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鬼畜ま!21

二十一話














 作戦X…………正式名称『くちびる争奪!! 修学旅行でネギ先生とラブラブキッス大作戦』がカモと朝倉の策略によって発動した修学旅行二日目の夜は、直接参加したほとんどの生徒の正座で幕を閉じた。

 その場において、他のものに気付かれないよう注意しながらも尋常では無い気迫で叫び声を上げる二人がいた。


「ひぃぃぃぃぃぃぃぃ」(小声)
「ど、どうするよ、カモっち」(小声)
「ど、どうするといわれても……どうすりゃ!!」(小声)


 この計画の主催者サイドであるカモと朝倉であった。

結論から言おう。
 『くちびる争奪!! 修学旅行でネギ先生とラブラブキッス大作戦』の成果はスカカード八枚・仮契約カード三枚だった。
 これはゲームの参加者が各班二名ずつの十人だった事を考えると枚数だけなら最上級の成果だ。
 仮契約自体はそれほど成立しなかったことは残念だが、何より狙っていたネギに刺激を与えるという効果は期待できると思うので、それなりに上手くいったといえるのだが……

 予想以上の釣果に朝倉とカモは叫び声を上げていた。











「で、あの子が天才その2。出席番号24番葉加瀬聡美。研究以外のことには興味なし。ついでに彼氏もなし。このあたりが狙い目の生徒かな」
「すげーぜブンヤの姉さん! よっしゃー、これで一気に仮契約のための下準備の把握がしやすくなったぜ!」
「結構不便だねえ、魔法って。こういうことでは使えないなんて」
「オレっちはオコジョ魔法しか使えねえしな!」


 カモの「ネギのために本人無許可で勝手に仮契約大作戦」は、朝倉というクラス随一の諜報能力を持つパートナーを手に入れた事で大幅な進歩が見込まれていた。

 朝倉からもたらされたクラスメートの情報は所詮朝倉が趣味+今までの経験で集めた程度の簡単なものだったが、仮契約に向いていそうとカモがある程度大雑把に当たりをつけるには十分なものだった。
 カモも自分で調べたり、少しは学園長やタカミチから3-Aの生徒についての情報を得ていたものの、それら学園による定期報告書は嗜好や人柄といった事までは書いていないごくごくあいまいなものであったため、やはりずっと同じ教室で過ごしてきた朝倉の情報とは質・量共に比べ物にならないものだった。
 この辺の知力・運動能力・戦闘能力を高いものを引き込みたいものだとカモは思うが、何せ一番簡単でネギに成立するまでばれない仮契約をおこなう方法が、特殊な魔法陣の中でネギとキスをするということなのだから、複雑だ。

 今まで朝倉に名前を上げてもらった人物は、それなりに自分の目標を持っているしっかりとした人間が多いため、ある意味若造のネギに対しては見向きもせず、恋愛感情というものを抱いている者はほとんどいない。この者たちに口付けという形で仮契約の成立を狙うのは、なかなか非効率な気がした。
 やはり、一人目にはネギの「生徒は巻き込めない」という意識を崩す呼び石としての役割が欲しいため、戦闘力よりネギに対する評価が高く、契約を行いやすそうという点を重視して選ぶべきだと方針転換する。


「なあなあ、姉さん。宮崎のどか、雪広あやか、佐々木まき絵、近衛木乃香、神楽坂明日菜、綾瀬夕映、鳴滝姉妹のなかで一番仮契約に向いてそうなんは誰だい?」
「へ? いきなりだね……う~ん、やっぱ、いいんちょかな。どう見てもネギ先生のためなら何でもしてくれそうだし、本当か嘘か知らないけど武芸百般って噂だしね」


