩せた脂肪の欠片もない、調理にもほとんど技術を使われていないそれは、かつての一刀であれば一口食べてその余りの不味さに吐き出しかねないものであった。


だが、飢えに飢え、死の恐怖さえ感じていた一刀にしてみればそれは、まさに天上の美味にすら感じられるものであった。
かみ締め、唾液と混じらせるごとに舌の上にその命の味が染み渡り、喉を潜るたびに快楽が生まれてそのまま飲み込むのが惜しくなり、胃の中へと到達するや否や活力として全身に巡って生きる為の力を与えてくれる。



現代日本にいたときには、決して味わえないその極上の美味に、一刀は魅せられた。
一度それを味わってしまっては、二度目の断食は難しい。


(後一回……後、一回だけ彼らに飯を持ってきてもらおう)


どれほど理性で押さえつけようと、どれほど倫理を感じようと、一度死の淵までいって生き返った体がそれを拒むのだ。


盗むな、殺すな、奪うな。
言うは容易い。
だがそれは、盗まずとも、殺さずとも、奪わずとも生きていけるものにしか通用しない理屈だ。


後たった一度だけと誓った襲撃はいつしか二回になり、三回になり、やがては週一回の定期的なものへと、一刀の倫理観とともに変わっていった。
脅しつけ、恐怖をこちらに感じさせれば後は、太平要術で穏便に奪える……それならば、一刀がその略奪の場に出るのも、自然な流れだった。
その手腕を見て、三人は一層一刀に心酔していく事からも、これは彼らを纏め上げるにも実によい方法であった。

こうして一刀は、いつしか客人ではなく、れっきとした匪賊弾の首領として徐々に振舞い始める。



だが、当然それはいつかの破綻を約束する、破滅への道だった。





いつも通りの襲撃の毎日のある一日。
一刀は、三人衆と一緒になって自分たちの縄張りとしている街道を通った旅人を脅していた。

たった一人で馬に乗って通りがかるなぞと、彼らにとって見れば都合のいい獲物以外の何者でもなかった。


「おう、お前! 命が惜しければ、今すぐ持ってる金を全部出しやがれ!」
「なあに、ほんの気持ち程度取るだけだぜ、キヒヒ」
「い、痛い目にあいたくはないんだろう、なんだな」
「……」


もっとも一刀は、このときも直接は手どころか一声も出していない。
今まで出さずとも何とかなっていたため、ただ数を頼りに旅人を脅す場においていないよりもいたほうが彼らがやりやすい、というからただ付いてきていていただけだった。


(今日の仕事はこれで終わりだな……やれやれ、なんとか『獲物』が見つかってよかったよ)


だが、こういった彼の元々もっていた倫理からすると明らかに「悪い」ことのはずの現場を見ても、その顔に動揺はもはやない。
日々の生活の中で奪った糧で食べて、暮らしていた彼にとって、望むと望まざるとを問わず、略奪は体の一部と化していた。

だからこそ、最初は怯え、良心の呵責に苦しんでいたこういった行為も、すでに日常となってしまっている。
むしろ、慣れてしまっただけに自分はほとんど何もしなくても一生食べていけるのであれば、こんな生活も悪くないか、などと思い始めてしまっていた。


だが、今日のそれは……日常ではなかったのだ。


「ふっ……こうも容易く引っかかるとはな」
「何ぃ!」
「最近この付近を荒らしている匪賊とやらは貴様らだな……ちょうどいい。袁家へ仕えるための手土産とさせてもらおうか」


出会ったのは偶然であっても、それはいつか来る未来だった。
自分たちに教われるただの獲物であるはずの男がスラリ、と荷物から長剣を取り出したのを見て、彼らはようやく自分たちが罠にかかった事に気付いた。


ついに今までずっと狩人であった自分たちを狩ろうとする者が現れたのだ!


