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神も仏もあるものか・裏

一月二十五日 ご指摘いただいたところを修正しました。
        書いているときには完全に頭から抜け落ちていました。











彼にとって、世界は常に間違っていた。

彼の名は今川雷蝶……そう、『今川』雷蝶。
まず、その名前が間違っている。

れっきとした足利護氏の子でありながら、妾腹の出というただそれだけで雷蝶は足利の名を名乗る事を許されない。
美しく、強く、賢い自分に与えられたのは四公方の地位と剱冑・膝丸―――大将領の配下としての地位と、その補佐としての剱冑。

どれほど美しさを磨こうと、どれほど仕手としての強さを重ねようと、どれほど文化事業を守り立てようと、どれほど戦場で功を立てようと、そこで終わり。
ただ、母の素性が卑しい、自分が次男であった、というただそれだけで、すべての努力が繋がらない。

生まれさえなければ、自分以上に尊敬する父の後を継ぐのに相応しい人材はいないのに、誰一人それを認めようとしないことが、ただただ苛立たしい。


何より、苛立たしいのが。
自分の変わりにすべてを得たのが、四郎なぞというただのガキだということだ。


百歩譲って自分が後を継げないのは仕方がない。

血統も、仕手としての実力も、軍略も、政略も、肉体美も、心の強さも、すべて雷蝶が認めるほどの力を持っていた足利護氏の跡取りだ。
例えほんの些細な瑕疵、一点であろうとも傷がある以上その跡取りとして相応しくないという評価が出てしまうのは、認めざるを得ない。
武士の頭領として完璧を求められるというのであれば、引き下がらざるを得ない血統が己に足りない事は認めよう。



だが…………だがっ!
ならば、自分よりもあんなガキが一片の瑕疵もないほど大将領に相応しいというのか!




その心は弱く、その体は貧弱。
肉体美の欠片もなければ祖父である護氏のようなすべてを飲み込む心の強さも持っていない。雷蝶の兄である彼の父も凡庸としか言いようのなかったものであるが、彼はそれ以上だ。
血統こそ正しいのかもしれないが、先祖からその血統たるに相応しい強さを何一つ受け継がなかったあんな盆暗が、心・技・体すべてを持ったものの称号である六波羅の武士の頂点に立つ。

そんな事が、そんな理不尽が、許されていいのか!



あの子供が、今GHQとの戦いで少しでも力が必要な六波羅に何が出来る?
大将領を継いだとして、その時心も体も弱いあいつがお飾り以外のなんの役に立つ?

強く美しい自分についてもそうだが、生まれは卑しくても確かな軍略を持つ大鳥獅子吼、政戦両面において忌々しくも認めざるを得ない実績を持つ遊佐童心 、気に入らないがその財政力は確実に六波羅の力になっている足利茶々丸などの、様々な形ではあっても共通して「強さ」をもつ武士に命ずる資格を生まれ以外に持っているのか?

雷蝶は常にそう思い続けてきた。


なるほど、確かに己の母の地位は低かった。
だが、それを除いて自分があんなガキと比べて劣っているところがどこにある!
他に心・技・体・血統・実績すべてを兼ね備えた候補者と競り合って敗北したというのであればさておき、たった二人しか、自分とあいつしかいない現状において!
六波羅最強のこの雷蝶以外が、傑物足利護氏の跡取りとなるような事が許されていいのか! と。






四郎邦氏が生まれ、兄であった彼の父が死んで後継者が彼に定められたその瞬間から感じ続けていたその思いは、偉大な父であり、すべてに優れた大将領であった護氏や他の四公方によって抑え続けられてはいたが、それだけに雷蝶の心の奥に常にくすぶり続け、煮えたぎる汚泥のように熱く、黒く、沈殿し続けていた。

だが、もはや護氏はなく、GHQとの政略・戦略において四公方の地位はこれからも常に対等であるとは限らない。
戦場において必要なのは、血統ではなく実績であると誰もが認めざるを得ない時がすでに始まっているのだ。

そう、今は好機なのだ。
ただひたすらに経歴を詰み、策略を練り、軍略を練って、この大和からGHQを追い出し、その実績を持って四郎を完全なお飾りに仕立て上げて実質上の父の後を継ぐ、好機。
獅子吼がおそらく死亡―――ないし、致命的な失敗を犯し、遊佐童心が銀星号という化け物と争っている今こそ、好機。
たかが浮遊戦艦を一つ落としたぐらいで満足するわけにはいかないのだ。


だから。

雷蝶は他の公方に突っつかれるような失態なぞ、絶対にしてはいけない。
気に食わない四郎であろうと、彼を殺そうと企むような輩を見逃すわけにはいかない。
六波羅最強と認められている武名を、傷つけるわけにはいかない。





そう、銀星号という大手柄を立てる前の小事とはいえ、四公方の一人にして次期大将領の命を狙い、銀星号と組んで六波羅沈没を狙う反逆者『足利茶々丸』を取り逃がすような事など、絶対にしてはいけないのだ。