 カモのオコジョ魔法で推し量ったクラスでもネギに対する好意の大きい者たちの中から誰を一人目の仮契約者を選ぶか、とカモが聞いたとき、朝倉は迷わずあやかを押した。
対魔法戦まで考えた戦闘能力的には明日菜に劣るであろうが、カモは明日菜の魔法無効化能力の事を告げていないためそのおつむの出来の差から明日菜よりも優先されたのだろう。
まあ、知力体力財力行動力、交渉能力に判断能力、ネギへの好意その他もろもろといったものを総合化すると間違いなく一位になるであろうあやかが選ばれたということで、カモはやっぱりか、という表情をしてターゲットを絞った計画を頭の中で練った。


「う~ん、やっぱそうか。確かに、陣引いてちょっと焚き付けて二人っきりにすりゃ勝手にキスしそうだしうってつけかもな。よっしゃ、これでいこう!」
「ちょ~~っとまった」
「へ? なんだい」


 が、カモがあやかを当面のターゲットとして仮契約のために狙おうとつぶやくと、それを聞きつけた朝倉が何かたくらんでいそうな笑顔でカモを止めた。
 諜報力等、今回の仮契約ゲット大作戦に多大な貢献をしている朝倉をかなり信用しているカモは動きを止めて耳を傾けた。


「別に仮契約ってのは人数に制限無いんっしょ?」
「ああ、オレっちが引いた陣の中で魔法使いにキスすれば何人でも成立するけどよ?」
「じゃ、こんなのはどうよ?」


 そういって、胸のうちをカモに打ち明ける朝倉。
 その計画を聞いて、最初は怪訝そうにしていたカモの顔も喜色に染まり、徐々にのめりこんでいった。
 朝倉がカモの元に持ち込んだ計画は、確かにあやかとネギを二人っきりにしてキスするようにもっていくよりはるかに効率的で、同時に何人もの仮契約者も期待でき、さらに食券まで手に入るという一石何鳥にもなる計画だった。
 一も二も無くカモはその計画に飛びついた。


「いい! いいぜ、その計画!!」
「でしょでしょ! じゃあ、もうちょっと計画練るとしよっか」
「おうよ! あ、優勝商品は仮契約のコピーカードにしようぜ! 実物はねーけど多分こんな感じになるはずだぜ」
「お~お~結構格好いいね、これ。カモっち、冴えてんじゃん! これで元手ゼロでがっぽりだよ!」


 そう、朝倉が提案したのはネギのキスを目指す班対抗の変形枕投げだった。
ちょうどいいことにおそらく進んで立候補するであろうネギ君好き好きランキングのメンバーはそこそこ各班に分散している。
唯一六班のみが四人と少々偏っているが、政治上の理由からどの道木乃香をいきなりパートナーにすることはどうかなあ、まあいっか、でもやっぱ多少避けるべき? と悩んでいたカモにしてみれば、そのほかの三人が出てきてくれればまったく問題ない。

まあ、明日菜は魔法無効化能力があるからたぶん不意打ち仮契約が効かないので、ほかの二人がいいなあとは思っているが。


カモと朝倉のつながりが露見していない以上、ばれるということは無いと思うが、明日菜はカモの狙いに感づく可能性があるから念には念を入れて出来れば避けたほうがいいか、結構意地っ張りだし、とはおもったが結構うまく行きそうだ。


 早速、朝倉を通じてゲームの内容を皆に通達することにして、実行に移す。
昨日あっさり寝てしまって物足りない連中が多数いるあのクラスのメンバーであれば、間違いなく乗ってくるはずだ。




 予想通り、面白いこと好きで且、お祭り好きの3-Aの面々には本当の目的を悟られる事無く参加の言質を取る事ができた。
 勿論ネギの承諾はとっていない。

教師である表向きでも、正義を体現しようとする魔法使いである裏向きでも承諾する訳がないからだ。仮契約を勝手に行った事でカモの立場が悪くなることはあるかもしれないが、所詮ネギだとカモはある意味思っている。
十分言いくるめられるはずだ。

決してネギを軽んじているわけではない、むしろ尊敬すらしているカモだがこの件に関しては譲るつもりは無く、誰よりネギのアニキのためになんとしてもごまかして見せる、と思って自らの行動を正当化した。




