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外史につくろう穢土幕府・02

このお話は悪一刀(ホントは『かずと』だけど、『わるいっとう』と読んでください)の話ではなく、どんどん悪一刀になっていく過程も書いてくつもりです。
ただし、この辺の話は主題ではないので超ダイジェストしてます。





「一刀様、ここからが荊州になります」
「太守は袁術とかいうガキっす」
「ち、税率はあまりよくないんだな」
(……マジですげえな、この本)


つい先ほどまで殺意を持ってこちらに襲い掛かってきた三人組の匪賊がいまや自分に対して下にもおかぬ態度で接してくるのを見て、改めて一刀は太平要術の書の威力を実感していた。
スタンガンのバッテリーも完全にあがってしまっている今この時点において、寸鉄も帯びず、平和な日本のお座敷剣術しか知らない一刀は戦力的には完全に三人に負けている。
それゆえ、今この場において先ほどの焼き直しをされれば命はないのであるが、相手は一刀のバッテリーのことについては知らないにしても、もはや彼に逆らおうなぞとは微塵も見せず、むしろ積極的に命を下されるのを待っている。

不気味さすら感じられるその忠誠が己の才覚ゆえに寄るものではなく、この胸元に入れてある書によるものである、という事ぐらいはまだ覚えていられる一刀は、しかしその洗脳にも近い効果を進んで解こうとは思わなかった。

それしか今の彼には、生きる手段がないのだから。



太平要術の書というオカルトじみたアイテムを手に入れた興奮から冷め、自分の目の前で気絶する三人の姿や周辺の環境などをようやく冷静になってみる事が出来た一刀は、当然ながら自身がわけもわからぬ異世界に突如存在しているという事実に驚愕する事となる。
彼からしてみれば自宅で寝ていたところ、いきなり周辺環境すべてが変わっているのだ。

いまだそれについて気付いていなかったときならば太平要術の書を見て喜んでなどいられたが、それがわかってしまえば喜びの声などあげている場合ではないと瞬時に理解する。


その混乱のさなかで、徐々に覚醒しつつあった目の前の男達を、混乱しまくっていながらも内から出でる生存本能から必死になって自衛の為一人ずつ「説得」していき、彼らの言葉から現状への疑問に対するある程度の情報を聞いた一刀が出した答えは「後漢末期、すなわち三国志の始まる直前の中国にタイムスリップした」というものであった。

そんな、漫画やアニメの世界じゃあるまいしタイムスリップなど荒唐無稽であるという事はわかっていたが、現実に自分の身に降りかかってくればそんな笑ってなどいられない
一文無し、武器も財も保護者も何もかもがない状態で突如異郷に取り残されている現状において、たとえ他人を洗脳に近いことで自分の都合のいいように操っていたとしても、文句を言ってられない現状があった。



彼は現代日本から来ただけあって、それなりの倫理観を持ち、他人の意思を踏みにじるような真似は決して好んではいなかった(太平要術とて、この段階では何かに使えるかもしれない凄い本ぐらいの認識だった)が、そんな倫理観も先ほど彼らに刃物で脅された事を思い出せば、容易に吹っ飛んでいった。

今、彼らに対して自由意志を返したとすれば、先ほどの焼き直しになる事は間違いない。
そして、すでにスタンガンのバッテリーがほとんど切れかけている事を考えれば、己の末路などと知れている……よくて身ぐるみすべてを剥がされて裸でこの荒野を彷徨う嵌めになるであろうし、悪ければ当然ここで人生が終わってしまう。


(この人らだって、俺を殺そうとしてきたんだ……ちょっと悪い気はするけど、これもこんな時代で生きていく為には仕方ないんだ)


そうである以上、自分の良心を必死で騙してでも生き残る為にやれる事はすべてやらざるをえなかった。
彼の甘っちょろい正義感も、結局は死の恐怖の前ですら突っ張れるような強いものではなかったということだ。


それゆえ彼は、三人を僕として何とかしてこの異世界において生活基盤をえようと試みる。
が、突如時代も場所も変わった所において、衣・食・住を手に入れる術なぞいまだ温い学生気分の一刀にあるはずもなく、その対価とできるような物品も持っているわけがない。
そうである以上、誰かに寄生して生きていかざるをえないのであるが、問題が一つあった。



現在一刀が頼るべきなのは自らの信者となった三人衆の他にいやしないのだが……ここで思い出していただきたい。
彼らの生業はなんだったであろうか?