ぎしり、と余りに強くかみ締めた奥歯から軋んだ音とかすかな痛みがする。



『人同然に話す剱冑に……剱冑の鋼鉄をも切り裂く仕手。確かに侮りが過ぎたみたいね』



手を抜いていたつもりはない。
獅子はウサギを狩るにも全力を出すとも言うが、まさにその心持であった。

だが、驕りが入っていたことは否めまい。
すでに、人と剱冑の両方に一度ずつ驚かされている。
なればこそ、敵をただの雑兵とみなしたのは確かに間違いであった。
それは、素直に認めよう。



迫り来る次なる一撃を見て、改めてその対手の力量を感じた雷蝶は、そう自らの認識をその普段の尊大さとは裏腹な真摯さで訂正した。




たとえ、公方の一人としては軍・政の両面において他の三人にかなりの差をつけられていたとしても、こと戦場においては今川雷蝶は稀有の武者だった。
それゆえ、先の歯軋りはしてやられたことに対する悔しさではなく、寧ろそれを侮った己にこそ苛立ちを持った。


事実、先の一撃をかろうじてかわした後に放たれつつある一撃も凄まじいものがある。

恐れるべくに、敵は何とこの天守閣内の廊下という狭い狭い場所において合当理を噴かして一直線に突っ込んできているのだ。
重さ何百貫にもなる剱冑をして、空中で自在に飛ばしめる合当理の力が追加されたその突撃は、地上にいるしかない武者であれば受けるのも難しいほどの速度と威力を持っている事は想像に難くない。

雷蝶の父である足利護氏が得意とした閉鎖空間内での三次元機動のお株を奪うかのごとき虎徹の機動は、その剱冑にしては小柄な虎徹のもつ運動性を最大限に生かした実に見事なものであった。

虎徹とは比べ物にならぬ巨体であるとはいえ護氏であればなしえたそれは、護氏の持っていた髭切の同形機である膝丸であっても不可能ではないはずであるが、少なくとも父ほどの経験を持たぬ雷蝶には出来ぬ。
剣の腕やブレイドアーツにおいてはすでに亡き父をも凌駕する腕前を持つ雷蝶であったが、そういった神業的かつ邪道な剱冑の運用は、未だ若いという事もあって身につけてはいなかったのだ。

ならば、六波羅最強の武士である雷蝶が出来ぬ事を行う武者が、凡庸であるはずはないのだ。



そう心の中で景明と茶々丸の強さを認める雷蝶に、屋内でありながらも飛んでこちらに突っ込んでくる虎徹の一撃が今まさに迫る。
飛翔した武者と地上にいる武者の戦力差を論じるまでもなく、余りに強大な一撃に……しかし雷蝶は、真っ向からそれを受けてたった。



『だけどぉ……そんな程度でこの麿に勝てると思ったかぁ!』


振るわれる剛剣、剱冑自体が巨体であるが故の重量、それを武器に雷蝶は迫り来る恐るべき一撃をかわすことはせず、逆に向かって突っ込んでいく。
速量差が余りに大きな一撃に対して、しかし雷蝶はその剛力のみを武器にぶつけたのだ。


まさに無謀、まさに愚行。
並みの武者ならず、六波羅の厳しい訓練を受けた武者であろうと一刀両断にされる一撃《メテオストライク》に対して、無鉄砲極まりない反撃だった。

当然、運動量の計算と彼我の制御力、そして剱冑の攻撃力の差をどう甘く見積もったとしても、結果としては弾き飛ばされるかぐしゃぐしゃに切り倒されるのが妥当であろう。




だがしかし。

虎徹が戦っている相手は尋常な武者にあらず。
この戦乱の世界において、一時の次なる戦いのための平穏はあれども、真の平和が訪れる事なぞついぞなかった国、大和において。
すべてを統括する暴力として大和支配を半ば成し遂げた六波羅において。


技においても、力においても、心においても。
誰もが最強であると認める……認めざるを得ない男、今川雷蝶が相手であるのだ。



『おぉぉおおおおおぉぉおお!!』
『くっ……』
<この、馬鹿力め~~>


加速をつけ、雑兵で言うところの騎兵のチャージにあたるような勢いで上段から雷蝶を一刀両断にしようとして迫った虎徹の太刀は、同じように振りかぶられ……しかし合当理の加速を得ずに振るわれた雷蝶の一撃に、がっきりと喰い止められた。

飛んできた武者を受け止めた武者、という通常考えられない状態において天守閣の板の間は見るも無残に砕け、壊れていくが、しかし異常なほどの平衡感覚を持つのか雷蝶の体勢はそんな状態でも微塵も砕けない。

むしろ、剣と剣で支えあっている状態にもかかわらず、一方のみ推力を使って拮抗しているという不安定な状態に虎徹のほうが耐えられなくなってきた。

その均衡を崩さぬよう必死で合当理の操作を行う茶々丸であるが、何せこの窮地、何せこの急場。
維持し続けるのにも限界があった。

それを悟ったのか、仕手である景明はこの場から離れる事を選択する。



<くぅぅ……>
『一旦離脱するぞ、茶々丸!』
『はっはぁ! その程度なの、茶々丸ぅ!』



その行為―――敵前から一度引く、という事に対して弱気を見た雷蝶は、己を鼓舞する為も込みで笑う。



競技用剱冑の会場に対しても語ったように、雷蝶は己の血統や美貌、体格のみを誇る事はない。

なぜならばそれは、『生まれ持った』ものだからだ。
生まれたときにある程度の地位、能力が決まる事は、ある程度は彼は認めている。
足利護氏の子として今川公方に任命されていることをみても、己の血統のよさ、先祖代々伝わってきた仕手としての才能を否定することなどできはすまい。