 ざっと集まった面子に詳細なルールを説明する朝倉を遠くから見ていたカモは、やる気満々の面子を見てひそかにほくそえんだ。




(二班は楓の姉さんにカンフー女か……超とか葉加瀬じゃなかったのはちょっと残念だが、まあいい、想定通りだ。勢いに乗ってひょっとしたら仮契約してくれるかもしんねえし、戦闘力ではこの二人の方が上だしな……………二人とも“激”馬鹿だけどよ)


 ぶっちゃけ今回はあくまでネギの意識改革のための呼び水、仮契約が成立さえしてもらえばだれでもいいとはいえ、戦闘力が高いに越した事は無い。
ネギの危険はすぐそばに近づいているのだ。

刹那とかいう女が実はスパイで罠にかけようとしているのか、それとも本当に味方で疑いを晴らそうとしてなのか妙に協力的であり、一応楓と真名に協力要請を取り付けたため以前よりはネギの身の安全は一応高くなったものの、それでも依然今この瞬間に戦闘が始まったとしたらネギには直接身を守る前衛がいないことに変わりは無い。


 まあ、最悪の事態に陥ったときにたとえネギが魔法使いを続けられないほどショックを受けるとしても死ぬよりかはましだ、いざというときの捨て駒や盾は多いに越した事は無い、とカモは朝倉にも告げない戦場の思考でそう酷薄に考えていた。
命の危機なんぞ感じたこともないこの平和な国日本の国民である3-A生徒たちであれば、本当の戦場の恐怖なぞろくに理解していまい。
ある程度たきつければ自覚もなく進んでネギの生きた盾となるであろうから、最低でも一人目が死ぬまでカモ一人でほぼ自由にコントロールできるだろうということだ。

 生徒を守ろうと一生懸命働いているネギの心を完全に無視したこのときのカモの姿は、どこまでも一生懸命に夢と現実に向かって進んでいくネギと異なり乾いた現実しか見ない大儀のないものであり、決して『立派な魔法使い』の使い魔の姿ではありえなかった。



しかし、そのことを自覚してもなお、カモはそのスタンスを崩すつもりはなかった。
何も知らない少女達を巻き込むことに戸惑いがないわけではない。
勝手なことを企んでいることに良心が疼かないわけでもない。

それでも、ネギが傷ついたり死んだりするぐらいだったら、全く関係のない第三者が変わりに死んだ方が良い……少なくともカモはそう考えた。
自分ひとりが恨まれるだけでそれがなされるのであれば、万々歳だ。


そう、すべては尊敬する兄貴の為、カモは一人で泥を被るつもりだったのだ。





「ルールは簡単、各班二名のメンバーが教師用宿舎で寝ているであろうネギ君の唇にこっそりキスしてこればオッケー。制限時間までにキスした順番によって勝敗が決定するよ! なお、鬼の新田に見つかったらその場でゲームオーバー。このことは決して他言無用にして、死して屍拾うものなし。なお、誰かに対する攻撃はありだけど、枕以外で攻撃するのは反則負けだよ!」


 そんなカモの考えは露知らず、朝倉はいかにも楽しそうにルールの説明を行っている。
もともとこういった司会者サイドの仕事の方が参加するよりも楽しい性格なのだ。その表情は何か特ダネを見つけた瞬間のように生き生きとしていた。

 と、同時にこの勝負によってきちんと利益を出す事も忘れていない。
 参加していない3-A生徒にリアルタイムで情報を流す事によって、食券による賭けを成立させたのだ。

 わざわざ修学旅行なんぞに重い取材用の機材をいろいろもって来た甲斐があったというものだ。
自分も楽しく、みんなも楽しく、しかも手元には利益が残る。まさに最高の仕事だ、と朝倉は心のそこから思っており、これからもこんな充実した日々を提供してくれるであろう魔法使いとつなぎがつけられた幸運と自分の実力に感謝していた。