一刀はそれなりに剣術の経験があるが、それはあくまで人を殺すものとはもはやかけ離れてしまった日本のお座敷剣法でしかない。

だが、そんな彼ですら感じたのは、死の予感。


一刀は知らぬが、馬上の彼は決して三国無双を謳われる呂布やその剛剣で他国に知られる夏侯惇ほどの実力の持ち主ではない。
いまだどこにも召抱えられておらず主家を探してうろうろする程度の実力しか持たぬものであり、実力者があまねく女性であるこの外史においては正直十把一絡げの戦士でしかない。
それなりの武将であれば一蹴できる程度の実力、しかし今の一刀には誰よりも恐ろしい相手に見えた。

彼が十把一絡げの戦士だとすれば、一刀一派はそれにすらかなわぬ文字通りの雑魚でしかないからだ。
何の力も持たない平民を虐げる事は出来ても、それ以上になるととたんに何も出来なくなる。
物語を彩る英雄達に蹴散らされる事で彼らの武勇伝に色を添える事がかろうじて許される、そんな程度の存在の彼らにとって、例え四対一という数の有利があっても勝利なぞ望めるはずもなかった。

太平要術の書は、少なくとも相手がこちらの言う事を聞くだけの素養を持っていなければ効果を発揮しない。つまり、相対した場において対等もしくは有利な立場でお互い会話をしている状態で無ければ意味がない。
このような殺し合いの場で小ざかしい口をいくら聞いたところで、どれほど効果があるというのだ。
武器を持って相対する段階になってしまえば、もはやその妖術書はただの娯楽本と何の変わりもない。

そうである以上……会話をする前に、もはや一刀はこの場で死ぬ。



「さあ、どうした? かかってこないのであれば、こちらから行くぞ」



それに一刀以外も気付いたのか、三人衆の顔色も見る見る間に悪くなる。
一刀を守るように円陣を組んでそれぞれ武器を構えるが、その腰は完全に引けていた。

それを見て、馬上の男は残酷に笑う。
その笑みからして、彼が四人を生かして連れて行くなどと考えている事は絶対にないと、その場にいる全員が悟る。


この場において、一刀が取るべき行動はなんだったのだろうか。


己の悪行を悔いて、その刃の前に身をさらす?
出来れば、自分の配下となっていた三人については自分が太平要術の書で操っていた、という事で自らのみと引き換えに放免を、無駄かもしれないが願ってみるべきかも知れない。

あるいは、ある意味自分のために今このような場に陥らされた彼らを助ける為に敵わぬとわかっていても時間稼ぎのために抵抗して、彼らを逃がすべきなのかもしれない。
勿論、一刀がいなくても三人は追いはぎをやっていたであろうが、彼らに一刀が養ってもらっていた事実は変わらないし、彼のせいで彼らがいくつか罪を増やしたであろう事は間違いない。

だからこそ、自分の身を犠牲にしてでもそういったことをやるべきだ、というのは実に容易い。
勝つ事が出来ない以上、また一派の首魁とでも言うべき立場にいた一刀からすれば、これらのいずれかをとるべきであった、というものも多いだろう。


(き、きっとこんなの、夢だ! こんな事、現実にあるわけがない……だって、だって、昨日まで上手くいってたじゃないか)


だが、彼はそのいずれも取る事が出来なかった。

ただ、震えて何とか現状が好転しないかと神頼みをする、それしかできっこなかった。
胆力が着くような現場にも出ず、武力が付くような鍛錬もなさず、金銭を得られるような機会も避けていた一刀に、こんな場において何かができるはずもなかった。


それを見た三人衆は互いに目配せをしあい……最終的には巨漢の男が頷いた。
三人は、剣を構えていっせいに切りかかろうと体勢を整えていく。

それを見て、馬上の男は笑った。
彼にとっては、そんなものなど抵抗のうちにも入らない。
まさに、蟷螂の斧でしかなかったからだ。

だからこそ、嘲りながらこちらも待ち受ける。


「ほう、斬られる覚悟を決めたのは貴様からか?」


彼らは徒歩。
そして相手は馬に乗っている。
一気に走って逃げたとしても、逃げ切れる可能性など万に一つもなかった。

一気に一刀のベルトを掴んで二人がかりで抱えるように後ろに向かって走り出した。
たった一人だけ残して。

その余りの唐突さにあっけに取られる男。
その男が我に帰る前に、三人の中で一番の巨漢の男が彼の馬に向かって斬りかかった。


「い、行ってくれっす、兄貴!」


逃げる男らに巨漢の男が最期の声をかける。
一刀の名前は、呼ばない。
それこそが、彼を助けるものだと理解しているが故に

それは恐怖に震えたものであったが、彼はそれでも振り返らずに必死になって馬上の男を一秒でも長くと牽制し続ける。


「っ! 失礼します!」
「すまねえ……後は、頼んだ!」
「え? え? っちょ、どういうことだ!」


呆然としていた一刀は理解できていなかったが、彼ら三人の中では先の目配せの時点ですでに結論が出ていた。

逃走はほぼ不可能。
それでも逃げるのであれば……犠牲が必要だ。

四人ともやられるぐらいならば、一人だけ犠牲にして他の三人が生き残った方がましだ。
算術などとは縁のない匪賊にも分かる理屈であった。

ただし、本来であればこんな事はありえない。
彼らは匪賊。
団結も連帯感も、所詮は匪賊風情の持つそれでしかない。
自身の身が危なくなれば、アッサリと逃げ出すのが普通だ。


