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梟森9〈完〉

そして今に










しのぶが月光と初めてのときを向かえ、その技を勝家相手に存分に発揮してから数年。
世は、戦乱の時代を迎えていた。


妖怪王狂星九尾・末知女殿の発した言葉による人類と妖怪との、藤原石丸のときのように武士のみではすまなかった始めての国家規模での大戦争、後の世にて、妖怪大戦争と呼ばれることとなる、Japanすべてを巻き込んだ大戦が始まったのだ。

始めは織田家を中心とした人間勢力の方が優勢であった。

妖怪王が述べた「妖怪よ自由であれ」という宣言に呼応して人間達の下働き、という立場から逃れた妖怪たちが主力であるが故に、どうしても力に欠けたのだ。
力のある妖怪であればそもそも人間に虐げられていることはなく、故に人間を下等だと見下してはいてもそれほど恨みを持っているわけではないし、そういった妖怪ほど妖怪王とは名がついてはいても自分より少し強い程度の妖怪―――しかも外見に若い女に見える―――に従おうとはしなかった。

例えば、バッタの妖怪であり剣技と回避力に優れる源義経は自ら迷宮を作り引きこもり、力と妖力を持った化け大ダコ、平清盛はサンマ(体長3kmほどになるサカナで海の王者)との戦いに夢中、妖怪狸の一群を率いる大ダヌキ、長谷団十郎はこのどさくさにまぎれて四国に国を作り、好き放題やっている。
その他の力ある妖怪も組織だって協力してくるわけではなく、その結果として各個撃破の憂き目に会い、妖怪勢は追い詰められていた。
いかに落雷という強大な力を操る妖怪王狂星九尾・末知女殿とはいえど、すべての戦場をたった一人で支えるのは不可能だったのだ。

その中でこそ、月光もしのぶと共に存分に働き、やがて戦が終わる、という光明を見出せた。



だが…………


「月光……八方と卍が尽きた。棒ももはや数少ない」
「そうか。此方も残り僅かよ」


追い詰められた妖怪王、狂星九尾・末知女殿が取った手段。
それは同種の妖怪たちの中でさえ恐れられている禁妖怪が一人、妖怪魂縛りの封印を解くことだった。その体に触れたものを腐らせ、死してなおその身から魂を抜け出させないというネクロマンシー技能の秘術にも似たその呪縛から開放されるための手段はただの一つ、他の生者五人にその呪いを移すことのみ。その存在すら知らなかった織田家のものに、対抗する手段など早々取れることはなかった。
鼠算的に増えていく魂縛りの犠牲者を前に、同じ妖怪の持つ妖力の強大さに妖怪連合は気組みを盛り返し、Japan連合軍は一気に窮地に立たされた。

たとえ今現在現存する中でもっとも強力な妖怪の一人である梵天丸を味方につけることに成功したとはいえ、一人倒す間に数倍に増える敵の軍勢を支えるには、あまりに非力。
主君であり、戦いの支柱でもあった織田信長すら討たれてしまったことで、形勢は完全に逆転してしまったことが喧伝されつつある。

妖怪どもは盛んに気炎をあげ、妖怪打倒の意思のみで団結していた人間勢はもはや総崩れに近い。
ここから逆転するのには、いかな頓知があったとても不可能、そんな状況だ。


そんな中、忍びたる月光が行えることなど唯一つ―――暗殺しかなかった。

信長の為にすべてを捧げ、月光の為に命を費やす。
そんな忍者部隊千五百人を集め、決死隊として妖怪どもの軍勢の中に突っ込んでいった。
ただの一人、この無益な戦いの元凶である狂星九尾・末知女殿の首だけを狙って。

その結果が大打撃には至ったものの未だ健在な敵本陣と……月光としのぶ以外の全滅。
未だ変わらぬ戦場の雰囲気が、その結果が全体としてはほとんど意味の無いものであった、と言うことを証明していた。


のこるは二人。
もはやどうしようもない。戦場においてはいかに技能レベルと才能レベルが常人とはかけ離れている二人であっても、圧倒的な数の前には無力に近かった。
もはやこの場はこれまで。どうにかしてこの場を遁走して再び力と人数を蓄えて挑みかかることが得策なのは明白だった。