主催者であるカモと朝倉の温度差はそのままに、イベントは粛々と進んでいく。




 選手達はというとやる気満々のあやかに刺激されてか、バカイエローこと古菲もやる気になっているようであり、この二人に加えて運動能力が一番高い楓にオッズが集中している。
勿論、なんとなく周囲も感づいている先日の告白からこちらも結構覚悟を決めているように見えるのどかにも地味に掛け金をかけているものもいるが、やはり普段から積極的に見えるまき絵や鳴滝姉妹にはオッズ的には負けているようだった。

なお、オッズが一番低いのは現在ぶっちぎりでやる気のなさそうなそぶりを見せている千雨だった。
夕映に対してもあまり見学者はやる気を感じなかったのかそれほどオッズは高くない。

とにかく、あやか、楓、古菲の三人にオッズが集中しているため、この者たち以外が一位を取ればカモと朝倉の手元には大量の食券が残る仕組みだ。

さらに、仮契約の成立に付きリベートがカモからも少し入る。
全員仮契約を行ったら、この修学旅行のお土産代が倍ぐらいにはなるのでは?
加えて魔法関係情報のコネもできるなんて、まさに一石三鳥と朝倉は自画自賛をしながらルール説明をしている最中にも内心笑いが止まらなかった。
カモの内心なぞ知るよしもない朝倉にとって見れば、仮契約というものも所詮はイベントの一つでしかなかったという事だ。





だが、勿論すんなりとすべてのことがカモの思惑通り運ぶほど世の中は甘くは無かった。




問題は偽ネギはすでに他のメンバーのキスによって片付けられ、ネギ本人にこの騒ぎがばれたが、のどかの告白に対して「友達から」という結論を出してしまってどこか和んだ空気が皆の間を流れた瞬間発生した。
まず、不意をついた夕映の足掛けによってのどかが本物のネギに向かって倒れこんだ。そのこと自体は別に問題ない。
バランスを崩し、立て直すまもなくネギにデコちゅーしながら体重を掛けてくるのどかに対して一旦は倒れないように踏ん張ったネギではあるが、勿論体格的に貧弱なネギでは自分より大きなのどかがとっさに倒れこんでくることに対して抱きとめる事なぞできずに、そのまま地面に向かって倒れこんだのだ。
その瞬間かなりの勢いだったので両者けっこう痛そうではあるが、とにかく唇と唇がぶつかった。

これによって、きちんとした仮契約が成立し、なおかつ『くちびる争奪!! 修学旅行でネギ先生とラブラブキッス大作戦』優勝者がオッズが低かったのどかになったのも想定外とはいえカモと朝倉にとっては嬉しい誤算だった。
ここまではすごく順調というか、しけているとはいえ本来の目的は達成できた。



そして、その直後に気絶から醒めた鬼の新田に怒鳴られ、全員ロビーで正座させられていたが、のどかやあやかなどは幸せそうだったのでこれもまたまあいいだろう。
ネギは完全にとばっちりだが、まあもともとネギの使った札によってトラブルが大きくなっている上に、日本の学校の教師の癖にひらがなさえ完璧には書けないということもあいまって弁解できる立場では無いといえばそうだろう。
これらのこと自体は別に何の問題もなく、むしろ良かったといえるのだが……………この後が大問題だった。



「よっしゃ、どうやらニセ先生とのキスでもカードは出るみたいだね!」
「ああ、大掛かりだった割りにはしけた成果だが、カードがひーふーみー……っ!!」
「何やってんの、カモっち、ずらかるよ」
「じゅ、十一枚ある!!」
「はあ?」


 朝倉が疑問の声を上げたのも無理は無い。
偽先生とのキスで五枚、そしてのどかがネギに倒れこんだときにおでこにちゅーで一枚。そして、最後の唇へのキスによって正式な仮契約成立で一枚でカードの合計数は計七枚のはずである。
後の四枚はどこから出てきたのやら。
疑問に思って朝倉がカモを問いただす前に、その時間のロスによって逃げ損ねた二人の背後になにやら影がさした。