ただ、稀代の妖術書、太平要術の書によって操られた彼らにとって大切なのは「一刀の安全」唯一つ。
そのためであれば、自分の命なぞ物の数にも入っていまい。


「逃げるんですよ!」
「待て! じゃあ、あいつが残ったのは!」
「全員まとめてぶった切られるよりもましっす!」
「そんな……」


抱えられている時点で呆然としていた一刀も、自分たちを抱えている男の息が疲労により段々荒くなっていくのを感じて、慌てて自分の足で走り出す。
そのさなかの問答で、たった一人残った男が自らを逃す為の生贄となったことを悟り、顔を青ざめさせる。

だが、そこで足を逆に向けるだけの勇気もまた、一刀にはない。

罪悪感はある。
自らが操っているも同然の男が、自分のために死へと向かっていったというのであるならば、それは一刀が殺したも同然なのだ。
いま、太平要術の書の効力を解いたならば、おそらく誰一人一刀のために命をはろうとなぞは思うまい。
にもかかわらず、現在において彼らが必死になって生かそうとしていることは、一刀が彼らの自由意志を歪めたからだ。

それでも……今から戻って、代わりに死んでやる、なんてこと、一刀は欠片たりとも思わなかった。
他人の代わりに自分が死ぬ事を是とする精神なんて、妖術でもかけられていなければ匪賊生活では決して養われるものではないのだ。



ぎゃあああああああ!!
「「っ!」」



遠くから、それでもまだ一キロも離れていないであろう場所から、絶叫が聞こえる。
それは、ある一人の人間の命が容易く費えたという事をまさに証明するものであり、再び自らに死の恐怖が迫ってくる、という事実を補強するものでもある。

だが、それを聞いても誰一人足を止めようとするものはいない。
それをする事こそが、その費えた命の価値をゼロに返すからだ、という事を知っていてそうしたわけでは必ずしもないが、それでも逃亡は続いたのだ。

一刀は今の今まで仲間だった奴の鎮魂も、今まで自分が行ってきた悪行に対する後悔も、人を操り殺した事に対する悔恨もすべて捨てて、死の恐怖に背を向けてひたすらに走った。


「兄貴、一刀様を頼むっす」
「一刀様……どうか、生き延びてください。草葉の陰から、お祈りしておきます」


それは、追いつかれそうになって二人のうちの一人がまたも時間稼ぎのために騎馬に向かっていったときも同じであったし、最後の一人が同様の理由で脱落したときもまた同様だった。
彼らが自分のために命を費やそうとしているのをその目で見ていながらも、一刀はそのために何一つしようとしなかった。


(何で俺がこんな目に……死にたくねえ…………しんどい……喉渇いた……疲れた……休みたい……眠い……腹減った……死にたくねえ)


走っている最中考えていた事は、すべて自分のこと。
それだけで精一杯な一刀に、それ以外のことを考えられるはずもない。

最終的に逃げ延びて、三国志の登場人物の一人、袁術の収めるとある街に到達するまで、一刀は自らが使い潰した三人の事を一切顧みずに、自らの命のことだけを考えてひたすらに逃げ続けたのだ。

手元にたった一つ、太平要術の書だけを持って、この世界に来たときと同じ着のみ着のままの状態で、一人でこの異世界へとまたもや放り出されて。

自らの身の安全がある程度確保される段階になって初めて、後ろを振り向いた。


「(殺した……俺が、殺したんだ……)」


今更過ぎるその事実もまた、この世界に着てから一刀が重ねた罪の一つであろう事は、誰よりも一刀自身が知っていた。


  04へ

Comment

自分の命が他人の命より重いのは当たり前
しかしその事実は重し
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プロフィール

基森

Author:基森
蚕鳴や円禍と名乗ってたこともあります。

主に小説・ssなどを置いているブログです。

自前の本棚を持つのは初めてなので手探りでやっている程度のものですが、わずかばかりの暇つぶしにでもなれば幸いです。


メールは「kulukku106☆yahoo.co.jp」まで、☆を@に変えた上でお願いいたします。

そろそろ、非営利にならトップへのリンクフリーとか言ってみたり。

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