それゆえ、月光は退却ということをしのぶに告げようとして……自らの愛弟子の様子がおかしいことに気付いた。

 

「…………しのぶ、怪我しているな」
「まだいける……問題はない」
「…………」


横腹を抉るように敵の得物が通ったのであろう。普段から軽装で回避に重点を置いているためか、忍び装束の下には粗い目の鎖帷子しか着ていないしのぶであったが、その薄い忍び装束の裾が黒く染まっている。
決して軽い傷ではないことは、未だにその場所が乾いていないことからも分かる。

だが、問題なのはそこではない。
しのぶに刻まれた真の傷はそこではないのだ。

手足の末端ならばさておき、本来であればいかに乱戦下とはいえそのような場所に一撃を許すしのぶではない。伊賀忍軍頭領月光の愛弟子であるしのぶは他の忍びたちとは一線を画する能力を保有しているのだから。
事実、月光は手足に細かな傷は受けてはいるものの、まだ軍勢を突っ切って脱出するだけの余力がある。全滅した配下達とは文字通りレベルが違うのだ。故にこの場で敵軍を殲滅することは不可能でも、そう簡単にその首級を挙げられることなどない。それはしのぶとて同じであったはずだ。

それにもかかわらず、数だけが多い雑魚妖怪たちからこのような傷を許す、ということは。





「(そうか……ついに時が来たか)」





クノイチの平均寿命は僅か二十二年。
戦場で散るものも然ることながら……暗殺のために体に含んだ毒がその命を蝕むのだ。
そしてそれすらも、ある程度体が出来る十代になってから毒や薬を使ったものの寿命である。しのぶには悪い意味で当てはまりはすまい。

よく見れば、足もふらついている。
おそらく目も霞んでいるのであろう、こちらを見る目も時折焦点があっていない。声も掠れ、よくこちらの言葉も聞き取れていないこともある。傷だけではすまないしのぶの不調は、すべて閨中での暗殺に使われる忍者の秘薬の副作用だ。伊賀忍すべてを統率する月光にはそれがいやというほど分かった。
もはやこの場を生き延びたとしても、しのぶの命は長くは持たない。


月光はそれも覚悟していたはずであった。
だから、表面上はついにそのときが来た、としか思わなかった。
周囲の妖怪たちから忍を庇いながらもそう自分に言い聞かせる。

いや、内心は荒れ狂っている。
それでも、心を刃で押し殺す。
今まで敵の命を奪い、配下の命もまた同じく奪ってきた月光には、それを嘆く資格などない。

それに……やるべきことは決まった。



陰陽師に作らせた符を取り出す。
それは、強力な爆発を四方八方に撒き散らす月光の切り札の一つだった。
何故自分が切り開いた血道を月光が遁走するだけの場にこれが取り出されるのか、理由が分からずしのぶは問いかける。


「……月光?」
「我らは二人で一つよ」


月光に自分を置いての離脱を勧めようとした矢先に言われたその言葉に、面食らったように瞳をぱちくりさせるしのぶ。その顔は年相応に幼い。
だが、次の瞬間しのぶは敵対者に見せるような怜悧な笑みを浮かべた。

忍者としての冷徹な判断能力からすれば、ここは逃げられなくなった自分が時間を稼いでその間に月光が逃げる、ということが正しいことだということは分かっている。当たり前だ。片腕ですむところを両腕失う必要がないように、単純な損得勘定で計れること、寺子屋に通う七つの子供でもすぐに出来る計算だ。
それに自分は所詮月光の片腕。月光はまた新たな赤子を仕込めばいいだけだ。自分は以前失われた月光の左腕の代わりにここで働けばいいだけの話。ただ、それだけだ。

だが、そういった合理的な判断を月光が下さなかったことが、しのぶにはうれしい。
自分は片腕。その不調に本体まで着いてきてくれるというのであれば、それほど冥利に尽きることはないではないか。
後悔はある。自分がクノイチなどという選択をしてしまったがために月光まで巻き込んでしまうことになる。月光がこの場で尽きなければならない、ということはとてつもなく悲しく、自分ひとりの犠牲ですむのであれば生き延びてほしい気持ちも確かにある。