「ほほう、やっぱり主犯はお前か、朝倉」
「に、新田先生」


生徒達の言動から自ら気付いたのか、主犯格の朝倉の目の前にいつの間にか鬼の新田が立っていた。彼は教育と生活指導に命をかける熱血先生なのだ、この騒ぎに巻き込まれていることもあって修「学」旅行を軽んじる態度の朝倉に対してのその怒りは決して軽くない。
カモは一般人の新田の前にしゃべるわけにも不審な動作をするわけにもいかず、こっそりその枚数のおかしなカードを隠して知らん振りするしかなかった。


「お前も正座だーー!!」
「ご、ごめんなさ~い」
(すまねえ、ブンヤの姉さん。だが、オレっちにはどうしようも)
「む、お前はネギ先生のペットの………飼い主の不始末はペットの不始末。お前も正座だ!」
(む、むちゃいうねぃ。普通逆だろ。オレっちまでは、正座とかそもそも足の長さがたんねえよ………ぎゃー、首根っこを捕まえんなー!!)






「あいたたた……う~、足が。そ…それで一体なんで十一枚もあんのよ、カモっち」
「オレっちにも何がなんだか……」


しばらく正座をさせられた上で十分だけトイレに行くと言って開放された朝倉が、床に直に正座させられた事で発生した強烈な足の痺れと戦いながらこっそりカモと話していた。
勿論尋ねる事は決まっている。これのせいで逃げ損ねたがどっちにしても枚数がラッキーによって増えたらしいあのカードの事だ。

その原因は勿論カモにだって分かっていない。とりあえず、できてしまったカードを見れば分かるか、と思って一枚一枚見ていくと………………明らかに『くちびる争奪!! 修学旅行でネギ先生とラブラブキッス大作戦』の参加者で無いメンバーのカードが入っていた。


ここまでくれば当然予想できると思うが、もちろん
『あてなにごう』『あてな2号』
『しぃる ぷらいん』『シィル=プライン』
というそれぞれ二枚のスカカードと仮契約カードだった。



「こ、これは!」
「え? ちょ、ちょっと」


 二人の顔、特にカモの顔が見る間に青ざめる。
二人が決して手を出すまいと思っていた人物の関係者が何故か自分たちのせいで仮契約をしているようなのだ。十中八九契約相手は考えるまでも無い。


「なんで……どうして?」
「………はっ! まさか!」


カモが書いた仮契約用の魔法陣の効力。それは、前述のように『これの書かれている範囲内で魔法使いに口付けを交わした相手を仮契約させる』というものだ。
そのことにカモが遅まきながら気付いた。

ここでカモはネギという魔法使いを対象としてこの魔法陣を起動させた。
本来であればこの魔法陣の効力を受けるのはネギという魔法使いとその仮契約の相手のみであるはずである。
だが、仮契約というシステムは、本契約と比較するとお遊び程度でチェックが甘く、複製カードはオリジナルカードと能力的には同じで、複製カードでも契約執行は可能といった不完全であいまいなものである。
また、今回の仮契約成立用魔法陣は、大規模な魔法陣をいくつも書いてそれで囲んだ空間によって一個の巨大な魔方陣を形成し、敷地内のどこでイベントが発生しようと成立する仮契約用の場を作ろうとしたものなので術式の誤差が生じてしまった可能性も否定できない。
西洋魔法には存在しない魔法である形代の符によって、あまり精度のよく無い仮契約用魔法陣的にはネギという人格が六人に分裂して見えたこともこれに拍車をかける。

つまり、システム自体があいまいな仮契約用魔法陣は、ネギの分裂というバグによって誤作動し、一時的にこの魔法陣内にいた魔法を使える者全てを対象者と誤認してしまったに違いない。
そして、魔法を使えるもの同士の契約であれば、お互いの意識と魔法陣の書き方によって主従関係が決定してしまうという仮契約の性質も災いした。


ランスパーティーの内訳は、

ランス…………一応戦士だが、異常にレベルが高いから魔法力も皆無ではない。唯我独尊。
シィル…………魔法使い。自他とも認めるランス様の奴隷
あてな…………弓兵。魔法は使えない。ランスの所有物。
カオス…………魔剣。身体もろくに動かせない。でも、それなりにいろいろできる。