彼らがそれなりの勢力の長である、というのであればある程度の落とし所を探すまで、とりあえず良心は痛むながらも養ってもらう、という選択肢も取れた。
が、そもそも衣食住をぽっと出の教祖様にアッサリと捧げられるほどの質と量で彼らが持っていれば、一刀は襲われる事はなかった。
一刀を襲ったように、彼らもまた食い詰めて結果として誰かを襲ってそれを手に入れなければ生きていけない身分であったのだ。

そんな彼らの食い扶持が、突如一人増えてしまった。
そして彼ら的には、その増えた食客を働かせる事など恐れ多くて出来やしなかった。


「おら、手前ら! 死にたくなければ金目のもんをだしな!」
「通行料って奴だよ、おい」
「さっさと出すんだな」
(……どうして、こうなった!)


結果始まる略奪ストーリー。
自分たちをこんな「まともに働いても食べていけない」身分にした漢王朝に対する怒りやその他もろもろでもはや追いはぎ家業に対して罪悪感を持っていない彼らはさておき、一刀はこういう結果に大いに焦った。


後の世においては悪鬼羅刹と呼ばれるような男であっても、この時点では単なる一市民に過ぎない。

彼にしてみれば、これは明らかに「悪い事」だったし、やってはいけないことだからだ。
彼は決して善人といえるほど高潔な心をしていたわけではなかったが、同時に今までの十八年間の生活において基盤となっていたそれなりの倫理観というものを持たないほどの悪人でもない。
普通の日本人のモラルとして、自分の部下みたいな者が追いはぎをするのを黙ってみていられるはずがなかった。

現に彼は何度か三人を説得しようと試みたし、ことによってはそれ自体に良心をいためながらも、太平要術の力さえ使った。
彼の言葉にはほとんど絶対服従を誓っている三人は、もちろん素直に従う。


ああ、よかった。
追いはぎで苦しむ子供は、いないんだ……
世界は愛に包まれた。








だが、それをして山賊家業を辞めたとたんに襲ってくるのは空腹という名の凄まじい暴力。
彼らだって他の手段で満たされればこんなリスクの高い手段なんて取るはずもない。
食えるものなら犬の糞でも食べたいという段階に四人とも入ってしまっては、そんな理念などどうしようもない。
ましてや生まれたときから食料があたりに豊富に存在する時代に生まれた一刀の空腹に対する忍耐力は、三人よりも遥かに低かった。


(腹減った……食いてえ……日本に帰りてえ……なんで俺がこんな目に……)
「一刀様……しっかりなさってください」
「やっぱりこの辺はもう、ろくな獣がいねっすよ、兄貴」
「や、山にも何も生ってなかったんだな」


現実の第二次世界大戦中に、日本の各地の闇市で売られていた政府の統制下に入っていない食料、闇米を扱い、食すことは悪である、とされていた。
それは天皇を神として神格視し、その命に従って臣民は生きるべきである、と思っていた多くの日本人にとっても、共通の認識として悪い事であった。
その言に従い、「渇しても盗泉の水は飲まず」の言葉どおりに闇米を食べる事を拒否して飢え死にした人も、出たといわれている。
それこそが、たしかにあの時代における正義であり、正しい日本国民の姿であった。



……だが、万人がそんな事、できるはずもない。
多くの日本人はある程度の罪悪感を覚えながらも闇米を扱い、食べていた。
飢えへの忌避感、死への恐怖は大多数の平凡な人々に、生きる為に「悪」をなさせた。
おそらく闇米がなければ、もっと惨い形で「悪」がなされていたであろうことは、想像に難くない。


荒野のど真ん中に落とされたためにまともに働けるような場所もなく、村を見つけたとしても人相の悪い三人を連れた、いかにもよそ者の一刀はそもそも入る事が出来なかったり、すぐさま冷たい目線で追い出されたりした。
野山に入ったところで野草等の知識が全くない一刀がお荷物になっていては、四人がまともに食って生けるだけの取り分もない。


街までたどり着けば、未来から持ってきたちょっとした小物を売り払って何とか食って生けるかもしれないが、そこにたどり着く前に飢えて死ぬ。
公共交通機関などないこの時代において、村から村、街から街へと行く旅路は一日二日では決してない。
我慢できる限界など、とうに超えていた。



こうなってしまえば、一刀の取れる選択肢はそう多くはない。


一つは、太平要術の書を使って何処かの村に潜り込む。
それを試みた事もあった。
だが、自らを襲ってきた三人とは異なり、何もしていない村人達から食料をこちらに差し出させる、というのは果たして悪ではないのか?