それでも、自分だけではなく月光までもが真に自分のことを一対であると考えてくれていることが、しのぶには心底うれしい。

喜びを伝えると同時に謝罪をしたい。
だが、それを伝える言葉ももはや渇いた喉からは出てこないし、それを許してくれるほど飛び道具の尽きた忍者を囲む妖怪たちも優しくはあるまい。
時間ももはやない。

だからしのぶは、周囲をすべて妖怪に囲まれた絶望的な状態の中で、それでも月光に何かを伝えようとその細い両腕で月光の体をしかと抱きしめた。
それを受けて、月光の一本しかない腕が札を握り締めたまましのぶの肩を強く抱く。

それだけで、しのぶは、月光は、今この場での死を受け入れてもよいと思った。

周囲を囲んでいた妖怪たちがこちらがすでに武器が尽き、死を受け入れたことを理解したのであろう。月光としのぶの腕に恐れをなして周囲を囲むだけだった雑兵から、それらを押しのけてようやくここまでたどり着いてきた大将首までが一斉になだれかかるように掛かってくる。

しかし二人はそれを見ない。
ただ、お互いの目のみを見つめて、しのぶは目つきのきつさもあってニヤ、としか言いようのない不敵な笑みを、月光はその口角を僅かに上げるだけという男くさい笑みを浮かべて、不を発動させる為の鍵となる言葉を発した。


「忍法・大発破の術!!」


そしてそれを起動させた瞬間に、それは天の慈悲か、地獄よりの怨霊か、いかなるものの悪戯か、ちょうど二人のみに当たる形で落雷が突き刺さる。
苦痛は感じない。そんな心などとうに麻痺している。

だから二人は、そんなイレギュラーにあってもお互いを抱きしめたままただ時が過ぎ行くのを待っていた。
光が収まった後に残っていたのは……大勢のあっけに取られる妖怪たちと、発動寸前の大発破の札だけだった。

轟音と共に先の雷に勝るとも劣らない強大な閃光と衝撃が当たり一面に振りまかれる。
本来妖怪は怨念が薄れなければいくら損傷を受けたとしても再び蘇る。それゆえに厄介、それゆえの劣勢。
だが、月光としのぶ、そして彼らに従っていた千を越す忍びたちの命を掛けて放たれたその爆発は、本来の目標である妖怪王にこそ届かなかったものの、その周囲の者達に多大な被害を与えた。

こうして、爆発が周囲にいたそれらの者達を飲み込んで敵軍に大打撃を与えると共に、二人の生死を知るものは誰一人いなくなった。









そして……その場から何故か離れ、時の狭間を飛び越えて衝撃と光と共に意識を一瞬失わしめた二人が始めて聞いた声は。


「なんじゃ、お前らー!!」
「しのぶ…? それに…月光!?」


世界を変える男達の声だった。







この先二人がどうなるは未だ定まらず。
以前と同じように大発破で大軍を道連れに消え去るのか、それすら出来ずに志半ばにして戦場の塵と倒れるのか、それとも主君の仇を取って毒の副作用に打ち勝ち生き延びるのか。

それはたった一人の魔剣の使い手の選択次第。




唯一つ確かなことは。
生きるも死ぬもすべての場合において、二人は常闇の森の中を音もなく飛翔する片翼同士の梟であり、死が訪れるまで―――否、死を持ってすら互いに離れることはない、ということだけだった。


<閉幕>


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プロフィール

基森

Author:基森
蚕鳴や円禍と名乗ってたこともあります。

主に小説・ssなどを置いているブログです。

自前の本棚を持つのは初めてなので手探りでやっている程度のものですが、わずかばかりの暇つぶしにでもなれば幸いです。


メールは「kulukku106☆yahoo.co.jp」まで、☆を@に変えた上でお願いいたします。

そろそろ、非営利にならトップへのリンクフリーとか言ってみたり。

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