となっている。

この魔力と人間同士の関係からして、おそらくこの旅館全てを収める大きさの魔法陣内にいたランスたちがキスをしたことによって、ネギという男の魔法使いを対象としていた仮契約システムが魔力保有者であるランスという男のことも対象者であると誤認して仮契約を成立させてしまったということだろう。
そして、何らかの肉体的接触があった彼らが、それぞれの関係から普段から上位にいるランスが無意識のうちにシィルとあてなを従者としてしまったと見て間違いないだろう。



これはまずい。
とてつもなくまずい。

二人してあっちは可能な限り放置の方針で、と決めていたにもかかわらずこちらのミスで、行った者の人生が変わることもありえる仮契約を勝手に成立させてしまったのだから、今後の選択肢を一つ間違えば即座に死が待っている。
もっとも、未だ意識があるときに直接にランスとは会っていない朝倉はまあ謝れば何とかなるかな、と軽く話しかけるが、隣のカモの毛皮越しにも分かる顔色の青さにちょっと引いてしまう。


「まー、なるようになるって、カモっち」
「そんなわけねえじゃねえか! どどどどうしよう!!」
「……………そ、そんなにまずいの?」
「檻の無いライオンの前に生肉投げておいて取り返して来いってぐらいまずいっすよ!!」
「マジ?」


その言葉に、さきほどカモから散々ランスの話を脅し混じりに聞いていた朝倉の顔色がようやく事態の深刻さを受けて青く染まりだす。


とりあえず、トイレの前で突っ立ったまま顔を真っ青にしている二人がなかなか帰ってこない事に気付いた鬼の新田によって元の位置に連れ戻されたが、ロビーに戻った二人はもはや足の痛みなぞ忘れ去って人には聞こえぬよう叫び声を上げながら必死に今後の対応策を練っていた。









「ここがゲーセンやで」
「ここが『げーせん』…………騒がしいこと。小太郎、何とかしなさい」
「ねーちゃんが来たいゆうたんやんか! ここはこういう場所やから無茶いうなっちゅうねん」


 怠惰を愛するくせに退屈は嫌いだという我が侭ほうだいな初音の声を受けて、小太郎は二人を前に来た事があるゲームセンターへと案内して来ていた。


「ごめんね、小太郎君」
「べ、別に奏子姉ちゃんが謝る必要は無いで。このわがままねーちゃんが悪いんやから」
「小太郎。あの男のようにあそこの奇妙な台のところで踊って見せなさい」
「話し聞けや、ねーちゃん」


 森の木々の洞の中で息を潜め、時折村に降りて人の精気を喰らい、十分な力がたまったら仇敵に挑むという生活をしていた初音にとって、極限まで繁栄した今日の機械文明の粋は、なんとも見慣れないものだった。

 もっとも数世紀を生きる蜘蛛神にとって見れば、どれほど進んだ技術であろうと人の文明の発達程度とるにたらない娯楽にすぎないため、見慣れないだけで相容れないものではなかったようであり、音に不快そうにはしているもののそれなりに周囲のものに興味を持ったように見える。
その初音を見て、初音のもう一人の従者である深山奏子も愛する姉さまの退屈がまぎれた事に嬉しそうな顔をしている。
 

 そもそも、ヤクザに追われていたはずの小太郎が何故こんなところで両手に花のプチデートをしているのかというと、端的に言ってしまうと数百年を生きる妖である蜘蛛神・初音の気紛れだった。







 自分の追っ手をあっさりと惨殺した初音を見て、小太郎は必死で今まで無様に座り込んでいた体勢を立て直して立ち上がろうとしていた。
 追っ手は消えたとはいえ、状況は決して良くはなっていない。