だが、それだけがすべてである、という事を、歪んだ血統を持つ彼は認めることは出来なかった。
それならば、自分が四郎の下風に立つ事も当然という事になってしまうからだ。


だからこそ、彼は考えた。
血統に劣る己が頂点を得る理屈を。

歪んだ貴族性としてのそれは、結果としてすべてを許容した能力性へと結びつく。


妨害大いに結構。
勝つためであるならば自由に他者と組み、自在に裏切り、敵手を陥れるべきだ。

暴力大いに結構。
弱者は虐げられて当然、抵抗できないものに反論する権利などないのだ。

血統大いに結構。
忠義の心に囚われるという事はすなわち、そいつにはその長年の伝統を跳ね除けるだけの心の強さがなかったのだ。

財力大いに結構。
金がない競技用剱冑が全身金ぴかの剱冑に負けるのであれば、それはそいつが遅いからだ。


過程など関係ない。
すべてを利用して、勝つこと自体が美しいのだ。


だから彼は、ただ速いだけで戦いには何の役にも立たない競技用甲冑競争を愛し、そこで生まれる敗者の存在に喜ぶ。
血と金と力で競い合う権力闘争の果てに六波羅の頂点に君臨し続けた父を愛し、途中で費えた挙句にすべてを孫のガキに譲る事となった彼を憎む。
それなりの欠点を持つ他の二人とは異なりすべてにおいて優れた能力を持つ遊佐童心を尊敬し、恐れる。


そう、この世には善も悪も正義も邪悪もない。
勝った者が正義で、力こそが美しいのだ。


最も強いものが、最も美しい。
最も速いものが、最も美しい。
最も巧みなものが、最も美しい。


だから、自分は、誰よりも、美しい。


鍛え上げた肉体と技術、そして優れた剱冑を手に入れられる血統、財力によって六波羅最強の武者と呼ばれ、認められる自分こそが、世界で一番美しい。

だからこそ、そんな自分と対等に競おうとする「銀星号」などという存在を認めるわけにはいかないし、それに組して自分を引きずり落とそうとする茶々丸などに負けてたまるものかと思う。


なぜならば、たとえこの今川雷蝶を持ってしても『敗者は醜い』のだから。





だからこそ、雷蝶は笑う。
必死こいて加速を付けてまで己に負けた挙句に、相手との力比べも出来ずに引く、という選択肢を選んだ相手に対して、己の強大さを改めて自覚して。

彼にとって戦いとは、ねじ伏せるもの。
すべての力を使って、叩きのめすもの。


自らの前から逃亡して好機を窺うとの名の下にこそこそするようなものなど、まともに戦えばかなわない、という事を自ら露呈しているようなものではないか。


だが、そのことを雷蝶は卑怯とは言わない。
謀略策略大いに結構、ただ、最後まで他っていればいいのだ、というその余りにもまっすぐな武人としての心が、そんな手段を取らざるを得ないものを笑いはしても、その行為を否定はしない。

最終的に勝った者こそが、強く、美しいのだから。
そういった手段を使ってくるものをも真正面から切り刻む事こそが、自分の美の証明なのだから。



『さあ、かかってきなさい、茶々丸。その馬の骨もろとも、一刀両断にしてやるわぁ!! 麿こそが、六波羅最強の武者 今川雷蝶なりぃ!!!』



次に放つは正真正銘、己の全身全霊。
この膝丸の名に相応しい一撃を繰り出してみせよう。

茶々丸の背後にいる銀星号ごとすべてを破壊しつくし、世界で最も美しいのが己であると証明する為に六波羅最強の武者今川雷蝶は、己の剱冑に世界で最も美しい陰義の発動を用意させながら眼前の美しい、しかし自分には劣る武者に対して今度は逆に突っ込んでいく事となった。


 表へ 逆へ 対偶へ

Comment

いつも楽しみに読ませてもらってます。
少し違和感を感じたのですが、時王こと四郎氏邦は護氏の嫡孫ですよ
家族関係については出ていない情報ですし、そういう想定で書いたのなら的外れな指摘になってしまいますが、ちょこっと気になったので一応のご報告をば
すべては美しき雷蝶様のためにがんばってください(アレ
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プロフィール

基森

Author:基森
蚕鳴や円禍と名乗ってたこともあります。

主に小説・ssなどを置いているブログです。

自前の本棚を持つのは初めてなので手探りでやっている程度のものですが、わずかばかりの暇つぶしにでもなれば幸いです。


メールは「kulukku106☆yahoo.co.jp」まで、☆を@に変えた上でお願いいたします。

そろそろ、非営利にならトップへのリンクフリーとか言ってみたり。

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