そもそも漢王朝が暴政を振るっているこの後漢末期の時代において、ほとんど何も出来ない人間をすぐさま養えるだけの食料を持っている人間は数少ない。
特に農村部は、税の取立ての時期が重なっていた事からこちらも餓死者が出る寸前だったのだ。当然、彼が望むように現代の小物を売って当座の生活費を、なんてことができるはずもなかった。
良心の呵責を押し殺して何とかそこに入って一時的には飢えは凌げても、自らの身を削ってまでもすべてを差し出すまで盲目的にこちらを天の使いとあがめる視線に耐え切れなくなった一刀は、やがてその村を出て行き……再び飢えた。



もう一つの選択肢も、似たり寄ったりだった。
旅人を……襲う。
一刀がこの世界に来てすぐさま彼らにやられた事であった。
だが、これが生業であっただけに彼らにはこっちにはノウハウがある程度あった。
すぐさま、食料を得られるだけの確信があった配下の彼らにしてみれば、いざとなったらためらう事なく実行すべき手段でしかなかった。


「一刀様……おっしゃるとおりに略奪は控えておりましたが、もはや限界ではないかと」
「おいら達はさておき、一刀様の体が持ちませんぜ」
「ひ、一声命じていただければ、お、俺らが勝手に何とかするんだな」


何が悪かったのか。
あえて言うならば、時代が、場所が、周りの人たちが、政治が、自然環境が、すべてが悪かった。
この世界において理想と武を持つ達人とともにあったわけでも、下克上を狙う武将に拾われたわけでも、一国の主の傍仕えに回されたわけでもない―――そういった場合与えられていたであろう衣食住すべてに欠けた―――人間に高潔を保てというのには、初めから無理があったのだ。



「一刀様が手を下す必要など、ありません」
「おいらたちが勝手にお言葉を解釈して、勝手にやってくるだけっす」
「つ、つかまったとしても、一刀様は安全なんだな」



彼らの言葉が、一刀の耳を通る。
論外だった。

自らが手を下さなければいいという問題ではない。
日本人として生きてきた一刀の倫理からすれば、黙認するのであればどちらにしても略奪の実行犯も同然だ。

それによって苦しむ人がいるし、場合によってはこの世界に来たばかりの自分と同郷の日本人がいて、それによって死ぬかもしれない。

どう考えても、やってはいけないことだ。
そんな事をしたが最後、自分は犯罪者に落ちてしまう。
捕まろうが捕まらなかろうが、そんな事は絶対にやってはいけないことだ。
今まで、普通に生きてきただけなのに、どうしてこんな目にあわなくちゃいけないんだ。


手の中の太平要術の書が、一刀は恨めしかった。


こんな力がなければ、犯罪になぞ手を染める事などなかった……そもそもできなかった。
日本に帰る術も、食料を作り出す術も、人々のためになる術も一切書いておらず、ただただ人を操る方法と戦わせる方法だけしか書いていないこの力が、嫌になった。
こんな者があるから、潔く飢えて死ぬ事も出来ずに犯罪に手を染める事を選択肢として入れてしまうこととなったのだ。


(腹減った………………死にたくねえ。こんなところで……死にたくねえ!)


だが、一刀は死にたくなかった。
こんなわけのわからない異郷に一人で放り出された挙句に、両親や友人の顔を一目見ることすら出来ずに異国の土に返るなど、冗談ではない。

そして、その手に何も手段がないのであればさておき、生き残る為の方策もきちんとこの世界には用意されていたのに、諦める事は難しかった。

だったら、それを使って生き残るしかない。
例え罪に浸かることになろうとも。
日本に帰る資格を失う事になろうとも。
平凡な一市民としての生活にピリオドを打つことになろうとも。
他者を踏みにじることになろうとも。


一刀は、死にたくなかったのだ。




その手段として、自らの顔見知りとなった村の人が自分のために食料を捧げて目の前で倒れるのをもう一度見るくらいであれば……見ず知らずの他人が自分の知らないところで死ぬ方が、まだましだった。



「…………出来るだけ……人は…傷つけないように」
「「「はっ!」」」
「(くそっ……ちくしょーーー!!)」


かくして一刀は、悪への第一歩を踏み出してしまった。
震える心を持ったまま、しかし堪え切れない飢えと死への恐怖に突き動かされるように。


03へ

Comment

じわりじわりと・・・

人は食い詰めて悪党になる、か
いいねぇw
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プロフィール

基森

Author:基森
蚕鳴や円禍と名乗ってたこともあります。

主に小説・ssなどを置いているブログです。

自前の本棚を持つのは初めてなので手探りでやっている程度のものですが、わずかばかりの暇つぶしにでもなれば幸いです。


メールは「kulukku106☆yahoo.co.jp」まで、☆を@に変えた上でお願いいたします。

そろそろ、非営利にならトップへのリンクフリーとか言ってみたり。

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