 確かに体力は付きかけ、完全にこちらの抹殺を狙っている相手に囲まれるという絶体絶命の事態は免れることができた。
 が、自分を囲っていた絶体絶命の状況であるあの数の獣人と人間の混成軍をいともたやすく、まるで羽虫を払うかのごとく無造作に殺した相手が目の前にいるのだ。今の小太郎なぞいい具合に弱りきった獲物にしか見えまい。
もう少しでこの身に牙を付きたてようとしていた後門の何十匹もの狼を、きちんと小太郎に逃げられないよう前門に鍵をかけた虎が食ってしまっただけであり、むしろ虎が血の匂いを嗅いでしまった分だけ状況は悪化したともいえる。



真っ直ぐな立ち姿。美しい、美しい女の肢体。

ただそこに立っているだけで、今まで小太郎が見てきたどんな女よりも艶やかで若々しく、見ているものの魂を根こそぎ奪いそうな容姿にもかかわらず、踏み込むのを戸惑わせるような毒を含んだ妖気で身体を包んでいる。

その妖気によって、前にたっているだけで瞬き一つした隙に自分の頭部が胴体から離れていく事を容易にイメージさせられた。



無論、小太郎は人の死を見ることは初めてではない。
今までの職業柄、いやおうなしに死に直面する機会が多かった分だけ、まるで火葬場の職員のようにある種麻痺している部分すらあるんだろうな、とぼんやりと思っているほどだった。
だが、今まで見てきたそれら全ての悲惨な状況を足したとしても、この眼前の女が一瞬で作り出したこの惨劇場には及ばない。
金のためでもなく、恨みのためでもなく、自らの危機のためでもなく、ただ退屈という理由のためだけに人を殺せる「人間」がいることを小太郎は思い知らされたのだ。



ああ、いっそこの女が言葉も通じない、姿も人とはかけ離れた化け物であったならばと無意識のうちに祈る。化け物であれば、よく分からない理由によって人を殺そうとし、よくわからない事情で人の血肉を喰らうこともあるかもしれない。

だが、この女はつい先ほどまで自分と会話をしていた。うかつにも小太郎はこの者を守ろうとすらしていたほど、その擬態は完璧だった。
ごくごく普通に対話ができ、すぐ隣で普通の生活しているような者が、狂った血と脂の世界の住人であるなどということが、人ならば当然持ってしかるべき禁忌を持たない異界人だということが、ありえるなんて。
自らを人でないとして排斥した社会に住まう一般人と同様のおびえを無意識に心の中から生み出した小太郎は、バトルジャンキーとまで言われる自らの性質すら押し殺す恐怖に始めて出会ったのだ。


今までやっていたヤクザの真似事、くぐってきたと思っていた修羅場もどきなぞは、本物の狂気の戦場においては本当にままごとだったのだとその赤い瞳のまなざしだけで思い知らされる。
我流ではあるものの自らに課した修行をサボった事なぞ一度も無く、齢十ほどしか無いとしてもそんじょそこらの者には決して負けないという小太郎の自負が音を立てて崩れていく。女子供は守るべきであるという信念なぞもはや論外だった。
 小太郎は、初めて庇護の対象ではない女という生き物を目の当たりにしたのだ。



身体を疲労とは異なる震えが覆っていく。

だが、自由を求めて逃げ出した小太郎にとって、たとえ勝機がまったく無かったとしても最後の瞬間まで諦める事なぞ論外だった。
そのため、疲労と恐怖による足の震えを必死で押し隠して、その絶対の捕食者の前に立ち上がった。
震える両手を何とか拳の形に握り締め、慣れ親しんだ我流の構えへといつもの数倍の時間を掛けて持っていった。


小太郎が構えるのを待っていたのか、その構えを見て腕を一振りして周囲で糸車のようになっていた男達の残骸を一瞬で消し去り、ゆっくりとこちらに歩いてくる女。
たったそれだけで、先手を取るしか勝機は無いと理解していながら、構えを取ったまま指一本動かせなくなる。思わずかみ締めていた歯が皐月のなまぬるい空気とは異なる冷気を吸い込んで細かく震え、音を立てる。

そんな小太郎を見ているのかいないのか、まるで興味をなくしたかのようにまなざしを宙へと投げた女は、あっさりと、小太郎の意気込みを笑うかのようにその横を通り過ぎた。
そんな状態にもかかわらず、小太郎は後ろを振り向く事すらできない


「かなこ。お茶が冷えてしまったわ」
「あ……すぐ入れなおします!」


相手はもはやこちらに興味が無いといわんばかりに、「日常」の殻の中に戻った会話をしている。だが、狂気の戦場の空気にはじめて触れた小太郎は、未だ存在もしない幻の敵に向かって拳を構えたまま動けない。


「こ、今度は……お砂糖どうなさいますか? ミルクもありますけど……」
「そうね、砂糖を一匙だけお願いしようかしら」
「はい……どうぞ、姉さま」


そのままこちらを空気のように無視する相手の声を聞いても、まだ全身に踏ん張っている力の硬直は解けない。
それどころか、相手の発する気が穏やかであればあるほど先ほどの危機とのギャップを感じて、一層恐怖という感情が拳に力を入れさせる。

自分は人を踏みにじる事を飯の種にしたくないから組を抜けたのではなかったのか。たとえ社会の最下層に位置する自分たちのような人間に対してであっても、今眼前であっさりと殺人という禁意中の禁意を犯したものに対して、固まって動けなくなる事が自分の信じる男気なのか、そう自分に言い聞かせて全力を振り絞って後ろを見る。

女は完全に無防備に、つややかな黒髪に後頭部を預けてこちらに警戒心の欠片も払っていない。
小太郎は、自分の拳が後頭部に一撃入れれば確実に意識を奪えると思っていながら、それでも手を出す事ができなかった。そのままの体勢で、その長い御髪をじっと見つめるしかなかった。

やがて、その視線に居心地の悪さを感じたのか、その場にいる三人の中で最初にアクションを見せたのは、必死で自分と戦っていた小太郎ではなく、女を姉さまと呼んでいた少女の方だった。


「あ、あの姉さま」
「なにかしら、かなこ」
「そ、その。シフォンケーキがまだ余っているんですが、私もうおなかいっぱいで……」
「それで?」
「姉さまもそれほどお食べにならないでしょうし、どうせ余らせちゃうくらいなら……その」
「ああ、そういうこと………いいわ」


そういうと、ようやく女は小太郎の方に振り向いた。その視線を感じて震えながら小太郎も後ろに振り返る。
そして、こちらをさげすむかのような冷笑を口の端に浮かべていながら、その本性の一端を知っている小太郎ですら一瞬見とれるようなきれいな顔で、小太郎に向けて言葉を発した。


「あなた、私達と一緒にお茶でもいかが?」


初めて女が小太郎個人を見て向けた言葉は、嘲るような蔑みと共に絡めとる糸のような蠱惑的な響きすら含んでいた。






Comment

これは後が怖いwww
ランスパーティー全員が契約魔法を行使されたことに気づかないってのは楽観が過ぎますしねえ

初音姉さまの出番ktkr

それだけで、おなかいっぱいです。

ランスパーティーのアーティファクトはどうなることやらw
楽しみにしています!!

ランスの兄貴がまだ本領を発揮していないのがなんですが、ランスの兄貴だからこそできる「正義」を見せつけて欲しい。あとランスの兄貴なら初音さまも癒せるきがする。続きを超期待しています。

ランスの兄貴がまだ本領を発揮していないのがなんですが、ランスの兄貴だからこそできる「正義」を見せつけて欲しい。あとランスの兄貴なら初音さまも癒せるきがする。続きを超期待しています。

こっちの更新も待ってます
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プロフィール

基森

Author:基森
蚕鳴や円禍と名乗ってたこともあります。

主に小説・ssなどを置いているブログです。

自前の本棚を持つのは初めてなので手探りでやっている程度のものですが、わずかばかりの暇つぶしにでもなれば幸いです。


メールは「kulukku106☆yahoo.co.jp」まで、☆を@に変えた上でお願いいたします。

そろそろ、非営利にならトップへのリンクフリーとか言ってみたり。

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